悪の恐怖支配

    作者:白黒茶猫

    ●力による支配
    「あん? 今なんつった?」
     偉そうにどっしりとソファーに座る男が、目の前に立ちびくびくする男を睨む。
    「だ、だから、抜けさせて欲しいんだよ……ッ!」
     ソファーの男に怯えながらも声を張り上げる。
    「大体、銀行を襲うだけだって話だろ!? 人を殺すなんて聞いてなかった! その必要だってなかった! それも、あんな惨いやり方で……」
     大声をあげて勢いづいたのか、更に言葉を次ぐ。
     凄惨な光景を思い出したのか、身震いと共に痛々しい表情を浮かべる。
    「もうあんたにはついてけない」
     そして決別の言葉を告げる。
    「おいおい、面白いジョークだなそいつぁよぉ」
     ソファーに座ったまま黙って聞いていた男はくつくつと笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。
     片腕を青い毛に覆われた巨大な豪腕へと変じさせると、目の前の男を掴み上げる。
    「うがっ!?」
    「散々稼がせてやって、それか? ええ? おい、答えろよ」
     みしみしと骨が軋む音が響く。
     掴まれ宙に持ち上げられた男は、息をすることも出来ず息を漏れる。
    「ばけ、もの……ッ!」
     それでも、袖に忍ばせた拳銃を取り出し、男の体目掛けて銃弾を打ち込む。
     しかし銃弾は服を貫いた後、男の肌で止まってことりと落ちる。
    「まぁだわかってなかったのなぁ……そんな玩具で俺は傷つけられねえっての」
     巨腕の男はやれやれと肩をすくめて首を振る。
     バベルの鎖の前に、サイキックを帯びない攻撃で傷つけることはできない。
    「お望み通り、抜けさせてやるぜ。んじゃ、あばよ」
     巨大な手を握り締め、肉が潰れ骨が折れる嫌な音が近くにいた男達の耳につく。
    「別れはいつも辛いねぇ、全く」
     無造作に歪な亡骸を落とすと本来の腕へ戻し、血で汚れた手をハンカチで拭った。
     その動作はあまりに自然で、一つの命を消したというのに、まるで気に留めていない。
    「なぁ、お前らも同じジョークで俺を笑わせてくれるのか?」
     他の男達へ視線を向け、にこりと笑みを浮かべて問いかける。
    「い、いやっ! お、俺達は、あんたについてくぜ」
     声をかけられた他の男達はびくりと怯え、慌てて頷く。
     良心も恐怖によって凍り付き、恐怖によって支配されていた。
    「オーケーオーケー、それでいい。悪を楽しもうぜ? レッツエンジョイ!」
     男……デモノイドロードの高笑いが、人里離れた隠れ家に響いた。

    ●教室
    「まっ、そんな感じで恐怖政治を敷いてる御山の大将、ってわけね」
     常磐・凛紗(高校生エクスブレイン・dn0149)がやれやれと言った風にため息をつく。
    「この男……今回の敵は、デモノイドの力を悪の心によって制したデモノイドロードよ」
     正義や悪を憎む心、人への善なる思いをもって制したデモノイドヒューマンと対極の存在であり、その宿敵である。
    「数々の犯罪に手を染めて完全に悪に染まった上に、悪行を楽しんでいる。説得の余地も同情の余地もないわ。倒す事だけを考えて頂戴」
     よしんば説得できたとしても、デモノイドの力を制御してた悪の心が弱まれば完全なのデモノイドになるだけだ。
    「それと、ロードの特性として、デモノイド状態でも人として……いえ、悪人としての知性を維持しているわ」
     暴力的なまでの力と狡猾な知性を兼ね備え、悪人としての自己保身に長けている。
     人の心を残しつつも、悪の道を選んだ『人間』。
     ある種、ダークネスよりも厄介な存在と言えるだろう。
    「潜伏してる場所はロクに管理されてない山小屋で、敵はデモノイドロード1体。基本的に逃げられる心配はないわね」
     幸い敵の足はさほど早くない。
     単純に逃げても、容易に追いつけるだろう。
    「だけど1体であなた達全員と同等の戦力を有してるわ。油断はしちゃダメよ」
     デモノイド化した時の戦闘力は、非常に高い。
     デモノイドヒューマンと同種のサイキックを持ち、巨腕にはロケットハンマーが取り込まれており、放たれるサイキックも似たものだろう。
    「後は他にも8人いるんだけど、全部一般人よ」
     ロードが仕入れさせた拳銃やナイフで武装しているが、サイキックを帯びていない攻撃はバベルの鎖で守られた灼滅者には通じない。
     敵の戦力として考える必要はないだろう。
    「でも銃には気をつけて。大した傷は負わないけど、衝撃とかは普通にあるから当たると痛い……らしいわよ」
     凛紗はぴんと人差し指を立てて、注意する。
     又聞きらしく知ったかぶりだが。
    「接触するタイミングは、昼辺り。ロードと一般人は全員同じとこに居るけど、ロードは一人でお酒飲んで酔っ払ってるわ」
     正面から突入しても、少しの間状況を把握できずぼんやりとしているだろう。
     反面、外で何か中へ影響のある事をすれば、さほど変わらない時間で気付かれてしまう。
    「一般人のほうは、ある意味被害者とも言えるけど……悪事の片棒を担いだ悪人には違いないわ」
     一般人達は、既にデモノイドロードの嗜虐的で残虐なやり口についていけないようだが、従わなければ殺されてしまうため従ってる。
     だが嫌々でも、悔いていても、自身の命惜しさに人の命を奪った事には変わりない。
    「彼らを助けるか見捨てるかは、あなた達の判断に任せるわ」
     助けられる可能性はある。
     しかし助けようとすれば、ロードはそれを利用してくるだろう。
     灼滅の難易度も、危険度も跳ね上がる。
     灼滅者達の身を危険に晒すに値するかと言われれば、素直に頷く事は難しい。
     故に一般人の生死は問わない、と凛紗は言う。
     無表情を貫いて言う言葉は冷淡にも聞こえるが、実際に戦う灼滅者達の身を案じての事だ。
    「まっ、そっちはさておき本命の戦闘力ね。詳しく分析できたから、そこを突けばかなり優位に戦えるはずよ」
     デモノイドロードは見た目通り気魄に特化しており、振るうサイキックは破壊力の比率が高い。
     防具はその辺りで整えれば被害を抑えられるだろう。
    「あとは魔法力の高いサイキックが弱点みたいね。例えばサイキックソードとか、魔導書とかだっけ? 同種でも個体差はあるらしいけど」
     どんな武器でも恩恵は得られるが、特化させればその差は顕著になる。
     意識してみるのもいいかもしれない。
    「下衆な事も平気でするわ。んーと、例えば……仲間を盾にしたりとか? 具体的にどんな事をするかは状況次第だから、分析できなかったけど」
     何にせよ、躊躇すれば、ここぞとばかりに突いてくるだろう。
    「何にせよ、中途半端にするのが一番良く無いわ。助けるにしても切り捨てるにしても、躊躇わず全力でね」
     話すべきことを話し終えた凛紗は、話し合う灼滅者を背に教室を後にした。


    参加者
    空井・玉(野良猫・d03686)
    エリザベス・バーロウ(ラヴクラフティアン・d07944)
    天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)
    杵島・星子(プロキシマより愛をこめて・d15385)
    吉祥院・折薔薇(百億の花弁・d16840)
    夏渚・旱(無花果・d17596)
    那梨・蒼華(蒼氷之華・d19894)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)

    ■リプレイ

    ●悪心
    「自殺願望がある奴以外はさっさと消え失せろ!!」
     山小屋へ、真っ先に突入した天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)が叫ぶ。
     何事かと反応する前に、ライドキャリバー『赤兎』の突撃と共に盾による一撃を座ったままのデモノイドロードへ放つ。
    「ぐっ……!?」
     完全に油断していたデモノイドロードは、致命的な連撃を受けて吹き飛ぶ。
    「(できれば一般人は助けたい、けど、目的達成が最優先だよね)」
     吉祥院・折薔薇(百億の花弁・d16840)は横目でちらりと戸惑うロードの手下達を見る。
     優先すべきは灼滅だ。
     攻撃を加えた以上、ロードが事態を把握するのも早いだろう。
     兎に続き、折薔薇も全力で杖をロードへ叩き込む。
    「(悪人は等しく死ぬべき……とまでは思ってない。けどリスクを負ってまで救う義理もない)」
     反面、空井・玉(野良猫・d03686)は手下達へは一瞥もくれずにロードへ一直線に拳を叩きつける。
     一般人は是が非でも助ける。
     だがその中に彼ら……武装して銀行を襲うような者達は含まれていない。
     事情や現状はどうあれ、欲に駆られて悪事に手を染めたのは彼ら自身なのだから。
    「な、なんだお前ら!?」
    「『失せろ』。死にたくなければな」
     突然の襲撃にざわめきロードの手下達へ向かって、エリザベス・バーロウ(ラヴクラフティアン・d07944)が命じる。
     恐慌状態に陥った手下達は、出口へ殺到する。
     入り口近くに居た2人は出られたようで走り去っていくのが見えた。
     だが8人もの大の大人が一斉に集まった事で、出口がつかえてしまった。
     杵島・星子(プロキシマより愛をこめて・d15385)と、葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が避難を補助すべく、男の身体を掴み上げ、外へ目掛けて放り投げる。
     軽くバウンドして吹き飛ぶ姿に、少し心配になる。
    「うむ、込めた力が宇宙規模すぎてしまったな」
     星子は勢い良く飛んでいった男達を眺めて頷く。
    「(まぁ、これくらいは悪行の報いですよね)」
     柔らかい地面だったし大丈夫だろう、と統弥は思っておくことにした。
     ゆっくりと動き出してのろのろと逃げていったことだし、大した傷も負ってなそうだ。
     男達がした事を鑑みればこれでも優しいほうだろう。
     次に取り掛かろうとするが、目の前を一条の光線が通り過ぎ、壁から破壊音が轟く。
     飛来した方向を見れば、壁に打ちつけられたロードがそのままの状態で、蒼い巨腕をこちらへ向けていた。
    「『止まれ』。騒ぐな、バカ共が」
     ロードはゆっくりと立ち上がりながら畏怖の力が込められた言葉を発する。
     エリザベスは再度ESPを試みるが、『恐慌』と『畏怖』では、畏怖が優先されてしまったようだ。
    「あー、いってぇ……酔い覚ましにしちゃちと手荒じゃねえか、えぇおい?」
     ロードはイライラとした様子で、壁へ蒼い巨腕を叩きつけると、木製の壁は容易く破壊される。
    「にしてもなんだぁ、てめえら? 俺の力でパンピー共は『目的』でも無い限りこの一帯は避けるはず……何より俺を傷つけられたってこたぁ……」
     状況を整理するように呟くロードの姿は無防備に見えるが、隙が無い。
     下手に動けば致命的な一撃を受けてしまいかねず、動くに動けない。
     攻撃を加えたことで、酔ったロードの頭でも闖入者が何をしにきたかは把握するのは容易かった。
    「(できればロードが事態を把握する前に片を付けたかったですが……)」
     統弥は隙を探りつつ、残った一般人へ視線を向ける。
     半数は無事逃がせたが、一般人はまだ4人残っている。
     後は戦闘中にどうにか対処するしかないだろう。
    「あぁ、なるほどな。俺のご同類って奴か」
     くつくつと笑い、愉快といった表情を浮かべる。
    「一緒にしないで頂きたいですね。貴方がわたしの同類かと思うと、虫唾が走ります」
     夏渚・旱(無花果・d17596)の丁寧ながら辛らつな言葉に、同意とばかりに那梨・蒼華(蒼氷之華・d19894)が鋭く睨む。
     旱を始め、蒼華や折薔薇は意志と魂の強さで寄生体を捻じ伏せたデモノイドヒューマンだ。
    「小屋に近づいた時から感じていたが、随分と臭いが酷いな……貴様のような最低な者が相手の時は、本当に自分のESPが恨めしいよ」
     ロードの『業』の臭いに、蒼華は整った顔を顰める。
    「おお、言うねぇ。気の強い嬢ちゃんは好きだぜ? 捻じ伏せて心を折って、命乞いさせたくなる」
    「……問答は無用だな。貴様の言葉を聞いていると気分が悪くなる」
     耳障りな下衆の言葉に、蒼華が騎士の如く聖剣を構える。
    「酒で頭が鈍ってたからボクチン負けましたって泣き言ほざくなよ?」
    「あぁ、安心しな。てめえのお陰ですっかり醒めたぜ。礼代わりにてめえは特に念入りに苦しめて、徹底的に嬲り殺しにしてやるよ」
     兎の挑発に答えるように、ロードはその身を巨大なデモノイドの姿へと変じさせ、急激にその戦闘力を上げた。

    ●覚悟
    「人々を悪の道に引きずり込むブラックホールが如き邪悪、たとえ地球が許してもプロキシマ・ケンタウリが見逃さぬのだ!」
     星子が見栄きりと共に宇宙的決めポーズを取る。大スケール。
    「へぇ? 悪事を働く俺へ、裁きを下しにきた正義の味方、って奴か?」
     冗談めかせて言うが、ロードは灼滅者の反応を見ている。
     質問の意図は見え透いていた。
    「魂胆が見え透いてるね。言っておくけどそこの彼らを人質にしても無駄だよ」
     予防線を張るべく、折薔薇が告げる。
     殺す覚悟はあっても、殺さずに済めばいい。
     そして折薔薇の言葉へ、邪魔になれば殺す事に躊躇いの無い兎や玉の存在が説得力を持たせる。
    「一般人を逃がしたことで勘違いしていませんか? 戦うのに邪魔ですから追い払っただけですので」
     一般人を逃がすべく行動するつもりなのを悟られないように、旱も言葉を重ねる。
    「あん? なんでぇ、正義だのなんだの、甘っちょろいお題目掲げるヤツならこいつ等にも利用価値もあるんだが……」
     つまらなそうに、竦みあがり動けずに居る手下達へ、目を向ける。
     だがニヤリと笑い、蒼い毛に覆われた目を灼滅者へ向ける。
    「……試させて貰うぜぇっ!」
     へたり込む男の体を掴み上げ、折薔薇目掛けて投げ飛ばす。
     驚きつつも迷わずそれを回避すると、男は木の壁へ叩きつけられる。
     壁自体の耐久性が低かったために衝撃は軽減されたものの、代わりに砕けた木片が男の体に突き刺さり、無残な有様になっている。
     ぐったりとした姿からは、生死は分からない。
     避けた折薔薇含め、出来る限り助けようと動いていた灼滅者は、僅かながらその光景に心が揺らぐ。
    「(ここで動揺したり助けようとすれば、相手の思うツボ……)」
     しかしこれくらいは予想していたこと。
     灼滅者達は努めて平静な顔を作る。
    「……それで動揺を誘う気か? それなら無駄だ」
     後悔は後回しに、蒼華は気丈に振る舞う。
     自らの手を汚そうとも、ダークネス必滅すべく覚悟は出来ている。
     ロードはその姿を見て、デモノイド姿で器用に口笛を吹きながら心底楽しそうな声をあげる。
    「おー、やるねぇ。どうやら口だけじゃないっぽいな」
     強い覚悟に満ちた瞳でへらへらと笑うロードを見据える。
    「オーケーオーケー、お前ら気に入ったぜ。『目的のためには犠牲を払う事も厭わない』」
     蒼華や、兎や折薔薇へ視線向ける。
    「あるいは、『アイツは悪人だから犠牲になっても構わない』」
     そして今度は玉を見ながら。
    「やっぱ同類だよ、俺とお前ら」
     くっくっと心底愉しそうに嗤う。
    「だぁが……そうでもないヤツも居るみたいだなぁ!」
     ロードと少し離れた手下を遮るように位置取っていたエリザベスへ、腕を向けて抜き撃ちのように放つ。
     エリザベスは避けることもできず……いや、わかっていて避けようとしない。
     避ければ、背後の一般人に当たってしまうからだ。
    「『熾』!」
     そこへ折薔薇のビハインド『熾』が割って入り、庇う。
     一般人を守ろうとする事を利用されれば危険だが、仲間が傷つくのは看過できない。
    「はーはっはっはッ! 庇い庇われ、お涙頂戴友情パワーってか? いいねいいねぇ、そういうのをぶち壊す瞬間の楽しさったらねえぜ? 最高に『悪』ってヤツだッ!」
     傷つく姿を見て、高らかな哄笑を上げ、心底愉しそうにロードは笑う。
    「本当に下衆ですね、貴方は」
     統弥は思わず愛剣の柄を握り締めながら呟く。
     表情も口調も冷静なだが、その心は怒りで燃え滾っている。
     旱は隙を見て、近くに居た男の体を掴む。
    「邪魔なのでさっさと消えて下さい」
     そしてその痩躯に不釣合いな怪力を発揮して外へ放り出す。
     早く追い払わなければ、悪戯に傷を増やすことになる。

    ●格差
     利用されはしたものの、灼滅者の近くの一般人が旱や統弥によって戦場外へ放りだされた後は、戦況は一気に変わる。
    「ちっ、さっきから当たりが悪ィ……!」
     ロードは蒼い巨腕を振るうもどれもカス当たりだ。
     地力には明確な差があるはずなのに、動きを見切られている。
     最も得意とする攻撃を完璧に封じられ、焦りが生まれる。
    「貴方は許しません。絶対に」
     そんな状況で統弥のフェイントを交え、狙い澄まされた攻撃に対処できるはずもなく。
    「『戻れ』、てめえらッ!」
     苦し紛れに、外の手下へ新たな命令を下す。
     だが最初にロード自身が命じた『動くな』という指示に従うようにへたり込んだままだ。
    「無駄だよ。どんな命令も聞こえなきゃ意味が無い」
     玉によって、戦場内の音は遮断されているのだ。
     彼らへの情けなどではなく、邪魔されない為と、仲間の意志の尊重として。
    「以前戦ったデモノイドロードと比べれば、キミは雑魚だね」
     折薔薇は闇堕ちしたデモノイドヒューマンを思い出す。
     このロードの行動パターンは刹那的でその場その場を凌ぐのみ。
     まるで実戦慣れしていない。
    「要するに貴方は悪を言い訳にして格下相手にしか力を振るえないだけの臆病者な訳ですね。悪が聞いて呆れて果ててします」
     旱の言葉は丁寧ながら鋭く辛らつであり、ロードの精神を抉る。
     確かにデモノイドの膂力は脅威的だ。
     だがそんなものは、灼滅者にとって当然のこと。
    「貴様は私達を同類と言ったが、再度否定しよう。常に強大な敵へ立ち向かう私達とは、決定的に違う」
     蒼華がロードの身体を赤き逆十字を刻み込む。
     追従するようにUFOっぽい光輪が身を刻み、高い魔法力が痛烈なダメージを与える。
    「所詮汝は地球規模。プロキシマ・ケンタウリに選ばれし我と戦うには4.2光年早い」
     舞い戻ったUFOスラッシャー(仮称)を手に浮かべ、星子は威風堂々と告げる。
    「そいつはツッコミ待ちかっていうかツッコミどころ多いんだよお前の存在自体よぉ!」
     ちなみに光年は距離である。
    「これなら効きそうだな!」
     叫ぶロードへ、兎の注射針が、デモノイドの腕へ突き刺しワクチンを流し込む。
    「ぐっ、ぅ……くそ、が……っ!」
     灼滅者にとっては癒しの薬でも、闇へ身を落とした者にとっては劇薬となる。
    「恐怖で他者を支配するのはお前ばかりではないぞ、ダークネス」
     エリザベスのマスク越しの視線に、ロードは一歩後ずさりたじろぐ。
     理解の外の、宇宙的恐怖。
    「……人質にならなくても、盾には!」
     追い詰められたロードは、ロードの近くに残っていた最後の手下をむんずと掴み上げ、己が身を護る盾とする。
    「邪魔になるなら……殺す」
     玉は止まらない。
     盾にされた手下ごとダークネスを討とうと、更に踏み込む。
    「仮にもヒーローを名乗っているのだ……―――」
     だがそこへ、小さな影が飛び込む。
    「―――悪人といえど、死なせるつもりはない」
     黒猫エリザベスが持つ、二柱の猫神の名を冠した『爪』より放たれた弾丸。
     それはまるで吸い込まれるように軌道を変え、男を掴むロードの手に命中する。
    「んなっ!?」
     衝撃にたまらず手放すと、男は地に倒れこむ。
     そして玉の狙いは元よりロードである。
     男の体を飛び越え、その勢いのまま『盾』を失って無防備な隙が生まれたロードへ、その拳を叩き込む。
     躊躇わずに踏み込んだ玉と、正確に撃ち抜いたエリザベスの、即興だが見事なコンビネーションとなる。
    「エリザベスよ、汝は実に宇宙規模なのだ」
     同じヒーローとして、褒め称える。
     星子も狙っていたが、スナイパーとして狙えたからこその芸当だ。
    「なれば我も宇宙規模の一撃を持ってトドメとしよう!」
     星子は馬の蹴りが如きご当地キック、『ケンタウル・ソバット』でフィニッシュを決める。
     デモノイドロードの体がドロドロと腐り、後もなく消滅した。
    「終わった終わった……さっさと帰るか」
     兎は残った男達には興味なさげに、山小屋を後にする。
    「生き残りへの対応は興味のある人に任せるよ」
     玉もまた、兎の後に続く。
     彼らが生き残ろうと、罪を償おうと償わなかろうと、興味は無い。
     彼らが犯した罪は永遠に残り、奪った物は永遠に帰らないのだから。

    ●救命
     ロードの灼滅を確認した後、最初に投げ飛ばされて倒れた男へ、折薔薇が駆け寄る。
    「……っ!」
     その無残な傷に、後悔の念が押し寄せ目頭が熱くなる。
    「まだ死んでません。息はあるみたいです」
     旱が生存を確認する。
     無論このまま放って置けば危険であり、この山奥から病院に運ぶのでは到底間に合わないが。
    「ヒールサイキックを使えば傷を塞ぐことはできます」
     灼滅者には、それを跳ね除け救う力がある。
    「まずは木片を取り除いたほうが良さそうだね。僕がやるよ」
     年下の女の子である旱や(そう見える)折薔薇に代わり、統弥が目に見える範囲の木片を取り除く。
     ロードが飲んでいた酒を消毒に使いつつ、出来る限りの木片は取り除けた。
     旱が縛霊手をかざして癒しの光で照らせすと男の傷は見る見る塞がっていく。
    「これで一命は取りとめたのではないでしょうか」
     旱の言葉に、折薔薇は心から喜ぶ。
     死者がでてもおかしくなかった。だが運命が味方した。
    「街までは我が運ぼう。これもプロキシマ・ケンタウリに選ばれしヒーローの勤め」
     星子が怪力無双を発揮し、男の体を抱える。
    「逃げなかったのは褒めておこう」
     エリザベスはそれを見届けた後、残っていた男達へつかつかと歩み寄り、男の胸倉を掴み上げる。
     中学生の少女と大の男では体格差があるが、灼滅者と一般人の力の差は歴然だ。
    「次はないぞ。足を洗い、罪を償って生きるが良い」
     エリザベスの脅しを込めた言葉に、男はぼろぼろと泣き出す。
     しかし怯えからではなく、『ありがとう』と何度も口にしながら頷く。
     よほど解放された喜びが大きかったようだ。
    「貴方達には警察に行って然るべき裁きを受けて貰います」
     警察へ連絡した旱が、告げる。
    「ああ、勿論……ありがとう……本当にありがとう」
     男達は迷惑なくらい、街の警察所へ出頭して別れる際まで、灼滅者へ礼を言い続けた。

    作者:白黒茶猫 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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