さっぽろ雪まつりゲルマン化計画!

    作者:海あゆめ


     北海道札幌市、さっぽろ雪まつり開催予定地、大通公園にて。
    「……っ、さ、寒いわね」
    「コチラヲ、レディ・マリリンサマ」
    「アラ、ありがとう、坊や」
     部下の屈強なドイツ人男性に、ふわふわな毛皮のコートを着せてもらった、レディ・マリリンが、寒空の下、凍えていた。
     真冬の北海道の夜の気温は氷点下を軽く超える。冷たい風が吹き抜けていく中、レディ・マリリンは白い息を吐きながら辺りを見回した。
    「フフ、これが例の市民雪像ね……」
     作りかけの雪像にそっと手を触れて、レディ・マリリンは艶やかに笑う。
    「さあ、坊や達、やるわよ!」
    「「カシコマリマシタ!!」」
     ピシっと振るわれた鞭の号令と共に、男達が動き出す。
     あっちの雪像にはビールジョッキを持たせ、こっちの雪像にはソーセージとザワークラウトを添えていく。
    「ああっ、感じる、感じるわ! ゲルマンパワーが満ちていく……!」
     恍惚とした表情で、ふるふると身を震わせた後、レディ・マリリンは着ていた毛皮のコートを勢いよく脱ぎ捨てた。
    「そう、すべてはゲルマンシャーク様のため! オーッホッホッホッホ!! ……っ、くぅぅっ、さっ、寒いわ……!」
    「レディ・マリリンサマ!」
    「オキヲタシカニ!!」
     大丈夫なのかと思ったら、やっぱり駄目だったらしい。震えながら風に飛ばされたコートを拾いに走ったレディ・マリリンの後を、屈強なドイツ人男性達も慌てて追う。

     これが、何を隠そう、さっぽろ雪まつりゲルマン化計画の第一歩なのである……。


    「あ~ん! けいってばナイス読みっ!!」
    「はっはっは、スイ子嬢に喜んでもらえて光栄だよ」
    「……何だ、この状況」
     思いっきり飛びついてくる、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)を、紳士的に笑って受け止める、古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)。何がなんだか、見えない話に、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)は、ぽかんと首を傾げた。
    「ほらぁ、コロ夫もぼんやりしてらんないよ? さっぽろ雪まつりがゲルマン化の危機なんだから」

     どうも、今年のさっぽろ雪まつりが怪しい気がする。そんなけいからの報告を受け、スイ子が調べてみた結果、明らかになった事実。
     それが、さっぽろ雪まつりゲルマン化計画だった。
    「しかも、計画の指揮は、あのレディ・マリリンがとってるみたい」
    「はぁ、寒い中ご苦労なこったな」
     面倒な事になったと言わんばかりに、香蕗は盛大にため息をつく。

     阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリンは、ゲルマンシャークのゲルマンパワーで大幅にパワーアップしている。彼女を相手にするとなると、相当な危険を伴うことになるだろう。
    「ま、そんなこんなだから、今回は計画を阻止する事が第一だね! レディ・マリリンはね、さっぽろ雪まつりの市民雪像をゲルマンっぽく改造して、会場をゲルマンパワーで満たそうとしてるみたいなの」
     そうして、そこから発生するゲルマンパワーでさっぽろ雪まつりを乗っ取ろう! というのが、レディ・マリリンの魂胆らしい。
     さっぽろ雪まつりがゲルマン化してしまえば、帯広市のグリュック王国跡地に安置されているゲルマンシャークへと、大量のゲルマンパワーが送られてしまう。
     それは、なんとしてでも避けたい事態だ。
    「今回は雪像さえ守れれば何とかなるから、レディ・マリリンの事は無理に相手にしなくてもいいと思う。レディ・マリリンも、部下がいなくなれば、さっさと逃げてくみたいだし」
     事実上、計画の実行犯となるレディ・マリリンの部下は5名。いずれも屈強なドイツ人男性の強化一般人で、倒してしまえば元に戻せるとのことである。

    「はい、じゃあ、もう一回確認! 今回は、雪像を守ってさっぽろ雪まつりのゲルマン化を阻止できればオッケー! 無理にレディ・マリリンに挑んだら、どうなっちゃうかわかんないよ! みんな、寒いとこでの任務になるけど、がんばって!」
    「おう! 作りかけの雪像に手ぇ出すってのも許せねぇしな!」
    「スイ子嬢の期待に応えられるよう、全力を尽くすよ」
     集まった灼滅者達を送り出すスイ子の言葉に、香蕗は気合を入れて、けいは薄く微笑んで頷いてみせた。

     さっぽろ雪まつりゲルマン化計画阻止作戦、開始である。


    参加者
    古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)
    領史・洵哉(和気致祥・d02690)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    リタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)
    夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)
    如月・花鶏(フラッパー・d13611)
    ライン・ルーイゲン(フェルトロイムト・d16171)

    ■リプレイ


     北海道は札幌市。真夜中の大通公園は、さすがにこの季節、この時間に外を出歩いている人の姿はほとんどいない。昼間の街の喧騒を忘れたように静まる夜空の下、吹きすさぶ冷たい風の音が妙に冴える。
    「仲間を救いに何度か来たけど、冬の北海道の寒さは凄いね」
    「そうですね。こんな寒い中でもお祭が出来る札幌の人は凄いです」
     感心したように言って白い息を吐く、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)に、領史・洵哉(和気致祥・d02690)も思わず口を揃えた。
     白く固まった道。道路を圧迫する雪の山。そして、公園の敷地内には、まるでビルか何かが建つのではないかと思うほど大掛かりな足場が組まれている。
    「すごい……雪像も、完成したらとても大きなものになりそうですね」
     ふと見上げて、ライン・ルーイゲン(フェルトロイムト・d16171)は感嘆の声を漏らした。そう、この工事中の建物のようなものは、雪像なのだ。しかも、ひとつだけではない。
     こんな大きな雪像がいくつも並ぶ会場だ。大通公園は、思いのほか広かった。東京と比べると本当に同じ日本なのかと疑いたくなるほどの寒さと雪の道を、ただひたすら進んでいく。
     やっとのことで公園の敷地の終りが見えてきた頃、灼滅者達はその光景を目撃した。
    「さあ、ワタクシの可愛い坊や達!」
    「「レディ・マリリンサマ!!」」
     作りかけの市民雪像が並ぶ前で、何やら騒がしい集団がいるではないか。
    「この市民雪像達をもっとステキにしてしまいなさい!」
    「「カシコマリマシタ!!」」
     間違いない。レディ・マリリンと、彼女の配下として操られているドイツ人男性達だ。
     ピシャリと響いた鞭の音に、男達は敬礼をしてみせると、その手に大量のソーセージやザワークラウトを掴み、雪像へと近づいていく。
     灼滅者達は、走り出していた。
     急がねば。早く彼らを止めなければ、いたいけな市民雪像がゲルマン風味に変えられてしまう。
    「っ!? 待ちなさい、坊や達!」
     駆けつけてくる灼滅者達に、レディ・マリリンも気がついたようだった。従えていた屈強なドイツ人男性達をいったん制し、余裕の表情でこちらを見下ろすポーズを決める。
    「フフッ、何かご用かしら? もしかして、このワタクシの邪魔をし……」
    「日本のご当地行事をゲルマン行事に変えようだなんて、そんな事させませんわよ!」
    「神聖な雪まつりは絶対に守り通すのですぅ!」
     まだ何かを言いかけていたレディ・マリリンの右側を、閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)が。その反対側を、ライドキャリバーに跨った、夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)が、風を切って通り過ぎていく。
     今日の灼滅者達の目的は、雪像をゲルマン化から守ること。言ってしまえば、命令だけして何もしない様子のレディ・マリリンに用は無い。
    「レディ・マリリンサマ!」
    「ゴメイレイヲー!」
     律儀に最新の命令を守って待機していたドイツ人男性達は、攻め込んでくる灼滅者達になす術もなく、皆揃って情けない声を上げた。
    「ちょ、ちょっと……」
     ぽつん、と一人寂しそうなレディ・マリリン。見かねた、古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)が、彼女の前で恭しく一礼してみせる。
    「御機嫌よう、緑のお嬢さん。嗚呼、恐れ入るが今日はダンスのお誘いはできないのだよ」
    「え、あ、そ、そうなの……フ、フン、まあ、いいわ」
     思いっきり出鼻を挫かれて、さすがに少し気まずかったらしい。レディ・マリリンはいそいそと髪や毛皮のコートの襟を整えながら、わざとらしく咳払いを繰り返した。
    「フフ、そういうこと……つまり! このワタクシが手を下すまでもないということね!」
     恐ろしく早い立ち直り。どうしてそういう結論になったのか。よく分からないが、余裕の笑みを取り戻したレディ・マリリンは、再び見下しのポーズを決めると、羽織っていた毛皮のコートを勢いよく脱ぎ捨てた。
    「脱いじゃったよ!!」
     普段は真顔でボケる、リタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)も、この時ばかりは盛大にツッコんだ。こんな寒空の下、きわっきわのレオタード姿になるなんて、まったくもって、やっていることが若手芸人のそれである。
    「さあっ! 坊や達! やっておしまいなさい!!」
    「「カシコマリマシタ!!」」
     やっと下された命令に、ドイツ人男性達も水を得た魚のように動き出す。
    「お祭は邪魔させない! 八百万の神様に代わっておしおき……へくちっ! あーもうっ! マリリン見てたら寒くなってきた!」
     薄ら寒いレディ・マリリンの格好に、思わずくしゃみを漏らしつつも、如月・花鶏(フラッパー・d13611)は、愛用のロッド、黄泉戸喫を携え、雪の地面を蹴った。
     さっぽろ雪まつりゲルマン化計画防衛線、開始である。


    「ヌゥゥゥンッ!!」
    「……っ! 洵哉さん!」
    「ラインさん、後ろへ!」
     ムキムキの腕を振り上げて突進してきたドイツ人男性からラインを庇うように前へと出た洵哉は守りを固めた。
    「絶対に、ここは通しませんよ」
     弾いて、洵哉はラインを背に庇いながら構えを落とす。
    「シャル、Gehen Sie!」
     ラインもただ守られているばかりではない。敵が次の動きを見せるその前にナノナノのシャルを向かわせ、自らも手にした札に念を込めた。
     彼女の札に書かれたオペラの詩。透き通ったソプラノと共に宙を舞った札は、洵哉の守りを更に強化する。
    「札幌の地はゆみかが守るですぅ!」
     激しい銃声を轟かせるライドキャリバー。跨ったまま、ゆみかは腕に装着したバベルブレイカーを真っ直ぐに構える。
    「行きますよぅ!」
    「グアーッ!!」
     インパクトの瞬間、ドイツ人男性は堪らず吹っ飛んでいく。
    「ムゥゥゥンッ!!」
     それでも息つく暇もない。別の方向からも新手のドイツ人男性がやってくる。しかも、その手にはドイツ名物ソーセージとザワークラウトがしっかりと握られているではないか。
    「待て、待て! 雪像はソーセージとザワークラウト用の冷凍庫じゃないぞ!?」
     遠心力に任せ、漫才用のスタンドマイクの形をしたハンマーを振り抜くリタ。対して、ビハインドの高崎は、それもどうかと思う、と言うように、ゆるゆると首を横に振った。
     ちぐはぐな二人だが、何の合図も無しに繰り出されるコンビネーションは実に鮮やか。まるでテンポの良い漫才の掛け合いのような連携で立ち回っている。
    「ヌアアァァッ!!」
    「あーっ、寒いっ! 寒いよ寒いっ!!」
     立ち向かってきたドイツ人男性を、花鶏は手にした黄泉戸喫で思い切り殴打し、打ち上げた。
     激しく巻き起こる風の中、素早く跳ねた花鶏はそのままドイツ人男性を真下へと叩きつける。
    「オウッ!!」
     ドイツ人男性が、変な声を上げて顔面から落ちた。
    「……ッ、ゲ、ゲルマーン」
    「セツゾウ、ゲルマン、スルー」
     だが、彼らはレディ・マリリンによって強化された一般人。これが結構しぶとかった。
    「うわーげるまんぱわーおそるべし。はいかもてごわいなんて」
     清々しい棒読みで呟いて、いろはは雪像に近づこうとしていたドイツ人男性の懐に潜り込み、低い姿勢から鋭く掌底を突き出した。
     さすがに五人ものドイツ人男性達に一斉に動かれると、対処が厳しい。ここは守り専門の壁役を立てるのが好ましいのだが……。
     くるりとある方向に振り返って、いろはは小首を傾げてみせる。
    「香蕗、雪像の守り、そっちに任せてもいい?」
    「おう、任せろ! っしゃ! 来い! こっちだ!!」
     ドイツ人男性達を引きつけるように、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)は声を張り上げた。
    「ヤッチマエーー!」
    「ゲルマーーン!!」
     何人かのドイツ人男性達が、ソーセージやザワークラウトを手に香蕗の方へ向かって駆け出していく。
    「まったく、あのマリモババ……レディ・マリリンとやら、寒い中御苦労な事だな」
    「ああ、俺もあのマリモババアには随分と世話になった事だし、今日は存分に邪魔をさせてもらおうか」
     と、そこへ、近くで待機していた里桜と威司も飛び出していく。
     さっぽろ雪まつりゲルマン化計画フラグをへし折って、レディ・マリリンに一泡吹かせてやろうと集まった灼滅者達の援軍が到着したのだ。
    「このヤロー! 俺の故郷でなにしてくれてやがるんだ!!」
     ソーセージとザワークラウトを手にしたドイツ人男性に、誠が飛び掛り。
    「ヌゥゥッ! ゲルマーン!!」
    「なんの! さっぽろ!!」
     ビールジョッキを片手に走ってきたドイツ人男性には、ウサギが牛乳瓶を差し出しながら対抗して必死に抑える。
    「コレガ、ゲルマンノチカラーッ!」
    「緑山さん、危ない!」
    「っ、悪ぃ!」
     ザワークラウトを手に振り被った男の腕を、レイラが止めた。庇われるような形になってしまったことに軽く詫びて、香蕗はレイラと競り合っている男の体に拳を入れた。
     頭上から、男が握っていたザワークラウトがべっちゃり降ってくる。
    「フォローは、任せて下さい」
     側にいた紫桜里が、すぐさま回復を展開する。
     市民雪像際の戦線は、もはや混戦状態。ザワークラウトまみれになって息も絶え絶えな香蕗に、遥香は心配そうに首を傾げてみせた。
    「……んー。大丈夫ですか。コロちゃん先輩。ちゃんと生きてますか?」
    「ああ、何とか、な」
    「本当に大丈夫か? ったく、大体あんな奴らがいるからドイツが勘違いされるんだ」
    「……とりあえず、落ち着け。……サポートは任せろ」
    「おう、頼りにしてるぜ!」
     ジョシュアに志命、心強いクラスメイトの助けも借りて、香蕗はもうひと踏ん張り、市民雪像の前に立った。
     体を張った、ある意味無謀とも言えるこの作戦。
    「……っ、だ、ダメだ……芸人魂が抑えられないっ!」
     こんな美味しいシチュエーション、彼女が黙ってみていられるはずもなかった。リタは慌てる高崎の制止を振り切って、自らも市民雪像の前に立つ。
    「ゲルマーーン!」
     ここまでいったらお約束。リタにも容赦のないザワークラウトの嵐が降り注いだ。
    「フフフ、ワタクシの坊や達はタフでしょう?」
     思いのほか苦戦を強いられている灼滅者達を眺めつつ、レディ・マリリンは余裕の笑顔で高みの見物を決め込んでいる。
    「むむぅ、あのおばさん、むかつくんですけどいまのゆみか達じゃかなわないのですぅ」
    「それじゃあ……」
     ちらりと視線を交わしたゆみかと寛子が、悪戯っぽく笑って頷き合った。
    「兵糧攻めですぅ!」
    「食べ尽くすの!」
     ドイツ人男性達が持っている、ソーセージやらザワークラウトやらを食べつくそうと、ふたりは今まさに雪像を汚そうとしていた男に襲い掛かる。
    「ヒエェェッ!?」
     予想外の攻め方をされて、逃げ惑う男の足が、何かを蹴飛ばし、破壊した。
     ま、まさか……!
    「……っ、なんてことっ! わ、わたしの可愛い雪だるまさんを……!」
    「水瀬先輩、落ち着け。また作ればいいだろう」
     ギギギ、と恨めしそうな目をするゆまを、空樹が宥める。
     申し訳ないが、よかった。壊されたのは市民雪像ではなかった。
    「や、作っちゃ駄目でしょ……あれ? そういやジーニ君は……って、何やってんのあのコーーー!!」
     自由すぎるクラブの仲間達。もう一人の姿が見えない事に気がついて、辺りを見回した律は戦慄した。
     そのもう一人が、なぜかレディ・マリリンと何かを話しているではないか。
    「マリリンさん、毬藻アクセ可愛いね♪」
    「フフ、分かってるじゃない、坊や」
    「でも駄目だよ! 毬藻好きならこれくらいで寒がっちゃ……」
    「すんません! まりも好きの子供がやったことなんで!」
     光の速さで現れた律が、ジーニの首根っこを捕まえ、光の速さで去っていく。
    「……ねー、まこっちゃん、雪像作りって抽選で当たった人じゃないとダメなのう?」
    「ああ、残念ながらな……来年、チャレンジしてみようぜ」
     雪像を羨ましがる迦南の頭に、ぽん、と手を置いて、真言は戦いに立ち回る仲間達を見やった。
    「頑張れ。古城、如月」
     応援に駆けつけてくれた仲間がいる。信じてくれている仲間がいる。向けられていた視線に意味ありげな笑みを返して、けいは足元に飛ばされてきた毛皮のコートを拾い上げる。
    「っと、見失う前に捕まえられて良かった。さあ、肩を、緑のお嬢さん」
    「アラ、ありがとう。フフ、アナタ達もなかなかやるじゃない?」
     相も変わらず、レディ・マリリンは戦う素振りを見せない。余裕の笑みが、灼滅者達の戦いぶりをじっと見つめてくる。
    「一体、何のつもりなのでしょう。なんでもかんでもゲルマン化だなんて……ゲルマンシャークに力を送る以外にもなにか目的があるのですかしら……?」
    「どうだろう……でも、なんか嫌な感じだよね」
     声をひそめ、訝しげに首を傾げるクリスティーナに、花鶏も何だか居心地が悪そうに眉を寄せてみせた。
     レディ・マリリンは何かを企んでいるのだろうか。色々な懸念や憶測はあるが、今は、やるべきことをやらなければ。
     灼滅者達は、戦いに意識を戻す。
    「やれやれ、ゲルマン化はずいぶん節操がないとは思ってはいたが、まさか雪まつりにまで手を出すとはね。だが……運が無かったね?」
     向かってくるドイツ人男性に構えた剣の切っ先を向け、けいは笑った。
     とにかくまずは、彼らを、正気に戻してあげなければ……。


     レディ・マリリンの配下であるドイツ人男性達も、もうだいぶ消耗してきている頃だろう。
    「シャル! Bitte!」
    「みんなっ、あと少し! 頑張って!」
     ナノナノと共に回復を展開させたラインに続いて、花鶏も仲間達の戦線を支えた。
     このまま押し切れば勝てる。灼滅者達は、残った力を振り切るよう、一気に畳み掛けていく。
    「まだまだ!」
     雪やらザワークラウトやらに塗れたリタも、マイク型のハンマーを根限りの力で大きく振るった。
    「申し訳ないがお嬢さん以外と踊る気はないんだ……その辺で仮眠でも取っててくれ」
     剣を低く構え、けいは風のように戦線を斬る。
    「さぁ! 受けてみよなのですぅ!!」
     ライドキャリバーのシートの上の踏み切ったゆみかが、高い位置から蹴りの姿勢でドイツ人男性目掛けて突っ込んでいく。
    「いきますわよ! スノーグレイル・ダイナミック!!」
     ドイツ人男性の頭を股の間に挟み込み、そのまま地面へと叩きつけるように着地するクリスティーナ。女の子がやるには少々えげつないことに定評があるペディグリーが炸裂した。
    「グフッ、ゲルマン……ッ!」
     ぶっ倒れたドイツ人男性も、そこはかとなく嬉しそうである。
    「寒い中、お疲れ様でした」
     シールドを前に構え、体ごと激しくぶつかっていった洵哉は、ずるりと力なくその場に崩れたドイツ人男性を労った。
    「これで終りだよ」
     ふっ、と前のめりになるような格好で距離を詰めたいろはが、引き抜いた鞘で当て身を打つ。
     散々踏み固められた雪の地面に倒れる五人のドイツ人男性達。
    「……フン、やるじゃない。どうやら今日はここまでのようね」
     途端につまらなさそうな顔になるレディ・マリリン。そんな彼女を、洵哉は真っ直ぐに見据えた。
    「これでひとつ、借りを返しましたよ」
    「そのうちまたお返しするわ。せいぜい楽しみに待っていなさい! 全ては! ゲルマンシャーク様のため……! オーッホッホッホッホ!!」
     高く笑い、毛皮のコートを翻して、レディ・マリリンは去っていった。
    「終わったか……雪像は無事、だな」
     確認しながら、香蕗は盛大にため息を漏らして屈み込む。さすがにずっと体を張っていたのが堪えたらしい。
    「よく耐えてくれたね。お疲れ様」
    「あっ、ねえねえ、ラーメンでも食べに行こっか! まだお店やってるかなぁ……」
     ぐったりする香蕗をけいが労い、花鶏は携帯電話を取り出してすぐに入れそうなお店を調べ始めた。
     疲れもあるが、とにかく寒い。倒れていたドイツ人男性達も、あまりの寒さに目を覚ましたようだった。彼らの事は、このまま放っておいても大丈夫そうである。
     こうして、何とか雪像を守り切り、さっぽろ雪まつりゲルマン化計画の阻止に成功した灼滅者達。
    「ってか、こういう祭りに呼ばれてネタやるのってギャラ良いらしいんだよな……」
     髪の端に引っ付いてたザワークラウトを摘んで取りながら、心なしか目を輝かせているリタに、ビハインドの高崎も、こくりと頷いてみせる。
    「今度は、きちんとお祭りの最中に来てみたいですね」
    「そうですね」
     ふわりと僅かに口元を緩めて言うラインに、洵哉が穏やかな笑みを返した。
     今年のさっぽろ雪まつりは、これで無事に開催される事になるだろう。一時の安らぎにほっと胸を撫で下ろすも、灼滅者達にはまだまだ解せないものもある。
    「ゲルマンシャーク一味……よくも神聖な北海道を汚してくれましたねぇ! この借りはいつか必ず返すのですぅ!」
     東の空に向かって叫ぶゆみか。その方向には、ゲルマンシャークの本拠地、グリュック王国がある。
    「あのベルリンの壁だって崩壊したんだ。グリュック王国も絶対に……」
     誓いを胸に、いろはは胸の前で握った手に力を込めた。

     レディ・マリリン、グリュック王国、そしてゲルマンシャーク……決着を着けられる日が、いつか必ず、やってくるはずである。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 14
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