手を離さないから……

    作者:相原あきと

    「おい、そっちの首尾はどうだ?」
    「まー、ぼちぼちって所っすわ」
    「こっちは楽勝だったッスよ?」
    「おーいいねぇ」
     とある町の橋の下で、不良の男子高校生4人が老人たちからひったくって来たバッグの中身を確認してはニヤニヤしていた。
     しかし、今だ帰って来ない仲間が1人いる事にリーダー各の男が心配する。
     もっとも、その心配は帰って来ない事では無く……。
    「あの野郎、昨日の説教の意味、解ってるんだろうな」
     リーダーが呟く。
     まだ来ぬ1人は名を飛田・栗雄(とびた・くりお)と良い、昨日の引っ手繰りで老人を殴って強引にバッグを奪うというルール違反をしたのだ。
    「怪我なんかさせたらマジで逮捕された時にどうなるか……ったく」
     まぁ、昨日は咄嗟に殴ってしまったと言い、栗雄本人も反省していたようだから、今日は大丈夫だと思うが……。
     そうこうするうちに、やっと栗雄が帰ってくる。
     しかし、その手にはバッグと金属バッド、そして返り血を浴びた服を着ていた。
    「栗雄! てめぇ、怪我させるなっつっただろーが!」
     そんなリーダーに、栗雄は何が悪いのかと首を傾げ。
    「いやー、ババアが手を離さないからッスよ」
    「ふざけんな! てめぇ、昨日反省しますっつっただろうが!」
    「いやー、一晩寝たらすっくりしたんスよね、ははは」

    「みんな、『病院』の灼滅者さんたちとはもう会った?」
     教室の集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が聞いてくる。
     『病院』の灼滅者が言うには、贖罪のオルフェウスというシャドウがソウルボードを利用して人間の闇堕ちを誘発しているらしい。
     オルフェウスは人間の心の中の罪の意識を奪い、奪った罪の意識によって闇堕ちを促進しているとの事だった。
    「それで、みんなに向かってもらいたいのは飛田・栗雄(とびた・くりお)っていう高校2年生のところよ」
     栗雄は不良仲間とひったくりを繰り返していたのだが、その不良チームはひったくりでターゲットに怪我を負わせないのをルールにしていた。
     もちろん、怪我をさせるともしもの時に罪が重くなるから……その程度の理由ではあるのだが。
    「ただ、飛田栗雄はオルフェウスのソウルボードの影響で完全に罪の意識無くなっているの……すでにひったくりの際に何人もの老人に怪我をさせているわ。すでにかなりの重傷となった人もいるみたい……」
     仲間達は栗雄がやり過ぎている事に、栗雄だけトカゲのしっぽのように切れないかと相談も始めているらしい。
     それほど、栗雄は歯止めがきかなくなっていると言うのだ。
    「栗雄が住んでいる一軒家の場所は教えておくわね。2階にある自室で彼は寝ているわ。みんなが向かった日は窓の鍵をかけてないから侵入は簡単なはずよ」
     栗雄にソウルアクセスすると、その夢の中はどこかの教会らしい。
     その教会で栗雄は十字架に向かって謝り続けているらしい。
    「みんなには栗雄が謝っているのを邪魔して欲しいんだけど……」
     珠希が言うには、その邪魔の仕方によってその後の展開が変わると言う。
     1、そのまま邪魔した場合。
     栗雄がシャドウのようなダークネスとなり襲ってくる。その強さはシャドウと変わらない強さだ。
     2、邪魔だけでなく、罪を受け入れるよう説得に成功した場合。
     栗雄とは別に、シャドウのようなダークネスもどきが別個体として出現する。このダークネスもどきはシャドウより弱くなるが、こいつは栗雄を狙ってくるので、栗雄を庇いながら戦う必要がある。もし栗雄が攻撃を受ければ、即座にダークネスもどきは栗雄と合体、1の結果と同じように『シャドウのようなダークネス』へ変化し、強くなる。
    「強いシャドウのようなダークネスも、弱いダークネスもどきも、シャドウハンターとガンナイフに似たサイキックを使ってくるわ。前者は捨て身で攻撃してきて、後者の場合は後ろから狙い撃ちしてくるみたい」
     基本的にどっちの場合も得意な能力は術式であり、戦いになれば大人の人型影法師の配下を2体呼び出すらしい。
     そして珠希は言うべきか迷いつつも、次の句を告げる。
    「それと……説得に成功した場合、今まで犯した罪の意識に苛まれるかもしれないから、何かしらのフォローが……必要かもしれないわ。逆に説得せずに戦った場合は、これまでの罪の意識を失ったままだから、人間関係などの問題は解決しないと思う。とはいえ、下手に他人が手を出す方が悪化するかもしれないし……深入りはおすすめしないわ」
     そこまで言うと珠希は複雑な表情で。
    「飛田栗雄が警察に捕まるのは時間の問題よ。とはいえ放っておけば次は死亡者が出てもおかしくないわ……すべてが丸く収まるのは難しいと思う。それでも、ダークネスの好き勝手だけは、止めて欲しい。よろしくね」


    参加者
    朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    パメラ・ウィーラー(シルキー・d06196)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    フェルト・ウィンチェスター(夢を歌う道化師・d16602)
    篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)
    多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)
    袁・小莓(蜜吻メロディア・d21717)

    ■リプレイ


     ターゲットである飛田栗雄にソウルアクセスすると、そこはどこかの教会だった。アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)が欠伸混じりに十字架に向かって謝罪を続ける栗雄に声をかける。
    「えっと、こんなところで十字架に向かって懺悔してても何も変わりませんよ?」
    「あん?」
     不愉快そうな顔で栗雄が顔をあげ睨みつけてくる。だが、その程度で怯む灼滅者は誰もいない。
    「ちゃんと怪我をさせてしまった人の前で罪を謝罪し反省をして下さい」
    「そうよ、クリオ、どうしてお年寄りに酷い事をした?」
     アイスバーンに続き袁・小莓(蜜吻メロディア・d21717)が言う。
    「ほっとけ。俺の邪魔すんじゃねぇ」
    「ほっとかないよ。お年寄りもクリオも痛い、苦しいね。けど、ここに留まったらクリオ、きっともっと辛い。ほんとの世界で、おばあちゃんたちに謝らないと、心シクシクよ」
     小莓の言葉に栗雄が立ち上がる。
    「黙れ! どこで謝ったって同じだろーが!」
    「違うよ! クリオ怖いだけね。こわいならシャオの勇気、わけてあげるよ! シャオたち、そのためにここまで来たね」
     素直に感情をぶつける小莓に対し、栗雄が俯きながら「俺の気も知らねぇで……」と呟く。
    「ああ、お前の事はよく知らねえ……」
     呟きに返したのは多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)だ。
    「けど、年取った人がどんだけ危うい存在か、わかってんじゃねえのか?
     怪我じゃ済まねえ事だってあるだろ」
    「ぁあ? っざけんな! そんな――」
    「とにかく一旦落ち着け」
     少し強めに千幻が言い言葉を続ける。
    「お前、そういうの向いてねえ奴なんだよ。気が小さくて焦ってついやりすぎて……」
    「お、お前に何が!」
    「俺も、少し経験あるから、さ」
     栗雄にだけ聞こえるように呟いた言葉。嘘じゃない声音に栗雄が黙りこむ。
     静かになった栗雄に近寄るのはフェルト・ウィンチェスター(夢を歌う道化師・d16602)だ。
    「飛田くん、ここで祈っていてもケガをさせた人には伝わらないんじゃないかな? 本当に罪を償いたいなら直接その人に会って謝らないダメだよ」
    「そん……なの……」
    「それに――」
     フェルトは涙マークの左顔を見せるように。
    「このままだと本当に、人を殺しちゃうかもしれないんだよ?」
     ビクリ、一瞬だが栗雄の肩が震える。
     たたみ込むなら今か、フェルトに並んだのは魔王を自称する篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)だ。
    「ねぇ、お兄ちゃん。殴られたこと、ある? 大事にしてる掛け替えのないもの、取られちゃったこと、ある?」
    「………………」
    「どっちもあるよね。誰だってあるよ。だったら分かるはずでしょ、それがとっても痛いことだって」

     ――自分がやられて嫌なことは、他人にしちゃいけないよ……。

    「うるせえ!」
     栗雄が何かを振り払うように頭を振り声を荒げて否定する。
    「うるせえ! うるせえ! 他人なんか関係ねーんだよ!」
     目を血走らせて言い放つ栗雄に、説得するつもりの灼滅者たちもどうしたものかと目を合わせる。だが、そんな空気を気にせず栗雄の前へ一歩出る物がいた。
    「めっ!」
    「!?」
     小さな子供をしかるように、栗雄に顔を近づけたのはパメラ・ウィーラー(シルキー・d06196)だ。
     ほんわかしたパメラの空気に、栗雄が一瞬虚をつかれる。
    「関係無くなんてないですよ? だって、怪我させた方に申し訳無いという気持ちがあるから、ここで謝罪していたのでしょう?」
    「べ、別に怪我させた奴らに謝ってたわけじゃ……」
    「じゃあ誰に謝っていたのですか?」
     パメラの追求から視線を外す栗雄、しかしパメラは回り込むように正面に周り。
    「あなたにも……祖父母がいたのですよね?」
    「どうして……」
     栗雄が見透かされたと言わんばかりに驚く。
    「そうだよ! お兄ちゃん、相手が自分のお婆ちゃんだったとしてもできるの? そんな姿、お婆ちゃんに見せて平気なの!?」
     ここぞとばかりに一花が言葉を重ね。
    「飛田くんはお婆ちゃんの事が好きだったんでしょ!? だったら、こんな事をしてちゃダメだよ!」
    「俺は……俺、は……」
     栗雄がガクガクと震え出し膝をつく。
     そんな震える栗雄の前に誰かが立った。朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)である。
    「君の祖母が同じ目に遭ったのなら、君は犯人が祈るだけで許されようとしているのを見てどう思う」
     栗雄は両手で自らを抱く。
    「許されたいのならば、自分の意思で窃盗を行う事を止めろ。二度と同じ事を繰り返さない強い意思を持て、そして弱い自分と戦うんだ」
     突き放すような春翔の言葉、だが春翔はそこで膝を付き、栗雄の肩に手をかける。栗雄もおそるおそる顔を上げた。
    「俺達も手伝う。だから先ずは祈り謝る事を止めて、此処から出るんだ」
     栗雄は泣いていた。
     ずっとずっと、夢の中で。
     大好きだった祖母の教えに反した事を悔いていた。
     だが、その事を叱って欲しかった祖母も、許して欲しかった祖母ももういない……。
    「お、俺……俺は……」
     泣きながら何かを言おうとする栗雄。
     だが、そんな栗雄と仲間たちの間に割って入ったのは月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)だ。そっと眼鏡を外しその赤い瞳で栗雄を見つめ。
    「重ねた罪の帳尻合わせは必ず来る……免罪符なんて都合の良い救いは無いんだ」
     栗雄が俯く。
    「だから、戻るなら、今を置いて他にはない。悔い改め人として生きるか、人として死んで闇へ堕ちるか……」
     千尋はそう言うと独特の緊張感を高ぶらせつつ、緋の五線譜――特殊合金製の鋼糸――の手袋を締め直す。
    「前者を選ぶか後者を選ぶか……」
     他の灼滅者達も千尋同様に何かを察して、己の殲術道具を構え始める。
     何かを考えているような栗雄に、戦闘体制を整えた千尋が言う。
    「……キミが選ぶまでの時間ぐらいは、ボク達が稼いであげる」
     ゆっくりと、教会内の影の一部が盛り上がっていく。やがてそれは男性型と女性型の影法師となり、さらに奥に人型である事をぎりぎり理解できる程度の影法師が立体化したのだった。


     男性と女性、そしてダークネスもどきの影法師に対し、最初に動いたのはフェルトだった。
    「飛田くん達のやっていた事は悪い事だと思うけど、オルフェウスがいなければここまでひどい事をする人達じゃないと思うんだ」
     気持ちを乗せたパッショネイトダンス、フェルトの大鎌が踊りながら振るわれる。
     だが、その鎌を掴み防いだのは男の影法師だった。
     そのまま開いている手を灼滅者へ――いや栗雄に向け、黒きエネルギー弾を撃ち放つ。
    「え?」
     咄嗟の事に身動きのとれない栗雄は、呆然と自分へ迫る黒い弾丸を見つめ……。
     次の瞬間、目の前には自分をかばった春翔の背中があった。
    「お前……」
    「贖罪など……独り善がりだ」
    「………………」
     短く告げ、春翔は「援護します」と再び戦線へ飛び込んでいく。
    「クリオだって、したくてしているのと違う。シャオ、わかるよ」
     助けるため、その為には目の前の3体を倒さなければならない。
     小莓がビハインドの阿莓と連携して攻撃を繰り出す。
     阿莓の霊撃で男の影法師がよろめき、その隙をついて竜の骨すら断ち切る龍砕斧の一撃をたたき込む。
     だが、男の影法師は腕をクロスするように斧を受けとめた。
     プスッ。
     意識が小莓達に逸れた一瞬、背後に回り込んでいたパメラが影法師の首筋に注射器を刺したのだ。
     蛍光グリーンの危険な液体が注入され、ガクリと苦しみ出す男の影法師。
    「ゆっくり苦しんでいってくださいね~♪」
     さらに悶える影法師の土手っ腹に螺旋の捻りを加えたアイスバーンの槍が突き刺さる。
     まずは男の影法師から……作戦通り、見事な連携だった。
     だが、敵側もやられるばかりではない、シャドウもどきが最後尾で叫び声を上げると同時、無数の弾丸が灼滅者の前列を襲う。
     咄嗟に仲間をかばおうとする春翔だが、その肩を押さえて弾丸の前に立ったのは千尋と一花、そして一花のナノナノ・アンドレアルフスだった。
    「春翔兄ちゃんは栗雄兄ちゃんを守って!」
     一花はそう言いつつ、クルセイドソードで敵の弾丸を幾つか斬り払うが、全部はさすがに難しく被弾した傷から血が流れる。
    「くくく、蒼刃の魔王たるこの私に傷を付けるとはな……痛、ぜ、ぜんぜん、余裕だよ」
     我慢する一花、その様子に春翔も「そのようですね」と静かに同意してやる。
    「アンドレアルフスは回復を」
     一花に言われ傷を癒すナノナノ。
     助けたくても助けられなかった経験が無いわけじゃない、だからこそ。
    「絶対、みんなを守るんだから!」
     強い意志の一花。
     そんな一花を横目でみつつ、同じく仲間をかばった千尋が弾丸を打ち払った真銀の魔槍を構え直して。
    「今までって殲滅戦ばかりだったからねぇ。防衛戦って苦手だ……」
     とはいえ、きっちり仕事をこなしているのはさすがだった。
     そんな盾役達に千幻の奏でる曲が届く。それは不可解なれどなぜか立ち上がる気力を奮い立たせる音だった。
     さらに千幻に追随すうように霊犬のさんぽが栗雄を庇って大ダメージを受けていた春翔を回復させる。
     だが、ほぼ同時――。
    「……!」
     女性の影法師が男の影法師に自分の力を注ぎ込み傷を治癒していた。 
     戦いは、長期戦になりそうであった……。


     戦場たる教会内に伝説の歌姫を思わせるフェルトの神秘的な歌声が響き渡り、シャドウもどきをぐらつかせる。
     すでに男の影法師も女の影法師も灼滅者の攻撃で消滅していたが、盾役を先に狙った事で、回復が飛び交いかなり長期戦になってしまっていた。
    「くっ」
    「春翔お兄ちゃん!?」
     膝を付く春翔に一花が声をかける。
     今回の夢の中では『思いの強い者』が栗雄を庇う事ができる。逆に言えば本当にそういう思いが無い者が庇おうとしても、前述の者が先に庇ってしまうのだ。
     結果、栗雄を庇う負担が春翔のみに集中してしまったのだ。せめて、とばかりに一花や千尋は他の仲間が狙われた時は率先して庇っていたが……。
     シャドウもどきが黒い弾丸を放つ。それは灼滅者の合間を縫って栗雄へと迫る。
    「させん」
     春翔が栗雄の前に立ちふさがり、飛んできた黒い弾丸を身体で受け止める。
    「ぐっ……ぁ……」
     春翔が両膝を付く。
    「お、お前……」
     何度も庇ってくれた春翔に栗雄が声をかける。
     そんな栗雄に春翔はわずかだけ視線をやり。
    「……俺の様に、己の罪ごと受け入れてくれる人に……君も必ず、出会える時が……来る……だ、から……」
     どさりと倒れる春翔。
     限界だった。
     春翔が戦闘不能になると同時、即座に宣言したのは千尋だった。
    「一気に攻めよう。これ以上庇えるかは不安だ……」
     春翔が倒れた今、次に思いの強い者が栗雄を庇うはずだったが、正直、盾役である一花や千尋自身も動けるか不安が残る。
    「……因果な任務だ、全く……」
     結局攻撃に全力を注ぐ自分を自嘲しつつ、千尋が鮮血色のオーラを乗せた鋼色で敵を攻撃、腕で防ごうとしたシャドウもどきだったが、鋼色がその腕を弾き飛ばす。
     そのタイミングで懐に張り込むは小莓だ。
     戦斧を振るってシャドウもどきの腹を縦に切り裂く。
     一斉攻撃。
     それならと一気に前に飛び出してきたのは千幻だ。シャドウもどきを殴りつけると同時、網上の霊糸が敵を捕縛、一拍をおいて霊犬のさんぽが斬魔刀で切りつけた。
     ズタボロに攻撃されのけぞるシャドウもどきだが、叫び声を上げながらグッと身を起こし再び動こうと――。
    「ちょっと、動き回ると狙うの面倒なので……足止め、しますね」
     どこか面倒そうにシャドウもどきの目の前へ迫っていたアイスバーンが槍をふるって敵の両足を切り裂く。
     これまではなかなか命中し辛かった黒死斬だが、シャドウもどきの体に巻き付いた霊糸のおかげでジャストヒット。
    「……失敗や反省する気持ちを餌にするって……最低ですね」
     眠そうな、けれど軽蔑を含んだ視線でシャドウもどきを見つめるアイスバーン。
     シャドウもどきは反撃しようと首を巡らすが。
     トッ。
     首筋にそっと添えられたナイフ。
     いつから隣にいたのか、そこにはパメラがいた。
     シャドウもどきが反応する間すら無く、光彩の消えた目でパメラはナイフを真一文字に振り抜き……それが、シャドウもどきへのトドメとなったのだった。


     敵が去り静かになった教会で、千尋は立ち尽くす栗雄を見つめる。
    「……キミの中の結論は、出た?」
     少しバツが悪そうに栗雄が千尋を見て言う。
    「……ああ、出たよ」
     栗雄の顔からはいつの間にか険が取れて。
    「償うつもりがあるのなら、今の環境を変えてちゃんと謝りにいくんですよ」
     パメラが言えば、「そうだな、変えるつもりさ」と言い。
     そして栗雄は自身を庇って倒れた春翔を見つめて。
    「その人が起きたらお礼を言っておいてくれないか。こんな俺みたいなクソッタレを、命を張って守ってくれる奴がいた。この人の言葉は本当に俺の為を思ってくれたって途中で気づいたんだ……」
     春翔に頭を下げつつ、今後は残りの7人を見回す。
    「もちろん、今ならあんたらの言った言葉も嘘じゃないって思えるけどな」
     力なく笑う栗雄。
     そんな栗雄に千幻が「いいんじゃねぇの」と。
    「いっぺん足を止めて色々ゆっくり考えてみろよ、焦るとまた判断を誤るだろうからな」
     千幻の言葉に栗雄はうなずき。
    「ああ、だから……俺は自首しようと思う」
    「へぇ」
    「塀の中に入るかわからねーけど、しっかり反省しようって思ってさ」
     そう告白する栗雄に、パチンと両手を併せてアイスバーンがほほえむ。
    「それは良いことだと思いますよ。やってしまったことはどんなに頑張っても元には戻りません。でも反省して同じ過ちを繰り返さないようにすることが大事だと思います」
    「うん、罪を償おうという気持ちさえあればいくらだってやり直せるって、ボクも思うな」
     アイスバーンと同じく、フェルトも栗雄の決意を肯定し、笑みを浮かべる。
    「ああ、ありがとう。謝ってから入るか、出てきてから謝るかわからねーけど、そうしたいって思うよ」
     そう言う栗雄にはどこか清々しい、それでいてどこか覚悟のような物を感じられる。
    「栗雄お兄ちゃん」
     呼ばれて見れば、一花が笑っていた。
    「今なら、お婆ちゃんに顔向けできるね。負けないで、頑張って!」
    「おう」
     一花の笑顔に答えるよう、わずかに拳を作る栗雄。
     少しずつ教会の風景が消えていこうとしている。栗雄の意識が変わったからか、夢が……終わろうとしていのか。
     帰ろうとする仲間達の中で、小莓は栗雄を振り帰って別れの言葉を告げる。
    「きっと天国でおばあちゃんも一安心よ!」
     栗雄は何も言わず、何度も頷いていた。

     謝るだけで済むほど現実は簡単じゃない。
     だからこそ、人は……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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