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年明けたばかりの夜の海岸。まだ片手の数ほどしか日の出を望んでいないその白浜の上を炎が駆けていた。……否、炎を纏った獣だ。奇しくもそれは本年を示す馬に姿が似ていた。
炎の馬は白い砂を焼き、海水を蒸気へと変える。そして冷気に当てられてもうもうと白い水煙が上がる。
視界が自らの身によって悪くなっているのにも関わらず、炎の馬は無心に駆け抜ける。たとえその先に人の住む港町があったとしても。
「みんな、明けましておめでとうだよ」
有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)が冬休みの校舎で灼滅者を出迎えた。
「新年さっそくだけどダークネス事件だよ。……イフリートがとある夜の海岸線に現れるんだ。この日時にこの海岸にいれば確実にイフリートを迎え撃つ事ができるよ。イフリートは純粋な戦闘力が高い相手だけれど、きっとみんななら倒せるはずだよ」
そうクロエは言う。
「このイフリートは馬の姿をしていて、みんなを見つけると邪魔者と見て倒そうとしてくるよ。たぶん、走るのが大好きなイフリートなんだと思う。でもそのままにしておくと周りに被害が出ちゃうから灼滅して欲しいんだ」
ただ己の欲するままに走るこの炎の馬はすなわちダークネスらしい存在と言えるだろう。
「戦う時にはファイアブラッドとチェーンソー剣に似たサイキックを使ってくるよ。身にまとった炎が勢いよく噴き出して焼き切ってくる感じみたい。どの攻撃も威力が高くて、特に近付いてからの攻撃はまともに受けると危ないから、まともに受けない工夫が必要かも」
相手のサイキックや戦闘力をよく考えてから戦術を立てないと危ない相手だろう。
「あのね、このイフリートの行く先に港町があるの。もし止められないと大変な事になっちゃうから……みんな、頑張ってきてね!」
参加者 | |
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アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814) |
桜田・紋次郎(懶・d04712) |
琴葉・いろは(とかなくて・d11000) |
野乃・御伽(アクロファイア・d15646) |
御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484) |
馬場・万(多世界潜行体ゴル人・d19989) |
フェリシタス・ロカ(ティータ・d21782) |
湊元・ひかる(コワレモノ・d22533) |
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夜の海。灼滅者達を出迎えるのはさざなみ。静かな砂浜にその波音は賑やかに聞こえる。
「明けましておめでとう。皆、今回はよろしく」
アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)が集った灼滅者達に挨拶する。
「東洋だと今年は午年になるそうね。馬の姿をした都市伝説が湧いて出そうな予感がするわ」
「今年は午年ですから、縁起が良い気はしますね……」
湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)はそう返す。
「ソロモンの悪魔だと、スキュラの八犬士だったオロバスと、死霊使いのガミギンが代表ね。馬に乗った姿の悪魔もいくらかいるけど」
「今回のはイフリートですから、どちらにしても怖いです」
まさか干支に沿ったダークネスが毎年出るとも限るまい。どのような相手にせよ灼滅できるのならすべきだろうし。
「人里へ向かうのは寂しさの余りなのでしょうか……。でしたら少々可哀相にも思えます」
目を伏せる琴葉・いろは(とかなくて・d11000)は遠くの港町の明かりに目をやる。深夜故にまばらだけれどそこには然と人がいるのが分かる。
「どうせだったら、他のダークネスと正面衝突するコースを………いや、それも問題か」
馬場・万(多世界潜行体ゴル人・d19989)は自分の想像を途中で放棄する。ダークネス同士が接触した時にはどんな展開になるのかその場にならないと分からないだろう。概ね面倒事が増える方向になりそうだが。
「………」
桜田・紋次郎(懶・d04712)が居住まいを正し町とは反対側の方を向く。ほぼそれと同時に海を眺めていたフェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)も振り向いた。まるで客を迎えるような表情を見せて。
遠目から現れ、近づいてくるのは炎。同時にその周りでは白い蒸気が立ち上っている。
「……なんかメガネとかレンズとか曇りそう……ってえええ!?」
万が言葉を言い終えるよりも早くイフリートは数メートルの距離にまで来ていた。
「……蒸気が多すぎてなんか威圧感凄いんですけど!?」
近くの海水を白い湯気へと変える姿は確かに強力な力を感じさせる。だがその力に口元を上げて迎えるのは野乃・御伽(アクロファイア・d15646)。
「あー、お前は走るのがただ好きなだけなんだろうが……。俺らには俺らの事情があってな、ワリィがここで走るのは終いだ」
「この先は通行止め。 通り抜けたいなら、私たちをどうにかしてからよ」
イフリートは心地よく駆けていた所に現れたアリスら乱入者達に大きな嘶きを上げる。まるでそこを退けと言わんばかりに。それに対してけたたましい弦の音が響き渡る。御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484)は挑発するように続けてセイクリッドギターをかき鳴らす。ここを退くつもりは無いというように。そしてそれは彼女以外も同じ意志だ。目の前の存在が自分の邪魔をするつもりと理解したイフリートは怒りの声と共に炎を吐く。
「今夜も派手に奏でてあげようじゃない!」
フローレンスの指先から切り裂くような音色が響き、戦いが始まった。
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「……!」
紋次郎の顔が歪む。彼が受けたのは全てを焼き切るような炎の奔流。それは左腕に纏った青い焔をも切り裂き防具ごとその身を切る。即座にひかるの分身でもあるナノナノが癒やしを与えるも、それだけでは足りずに札を投げる。
「さすがイフリート。敵とは言え、その猛火には憧れるぜ」
彼と同じく接敵していた御伽の口角が楽しげに浮かぶ。勿論それは灼滅者、あるいはイフリートをその中に棲まわせている者としての意志の現れだろう。つまり、強敵を前に見せるそれ。
「行くぜ!」
体勢を立て直す紋次郎と交代するように敵に踏み込む御伽、その後ろから彼を援護するようにアリスがマジックミサイルを放つ。
「悪いけど射撃戦の方が得意なのよ」
澄ました顔で言う彼女だが、位置取りは常に彼を守れるポイントに立っている。イフリートを囲むように動くのはフェリシタスもそうだ。
「アンタの事、食べてもイイのよね?」
灼滅する事を食べると形容する彼女はイフリートが来る前の時とは違って『女性』のそれだ、枕詞が付くのなら『妖艶な』と付け加えてもいい。おそらくは猫を被っていたのだろう、それも部屋飼いの。本性を現した彼女の刃は炎の一部を切り取る。
「神に捧げる曲を聴きなさい!」
フローレンスもまた武器を手にとる前と後では雰囲気が変わっている。どちらかと言えば武器の印象その通りのロックギタリストではあるが。音速で放たれるビートは神秘の力となってイフリートを貫く。
「ヒィン!」
馬に似たような、けれどももっと甲高い鳴き声を上げるイフリート。だがそれは痛みというよりは邪魔をする灼滅者達に対する苛立ちのような響きをはらんでいる。
「駆けるならどうぞ黄泉まで真っ直ぐに。私達が見送って差し上げますから」
そのイフリートの喉元を捕らえたのは鬼の腕。
「あなたご自身の炎で、きっと道行きも明るいでしょう。あちらでは思う存分走ると良いわ」
いろはの守り手の間から縫うように現れての一撃。掴んだその腕を振るい砂浜へと叩きつける。即座に熱された白砂が周囲に飛び散り頬を叩く。
「……何か熱くなってきたんだが。もうちょっと温度下げてもらって良いっすかね?」
万が槍の穂先に氷を溜めながらイフリートに問う。無論イフリートは怒号の叫びを返すばかりだが。
「えっ? 無理? そりゃあねぇぜ」
言い終えると同時に氷弾を放つ万。放たれた攻撃は確かにイフリートの体を捉える。だが。
「どうだ! って……えっ!?」
イフリートがその氷を弾き飛ばしながら万に突撃する。前衛で守りに徹していた灼滅者達をかき分け、もっとも無防備そうな彼を標的に狙ったのだろう。前衛にいた誰もが動くが間に合わない。立ち上る炎を背負っての体当たりが彼を激しく吹き飛ばした。
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どうっと体についた火と共に砂浜に沈む万。そのまま戦闘不能になるかと思ったその時、フローレンスの手元で弦が鳴く。同時にシェルヴァが追撃させまいとイフリートの前に立ちはだかる。
「ぐっ……!」
魂が肉体を凌駕したのか万が呻きを上げる、その彼に届くのは三日月の弓から放たれた癒しの矢。辛うじてそれが彼の意識をつなぎ止める。彼が戦線に復帰するまでの間、紋次郎とフェリシタス、アリスが加わりイフリートの攻撃を食い止める。
「悪いけど、倒れてなんてアゲないし……逃がしたりも、してアゲない♪」
「寒さなんてもうとっくに感じないけれど……、さっさと終わらせてしまいましょう」
戦いが始まる前は息が白く染まったのに今は目の前の炎に寄ってむしろ熱気を感じるくらいだ。イフリートの気魄の炎は未だ燃え盛っている以上、更に戦いを続けなければならないだろう。
「ヒヒィン!」
イフリートは頭を高く上げ嘶く、その鳴き声と共に放たれるのは全てを焼き払う炎の奔流、投げかけられるのは護り手の背後を支えていた灼滅者達。
「………」
迫り来る炎、それにひかるは一瞬ばかり目を奪われる。いつか見たまやかしを焼いたそれに似ていたから。けれどただ邪魔なものを壊す炎では無かったはずだ。むしろ闇を打ち払う灯火のような存在だった。それを思い返してひかるは身を翻し炎をかわす。
「おいおいマジかよ……勘弁しろよな」
彼女とは違い、避けきれないと悟った御伽は武器を構える。相手の攻撃は自らも使えるバニシングフレアと同質のものだ。本来なら複数の相手を攻撃できる比較的威力の高くない攻撃なのだが、イフリートのこれは威力が違う。このまま炎を向け続けられれば数分と持たないだろう。
「あなたが私達を焼き尽くすか、それとも私達が耐えきるか……。我慢比べと参りましょうか?」
いろはが広がる炎の中から飛び出して、刃を振るう。非実体と化した刃は深々とイフリートの胴体を切り裂く。血の代わりに飛び出した炎が激しく吹き出す。耐え切ると同時に倒さなければならない、でなければイフリートは彼らを蹴散らして駆け抜けて行ってしまうだろう。
「止めるぞ」
ぼそりと、紋次郎が言った。炎にまみれた敵を更に焼き尽くすような一撃を敵に叩きこむ。度重なる攻撃に怒りを抑えきれないイフリートが反撃を行う。
「オン カカカビ サンマエイ ソワカ」
敵と紋次郎の間に割り込んだアリスが火鎮めの呪文と共に炎を遮る。イフリートがその場を離れて間合いを取り直そうとしたところを影が包み込む。
「へへ……やっと捕まえた……」
体勢を立て直した万の影がイフリートにしか見えない敵を作り出す。
「あら、何に怯えているのかしら?」
トラウマに苛まされるイフリートにフェリシタスは囁く、獲物を弄ぶような笑みを浮かべて。勿論腕は武器を振るうのを止めていない。
「ブルルッ……!」
繰り返えされる攻撃に流石のイフリートも呻く、その呻きに合わせるようにフローレンスの音の刃が再び突き刺さる。
(「……ごめんね」)
痛みに声を上げるような気力さえなくしていそうな敵に、いろははそっと心の中で呟いて影を繰る。絡みついた影が樹の幹のような脚を絡めとる。その隙を御伽は見逃さない、手にした赤い得物に炎を纏わせる。目の前の相手の炎よりも更に強い力を込めるように。
「お前と俺の炎……どっちが強いか……試させてもらうぜっ」
言葉と共に炎がイフリートに突き刺さる。
「焼き尽くせ」
鋼と炎が刺さった箇所から一気に炎が吹き上がる。それも数秒の事でありイフリートはその場から消え後には御伽の武器が残るだけだった。
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「走るコースが悪かったとしか言えんな、あのイフリートは……ま、同情なんぞしないけどさ」
万が体をさすってイフリートの居た場所を見る。御伽がその場所で武器を砂から抜いている。
「ふふ、もう新しい日ですね」
時計を見ていたフェリシタスが再び猫を被った様子で言った。どうやら戦闘に長い時間がかかっていたようだ。
「お疲れさん。冷えるし帰りは気ぃつけて。それじゃ」
武器をカードに戻した御伽が手を振りながらその場から離れていく。彼の動きに釣られるように他の灼滅者達も三々五々に帰途に着く。そんな中ひかるはふと振り返り祈る、心の中にある炎を先程までの戦いに見出して。祈り終えると彼女もまたその場を去る。その背中を漣だけが見送っていた。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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