飾り珠のスサノオ~雪ん子~

    作者:相原あきと

     東北のとある雪山。そこは昔から『雪ん子』の伝説があった。
     山の中腹にある山小屋では『雪ん子』を奉る石碑があり、山小屋で休憩する登山者は、登頂の無事をその石碑に祈るのがならわしだった。
     もっとも最近は「素人でも登頂しやすい雪山」として有名になっており、山小屋を訪れる客も昔と違ってマナーの悪い者もやってくるようになって山小屋を管理している老夫婦は困っているとの噂もあるのだが……。
     さて、その雪山に猛吹雪が襲ったとある夜――。
     ぴったりと戸と窓を締めて吹雪に耐える山小屋の前に、1匹のオオカミが現れる。まるで吹雪を意に介さないそのオオカミは、日本狼を一回り大きくしたような体躯であり、特徴的なのは左右のもみ上げ部分の毛が長く、途中に飾り珠がついていた。
     そのオオカミ――飾り珠のスサノオは、吹雪の音に負けぬ声で数回遠吠えを行い、そのまま何事も無かったように吹雪の中へと姿を消していった……そして――。
     サクサクサク……。
     吹雪の中、山小屋の前に青白い長髪の女の子が現れる。白い着物を着て吹雪をものともせず、逆に吹雪と一緒に踊って遊び出す。
     少女の足は細い鎖のようなもので大地へと繋がっていたが、それ以外の外見はまさに――伝説の『雪ん子』であった。

    「みんな、スサノオについては勉強してある?」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)がみなを見回しながら質問する。
    「実は、スサノオによって古の畏れが生み出された場所が判明したの。今はまだ被害は出てないけど、放っておけば一般人に被害が出るわ。だからみんなにはその古の畏れをなんとかして欲しいの」
     珠希が言うには、とある雪山の中腹にある山小屋付近で古の畏れが生まれたらしい。それは『雪ん子』――その雪山に伝わる伝説。
    「雪ん子って言えば、子供のいない老夫婦の為に冬の間だけ現れる子供……とか、そんな伝説だった気がするけど……」
     その古の畏れを放置した場合、山小屋にやってくる登山者を無差別に殺してしまうと言う。
    「みんなが到着するのは夜の24時、しかもどんな早くても山の麓が良いところよ」
     つまり、山の麓から中腹の山小屋まで登山の必要があるらしい。
     しかも登り初めて少し経つと天気が崩れ、吹雪が吹き始めるらしい。夜の登山と吹雪の対策を怠れば山小屋に到着するのは相当な時間を使うことになるだろう。
     もちろん、夜が明けるのを待って朝から登頂を開始すれば何も問題は無い。天気も良いと言う。初心者にも紹介される雪山なのだ、昼間で天気が良ければなんとかなる。
     珠希はそこまで説明すると、一応言っておくわね、と前置きし。
    「みなが山の麓に到着するより少し前に、すでに6人グループのプロの登山チームが出発しているの……彼らが山小屋に到着するのはちょうど朝日が登った少し後だから……」
     練習のつもりで登った山で、プロの登山家チームは古の畏れによって命を落とすことになる。灼滅者達が朝になってから登山したのでは彼らは助からない。
     しっかり準備をして夜の雪山登山を慣行すれば、途中でプロの登山家チームを追い抜くことも可能だろうが、それを行うかは灼滅者次第だ。
    「その現れる古の畏れ、雪ん子なんだけど……まるで山小屋を守るように襲ってくるわ。どうしてなのかはわからないけど……残念ながら説得が効く相手でも無いから可哀想に思えるけど、灼滅してあげて」
     珠希は一度目を閉じてから、きっぱりとそう言った。
     雪ん子は霊力やオーラがかなり高いらしい。使ってくるサイキックは氷柱を作り出して射撃してくるらしい、近いのは妖の槍だが、その全ての射程が遠くまで届き、また周囲にいる者全てを攻撃すると言う。
     また、戦闘になると雪ん子の近くに小さな雪だるまの護衛が3体現れる。こちらはどれも咎人の大鎌に似たサイキックを使い、3体とも闘気に満ちている。
     雪ん子は妨害が得意であり、雪だるま3体は盾役・妨害役・回復役となって戦闘に加わるらしい。
    「今回の事件を起こしたスサノオなんだけど、まだ行方を予知できそうにないの……でも、そのスサノオが起こした事件を1つずつ解決していけば、きっと元凶のスサノオにたどり着けると思うわ。だから、今は目の前の事件を解決して欲しいの、お願いね」


    参加者
    篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    黒田・柚琉(紅夜・d02224)
    イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)
    法螺・筑音(出来損ないの大極・d15078)
    焔宮寺・花梨(理数が苦手な焙煎士見習い・d17752)
    久安・雪(灰色に濡れる雪・d20009)
    櫻井・椿(鬼蹴・d21016)

    ■リプレイ


     東北、とある雪山の麓に8人の少年少女が集まっていた。
     時刻は夜の24時、登山客が山へ登る入口なれど、今は人っこ一人いない。
     そんな暗い登山口で8人はガチャガチャと雪山登山の装備を整えていた。
    「ザイルで全員を結ぶが途中から吹雪いて来るらしい、ゴーグルとライトは各自で持っておけ」
     声を出しつつ全員の装備を確認するのは法螺・筑音(出来損ないの大極・d15078)。ハーケンやアイゼンだけではない、ストックや保温水筒、防寒具まで、雪山登山に必要そうなものはほぼ揃えて来た筑音は、軽薄そうな印象とは裏腹に意外と面倒見が良い。
     事実、登山の準備に関してはかなりのメンバーが筑音に任せており、中には初めて見る道具に疑問符を浮かべる者も。
    「これなんなん? どうやって使うん?」
     櫻井・椿(鬼蹴・d21016)が『P』型の金属を手に持ち筑音に聞く。
    「あぁ、そりゃハーケンだな。岩壁や氷壁を登る時に打ち込んで足場にしたりする道具……まぁ、そんな状況あるのか知らねぇが一応ってヤツだ」
     筑音の説明に「へぇ」と感心する椿。
    「スサノオも古の畏れも気になるけど、まずは一般人救出を目的に登山するぜ?」
     そう筑音が言うと、寒冷適応を持っているメンバーを主要に配置した縦一列の順番を指示。テキパキと仲間達も準備を終わらせる。
     もっとも、寒冷適応を持ってきてないメンバーもおり……。
    「こういう日は猫とこたつに居る方がいいのだが」
     腕で身体を抱えるようにブルルと震えるは篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)。
    「まったくや! 寒い飛び越えて痛いっちゅうに!」
     凜の言葉に同じく寒冷適応を持って来ていない椿が同意する。
    「……やっぱり、防寒具を着ても寒いものは寒いよね……」
     そんな2人に余分に持ってきた防寒具を渡すのは黒田・柚琉(紅夜・d02224)。
     ちなみにそんな柚琉は寒冷適応の効果で快適である。
     やがて皆の準備完了を確認した筑音が出発を告げ、8人は雪山を見上げる。
     真っ暗な山はわずかな星明かりの下、うっすらと白さを見せるだけで実物以上の巨大な圧迫感を感じさせる。
    「(少しでも、スサノオの手掛かりが見つかればいいんだけどね……)」
     そして灼滅者達は夜の雪山登山を開始したのだった。

     登り始めから不吉な予兆は出ていた。
     出発時はわずかとはいえ星も見えたのだが、今は暗い雲が頭上を覆っていた。
     ザッ、ザッ、ザッ……規則正しいリズムで一行の先頭を進むのは、灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)だ。
     ライトと暗視装置を駆使し、先行しているという登山チームの足跡を発見してからは、それをトレースしつつ周囲の注意も怠らない。
     すでに積もっている雪道を踏み固めつつ、効率良くラッセル役を務めあげることができるのは過去のたまものだろう。
    「……この固さなら問題ないかな」
     ストックと踏み具合で雪面の安全を確認しつつ、後ろの仲間に合図を送って進んで行く。先頭をフォルケに任せたのは正解だっただろう、このような行軍は体力や知識ではなく経験がものを言うのだ。
     もちろん、誰もがフォルケのように練達なわけでは無い。
    「キャッ!?」
     雪に足を取られて転びそうになり、悲鳴を上げつつぎりぎり耐えたのはイシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)だ。
    「ううう……寒いし、滑りますし、うううう……っ!」
     普段のゴス服は封印だし、転びそうになるし、なにより寒いし……正直テンション大暴落である。
    「吹雪いて来ましたね……」
    「ええ~!?」
     先頭のフォルケが呟き、イシュテム達テンションダウン組が非難を口にする。
     そして……雪山に吹雪が訪れた。

     雪混じりの風は服越しにも身体に痛いほど冷たさをぶつけてくる。
     真っ白に近い悪視界、吹雪の中を8人は進む。
     それでもなんとか進んで行く事ができるのは事前準備の周到さと、普通ではない灼滅者故か……。
     それを最初に見つけたのは焔宮寺・花梨(理数が苦手な焙煎士見習い・d17752)だった。
     時折地図を見ながらナビにつとめていた花梨だが、たまたま顔をあげた時に先に明かりを見つけたのだ。
    「登山チームの方……でしょうか?」
     吹雪の中、安全を確認しつつさらに進み、やがて花梨の言った通り登山チームの6人がいた。最後尾の1人が麓からやってきた8人に気がつき振り返る。
    「ん?」
    「Guten Abend~」
     先頭のフォルケが挨拶し、いったん灼滅者達も登山チームも足を止める。
     登山チームの大人たちは、こんな吹雪の中を学生チームが登ってくるなんて自殺行為だ! と最初こそ説教ムードだったのだが……。
    「うっさいなぁ……ウチらだってプロや!」
     王者の風を使って言う椿の言葉にそれ以上言えなくなる。
     口ごもる登山家たちに対し、助け舟のようにゆっくり説明するのは久安・雪(灰色に濡れる雪・d20009)。
    「済まぬが、ここで少し待っててくれぬか。実はこの先で凶暴な野犬が出たらしくての」
    「は? こんな吹雪の中で野犬なんて」
     疑問を口にする登山家だが。
    「いいから! あんたらはここでビバークしとき」
     有無を言わさぬ椿の言葉に、6人は大人しくビバークの準備を始めたのだった。
     まずは第一目標クリア。あとは……。
     登山家チームを追い抜き灼滅者達は再び吹雪の中、登山を再開する。
     数時間後、夜明けも間近となった頃……目的地の山小屋が見えて来たのだった。


     山小屋の前はある程度の広場となっていた。いや、広場のようになっていた場所に山小屋を建てたのだろう。
     灼滅者達は山小屋を背後に背負うように立ち、そして――。
     ズザ……ザ……。
     吹雪の闇夜から浮き上がるように、真っ白な着物を着た少女――古の畏れ・雪ん子が、3体の小型雪だるまを連れて現れる。
    「元は人に仇為すものではなかったのだろうけど……仕方がないな」
     凜がサウンドシャッターを発動させつつスレイヤーカードを構え。
    「我は刃! 闇を払い、魔を滅する、一振りの剣なり!」
     叫び声と同時、真っ赤なコートを纏い、その手には六尺を超す長大な大太刀を構える。
    「!」
     雪ん子が灼滅者達の殺気に反応し、全てを拒否するような吹雪を放出、さらにそれを援護するように雪だるまの1体も氷を撒き散らす。
     それは自然ならざる吹雪、死を呼ぶ氷雪が夜を埋める白い壁となって灼滅者達へと襲いかかり、前衛の全員を凍て付かせる。
     氷に飲み込まれる灼滅者達。
     だが、そんな白き世界を切り裂く声。
    「死の幕引きこそ唯一の救いや」
    「燃え咲かれ、我が焔!」
     椿と花梨、2人の声と共に夜霧が広がり、立ち上がる力をもたらすメロディが響く。
     灼滅者の身体を凍らす氷がパリパリと時間が巻き戻されるように消えていく。
    「こういう頭使う武器は苦手や……けど、流石にこないな場所で氷漬けは洒落にならんわ」
     白き吹雪が薄れ、そこには護符揃えを扇状に広げた椿がいた。
    「ええ、寒いのは苦手ですが、負けてられませんっ」
     椿の横にはリバイブメロディを奏でた花梨。
     だが、一度は巻き戻されつつあった氷結が、再び灼滅者の身体を凍らせ始める。2人分のキュアでは雪ん子とジャマー雪だるまの氷攻撃を止めるには手が足りなかったのだ。
     その瞬間、即座に舞うは薔薇の花吹雪。
    「そう思い通りになど!」
     それは凜が放った風と化した祝福の言葉。
     そこまでしても、未だしぶとく氷が残るメンバーにはイシュテムの防御符が飛び、灼滅者達を襲った氷の嵐は綺麗さっぱり打ち消されたのだった。
    「寒さなんかに負けませんですよ!」
     イシュテムの言葉に、意味を理解しているのか、それとも放った氷の吹雪を無効化されたからか、雪ん子が不機嫌そうな顔で睨みつけてくる。
     戦いは再びスタートラインへ。
    「さて、始めようかね」
     一歩前へ出るのは柚琉だ。
     魔力を宿した霧を展開させながらゆっくりと雪ん子達へ近づいて行く。
     進んで行く柚琉の斜め後ろを、隙なくフォローするようついて行くのはフォルケだ。
     胸にスペードが浮かび上がるほど魂を闇堕ちへと傾け、一気に攻撃力の強化を図る。
     そして灼滅者達の攻撃が雪ん子達へ……いや、配下の雪だるまの1体へと集中される。
     対する相手も未行動状態だった雪だるま2体がその手に持つ大鎌で斬りつけてくるも、筑音と花梨の霊犬コロが仲間を庇うように立ち塞がり、鎌の刃を受け止める。
     敵のBS【氷】累積戦術に対し、灼滅者側は潤沢な列キュアで対抗する。
     状態は拮抗し、戦いは持久戦の様相を見せ始める。
     盾役の筑音は少しずつ癒え切れぬ傷が増えていくのを感じながらも。
    「攻撃はオレが引き受ける……さあ、根競べといこうじゃねーか」
     先に倒れるのは灼滅者か古の畏れか。
     数度打ち合い灼滅者側の守りが堅いと感じる雪ん子たち。
     次の手は……そう雪ん子が考えた一瞬だった、吹雪の戦場を雪が一気に駆け抜け、妨害役の雪だるまに変異したその鬼の腕を振り下ろす。
    「太古の畏れ、お主らには何の恨みもないが……このまま犠牲を出すわけにはいかぬでな」
     防御を固め、隙を見てカウンターのように攻め込む。
     果たして灼滅者のその作戦は凶と出るか、それとも……――。


     いつの間にか周囲は薄らと明るくなり始めていた。
     それはもうすぐ日が昇る証。
     一方山小屋前での戦いは、すでに雪だるまのうちジャマーとメディックが灼滅者に倒されていた。
     もっとも、灼滅者が受け続ける被害も決して軽くは無い。
     長く戦い続けている分、回復しきれないダメージの蓄積はかなり多い。
     だが、ターニングポイントは思わぬ所だった。
    「いい加減……寒すぎるんじゃー! どっせーいッ!」
     回復役だった椿が得意のきりもみドロップキックで残っていた3体目の雪だるまを直撃、30cm程度の雪だるまは吹き飛ぶと雪原を転がって行く。
     ターニングポイント、それはメディックの2人が回復と共にBS耐性を付与して回った事にある。キュアが足りない分は他の仲間に手伝ってもらい、回復役の2人はBS耐性をバラまく。結果、当初は拮抗していた状態も時間が経つにつれ灼滅者側の有利となっていった。おかげで回復役の椿も時に攻撃に回れるようになったのだ。
     この行動が無ければ、個々人の耐久力が敵より劣る灼滅者達は数人の重傷を覚悟する事になっていただろう。少しずつ、だが確実に優勢になっていく灼滅者達。
    「コナ!?」
     花梨の叫びと共に仲間を庇った霊犬のコナが消えていく。
     序盤の拮抗状態時、盾役として頑張っていた結果だった。
    「回復、行きますの!」
     イシュテムがコナの次に危ないだろう筑音へと防御符を飛ばす。
     その判断は正しい、コナが消えた次は同じ盾役の自分だろうと筑音も考えていたからだ。
     あとは自分と敵と……どちらが先に倒れるか、我慢比べだった。

     その後、攻撃も行いだした椿とイシュテムのおかげもあり、残った雪ん子との戦いも終わりが見えて来ていた。
    「(スサノオが呼び起こす太古の畏れ……昔の伝承や伝説が呼び起こされるとは厄介な物じゃな)」
     雪ん子へ一直線に突っ込むのは妖槍雪風を構えた雪。
     その穂先に風が渦巻き。
    「凍てつく風の刃を――」
     その瞬間、脅威を感じたのか雪ん子が絶叫とも言うべき叫び声をあげる。
     ビリリッと震える空気に雪の手から魔力が零れて風が霧散する。
     咄嗟、雪はタイミングをずらされた風を即座にキャンセル、空いてる手を雪ん子へ向け。
    「轟くがよい、雷鳴よ」
     魔術の雷が雪ん子を焼く。
     煙をあげて倒れそうになる古の畏れ、しかし、ぎりぎりで踏ん張るとさらに大絶叫をあげ、それに呼応するかのごとく氷雪の嵐が戦場を吹き荒れる。
     それは吹雪の中で立つことすら危うい状況、まして敵まで近づくのは――。
     だが、それで諦める灼滅者ではない。
    「cover入ります……」
     雪ん子の側面からフォルケが牽制射撃を行うと、気を取られたのか吹き荒れていた吹雪が一瞬だけ止む。
     その刹那の隙を見逃さず、一気に雪ん子の元まで駆け抜けたのは2人、凜と柚琉。
     炎の翼を広げるように敵へと接敵した凜は、その大太刀に炎を乗せて。
     日本刀紅雫を腰溜めに距離を詰める柚琉は、滑るように雪ん子の背後へ。
    「煉獄の炎をその身に受けるがいいッ! ぜぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁッ!」
     前後に挟まれ、回避の初動が遅れた雪ん子を凜の炎大太刀が袈裟掛けに斬り、さらに意識が完全に前へと向けられた瞬間、背後の死角から柚琉がズブリと刀で刺し貫く。
     ゆっくり、白い着物の少女が倒れる。
    「大人しく眠れ……」
     それが、古の畏れ雪ん子へと向けられた、最後の言葉となったのだった……。


     気が付けばいつの間にか吹雪は止んでいた。
     うっすらと明るくなり始めた空に雲は無い。
    「君の最期に、花を。伝承の中へ、帰りたまえ」
     雪ん子が消えた場所へ凜がバラの花を一輪投げる。
     白い雪の上に落ちるバラ。
     その花にスポットライトが当たるよう、斜めの角度で日の光が入る。
     朝日だった。
     白い景色が少しずつ光条に照らされ、キラキラと輝きを放ち始める。
     それは今まで見た事もないような、白銀の……新世界。
    「……いい、景色だね」
     見惚れるように柚琉が言う。
    「まっ、ご褒美としちゃ悪くねーんじゃねーの」
     景色から目を離さず筑音が同意する。
    「景色はええし空気も美味い……せやけど寒すぎやわ!」
    「ええ、寒すぎてそれどころじゃないですぅ……!」
     椿とイシュテムの台詞に、景色を楽しんでいた数人がぷっと吹き出し笑みを浮かべる。
     その時だった。
    「お~い、お前さんがた、大丈夫かぁ~?」
     声をかけてきたのは山小屋に棲む老夫婦、お爺さんの方だった。
    「そんな薄着で寒いだろう、中へ入れぃ、あったかいもん作るけぇ」
     老人の提案に数人が「わーい♪」と言った感じで早速山小屋へと入って行く。
     花梨が「小屋の中からでも朝日が見えますか?」と問えば、大丈夫だとのお爺さんの返事。
     次々に山小屋へと入って行く灼滅者たち。
     ふと筑音は足を止めて振り返る。そこは雪ん子が倒れた場所。
    「伝承を元に考えんなら、老夫婦を守ろうとしてたのかねぇ……」
    「かもしれぬ……だが、今となっては……」
     筑音の問いに雪が返し、2人も仲間達に続いて小屋へと入る。
     そして、最後に小屋に入ろうとしたのはフォルケは、ふと、キラリと何かが輝いて視線をそちらへ向ける。
     それは山小屋の影に隠れてひっそりと置かれた石碑だった。
     見つけたからには……と石碑の前まで行き、手を合わせるフォルケ。
    「これからも見守ってあげてくださいね~」
     石碑に一礼し、山小屋へと向かう。
     ズサッ。
     吹雪で積もった石碑の雪が、朝日に輝きどさりと落ちる。
     石碑に刻まれているのは人々の無事を祈る言葉。
     その言葉はどこか、先ほどの願いに対する雪ん子の返事のようにも……見えるのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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