ロシアンロール寿司の侵略

    作者:泰月

    ●ロシアンタイガーロール
     千葉県は南房総市にある小さな商店街。
    「おお、そこ行くサラリーマン達よ!」
     正午を回ったお昼過ぎ。昼食をどこで取ろうかと歩いていたサラリーマン2人組みの前に、突如、サーモン色の円筒形の頭部を持つ謎の怪人が立ちはだかった。
    「今日の昼食はロシアンタイガーロールで決まりだな!」
     そう言って差し出されたのは、外側をサーモンの身で巻いた太巻きであった。
    「あー。俺パス。寿司って気分じゃねぇから、ラーメンでもがごがっ!?」
     一瞥してあっさりと首を横に振ったサラリーマンの口に、問答無用で突っ込まれた太巻き。
    「決まりだな?」
    「……い、頂きます」
     悶絶した同僚の惨状と有無を言わさぬ怪人の語調に折れ、残るサラリーマンは、諦めきった顔で太巻きを口に運んだ。
    「あ、あれ?」
     だが食べてみると、意外と美味しい。
     外側に巻いてあるサーモンは程良く油が乗っており、中のチーズとの相性も良い。
    「それに、何だこのぷちっとした歯ごたえ……えっ!?」
     断面を覗いて吃驚。酢飯の中に黒い粒粒が入ってるではないか。
    「もしかして……キャビア?」
    「いかにも! ロシアンタイガーロールは、ロシア産キャビアを使っておる」
     サラリーマンの反応に、満足そうに鷹揚に頷く謎の怪人。
    「キャビアも買える潤沢な資金があれば、金の力でロシアンパワーを増大させて世界征服出来る日も遠くはあるまい……おっと、そこ行く女学生よ!」
     今度は通りすがりの女子高生に目をつけると、再び強引に太巻きを勧める怪人であった。

    ●太巻き祭り寿司の危機
    「我の聞いた、ロシアンロール寿司の侵食の噂、真であったとな?」
     教室に入ってきたワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)の言葉に、夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)は小さく頷いた。
    「そうよ。ロシアンロール寿司怪人に、千葉県の郷土料理、太巻き祭り寿司がロシアン化されつつあるわ」
     太巻き祭り寿司とは、断面に模様や文字が見えるように具材を巻いた太巻きの事だ。
     200年程前、江戸時代の頃に考案されたと言われる、歴史あるご当地料理である。
    「怪人は、ロシアンタイガーロールって言うのを太巻き祭り寿司に代わって広めようとしてるわ」
    「ロシアンタイガーロール?」
     聞き返したワルゼーに頷き返し、柊子は言葉を続ける。
    「外側を海苔じゃなくサーモンで巻いてある巻き寿司みたいね。断面は虎をイメージした模様で、具材がご飯と海苔とフレッシュチーズと、キャビア」
     寿司にチーズとキャビア。組み合わせの意外さもさる事ながら、キャビア。材料費いくらになっているのか。
    「かなりの資金があるみたいね。お金に物を言わせて世界征服を狙ってるみたいよ」
     しかも、道行く人を捕まえて食べさせるだけの数を作っていると言う。
     よほど潤沢な資金があるのだろう。
    「か、怪人のくせにお金持ちだと……」
     お金大好きなワルゼーが、小さく呟いていた。
    「怪人は正午過ぎの商店街に現れるわ。これから昼食って人が狙われ易いわよ」
     確かに、昼食を食べに来た人や買い物客で賑わう時間帯だ。
    「でも、怪人が来る前に商店街のお客さんを避難させちゃうと、怪人は他の人が多い所に行っちゃうわ。だから、怪人が現れてから周りの人を避難させるか、場所を変えて戦うか、ね」
     怪人が意図的に一般人を攻撃したり、人質にする事はないが、周りに一般人はいない方が何かとやり易いだろう。
    「サイキックはご当地ヒーローと同じものに加えて、光を放つロシアンタイガーロールを武器にしてくるわ。サイキックソードに近いわね」
     それもう寿司じゃないだろうって空気が一瞬流れた気もするが、突っ込みの声は上がらなかった。
     ご当地怪人のその辺に突っ込んでたら、キリがない。
    「あとはキャビア戦闘員が3人。太巻き祭り寿司作りが上手な一般人達よ。ロシアンタイガーロール作りの為に配下にしたみたい。あんまり強くないわ。怪人を倒せば元に戻るから一緒に助けてきてね」
     ちなみにキャビア戦闘員の格好は全身タイツにキャビアの被り物。
     穴は開いてるので、前が見えないって事はないみたいだ。
    「このまま怪人の思い通りにさせてると、節分の恵方巻き需要に便乗されて、更にロシア化が進んでしまう恐れがあるわ。そうならないよう、今の内に倒して来てね」
     1月中に予知できて良かった、と小さく付け足して、柊子は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    一之瀬・梓(紫紺の霊眼・d02222)
    黒部・瑞葵(ナノ魔法少女・d03037)
    室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135)
    守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    クーガー・ヴォイテク(白炎の速度狂・d21014)

    ■リプレイ


     正午を告げるチャイムが響く頃。灼滅者達の姿は、とある商店街にあった。
    「はぅ、おなかすいたの~」
     黒部・瑞葵(ナノ魔法少女・d03037)がキョロキョロと辺りを見回す。
    「ご飯系を食べたいの~。お寿司とか素敵なの~」
     わざと周りに聞こえるように、意識して声を上げる瑞葵。
    「えぇ。太巻き食べたいですね。変わり種の太巻き、ないでしょうか」
     その隣を歩く室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135)も、普段の彼女であればあまり出さないような大きな声を出していた。
    「巻き寿司と言えば、同じ種類ばかりで飽きてきたのォ……。しかしこれが一番スタンダードで美味しい。財布に優しい学生の強い味方だな」
     2人に続いて、ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)がそう言った、次の瞬間。
    「そこの少年少女達よ!」
     サーモン色の円筒形の頭部を持つ明らかに怪人っぽいのが、ダッシュで現れた。
    「聞こえたぞ? お腹がすいてる、太巻きが食べたいとな!」
     後ろから、黒い球体を被って大八車を引いた3人組も着いて来ている。間違いなく、ロシアンロール怪人とその配下だ。
    「ならば、今日の昼食はロシアンタイガーロールで決まりだな!」
    「美味しそう!」
     ずいっと怪人が差し出してくる太巻きに、香乃果が弾んだ声を上げる。
    「うーん、サーモンの変わり寿司、なぁ」
     その傍らで、ロシアンタイガーロールを興味深げに見つめる守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)は、しかし小さく首を捻る。
    「ただの変わり寿司ではない。豪華な具を使った高級なロシアン太巻きだ!」
     神楽の意図通り、更にロシアンタイガーロールをアピールしてくる怪人。
    「噂は本当だったの。豪華な巻き寿司が食べられると聞いて来たの。と言うわけで、一丁くださいなの」
    「ほうほう! 話に聞いていたか。お前達! こちらの少年少女達に、ロシアンタイガーロールを!」
     続く小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)に、怪人は気を良くした様子で配下を呼びつける。
    「立って食うんもなんやし、どっかで座ってゆっくり食おうぜ」
     キャビア戦闘員達がロシアンタイガーロールを出してきたのを見て、待ったをかける神楽。
    「そうですね……向こうに見える駐車場に移動しませんか?」
    「良かろう。行くぞ、お前達!」
     駐車場を指差した香乃果に頷くと、戦闘員達を促し駐車場へ向かい始める怪人。
     その後に続く灼滅者達の最後尾を歩く壱越・双調(倭建命・d14063)は、周囲の人々の様子を確認し、少しだけ気を緩めた。
    (「……ここでは早過ぎますね」)
     遠巻きに指差したり驚いたりと、様々な視線を怪人に向けているが、逆に言えばその程度の反応だ。
     この状況で殺気を放ち、周囲の人々を一斉に遠ざけてしまえば、不自然だと思われかねない。
    「美味そうだな、それ。俺も一緒に貰っていいか?」
     信号に引っかかった所で、さも犬の散歩の途中で偶然に遭遇した風に一之瀬・梓(紫紺の霊眼・d02222)が現れる。
    「良いぞ。ロシアンタイガーロールはたっぷりある」
     怪人は特に梓を怪しむ事もなく鷹揚に頷くと、信号が変わったのを見て歩き始める。
    (「誘い込むのは上手く行ったみたいだな」)
     1人駐車場に待機していたクーガー・ヴォイテク(白炎の速度狂・d21014)は、隠れた車の陰から僅かに顔を覗かせて、その様子を伺っていた。
    (「じゃ、出番が来るまで、待つとするか」)
     怪人と仲間達が駐車場に入ってくるのを見ながら、クーガーは再び車の陰に身を潜めた。


    「キャビアのぷちぷち感、しっとりした鮭とチーズのハーモニー。成る程、これは極上の一品だ」
     ワルゼーの口を突いて出る、賞賛の言葉。
     そう。灼滅者達は、本当にロシアンタイガーロールを食べていた。
     駐車場に誘い出したのは戦う為だが、それはそれ、これはこれ、と言った所か。
    「寿司っち要するに調和の世界やん。如何に高価な材料をつかっても、調和されちょらんと美味しくないんちゃうん?」
     食べる前はそう言っていた神楽も、お茶を片手に口いっぱいに頬張っている。
    「ゴージャスな味ですね……美味しいけど原価高そう」
    「ふふん。潤沢な資金があれば材料費など、どうにでもなる」
     金銭面を気にした香乃果の言葉に、満足気にふんぞり返る怪人。
    (「潤沢な資金、極上の味覚……ロシアン化も悪くない気がしてきた」)
     それを聞いて、ちょっと心が折れそうになるワルゼー。
    「サーモンで巻く寿司はアリだ。それは俺も認めよう。ご飯にチーズは邪道だと思うが、まあ合わない事もない……だが、野菜をも入れたらどうだ?」
     淡々と感想を述べながら、真顔で突っ込む梓。
    「チーズ以外のバリエーションもあったら頂戴なの」
     気に入ったのだろうか。眠そうな顔のまま、戦闘員に追加を要求する美海。
     『食べ物にハズレなしが食べ物系ご当地怪人の良い所』と言う彼女の認識は、今回も外れなかったようだ。
    「美味しいね~、もここ。もう1個貰おうか~」
     ナノナノのもここと1本を半分に分け合って食べていた瑞葵が、美海の様子を見てお代わりを提案する。
    「ナノナノ~♪」
     サーヴァントは物を食べた所で特に意味はない筈だが、瑞葵の提案に、もここはなんだか嬉しそうな鳴き声を上げる。
    (「俺も食えば良かったかも……」)
     サイドミラー越しに仲間達の食事風景を眺めながら、クーガーはちょっぴり暇してた。
     車の陰に隠れ続けるのも、仲間達がロシアンタイガーロールを食べ終わるまでの辛抱――と思った直後、怪人の大きな声が響く。
    「お前も食べろ! 食えば判る!」
     怪人に詰め寄られても、双調は腕を組んだまま表情を変えず首を横に振る。
    「ならば、無理矢理にでも味わ――」
    「もう良いですか、皆さん?」
     業を煮やした怪人がロシアンタイガーロールを構えるのを無視して、双調は仲間達に問いかけた。
     全員が食べ終わるまで待つつもりでいたが、こうなっては多少急かす形になっても仕方ない。
    「太巻き祭り寿司は房総の皆様が大事に伝統を守ってきたもの。それを排斥するなど、津軽のご当地ヒーローとして断じて許せません」
     仲間達がそれぞれ口元を拭いながら頷いたのを確認し、双調は怪人に冷たく言い放つ。
     津軽三味線の伝承者でもあり、己を伝統の護り手であると自負しているからこそ、彼はロシアンタイガーロールを頑なに拒否し続けたのだ。
    「俺は伝統文化至上主義ってわけじゃないが、ダークネスの好きにはさせない。フォルン、行くぞ」
     立ち上がった梓が怪人を見据えて宣戦布告。
     主の意志を受けて、霊犬のフォルンがその前に出る。
    「とっても美味しかったけど、ロシアン化は見過ごせないのです……ごめんなさい」
     広がった殺気で人々の足が駐車場から遠ざかり始めると同時に、香乃果によって音を遮断する結界が張られた。
    「た、大将! こりゃあ一体……」
     急に態度を変えた灼滅者達に、狼狽えるキャビア戦闘員達。
    「お前達の野望はここまでだってこった。だろ、教祖様?」
     霞がかった様なオーラを纏ったクーガーが、車の陰から姿を現す。
    「うむ。ロシアンタイガーロールも捨てがたいが、ゲルマン出身として、これ以上ロシアンの侵食を許すわけにはいかん!」
     クーガーに頷き返しながら立ち上がったワルゼーも、びしりと怪人を指差す。
    (「そう、我は誇り高きゲルマンのご当地魔法使い。金や食べ物に屈するわけにはいかんのだ!」)
     内心、まだちょっと怪人の豊富な資金ショックが残っていたけれど。
    「チェーンジケルベロース! Style:DeepBlue!」
     神楽の全身が碧い輝きに包まれ、ご当地ヒーローケルベロスの姿に変わる。
    「もここ、ロシアン怪人退治、一緒にがんばるの~」
    「ナノ」
     もここに呼びかける瑞葵の姿は、ナノナノそっくりになっていた。更にナノナノを模した小さな人形の付いたロッドを構えれば、大中小のナノナノが。
    「灼滅者か。嵌められたと言う事か……お前達、戦闘態勢につけ!」
    「……ごちそうさまでした、なの。という訳で、毒の風、吹き荒ぶの」
     怪人の飛ばす指示と同時に、美海のかざすイフリートの牙を思わせる焔色のナイフから放たれた毒の風が、戦いの開幕を告げた。


    「98度の熱湯、地獄八湯が一つ海地獄の力や! 熱湯かければ味落ちるやろ?」
     割と外道な事を言いながら、神楽が轟と猛る炎を纏わせたバベルブレイカーで怪人に殴りつける。
    「大将、頑張れ!」
    「負けるな大将!」
    「立つんだ、大将!」
     大八車の陰からキャビア戦闘員達が飛ばす声援が、怪人の身体に活力を与え、燃え移ったと思われた炎が消えていく。
    「なんの、これしき。サーモンもチーズも、熱を加えても美味しいのだ!」
     怪人の掲げるロシアンタイガーロールから、サーモンピンクの光が溢れて弾ける。
    「ちっ。やっぱ面倒くせえな、あいつら」
     怪人の攻撃から仲間を庇いつつ戦闘員達を横目で見やり、舌打ちするクーガー。
     彼が抑えるつもりでいた戦闘員達は、戦いが始まるなりダッシュで怪人の後ろへと駆け込んで行くと、怪人の回復に専念し続けていた。
    「確かに少し面倒であるがな。問題はあるまい」
     ワルゼーの握る愚か者を天に返す刃が、破邪の輝きを纏いながら叩き込まれる。
     戦闘員3人を後衛に配し怪人の1トップの布陣に対し、灼滅者達は怪人に攻撃を集中させていた。
    「良いのか? 戦闘員がいる限り、我は倒れぬぞ」
    「無駄弾をばらまく趣味はないからな。お前を倒して、さっさと決める」
     怪人の言葉をさらりと流し、梓は掌中で凝縮した魔力を開放する。放たれた魔力の矢の軌跡を追った霊犬が、咥えた退魔の刃で怪人を斬り付ける。
    「夜霧、包み込むの」
     美海の展開した夜霧が、前に立つ仲間達の身体を包み込み、その姿を虚ろに隠す。
    「もここ、お願い」
    「ナノ♪」
     瑞葵が構えたロッドから魔力の矢を飛ばしつつ呼びかければ、もここが癒しのハートを飛ばした。
    「手数は確実にこちらが多い。押し切れる可能性は、充分にある筈です」
     鬼の様に巨大に変貌した腕に白いオーラを纏わせ、双調は握った拳を強く叩きつける。
     癒しきれないダメージが溜まっていくのは、灼滅者達も怪人も同じ事だ。
    「それに、これなら戦闘員の人達を傷つけずに済みます」
     薄藤を残し色の抜けた髪を揺らして縛霊手を叩きつけ、霊力の網に怪人を捕らえながら、香乃果が静かに告げる。
     それこそが、灼滅者達がこの戦い方を選んだ大きな理由。
     距離を取られたからと言って、戦闘員に届く攻撃が限られるだけ。だが、手加減を加える事は出来ない。
     配下にされていても、元は一般人。彼らに致命的な傷を与えたくない――全員が同じ想いでいた。
     故に8人と2匹の視線は、怪人に1人に向けられていた。


    「ロシアンローリングソバット!」
     力強く地を蹴って、背中を向けて跳び上がる怪人。
    「おいおい……俺を無視するんじゃねえよ!」
     梓を狙って放たれた跳び回し蹴りを身体で阻みながら、クーガーが零距離でガンナイフの銃床を叩きつける。
    「お札さん、回復よろしくなの」
     重たい衝撃によろめいたクーガーへと、美海が展開した護符をすかさず飛ばしてダメージを癒す。
     一方、こちらもよろめく怪人にワルゼーの杖が突きつけられる。
    「ぐぉぉぉっ!?」
     暴君の名を冠した杖から流し込まれた魔力が、まさに暴君の如く怪人の内側で暴れ回る。
    「随分と、辛そうではないか」
     膝を付いた怪人を、余裕のある表情で睥睨するワルゼー。
     戦闘員からの声援は飛び続けているが、既に怪人の呼吸は荒くなっていた。
    「くっ。もっと人を雇って戦闘員を増やしておけば良かったか……」
    「その潤沢な資金の源は、一体何処からですか?」
     悔やむ怪人へと、香乃果が問いかける。
    「答えると思うか? 企業秘密だ!」
     冷気の渦巻く槍の穂先をぴたりと突きつけられても、怪人は怯まない。
    「……あのキャビア、まさかロシア産キャビア怪人を倒して手に入れたりとかしたの?」
    「それも企業秘密だ!」
    「もういいでしょう。口は堅いようです」
     美海の問いにも堅く口を閉ざす怪人に、双調が氷の様に冷たい目を向ける。
    「貴様は私を怒らせた。伝統を汚そうとした罪の報いの覚悟は……出来てますよね?」
     その足元の影が九つに分かれ、獣の尾の様にゆらりと蠢く。
    「世界征服の糧にする事が汚す事になるのなら、いくらでも汚そう!」
     怪人が突きつけられた槍を跳ね除けると同時、穂先から放たれた鋭い氷が肩を穿つ。
    「貴様っ!」
     怪人の寿司が光を放ち、双調の影が伸びて刃となる。影と光が交錯し、互いに相手を刺し貫いた。
    「覚悟するの~」
     瑞葵がロッドの先端の小さなナノナノを押し当てれば、魔力が怪人の内側で弾ける。
    「交流は許すがな、文化ってのは侵略していいもんじゃない」
     梓の手から離れた光輪が、狙い違わず怪人の凍りついた肩を貫き、砕く。
    「美味しいモノに国境はないんは正しい。やけど……コスト度外視だけは許せんのやっちゃ」
     ジェット噴射の勢いに乗って神楽が怪人の懐に飛び込んだ直後、別の轟音が響く。
    「ロシアンタイガー様……申し訳、ありま――」
     バベルの鎖の薄い一点を杭で貫かれ、ロシアンロール怪人は爆散、消滅していった。

    「あれ? 俺は一体……」
    「何処だ、此処?」
     怪人が消滅すると同時に糸が切れたように倒れた戦闘員――だった人達が、目を覚ます。
    「良かった……気を失って倒れていたんですよ」
     祈るように手を合わせていた香乃果が、本当に安堵した様子で告げる。
     首を傾げながらも礼を言ってそれぞれに戻って行くのを見届けて、灼滅者達も帰路に着く。
    「良いお土産が出来たの」
     美海の手には、回収した残りのロシアンタイガーロールが。
    「あ。マジだ。結構美味いなこれ」
     クーガーも、残っていた1つを食べながら歩いている。
    「もここ、頑張ったね。お疲れ様なの~」
    「ナノナノ♪」
     瑞葵は相棒のもここを抱き寄せ、しきりに褒めている。
    「これを元に豊後太巻きとか作れんやろうか。地方財政を考えるに、コスト削減する必要ありやな……キャビアをトビッコとかどうやろ?」
    「トビッコはキャビアの代わりになるのか? 色が全然違うけど」
     何故か真顔で考え始めた神楽に、突っ込む梓。
    「あら引きウィンナーとマスタードだけのシンプルな太巻き、ゲルマンシャークロールを考案してみたのだが、如何かな?」
    「何で、ご当地怪人を手伝うような名前なんですか……」
     こちらもロシアンに対抗した太巻きを考案したワルゼーが、双調に突っ込まれる。
     と、その時だ。
    「昨日のロシアン何とか寿司、結構いけたよな」
     そんな声を耳にして、灼滅者達の足が一瞬止まる。
     灼滅者達の手で、この地でのロシアン化は確かに食い止められた。だが、ロシアンの魅力は一部の市民の心に残ったままであるのかもしれない。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ