新宿死者夜行

    作者:悠久

     不夜城と称されることのある新宿と言えど、人の姿がめっきり少なくなるような時間がある。
     夜明けを待つ、僅かなひととき。
     空は暗く、始発電車も、もう少し待たなければ動かない時刻。
    「……さむ」
     夜を徹して行われた飲み会の最中、どうしても外の空気を吸いたくなって。
     女性は、地下にある居酒屋からそっと地上へと出た。
     そこは大通りから少し離れた、細い路地。
     ネオンサインは夜を照らすように明るく、けれど、あたりはしんと静まり返って。
     馴染みのある雰囲気。けれど、その日は少しだけ勝手が違った。
    「こんな時間に、人……?」
     目の前の路地に、まるで電飾の灯りを避けるようにゆっくりと移動する複数の人影を認め、珍しいこともあるものだと女性は目を凝らした。
     ――それが、全ての間違いだったのだ。

     女性の視線に気付き、振り返った人影。その瞳からは、既に命の光が消えていて。
     1人の半身は、無残に崩れ落ちていた。もう1人の頭部に生えるのは、漆黒の角。最後の1人の手には、強大な刀が握られている。
    「え……?」
     目の前の異常事態に、呆然とする女性。
     3人の死者は、そんな彼女にゆっくりと近付いて。

     未だ明けない夜の只中、か細い悲鳴が上がり――消えていく。

    ●新宿は眠らない
    「新宿周辺で、『病院』の灼滅者の死体を元にしたと思われるアンデッドの出現が確認された」
     教室に集まった灼滅者達へ、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が衝撃的な事柄を告げた。
    「彼らは何かを探しているようにも見える……が、その目的は掴めていない。
     普段は人目を避けて活動しているようだが、運悪く、彼らを発見してしまう女性の存在が予測された。このままでは、彼女はアンデッド達に殺されてしまうだろう。
     だから、お前達にそれを止めて欲しいんだ」
     アンデッドの出現が予測されたのは、午前3時の新宿、大通りから少し離れた細い路地。
     襲われる女性以外、人の姿は皆無。いくつかの飲食店が立ち並んでいるが、その扉は固く閉まっており、路地の様子に気を払う者はいない。
     直前まで女性がいた地下の居酒屋も同様で、地上で多少の騒ぎが起こっても、誰も気付かないようだ。
     もっとも、それはこの路地内に限った話。
     アンデッド達が何らかのきっかけで50メートルほど先にある大通りに出てしまった場合、通行人や客引きのために停車しているタクシーなどに目撃され、混乱が起こる可能性がある。最悪、被害者が増えることもありえるだろう。
     アンデッドが大通りに向かう要因として考えられることは、目撃者の女性を大通りへ『無計画に』避難させることだろうか。
    「アンデッドは、目撃者の殺害を優先として動いているようだからな。そのあたりは、くれぐれも注意してくれ」
     と、ヤマトは重々しく表情を引き締めて。
    「出現するアンデッドは3体。灼滅者と同じ武器を操る者や、ダークネスのような姿でサイキックを使用してくる、普段より強力な敵だ」
     半身が崩れ落ちている女は、シャドウハンターと同じサイキックを。
     漆黒の角を生やす男は、神薙使いと同じサイキックを。
     強大な刀を握る男は、無敵斬艦刀のサイキックを用いて襲ってくる。
     強さは、3体でダークネス1体と同程度だろう。
    「元は同じ灼滅者。武器を向けることに躊躇いを感じる者もいると思う。
     だが、だからこそ戦ってくれ。彼らを、静かに眠らせてやるために。
     お前達になら、それが出来ると信じている」
     真剣な光を宿したヤマトの眼差しに応えるように、灼滅者達は力強く頷いた。


    参加者
    蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)
    八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)
    竹端・怜示(あいにそまりし・d04631)
    百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)
    和歌月・朱彦(宵月夜・d11706)
    セリス・ラルディル(抗氷黒蝶・d21830)
    影山・弘美(同族恐怖・d23559)
    愛師・面影(メイドもどき・d23729)

    ■リプレイ

    ●不眠症の街
     午前3時、新宿。未だ夜は明けず。
     静まり返った細い路地に蠢くは、屍王の傀儡と化した3体の死者。
     相対するは1人の女性。振り下ろされる巨大な刃を、彼女は成すすべもなく見上げていた。
     絶望したその唇から、か細い悲鳴が上がる。
    「……させるかよ」
     だが、刹那。呟いたのは蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)。
     同時に、細い路地を切り取るかのように音声遮断の結界が構築され。
     それが日常と非日常の境界線であったかのように、灼滅者達は次々と路地を駆けた。
     女性へ振り下ろされようとしていた刀を、エネルギー障壁を展開した徹太が割り込むように防いで。
    「よう、こんな時間にそんな物騒なナリでどこ行こうってんだ」
     ぎりぎりの拮抗の後、力任せに押し返す。きらびやかな大通りとは反対、夜の闇が色濃くなる方へと。
     突然の闖入者へ、死者達は虚ろな3対の瞳を向けた。
     処理しなければならない対象が増えた、とでも言いたげなその視線。遮るように駆け抜け、竹端・怜示(あいにそまりし・d04631)は古びた魔導書を開く。
    「命を持たぬ操り人形に、この先を進ませるわけには行かないな」
     口元を覆うマスクの位置を確かめながら、目の前の状況に集中して。
     頁に記された魔術を発動すれば、なおも女性を狙おうと蠢く死者達の朽ちかけた体へ原罪の紋章が刻み込まれた。
     ひとつ、続けてもうひとつ――。
     それは、怜示と並ぶように立ち、道を塞いだ影山・弘美(同族恐怖・d23559)の放った、もう一撃のカオスペイン。
    「……さぁ、私達も消さないと問題でしょう?」
     目撃者を狙うというのであれば、今、ここに現れた灼滅者達も目標のひとつとなるはずだ、と。
     刻まれた原罪に苦しみ、呻く死者達へ、弘美は震える声で言葉を掛けた。
     本当は、今ここに立っているだけで怖かった。元より実戦の経験がほとんどない身に加え、対峙する相手は『病院』の灼滅者だったアンデッド――人造灼滅者である彼女にとって同胞だった者達なのだ。
     だが、彼らとここで戦わなければ、襲われた女性の命を危険に晒すこととなる。
    「かつての仲間とこのような場所で再会しなければならないとは……」
     不本意でございます、と。呟く愛師・面影(メイドもどき・d23729)もまた、人造灼滅者の1人。
     しかし、妖の槍を構えたその姿に迷いはなく。
    「いったい誰が、このような真似を……いえ、今はそのようなことを考えている場合ではありませんね」
     手にした槍を回転させながら、面影は死者達の進路を塞ぐように突撃した。
     元より細い路地。灼滅者達の立ち回りは、死者達の進路を塞ぐに充分な効果を見せ始めて。
     オオオ……と、死者達の咆哮が響き渡る。
     その声から滲む怒りは、妨害する灼滅者達へと向けられたものか――それとも。
    「そう心配すんなって」
     振り下ろされた巨大な刀が、八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)の掲げたエネルギー障壁とぶつかった。
    「苦しいんだろ、悔しいんだろ。……仇は果すぜ、お前さん達」
     相手は既に死した身、そこに感情のひとつも残っていないと理解はしている。
     だが、己の運命と必死に戦い、生き続けた見知らぬ彼らの無念を思えば、そう口にせずにはいられなくて。
     篠介は重い刀を押し返し、目の前の死者へ力いっぱい障壁を叩き付けた。
     立て続けの攻撃にふらつく死者達の足を、間髪入れず展開された除霊結界が拘束する。
    「真冬の深夜に戦闘とは、ちょっと気が進まへんねぇ」
     和歌月・朱彦(宵月夜・d11706)が、片腕を覆う巨大な縛霊手をそっと撫でた。
     実のところ、襲われた女性の生死にさほど関心はないのだが。
    (「まあ……後味悪ぅなるのも嫌やし、ねぇ」)
     どちらにしろダークネスを灼滅することになるのなら、全てが丸く収まる方がいいだろう、と。
     微かな笑みを口元に浮かべ、漏れる吐息はましろに染まる。
     一方。死者達に襲われた女性は、自らを守るように立ちはだかった灼滅者達を呆然と見つめていた。
    『な、なんなの、これ……?』
    「あなたを、助けに来た」
     穏やかな口調と笑みでそう話しかけたのは、セリス・ラルディル(抗氷黒蝶・d21830)。
    「ここは、危険だ。……こっちへ」
     仲間達が死者の足を止めているうちに女性を大通りへ逃がすべく、セリスは彼女の手を取る。
     だが、女性の足取りは危うく、歩くことすらおぼつかない。
     パニックテレパスの使用も考えたが――ふと、あることに思い至った。
    「そう、か。酔っているの、だな」
     そもそも彼女は、夜を徹しての飲み会から抜け出てきたところなのだ。
     と、その時。盾となった灼滅者達をすり抜けるように、黒い魔法弾が女性目掛けて飛来して。
    「危ないっ……!」
     セリスは咄嗟に、女性を抱きかかえるようにして庇った。その肩口に命中した一撃。黒き想念が、容赦なく体内を蝕み始める。
    「あなたは……大丈夫、だな。よかった」
     だが、腕の中の女性の無事を確認すると、セリスは彼女を抱き上げ、大通りへと走り出した。
     痛む体で駆け抜ける、避難成功までの50メートル。
     普段ならば気にも留めない距離が、今はやけに長く思えた。
     怒りに荒れ狂いながらも、死者達は遠距離攻撃で遠ざかるセリス達の追撃を目論む。
     だが、次の瞬間。再び黒き弾丸を生み出そうとした女アンデッドの体を、一筋の光線が貫いて。
    「どこを見ている!? 貴様達の相手はこのボクだ!」
     それは百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)のご当地ビーム。
     今度こそ灼滅者達へと向けられるその殺意を、煉火は真っ向から受け止めた。
     彼女は今でも覚えている。あの日、『病院』へと駆け付けた時のことを。
     ――助けられなかった者達の、悲鳴を。
    「今度こそ、絶対に救ってみせる……!」
     今でも夢に見るほどの後悔を胸の奥深くへ宿し、煉火はきつく敵を見据える。
     まるで、戦うことしか出来ない己の無力さと向き合うかのように。

    ●夜を切り裂くように
     大通りへと走るセリスを守るように展開する灼滅者達の布陣。
     篠介の掲げたエネルギー障壁が仲間達を守るように広がる。
    「さぁて、始めるとしようかね」
     戦いを前にしても、その表情は穏やかで。けれど時おり鋭い戦意が覗く。
    「『G2』、解除」
     角持つ死者へと駆ける徹太。
     構えた刃銃に激しい炎を纏わせ、繰り出す一撃は角持つ死者の体をあかあかと燃え上がらせた。
     照り返しに光る蛍光迷彩帽のつばを握り、く、と軽く位置を整える。
     新宿はあまりにも騒がしすぎる。昨年の春から立て続けに起きる事件に、心の休まる暇もありはしない。
     この街には、守りたい人がいるのだ――と。
     その時。徹太の目の前で、角持つ死者の腕が一瞬で巨大化した。
     猛烈な膂力と共に襲い来る一撃がエネルギー障壁を突き破り、徹太の体を大きく吹き飛ばす。
    「っ……!」
     建物の壁へ背中をしたたかに打ちつけ、一瞬、呼吸ができなくなった。
     その隙を突くように、半身の崩れ落ちた女死者が徹太に迫った。
     胸元に浮き出ているのはトランプの『スペード』。――既にブラックフォームが発動されている!
     気付いたところで回避できるタイミングではなかった。
     女死者の拳は命中と同時に徹太へ黒いトラウマを植えつけ、彼を更に痛めつけようとする。
     だが、その時。
    「はい、そこまでにしておきましょうか」
     柔らかな言葉は朱彦のもの。同時に、展開された縛霊手から放たれた癒しの光が、徹太の体を浄化して。
    「大丈夫ですか、蛙石さん?」
    「悪い、助かった」
    「これが俺の仕事やし、気にせんでええですよ」
     立ち上がる徹太へ手を貸し、朱彦は穏やかな笑みを浮かべる。
     一方、巨大化した腕を振り回す角持つ死者へ、弘美は西洋剣を向けていた。
     その切っ先は、戦いへの恐怖でぶるぶると震えて。
     だが、精一杯の気迫と共に振るわれた一撃は、正確に敵の体を切り裂いた。
     破邪の白光が、斬撃の後をなぞるように輝く。
    (「ごめんなさい……ごめんなさい!」)
     心の中で、弘美はひたすらに謝罪を繰り返していた。
     灼滅することしかできないと分かっていても、かつての同胞へ刃を向けるのは辛い。辛くて堪らない。
     嘆く弘美へ、苦しむ死者が腕を振り上げた。
     だが、それが振り下ろされるより早く、弘美の横をすり抜けるように光の刃が走る。
    「届かないと思った、か?」
     女性の避難誘導を終え、戦場へと戻ったセリスが光刃放出を放ったのだ。
     サイキックソードを構え、敵を見据えるセリス。ポジションをスナイパーに変更したことで命中率の倍化したその攻撃は、敵の守りを切り裂き、急所を的確に捉える。
     蓄積されたダメージに、角持つ死者は清めの風を吹かせようとした――が。
    「させないよ」
     怜示が地を蹴り、一瞬でその距離を詰める。
     クラッシャーへ変更されたポジション。巨大化したその腕は凄まじいまでの破壊力を生み出した。
     大きく吹き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられた角持つ死者が、そのまま動きを止める。
    「まずは1体」
     怜示は微かな間、死者を弔うように目を閉じた。

    ●眠れぬ死者への鎮魂歌
     微睡む夜を切り裂くように戦いは続く。
     厄介な回復方法を持つ死者を倒したとはいえ、いまだ油断の許される状況ではない。
     事前に打ち合わせておいた次の攻撃目標は、半身の崩れ落ちた女死者。
     だが、それを遮るように、もう1人の死者が手にする巨大な刀が振り下ろされて。
     煉火は即座にエネルギー障壁を掲げ、その刃を防いだ。女死者へ攻撃を集中させる仲間達を守るように。
    「悪いが、今はまだ、貴様を相手する時ではない!」
     迫り来る刃のプレッシャーにひりつく感覚を覚えつつ、シールドで押し返すように死者を退ける。
     仲間達を傷付けさせはしない。避難した女性のことも同様だ。
    「ボクはヒーローだ! だから、ここは絶対に守り抜いてみせる……!!」
     凛とした眼差し。紅と蒼、二房の前髪が艶やかに揺れて。
    「ありがとうございます、煉火様。……こちらは、どうか私達にお任せ下さい」
     女死者へと向かうのはメイド服に身を包んだ面影。長手袋をするりと外すと共に、その左半身が蒼い異形へと変化する。
    「行きます」
     と、短く告げて。己の身に巣食うデモノイド寄生体を絡めるように構えた槍が、螺旋の如き一撃を放った。
     朽ちかけた女の体は容易く引き千切られ、だが、動きを止める気配は未だ見えず。
    「悪足掻きもいい加減にしろ」
     女死者へ肉薄した徹太の繰り出す接近戦が、敵の体から強化の印を消した。
     刹那、攻撃の気配を感じて飛び退く。
     灼滅者達目掛けて撃ち出された漆黒の弾丸は、先ほどよりも確実に威力が落ちていた。
    「効かんのう」
     目の前に掲げた障壁で魔弾を弾くと共に、篠介は女死者へと接近。攻撃後の隙を突き、目にも留まらぬ連打を見舞う。
     闘気をまとう拳が放つ光が収束する頃、女死者は力なく地へと伏して。
    「さあ、残るはお前さん1人じゃな。……心配せんでええ。じきに、その苦しみも終わる」
     ――だが。篠介が振り返った、次の瞬間。
     最後の1人、刀持つ死者の体から、ぐん、と凄まじい力が放たれて。
     気付いた時、篠介の体は壁に叩き付けられていた。
     彼だけではない。前衛で戦っていた他の仲間達も同様だ。
     振り下ろされた巨大な刀。その一撃で吹き飛ばされたのだった。
    「……おやおや、敵さんも怖いことしはるなぁ」
     柔らかな言葉とは裏腹に、後方に位置取る朱彦の表情が僅かな緊張を孕む。
     即座に手にした西洋剣の刃をなぞり、そこに刻まれた『祝福の言葉』を解放するも、灼滅者達の傷は深い。
    「だからといって、怯むわけにはいかない!」
     苦痛に顔を歪めつつも、煉火は足元から幾重もの鋭い影を伸ばし、敵の体を切り刻んだ。
     死者の守りが緩んだ隙を突くように、セリスが地を蹴る。
    「光と焔……どっちが好き、かな?」
     光の剣を覆うように舞い上がる赤い炎。繰り出された斬撃に、死者の体がぱっと炎に包まれて。
     苦痛に呻く死者へ、続いて駆け出したのは弘美だった。手にした剣の切っ先は、もう震えていない。
    「どうか、安らかに眠って下さい!」
     非物質化された刃が、敵を霊的防御ごと断ち切る。
     ――だが、死者はひときわ大きな咆哮を上げ、手にした刀を再び振り上げた。
    「おっと、それはぞっとしないね」
     言葉と同時に、マスクのズレを正す怜示。彼の周囲に生まれた風が、激しく渦を巻く。
     やがて放たれたその風は刃のように鋭く、巨大な刀が振り下ろされるよりも先に敵を切り刻んで。
    「終わらせましょう」
     と、蒼い左半身へ巨大なバベルブレイカーを装着した面影が、長いスカートを翻し、ジェット噴射で敵へと突撃した。
     攻撃の余韻を払うように振り下ろされた刀と、真っ向からぶつかり合うパイルバンカー。
     拮抗の後――僅かな差で競り勝ったのは、面影。
     巨大な刀を弾き飛ばし、その一撃は敵の『死の中心点』を正確に貫く。

     ゆっくりと倒れる死者を振り仰ぎ、面影はほう、とため息をついた。
     ――これで、彼らも静かに眠ることができる。

    ●インソムニアを貫いて
     終わった、と。
     セリスは肩口の傷をマフラーで拭った。固まりかけた血が、ぼろぼろと剥がれるように落ちる。
    「あ、そうだ……」
     駆け出した弘美が連れてきたのは、大通りへと避難させた女性。
     ごめんなさい、と告げ、その首筋へ噛み付く。吸血捕食で記憶を曖昧にするためだ。
     元から酔いが回っていることもあり、彼女を無事帰すことは簡単で。
     再び静まり返った細い路地。
     残された灼滅者達は――ネオンサインに照らされ、くすぶるような色の空を見上げる。
    「……しかし、屍王たちは一体何を?」
     年末の事件から間を置かずして起こった事態へ、怜示は不意にそう漏らすも。
    「この路地には、特に手がかりらしきもんはなかったのう」
     周囲をひと通り見て回り、戻ってきた篠介が残念そうに首を振った。
    「なら、早いとこ帰りましょうか」
     長い事おったら風邪ひいてしまいますし、と肩を竦める朱彦の提案に、仲間達はそれぞれ頷く。
    「……さようなら」
     急速に朽ち果て、消え行く死者達の傍らへ屈み込み、面影はそっと別れを告げた。
    「どうか、安らかに眠ってくれ」
     煉火もまた、同じ灼滅者だった彼らの鎮魂を胸中で祈る。
     と――徹太はファイナルディファイの銃口をおもむろに天へと向けて。
     夜空を貫くように、一筋の光を撃ち上げた。

     ここではないどこか、隠れて糸引く下衆な黒幕へ、宣戦布告の意を込めて。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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