人食い山姥のおもてなし

    作者:本山創助

    ●裏山の竹林
     雪の降る夜。
     白い炎を纏った狼が、廃屋の庭にある古井戸の前で佇んでいた。
     この廃屋を訪れる村人は、めったに居ない。
     皆、小さな頃から「悪いことをしたら、裏山の人食い山姥に食わせるぞ」と脅されて育ったためだろう。この廃屋は、子供にとっては恐怖の象徴であるし、大人にとっては都合のいい道具であった。
     狼の瞳が赤く輝くと、井戸の底から、爪を引っ掻くような音が漏れ聞こえてきた。
     ずるり、ずるり、と這い上がってくる。
     井戸の縁に手をかけ、姿を現したのは、伸び放題の白髪を振りみだした老婆。
     その瞳は狂気に歪んでいる。
    「イィーッヒッヒッヒッ」
     老婆の不気味な笑い声が、竹林にこだました。
     狼は、いつの間にか居なくなっていた。

    ●教室
    「またスサノオが動いた。キミ達には、山奥の古民家に行ってもらいたいんだけど」
     賢一が説明を始めた。

     山村の裏山にある古民家に、老婆の姿をした古の畏れが現れた。この老婆は、山に入った村人をおびき寄せて殺そうとするんだ。そんな被害が出る前に、老婆を灼滅してほしい。
     日が沈んだ頃、老婆が住む古民家から、おいしそうな匂いが漂ってくる。老婆はこの匂いで、裏山を訪れた人を誘い込もうとするんだ。キミ達には、その老婆の誘いに乗った振りをして、古民家を訪ねてもらいたい。
     老婆は、人のいいお婆ちゃんを一生懸命演じながら、キミ達に料理を振る舞う。牡丹鍋とか、山菜料理とか。どれもおいしくて害のない普通の料理だから、食べても大丈夫。でもまあ、気が進まないなら食べなくてもいいよ。
     食事が済むと、老婆はキミ達に一晩泊まれと提案するから、それを承諾してほしい。
     明かりを消して、床について、しばらくすると、お勝手から刃物を研ぐ音が聞こえてくる。この時が、攻撃のチャンスだよ。一気に叩いて欲しい。
     老婆は外に出たりするかもしれないけど、古民家から離れたがらないから、どこかに逃げるようなことはないよ。
     老婆は解体ナイフ相当のサイキックで攻撃してくるよ。
     老婆は全然強くないから、攻撃のタイミングさえ間違わなければ、問題ないと思う。
     それと、この事件を起こしたスサノオなんだけど、以前、首塚で事件を起こしたスサノオと同じやつなんだ。僕はこいつのことを『赤目』と呼ぶことにするよ。赤く光る目が特徴的だからね。
     赤目の行方は、どうも予知がしにくい。ブレイズゲートと似たような感じでね。でも、赤目が起こした事件をひとつひとつ解決していけば、きっと赤目にたどり着けると思う。
     そのためにも、山姥退治、よろしくね!
     


    参加者
    天羽・蘭世(暁に咲く虹蘭の謳姫・d02277)
    鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951)
    居島・和己(さらば金欠の日々・d03358)
    一色・などか(ひとのこひしき・d05591)
    大條・修太郎(メガネ大百科・d06271)
    アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)

    ■リプレイ


     枯れ葉をざくざく踏み砕きながら、灼滅者達が山道を行く。
     鮮やかな夕日が、鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951)の白いコートをオレンジ色に染めていた。
    「安達ケ原の鬼婆伝説というのがありましてー」
     白く息を吐きながら、瑠璃は有名な鬼婆伝説について語った。病にかかった乳飲み子の為に、妊婦の生き肝を探し求めた岩手という名の乳母(うば)の話だ。
     ある日、岩手は宿を求めてきた身重の若夫婦を招き入れた。そして、夫が居ない間に妊婦の腹を割き、生き肝を手に入れた。しかし、妊婦の持ち物を改めた岩手は、妊婦が生き別れの愛娘だったことを知り、気が狂って鬼となってしまった。それ以来、岩手は宿を求めた旅人を殺しては、食うようになったという。
    「悲しい話ですね」
     一色・などか(ひとのこひしき・d05591)がため息をついた。気が狂うほどの後悔と哀しみ。その気持ちを言葉にしたら、どんな歌になるのだろう。
    「なんで妊婦の生き肝?」
     大條・修太郎(メガネ大百科・d06271)が瑠璃を振り返る。
     話を聞いているうちに、いつの間にか日が落ちていた。辺り一面真っ暗だ。瑠璃の顔もよく見えない。
    「易者にそう言われたそうです」
     瑠璃は頬に冷たいものを感じた。
     雪だ。
    「寒いー」
     修太郎が両腕を抱くようにして身震いする。
    「明かり、誰か持ってないか?」
     アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)が言った。
     空を見上げても、星一つ出ていない。道の輪郭はかろうじて分かるが、こうも暗くてはつまずいて転びかねない。
    「あるのですよー」
     天羽・蘭世(暁に咲く虹蘭の謳姫・d02277)がランプを取り出した。
     そういえば、と瑠璃もランプを取り出し、明かりをつけた。
     周囲の竹林が、ほのかに浮かび上がる。
     ぐ~。
     誰かのお腹が鳴った。
    「お、お腹すいたね……!」
     虹真・美夜(紅蝕・d10062)が照れたように言った。
    「お腹すいたし、寒いし、暗いし……まさか、道に迷ったりしてないですよね?」
     ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)がハッとして辺りを見渡す。ランプが点いているとはいえ、明かりの範囲はそう広くない。灼滅者達は闇に囲まれている。
     急に心細くなってきた。
    「あ、良い匂いがする」
     居島・和己(さらば金欠の日々・d03358)が、目を閉じたまま鼻を突き出して言った。山道を横に外れ、竹林の中に入っていこうとする。
    「ちょっと待っ……」
     止めようとした美夜だが、やはり、鼻をくすぐるご馳走の匂いを感じた。
    「本当だ。良い匂いがする。みんな、こっちよ」
     和己と美夜を先頭に、灼滅者達は竹林の中を歩いた。


     竹林を抜けると、そこは古民家の庭先だった。
    「わぁー、りっぱなお家ですー」
     蘭世がぽかんと口を開けた。
     茅葺き屋根でL字形の、かなり大きな古民家だ。その木戸が、ガラリと開いた。
    「どなた様かいのう?」
     現れたのは、腰の折れ曲がった老婆。伸び放題の白髪に、とがった鷲鼻と大きな目が印象的だ。
    「どうもすみませーん、ハイキングしてたら道に迷ってしまって」
     和己が老婆に歩み寄る。
    「はいき……這い勤愚? それはまた、愚かしげなことを」
    「蘭世、おなか空いてもう動けないのですー……」
     蘭世がしゃがみ込んで泣き出した。
    「おやおや、かわいそうに。姫は腹が空いとるのか」
    「すごくいい匂いですね。美味しそう! お邪魔してもいいですか?」
    「もちろんじゃ」
     などかの問いに、満面の笑みでうなずく老婆。
    「ささ、旅のお方、ここは寒いじゃろうて。中に入りなっせ」
     てててて、と土間に入る蘭世。その向こうに見えるのは、囲炉裏の炎と高く吊された鉄の鍋。見上げれば、高い天井に立派な梁。都内の住宅では考えられないほどの贅沢な空間の使い方である。明かりは囲炉裏の炎のみ。電気は通ってないらしい。
     炎揺らめく薄暗い家の中は、木の香りと鍋の香りでいっぱいだった。
    「ささ、お上がりなっせ」
     板の間に上がって囲炉裏の前に立った老婆が、皆を手招きした。
    「じゃあお言葉に甘えて」
     修太郎は靴を脱いで板の間に上がった。広さは十畳くらいだろうか。板の間の向こうには台所や、ふすまなどが見える。囲炉裏は約一メートル四方で、炭ではなく薪がくべられ、赤い炎を燃え上がらせている。煙は高い天井の茅に染みこみ、全く気にならない。
     八人の灼滅者達が囲炉裏をぐるりと囲んで座った。一辺に二人ずつ、結構ぎゅうぎゅうであるが、それがかえって温かく、嫌な気はしない。どことなく、キャンプファイアーを連想させた。
    「今、極上のシシナベをご馳走してやるでの」
     鍋の木蓋を上げると、白い湯気がもわっと立ち上った。
     その中で、大根、にんじん、里芋、白菜、椎茸、そして猪の肉などが味噌で味付けされ、よーく煮込まれていた。
    「あ、婆ちゃん、配膳なら手伝うぜ!」
     老婆の指示の元、和己が台所を往復してテキパキと配膳を進める。
    「それでは遠慮無く……」
     大きめのお椀によそられたシシナベを手に持ち、美夜がゴクリとのどを鳴らす。
     全員に行き渡ったところで、いっただきまーす!
    「おいしーですー♪」
    「あったまるー♪」
    「ふむ、これは美味い」
     五臓六腑に染み渡るとはまさにこのこと!
     よく味の染みこんだ大根に、甘い人参、甘い白菜、ほっくほくの里芋に、立派な椎茸。極めつけは、トロットロに煮込まれたボリューム満点の肉である。
     寒さに空きっ腹を抱えていた灼滅者達は、あっという間にシシナベを食い尽くした。
    「あの……僕お肉が苦手なんで……すみません……魚なら……」
     そんな中、修太郎がおずおずとお椀を返す。
    「おや、それは残念じゃの。まあ、待ちなっせ。いま極上の鮎を持ってきてやるでの」
     老婆がザルいっぱいに鮎を持ってきた。
    「こうして、塩をまぶして、串に刺して、焼くんじゃ。ほれ。火に近づけすぎたらいけんよ」
     灼滅者達が、老婆の真似をしつつ、火の周りに鮎の串刺しを突き立てる。
     その間に、老婆は空っぽになった鍋を取り替えていた。
     瑠璃が老婆に問いかける。
    「山菜のてんぷらとかあったりしますかー?」
    「ほっほっほ、いまちょうどそれを準備しとるところじゃ」
     深い鉄鍋には油が浅く張られていた。
    「和坊、皆に皿を配っておやり。紙を敷いて、塩を盛ってな」
    「よしきた、婆ちゃん!」
     すっかり打ち解けた和己が、皆に和紙の敷いた皿を配って回った。
     薄く衣をつけた山菜を一定の間隔で鍋に滑り込ませる老婆。油の跳ねる音が、待つ者の食欲をかき立てる。
    「ほい、ほい、ほいっと」
     揚がった山菜をリズミカルにとっては、皆の食べるペースに会わせて、皿の上に直接置いていく。まるで高級天ぷら屋である。
    「あ、美味しい……」
     美夜が頬に手を当ててうっとりとした。食べたのは、塩をちょっとつけたサックサクのタラの芽天ぷら。だが、どこか普通では無い気がする。是非ともレシピが知りたい。
    「あの、この天ぷらはどうやって作っているのですか? その、油とか、衣とか」
    「普通の油に、普通の衣じゃがの。衣は薄めにの」
    「普通の油とは?」
    「米油に決まっとろうが。米油に米粉じゃ」
     それは普通ではないのだが――なるほど、それがこの食感の秘密であろう。
     灼滅者達は、次々に揚がる様々な山菜の天ぷらを堪能した。そうしてるうちに、鮎も焼けた。さらに老婆はゼンマイの煮物などを小皿に入れて配っていく。
    「んー……、こんなに満喫しちゃっていいのかなぁ?」
     焼きたての鮎の塩焼きをほおばりながら、ミカが幸せそうに微笑む。
    (「なんだかすっごく旅情? 感じるね~」)
     現代には珍しい古民家にて、皆で囲炉裏を囲みながら食事をとる。壁や土間に伸びる皆の影は、炎に揺られて、まるで笑っているかのようだった。


    「オススメの山菜はどれ? 今の時期って何が美味しいの?」
     何の他意もなく、などかが老婆に問う。
    「それはもう、妊婦の生き肝じゃの。生のままで、ちゅるりとやるのが一番じゃ」
     天ぷらの揚げ具合に全神経を集中しながら答える老婆。
     凍り付く灼滅者達。
     いや、この老婆がただ者でないことは知っていたけど!
    「妊婦の生き肝?」
     果敢に食らいつくのは修太郎だ。
    「うぼあああああーっ!」
     にこにこしていた老婆が、唐突に叫んでぴょーんと飛び上がった。一メートルくらい。正座したままで。
    「ちちちちち、違う違う、ほんの戯れじゃよ、おっほほほほっ」
     冷や汗をダラダラ垂らしながら、引きつった笑いを浮かべる老婆。
    「えーと、今の時期、今の時期と言えばじゃのう……」
     そこで老婆の顔色が真っ青になった。
     今は真冬である。
     本来なら山菜など全く採れない季節である。
     鮎だって、なくはないが、けっこう珍しい部類に入る。
     オススメの山菜はどれ? 今の時期って何が美味しいの?
    (「知るかボケェェェェッ!」)
     妊婦の生き肝しか思いつかない! いや、それも山菜じゃないけど!
     古の畏れパワーでうっかり季節感無視のおもてなしをしてしまったが、どうしよう。ヘンだと思われてないかしら?
    「そろそろ、食べ頃では?」
     頭を抱えて震える老婆に、アイナーが語りかける。天ぷらが、いい感じに揚がっていた。
    「おおそうじゃ、ほいほいっと」
     アイナーはこの天ぷらがすっかり気に入っていた。この老婆は料理が上手い。できれば洋食も食べてみたい。
    「洋風の煮込み料理が食べてみたいのだが」
    「ようふう……それは何じゃ? 痛風に効く料理かいの?」
    「洋風というのは……いや、いい。それより、料理のコツなどが知りたいのだが」
    「それはもう、愛情じゃな。食べてくれる人の喜ぶ顔をただ一心に想いながら作りなっせ」
     何となく良い感じに誤魔化した老婆であった。
    「御婆さん、この辺りに古い言い伝えとかありますかー?」
    「そりゃもう、鬼婆伝……い、いや、なんじゃったっけ? 仏婆伝説?」
     瑠璃の質問に答えようとして、また冷や汗が出てきた。
    「ぼく、鬼婆伝説なら知ってますよ」
     瑠璃は道すがらにした岩手の話を老婆に語って聞かせた。
    「ほ、ほほー。それはまた、おそろしいおにばばがいたものじゃのう」
     棒読み気味の老婆に、蘭世がててて、と近寄り、老婆になにやら耳打ちした。老婆は心底困り果てた顔をしたが、蘭世に見つめられて、でれっと笑った。
    「よし、姫の頼みなら仕方あるまい。鬼婆の真似、いくぞい……」
     老婆かくんと顔を伏せた。そして、ゆっくりと顔を上げる。
    「お若いの、今日は泊まっていきなはれ。いい肉が手に入ったでのぅ……イィーッヒッヒッヒッ!」
     どことなく凄みを帯びた老婆の目が、ギロリンッと蘭世を睨む。蘭世は嬉々として怖がる振りをした。
    「うえぇーん、こわいのですー……」
     なんとも複雑な遊びである。
    「あ、そうそう。旅の方、今晩は泊まっていきなされ。夜道は危ないでのう」
     さりげなく微笑みかける老婆。
     皆は「ああ、本物はこんな風に言うんだ」と納得しつつ、頷いた。


     お風呂はやっぱり五右衛門風呂だった。ゆずのおかげか、体の芯まで温まった。
     老婆が風呂の火をたき、あとは皆で代わる代わるその火の番をした。
     皆が順番に風呂に入っている間、老婆は和己に騙されて村に代々伝わる腰振りダンスを披露させられたり、などかに初恋のじいさまとの馴れ初めを聞き出されて頬を染めたり、修太郎の「ウォシュレットじゃない!」という叫びに「汚手隷人?」と老婆が手で拭きかねないような誤解をしたり、ミカに面白い話をせがまれて、その場で思いついた仏婆伝説を落語家じみた一人五役の迫真の演技で語って聞かせたりした。
     そんなこんなで時が経ち、囲炉裏の薪も切れ、寝る時間となった。
     板の間の隣のふすまを開ければ、頭を向け合うように、布団が八組並んでいる。
    「ごゆっくり、おやすみなされ」
     布団に入った灼滅者達にお辞儀しつつ、老婆がふすまを閉めた。
    「布団が冷たいーゆたんぽー」
     すかさず注文を入れる修太郎。
     ふすまがさっと開き、老婆がしずしずと入ってきた。ふすまを閉め、修太郎の枕元に立つと、修太郎の布団にするするっと滑り込む。
    「ななななっ」
     ピッタリと肌を寄せようとしてくる老婆から、全力で距離を置こうとする修太郎。
    「ほれ、修坊、婆が温めてやるから、近こう寄りなっせ」
    「いいいやいやいや、いいです。うそです。ひとりでねれます!」
     今までさんざん言いたい放題言ってきた修太郎だが、この時ばかりは、全面的にご遠慮願うことにした。
     老婆が去り、静けさと共に心地よい布団の重みが皆を包む。
    「ほんとに寝ないでよ?」
     美夜が囁いた。お腹いっぱいだし、お風呂は気持ちよかったし、楽しいこともいっぱいあったし、布団は快適だし、気持ちを保たないと、あっという間に爆睡してしまいそうである。
    「うむ。危うく寝そうだった」
     アイナーが呟く。ちゃんと待機していようと思っていたのだが、老婆のおもてなし攻撃が予想以上に効いていたらしい。
     散々もてなしを貰っておいて、気がひけない、と言えば嘘になる。
     出来ればこのまま、刃物の研ぐ音は聞かずに済めば良いのだが――。
     シャッ……シャッ……。
     シャッ……シャッ……。
     やはり、相手は古の畏れなのだ。
    (「騙すつもりだったならおあいこさま、と言う事で」)
     アイナーが体を起こす。
    「あーあ、寂しい婆ちゃんと元気な若者の賑やかな一夜も終わりかぁ……」
     和己が残念そうに呟いた。
     真っ暗だった部屋に、蘭世のランプが灯る。
     皆、戦いに臨む顔をして立っていた。

     刃物を研ぐのをやめ、老婆が――いや、鬼婆が振り向いた。その瞳は真っ赤に光り、髪の毛は逆立ち、耳まで裂けた口からはギザギザの牙がズラリと覗いている。
    「みぃ~たぁ~なぁ~!」
     背後で戦列を組んでいた灼滅者達を睨むなり、老人とは思えない跳躍力で跳びかかる!
     が、しかし、その前から灼滅者達は動いていた。
     老婆は空中で二本の槍に胸を貫かれ、黒い斬撃を両肩に受け、洋剣で腹を割かれ、四本の縛霊手に同時に殴られて、木戸をぶち破りながら庭まで吹っ飛んだ。
    「倒さなきゃいけないとは分かってても、沢山のおもてなしをしてくれた人に攻撃するのって結構ツライですね……」
     などかが、悲しげに言った。
    「ういィィィッ! コロスコロスコロスゥゥッ!」
     起き上がるなり、四つん這いになって駆け寄ってくる鬼婆。
     その首に、刀が突き刺さった。刀を咥えるのはシベリアンハスキー。
     鬼婆の目から光が消え、その体は黒いどろどろとなって地に消えた。
     古の畏れを灼滅したのだ!
    「ルミ」
     ミカがシベリアンハスキーを呼び寄せ、頭を撫でる。
     その時、背後で木の崩れ落ちる音がした。
     振り返れば、立派だった古民家が、ボロボロの廃屋と変わり果てている。
     瑠璃がツインネックのギターで鎮魂歌を奏でた。
     その音色は、静かに降る雪と共に、しっとりと地に染みこんでいった。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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