新年祈願~遅い初詣

    作者:

    ●三が日中のある日
     いつもと違う装い。自然と伸びる背筋に、身も心も引き締まる心地がする。
    「……あ。宝くん、あけましておめでとう」
    「……あれっ」
     武蔵坂学園校門前。偶然行き会った荻島・宝(高校生ダンピール・dn0175)の驚いた声に、唯月・姫凜(中学生エクスブレイン・dn0070)はふふ、と笑った。
    「びっくりした? これから、初詣なの」
    「うん、一瞬誰か解らなかった……あけましておめでとう姫凜ちゃん! 着物、似合うね」
     今日の姫凜は日本伝統の装い、振袖姿。
     宝の素直な賛辞にありがと、と少しはにかむ笑顔も華やかだ。
    「初詣かぁ。後で道教えてくれる? 俺、近い神社の場所解んなくて」
    「じゃあ、後日一緒に行きましょう? もしかしたら、まだ行っていない人もいるかも……みんなも、誘ってみましょうか」
     新年早々、明るい声が校門付近にこだました。

    ●新年祈願~遅い初詣
    「みんな、初詣はもう行った?」
     日を改めて。制服姿の姫凜が、教室で生徒達に声をかけていた。
    「混むから三が日の参拝は苦手、っていう人もいるでしょうし、勿論、もう行ったけどもう一度、っていう人も。良かったら一緒に近所の神社にお参りしない?」
     それは、武蔵坂学園からほど近く。
     姫凜の知る神社は、三が日を過ぎれば参拝客はほどほどだという。
    「出店なんかは、三が日に比べればどうしても少なくなっちゃうんだけど……本来の目的である参拝はむしろ、長く待たずに出来ると思うわ。寒いのが苦手な人なんかには良いと思う」
     一般の参拝客が居ないわけではないためサーヴァントの同行は難しいだろうが、混雑に疲れることもなく参拝できる点は利点と言える。既に別の神社で今年の初詣を済ませた人も、利益を重ねに訪れてみるのも良いだろう。
     もちろん、参拝後は出店を堪能したり、お授け所でお守りを受けたりおみくじを引いたり。過ごし方は自由だ。
    「今年は、どんな1年になるのかな?」
     いつの間に現れたか、姫凜の後ろからひょこりと顔を覗かせた宝は、わくわくする心を少しも隠さずに笑う。
     1年の息災に感謝し、或いは新たな1年の平穏を願い、神に詣でる日本の伝統行事、初詣。
    「解らないから、祈りましょう? きっと素敵な1年になる様に……みんなで」
     祈る様に手を合わせて、姫凜も笑った。
     未知の未来。その行く末を、今はきっと神様だけが知っている。
     平穏祈る心を携え、賑わいのピークを終えた神社にこの日、人の活気が舞い戻る。


    ■リプレイ

    ●陽
     晴れの昼下がり。冬の風が、真直ぐな参道を吹き抜けて行く。
     鉄板上の焼きそばを見つめ、まなむは維の袖を引いた。
     維が視線向ければ、そこにはまなむの首元を覆うマフラー。使ってくれて嬉しくて綻んだ維の顔は、続いた言葉にますますその笑みを深める。
    「半分こ、しよ」
     焼きそばも、りんご飴も綿飴も。2人だから、美味しい幸せは半分こ。
    「わわっ、すごいきれいなりんご飴」
     恵理が持つりんご飴の見事な色艶に、わたあめ手に戻った紅葉も笑顔を咲かす。
    「……教室であの方のお世話になった時でしたね」
     恵理の視線の先には姫凜の背中。思い出せば心温かい、2人の出会いの物語。
     視線交わすと、恵理も紅葉も微笑んだ。
     鳥居前で一礼、参道は中央を避け――マナーを意識する小太郎が願うのは、仲間の無事。
     願い届けと尽くした礼は、神様に届く筈。
     マフラーを目深に被った稲葉は、空気に触れる真っ赤な手をさする。
    「赤くなってるぞ」
    「うわあ!?」
     綿飴を手に戻った直人に取られたその手。心臓と同時に跳ねた体に手が離れると、直人は少し残念そうに苦笑する。
     繋ぎ直す甘さは無くとも、この穏やかな幸せが続く様。祈り抱き、2人は本殿へ向かう。
    「あった、大判焼き!」
     目当ての店を見つけ、蓮次は繋ぐ夏蓮の手を引いた。
    「お好み焼き味なんて初めて見た!」
     瞳輝かせ興味津々の夏蓮は、買った大判焼きを半分蓮次へ差し出す。2人でシェアすれば、まだまだ出店は堪能できそうだ。
     逸れない様に繋いだ手は、いつも通りだけど温かかった。
    「おぎ、……たーから」
    「あ。あけましておめでと、蛙石くん」
     顔知れど、自己紹介もまだだったのに。声掛け予期せず呼ばれた名に、徹太は少し面食らう。
    「明けましておめでとう。元気?」
    「そのタコ焼きくれたら元気!」
     冗談乗せて笑う宝に、徹太も思わず噴き出した。
    「初詣、初体験!」
     華やかな振袖姿で前行く夜深が振り向けば、ばちり。芥汰と視線がかち合った。
    「……見惚れてマシタ」
    「み、見惚レ…!?」
     全力で赤い顔を隠す夜深に、芥汰が差し出す腕は着物女性をエスコート。
     互いの幸福祈る2人の祈りを、今神様が待っている。
    「何ネガイゴトしてたんだ?」
     甘味屋では、着物に御参り、ぜんざいと日本正月を満喫する瑠璃羽と嵐が語り合う。
    「大切な人達がこの1年笑って過ごせるように、かな」
    「あたしは、もっと皆とナカヨクなれますよーにって」
     『嵐さんも』『風音とも』。最後は重なった願いに、互いにくすぐったそうに微笑んだ。
     繋いでポケットに入れた手を名残惜しく離し、奏と信彦は拍手を打った。
    (「喧嘩も偶にあるかも知れませんが、仲睦まじく過ごします」)
     どんな事も2人で乗り越えていく。覚悟を神に誓う奏の熱心な祈りをちらりと見ると、信彦は瞳を伏せた。
    (「今年も、奏の隣に居られますように」)
     願いは引き合い、今年を幸せに彩るだろう。

    ●鈴
     カランカラン、と厳かに。神呼ぶ鈴が、祈りを待って響き渡る。
    「今年もおねーさま達となかよく出来ますように!」
     いっぱい楽しもう。拍手後の小夜子の宣言に、如一とかの子も笑う。
    「ゆきくんは、何をお願いした?」
    「内緒、ってうそうそ。お前たちと大体一緒。 かの子は?」
     問い返され、かの子はうーん、と唸った後で、
    「大好きな幼なじみとかわいい妹に悪い虫、じゃなかった、厄が付きません様に」
     笑う3者は、3様の心内。
     互いへの思いは秘め、今は唯、祈る。
    (「大切な人たちが無事に過ごせますように」)
     約束だった初詣。遥翔の隣で手を合わせる李は着物姿だ。
     祈る李を眩しそうに見つめる遥翔の願いは、『李の願いが叶う様に』。
    (「それから、ずっと隣にいる事が一番のお願いです」)
     幸せな祈りは、2人分の願い事。
     手水舎で清めた手が冷気に痛む――新年の引き締まる様な気持ちに、春陽の背筋も自然と伸びる。
    「初詣ー! 俺これ行ってみたかったんだー♪」
     楽しそうに本殿への石段を上る相棒・クレイにシグマも笑んで続く。最後にアヅマが神前へと歩み出て、揃って神へと差し出す手には、各々願い込め用意した賽銭。
    「去年もなんだかんだと大変だった。今年はそれ以上だろうな」
    「俺の周りが安全に過ごせるように」
    「神様、宜しくお願いします」
    「待て、この願いだと賽銭五十円は少なすぎか?」
     神様の前でも賑やかに。4つの拍手が、高らかに響いた。
    「長いお祈りね。なにをお願いしたの?」
     新年二度目の御参り。手繋ぐ草灯に答えたアスルの願いは1年の幸福だ。
    「皆と、楽しい1年。なりますよに! 2回目!」
    「そう。じゃあ甘酒でも飲みましょうか。甘くておいしいわよ」
     一層強く手を繋ぎ、草灯は早速アスルを楽しいへと導く。
     白い振袖姿の来栖は、いざ参拝、その手前で吹き出した。
    「なぜ笑っている……」
    「すまない……」
     不思議そうなセシルは、今新年が初の日本正月。普段完璧主義なだけに真剣な面持ちで参拝方法を問う様子は可愛くて、来栖が笑ってしまったのも仕方無い。
     セスが可愛いのが悪かった。
    「無事に戻ると良いんだが」
    「大丈夫よ」
     祈り終え呟いた全へ、予期せぬ返し。驚く全の隣の姫凜は未だ祈りの途中だ。
     同じ祈り捧げていると解って、全は苦笑する。
    「……一度参拝済ませたって? 欲張りだな、姫凜」
     冗談交じりに呼ばれた名に、姫凜は嬉しそうに微笑んだ。
     参道を引き返す陽太の背には、着物姿の彩澄。
    「コホ、コホッ」
     苦しそうな呼吸。浮かれて彩澄の不調に気づけなかった自分をふがいなく思う陽太の肩を、彩澄の手がぎゅっと掴む。
    「ごめんね、ありがとう」
     やがて聞こえてきた寝息に、陽太は一度空を仰いで微笑んだ。
    「……次は、皆で行こうな」
     寮母に頼まれお札を受けた流希は、混み出す前にと1人帰路に就く。
    「いつもお世話になっていますからねぇ」
     果てには、感謝の笑顔が待っている。
     優歌は、学園に来てからの昨年を振り返る。
    (「いっぱい美味しいものを食べる機会がありました」)
     変わらぬ新年願い、優歌は並ぶ出店を食べ歩く。
    「あっ甘い。……うーん不思議な味!」
     マキナの初甘酒の感想に笑った秀憲の甘酒は、マキナと異なり生姜入り。
     寒い中飲む甘酒に正月を感じる、と語った彼の甘酒も一口貰い、マキナは微笑む。
    「身体の内側から温まるのが嬉しいね」
     参拝こそ終えたけれど、2人は願う。
     温かなこの時、来年も共にと。
     繋いだ手を引き笑う月夜に、アレクセイも微笑む。
     目移りする多様な露店。石段に並んで座ると、月夜は1つ、たこ焼きをアレクセイへと差し出した。
    「んと……あーん、です?」
    「あ、あーん」
     少し、照れくさい。でもおいしいですよと浮かんだ笑顔に、月夜も微笑んだ。
     同じくたこ焼きを頬張る深玖に、桜子はそっと切り出した。
    「あのね、桜子はお願いがあるのですよ」
     一緒にいたい、と。愛らしすぎるその願いに、深玖は手を止め、微笑う。
    「そのお願いは、ぜひ俺に叶えさせて」
     傍で、笑っていて――重ねた2人の願いを今、神様が見守っている。

    ●笑顔
     賑わい増す神社。参拝終えた人々の行き着く先はお授け所。
     そこで祈った願いを問われ、夕眞は首を傾げた。
    「言うてええんやった?」
    「ダメなのか。んじゃ俺も内緒だ」
     何故か照れてる虎之助とじゃれ合う。そうして至ったお授け所で引いた御神籤に、虎之助は拳を握った。
    「まだまだ運上昇気味なんだな」
     見せ合う御籤は揃って小吉だった。
    「眼福だね」
    「華やかじゃのう!」
     アイナーが呟けば、篠介も頷き同意する。
     各々着物を着た女性陣の華やかさは、それだけで運を呼ぶ様。参拝終えた【Cc】の面々は、賑やかにお授け所に集まった。
    「年の最初に神様にお参りする日だもの、変な服着て来れないよっ」
     笑う壱子が手に取ったのは家内安全のお守りだ。
    「あたしも交通安全の下さいっ!」
    「其れじゃあわたしは無病息災の御守を」
    「わたしは縁結びのお守りを」
     メロ、シェリー、昭子と続々巫女から御守りを受ける中、少し離れた所には航平。
    「篠介君、破魔矢、部に1つ……航平さんは絵馬ですか」
     気付き近付いた依子に、航平はポップな馬の絵を描いた絵馬を見せた。
    「あ、お上手」
    「みんなの今年がウマくいきますようにってね」
    「絵馬とは願い事を書くのか」
     興味津々にサズヤが覗けば、仲間も集まり出す。
    「ワシも絵馬にするか」
    「願い事書くのなら出来るかな」
     サズヤに篠介、アイナーも願いを絵馬に認める。
    「おみくじ、おみくじ。引きましょう」
     やがて昭子の声に全員で一斉に引く御神籤は、運も様々。
     シェリーとサズヤ、昭子が大吉。
     篠介と壱子が中吉。アイナーが小吉、依子は末吉。
     航平とメロは、残念ながら凶だったけれど。
     合わせれば、大体真ん中。今年も仲良く居なさいと、もしかしたら神様が気を利かせてくれたのかもしれない。
    「どうだった?」
     聖太の問いに、慧樹と尚竹は引いた御神籤を差し出した。
    「やっぱり俺はツいてるな!」
    「元旦から色々有り過ぎたのにな」
     慧樹大吉、尚竹は吉、そして聖太は中吉。揃って幸先良い結果に、慧樹は興奮気味に声をあげた。
    「イイ年になる予感しかしない!」
    「戦いに遊びにと面白い一年になりそうな気がする」
     笑んだ2人に、聖太もニッと笑い返した。
    「今年も宜しく頼むよ!」
     手探りの本殿参拝の後。晴夜とフィオレンツィアも、お授け所に居た。
    「大吉! 1番良い結果ね?」
     笑顔で春夜は、と問い返せば、笑って差し出された春夜の御神籤は中吉。
    「俺にはこれ位が丁度じゃないっすかね」
     大吉ではないが、幸先良いスタート。2人の頬も綻んだ。
    「一年元気に引き籠れそうですね」
     此方は大吉の御神籤を手にした悠仁。振袖姿の透流はふふっと微笑む。
    「私は末吉でした。オティヌスさんは……」
    「……よくわからん」
     一方、振袖姿ながら初詣自体初めてのオティヌスは、内容が解らず小吉をそっと巫女へ返す。並ぶお守りにも、不思議そうに首を傾げた。
    「ここのご利益である開運、厄除けが一番無難、かな?」
     悠仁の言葉に、お守り選びは始まった。
    「怪我される方はどうしても出ちゃいますし」
     受験が無いのに『合格祈願』と書こうとしてたなんて言えない。一画目に名残残す『安全第一』の絵馬を掛けると、真琴は智代らの御神籤を覗き込む。
    「凶だったら恨みますよゴッド」
    「やった! 吉やって」
     明るい笑顔の智代に対し、ミキの御神籤には『末吉』の文字。
    「……微妙。ふぁっきゅー神様。皆守さんは?」
     適当に引いた御籤。それにさらっと目を通した幸太郎は、缶コーヒーを飲み干すと、やはり適当に木に括り付ける。
     その紙には『凶』と書かれていたのだが。
    「内容? 神様と俺の秘密さ」
     冬崖の手には末吉の御神籤。戒めとして振り返る為にと結ばず仕舞う隣では、吉の御神籤を持つ櫂が幾分青褪めて見えた。
     『よく似合う』とは最初に告げた。花と蝶、紅地の振袖姿の櫂は、隠している様だが人混みと慣れない着物に疲れたのだろう。
     冬崖はそっと離れの席へ櫂を導いた。
    「春翔は青好きよね」
     悩む春翔に律花が青いお守りを差し出せば、春翔は彼女の髪を一房掬い上げた。
    「律花は赤だ。着物も綺麗でとても似合っている」
     頬染めた律花にくすり。拗ねる花すら愛らしく、ずっと共にと願うから。
     互いの色のお守りを手に、時間は穏やかに過ぎて行く。

    ●静
     暮れの早い冬。少しずつ冷えてくる外気にも、人々の熱気は冷めない。
     揃って末吉。御神籤を木に括った紫と殊亜は、続いて巫女から絵馬を受け取る。
    「今年も仲良く一緒に過ごせますように、と」
     書き終えこっそり覗いた殊亜の絵馬の内容は、同じ願いに『例えば後ろから突然抱き付いてくれたり』の添書き。
    「直接頼んだ方が早かったか?」
    「大好きっ」
     応えて紫は殊亜に抱き付いた。
    「終わりました? ならついでにお神籤引きましょう」
     家内安全のお守りを受ける間中司の小言を聞いた観月の御神籤は小吉だった。
     一方司は吉。
    「……何で残念そうなの」
     司はどうやら凶が引きたかったらしかった。らしさに笑いつつ、司を引き連れ次に向かうは出店だ。
    「もちろん、やるよな?」
     御神籤箱を指差し、冥は笑った。
     今年最初の運試し。シュウは中吉、の文字に心なしほっとして目を通すと、冥の背中へも問いかけた。
     その手にも、中吉。
    「お互いにいい年になればいいな」
     今年もよろしく。シュウの言葉に、冥も嬉しそうに微笑んだ。
     書生の様な袴姿は【武蔵坂軽音部】。
    「とってもよく見えるのです!」
     錠の肩車に、朋恵の歓喜の声が響く。
    「気にしすぎて転ぶなよ千波耶。お前も十分どんくせぇンだから」
    「ど、どんくさくないもん……」
     朋恵を気にして錠の後ろを歩く千波耶は、葉の言葉に口を濁す。凪流は大丈夫ですよと微笑むと、遠くで破魔矢を受ける真昼を呼んだ。
    「勝ったら、錠先輩と葉月先輩に奢って頂けるんですよね!」
     戻るなり真昼が語るは『対決』のこと。
    「錠、結果の勝敗で奢りの約束忘れんなよ!」 
    「二言はねェよ。俺より御神籤の結果良かったヤツ全員に屋台の食い物奢る」
     葉月の声に錠が頷けば、紫苑はさも当然の様に言い放った。
    「負けても奢ってもらうけどね!」
    「ちょ、紫苑そりゃ話が違ェ!?」
     と、漫才の様な遣り取りを挟みつつ。
    「年明けだし、いいの出ますよーに!」
    「それじゃ行くぜ。せーのォ!」
     錠の声で、一斉に御神籤が開かれる。
     此処で錠が凶なら展開的には最高だったのだろうが、神様、全然空気読まなかった。 
     大吉を真昼。吉を千波耶。
     葉と錠は中吉、紫苑と凪流が小吉で、朋恵は末吉、葉月が凶という結果に。
     しかし結局錠が全員に奢る結果となったのは、また別の話である。
     一方、此方の勝負は大吉の貴耶に対しさくらえは凶という、まさかの天地差。
     奢るのは、勝ち運のある貴耶だ。
    「……彼方から此方の屋台の食べ物全部!」
     涙目のさくらえを撫で、貴耶は苦笑する。
    「分かった。で、今本当に欲しいのはどれだ?」
    「……見てから考えるよ」
     これは、今年も一緒に居なさいということかもしれない。
     餡とカスタード。二種の大判焼きを食べ比べた奏夢はふと、くん、と袖引く紅子の手に足を止めた。
     照れ笑いの彼女の意図は解っている。ピンキーリング輝く左手を取り自分のポケットへ導くと、紅子の頬が更に緩んだ。
    「寒いし、ちょうどいいだろう?」
     言う顔が熱いのはマフラーのせいにした。
     破魔矢を手に参道を戻る芽衣に、源一郎は次を約束する。
    「芽衣の破魔矢と同じで返さねばならぬから」
     源一郎が手にするお守り返す時。共にとの声に応え、微笑む芽衣も願いを紡いだ。
    「来年も、こちらに詣でることができたら」
     袴に振袖。今年の参拝を穏やかに終え、華やかな2人は帰路に就く。
     1つ、また1つと、去り行く影――次の華やぎを待ち、再び神社は眠り就く。

    作者: 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月20日
    難度:簡単
    参加:87人
    結果:成功!
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