――深夜。普段は人が通ることのない、ビルとビルの合間。そこで妙な物音を聞いた警官は、警戒しながら闇の中へと入っていく。
そして彼が目にしたのは、徘徊する三体の異形の者たちであった。
一体は病的なまでに白い肌で、目だけを赤く輝かせている。もう一体は、全身から赤い毛を生やした半獣人。そして最後に、赤黒い体で山羊のような角を生やした悪魔のような姿である。
それらはいずれも異形であるばかりでなく、性別も分からないほどに全身を損壊させていた。
最初は胡乱な様子で、たださまよっているだけだったが、警官の姿に気付くと、突如として機敏な動きで襲い掛かった。
そしてその夜、一人の警官が誰にも気付かれることなく姿を消した――。
「諸君、アンデッドによる新たな事件だ。どうやらそのアンデッドは、先の病院襲撃の犠牲者から作られているようなのだ」
教室へとやってきた宮本・軍(高校生エクスブレイン・dn0176)は、予測された事件の概要を説明し始めた。
「そしてそれらのアンデッドは、まるで灼滅者やダークネスの姿をしており、通常のアンデッドよりもかなり強力らしい」
そして軍は、新宿周辺の地図の一点を示した。
「今回出現が予測されたのは、この地点だ。敵は普段は人目を避けて行動し、また何かを探索しているようなのだが、詳細は分かっていない」
だが誰かに発見された場合は、予測されたようにその相手を殺害しようとする。そのため、放っておいては被害が拡大してしまうだろう。
「敵の詳細についてだが、闇堕ちしかけの灼滅者のような姿をしている。肌の白い個体は『ダンピール』、赤い半獣人は『ファイアブラッド』、角の生えた個体は『魔法使い』のサイキックを使ってくることが予測されている」
そして敵は、作成者であるノーライフキングに完全に操られてしまっており、話し合いなどは不可能だろう、と軍は告げる。
「最後に接触方法についてだな。予測された地点で警官が襲われているので、そこに赴いて彼を逃がし、敵を撃破してほしい。
深夜の路地裏という戦い難い状況に加えて、他の一般人の存在も考えられる。準備は怠らないでくれよ」
そして行動を開始する灼滅者たちへと、軍は言葉をかけた。
「敵と言っても、恐らくは病院勢力の灼滅者たちだったのだろうな。
我々には、彼らを救う手段はない。せめて静かに眠らせてやってくれ」
参加者 | |
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椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285) |
千条・サイ(戦花火と京の空・d02467) |
聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936) |
斎藤・斎(夜の虹・d04820) |
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950) |
桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144) |
黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208) |
シャーリー・リットン(英国騎士グリフォンナイト・d19561) |
●
アンデッドのうち一体が、逃げる警官を追い掛ける。そこへ、駆け付けた灼滅者たちが飛び出した。
「――させませんの!」
襲い掛かろうとしていた敵と警官の間へと、強引に割って入る聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)。愛刀『焔桜』を抜き放ち、敵を牽制する。
「驚かせて申し訳ございませんの。……ご覧の通り、これらの相手はわたくし達にしかできません。どうか音の届かない所までお逃げ下さい」
警官へと語り掛けつつ、愛刀『焔桜』を掲げるヤマメ。さらに少しでも聞き入れてくれるようにと、ESPで警官を魅了する。
「そうです。ここは私たちに任せて、人々を怪物から逃がして下さい」
斎藤・斎(夜の虹・d04820)の言葉を了承した警官は、僅かに混乱しつつも頷き、走り去っていった。
(「誠実な職業倫理を利用して戦場から遠ざける。……効率的ですが人として好ましいとは思えませんね、我ながら」)
警官を逃がすことに成功はしたが、その方法に納得いかないものを感じる斎。
「無事逃げてくれましたか。……あとは、彼らを苦しみから解放するだけですね」
呟きと共に、周囲に殺界を形成する桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144)。
「……あなた方の魂を、すぐ救済して差し上げます」
決意を言葉にしながら、黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)もまたサウンドシャッターを展開した。
一方、残りの仲間たちは敵に気付かれぬようビルの上を駆けていた。そして救出班が警官を逃がしている間に敵を挟撃するべく、敵の背後に回って奇襲を仕掛ける。
「最近病院出身の知り合いができたんでな。腹立てとるそいつの代わりに、俺がきっちり灼滅したるわ」
ビルから飛び降りながら、手の中に漆黒の念を込める千条・サイ(戦花火と京の空・d02467)。そして半獣人のアンデッドの頭上から、闇の弾丸を浴びせた。
同じく椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)も、飛び降り様のシールドによる殴打で敵の気を引く。
さらに箒に乗って空を舞う川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)が、冷気を生じさせる魔術で敵を凍て付かせる。
「――正義の騎士グリフォンナイトが、お前達を成敗するぞ! くらえグリフォンビーーーム!」
そして見事な着地を決めたシャーリー・リットン(英国騎士グリフォンナイト・d19561)。得物でもある楽器と弓を突き付けながら、決め台詞と共に燃える半獣へとビームを放った。
突然の攻撃のため、統率を取れずまともに食らってしまうアンデッドたち。だが機械のように自動的な対処しかできない彼らは、だからこそ即座に反撃へと移る。
角の生えた敵が、魔法の力で冷気を放つ。そして氷による被害に怯む前衛の灼滅者へと、赤い十字と炎が見舞われた。
連携の取れた敵の攻撃に苛まれる仲間へと、ふわふわハートの治癒が施される。――なんと主である綾鷹によって投げて寄越された、ナノナノ『サクラ』の能力であった。
「許してください、サクラっ!」
手荒に扱ったことを詫びつつ、綾鷹らも参戦するのだった。
●
前衛の灼滅者たちをまとめて焼き払うべく、半獣のアンデッドが炎を放つ。そこへ、『焔桜』を手にしたヤマメが立ち塞がった。
「今宵の私は盾ですの。皆様を、そして自らをも倒れさせぬのが盾の役目ですの」
ヤマメは仲間の盾となってダメージを軽減しつつ、反撃とばかりに焔桜を伸ばして獣人を捕縛しにかかる。
だが傷を負った獣人を癒やすべく、白貌のアンデッドが赤黒い霧を放った。さらにその回復の援護のためか、角付きの敵が収束させた魔力の弾丸を発射する。
ヤマメを狙って放たれた魔力弾を、空凛の霊犬『絆』が防いだ。
「長引きそうですね……。皆様、お気を付けて!」
さらに空凛は、星の如く輝くリングスラッシャー『明星』を盾と化し、前衛の仲間を守護する。
「ごめんなさい、傷付けるような方法でしか助けられなくて……」
斎は鋼糸を手に飛び掛かりながら、思わず呟きを漏らす。そして展開した鋼糸を獣人へと巻き付けながら、敵の行動を制限する。
「そちらの数が多いので、まずは結界を張らせてもらいましょうか」
護符が貼り付けられた神木の縛霊手を展開する綾鷹。構築された結界により、前に出ていた獣人と白貌の行動を妨害する。そしてその隙に、ナノナノが仲間のダメージを癒やす。
こうして灼滅者たちは、最も脅威度が高いと事前に判断した獣人を集中攻撃し、真っ先に撃破しにかかっていた。
だが敵もまた連携によって負傷を分散させてしまうので、灼滅者たちは敵の数を減らせないでいた。
「なかなかしぶといなぁ。ええ加減倒れたらどうや?」
言葉とは裏腹に愉快そうな表情で、白いオーラを込めた素手による攻撃を見舞うサイ。得物であるはずのナイフ『戒』は、抜かず収めたままである。
「さすがさい様ですわ。わたくしも負けませんの」
サイの攻撃によって防御を崩された獣人へと、ヤマメは異形化した腕による殴打を放つ。着物姿の清楚な少女といった風貌だが、サイに負けじと渾身の技を繰り出す様は、育ての親である羅刹を思わせる荒々しさが見えていた。
二人の痛烈な攻撃を受け、重傷を負う獣人。そこへ止めを刺すべく、空中の咲夜が頭上からタロットを模した護符を放った。
「今回の依頼を占って、出たのは『塔』の逆位置――『既に終わっている』ということ。本当に何の面白みもない、解りきった結果です。
だから、許せない。終わりを捻じ曲げ、人の命を――私達の仲間を、弄ぶダークネスが……!」
故に一秒でも早く、解放してみせる――咲夜はそう口にしながら、護符を受けて消えゆく獣人の亡骸を見詰めていた。
●
攻撃の要であった獣人を失ったことで、灼滅者たちとアンデッドとの戦力の均衡は崩れた。傾いた形勢のまま畳み掛けるべく、灼滅者たちは反撃に出る。
腕にオーラをまとわせて襲い掛かる白貌の攻撃を防ぎつつ、なつみは手刀を振り被る。
「吸収なら、こっちもできるんですよ!」
手刀から伸びるサイキックソードをオーラで赤く染め上げながら、大振りな斬撃を見舞うなつみ。敵にダメージを与えつつ、受けたばかりの傷を癒やした。
さらに斎が、ダブルジャンプやビルの壁面を足場にした跳躍で敵を翻弄しつつ、四方八方より鋼糸で斬り付ける。敵の全身に傷を刻んでいく。激しい立ち回りをしながらも、スカートの布地は決して翻らせない。
獣人と同じく集中攻撃を受けながら、眼前の灼滅者へと反撃を仕掛けようとする白貌。だがそこへ、殲術道具と化した楽器による殴打を見舞うシャーリー。
「私の目の青いうちは、仲間に狼藉は働かせん!」
シャーリーは言葉通り、澄んだ青い双眸で敵を見据えて宣言する。
集中攻撃を受けている白貌を援護するべく、角付きのアンデッドが魔法による冷気を放つ。
だがそこで綾鷹が、縛霊手に貼られた護符の力を仲間に与え、ナノナノのハートと共に氷結から守った。
さらに他の仲間を癒やすべく、木星の神の名を冠する紫色の縛霊手『六合』より、霊力を仲間へと射出する空凛。
「行って、絆――!」
そして彼女の霊犬の斬魔刀が、白貌のアンデッドの息の根を止める。
残された角付きのアンデッドは、折り畳まれていたコウモリ様の翼を広げた。そして勝機がないと判断したのか、宙へと飛んでの撤退を試みる。
だが灼滅者たちによる包囲が、敵を決して逃がしはしない。真っ先に攻撃を仕掛けたのは、箒で空を舞っていた咲夜である。
「まさか飛行できるとは、さすが魔法使いですね。ですが私が空にいる以上、あなたを絶対に通しません!」
空中での優位な位置から、タロットを放って敵の体力を奪う咲夜。彼の攻撃によって混乱した敵は、宙へと舞い上がれず自らを傷付けてしまう。
「……逃がしはしません。あなたはここで、灼滅します」
呟きつつ、ダブルジャンプで一息に敵へと肉薄する斎。
どうやっても、自分たちはこのアンデッドを救うことはできない。ならば今できるのは、ただ速やかにその命を終わらせることのみ。そう分かっているからこそ、彼女は鋼糸による無慈悲な斬撃で、敵の翼を切り落とす。
そして畳み掛けるように、オーラを込めた拳による乱打を見舞うなつみ。その動きは、かつて見た映画の模倣である。
決して好んで灼滅者となったわけではない彼女だが、それでも眼前の敵を倒すことには真剣だった。
「ダークネスの姿から戻ることもできず、死してもまだ操られ続けるなんて……。あなたの人としての魂を、すぐに救い出します」
後衛の空凛も、ここは攻め時と判断し攻撃に出る。藍色の影の中に七色の星が煌めく影業『Arco iris en la oscuridad』を展開し、相棒の絆と共に敵へと斬撃を見舞った。
「……手加減はしない。元は同じ、能力者だからこそな!」
死者の冒涜という悪行を終わらせるべく、渾身のグリフォンビームを放つシャーリー。
「みんな、ホンマに優しいなぁ。
――優しい人は好っきゃから、俺もそいつを死体に戻すのに全力で手ェ貸すよ」
注射器を抜き放ったサイは、サイキックを帯びた即効性の毒を敵へと打ち込む。
「そうですの。わたくしも盾として、これ以上皆様を傷付けさせはしませんの!」
サイの毒により蝕まれる敵に畳み掛けるべく、ヤマメも異形の腕による渾身の殴打を叩き込む。
灼滅者たちの猛攻を受け、既に瀕死のアンデッド。そして彼に、止めの攻撃が見舞われた。
「――いきますよ、サクラ」
主――綾鷹の指示に従い、しゃぼんを射出するナノナノ。そして綾鷹もまた、神霊宿る樹の縛霊手による膨大な霊力を叩き込んだ。
その一撃を受け、遂に残されたアンデッドは絶命したのだった。
●
「安らかに眠るのだ。……祈る事しかできんが」
消えゆくアンデッドの亡骸を見ながら、祈りの言葉を告げるシャーリー。このような悲劇を繰り返す悪を、必ず打ち倒すと決意を固める。
「今日はよく頑張ってくれましたね。投げてしまってごめんなさい」
最初に投げられたことにどことなく不機嫌そうなナノナノを撫でながら、綾鷹もまた胸中で三人の灼滅者の冥福を祈っていた。
「遺品も何も、残されてはいないようですね……」
何か残されたものはないかと周囲を探索した斎。だが三人がここに存在していたという証は、周囲に刻まれた戦いの痕だけであった。
「……肉体はもはやアンデッド、そして心も殺された今、やはり灼滅すれば死体も残りませんでしたか。葬ってあげられないのが残念ですね」
取り出した『世界』の図柄のタロットを、その場に残す咲夜。苦難の旅の終わりと、新たなる旅立ちを願って――そんなせめてもの祈りが込められていた。
「最後はちゃんと人として、逝けたんですよね……?」
縋るような声音で、弱々しく呟く空凛。魂だけでも、人間として救済されていてほしいと願う。
「……みんなホンマに、優しい人らやな」
そんな仲間たちを見渡しながら、思わず苦笑いが浮かぶサイ。闇を恐れず戦いを愛する彼だが、己を奪われたまま戦いに縛られた者たちの姿に、多少なりとも思うものもあった。
「新宿の夜空じゃあ、星も見えないですね……。あの闇夜の向こうに、あの人たちもいるのかな」
人は死後星になる――そんな話を思い起こしながら、星の見えぬ空を見上げるなつみ。
「……どうか、あの方たちに正しい終わりを。そしてあの方たちがいたことを、わたくしたちがちゃんと覚えておきますの」
この闇の果てまで、どうかこの祈りが届くように――そんな願いを込めるヤマメ。
そして仲間たちも、どこまでも続くような新宿の闇夜を見上げるのだった。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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