過去への惜別

    作者:幾夜緋琉

    ●過去への惜別
     新宿のとある繁華街……寄るともなれば、夜の蝶となって羽ばたく人達が多く居る……そんな場所。
     夜明けの頃は、流石に外を歩いているような人は少なく、チュンチュンと雀の鳴声が聞こえてくる頃……。
    『……ウウゥ…………ウ、ウゥゥ……』
     聞こえてくるのは呻き声……その呻き声は、獲物を探す……という風ではない。
     どこか、自分の苦しみを聞いて欲しい様な、そんな呻き声。
     ……でも、その声に気付いたのは。
    「……ん? なんだなんだ……?」
     どこかの店の店員。
     その声に興味を持った様で、声の元へと向かうと……そこには、腐敗した体の……アンデッド。
    『ウウ……ウゥゥゥ……ウガァァ……』
     4体の人型アンデッド達は、彼の姿を見つけて声を上げる……その声に驚き、その場に座り込んでしまった彼を、静かに喰らうのであった。
     
    「皆さん、集まりましたね? それでは、説明を始めさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達に頷きながらも、早速説明を始める。
    「今回……病院勢力の灼滅者の皆さんの死体を元にしたと思われる、アンデッドが出現した様なのです」
    「このアンデッド達は、灼滅者の様な姿で武器を操ったり、ダークネスの様な形態でサイキックを操り攻撃してくる特性があり、普通のアンデッドに比べてかなり強力な敵になります」
    「又、彼らが出現するのは新宿周辺であり、何かを探している様にも見えるのですが……それが何なのかは、今の所解りません。更に彼らは普段、人目を避けて活動している様なのですが、誰かに発見されると、その相手を殺そうとする為に、放っておくと被害が出かねません。なので、皆さんには彼らを蒼穹に倒してきて欲しいのです」
     そして姫子は続けて。
    「灼滅者のアンデッドは、4体の群れとなって行動しています。その戦闘能力は、合わせて皆様と同等……という程度になるでしょう」
    「つまり、普通のアンデッドと同等とみていると、痛い目を見る事になります。決して油断しないようにして下さい」
    「尚、このアンデッド達が使用している武器は、殺人注射器と、日本刀、サイキックソード、護符揃えに似た武器を使ってきます。バリエーション豊かな攻撃を、次々と繰り出してきますので、これにも注意して於いて下さい」
     そして最後に姫子は。
    「何にせよ、アンデッドとなってしまった彼らを救う手段は倒す他にありません。辛い仕事になるかもしれませんが……どうか、宜しくお願いします」
     と、深く頭を下げた。


    参加者
    内藤・エイジ(高校生神薙使い・d01409)
    四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)
    倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    客人・塞(荒吐・d20320)
    東雲・羽衣(紫陽花カンツォーネ・d20543)
    弓削・鈴緒(星天月天・d20989)

    ■リプレイ

    ●心の喪失
     姫子から話を聞いた灼滅者達。
     東京は新宿のとある繁華街……夜の帳もすっかりおちて、街角には殆ど人が出歩いていない……夜明けよりも早い、寒い頃合い。
    「しかし……灼滅者の死体で、な……」
    「ええ。アンデッドというものは、元々そういうものだとは承知していましたが……自らの体をダークネス化としてまで戦っていた人造灼滅者の方達。その亡骸を利用するなんて……」
     客人・塞(荒吐・d20320)と、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)らのぽつり、と唇を噛みしめながら呟く一言……それに倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)も。
    「そうですね……これはある意味で、明日の我が身かもしれませんね……」
     と、唇を噛みしめる。
     ……今回の依頼、共に戦った病院勢力の者達の死体が、突如アンデッド化して現われてしまった、という話。
     自分達と同じ、灼滅者達がアンデッドと化してしまった……と思うと、悔しくもあり……怖くもある。
    「……ダークネスと戦う身が、アンデッドとなりはてる。さぞ……不本意な事でしょう……一刻も早く、悪意に操られるその骸を砕いて……せめて魂の安らぎを取り戻してあげるべき、とそう、思います」
    「ええ。助からないとわかっていても、せめて安寧に与えれる事が、彼らの最後の救いなのだとしたら……わたしはそれを成就させる事に力を尽くしたく存じます」
    「そうだな。まぁ……普通のアンデッドなら良いって訳でもないけど、これは気分のいいもんじゃないしな」
     黛・藍花(藍の半身・d04699)、東雲・羽衣(紫陽花カンツォーネ・d20543)に、塞が頷く……そして四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)、慎悟朗、ジュン、そして内藤・エイジ(高校生神薙使い・d01409)も。
    「病院のアンデッド。でも患者じゃないんだよね……だから今楽にしてあげるよ」
    「……うん。こんな真似を許しておく訳にはいきません。私達に出来るのは、せめて被害が出る前に、事件を解決する事ですから」
    「そうですね……決して油断せず、戦わさせて頂きます」
    「で、ですね……アンデッドとなってしまった病院勢力の灼滅者の皆さん……倒すのは心苦しいですけど、被害が大きくなる前に、倒させて頂きますっ!」
     と頷いて行く。
     ……そんな中、一人、深く考えていたのは弓削・鈴緒(星天月天・d20989)。
    「しかし……アンデッド達は、どこへ向かっているのでしょうか……もしかしたら、懐かしい病院へ戻るつもりなのかもしれませんね?」
     そんな鈴緒の言葉に、玄武とエイジが。
    「確かに……捜し物は気になるな」
    「そうですね。何かを探しているとの事ですが……それは死んだ後も、誰かに操られているという事でしょうか……? そう考えていた時期は、僕にもありました……」
     そう考えていた、というのは、どういう事なのだろうか……当の本人は、回想するかのように目を細める……と、そうしてると。
    「……と、ストップ。ちょっと、静かにして下さい」
    「わ、わわっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい」
     羽衣にぶつかって、ぺこぺこっ、と頭を下げるエイジ。
     そして耳を澄ます……すると。
    『……うう……』
     呻く声……その声は、亡者の泣き声。
    「……近いですね。どうやらこっちの方みたいです」
    「解った。これから先はライトをつけていくとしよう……あとジュン、アレ頼む」
    「ん、了解」
     塞に頷き、ジュンはESPの猫変身慎を使用……そしてその進路を照らすように、ライトを照らす。
     更に玄武が殺界形成を使って、周りに殆ど居なかった人気を更に遠ざける。
     ……そして。
    「それでは、いきましょう……もう、そんなに遠くないでしょうから」
     藍花の言葉に皆も頷きながら、灼滅者達は急ぎ、アンデッド達の棲まう場所へと急ぐのであった。

    ●悪に誘われ
     そして灼滅者達が、殺界形成に覆われた新宿の町を走り……数刻。
     灼滅者達の耳に聞こえてくるアンデッドの泣き声は、段々、数も、距離も近付いてくる。
    「……近いですね」
     藍花がぽつり、一言を呟く……そして、幾つかの角を曲がった先で。
    『……ぅ、うう……ぐああ……』
    「え……あ、ぎゃあああ!! っで、出た、出たでゲスぅぅう!!」
     叫ぶエイジ……曲がり角を曲がったところ、目の前にアンデッド達がいた訳で。
    「エイジ、落ち着け!」
     塞の言葉、でもエイジは。
    「で、でもでもアンデッド、武器を持っているでゲス! 無理無理無理、防護符とか、サイキックで回復するのは止めて欲しいでゲスぅぅう!! アッシの火力微妙なのにっ! こんなことなら、部屋の炬燵でずっと引きこもってればよかっ……」
    「……しっかりして下さい」
     慎悟朗が、肩をむんずっ、とつかみ、力を込めて落ち着かせる。
    「……いえ、なんでもありません」
     平静を取り戻したエイジ、それにもう一つ、慎悟朗が溜息をついたのは……果たしてエイジにか、アンデッドにか。
     ……それはさておきとして、前に立ちふさがるジュンと塞。
     そして羽衣、鈴緒、藍花が。
    「しかし……死して尚、この様な酷い事を強いられているなんて……今すぐにでも、解放して差し上げなければいけませんね」
    「ええ……死んだ者が現世に留まり続けると、成仏できないとも言われますしね」
    「……戦いに身を置く以上、私達もいつ、こうなるかは解りません……他人事ではありません」
     それぞれの言葉……そしてまっすぐに彼らを見つめて、スレイヤーカードを掲げる。
    「……その魂、あの世に送ってあげます」
    「ええ。勇敢なる方々にせめてもの安らぎを……希望の戦士ピュア・ホワイト。鎮魂の祈りを込めて戦いましょう! マジピュア・ウェイクアップ!!」
     と、それぞれがスレイヤーカードを解放し、戦闘態勢、更に。
    「さぁ、おいで、天照!」
     と霊犬や、ビハインドを呼び出し、戦列へと加える。
     そんな灼滅者達の動きに、アンデッド達は。
    『うう……ああ……!』
     まるで、自分達を邪魔するな……と言わんばかりに、前へ、前へ。
     決して後へは引かぬ、亡者の行進。
    「……天照、頑張って前に出て、耐えて!』
    『わぅん!』
     鈴緒の指示に鳴いて答える霊犬の天照……そして一緒に前へと駆けるは慎悟朗。
    「まずは……護符揃えの敵を狙いましょう。回復技は厄介ですしね」
     二人がディフェンダーポジションにつくと、即時に龍翼飛翔で怒りを付与する。
     その指示に従い、藍花も。
    「解りました……行って、あれを壊してあげて……」
     とビハインドに指示し、ビハインドは軽く微笑みながら、前に進み出る。
     クラッシャーのジュン、塞と合わせて前に出て……護符揃えの持つアンデッドを狙う。
    「……死んだ後までダークネスに踊らされるのは嫌だろ? 待ってろ。今、楽にしてやるよ」
    「ええ。いきます、マジピュア・ハートブリッツ!!」
     塞、ジュンが、護符揃えの敵に狙い澄まして一撃を叩き込む。
     ……しかし、さすがは灼滅者のアンデッド。
     クラッシャー三人の攻撃という、雑魚のアンデッドであれば、もはやぼろぼろくらいのダメージを与えているのに、目の前に達アンデッド達は、まだまだピンピンしている。
    「さすが……と言いますか。元灼滅者、というのは伊達ではありませんね」
    「ええ……うう……」
     玄武に頷くエイジ。そして羽衣、鈴緒が。
    「ともあれ死して尚、こうして魂を利用されるだなんて、そんなの死者への冒涜であるのに代わり有りません……絶対、許せません!」
    「ええ……初めに在りし如く、今も何時も世々に至るまで……!」
     彗星撃ちとギルティクロスで、続けてアンデッドをうつと、玄武も。
    「壊れろ」
     と神薙刃で撃ち貫く。
     ……それでどうにか、半分くらいが削れた、という所だろうか。
     そしてアンデッド達の攻撃が開始する。
     日本刀とサイキックソードの二人のアンデッドは、切り込み隊長の如く、前に出て、立ち塞がる敵を次々と切り裂いていく。
     ……どうやらそのポジション効果はクラッシャーだったようで、かなりのダメージ。
     そしてそれに続く殺人注射器のアンデッドは、その注射器から産み出されるサイキック毒を、ジャマー効果で重ねていき……そして当然、護符揃えの物はメディックにて事故ヒールを行う。
     ……そんな灼滅者アンデッド達の連携攻撃で、前衛陣へのダメージは結構高い。
    「だ、大丈夫ですか? か、回復しますね?」
     エイジが清めの風で前衛列を列回復し、更に藍花はその中で一番高いダメージを受けた物を加えて祭霊光で回復する。
    「ありがとう!」
     ジュンが微笑み返すと、こくりと頷く藍花。
     ……そして次のターンには。
    「続けていくよ! マジピュア・ハートブレイク!!」
     ジュンのフォースブレイクに、塞も蹂躙のバベルインパクト。
     頭上からの一撃に……僅かに、ふらりとなるアンデッド。
    「今だ。叩き込むよ!」
     慎悟朗が指示すると、スナイパーの仲間達も一斉に動く。
    「……潰れろ」
     と玄武の蹂躙のバベルインパクトをきっかけに、羽衣のオーラキャノン、鈴緒の彗星撃ち、慎悟朗も除霊結界……。
     灼滅者アンデッドに負けない位、こちらも幾重の連携攻撃。
     2ターンでは決着付かず、3ターン目。
    「マジピュア・ホーリースラッシュ!!」
     ジュンの神霊剣の一閃が決まると……そこでやっと、護符揃えのアンデッドが倒れる。
     ……残るは3体のアンデッド……しかし、仲間が倒されたせいか、目の前のアンデッドの連携した動きに、どことなくぎこちなさが生じる。
    「やっぱり……このアンデッドさん達は、元々一緒のグループだったのかもしれませんね」
    「そうですね……それを、アンデッドとして操るとは……誰が原因かは解りませんが……必ずや原因をつかみ、倒して見せます」
     羽衣に頷く鈴緒。そして。
    「次はジャマー……あの殺人注射器のアンデッドね」
    「ええ」で
     玄武に頷き、慎悟朗が先生とばかりにまたも龍翼飛翔で怒りを付与。
     攻撃を一手に引き受けるようにする事で、少しでもエイジと藍花の負荷を減らす。
     そして……連携が崩れた隙間に、残る仲間達の猛攻を連続して叩き込んで行く。
     ……殺人注射器を持っていたアンデッドだったが、回復手段も失われては、思ったようにバッドステータスのソース役とはなれない。
     ……数の上でも、3対8となり、灼滅者側の心境優位が勝り、少しずつ、少しずつ……灼滅者アンデッド達を押し込んでいく。
     そして……更に6ターン程が経過し、殺人注射器のアンデッドも倒す。
     残るは日本刀と、サイキックソードの二人……どちらも恐らくクラッシャーだろう。
    「……ダメージは大きいが、そこまで厄介な相手ではないだろう。ともかく……油断せずに、押しきっていこう」
    「うん、解った!」
     塞とジュンが相互に頷き……落ち着いて、一人ずつ攻撃……。
     ……完全に勢いに乗った灼滅者達は、アンデッド達を完全に飲み込み倒すのであった。

    ●惜別
    「……終わりましたね。ふぅ、皆さんお疲れ様でした……怪我とか、ありませんよね?」
    「え、ええ……ど、どうにか……ふぅぅぅ……」
     鈴緒に、大きな安堵の溜息をつくエイジ。
     ……平静を取り戻そうとしていると……目の前で、倒れた灼滅者のアンデッド達の魂が……一体、また一体と、姿を消していく。
     そんな靄のような消え方に、軽く目頭を熱く抑えながら。
    「……わたしたちにできることは、ここまでです。だから、どうか安らかに……主の御許へ……」
     羽衣の言葉に、鈴緒、藍花も。
    「ええ……彼らの魂が、安らかでありますように」
    「……ダークネスを倒す。その戦いは、私達が引き受けます。だから……どうか心安く、おやすみ下さい……」
     と、犠牲者の冥福を祈り、手を合わせる。
     ……そして、全ての影が消えた後。
     殺界形成も解いて、平穏を取り戻した新宿の繁華街……。
     ……周囲を確認し、彼らの遺品となり得るものはないか、と探すのだが……全てが消え失せてしまい、最早影も無い状態。
     ……彼らの遺品は、灼滅者との先頭で、昇華してしまったのだろうか……成仏出来た、と喜ぶべきなのだろうか。
     手がかりを得られないのは、残念ではあるものの……彼らがしっかりと、天国へ逝ってくれるのなら……それはそれで良い事なのかもしれない。
     数十分、手がかりを探し……そして、何も無いとわかり。
    「……しかし新宿で探すといえば、新宿迷宮の入口でしょうか……ね?」
    「ああ……ラグナロクの少女がいた所か……懐かしいな」
     慎悟朗に、ジュンが思い出すように笑いつつ、灼滅者達は帰路につくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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