世界を変えたければ、『己』が変われ

    作者:波多野志郎

     深夜の繁華街。その裏路地に集まっていた不良少年達は、一様に同じ目をしてはしゃいでいた。馬鹿をやって笑っていても、消し切れない先行きのない不安。やるせなさ。何よりも濃いのは――。
    「でさー、ちょっと蹴ってやってらりゃあ大慌てしやがってよー」
    「はっ! かっこわりー!」
     虚ろな笑い声が響く裏路地を、その冷たい声が切り裂いた。
    「無力感、ですか。酔っ払ってるのは」
     その声に、少年達は視線を向ける。自分達のテリトリーに入り込んだ異物を排除しよう――少年達が声を張り上げるよりも、早く。
     声の主、青年がその眼鏡をずりあげながら一歩前へ踏み出した。それだけで、少年達は石像と化してしまったかのように、ビクリと硬直した。
    「ええ、青少年の主張を聞くつもりはありません」
     一八十を少し超えた長身。人のよさそうな笑みと、整った顔立ち。そのノンフレームの眼鏡とあいまって、知的な印象すら与える青年だ。青年はその柔らかな前髪を掻き上げると――ガラリ、と豹変したように、歪んだ笑みと共に吐き捨てる。
    「着いて来い――お前達に、世界を変えるだけの力をくれてやるぜ?」

    「爺ちゃん、言ってたぜ? 『世の中に不満があるなら、まず自分が変われる強さがなきゃ駄目だ』ってさ?」
    「……子供に、何を教えてんすかね?」
     南場・玄之丞(小学生ファイアブラッド・dn0171)の語る言葉に、湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は苦笑いした。
    「殲術病院の危機の時に、ハルファス軍から朱雀門高校に鞍替えしたソロモンの悪魔、美醜のベレーザが動き出したっす。ベレーザは朱雀門高校の戦力として、デモノイドの量産化を図ろうとしているらしいっす」
     そのために、デモノイドの素体となりうる一般人を拉致して、デモノイド工場に運び込もうとしているという。それを防いで欲しい、というのが翠織からの依頼だ。
    「みんなに防いでもらいたい作戦を指揮しているのは、朱雀門高校のデモノイドロードっす。配下には三名の強化一般人が従ってるっす」
     ただし、配下の中の一人はただの強化一般人ではない。美醜のベレーザの手で不完全ながらデモノイド化されており、命令を受けると十分間だけデモノイド化して戦う事が出来るという。朱雀門のダークネスは、不完全なデモノイドをデモノイド化させて戦わせ、素体となる人間を連れて撤退しようとするので、注意が必要となる。
    「狙われてる一般人は十人。不良少年達っす。ただ、やっぱりいきなり現われた相手にひょいひょい普通について来るつもりはないらしいっす。なんで、勧誘したその瞬間、こっちが乱入して、一気に逃がしてやって欲しいっす」
     サポートの人達には、逃がす役割を手伝って欲しいっす、とは翠織談。
    「そして、玄之丞を含めた九人で足止めして欲しいっす。デモノイドロードはもちろん、不完全なデモノイドの実力も十分で自壊する欠点を補えるぐらいには高いっす」
     唯一の救いは、デモノイドロードがさほど熱心でない事だろう。不完全なデモノイドが自壊する十分、それで退却する。
     しかし、足止めが失敗してしまえば、確保のためにデモノイドロードは全力で追いかけてくるだろう。時間を稼ぎ切れていなければ、追いつかれてしまう。
    「今回の作戦の主目的は、量産型デモノイドの素体にされてしまう若者達を救出することっす。八割以上の若者を救出する事が目標っすけど、全員救出を目指して欲しいっす」
     特に朱雀門高校のデモノイドロードと不完全なデモノイド、配下の強化一般人の全てと戦かった場合、戦闘で勝利するのは非常に難しい。デモノイドロードに関しては、素直に撤退させてしまう方がいいだろう。
    「勿論、灼滅できれば、それに越したことは無いっすけどね。敗北した場合は、連れ去られた若者達が量産型デモノイドにされてしまう事になるので、あまり危険は犯せないっす」
     翠織はそう真剣な表情で語り終えると、灼滅者達を見回した。
    「相手は、強敵っす。だからこそ、みんながどう戦うかが重要になるっすから――頑張って欲しいっす」


    参加者
    佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)
    迅・正流(斬影騎士・d02428)
    三影・幽(知識の探求者・d05436)
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    和久井・史(雲外蒼天・d17400)
    フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)
    桜庭・成美(微睡む処刑者・d22288)
    月代・蒼真(旅人・d22972)

    ■リプレイ


     深夜の繁華街。その遠い喧騒を聞きながら、月代・蒼真(旅人・d22972)はそこにたむろする少年達を物陰から見た。
    (「人を誘拐して兵隊にしようなんてのはえげつない話だよな。絶対に阻止しないと」)
     虚ろな笑い声をさせる少年達は、まだその未来を知らない。その姿に、三影・幽(知識の探求者・d05436)は五星のグリモワールを持つ手に力を込めた。
    (「一般人の拉致と、デモノイドへの改造……ですか。…悪魔ではないですが、悪魔のような所業ですね……無論、許すわけにはいきません……私達で、守ります……」)
    「来たぞ?」
     フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)の短い言葉に、灼滅者達の間に緊張が走る。
    「無力感、ですか。酔っ払ってるのは」
     その声は低く甘く、心に忍び込むような声色だった。少し勘がいい者なら、その声だけでも背筋に冷たいものが走っただろう。
     それが勘ではなかったと知るのは、声の主の姿を見た時だ。一八十を少し超えた長身。人のよさそうな笑みと、整った顔立ち。そのノンフレームの眼鏡とあいまって、知的な印象すら与える青年だ。だが、致命的に『何か』が欠けている――そう思わずにはいられない空気があった。
    「ええ、青少年の主張を聞くつもりはありま――」
     青年が、その言葉を止める。そこに、鋭い声が割り込んだからだ。
    「世界を変える力? ……ふん、アホくさ。甘言もいいところね」
     リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)のその言葉に、青年は眼鏡の奥の目を細める。少年達と青年の間に立ち塞がるように現われた灼滅者達は、その欠けた『何か』を理解した。
     その目には、興味がない。関心がない。他者への共感がなく、あるのはただ自我――エゴのみなのだ。
    「これはこれは……灼滅者の方々、でしょうか?」
    「悪いけれどこの場はあきらめて戻ってくれるとありがたい。おれ達は、この先通す気はないよ」
     言い放つ蒼真に、青年が眼鏡をずりあげて笑う。その柔和な笑みに、桜庭・成美(微睡む処刑者・d22288)は少年達を視線だけで振り返り、王者の風と共に言い捨てた。
    「逃げなさい」
    「ひ!?」
    「貴方たちではリリーのようなバケモノにすらなれない。畜生以下の、使い捨てにされるだけよ」
     成美の言葉を継いで、リリーが少年達へ告げる。その影が、気配が、おそろしくざわめくのを見て、少年達は我先にと駆け出した.
    「みんな、早く逃げて!」
    「オーイ、おめーらこっちこっち」
     物陰に控えていた美玲華と徹太が、少年達を誘導していく。そして、殿の純也が任せろとうなずくのを見て和久井・史(雲外蒼天・d17400)は、視線でうなずき返した。
    「こいつらの言う世界を変える力の代償は、君たち自身の命だ。こうなりたくないならここから離れるんだ」
     腕を異形化させて言い放つ史へ、青年――デモノイドロードは、小さく肩をすくめた。
    「ま、いいでしょう。あなた達を倒して追えばいい、それだけですしね」
    「多くの人々が、望まずにデモノイドにされ非業の最後を遂げた……量産など……許さん!」
     真っ直ぐに叩き付けられる迅・正流(斬影騎士・d02428)の言葉に、青年はふと気付いたと言う表情で小さく笑った。
    「力は、力でしょう? まるで、デモノイドにされなければ非業の最期を遂げなかった、なんて夢物語は語りませんよね? こんな世界で」
    「世界を変えたければ、『己』が変われ」
    「――――」
     佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)の言葉に、ロードはその視線を名草へと向けた。
    「でもね、それはまず第一に心ありきだよ。精神世界を渡る僕が断言しよう、見方が変われば世界が変わる、僕は前よりも世界がずっとずっと大切になった」
     名草の言葉に、ロードは小さく笑った。今までのような、柔和な笑みではない。飢えた鮫がするような、歪んだ笑みだった。
    「でも認識を変えても世界が不満な人もいるね。それこそ世界を壊してでも作り直したい人も、僕はその意思を認めるよ。その上で――譲れないもののために戦おう」
    「……安心しました」
     名草の言葉を聞き終え、ロードは一歩前へと踏み出した。それが合図だったのだろう、その背後に配下達が姿を現わす。
    「己の正義を持つ者が敵で。ええ、でなくば、意味がありません」
    「えーとさ?」
     ロードは、そちらへ視線を向ける。そこには、首を捻った南場・玄之丞(小学生ファイアブラッド・dn0171)が言葉を続けた。
    「俺、馬鹿だから言ってる事はよくわかんねーけどさ? 安心して遠慮なく殴れるって話だろ? でもあんた、相手が誰でも同じじゃん?」
    「くく――だな」
     ロードの表情が、一変する。その身を、青いデモノイド寄生体が埋め尽くしていく。西洋甲冑のようなその異形で、ロードは異形の口を歪めて言い放った。
    「せいぜい、楽しませろよ? 俺の敵」


    「カウント・ゼロ」
     蒼真が、スレイヤーカードを解除する。その足元に、白い毛並みの眠そうな目が特徴な霊犬、トーラが欠伸を噛み殺すように歯を鳴らした。
    「あ、あ、あ、あ、あ――!」
     配下の一人が、内側から膨れ上がるままデモノイドへと変貌する。それと同時、ロードとデモノイドが同時に動いた。
    「切り刻め!!」
     ゴォ!! と月光のごとき斬撃が、路地に走る。ドォ!! と前衛が月光衝の衝撃に襲われる中、デモノイドは異形の刃と化した右腕を振り上げた。
    「来いウスノロ!」
     剣先を突きつけ、大声で挑発する正流へとデモノイドはそのDMWセイバーを振り下ろす。ギ、ィン! と火花を散らす刃と刃、受け止めながらも肩口まで押し切られた正流は、構わずに踏み出した。
    「斬影騎士“鎧鴉”! 見――」
     正流の踏み込みに、デモノイドが一歩下がる。そこに生まれた隙間に、正流はバベルブレイカーはアスファルトへと突き刺した。
    「――斬!」
     ドン! と衝撃のグランドシェイカーの振動が、激しく荒れ狂う。そこへ、壁を足場に跳躍した史が空中で横回転、遠心力を乗せてシールドに包まれた異形の腕で裏拳をデモノイドへと叩き付けた。
    「俺達が、相手をする」
    「が、が、がああああああああああああああああああ!!」
     史の言葉の意味がわかってかわからずか、デモノイドが怒りの咆哮を上げる。そこへ、一匹の巨大な青白い蜘蛛が音もなく這い寄る――バベルブレイカーを飲み込ませた腕を異形化させたリリーだ。唸り、回転する杭を迷わずにデモノイドの脇腹に突き刺し、抉った。
    「そうなると、頭まで悪くなるようね」
     牽制に繰り出されたデモノイドの拳を掻い潜り、リリーが毒づく。そして、そこに体の周りを分裂させたブレイドで取り囲んだフィナレが真っ直ぐに跳び込んだ。
    「踊るがいい」
     軽いステップのようにその場で舞い踊ったフィナレのブレイドサイクロンが、敵を襲っていく。切り裂かれた配下の一人へ、蒼真がその右手をかざした。
    「縛って」
    「が、は!?」
     ギュオ! と音もなく走った蒼真の影が、配下を締め上げる。ギシリ、と身を軋ませたその配下へ、玄之丞が駆け込んだ。
    「お、あんがと!」
     霊犬のトーラと慈の眼差しに癒され、玄之丞は燃える巨大な縛霊手を振り上げた。地を這う軌道から跳ね上げられたレーヴァテインは、そのまま配下を宙へと舞わせる。しかし、バランスを崩しながらも配下はしっかりと着地した。
    「力を与えるっていっても、こうやって誰かの駒にされて、捨てられるだけだろ?」
     着地した瞬間、名草の繰り出した深い黒から溢れ出す影が配下を飲み込んだ。同時、ライドキャリバーの轟天が突撃、配下を吹き飛ばして壁へと叩き付ける!
    「夜明けの風を……!」
     かざした幽の黒暁剣から、セイクリッドウインドが戦場に吹き抜けた。その風に乗るように疾走、霊犬のケイが配下へとその斬魔刀で切り付ける。
    「は、なるほどなァ!!」
     笑うロードへ、成美は契約の指輪の指輪を向けた。ペトロカース、その石化の呪いにロードは言い捨てる。
    「時間稼ぎか、つまらない真似をしてくれる」
    「あなた達、朱雀門の思い通りにさせる訳にはいきません。他にも、ベレーザの企みに加担しているのでしょう?」
    「冥土の土産に教えてやろう……なんて、口が軽くなるとでも?」
     二人の配下が、異形の砲門を灼滅者達へと向ける――そのDCPキャノンが灼滅者達へ放たれるのを、ロードは見やって言い捨てた。
    「ふん、ならばどこまでやれるのか? それを見させてもらおうか」
     そう言い捨てるのと同時、ロードは右腕の非実体化させた刃を掲げ、踏み出した。


    「このガキがァ!!」
     ジュワ! と強化一般人が放つDESアシッドが玄之丞を襲った。その強酸が届く寸前、慈がその身を盾に割り込んだ。
     慈が自身を浄霊眼で回復するのを見て、玄之丞はその頭を撫でてやると、配下へと影を宿して闇色に染まった縛霊手の裏拳を叩き込んだ。
    「フィナレの姉ちゃん!」
    「任せろ」
     配下の体が、宙に浮く。そこへ、跳躍したフィナレがSin BLADEを振るった。ヒュガッ! と首に巻き付く蛇腹の刃、フィナレはそれを電柱に引っ掛けると着地、Sin BLADEをキン! と指先で弾く。
     それに、配下は地上へと力なく落ちた。まるで、やり遂げたという満足げな表情のフィナレへ、ロードが踏み出す。咄嗟にフィナレは、TATARI Breakerを振り上げ、刃と槍が火花を散らした。
    「はは! お前、まさかナインライヴスか!?」
    「知らぬな。今の私はフィナレ、フィナレ・ナインライヴスだ。それ以上でもそれ以下でもない」
     一合、二合、三合、と斬撃が重なる。そこへ、リリーが大小の無数の黒い蜘蛛である影を従え、踏み入った。
    「遊びすぎよ? あなた」
    「は! どうせ、生き死になんざ他人も自分も戯れだろうが――遊ばなくて、どうすんだよ!!」
    「自分の命は、そいつでもいいけど他人の分まで勝手に決めんな!」
     フィナレとリリー、そして玄之丞も混ざってロードを打ち合う。三人からの猛攻、しかし、ロードの表情には余裕がある。
    (「やる気のない奴ね」)
     リリーは、そう心の中で悟った。一撃一撃が、どこまでいっても『戯れ』なのだ。気が乗らない、そういう事なのだろう。
    「がああああああああああああああああああああ!!」
     デモノイドと、正流は打ち合う。破断の刃を盾代わりに受け流せても、その衝撃は確かに体の芯まで響いた。
    「無双迅流の真髄は闘志にあり!」
     クリエイトファイアによって、傷口から火を吹き出させ正流はロケット噴射で加速したバベルブレイカーでデモノイドの胸元を突き刺す!
    「が――!!」
    「まだまだ!」
     そこへ、史がかざした契約の指輪から放った魔法弾を撃ち込んだ。それでもなお、荒れ狂うデモノイドは止まらない。
    「通す気はないって言ったよ」
     蒼真が、デモノイドの前に立ち塞がり、縛霊手を叩き付けた。ゴォン! という鈍い打撃音、デモノイドはよろけるように後方へ退く。
    「手が、回り切らないわね」
    「宿れ……修祓の力……」
     成美がその身から魔力の霧を展開し、幽が五星のグリモワールから引き抜いたページを投げ放った。重ねるようにケイも浄霊眼で回復を飛ばす――それを見ながら、名草は呟いた。
    「――世界を壊させない」
     それは、強い執着だ。世界を壊そうとする敵がいるのなら、先に敵を倒すのだ。轟天もその意志に同意するように、フルスロットルのエンジン音を鳴り響かせた。
     十分――その時間は、あまりにも長く感じられた。強化一般人の配下を倒したその後も、ロードとデモノイドの猛攻が続いたからだ。
    (「ハルファス軍にも朱雀門にも、思うところはあるし、本当はロードもここで灼滅しなければ、同じ事が繰り返されるかもしれない」)
     出来ることなら一矢報いたい、しかし史は優先順位を間違えなかった。稼ぐべきは時間、救うべきは一般人――その事を。
    「が、ああああ、ああああああ……あ……」
     デモノイドが、暴れまわる。それは、まるで溺れるような印象さえ受けた。
    「せめて、終わりになる前に終わらせてあげるよ」
     蒼真の足元から走った影が、デモノイドを飲み込む。内側からもがき、這い出て来たデモノイドを、トーラの眠そうな瞳に癒されて玄之丞が、炎のように燃えるオーラを両手に連打した。
    「オオ――ッ!!」
    「灰も残さず、燃え尽きなさい」
     そして、巨大な青白い蜘蛛に覆われた生々しいバベルブレイカーに蒼い炎を宿して、リリーが渾身の一撃を叩き込んだ。後方へ跳ばされたデモノイド、それを片腕で受け止めたロードが言い捨てる。
    「ほら、残りわずかな命を無駄にするな」
     背中をロードに軽く蹴飛ばされ、前に出たデモノイドが疾走。それを真正面から、フィナレが迎え撃った。
    「頼む」
     Sin BLADEがデモノイドの刃の腕に絡みつき、強引に軌道を変える――そこへ、史が低く懐へ潜り込み、慈がその足元を駆けた。
    「木更津の時のようなことにはさせない、絶対に」
     史のシールドバッシュがデモノイドの顎をかち上げ、慈の斬撃が脛を切り裂く。そして、成美が緋色に染まる日本刀を袈裟懸けに振り下ろした。
    「慈悲の無い惨たらしい死を受け取りなさい」
    「が――ッ」
     もがくデモノイドへ、幽がその右手をかざす。それに応えるようにケイはデモノイドの首筋を刃で切り付け、幽も唱えた。
    「黒の執行者……」
     ザザザン!! と影が、デモノイドを切り刻む。崩れ落ちそうになったデモノイドを、轟天が突撃。デモノイドを宙に浮かせた。
     そこへ、這い蹲るような下段の構えから正流が駆ける。
    「無双迅流秘剣! 天昇地雷光!」
     地より天へと昇る雷光が如く、正流の切り上げによる斬撃がデモノイドを両断した。そして、その下を名草が疾走――ロケット噴射で加速を得た、ハンマーをロードへと振り下ろす!
    「――ただ踏み潰すよ」
    「ク、ハハ!!」
     それをロードは、真っ向からDMWセイバーで受け止めた。軋む金属音、その激突音が、終わりのゴングとなった……。


    「クク、いいだろう――今日は、退くといたしましょう」
     再び人の姿へと戻ったロードは眼鏡を押し上げ、薄い微笑で一礼した。踵を返すロードを、誰も追わない。ただ、正流が問いかけた。
    「自分は迅正流。宜しければ名前だけでも教えて頂けませんか?」
    「……ロード・ゲシュペンスト。そう名乗っておきましょう」
     振り返らず答えるロード――ゲシュペンストの後ろ姿に蒼真は小さくこぼした。
    「一般の人もデモノイドにされてしまう可能性か。嫌な感じに技術が進歩しちゃったな。こんな風に、水際ででも止めていければいいんだけどな」
     アレは火種だ、そう強く誰もが感じた。それでも、今日は救う事が出来た――その小さな一歩で、前に進み続けるしかないのだ……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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