夜の廃工場にて。
「大人はみんな、きたねーよな!! 俺に理想を押し付けんなっての」
「ベンキョーシロだの、ショーライを考えろだの、正論ばっかり」
「そのくせ、自分はカイショーナシのサラリーマンだろ? 俺たちは、あんなくだらねー大人にだけは、なりたくないよなぁ」
塾帰りの学生たちが、大人への不満を主張していた。
「あーあ、つまんねー。何かでっかいことやりてーよ」
「力があれば、できるさ」
その時、入り口から長身の青年が姿を現した。
どこかの高校の制服を着ている。学生だろうか? 探るような視線をにこやかな笑みで流し、青年は言う。
「失礼。僕は山本・栗亜(やまもと・くりあ)。君たちは力を持つにふさわしい人材のようだ。さあ、行こう。僕についてくる勇気があるなら、力を与えよう」
少年たちは顔を見合わせ、立ち尽くした。
「ふふ。ゆっくり休んで考えるといい」
栗亜が嗤う。同時にさわやかな風が吹き、少年たちは深い眠りに落ちて行った。
「よし、車に運んで出発しろ」
少年たちの様子を確認し、栗亜が背後に向かって指示を出した。
すると、栗亜と同じ制服を着た学生が5人現れ、眠る少年たちを車に運び始めた。
●依頼
教室に姿を現した千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が説明を始めた。
「殲術病院の危機の時に、ハルファス軍から朱雀門高校に鞍替えしたソロモンの悪魔、美醜のベレーザって、みんな覚えている? あのベレーザがついに動き出したんだよ」
彼女は、朱雀門高校の戦力として、デモノイドの量産化を図ろうとしているらしいのだ。
「えー?! でも、どうやって量産化なんてするの?」
話を聞いていた空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が手を上げた。
「うん。それが、デモノイドの素体となりうる一般人を拉致して、デモノイド工場に運び込もうとしているんだ」
「拉致か。じゃあ、私達は拉致されそうな一般人を助けるのね?」
紺子が言うと、太郎はこくりと頷いた。
「今回分かったのは、廃工場でたむろしている高校生たちを攫おうとしているヴァンパイアなんだ」
拉致の指揮を取るのは、朱雀門高校のヴァンパイア、山本・栗亜。
配下に5名の強化一般人が従っている。
「配下の強化一般人は、美醜のベレーザによって、不完全なんだけどデモノイド化されているんだよ。命令を受けると、10分間だけデモノイド化して戦うんだ」
山本・栗亜は、襲撃を受けると配下の強化一般人を戦わせ、素体となる人間を連れて撤退しようとする。今回の作戦の目的は、素体にされてしまう若者を救出することなので、かなり注意が必要だ。
「狙われているのは、学生10人。眠らされて車に運び込まれているよ」
廃工場に朱雀門高校のヴァンパイア、山本・栗亜。入り口付近に、学生を運び終えた強化一般人5人。廃工場の外には、学生が運び込まれた車がある。
「車とヴァンパイアたちの間に割って入るのが良いって事だよね?」
紺子の言葉に、太郎が頷いた。
「ヴァンパイアはダンピール相当の強力なサイキックを持ってる。配下の強化一般人は、すぐにデモノイド化するから気をつけてね。不完全だから、10分経過すると自壊して死亡しちゃうんだけど、戦う力は強いよ」
「ええと、確認だけど、素体にされようとしている人たちを助けるのが目標なんだよね?」
「うん。ひとまず、8人以上の救出が目的だけど、できれば全員救出を目指してほしいんだ。不完全なデモノイドとヴァンパイア全員と戦った場合は、戦闘で勝つのはとっても難しいよ」
したがって、ヴァンパイアについては、一般人の拉致を阻止しつつ、素直に撤退させてしまったほうが良いだろう。勿論、ダークネスを灼滅できればそれに越したことは無い。けれど、敗北した場合は、連れ去られた若者たちが量産型デモノイドにされてしまうことになる。あまり危険は犯せないだろう。
話を聞き終え、紺子が腕を組んだ。
「うーん。まずは、強化一般人と車の間に割って入ること。それから、ヴァンパイアを撤退させることは……どうしたら良いんだろう? 何とか、相手があきらめるか、相手が撤退してもかまわない状況を作るかして説得するか、かな? で、10分で自壊する不完全デモノイドとの戦闘のことも話し合ったほうがいいよね」
「山本・栗亜は、知性派な感じのダークネスみたいなんだ。その辺りを踏まえて、きちんと状況を作ったら、撤退してくれると思うよ」
最後に太郎がくまのぬいぐるみを抱きしめ、皆を見た。
「あのね、沢山決めることがあると思うけど、みんなで話し合って頑張ってください」
参加者 | |
---|---|
村上・忍(龍眼の忍び・d01475) |
リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323) |
エーミィ・ロストリンク(壊されぬ絆のメイデン・d03153) |
皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795) |
桐生・楪(高校生シャドウハンター・d05780) |
希・璃依(はらぺこ犬・d05890) |
アデーレ・クライバー(地下の小さな総統・d16871) |
ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314) |
●廃工場へ
夜の廃工場襲撃を前にして、確認するようにハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が紺子を見た。
「拙者達が配下を強襲し、工場の入り口を押さえたら、出来るだけ目立たないように車ごと遠くへ運び出して欲しいでござる」
「おっけー。車の方は、これだけ人数がいるんだから多分大丈夫だよ。そっちも頑張ってね」
「持ち手が十分なようなら箒で飛んで車の先導をしても良いでござろうかな」
紺子は親指と人差し指でマルを作り、サポートのメンバーと頷き合った。紺子を含めて、その数10人以上。ESPも揃っているので、大きな車でも運べるはずだ。
頑張ってと言われ、アデーレ・クライバー(地下の小さな総統・d16871)が表情険しく頷いた。
「人間をデモノイドに改造……。そんな悪魔の研究は必ず絶やしてみせる!」
そのためにも、目の前の作戦を確実に遂行する。
希・璃依(はらぺこ犬・d05890)も同意するように大きく頷いた。
「命を使い捨ての駒のように……。胸くそ悪い」
その元凶をぶっ倒したいが、今回の目的はあくまでも学生達の救出だ。
仲間も沢山居るし、絶対に全員を助けようと思う。
「そっちは任せたぞ。デモノイド達はアタシ達が絶対に食い止めるから」
璃依の言葉に、紺子がしっかりと頷き返した。
「朱雀門もだいぶ必死になってきたものね。こんなところであんなのをスカウト活動だなんてね」
と、リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)が肩をすくめた。
聞いている話だと、今から自分たちが助ける学生は、自分勝手な主張をこのような場所に集まってこそこそと言い合うだけの小物に感じるが。
リリシスの言葉に、思わず苦笑いを浮かべる仲間も居た。
とは言え、と。
気を取り直すように皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)が首を振る。
「たとえどんな人であっても一般の人を争いに巻き込むのを看過することは出来ませんね」
朱雀門の戦力を増やさないと言う意味でも、不幸な人が出ないようにすると言う意味でも、必ず阻止しなければならない。
「これ以上の朱雀門の企みは拙者達が阻止してみせるでござる!」
心に芽生えた小さな悪意や、力を求める意思。そんな、誰もが持ち合わせる心の隙をつき、デモノイドの素体として利用するとは何たる悪行かと、ハリー。
「それでは、車から注意が逸れるよう、私達はあちらから行きましょうか」
黒装束を身に纏った村上・忍(龍眼の忍び・d01475)が、すっと小道を指差した。
「それが良い様ですね。敵の関心がこちらに向くように仕向けるわよ」
桐生・楪(高校生シャドウハンター・d05780)が頷く。楪もまた、目立ちにくいよう、黒い系統の格好をしている。
これが最後の意思確認だ。
急襲を成功させるため、これより先は無言で通す。
エーミィ・ロストリンク(壊されぬ絆のメイデン・d03153)が確認するように皆を見た。
「車と強化一般人の間に割り込むんだよね」
それぞれが、無言で頷く。
各自の役割を胸に、灼滅者達が駆け出した。
●駆け引き
まだ手元の明かりは灯さない。月の光だけを頼りに走りぬいた先、廃工場が見えた。
聞いていた通り、工場前に大きなバンがある。入り口付近に人影も確認した。
忍と詩乃が縛霊手を構える。
まだ人の姿の強化一般人が、こちらの足音にようやく振り向いたその時。
出来るだけ多くの敵を巻き込むように、二人は結界を構築した。
「な……」
誰かが驚きの声を上げる。強化一般人達が、散り散りに地面を転がっていく。
「使い捨ての兵隊だなんて実に哀れね」
敵が戦闘の態勢を整える前に、さらにもう一撃。
リリシスが上品に笑い、クルセイドソードに魔力を宿した。先の攻撃で地面に転がった一人を見据え、霊魂を狙い撃ちする。
畳み掛けるように、楪が鋭い刃に変えた影で敵を斬り裂いた。
よろめきながらも、強化一般人達がようやく敵意のこもった目で灼滅者を見る。
その時、場にそぐわない静かな声が工場の奥から聞こえてきた。
「おや、こんな夜更けに客かな。何をしている? さぁ、歓迎してやればいい、お前達のやり方で、な」
落ち着き払った声色に、ざわつきを感じる。
「ゥア、ア、ァアアアアアアアッ」
工場の奥からの声が止むと、倒れこんでいた強化一般人達が咆哮を上げた。
見る間に変わる。
青く膨れ上がった躯体は、まさしくデモノイドだった。
戦い始めた灼滅者達の後方では、サポートの仲間が車の移動を始めたころだろうか。
このデモノイド達を工場内に押し込むことが出来れば。
璃依は相手の一手を待たず、妖の槍を構え踏み込んだ。
「オマエ達の相手はアタシだ」
槍を器用に回転させ、射程距離内の敵を工場内に吹き飛ばす。
「デモノイド、絶対に逃がさない!」
残ったデモノイドは、アデーレが工場内へ押し込んだ。同時に敵を惑わす符をひらひらと舞わせる。
デモノイド達が工場内へ移動したことを確認し、ハリーがどす黒い殺気を立ち上らせた。
「ニンポー・鏖殺領域」
攻撃を受けるだけ受けて反撃の態勢も整っていないデモノイド。彼らに追い討ちをかけるように、その殺気で覆い尽くす。
「うん。みんな、工場の中に押し込めたね」
デモノイドと車を引き離す急襲はうまく行ったようだ。
最後にエーミィが、仲間を守るようにシールドを広げた。
「ははは。こちらへ入って来たか。まぁ、仕方が無いかな?」
入り口をふさぐように工場内で位置取る灼滅者の目に、場違いな笑みを浮かべる青年の姿が映った。
「どうした? もう少し頑張れよ」
青年――山本・栗亜は、自分に近い位置に転がってきたデモノイド2体を怪しい霧で包み込む。
傷の回復を受け、デモノイドが立ち上がる。
さらに前列に居たデモノイド達も、それぞれ戦いの構えを取った。
灼滅者達が持参した光源に明かりを灯す。工場内が明るくなり、戦いの状況が見て取れるようになった。
「ヴァンパイア……出てきたね。……キミの思い通りにはさせない!」
エーミィがWOKシールドを構え直した。
「このようなことが許されると思っているのですか?」
デモノイドを目の端に止め、詩乃が言葉を投げかける。
「ふぅん? 勘違い、しているようだけれども。何を許すのか、決める立場にあるのは僕達なんだけどね」
くすくすと笑う栗亜を、忍が真っ直ぐ見据える。
「大丈夫。皆さん、後たった数分の辛抱ですよ……吸血鬼、貴方がご存知の通りにね」
「そうですね。持ち堪えて見せるわ」
敵と距離を取りながら、楪が頷いた。
デモノイドになって10分で自壊する。
それを言い当てられた事に気がつき、栗亜が一瞬不快そうに眉をひそめた。
●その頃外では
「あっちの奇襲は成功したみたいだな。それじゃあ、こっちもそろそろ始めるか」
その頃、紺子はじめサポートのメンバーも行動を開始していた。
加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)の掛け声に、皆が車を取り囲む。
「できれば全員無事に助け出したいのう」
最悪のパターンは、車に詰め込まれている一般人が目覚め、騒ぎ出してこちらへ注意が向いてしまうこと。
シェリス・クローネ(へっぽこジーニアス・d21412)が警戒する様に、そっと車の中を覗き込んだ。
幸い、学生達は不自然な体勢で鮨詰め状態だが、まだ目覚めては居ない様子だ。
学生達がもし起きてしまったらまずいと感じていたのはスティーナ・ヘイモネン(化け狐の子・d05427)も同じだ。
(「ねむ~くな~れねむ~くな~れ……」)
心の中で呟きながら、魂鎮めの風を使う。
「車ごと運んじゃったほうがいいかしら?」
仲間のESPで音も遮断できている。一気に運んでしまったほうがいいかもしれない。
ファティマ・ブッチャー(黒い魔術師・d13000)の言葉に、皆が頷いた。
「持ち上げマス」
ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)が車体に手をかけた。
「忍法怪力無双! ぬふぅ!!」
エイジ・エルヴァリス(邪魔する者は愚か者・d10654)も腕に力をこめる。
「みんな、こっちこっち」
車を皆に任せ、箒で飛んでいた紺子が道案内をするように仲間を呼んだ。
敵が車に迫ってくる気配は無い。
車は前後左右に別れ持ち上げるとすんなりと移動させることが出来た。怪力無双を使っているので、すんなりと持って運ぶことが出来ている。
「忍さん、皆さんはボク達に任せて下さいっ」
仙道・司(オウルバロン・d00813)は安全な場所を目指しながら、車に飛んでくる流れ弾などに注意を払う。
一行は、慎重に足を進めた。
やがて、工場から遠ざかり、大きなバンを下ろせる開けた場所へ出た。
(「あとは頼みましたよ、忍さん」)
沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)が心の中でエールを送る。
「後は頼んだぞ、ハリー」
工場のほうへ視線を向け、蝶胡蘭が呟いた。
「ロストリンク、目標は回収した! 後は上手くやれよ!」
それぞれが、応援する仲間を思う。古凪・静(篝火の黒い鳥・d22713)も、工場へ向かって届かぬ声を上げた。
ずいぶん遠くまで運んできたのだ。
「うん。みんな良くねむってるねー」
硲・響斗(ミックス水道水・d03343)が車の中の様子を見る。ESPも良く効いているようで、学生達は深い眠りに落ちているようだ。この場所なら、もう敵は追ってこないだろう。
学生達の安全を確保し、デモノイド達と戦っている仲間に、連絡を入れた。
●交渉
再び、工場にて。
前衛のデモノイドが巨大な刀に変えた腕で斬りかかってきた。
不完全とはいえ、相手はデモノイド。その威力に、アデーレはバランスを崩したたらを踏んだ。
「哀れな方々……その調整不足の変身では、十分もすれば負荷に耐え切れず死にます。自分の体ですもの、注意すれば判るでしょう? 残酷なご主人にも聞いてご覧なさいな」
アデーレに向かっていたデモノイドの行動を阻害するように、忍が糸を伸ばす。
「アァアアアアアア」
しっかりと構成された糸の結界が、デモノイドの動きを抑制した。
その時、完全に場違いな、どこかで聞いたことのあるドキドキでポップな着信音が響いた。
車を避難させたと言う合図だ。
アデーレが仲間へ目配せする。
「これ以上の戦闘は無意味です。わたし達の目的は果たしました」
はっきりと言い切ると、ヴァンパイア・栗亜が腕を組んで首を傾げた。
「ニンジャケンポー・イガ忍者ビーム」
デモノイドと交戦していたハリーが、カッと目を見開きポーズを決めて必殺のビームを放つ。
そして、吹き飛んだデモノイドを追いかけるように自然に、陣取っていた入り口付近から身を引いた。
促されるように、栗亜が外へと視線を向ける。
「おや……」
そこには、本来あるはずの学生達を詰め込んだ大きなバンが……無くなっていた。
元々、小さな入り口だ。窓も上のほうにしかないため、工場の奥から常時外の様子を確認するのは難しい。そのため、今回の作戦は成功した。
「オマエが攫おうとしたヤツらはある安全な場所へ避難させてる」
栗亜の疑問に答えるように、璃依が笑った。
それは、不敵な笑みにも見える。
「操り人形達もじき壊れる。分かるだろ? どうするのが賢い選択か」
「ふぅん。まあ、後ろでこそこそやっているとは思ったが……。あの車を移動させたのか。さぞ重かったろうな」
灼滅者からの交渉を聞いているのかいないのか、栗亜が苦笑いを浮かべた。
「あら私達に見つかった時点で既にマイナスでしょう? ならそのマイナスをどこまで減らすかを考えるべきなのではないかしら」
冷気のつららを飛ばしながら、リリシスが栗亜に声をかける。
「ッ、ガ、アア」
つららの攻撃を受けたデモノイドが仰け反った。
それに気をとられることなく、リリシスは話を続ける。
「今回は結構な人員も動員されているし、継戦で貴方に利する所は無さそうに思うけれど?」
「なるほど、人海戦術という事か」
戦いを完全にデモノイドにまかせ、栗亜が考え始める。
「ふふ……力任せの策も時には悪くありませんね?」
あの車を運び終えた人数が、今にもここに押し寄せるかもしれない。そう思わせるためにも、忍が笑ってみせる。
璃依も同意するように頷いて見せた。
「うん。じゃあ、こうしよう」
それは、突然だった。
今まで中衛で回復行動だけを取っていた栗亜が跳んだ。
「なっ……?! ……切那っ」
警戒していたが、相手が数段速い。
詩乃が霊犬を呼んだ。
敵は何を思ったのか分からない。車を追う気か、それとも? ともあれ、入り口に向かったことだけは理解できた。
切那が栗亜の足止めに身体を滑り込ませる。
「ふっ」
緋色に光るナイフを栗亜が振り下ろすと、切那は簡単に吹き飛び壁に打ち付けられた。
「行かせないわ。これ以上はね」
後衛となり仲間の傷を癒していた楪が栗亜に向けて斬影刃を放つ。身体を張って、止めるつもりだ。
「追わせないよ! キミの相手は私!」
シールドを構えエーミィも飛び上がった。
二人の攻撃は、確かに当たった。
だが栗亜は足を止めない。歩きながら栗亜が武器を構える。口の端をあげ、笑ったようにも見えた。
「ああ、また勘違いしているのかな?」
巨大な禁呪が爆発する。爆風で、立っているだけが辛い。まともに攻撃を食らった後列の仲間が炎に包まれ、後ずさった。
●結末は
「いや、失礼。そうだね、これ以上戦っても、疲れるだけだ。でも、僕は奥にいたら帰れないだろう? だから、帰り道を開いたのさ」
確かに。
入り口付近に灼滅者。これに対峙する前衛のデモノイド。その後ろに、最初から場所を動いていなかった栗亜が居た。
工場には小さな窓もあるが、栗亜がゆっくりと撤退できるような場所ではない。
だから、灼滅者の間を歩いて帰るため、道を開いたのだと言う。
「なんて……、言い草なのかしら」
受けた傷を癒しながら楪が呟いた。
「大丈夫ですか!?」
詩乃も急いで癒しの風を吹かせる。
「回復が間に合わないでござるな。拙者も手助けいたそう」
ハリーも回復に加わり、態勢を立て直した。
強力な攻撃だが、すぐに総崩れになるわけではない。前衛の仲間も、急ぎ栗亜の前に立った。
「まだまだ、やられないよ!」
エーミィがデモノイド達へ突入する。その動きは龍の翼の如き高速だ。次々と敵をなぎ倒し、注意を自分に引き付ける。
これ以上後衛をやらせるわけにはいかない。
「頭が鈍い方は好きですよ。敵に限ってですがね!」
アデーレが符をばら撒く。すでに催眠による同士討ちも何度か見ることが出来た。
その様子を見て、栗亜が笑う。
「まあ、いいさ。とにかく、君たちの勝ちでいいよ。僕は帰るね。……、お前達は、僕が帰る時間を作るくらいには遊ぶといい」
「アアアアアアッ」
残された数分を戦いで終わらせよとの命令を受け、まだ無事なデモノイド達が吼えた。
言うだけ言うと、栗亜はさっさと姿を消した。
残されたのは、デモノイドと灼滅者。
「可哀相に……もうじき終わるから辛抱な」
このまま、守りながら戦えば、終わる。
璃依はロケットハンマーを持ち、デモノイドを殴りつけた。
仲間達も残った力を使い、デモノイドを撃破していった。
「ごめんなさい……」
そのたび、詩乃の声が悲しく響く。
最後の一体をし止め、灼滅者達は紺子と合流すべく車を避難させた場所へと向かった。
車は安全な場所に移動されており、学生達も無事だった。
合流した仲間は、お互いの無事を確認し合う。
(「大人って確かに私達から見たら汚いって思う事もあるわよね。でも、その大人がいなければ一人じゃ生きられないでしょう?」)
車の中に詰め込まれていた学生達が目を覚まし始めた。
楪は思う。
(「でっかいことをやるには何が必要? お金? 人脈? 力? まだ何一つとして持ってないわよね。なら今は、色々知識を吸収する時じゃないかしら」)
口だけなら誰でも言える。
それが、子供って事じゃないかしら、と。
「ん……ぁ、え?!」
眠たそうに目をこすっていた学生の一人が忍の姿を見て声を上げた。
忍は、あえて傷を治療せず、デモノイドの肉片もこびりつかせたままだ。
「自分が支払った以上のものをくれる人ばかりではありません。貴方達の言う甲斐性なしのサラリーマンは、少なくとも貴方達の生活を安全に支えてくれています。その意味を考えられなくなれば……」
哀しげな瞳で真っ直ぐ相手を見据える。
「他人を質に入れて支払う連中のコインとなって死ぬだけです。その事だけは忘れないで下さいね……」
本当の修羅場をくぐって来た者の言葉。
学生達は青い顔で黙り込んだ。
だが、彼らは全員無事だ。ヴァンパイアを撤退させ、灼滅者達も皆しっかりとその足で立ちここにいる。
それが、今回の結果だった。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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