「次はどの店いく?」
「いいイタリアンの店知ってるんだ、そこ行こうぜ」
「賛成ー! ワイン飲もうよ」
「よし、そんじゃー行くかー。こっちが近道なんだ」
今日はサークルの新年会のコンパが行なわれていた。
賑やかに大学生の男女の集団が、人通りの少ない路地裏を移動していく。
「それでさー」
「マジかよ、そりゃヤバイな」
各々良い気分で顔を赤らめ、好き好きに話をしながら狭い道を広がって歩く。その時、すれ違うフードを被って俯く人とぶつかってしまう。
「痛て! おい、きーつけろ!」
酔って気が大きくなっていた男は、ぶつかった相手の胸倉を掴んで引き寄せた。
「あ? ……ひぃっ!?」
男は手を放して尻餅を突く。立っていた相手のフードが脱げ、顔を照明が照らした。
そこにあったのは額に大きく穴を開け、血で汚れた少年の顔だった。その穴は後頭部へと貫通し後ろの景色を映している。誰が見ても致命傷だった。なのに何事も無いように少年は動いている。
「あ、穴が……化け物!」
「きゃーーー!」
路地裏から逃げようとする大学生達。だがいつの間にか、その先にも同じような少年少女が立ち塞がっていた。
胸に大きく穴の開いた者、顔の皮膚が爛れ骨が見えている者、腕がもがれている者、首が抉れ頭が傾いている者。
死者達はゆっくりとその包囲を狭め、逃げ道を失った大学生達の悲鳴が大きくなる。だがそれもすぐに止んだ。残されたのは静寂と無残な死体だけ。
アルコールと血の混じった臭いが立ち込める中、動く死体達はひっそりと人気の無い路地裏へと姿を消した。
「やあ、あけましておめでとう」
教室で出迎えると、能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)はまずはと新年の挨拶をして頭を下げた。
「新年早々で悪いんだけど、新しい事件が起きているんだよ」
そう言って早速事件についての説明を始める。
「どうも病院勢力の灼滅者の死体を元にしたアンデッドが、新宿の街を徘徊しているようなんだよ」
新宿周辺で何か探しているように行動しているようだ。
「人目を避けるように活動しているみたいだけど、人の多い場所だからね。出会った人間はみんな殺されてしまうんだ。だから犠牲者が出る前に、みんなにはこのアンデッド達を灼滅して欲しいんだ」
目的は分からないが、放っておくと犠牲者が出てしまう。
「敵の数は5体。灼滅者のアンデッドだからね、武器もサイキックも生前に応じたものを使ってくるんだ。通常のアンデッドよりも強いから油断はできないよ」
アンデッドに意思のようなものはなく、命令に従っているだけのようだ。
「数は多いけど、アンデッドになっている所為で生前よりも能力は落ちてるはずだよ。みんなの力なら十分意倒せる相手だ。犠牲者を出さないように倒して欲しい」
戦いになるのは狭い路地裏だ。一般人が巻き込まれないよう気をつけねばならない。
「死んで敵に利用されるなんて、そんな酷い話はないよね。このままじゃ成仏もできないよ、なんとしても彼らを楽にしてあげて欲しい。お願いするよ」
誠一郎の言葉に頷いて教室を出ると、死者となった灼滅者を救いに新宿へと向かった。
参加者 | |
---|---|
穂邑・悠(火武人・d00038) |
高良・美樹(浮草・d01160) |
フィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411) |
村雨・嘉市(村時雨・d03146) |
羽守・藤乃(君影の守・d03430) |
月見里・无凱(深淵に舞う銀翼・d03837) |
アウグスティア・エレオノーラ(雪原の幻影・d22264) |
白崎・白乃(少女ジキルとハイド嬢・d22714) |
●彷徨う者
新年が始まり、正月休みからいつもの生活へと戻り始めた頃。
夜の居酒屋では、社会人や大学生のグループが新年会と称して楽しそうに飲み食いしている。
そんな騒がしい街中を不景気そうな顔で少年少女が通り抜ける。その先にあるのは人気の無い路地裏。
「病院関係者たちのアンデッドとはな……ちっ、もう……灼滅してやるしかねーじゃないかよ」
やるせない気持ちを、穂邑・悠(火武人・d00038)は舌打ちと共に吐き出す。
「命をかけて戦うなんて簡単にできることじゃねえ。だから、病院の灼滅者たちはきっと勇ましかったんだろうと思うぜ」
村雨・嘉市(村時雨・d03146)から発せられる気迫に、周囲の一般人は距離を取る。
「それなのに死んだ後もこうして利用されるなんて浮かばれねえ……」
「死者への冒涜、許し難いですわね。彼らは凄まじい覚悟をもってダークネスと戦った……その眠りを弄ぶなど……言語道断です」
毅然とした態度で羽守・藤乃(君影の守・d03430)は戦場となる狭い路地裏に足を踏み入れる。その顔には戦う者の覚悟がみえた。
路地裏に人の気配はない。猫一匹いる様子もない。だが灼滅者達の鼻には嫌な臭いが感じられた。それは死の香り。
「何を探しているのかは知らないが、犠牲者を出すことなく彼らを灼滅してやるのが同じ灼滅者としての務め……」
挑発するように殺気を放ちながら、月見里・无凱(深淵に舞う銀翼・d03837)は陰に潜む者に鋭い視線を向けた。
ゆらりと現われたのは5つの人影。照明がその顔を照らす。そこには土気色の死者の顔があった。
「死してなお戦うなんて働き者だね、そろそろ休んだら良いんじゃない?」
これから起きる騒ぎの音が漏れないよう結界を張りながら、高良・美樹(浮草・d01160)は肩を竦める。
「……貴様たちの戦いは、もう終わった。もう戦う必要はない」
病院を守る為に戦った灼滅者達の成れの果て、その前にフィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411)が立ち塞がる。
先頭の大剣を持ったゾンビが剣を振り上げ襲い来る。
「貴様たちの戦いは、私たちが終わらせよう。故に、『始めるぞ、塵も残さぬ殲滅戦を』」
影が蠢き背中から蝙蝠の羽のように広がる。屈んで唸りを上げて迫る大剣を避けると、すれ違い様に羽が刃の如くゾンビの腹を切り裂いた。どろりと腐った体液が溢れ出る。
「みんなゾンビになっちゃったんだね。可哀相だから早く楽にしてあげようよ!」
白崎・白乃(少女ジキルとハイド嬢・d22714)が邪気の無い目をアンデッドに向ける。
そこへ毒々しい紫の液体が入った注射器を手に襲いくるゾンビ。
「塵は塵に、灰は灰に! 渇かず、飢えず、無に還れ!!」
人が変わったように荒々しく白乃は、どす黒い殺気を放ちゾンビを飲み込む。ゾンビは鼻と口から体液を吐きながらも迫る。
「なんと哀れな……。かの方々は守りたいものの為に戦い死んでいったというのに……」
目と閉じて祈るように、アウグスティア・エレオノーラ(雪原の幻影・d22264)は首からさげているロザリオを強く握る。
(「……我らに……主のご加護があらんことを……」)
アウグスティアは手にしたギターをかき鳴らす。激しい音の衝撃が注射器を持ったゾンビを吹き飛ばした。
ゾンビは痛みなど感じていないように起き上がる。他のゾンビ達も一斉に獲物を手に襲いかかってきた。
●死者の群れ
斧を振り上げるゾンビを前に、悠がカードを手に立ち向かう。
「来いよ、俺の炎!」
顔の前に翳したカードが炎に包まれる。そこからぬうっと引き抜いたのは巨大な刀。振るうと火の粉が飛び散る。
「いいぜ。最後に遊び相手を務めてやる」
甲高い音と共に斧と刀がぶつかり合う。火花が飛び散り衝撃に両者共に弾かれる。そこへ嘉市が飛び込んだ。
「仲間を守る為の刃で人を傷つけてんじゃねえよ!」
怒りと共に燃える拳をゾンビに叩き込み、吹き飛ばす。燃えながら斧を持ったゾンビは地面を転がる。
その時、闇を照らす光が奔る。後方からライフルを構えたゾンビの銃口が嘉市に向けられていた。その一撃を割り込んだフィクトが影を盾にして受けた。
「無駄だ、私が居る限り攻撃は通さん」
左腕に焼けるような痛み。だが全く表情を変えずに睨み返した。
「死んでも腕は鈍ってないんだね……腐ってないの方が合ってるかな?」
軽口を叩きながら、美樹はすぐに剣を振るい癒しの風でフィクトの傷を癒す。
そこに、死角から隻腕のゾンビが近づく。残った右腕には巨大な杭打ち機が装着されていた。だが射程に入るよりも先に、霊犬が駆け寄り口に咥えた刀でゾンビの足を斬り怯ませる。
起き上がる斧を持ったゾンビに、注射を刺そうと近寄るゾンビ。
「お出でなさい、鈴媛」
藤乃の手に銀の大鎌が握られる。深く吸い込まれそうな紫の瞳がゾンビを映す。ぴたりとゾンビの動きが止まった。魔術により熱を奪われ凍結したのだ。
「総てを肯定し抗い続ける……『Endless Waltz』」
无凱の手に現われたのは白銀と漆黒のキャッツアイ効果で煌く長柄の剣。それを横一閃に振り抜くと、ゾンビの手からぽろりと注射器が落ちて砕け、上半身がずり落ちて転がる。
だがゾンビはそんな姿になってもまだ這うように動こうとする。そこへ光条が射しゾンビの頭部を撃ち抜いた。
「……もはや……見るに耐えない……すぐに眠らせてやる」
銃身の長いライフルを構えたアウグスティアが顔をしかめ、次の標的へ銃口を向ける。
大剣を持ったゾンビが大きく踏み込み、薙ぎ払うように剣を振るおうとする。しかし、そこで動きが停止した。
「よーし! 動きを止めたぜ!」
見れば白乃が瓦礫を束ねたような腕を展開し、ゾンビの周りに結界を張り巡らせていた。
「貫け!」
悠が槍を手に突撃するような勢いで駆ける。その穂先は動けないゾンビの腹を貫き、捻るように穿つ。
元々あった胸の穴と繋がるようにゾンビの体に大穴が開く。だが気にもせず大剣を振り下ろした。悠は槍で受け流すと大剣は肩を浅く裂き、そのまま槍を滑り落ちてアスファルトを削る。
そこへ横手から斧を持ったゾンビが突撃してくる。野球のようにフルスイングした斧が唸りをあげる。悠は咄嗟に槍で受け止めるが、そのまま吹き飛ばされ壁にぶつかる。斧の勢いはそれでも止まらず、更にフィクトにも襲い来る。
「……はっ!」
全力で振り下ろした剣をぶつける。重い手応え。斧は軌道を変えてフィクトの足を少し切りそのまま壁に突き刺さった。
「いっちょやるぜ!」
「では私はこちらから……」
その隙を逃さずに嘉市は影を刃に変えて背中を切る。斧を引き抜き振り向くゾンビ。そこに藤乃が反対側から大鎌に炎を纏わせ振り抜いた。袈裟斬りに首から胴へと線が入り、ゾンビは二つに別れて燃え尽きた。
死体を焼く炎を貫き、大きな杭が打ち出される。藤乃は反射的に大鎌を持ち上げる。心臓を貫こうとしていた杭は狙いを外れ右肩に刺さる。高速回転する衝撃が体中に伝わり、藤乃は壁に打ちつけられコンクリートにひびが入る。
「ぐっ……はぁ……」
崩れ落ちる藤乃に向けて、もう一度杭が向けられる。
「させん!」
无凱がその杭を影で弾き上げる。続けてアウグスティアと白乃が、輝く十字架から放つ光線と相手を呑み込む殺気で敵の動きを止める。
「この程度ならすぐ塞がるよ、アンデッドとは違うからね」
美樹は藤乃の肩を見てそう言うと、温かな光を放ってその傷を治癒していく。
ゾンビが手にした杭をずりずりと引きずりながら、真っ直ぐに歩いて灼滅者へと迫る。
●灼滅
パチパチと腐った肉の焼ける異臭が漂う。残った3体のゾンビは仲間が倒れても何も感じず、ただ目撃者を消そうと機械的に動くだけだった。
「罪深き者に報いを……正しき者に救いを!」
祈るように唱えた言葉と共に、アウグスティアの手から光が放たれる。前に出たゾンビが大剣を盾にしてそれを受ける。だが防ぎきる事は出来ずに光が手足を焼く。
「動き回らなけりゃ早く楽にしてやるぜ」
白乃が腕を突き出し結界が張られる。その力は重圧となってゾンビを捕らえた。
「操られ誰かを殺める前に……灼滅してやる」
无凱が剣を振り抜く。その瞬間、狙い澄ました光条が駆け抜けた。无凱の頭部を狙った一撃を、オーラを纏ったフィクトが腕をクロスして受け止める。
「聞いていなかったのか? 仲間を攻撃したいなら私を先に倒すのだな」
服が破れ焼けたように傷つく腕から血が流れる。だが引く事なく光線を抑え込んだ。
その間に无凱の剣は大剣を持つゾンビの左腕を斬り飛ばした。それでもゾンビは残った片腕で大剣を構える。
「きっと生前は腕の立つ灼滅者だったんだろうね」
そんな動きを見て美樹は僅かに眉をひそめる。そして小さく首を振って表情を変えないまま、剣を振り抜くと癒しの風で仲間達の怪我を治す。
「その刃はここで折らせてもらう。あんたたちはもう刃を向ける必要なんてねえんだ」
嘉市は剣に炎を宿し上段から振り下ろす。ゾンビは大剣でそれを受けた。力の押し合いで剣が止まる。しかし宿る炎は大剣から腕、そして体へと伝わり皮膚を、肉を焼く。
そこへもう一体のゾンビが近づき、嘉市へ向けて杭を打ち出す。
「貴方の相手は私がいたします」
間合いを詰めた藤乃は大鎌を薙いで弾き、ゾンビと対峙した。
「そのまま燃え尽きろ!」
火の付いたゾンビに向け、悠が槍を突き出す。大剣を振るいゾンビはそれを防ごうとするが、霊犬が刃でそれを受け止め妨害した。槍はゾンビの胸を貫きそのまま壁に突き立った。
くぎ付けにされ、身動きがとれずにゾンビの体は焼けただれ崩壊していく。それでもゾンビは大剣に炎を纏わせて投げるように振り抜く。悠は槍を手放して地面を転がるように避ける。大剣は地面に突き刺さる。
「主よ……願わくば……彼らに安らかなる安寧を……」
アウグスティアの向けた銃口から放たれた光が、くぎ付けのゾンビの頭部を吹き飛ばし、びくんと体が断末魔のように痙攣すると動かなくなった。
奥からゾンビがアウグスティアに向けて銃の狙いをつける。それを白乃は視界に入れ、魔力を高める。
「凍っちまえ!」
瞳に映る空間が凍りつく。引き金を引こうとしたゾンビの指が僅かに遅れた。その間に无凱は間合いを詰める。ゾンビは狙いを変え、迫る无凱に向けて光線を放った。无凱は天使の彫られたコインを掲げると、エネルギーの盾が天使のような形状となって現われ、光線を受け止める。
振り下ろす剣。それをゾンビは銃身で受け止めた。間近にゾンビの顔を見る。爛れた皮膚から骨が覗く。よく見れば線が細く輪郭が整っている。そこから元は美しい女性であったのが分かる。
「哀れな……今その呪縛から解放ってやる」
无凱はライフルを断ち切る。ゾンビは銃を捨て魔法の矢を放つ。だがその一撃はフィクトの投げた槍によって阻まれた。
「もう戦う必要はない。貴様たちの戦いは、私たちが終わらせよう」
足元から伸びた影がゾンビを呑み込む。
「これでどうだ!」
続けて白乃の張った結界に捕らわれ、ゾンビは身動きがとれなくなる。
「眠れ……」
无凱の剣が一閃する。銀と黒の輝きが奔り、ゾンビの体を横に切断した。
地面に倒れたゾンビは眠るように目を閉じると、そのまま土塊へと姿を変える。
残った最後のゾンビは灼滅者へ向け次々と杭を打ち込み、壁や地面に穴を開けていく。
「元気が良すぎだね。もう少し死体らしくしてなよ」
美樹が弓を引き矢を射る。風を切り飛翔するとゾンビの胸に突き刺さる。だがゾンビは引き抜きもせずに攻撃を続ける。美樹に向け歩を進めようとしたところへ、霊犬が銭を撃ち込み足を止めた。
「まるでゾンビ映画だね。じゃあこれはどうかな?」
美樹が次に放ったのは光。それはゾンビの目を照らし視界を奪った。
「後は貴方だけですわ。仲間の方もきっと待っていますよ」
大鎌に炎が宿る。くるりと回転させると炎が渦となる。勢いをつけて振り抜いた一撃は腹を抉り、垂れ出る内臓を焼いた。だがそのままゾンビは歩み寄り拳を固めて杭を打ち込む。その一撃を悠が大きな刀を斬り上げて杭を弾く。
「そろそろ遊びの時間も終わりだ。疲れただろ? ゆっくり眠れよ……」
悠はそのまま上段から刀を振り下ろす。焔が奔りゾンビは一本だけだった腕を斬り落とされた。
それでもゾンビは鋼の如く鍛えられた体で蹴りを放つ。
「邪悪なる力を打ち消し給え」
アウグスティアの放つ光が蹴りとぶつかり四散する。ゾンビはその衝撃に蹴り足を押し戻されバランスを崩す。
「これが葬送の炎だ。受け取れ」
立ち込めるような霧状のオーラを纏った嘉市がゾンビの目の前に立つ。燃え盛る拳を真っ直ぐに打つ。ゾンビもまた蹴りを放った。交差する二人。
蹴りは嘉市の脇腹に入り肋骨を折る。そして嘉市の拳はゾンビの胸を貫き背中に突き出る。炎は体内からどす黒い血を沸騰させ、全身を火達磨にした。
よろよろと炎に巻かれながらもゾンビは戦おうと歩み、そして力尽き倒れた。
●伝わるもの
「アンデッドではなく、灼滅者としてあの世に逝くといい」
无凱は剣を納めながら倒れ伏す死者を見送る。死者は動かなくなると唯の土塊へと姿を変えていった。
ぼろぼろと体を保てなくなり、朽ち果てようとする死者に悠が声をかける。
「肩を並べて戦えはしなかったけど、俺らは仲間だ。あとは任せてくれていいぜ?」
「貴方がたの死を汚し、理不尽に使役したダークネスは……必ず滅しますわ。お約束致しますから……どうか安らかに」
藤乃も真剣な表情で死者に語りかける。死者は顔を上げ感情の無い瞳で見つめると、土塊へと戻っていく。最後に見せた顔は、全てを託して安堵していたようにも思えた。
「屍王も胸糞悪いことしてくれるね」
「安らかに眠ってくれてるといいんだがな」
淡々と美樹は武装を解くと、僅かな間、目蓋を閉じる。それは散った灼滅者に対するせめてもの敬意だった。
全ての死者が消えるのを見届け、嘉市はそう呟く。
(「主の御許にいけたのでしょうか……あるいは……いや、きっと大丈夫でしょう……」)
ロザリオを握り、アウグスティアは病院の灼滅者達の安寧を願う。
「ねえ、この土を少し持って帰ってお寺か教会で供養してもらおうよ!」
白乃の提案に仲間達も賛成する。それぞれ少量の土を集めた。
「長居は無用だ。行こう」
作業が終わると、フィクトは消えた死者に一礼して踵を返す。
皆もそれに続き、薄暗い路地裏から表通りへと出る。ネオンの光が眩しく照らした。
灼滅者は戦い続ける。たとえその先にどんな運命が待っていようとも、戦う理由が在る限り命を賭して戦う。
目蓋に焼きついた病院の灼滅者達の姿は、それを体現していた。
それぞれの想いを胸に、灼滅者は夜の闇へと姿を消した。
作者:天木一 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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