世界の終焉を求む

    作者:星乃彼方

    「待てよ、おらあ!」
     深夜。もう寝静まり、静寂に包まれた河川敷に怒声が響き渡る。
    「ひ、ひぃぃ。やめてくれ」
    「うるせえよ!」
     シルバーアクセサリーを全身に身につけた若者が蚊細い声をあげる中年男性に蹴りをいれる。それを踏み堪えることができなかった男性はごろごろと土手から転がり落ちていく。
     そんな情けない男性の姿に、声をあげ手を叩いて喜ぶ若者達が次々と滑り降りてくる。
    「すまなかった! この通り、許してくれ」
    「ああん? ぶつかってきたのはてめえの方だろ」
    「ぶつかってきておきながら、偉そうに説教ふっかけてきやがって何様だよ」
    「何が世間知らずのガキだ! お前達の世間なんか嫌なことだらけじゃねえか!」
     若者――特に男たちが、中年男性を取り囲んで口々に罵声をあびせる。男性も負けじと拳を握り締めるが、男達がみんな木刀や鉄パイプを持っているのを見て、ゆっくりとその拳を解いた。
    「ひ、卑怯だと、お、思わないのか!」
     上ずった声で男性は抗議するが、その声は若者達の神経を逆撫でするだけのものだった。
    「るせぇ! 俺達がやりたいからやってんだよ! どの大人も同じ事しかほざかねえ世界なんかぶっ潰してやるよ」
     グループの中で一番強面の男が男性の腕を鉄パイプで殴りつける。それに続いて他の男達も男性を殴りつける。男達の輪の外に女達はスマホをいじりながら、「やっちゃえ、やっちゃえ!」と煽りを入れる。
    「ちょっとぉ、やめなよぉ」
     そんな中、甘ったるい語尾で話す女が男達を止めた。そして一歩前に進み出る。男達はぱっと輪を広げて、その女が通れるような道を作る。
    「こんなに、やっちゃあ可哀想だよ」
     露出の多い服の女は中年男性の前にしゃがみこむと、バックからハンカチをとり出した。
    「ごめんねぇ、痛かったでしょぅ」
     女は優しく男性が流した血をふき取っていく。男性は安堵すると共に女の開きすぎた胸元や短すぎるスカートについ目をやってしまう。それに馴れ馴れしく触れてくる女の柔肌に男はつい鼻の下を伸ばしてしまう。
    「……やっぱりね」
     その言葉は先ほどの甘いものではない。氷のように冷たい言葉。
    「大人はみんなそういうとこ見るよね。マジ気持ち悪いんだけど」
     ドン、と男性を突き飛ばすと、「やっちゃいなよ」と一言。それを受けた男達はそらきた、と男性に容赦なく襲い掛かる。
    「みんな同じ、そんな世界あたしたちはいらないの! あたしたちはあたしたちの世界をつくってるんだから邪魔すんな!」
    「いいわねぇ、その考え」
     小気味良い笑いと共に届いた声に若者達は一斉に声のするほうを向く。そこには月明かりで半身しか見えないが、美しい容貌の女が土手の上に立っていた。
    「やっている行為はちっぽけで醜いけれども、その心意気は美しいわ」
    「なんだババア! 黙ってろ。こいつ同じ目に遭いてえのか!」
    「ババア? ババアですって!?」
     眉を吊り上げて女は更に一歩踏み出して、光の下に全身をさらす。その姿に若者達は度肝を抜かれた。半身は美人、半身は腐敗、その姿に誰もが言葉を失う。
    「醜さの果てにこそ美しさがあるということもわからないのかしら。そんな美しさを理解できないのは残念ね」
     優雅にワイングラスを揺らすベレーザに若者達は顔を見合わせる。
    「力をあげましょう。この世界を変えることができるだけの力を。その力でこの世界を壊してしまいましょう」
     甘美な響きをもった言葉に若者達は息をのむのだった。
     
    「やっぱりと、言うべきなのかな」
     アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)は集まった灼滅者たちに声をかける。
    「朱雀門高校に鞍替えをした美醜のベレーザが動き出したよ」
     目的はアシュが懸念した通り、ベレーザは朱雀門高校と協力してデモノイドを大量量産することになったようだ。
    「同様の事件が既に起きているので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね」
     そう五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が見回す。
    「現在、ベレーザと朱雀門高校は協力してデモノイドの素体となる一般人を拉致してデモノイド製造工場へと運び込もうとしています。皆さんにはこの運び込みを阻止してほしいのです」
     その言葉にアシュをはじめ灼滅者は力強く頷く。その力強さに姫子は少し安心したように微笑んだ。
    「実は今回の拉致を指揮するのが美醜のベレーザ本人なのです。ベレーザは配下の強化一般人を5人従えて、彼らを拉致しようします」
     そのうちの強化人間の1人は既にベレーザの手によってデモノイド化されている。しかし、そのデモノイド化は不完全なもので、命令を受けると10分間だけしかできず、それが過ぎると自らの身体が変化に耐え切れず自壊してしまうようだ。
     
    「まずは、彼女らが狙う一般人についてと状況について説明しますね」
     姫子はペンギン型のノートを開いて説明を始める。
    「拉致の対象になっているのは、高校2年生くらいの男子5人と女子5人、合わせて10人です。彼らは河川敷で中年男性に暴行をしています」
     ある程度痛めつけた所で高校生達はベレーザに声をかけられることになる。灼滅者らが接触できるのも同時期となる。
    「高校生たちはベレーザの誘いに対して2通りの反応を示します」
     1つはベレーザの容貌に怖れ逃げ出そうとする男子グループ。もう1つはベレーザの誘いに積極的に乗ろうとする女子グループ、加えて強面の男子が1人。
    「逃げ出そうとするグループに関しては、接触時にこちらが乱入すれば逃げ出そうとします。それを追おうとする強化一般人の足止めさえできればなんとかできる公算が大きいです」
     ですが、と姫子は俯き気味に、残りの6人は難しいでしょう。と灼滅者に告げる。
    「彼女らは自分たちの意志で行こうとします。引き止めるためには何かしらの手立てが必要です」
     それは彼女らに思い直してもらうのか、強制的に排除するのか、もっと別の方法があるのかわからない。
    「彼ら彼女らはみんなそれぞれ不満を抱えています。共通して言えるのは、『大人はズルイ』『大人は同じことしか言わない』『誰かを信じた所で裏切られるのがオチだ』といったところです」
     そうした不満が世界を変えてやるという方向付けをしているようだ。特に女子グループは暴力という行為に訴えることもなく、ただ傍観者や火付け役だけしかやってこなかったということだ。つまり、自分達の不満を自分の手で解放することがなかったからこそ、ベレーザの誘いにのったというところもあるようだ。ただ1人、男子の中で誘いにのる強面はこのグループの中で一番不満を抱えているようだ。
     そうした説明を付け加えながら、姫子は敵戦力についての説明を始める。
    「ベレーザに関しては以前の殲術病院襲撃と同じで、魔法使いと契約の指輪に準拠したサイキックを使ってくるようです。先ほど話した不完全なデモノイドも10分という制限時間があるものの、それを補って余りあるだけの能力があるようです。基本的にはデモノイドのサイキックに加えて解体ナイフのサイキックが使えることがわかっています」
     この2人を相手にするだけでもかなりの労力だが、ここにウロボロスブレイドを持った強化一般人が4人がいる。
     
    「今回の作戦は、量産型デモノイドの素体にされてしまう若者達を救出することです。全員救出が望ましいですが、まともに相手をすればこちらは無事ではすまないでしょう。ですが、ベレーザ側は積極的に誘いに乗ろうとするグループのうち1人でも拉致が失敗すれば撤退を始めます。その場合はベレーザと強化一般人の1人がなんとしてでも1人は拉致をし、残った強化一般人らがその撤退の援護をするという形をとります」
     このベレーザ側の撤退条件をうまく利用して拉致を阻止することが最良の形です。と姫子はノートを閉じて灼滅者に向き直る。
     
    「ベレーザをはじめとする朱雀門高校の思い通りにさせるわけにはいきません。どうかよろしくお願いします」
     姫子は深く礼をして灼滅者を送り出した。


    参加者
    科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)
    玖珂・双葉(放課後の鐘の音・d00845)
    若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)
    アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)
    金井・修李(進化した無差別改造魔・d03041)
    グロード・ディアー(火鷹の目・d06231)
    榊・セツト(たまに真面目・d18818)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)

    ■リプレイ


    「力をあげましょう。この世界を変えることができるだけの力を。その力でこの世界を壊してしまいましょう」
     ベレーザの甘美な響きをもった言葉に若者達は喉を鳴らす。
    「はい、ストップ! まだ未来があるこの子達を、君達の捨て駒にはさせないよ!」
     金井・修李(進化した無差別改造魔・d03041)はベレーザたちと若者たちの間に割り込む。突然の闖入者に若者達は戸惑いの色を隠せない。修李のあとに続いてその他の灼滅者たちも姿を現す。
    「ちょ、ちょっとマズくねぇか?」
    「絶対なんかヤバイって!」
     ベレーザの容貌、そして闖入者の登場に四人の男子は完全なパニックに陥り、ベレーザに背を向けて走り出す。そんな男子たちの耳にのんびりとした声が届く。
    「さ、みなさん、こっちですよぉ」
    「オォォン!」
     男子達の進行方向にいた船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)は手招きをし、霊犬の烈光さんが男子達の背後から吠え立てる。
    「烈光さん、従わないなら蹴っていいですよ」
     亜綾に言われて蹴る気満々の烈光さんを見て、男子達は更に慌てて亜綾の方へと走り出す。
    「らぶりん、あの人たちを守って」
     若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)のナノナノは逃げる男子達を烈光さんと共に追い立てる。
    「待ちなさい!」
     栗色の髪をした女強化一般人が逃げる男子達を追おうとする。しかし、その前にはグロード・ディアー(火鷹の目・d06231)が立ちはだかる。
    「やはり、来たわね」
    「よう、そろそろ顔覚えてくれたか? 何しに来たか位、分かンだろ」
     ベレーザの前で両手を広げ、挑戦的な笑みを浮かべる科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)にベレーザは笑みで返す。
    「ええ、分かっているわよ」
    「相変わらず行動が早いね。ワイン飲むならのんびり居間で飲めばいいのに」
     アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)の言葉にベレーザは妖艶に笑う。
    「わかっていないわね。眼前で起こる美醜を肴に呑むのが一番美味しいのよ」
     逃げていく男子達を眺めながらベレーザは真紅の液体を口に含む。しかし、配下の強化一般人たちはそれほどの優雅さを持ち合わせている様子はない。
    「どきなさい!」
     黒髪の女強化一般人がウロボロスブレイドを構える。その切っ先には玖珂・双葉(放課後の鐘の音・d00845)がいる。相手が武器を持ち出すなら自分もそれに応じなくてはならない。双葉もサイキックソードをスレイヤーカードから取り出そうとしたときだった。
    「ちょっと待とうよ」
     榊・セツト(たまに真面目・d18818)は女が不審に思うよりも早く、ベレーザ達に背を向けて残った若者達に次の言葉を紡ぐ。
    「人間をやめてはダメだ。行くというなら僕を殺して君達の決心を示してくれ」
     若者達ににじり寄るセツトは能力を解放していない。
    「とはいえ、それは無理なので殺すつもりで僕を諦めてみせろ。ベレーザさんもこの程度で怯むような奴いらないだろ」
     セツトは振り返ってベレーザを見る。ベレーザは少し考える素振りを見せたあと、強化一般人たちに武器を下ろすように指示をする。
    「……面白そうね。あなた達、力が欲しければあの子を殺してごらんなさい」
     その命令に流石に残った若者達も戸惑いを隠せない。
    「世界には彼のような人間もいるわ。そうした人間を倒すためにも、あなた達はもっと力を欲するようになるわ。だから……やりなさい」
     若者達は手にした鉄パイプや木刀をセツトに向ける。血走った眼をした彼らとは対照的にセツトの眼は全てを受け入れる穏やかな瞳だ。
    「世界を壊すっていうのは口先だけかい」
     その言葉が子ども達の引き金をひいた。


    「オラァ!」
     強面の男がセツトの頭を鉄パイプで振り抜いた。何かがへこむ音とと共にセツトが倒れ込むと少女たちが囲む。
    「……世界は醜いものだけではないんだ」
    「ハッ、そんなのわかるかよ!」
     全くの抵抗を見せないセツトに若者たちは調子付く。
     バベルの鎖の加護をもつ灼滅者は普通の攻撃で死なないことを他の灼滅者も知っている。だから心配はいらない、そう判断した灼滅者は若者達に声をかける。今していることの無意味さ、世界の美しさ、なによりこの行動が誤っていることを身体で示しているセツトの意志を気づかせるために。
    「自分より弱いモノ攻撃して鬱憤はらしてさ。どんな力手に入れたって何も変わらねぇぜ」
    「んなことねえよ! 力さえ手に入れれば!」
     強面の男は日方に強気で言い返して、だらりと下がったセツトの腕に鉄パイプを思いっきり叩きつける。
    「貴方たちの眼にはベレーザは信じられる大人なんですか? 裏切られる心配はないのですか?」
    「信じるわけないじゃない! でも力をもらえるなら貰うわよ、それで他の大人を痛みつけられるならね」
     めぐみの言葉に金髪の少女が応える。けれども、めぐみの問いで女子の2人が一瞬だけセツトを痛みつける手が止まったことをめぐみは見逃さない。
    「大人や社会への不満、わからなくはないんだがなぁ」
    「だったら、お前も来いよ」
     双葉の言葉に男が反応を示すが双葉は首を横に振る。
    「俺はいい。戦う力で世界が変わってくれるなら苦労しないぜ」
     それは双葉が経験として得た言葉。同じ経験をしたことのない男に十二分に響く言葉でないことはわかる。双葉は自分の言葉がもう少し上手く扱えれば、と心の中で思う。
     いち早く逃げ出した男子達を安全圏まで誘導して、戻ってきた亜綾も言葉を紡ぐ。
    「言い分はわからなくもないですけどぉ、ズルイとか決め付ける前に不満ならどうすればいいか考えるほうが健全ですよぉ」
    「だからアタシたちが世界を壊すのよ」
     手始めにコイツから! と少女はセツトに蹴りを入れる。
    「でも力に頼るのは孤立化を促進するだけで、何も解決しないのです。悩み事なら私達が相談に乗りますよぉ、一緒に考えませんか」
    「そんなのいらないわよ!」
     少女は亜綾の言葉を拒絶するが、別の1人がその言葉に僅かに反応を示す。
    「大体、お前ら何なんだよ! 余計なお世話なんだよ」
    「大人は同じことしか言わない、そう思う時が俺もある。他人事じゃない、ほっとけるか」
     日方は一歩近づいて言葉を続ける。
    「世界が変わるんじゃねぇ、テメェの見方変えろ!」
     その言葉に男は言葉を返さない。代わりにセツトを一層痛めつける。
    「全てを……壊すようなマネだけは、やめてくれ」
     切れ切れになったセツトの言葉。
     それでも若者達は手を止めない。しかし、次第に若者達の顔から笑顔や怒りは消え始めていた。何人かは罪悪感を感じ始めているのか顔色が悪い者もいる。
    「ちくしょう、なんでコイツ死なねぇんだよ!」
    「――それはね」
     男の疑問にベレーザは嬉しそうに答える。掌から魔法の矢が放たれる。
    「あなたたちに力がないから。力があれば……ほら」
     矢はセツトの背中を貫く。流石にこれにはセツトも灼滅者としての力を解放せざるを得なかった。
    「あなた達が持っている力は小さくて弱いもの。そして世界には彼のように強靭な者がたくさんいる。だからあなた達が世界を壊したいと望むなら力が要るの」
     高らかに声をあげるベレーザは指を鳴らす。それに応じて強化一般人の一人が蒼き怪物へと変態を遂げる。
    「さあ、あなた達はこちらにいらっしゃい。世界を壊すだけの力が欲しいのでしょう」
     そのベレーザの言葉に若者達は雄叫びをあげる。
    「行かせるわけにはいかねぇ!」
     日方を始め、灼滅者たちは武器を構えた。


    「あんなやつの姿を見ちゃったら逃げ出したくなるもんだけど、それだけ大人や社会に不満があるってことかねぇ」
     双葉はサイキックソードを構えながら、前と後ろに気を配る。前にはデモノイド、後ろには少女たち。ベレーザらと若者達の間に割り込んだことで、ベレーザと若者の間には一つの防波堤ができているが、若者達が無理にでもベレーザらの方へ向かおうとすれば容易く決壊してしまう薄い防波堤だ。
    「美味しいだけの話があると思う? 力を得ればああなる。10分間の使い捨て兵器さ」
    「君達はそんなに力が欲しいの……? そもそもベレーザが与えるって言ってる力に世界なんて変えられないし、力を使ったらたった10分で捨て駒にされちゃうような代物だよ? ……もう一度聞くね? 本当にそんな力が欲しいの!?」
     アシュと修李の言葉に少女たちは首を傾げる。
    「10分で捨て駒にされるとか何わけのわかんないこと言ってるの?」
    「むしろこんな力が手に入るなら……」
    「こんな世界……」
    『めちゃくちゃにできちゃうよねー!』
     キャハハと嬉しそうに笑う少女たち。その隙に黒髪の強化一般人がグロードの間合いに入り込む。
    「不安や不満を完全に消す事は無理だ、けど自分達の世界が欲しいなら沢山考えてみてくれ。この人たちの世界が欲しいなら沢山考えてみてくれ。この人たちの提案を受け入れるのはただの思考放棄だと思うんだと思うんだ」
     黒髪の強化一般人と剣戟を交わすグロード。蛇剣をナイフで受け止めて生まれた一瞬の隙で黒髪にグロードの足から伸びる影を縛りつかせる。
    「ベレーザの誘惑に耳を貸すべきではないと思う」
     少女たちの方を向いてゆっくりと語る余裕はない。けれども、想いを込めてひたすらに訴えかける。
    「気持ちは分からなくもないですけど、自分達の力でなんとかしようとしないと、結果を受け入れられませんよ」
     めぐみは先ほど自分の言葉に反応を示した少女らに向けて言葉を発する。その間にらぶりんが傷ついたセツトを癒す。
    「完全にベレーザの下僕になってますけど、貴方たちもそうなりたいのですか?」
     そして畳み掛けるようにめぐみは暴れるデモノイドを指差した。その怪物の姿は普通ならば簡単に受け入れられるはずがない。2人の少女はベレーザや灼滅者の防波堤から一歩遠のく。
    「こんな力を持ってる俺がこんな力は不要だ、なんて言うつもりはねえよ」
     栗色の髪をした女が放つウロボロスブレイドを双葉は流水の如くサイキックソードで受け流して縛霊手で身体を貫いた。執拗に前に出ていた栗色の女はこの一撃で倒れる。
    「だけど、これだけは言っておくぜ。あいつ等が渡す力は、こういう力だ。あんた等が不満に思ってる世界よりもずっと簡単に終わっちまう世界だぜ?」
     双葉の言葉に舌打ちをする少女もいるが、先ほど亜綾の言葉に反応を見せた少女は他の少女に気づかれないように一歩後ろに下がる。
    「この弾幕の中でも拉致しようと思う?」
     修李はベレーザに問いかけながら巨大なガトリングガンの砲身をデモノイドへ向ける。
    「ええ、その程度どうってことはないわ」
     ベレーザの声は修李が放つ銃声にかき消される。デモノイドの正面からアシュが漆黒の弾丸を放ち、セツトのシールドバッシュがデモノイドの気をひく。
    「思った以上に一撃が重くなってきているようね」
     ベレーザの右手の指に嵌った指輪が輝く。傷の癒えたデモノイドが振り払った腕から生まれた毒の嵐が前衛たちを巻き込む。
    「らぶりん、いきますよ」
     すぐさまめぐみの歌声とらぶりんのふわふわハートがその傷と毒素を癒す。説得を続けながらの戦いはまだ続く。


    「男子達さっき怖がってたよ。友達なら傍にいて安心させないと」
    「うっさい、あんなのでビビるのなんて男じゃねえよ!」
     アシュの言葉を真っ向から否定をする少女たちにアシュは少しだけ悲しそうな目をする。
    「さっきは散々煽って暴力させて、いざって時には友達の気持ちも気づかずに無視? 自分のやりたいようにやろうとしてる今の君たちの方がよっぽどズルイ!」
    「でもさ」
     金髪の少女がアシュのことを鼻で笑う。
    「さっき、あたしたちがあいつをボコボコにした時、アンタたち何もしないでいたよね。友達じゃないの? 友達なら助けてあげる場面なんじゃないの?」
     そんな人たちがあたしたちに説教するなんてありえないよね。という言葉に少女たちは同意の声をあげる。
     友達であるなし関係なく、あそこまでの行為を止めずにいた姿は彼女達にどのように見えただろうか。あの程度ではセツトが死なないことは灼滅者ならばわかる。けれども一般人は知らない。知らないが故に少女の言葉は一般人には正しく映る。
    「それは……」
     アシュを始め灼滅者たちが声をあげようとするが、後に続く言葉が見つからない。デモノイドを見て物怖じしないのなら、真実を言ったら納得するだろうか。
    「誰かの為に泥被るって気概、出したことあんのか?」
     一方の日方は真っ直ぐ強面の男に問いかけ続けていた。その真っ直ぐさは男の心を捉えていた。けれどもそれを素直に受け入れられないのは、金髪の少女が言ったことが根底にあった。
    「結局あんたらが言っていることはさっきの行動と矛盾してんじゃねえのか! なんだよ、力を持つことがそんなに悪いことなんかよ! どけっ!」
     強面の男が強化一般人と日方がもつれ合っている脇を駆け抜ける。少女達も灼滅者を押しのけてベレーザたちの方へと向かおうとする。防波堤が決壊した瞬間だ。
    「……ごめんな、でもこの人達についてっちゃ駄目だ。絶対」
     そうグロードが言って発動した王者の風は少女たちの力を奪い、その場に座り込ませる。しかし、無気力になったのは僅かに灼滅者寄りだが、ベレーザ陣との間の戦闘地帯だ。すぐさま亜綾と烈光さんが救出へと向かう。同時に和装の強化一般人も先ほどの少女を抱える。
    「その手を離すんだ!」
     グロードの縛霊手に内臓された祭壇が展開されて和装の周囲に結界が形勢される。更にアシュの胸から生み出された漆黒の弾丸が和装の女の中心を貫いた。女はぐらりと身体を揺らして倒れこむ。だが、和装の女から零れ落ちた少女は灼滅者が回収するには遠すぎた。黒髪の女が少女を抱える。
    「追わなきゃ!」
     と修李が言うも目の前にはデモノイド、その奥にはベレーザ。そしてベレーザの脇には強面の男がしっかりと抱えられている。
    「撤退よ」
    「行かせねえ!」
     追いかけようとする日方の前に残った強化一般人たちが盾となり、デモノイドの巨大な刃が日方を斬り裂く。
     デモノイドの足下が翳る。
    「ぶっ飛べぇぇぇ!」
     上から急降下する修李の絶叫と共に放たれた杭はデモノイドの脳天に突き刺さり、デモノイドはそのまま何も言うことなく倒れた。
    「烈光さん!」
     亜綾が烈光を最後のゴシック姿の女に投げつける。弾丸の如く飛ぶ烈光さんが斬魔刀で十字に斬る。そこ目掛けて亜綾のバベルブレイカー轟音をあげる。
    「必殺ぅ、烈光さんミサイル、ダブルインパクトぉ」
     放たれた一撃は女に立ちあがる力を残させなかった。

     戦いは終わる。
     残ったのは灼滅者と4人の少女たち。少女達は何も言わない。灼滅者達もどう言葉をかければいいのかわからない。
     残された彼らを月の青白い光はただ静かに照らし出すだけであった。

    作者:星乃彼方 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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