どんど焼き芋! どんどん焼き芋!

    作者:魂蛙

    ●プラチナチケット要らず
    「ちょっとちょっと、そこのお嬢ちゃん! そう、アナタ!」
     図々しいの領域に入りかけた気安い声に呼び止められ、シエラ・ヴラディ(迦陵頻伽・d17370)は恐る恐る振り返る。
     シエラを呼び止めたのは、紫のエプロンを掛け紫の三角巾を頭に巻いて、スーパーの店先で紫色の芋を焼くおばちゃんだった。
    「いーからこっち来てコレ食べてみなさいよ! 毎日おせちばっかりで飽きちゃったでしょ? ほら、いーから!」
     何が良いのか一切分からないが、差し出す紫芋を食べないとダメらしいことはよく分かった。
     輪切りにして出された焼き芋を強引に食べさせられてから、シエラは申し訳無さそうに眉を寄せる。
    「美味しい、ですけど……あの、今日はお芋を買うつもりは……」
    「あー、いーのいーの! 私別に店員じゃないし、これも売り物じゃないから!」
    「そうなんですか……」
     シエラはほっと一息ついて、おばちゃんに1つ会釈してからその場を後にする。
    「……え?」
     立ち去りかけて、じゃああのおばちゃんは一体何者だったんだ、という疑問に思い至ったシエラがはたと足を止めた。
     シエラが振り返ると、店員でもないのに堂々と勝手に店先で試食会を開くご当地怪人ヴォイモレットは、通りかかった買い物客に図々しい物言いで焼き芋を押し付けている最中であった。

    ●龍さ芋と妖の芋
    「せめてもうしばらくは、ご当地怪人も世界征服をお休みしてくれててもいいのにね……」
     新年早々にため息をこぼす須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)。
    「鹿児島のご当地怪人ヴォイモレットが、どんど焼きで大暴れする事件が起きるんだ。新年の大切な行事を台無しにさせるわけにはいかないし、みんなにヴォイモレットの退治をお願いするよ」
     どうやら今年も、頭の中がお目出度いご当地怪人との戦いは続きそうである。

    「どんど焼き……九州では鬼火焚きって呼ぶんだけど、そこに現れたヴォイモレットは、始めの内は持ち込んだ紫芋の料理を周りの人達に振舞うんだ。そこまではいいんだけど……」
     人々を紫芋の虜にして、将来的には世界を征服する、というヴォイモレットの野望の事を考えれば、諸手を挙げて歓迎すべきではないかもしれないが、少なくとも人々に直接危害を加えてはいない。若干強引でしつこいが。
    「みんなが紫芋を食べてくれて気をよくしたヴォイモレットは、鬼火やぐらで焼き芋を作ろうとするんだ。やぐらに紫芋を放り込もうとしたところで止められて、口論になった挙句暴れだすんだよ」
     無病息災を願って餅を焼くのとはわけが違う。が、そんな理屈はご当地怪人には通じない。
     傍から見れば酔っ払いの暴走だが、本人は至って真面目に世界征服の活動中である。
    「みんなには紫芋を抱えてやぐらに近付いたところで、ヴォイモレットを止めてもらうよ。それまでは、ヴォイモレットの邪魔をしないようにね」
     事前の人払いもできないので、その点にも注意が必要だろう。
     ヴォイモレットの邪魔をせずにやぐらの近くで待機していれば、他に特にすべき事はない。鬼火焚きを楽しむもよし、ヴォイモレットが振舞う紫芋料理を食べるもよし、だ。
    「ヴォイモレットのポジションはディフェンダーで、ご当地ヒーローのご当地ビームと龍砕斧の龍骨斬り、龍翼飛翔、ドラゴンパワーに似た4種のサイキックを使うよ。ヴォイモレットには配下が3人いて、戦闘時は3人ともジャマーのポジションについて、妖の槍の妖冷弾と螺穿槍に似たサイキックで戦うよ」
     ヴォイモレットか配下本人をKOすれば、配下は気絶して元の一般人に戻る。
    「この町では世界一高い鬼火焚きを目指していて、1ヶ月もかけて凄く高いやぐらを組んでいるんだよ。だから、できればやぐらに被害がいかないように気を付けて欲しいんだ」
     ヴォイモレット達も積極的にやぐらを破壊しようとするわけではないが、やぐらから離れることもない。灼滅者達が守らねば、戦闘の余波でやぐらが崩れてしまう危険性がある。
     最悪崩れてしまっても鬼火焚きは中止にはならないが、苦労してやぐらを組んだ町の人達にとってこれ程残念なこともない。

    「事件を無事解決できたら、世界一の鬼火焚きを見物できるね。やぐらにつけた鬼のお面を弓矢で射抜いてから火を点けるんだけど、他にも花火を打ち上げたりするみたいだよ」
     今年一年の灼滅者達の無病息災を祈りつつ、まりんは笑顔と激励で灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)
    卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)
    一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)
    シエラ・ヴラディ(迦陵頻伽・d17370)
    榊・セツト(らんらんららららんらんらん・d18818)
    夕鏡・明(烟・d23002)
    烈堂・満(赤い赤い赤いアイツ・d23124)

    ■リプレイ

    ●根拠無き「いいから」
    「しかし、見事な櫓じゃのう」
     30mを超えるやぐらを見上げて感嘆する一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)に、夕鏡・明(烟・d23002)が頷く。
    「うん。学園に来る前はうちの近くでもやってたけど、こんなに高いのは見たことないよ」
     出店も並ぶ賑やかな雰囲気のなか、灼滅者達はやぐらの周囲に待機しつつ、紫のパーマに紫の三角巾をかぶり紫のエプロンを着けた見た目完全に毒タイプなご当地怪人ヴォイモレットの動向を窺っていた。
    「こうして見ていると……殆どスタッフですね、ヴォイモレット」
     榊・セツト(らんらんららららんらんらん・d18818)は紫芋の天ぷらを食べつつ、通りかかる者手当たり次第に紫芋料理を配って回るヴォイモレットを眺める。
    「でもこの怪人はイイ奴っぽいな。お芋も美味しいし」
     烈堂・満(赤い赤い赤いアイツ・d23124)が頷き返しながらスイートポテトをかじる。
    「ご当地怪人は善い悪いで括れぬ者も多いからのう」
    「強いて言うなら、ブッ飛んだ奴ばっかってとこか?」
    「然りじゃな」
     姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)の言葉に、閃は頷きつつ紫芋のモンブランを一口。
    「てぃんだちゃん……にも、あげて……いい……かしら? お芋……大好き……なの」
    「いいわよもちろん! ほら、ふかし芋一番おっきいのあげるわ!」
     シエラ・ヴラディ(迦陵頻伽・d17370)はヴォイモレットから受け取ったふかし芋を2つに割り、霊犬のてぃんだに分けてやる。
     勢いよくかぶりつくてぃんだにつられてシエラも芋にかじり、ホクホクなふかし芋の予想以上の熱さに顔をしかめた。
    「大丈夫、シエラセンパイ?」
     気遣う卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)に、シエラは目を潤ませて小さく悶えつつ頷いた。
     ふかし芋に夢中なてぃんだを見つめ、五十嵐・匠(勿忘草・d10959)は傍に控える霊犬の六太を見下ろす。
    「ろくたも食べたい?」
    「紫芋、美味しいもんね! ビタミンに食物繊維も豊富だし美味しいだけじゃなくて体にもいいんだよっ」
     あるなの言葉に敏感に反応したのは、やはりと言うべきかヴォイモレットであった。
    「あらお嬢ちゃん詳しいのね! ちなみに、紫色はアントニアシンがたっぷり含まれてる証拠で、目にもいいのよ紫芋は!」
     紫芋談義に盛り上がる同郷鹿児島出身の灼滅者とダークネス。今ならご当地怪人と人類の友好が結べる気がしたのは気のせいだったと灼滅者達が悟るのは、それから僅か10分後の事であった。
    「あらやだもうこんな時間じゃない!」
     一体どれだけヴォイモレットはっとなり、肩に下げたバッグをごそごそとあさり、大きな風呂敷袋を引っ張り出す。紫芋がはみ出るその風呂敷を抱えてヴォイモレットが動き出すと、灼滅者達も同時に身構える。
    「すみませんが、やぐらには近付かないでください!」
    「いいから、いいから! ちょっとお芋入れるだけだから!」
    「お芋?!」
     平然とやぐらに近付こうとするヴォイモレットを止めに入った男性スタッフが、思わず素っ頓狂な声を上げる。致し方ない。
    「い、いえ、芋なんか入れちゃダメですよ! もうすぐ火を点けるので下がってください!」
    「いいからほら、通して!」
    「ダメですって!」
     いいからのゴリ押しで通ろうとするヴォイモレット。見物客達も騒ぎに気付きどよめき始めたところで、灼滅者達はアイコンタクトを送りあって一斉に動き出した。
    「ちょっと待った!」
     あるなが声を張り上げ、ヴォイモレットの注意を引いたその隙に、セツトがスタッフに駆け寄りヴォイモレットから引き離す。
    「ここは僕達に任せて、離れていてください」
    「君達は彼女の親戚か何かかい? 困るんだよねぇ」
    「ええと、まあ。知り合い……みたいなものです」
     プラチナチケットによるスタッフの勘違いも、セツトは心底不本意ながら受け入れる。今は自身の名誉よりも一般人の安全確保が優先である。
    「誠意を持って話し合おう。俺の目を見ろ」
    「この場を離れてくれ!近くにいたら巻き添えくらうぜ?」
     言葉と裏腹に殺気を撒き散らす満に、火水がフォローを入れて見物客とスタッフを誘導する。仲間達がヴォイモレットから一般人を遠ざける間、あるなと明はヴォイモレットを前後から挟み撃ちにしつつ足止めしていた。
    「キミの振る舞いの所為で、みんなが紫芋を嫌いになったらどうするの?」
    「食べさえすれば虜になるのよ! こんなに美味しいんだから!」
    「傲慢だね」
     聞く耳など持ち合わせていないヴォイモレットの反論を、あるなは確固たる意志でもって切り捨てる。
    「どんなに美味しい料理でも、相手の意向や都合を考えずに押しつけるのはただの傲慢。そんなの、食べさせたい相手に対しても、その料理に対しても失礼だよ」
     一歩も引かず立ちはだかるあるなと背後の明をヴォイモレットは交互に見つつ、忌々しげに歯ぎしりした。

    ●そうまでしても芋が焼きたい
    「お前達!」
     灼滅者達の指示によって遠ざかりつつあった一般人の方にヴォイモレットが声を掛けた直後、そこここからジャケットやコートが弾けるように舞い上がった。
     人混みから飛び出した3人の全身紫タイツの戦闘員が、ヴォイモレットの元へ駆けつける。
     一般人達に安全な場所まで離れるよう言い聞かせてから、追って灼滅者達もヴォイモレット達を取り囲むように展開した。
    「こいつらを蹴散らして、何としてもやぐらに取り付くわよ!」
    「烈堂ファイト!」
     配下を率いて突っ込んでくるヴォイモレットに対し、満が鏖殺領域を発散する。
    「おいしい料理を作ってくれるのはいいけど、愛が暴走して迷惑をかけるのはよろしくないな」
     満の殺気の奔流に乗って、匠が展開するワイドガードを纏って飛び出した六太が、斬魔刀を振るいながらヴォイモレットに張り付き牽制する。
    「紫芋は美味かったが、世界征服は食えたもんじゃないぜ」
    「ゲテモノ食いは勘弁願いたいですね!」
     足を止めたヴォイモレットに、左右に散開した火水とセツトが挟撃を仕掛ける。
    「鬼火焚きの前でお前という災厄を祓う!」
     火水は踏み込み左のジャブの連打でヴォイモレットのガードを固めさせ、そこに体重を乗せた右ストレートを捩じ込み体勢を崩した。
     直後、飛び込むセツトがクルセイドソードと殺人注射器を取り込んだデモノイド寄生体の右腕を、ブレたガードの上に振り下ろす。柄に位置するシリンダーのピストンがスライドし、ヴォイモレットの腕に食らいついた刃が血を吸い、寄生体が拍動する。
    「鬱陶しいね!」
     ヴォイモレットが紫芋の横っ腹に棒を突き立てたような斧らしき得物を取り出し、豪快に振り回し火水とセツトを追い払った。
     戦闘員達がヴォイモレットの前に出て、こちらは芋に縦に棒を突き立てる形の槍の先端から氷弾を乱射して弾幕を展開する。
     やぐらを背にしていた灼滅者達は即座に散開し、攻撃を引き寄せる。シエラがリバイブメロディを響かせ勢いをつけ、畳み掛けるように攻撃を仕掛ける。
     肩口をかすめるのにも構わず敵陣に飛び込んだ明は、ヴォイモレットが振り下ろす斧を巻き込むようなステップで躱しサイドに回り込みつつ、水平にフルスイングするマテリアルロッドでヴォイモレットを打ち抜いた。
    「ろくた、いくよ」
     匠に応えた六太がヴォイモレットの懐に飛び込み、駆け抜け様の抜き胴で斬魔刀を振り抜いた直後、匠が踏み込みクルセイドソードの縦一閃で追撃をかける。
     立て続けの斬撃に揺らいだヴォイモレットが、大きく下げた後足で踏みとどまる。跳躍したセツトを見上げ、大上段から振り下ろされる刃を斧で受けると、そのまま強引に押し返しすかさず豪快に振り下ろす一撃でセツトを吹っ飛ばした。
    「やぐらが?!」
     セツトが吹き飛ぶ先はやぐら。
     セツトは寄生体の刃を地面に突き刺し砂塵を巻き上げながら急制動をかけ、ギリギリの所で踏み止まる。
     そこに、追撃を狙うヴォイモレットが斧を振りかざし、既に跳躍していた。

    ●しぶといというよりしつこい
    「お芋が焼けるまでおねんねしてな!」
    「させないって言ったでしょ!」
     体勢整わないセツトにヴォイモレットが渾身の一撃を振り下ろそうとした、その瞬間をあるなのタネガバスターが放つ光弾が撃ち抜いた。
     弾き飛ばされ体勢を崩しながら着地するヴォイモレットを、あるなは更にタネガバスターの連射で追い立て、やぐらから引き離す。
    「烈堂ナイフ!」
     ヴォイモレットの逃げる先に回り込んだ満が、解体ナイフを振りかざし襲いかかる。
     密着間合いまで飛び込んだ満は斧の重さに手数で対抗し、ガードで捌き切れない程の斬撃でヴォイモレットを削るように切り裂いていく。
     容赦なく攻め立てる満を、戦闘員が取り囲む。
    「邪魔する奴は蹴散らしちまうぜ?」
     フォローに入った火水が伸ばしたウロボロスブレイドを振り回し、刃の旋風を巻き起こし戦闘員を薙ぎ払う。
     荒れ狂う刃を掻い潜った戦闘員が踏み込み突き出す槍の刺突を、火水は上体を振って躱す。しつこく刺突を繰り出し攻め立てる戦闘員に、横から六文銭射撃を浴びせたのはてぃんだだ。
    「いただきだ!」
     火水は戦闘員が怯んだ隙を見逃さず、刃を引き戻したウロボロスブレイドを逆水平に振り抜き、戦闘員を弾き飛ばした。
     明が清めの風を吹かせ、灼滅者達は一瞬息を入れて攻勢を維持する。狙うはヴォイモレットただ1人だ。
     匠がDCPキャノンを構えて発射し、続いてあるながバスタービームを撃ち込みヴォイモレットを足止めする。
     火砲支援を受けて前に出た閃が、飛び込み龍砕斧を振り下ろす。迎え撃つヴォイモレットも斧を振り上げ、重い衝撃音を響かせ激突した。
     閃はともすれば体ごと弾かれそうになる反動を半歩後退で堪え、旋転から遠心力を乗せて再度斧を薙ぎ払う。これをヴォイモレットは斧でガードするも、閃の背後から飛び出したビハインドの麗子の霊撃までは受けきれずによろける。
     閃はフォロースルーを堪えて上体を切り返し、大上段まで振り上げた斧を全力で振り下ろす。地を割る衝撃波が土砂を巻き上げ、ヴォイモレットをぶっ飛ばした。
     大きく吹き飛んだヴォイモレットだったが、空中で姿勢を制御し両足で着地する。
    「むう、しぶといのう」
     手応えはあったが、ヴォイモレットのタフネスはそれ以上だ。ヴォイモレットは肩で息をしながらも、すぐさまやぐらに取り付こうと前に出る。
    「粘る余裕を与えない位に、畳み掛けましょう!」
     寄生体の刃を構えたセツトは地面を固めるように踏み締め、直後強く蹴って飛び出した。
    「突破口を開きます!」
     セツトは突進してくるヴォイモレットを真っ向から迎え撃ち、鍔迫り合いから2合、3合と打ち合う。振り下ろすヴォイモレットの斧を受け流し、切り返す横薙ぎの一撃の下に皮一枚で潜り込んだセツトはそのまま懐に飛び込み、太腿を斬りつける。
     ヴォイモレットの体勢が崩れ、セツトは水平斬りから逆水平斬り、フォロースルーから旋転し跳躍様に斬り上げた。
     腕の寄生体が、強く拍動する。
     セツトは前宙すると鮮血の軌跡が弧を描き、振り抜かれた刃がヴォイモレットを地面に――、
    「もう一撃!」
     ――捻じ伏せる!
     地面を跳ねるヴォイモレットを、満が捕獲する。
    「楽に死ねると思うなよ?」
     ヴォイモレットを肩に担いだ満はそのまま跳び上がり、落下に合わせ振り下ろすヴォイモレット体重を乗せ、頭から地面に――、
    「烈堂フォール!」
     ――叩きつけた!
     強烈な一撃だが、ヴォイモレットのしぶとさは灼滅者達も理解している。間髪入れず、弾き飛ばされるヴォイモレットを匠はデモノイド寄生体と融合した腕で鷲掴んだ。
     匠はその掌から噴出するDESアシッドでヴォイモレットを灼き飛ばす!
     地面を跳ね転がり、それでも尚も立ち上がろうとするヴォイモレットに、火水と明、閃が間合いを詰める。戦闘員が立ちはだかろうと飛び出すが、その出足に影が絡みついて締め上げる。影業を伸ばしたのはシエラだ。
    「邪魔は……させ……ない」
     戦闘員を振り切り、マテリアルロッドを構えた3人がヴォイモレットを迫る。
     ガードを上げたヴォイモレットの背後から火水がロッドを叩きつけ、よろめくヴォイモレットを明が打ち上げ、跳躍で追った閃が抜き胴で打ち抜く。直後、立て続けに起こる魔力の炸裂がヴォイモレットを更に上空へ打ち上げていく。
     最早姿勢の制御もままならない中空のヴォイモレットを見据えるあるなの瞳の中に、タネガバスターの火縄に灯った火が揺れていた。
    「何よ、いいじゃない……。お芋は美味しいんだから……」
    「キミの想いの強さだけは、認めるよ」
     あるなが呟き、トリガーを引いた。
    「タネガブレイザー!」
     火縄が火皿を打ち、銃口から熱線が放たれる。凄まじい熱に歪む空気を貫き、烈火の奔流が黄昏色の空に伸びていき――、
    「これで決める!」
     ――ヴォイモレットをブチ抜き、灼き尽くした。

    ●今日一番のコンビネーション
     ヴォイモレットの灼滅に成功した灼滅者達が避難していた人々を呼び戻すと、多少の混乱はあったものの鬼火焚きが再開される。灼滅者達の奮闘の甲斐あって、やぐらも無事である。
     地元の学校の弓道部によってやぐらに取り付けられた鬼の面が射抜かれ、厄年前後の男女による着火されたやぐらが、勢いよく燃え上がる。
    「へえ、こいつは凄いな」
     花火をバックに炎の巨塔が夜空に伸びる様子を見上げ、火水が声を上げる。隣の明も、迫力に圧倒されて息を飲みながら燃え盛るやぐらを見つめている。
    「鬼火焚き……すごい……ね」
     シエラと匠は、舞い上がる火の粉を並んで見上げるてぃんだと六太と撫でてやる。
    「皆さん、持ってきましたよ!」
     そこにやって来たセツトと満が抱えているのは、出店で買った食べ物と、スタッフの好意で別のたき火を起こして焼いたヴォイモレットの紫芋だ。
    「おお、待っておったのじゃ」
     写真を撮っていた閃が歓声を上げ、焼き芋にかじりつく。
    「うむ、甘くて美味じゃの。芋は腹持ちも良いし、食物繊維が豊富じゃからお通じの方も――」
     ぷう。
     何ともタイムリーなタイミングではっきり聞こえてしまったおならの音に一同が沈黙し、そして鬼火焚きの炎とは無関係に閃の頬が朱に染まっていき――、
    「い、いやあ、本当だなあ! さっき食べた芋の天ぷらが効いて来たみたいですよ!」
     ――そしてセツトが火中の栗ならぬ火中の芋を拾いに行った!
    「は……はは! いやあ、実は俺もちょっとさっきから胃腸の調子が良くなってきたような気がするなあ!」
    「いやだなセンパイ達ってば、もう! あは、あはは」
     セツトの英断に、すかさずついていく火水とあるながフォローを重ねる。これが死線を共にくぐり抜けた仲間達のコンビネーションである。
     そして響く乾いた笑いが、鬼火焚きの炎と共に夜空へと昇っていくのであった。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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