拝啓、武蔵坂学園灼滅者諸君。
先日の新宿での戦いは見事だった。まさかあのスキュラを灼滅してしまうとは思いもしていなかった。というわけで俺は根なし草である。それはいつものことだから気にはしていないが、最近、体がうずいてしょうがない。
よって、君達に決闘を申し込む。最初に君達に出会った時と同じく、そちらは八人でお願いしたい。なお、この決闘が受け入れられない場合、何をしでかすか分からないのでよろしく。
以上の手紙が武蔵坂学園に届けられた。
差出人はオールド・グレイ。かつてはラブリンスターの下で用心棒をしていたが、スキュラ勢力の勧誘によって寝返ったアンブレイカブルである。
ダークネスの挑発に乗るのは不愉快かもしれないが、一般人へ被害が出る可能性もある以上、放置するわけにはいかないだろう。
エクスブレインによれば、オールド・グレイはストリートファイターとバトルオーラのものに似たサイキックを使い、積極的に攻撃してくるとのこと。加えて、戦場となるのは開けた土地であり、戦闘の障害となるものは何もない。
依頼はオールド・グレイと戦い、満足させることができれば成功だ。だが、灼滅できるならば、それを狙っても構わない。どちらにせよ、激戦は免れない。灼滅者達には万全の状態で臨んでほしい。
参加者 | |
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大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263) |
鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338) |
一之瀬・暦(電攻刹華・d02063) |
嵯神・松庵(星の銀貨・d03055) |
久織・想司(錆い蛇・d03466) |
八坂・善四郎(そこら辺にいるチャラ男・d12132) |
久我・なゆた(紅の流星・d14249) |
黄瀬川・花月(モントフィンステルニス・d17992) |
●灰色の男
オールド・グレイの果たし状を受け、その文面通りに八人の灼滅者が戦場に赴いた。そこにいたのは、話に聞いた灰色のコートの大男。
「やぁ、来たな。うろ覚えの住所で送ったから、少し不安だったが」
無精ひげの生えた顎をなでながら、グレイはにやりと笑う。瞳には好戦的な色が浮かんでいた。アンブレイカブル。武を求める戦人にして、狂える人外。彼もまた他の同種と同じく戦闘本能によって動いているのだ。灰色のコートの上から闘気がにじむのが、灼滅者達には見えた。
「呼び立ててすまなかった。君達がユーリウス氏を打倒したと聞いてな。戦いたくなった」
スキュラはともかく、氏が敗れるとは思わなかった、と。彼が要所を護ると聞いて、グレイは戦いに参加しなかった。ところがふたを開けてみれば、ダークネス側は完敗。主要なダークネスは多くが灼滅されてしまった。
それを知って、我慢などできるはずがない。
闘気は膨れ上がり、灼滅者達を飲みこまんとしていた。だが、この程度で臆する彼らではない。
「久我なゆた。空手を学んでいます。強くなるため、空手以外の技も使いますが!」
久我・なゆた(紅の流星・d14249)はまず一礼してから戦闘態勢に入る。言葉通り、槍とロッドをスレイヤーカードから取り出した。対して、グレイのコートも姿を変える。繊維が崩れ、波打つ灰色の砂になった。
「たまんなくイイっす!! 強敵相手にシガラミなく戦えるってステキ!」
ピンクの髪を揺らして喝采を上げる八坂・善四郎(そこら辺にいるチャラ男・d12132)。グレイが放つ気迫のせいで、肌がピリピリする。強敵への本能的な怖れと、それを上回る高揚とが頭と心を支配していた。
一方、別の意味で素敵だと思う者もいて。
(噂には聞いていたけど……――素敵だ)
重度の年上好きだという黄瀬川・花月(モントフィンステルニス・d17992)は、グレイの渋さに少し惹かれるものを感じていた。けれど、手加減などするはずもなし。むしろ全力で挑むことこそ、グレイに応えることにもなるだろう。
「善悪無き殲滅」
小さく、独語を呟くように言う。一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)の左腕に縛霊手、右腕にバベルブレイカーが装着され、さらには足元から鎖状の影業が這い出でる。殲術道具で身を固めた姿は小さな要塞のようだ。
「土筆袴、皆をお守りせよ」
古風な物言いで霊犬に指示を与える鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)。土筆袴は前へ、自身は狙いを定めるため後ろへ下がる。ここにいる仲間に比べれば、経験は少ない方だ。だからこそ、冷静に、確実にを心掛ける。
「行くぞ、龍星号!」
主の大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)の声に、ライドキャリバーはエンジン音で応える。全身が熱くなるのを感じた。血の一滴、細胞の一片さえ残らず燃えているようだった。それでいて思考はどこまでも澄んでいて、心地よい。
「嵯神・松庵だ。よろしく頼む」
嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)の脳裏には浮かぶのは、柴崎・明との戦いのこと。その理不尽な強さを体が覚えている。もう負けたくはない、と心が言っていた。
「あなたとは一度、拳を交えてみたいと思っていましてね」
唇がわずかに動いたのはもしかして笑みだったのだろうか。久織・想司(錆い蛇・d03466)の無表情からは何も読み取れない。けれど、まとうオーラはゆらゆらと揺れていて、歓喜を隠し切れていなかった。
「よし、では始めよう」
全員の顔を見渡し、グレイは満足そうに頷いた。
●砂嵐
灼滅者側の布陣はサーヴァント含め前衛が六に後衛が四。中でもスナイパーが三人という陣形はグレイの実力を考慮してだろう。
先に動いたのは当然、グレイ。拳が砂をまとい、何倍もの大きさになった。巨躯でありながら、その動きは疾風にも似る。
反応できたのは土筆袴だけ。霊犬は身を呈して仲間をかばった。けれど、灰色の拳は容易にそれを打ち砕いた。
「土筆袴……すまぬ」
相棒を一瞬で消滅させられ、忍尽の心中に怒りが宿る。だが、それも一瞬。刃の下に心あり。忍とは心を殺すこと。心を鎮め、隙をうかがう。
「徹底してインファイトで行かせてもらう」
バベルブレイカーからジェット噴射。武器もピーキーなら、暦自身も気合い頼みのピーキーな戦闘スタイルだ。全身全霊の一打がグレイへと迫る。
「迷いのない、いい攻撃だ。だが……」
杭は確かにグレイの体を捉え、串刺しにした。なのに、彼は動じもせず。手をかざせば、その先に砂の楔が生まれる。命中は必至。そこに松庵が飛び込んだ。暦を突き飛ばし、代わりに攻撃を受け止める。腕から鮮血が噴き出ても、彼は不敵に笑った。
「柴崎に比べれば、この程度はな」
「彼と戦ったのか。うらやましいな」
道理で強くなったはずだ、と心中で頷く。グレイと灼滅者達が初めて拳を交えたのは昨年の四月。それから灼滅者達はいくつもの戦いを生き抜いていた。先の『新宿防衛線』とてそのひとつ。
「真っ向勝負!! さぁグレイさん。私の拳と技を、受けてみろ!」
なゆたの拳をオーラが包み、弾丸のように加速させる。機関銃じみた拳の一撃一撃をグレイはかわし、受け流し、受け止めた。つかみどころのない動きは、それこそ砂を殴っているような錯覚を感じさせる。
「光よ舞い来たれ――」
眩い光条が花月の手から放たれ、グレイのコートを貫いた。手応えはあったが、果たしてどれほど効いているか。グレイが耐性を身に着ける技を持っている以上、状態異常は通用しないと考えた。だから、真っ向から純粋な威力で勝負する。
「燃え上がれ、筋肉っ!!」
勇飛にとって鍛え上げた筋肉は己そのもの。心技体、全てを懸けて振り上げられた斬艦刀は陽光を背にグレイへと迫る。グレイは刀身が最大加速になる前に頭突きで迎撃。
さらにそこにオーラの刃を構えた想司が突貫する。今度ははっきりと笑っていた。刃は上着を切り裂くが、その瞬間にはグレイの体はそこにはなかった。間上だ。体重を乗せたかかと落としが想司の脳天を直撃した。地面に埋まった体を起こし、にやりと笑う想司。楽しい。理由も意味もない。だから楽しい。
「ひふみよいむなやここのたり、ももちよろづ!」
善四郎は祝詞とともに癒しの矢を放つ。直接拳を交えずとも、癒し手として戦いに臨んでいる。彼の矢と風は強力に仲間を支援していた。
小細工なしの、力と力のぶつかり合い。グレイの求めていたものであり、それが実現するほどに灼滅者達が強くなったことをお互いに喜ばずにはいられなかった。
●飢獣
グレイが圧倒的な力なら、灼滅者の武器は手数の多さだ。それも的確な行動が求められる。その意味で、スナイパーを選択した忍尽の判断は正しかったといえるだろう。
「遠距離からと言う事勿れ……格上の相手に全くの無策で挑む程、愚かではないでござるよ」
光輪が虚空を走り、グレイの体を切り裂く。傷口から血が流れるが、すぐに灰色の砂に変わった。
反面、暦は思うように力を発揮できていなかった。あまりに特化した戦闘スタイルは弱点をさらすことになりかねない。
砂の牙が龍星号の鋼のボディを無数に穿ち、スクラップにした。これでサーヴァント二体が消滅。残るは灼滅者達だけになった。
「ふむ。思ったより粘るな」
集中して狙われながらも、ディフェンダーとメディックのおかげで暦はまだ立っていた。ダメージがひどく、足元も覚束ない。だが、頭から流れる血で前が見えなくても、瞳は力を失っていない。
とん、と踏みだしは軽く。けれどジェットで無理やり加速して、グレイに肉薄した。繰り出すは、右のストレート。さらに当たる瞬間に引き金を引いた。渾身の一撃。
瞬間、グレイの表情が変わる。杭は交差した両腕を突きぬけ胸を貫き、男の表情は余裕をたたえたそれから肉食獣のものへと。グレイの体が一瞬ぐらりと傾き、そして次の瞬間には後ろへ吹き飛んだ。
「……見事だ」
それでも、まだ致命傷にはなりえない。グレイは全身で地面をひっかいて着地すると、すぐに暦の目の前に来ていた。鋭い蹴りが意識を断絶する。
「素晴らしい、素晴らしいぞ今のは」
グレイの表情にもう笑みはない。獲物の動きを見極める獣であり、その根源は飢えだった。戦い。刺激。痛み。それらは全て餌であり、捕食対象なのだ。退屈は空腹と同義であり、死に等しい苦痛。だから彼は戦いを求める。
「さぁ、来い!」
灼滅者の力を喰い尽くさんと、男が吠えた。喰えるなら喰ってみろ、と若者達も力の限り叫び返す。
「言われなくても行きますよ!」
飛び出したのは想司。腕から殺気の刃を展開、全速力で突っ込む。グレイはそれを読んでいたのか、身をひねる。
「甘い!」
「どっちが!」
刃が空を切るのが見えた。避けられた? いや、認めたくない、諦めたくない、どうやっても喉下に食らいついてやる。その意志が刃を伸ばし、グレイの肩を切り裂いた。
「俺もいるぞっ!!」
勇飛もここぞと吠えた。彼の長身よりもはるかに長大な剣を再び振りかぶる。グレイもまた止めようとするが、遅い。夕日は高く跳んだ
「ちぇぇすとおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
己の全てを落下エネルギーと掛け算してぶつける。砂の盾とぶつかるが、お構いなし。今の勇飛にはあってないようなものだ。切っ先は確かにグレイへと届いた。どう、と音を立てて倒れる。が、すぐに立ち上がった。
両腕に穴が開き、右肩はかろうじて胴に繋がっている程度。ほとんど死に体であったが、その眼は闘志に満ちていた。
●決着
研ぎ澄まされた動きが刹那に二つの動きを可能にする。蹴りと拳がそれぞれ想司と勇飛それぞれの意識を断絶させた。
残り五人。最期の前衛となった松庵もどうにか立っている状態だ。メディックの善四郎とおかげだろう。また、サイキック構成もディフェンダーに適していたのかもしれない。
しかし、ここまでだ。グレイの腕を砂が覆い、獣の顎を形成。無数の牙が突き立てられ、松庵の意識が暗転する。力なく倒れた松庵をグレイは無造作に投げ捨てた。残るは後衛のみ。獣じみた唸り声を上げ、グレイは距離を詰めようとする。
が、その足を掴む者がいた。松庵だ。意志の強さが肉体の限界を凌駕したのだ。
「言っただろう。お前程度、と」
血を吐きながら、にやりと笑む。グレイの動きが止まった。
「今っすよ!」
松庵に回復を施しながら、善四郎が叫んだ。
「――断つ」
緑の刀身を赤いオーラが包む。肉を切り裂き血を貪る、吸血の牙。鞭剣を一回転して加速させ、喉下へと走らせる。
同時、なゆたも飛び出した。ポニーテールをなびかせて、グレイに肉薄する。
「これが、私の拳だ!」
拳の雪崩がグレイを圧倒した。全身を打ち抜かれ、膝を折るが、鞭剣がさらに胸を穿つ。
胸を貫通した刃を引き抜いて、松庵を吹き飛ばすグレイ。これで残るは四人。
「がああああああ!!!」
瀕死の状態であってもグレイは止まらない。理性などとっくに手放して、戦いに溺れていた。そうまで戦いを求めるなら、灼滅者達もそれに応えるのみだ。
「決めるよ!」
「ああ」
「御意!」
なゆたの槍が、花月の逆十字が、忍尽の光の輪が。スナイパーの連続攻撃がグレイの体を削っていく。グレイの反撃を受け続けながら、三人は攻撃を繰り返す。その度に善四郎が回復を施した。
「おおおおおっ!!」
「っ!」
砂の拳が善四郎の眼前に迫る。だが、命中の直前にぴたりと止まった。
時が来たのだ。いつ誰が引導を渡したのか、必死で気付かなかった。拳を構えた姿勢のまま、ぼろぼろと砂になって崩れていく。
「今のはマジで死ぬかと思ったすよ」
「俺も途中からかなりマジだったからな」
「マジっすか」
「マジマジ」
体はもう動かないのだろう、口だけが動いていた。楽しそうにからからと笑う。
「楽しかったぞ、少年少女達。さらばだ」
やがて、グレイは完全に砂となって風に消えていった。あとには何も残らない。
「終わったね」
「終わったな」
「終わったでござる」
グレイが立っていた場所には何もなくて、周りには破壊の跡だけがある。アンブレイカブルの生き方を表したようでもあった。灼滅者とダークネスは違う生き物なのだと思い知らされる。
ずっとここでじっとしているわけにはいかない。倒れた仲間を助け起こして戦場を立ち去る。冷たい冬の風が、戦いで熱くなった灼滅者達の体を吹き抜けていった。
作者:灰紫黄 |
重傷:大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263) 一之瀬・暦(電攻刹華・d02063) 嵯神・松庵(星の銀貨・d03055) 久織・想司(錆い蛇・d03466) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 41/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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