タバコの煙を吐き出した瞬間、ディスプレイの中にGAMEOVERの文字が点滅した。
「あー、くそっ!」
男は怒りに任せて、自分がプレイしていたゲーム筐体をガンと蹴り上げる。
ふらりと入った薄暗い地下のゲームセンターで、子供の頃よく遊んだシューティングゲームを発見し、時間潰しも兼ねて挑戦してみたが、結果は惨敗。長年のブランクで腕が落ちただけなのだが、自分勝手な男はそれを認めたくなかった。
「畜生! この店、難易度設定上げすぎなんじゃねえか?」
立ち上がり、両替機にもケリをぶち込む。普通なら騒ぎを聞きつけて店員が現れるのだが、スタッフルームから人が出てくる気配はない。
「チッ」
店員が近づいてきたら因縁をつけてやろうと考えていた男は、不快そうに舌打ちをした。誰かに八つ当たりでもしなければ、この怒りは到底おさまらない。
「……こうなりゃアイツ等でいいか」
そう呟いて、男はフロアの端にある椅子に腰掛けていた男女4人のグループに近づき、いきなり怒鳴りつけた。
「俺の視界にチラチラ入って来やがって目障りなんだよ!」
男が入店した時には既に、この4人は片隅でじっとしていた。ゲームもせず、まるで人目を避けるように。
「テメェ等のせいでゲーム失敗しちまったじゃねぇか。弁償しやがれ」
誰がどう聞いても言いがかりだが、つまりこれは単純なカツアゲなのである。
「金くらい持ってんだろうが? オラさっさと出せ!」
そこまで言ってから、男はようやく4人の異様さに気づいた。
目深に被ったフードの中に、青白く無表情な顔。隠しきれないほどの敵意と殺気。ゲーセンに身を潜めているワケありの逃亡者か何かだろうか?
落ち窪んだ眼窩の奥で、濁った瞳がギョロリと動いた。
『ウルサイ……ココハワレラ、ノバショ、ダ。チカヅイテキタホウガワルイ……キエロ』
「なんだと? 訳わかんねぇコト言いやがって……ゲーセンはゲームする場所なんだよ、黙って座ってる場所じゃねえ。とにかく財布出」
しかし男は最後まで言葉を続ける事ができなかった。なぜなら、フードの人物がどこからともなく取り出した鉄塊の如き刃で、彼の首から上をすっぱりと切断してしまったから――。
●敵は人造灼滅者!?
「新宿界隈にアンデッドの姿が確認されたという情報が、複数件寄せられている」
開口一番、巫女神・奈々音(中学生エクスブレイン・dn0157)が深刻な表情でそう言った。
「既に知っている者もいるかもしれないが……どうやらこの眷属、先の病院襲撃事件で死亡した人造灼滅者がアンデッド化したものらしいんだ」
「!」
集った灼滅者達が息を呑む。
「彼等はノーライフキングの眷属だが、灼滅者のような姿で殲術道具を使いこなす、通常のアンデッドよりも強力な相手だ」
アンデッド達が出現するのは新宿周辺であり、どうやら何かを探しているようなのだが、彼等をアンデッドにした屍王の正体も含めて、詳細は一切不明だ。
このアンデッド達は基本的に人目を避けて活動しているが、自分達にとっての邪魔者や、不用意に近づいてきた者を排除する事に対しては何の躊躇もない。
「そんな状況下で、既に複数の犠牲者が出てしまっている」
そう言って奈々音は悔しそうに眉を下げる。
「私が確認したのは、新宿某所にある地下のゲームセンターだ。不良やチンピラが出入りする、あまり良い環境の店ではなかったようだが……現在、アンデッド達の昼間の休息場所になっているらしい」
拠点に適した場所としてアンデッド達が確保した際、居合わせた店員や客は全て殺害されたと思われる。以来、店はそのままの状態で稼働しており、時折、運の悪い客が入店して被害に遭ってしまうという状況のようだ。
殺された者の死体は、スタッフルームに累々と積み上げられているらしい。なんというおぞましい光景だろうか。
「このアンデッドには、店の扉に『閉店』と掲げる知恵すらないようだな。とにかく、このまま放置しておけば、被害者は増える一方だ。皆で現場へ赴き、アンデッドを灼滅してきてくれないか?」
夜間は新宿の街を徘徊し、日中はゲームセンターで休息を取る。それが彼等の行動パターンとなっている。
「標的となる人造灼滅者のアンデッドは全部で4体。4体合わせてダークネス一体分ほどの強さだと思ってくれればいい。日中、彼等がゲームセンター内にいる事は確実だから、そこを襲撃して欲しい」
夜間徘徊するアンデッドを尾行しても得られる情報はなさそうだし、ヘタな事をすれば予想外の事態に発展する危険もある。気をつけなければならない。
「このグループは、バベルブレイカーを持つアンデッドが2体、殺人注射器を所持する者が1体。そして無敵斬艦刀と同等の鉄塊剣を使う奴1体で構成されている。しかも、全員がバトルオーラを纏っているようだな。それぞれが武器サイキックを使いこなしてくると考えて間違いはないが、陣形や連携等、どんな戦い方をするか、詳しい情報は得られなかった……力不足ですまない。万全の態勢を整えて挑んでくれ」
アンデッド達は灼滅者の闘気を感じ取って邪魔者と判断し、問答無用で襲いかかってくる。片言の言葉は使用するようだが、情報を聞き出そうとしても答えが返ってくる事はない。
「生きていれば仲間になる筈だった相手だが……アンデッドとなってしまった以上は、倒すしかない。感傷は無用だ。速やかに灼滅してやるのが慈悲というものだろう。せめて彼等の魂だけでも、救ってやって欲しい――よろしく頼む」
厳かな口調でそう告げて、奈々音は説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715) |
盾神・織緒(不可能破砕のダークヒーロー・d09222) |
君津・シズク(積木崩し・d11222) |
城戸崎・葵(素馨の奏・d11355) |
原坂・将平(ガントレット・d12232) |
柊・司(灰青の月・d12782) |
フィア・レン(殲滅兵器の人形・d16847) |
桜木・心日(くるきらり・d18819) |
●生者と死者と
太陽の光を背にして階段を降りる灼滅者達の足取りは、重かった。
当然だ、と君津・シズク(積木崩し・d11222)は思う。
(「……こんなの、平気で戦える訳ないじゃない」)
これから相見えるのは、もしも生きていれば学園の仲間になったであろう者。ただ敵と切り捨ててしまうのは、あまりにも惨い行為なのではなかろうか。いや――余計な感情は攻撃の手を鈍らせるだけだ。シズクはぴしゃりと両頬を叩いて、その考えを頭から追い出した。
殺されたあげく屍王の道具にされた死者。こんなのあんまりだよ、と辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)が言葉を噛み締める。
(「こんな出会い、悲しすぎる……でも、今は一刻も早く終わらせなくちゃ」)
そう、彼等の尊厳の為にも。
「哀しいね、ジョルジュ」
彼等をもう一度……せめて、今度は安らかな眠りに導いてやらねばならない。そう強く決意した城戸崎・葵(素馨の奏・d11355)は傍らのビハインド、ジョルジュに愛おしげな目を向けた。
「生きていれば、か」
誰に聞かせるでもなく原坂・将平(ガントレット・d12232)が小さく呟く。
「覚悟して戦った末なら俺は……仲間として送ってやりたい」
ダークネスに抗って命を落とした者に敬意を払い、闘いを引き継ぐ事こそ死者への弔いになる筈、と将平は拳を握り締める。
薄暗い地下の廊下の突き当たり、半開きになっている扉の向こうから微かに電子音が聞こえてきた。
(「ゲームセンターって、実は初めてなんだよね」)
一体どんなところなのかなと、桜木・心日(くるきらり・d18819)はついつい瞳を輝かせてしまう。こんな時でなければ楽しく遊ぶ事もできたのだろうけれど。
ゲーム作品のポスターが貼られている扉を、そっと押し開ける。予め作ってきた『立入禁止』の札を取り付ける葵の脇をすり抜けて、灼滅者達はその身を死の匂いに満たされた空間へと滑り込ませた。
何人もの犠牲者が出ている現場とは思えないほど明るく賑やかな音が、来訪者を出迎える。アンデッド達が拠点にした時から、ずっとこの状態なのだろう。
「誰にも邪魔はさせねえ」
人払いの為の殺気を放出した将平が店の奥へ進入しようとした時――彼の視線の先に、フードを目深に被った4つの人影が立った。彼等が放つ凄まじい怒気を感じ取った柊・司(灰青の月・d12782)が、サウンドシャッターを展開しつつ警戒の声を発した。
「気をつけて。来ます!」
その言葉が終わるよりも早く、フードの少年が振り下ろした鉄塊剣の斬撃が前衛の隊列についた灼滅者達を横薙ぎにした。
「わあっ!」
突如始まった戦いに吃驚した心日が、自分自身に「大丈夫、大丈夫っ」と言い聞かせながら後方へ下がる。
『キエロ!』
短時間で片をつける気でいるのか、だんっと床を蹴って跳躍してきた男女のアンデッドが、足元に鋭い杭を撃ち込んだ。左右から襲い来る衝撃波に体力を削られた将平が、相手の技を受けきるつもりで更に前へ出る。
『キエェーッ!』
奇声を発しながら突っ込んできた敵の注射針が、ずぶりと音を立てて将平の体に突き刺さった。その勢いでめくれ上がったフードの中から、醜くひしゃげた女の顔が現れる。
「……っ」
体力を削られた将平に駆け寄って癒しのオーラを施した盾神・織緒(不可能破砕のダークヒーロー・d09222)は、言いしれぬ激情に駆られた。それは、死者を利用する者への激しい怒り。
『ナゼ、タオレナイ?』
アンデッド達の濁った瞳が訝しげに見開かれる。これまで屠ってきた者の誰もが一撃の元に散っていった。なのにこいつらは何故――そう言いたげな表情だ。シズクは感情を殺し、殺人注射器を手にした女の足元に滑り込んで、雷拳を突き上げた。
「まずは注射器持ちからだね。行くよ!」
紅の装甲服を纏った飛鳥が、躊躇いを振り切って炎の一撃を繰り出す。ごうっと燃え上がるアンデッドの背後に音もなく近づいたフィア・レン(殲滅兵器の人形・d16847)は、ふたつの刃で相手の急所を切り裂き、人形のように冷たい瞳を向けた。
「……亡霊……だね」
前のめりになりかけた女は、将平の抗雷撃を顎に食らって大きく仰け反る。その隙を逃さず放たれた心日による死の光線が、女アンデッドの胸を真っ直ぐに貫いた。
「前は頼んだよ、ジョルジュ。けれど、決して無理はしないようにね」
防護符を投げて仲間を強化しつつ、葵がジョルジュに指示を出す。前を託されたジョルジュは隠されていた顔を晒して敵群に精神的打撃を与え、トラウマを呼び起こした。
『ウアァッ、イタイィー!』
襲撃者の強さに狼狽えながら自らにワクチンを投与する仲間を後方に押しやるようにして、女アンデッドがバベルブレイカーをドンッと床に撃ち込む。同時に少年と男が左右から織緒に突撃し、苛烈な打撃を繰り出した。今度は攻撃を集中させて一人ずつ仕留めようとしているのか。
「ぐ……っ」
高速回転する杭に肉体をねじ切られて超弩級の斬撃を浴びても織緒は怯まず、2体の屍をすり抜けるように突進し、注射器を持つ女を斜めに斬り裂いた。
「逃がしはしないわ!」
よろめくアンデッドに、シズクの鋼鉄拳が降り注ぐ。助けを求めるよう伸ばされた手はどこにも届かず、哀れな女は飛鳥の居合斬りによって力尽きた。
「ごめんね……こんなことでしか、キミ達を止められないけど……それでも……!」
自分達の手で終わらせなければならない、何としても――飛鳥は心を鬼にして、武器を握る手に更なる力を込めた。
「苦しいだろうけど、どうか、耐えて」
引き続き仲間を強化しながら、葵は敵に憐憫の視線を向けた。
「君達はタチの悪い白昼夢の中にいるだけなんだ。じきに眠くなるだろうから、それに身を任せてしまえばいい」
険しい表情を浮かべて清めの風で前衛陣を回復していた司は、点々と床に落ちている血痕に気づく。おそらくあれは、犠牲者の最期の痕跡。
死とは安らぎであり、人という生きものに平等に与えられる幸福である、と彼は考える。そう、それが例えどんな人物であったにせよ。
「……このような行為、許すわけにはいきません」
『ヒ、ウアアァッ!』
ジョルジュによって更なるトラウマを引き起こされたアンデッド達が、悲痛な声をあげる。生前の人格など既に失われている筈だが、それでも心的外傷は確実に彼等を脅かしていた。
「……ここは……貴方達が……居ていい場所じゃないの」
デモノイド寄生体を翼の如く生やしたフィアのDCPキャノンが、鉄塊剣を握り締めた少年の命を削り取る。破邪の白光を放つ将平の斬撃が、毒に冒された敵へ苛烈な追い討ちをかけた。
激昂する敵群に、凍てつく死の魔法が襲いかかる。
「もしかして生前ゲームが好きだったから、ここを拠点に選んだのかな? それとも偶然?」
不思議そうに首を傾げる心日。何もこんな遊戯場をアジトにしなくても良さそうなのにと思っていたが、そう考えてみると納得がいくような気がする。とはいえもう、本人達には確認のしようもないけれど。
『ウガアアアアッ! キエロ、ハヤクキエテシマエェーッ!』
拠点に踏み込まれたからなのか、仲間を倒されたからなのか、狂乱したアンデッド2体が飛鳥の元に突っ込んできて、凄まじい拳の連打を繰り出した。更にジェット噴射で突撃してきたフード女に死の中心点を貫かれた飛鳥は、たまらずその場に頽れる。
「うう……っ」
「大丈夫か? 無理をするなよ」
ごっそり体力を削られてしまった飛鳥に、織緒が集気法を施す。すかさず葵も祭霊光で回復のフォローに回った。
「なかなかやりますね。やはり、只のアンデッドとは違う。一瞬たりとも油断できないという事ですか……」
裁きの光を放って飛鳥の傷を念入りに癒しながら、司は真っ直ぐに敵を見据えた。普段なら嫌悪するアンデッドなどを直視したりはしないのだが……今回だけは別だ。
「きちんと見届けますよ。あなた達の最期を」
仲間を傷つけられたお返しとばかりに、シズクが漆黒の弾丸を撃ち出した。次いで飛鳥、フィア、ジョルジュによる渾身の強撃が、鉄塊剣を携えた少年に次々と叩き込まれてゆく。
「この先にいくのはあんただけだ。俺はまだ――戦う」
集中攻撃によってよろけた少年の胸倉を掴んだ将平は、ごく自然な動作で相手の身体を投げ飛ばした。ゲーム筐体の角で頭を強打した少年が、風船のように弾けて消える。
「あんたが研鑽した武は忘れない」
仲間を守るように、あんたの誇りも俺が守る……そう言って将平は目を伏せた。
「次はそっちだよ!」
攻撃しようとした対象が倒れ、すかさず標的を変更した心日のDCPキャノンが、狙い違わずフード女に命中する。
『キサマ、ヨクモ……! ワレワレノジャマヲスルナァッ!』
「!」
逆上した敵のオーラキャノンが炸裂――と思った瞬間、シズクが間に飛び込んできて心日を庇った。畳み掛けるように突き立てられた敵のドリル杭をも耐えきったシズクは、胸元にクラブのマークを具現化させて自らの傷を癒す。どんな些細な傷も見逃さない、と司が彼女に癒しの手を向けた。
「皆さんを守るのが僕の役目ですからね。全身全霊で支えますよ」
「ゴホッ……ありがと。こんなに力強い味方がいるんだものね、そう簡単に倒れる訳にはいかないわ」
「――ォォォッ!」
バベルブレイカーを振りかざす女の屍に、織緒の拳がマシンガンの如く打ち込まれた。フードが破れ、腐り果てて変色したアンデッドの皮膚が露わになる。痛ましい屍を焼き尽くさんと、炎を纏った飛鳥の『JS-03 参式斬撃刀』が振り下ろされた。更にジョルジュが霊撃で追い討ちをかける。
「本当ならもう、埋葬されて安らかな眠りについている筈なのに……よくもこんな酷いことを」
飛鳥はぐっと唇を噛み締める。戦いを止める訳にはいかない――彼等を救うには、倒すしかないから。
「これ以上、苦しみを長引かせたくはないね」
葵の放った符が、彼の周囲で五芒星の形を描く。一瞬後、発動された力が敵を攻め立てて、その足取りを確実に鈍らせていった。
「……仇討ち……するから……はやく……おやすみ」
炎に苛まれ続けていた女アンデッドが、フィアの居合斬りによって敢えなく消し飛ばされる。残された男の屍が、獣のような雄叫びを上げた。
『ウオオォォッ!』
再び足元に撃ち込まれた杭から放たれる振動波が、灼滅者達を襲う。クルセイドスラッシュで反撃に出た将平は、敵の攻撃に賞賛の言葉を贈った。
「ははっ……すげえ技なのに、あんたはもう何も感じちゃいないんだな」
人造灼滅者としてのサイキックは何一つ使用できず、所持している武器のみで攻撃してくるだけ――屍王に従う傀儡に成り果てた死者。だが、将平はあくまでも彼等を『人』として、『仲間』として見送りたかった。
司の巻き起こす清めの風が、無機質な電子音の世界を躍るように駆け巡る。
「どんどん行くよ!」
心日の足元から伸びた影が男をぐわっと飲み込む――と同時に、灼滅者達の総攻撃がアンデッドに集中した。
これで、かなりのダメージを与えられた筈。
しかし――それでもまだ、敵は倒れない。
『グガアァッ!』
絶叫と共に繰り出された蹂躙のバベルインパクトが、勢い良くフィアを貫く。
「……くうっ……なんて力」
クリティカルな一撃に膝を突きかけたフィアが、自らのオーラで傷を回復した。そんな彼女を庇うように前へ出たシズクのトラウナックルが、敵を苛烈に打ちのめす。
(「死んじゃったらさ……やっぱり、終わりなんだね」)
彼女は事実を噛み締める。闇堕ちからは救えても、眷属となってしまえばもう、こうする事しかできないのだ。
『カエリウチニシテヤル、カカッテコイ』
「ああ、行くとも」
チェスのナイトを模したマテリアルロッドを振りかざした織緒が、こちらを挑発してきた敵を容赦なく横殴りにした。
「もう眠るといい。最早君に戦う理由などないのだから……」
「やるよ!」
ぴったりと息の合った葵とジョルジュの連撃がアンデッドを攻め立てる。しぶとかった敵も、ここでだいぶフラフラになってきた。あと少しだ。
怒りと悲しみを心の奥底に封じ込めて、刃を一閃。きっとこの思いは皆同じなのだろうと、飛鳥は短く息を吐く。
「ここで亡くなった方、そしてあなた方。全ての犠牲者に哀悼の意を……」
司はそっと目を閉じる。激しく渦巻く風刃は、己の身に降ろしたカミの力。清浄なる風は、彼等の魂を浄化してくれるだろうか。
拳に雷の力を宿して将平は突撃する。敵の、いや……彼と彼女の技は見届けた。後は――。
「受け取ったよ。奴らに届けてやる、必ずな」
「……さよなら」
「ごめんね」
フィアと心日が放った死の光線に貫かれたアンデッドは、足を縺れさせて遂に膝を折る。
『グウゥ……』
「スマン、私にできるのは楽にしてやる事ぐらいだ」
無念だろう、悔しいだろう。だが、それらは全てここに置いて行けと小さく呟く織緒。
「その思いは私が背負っておく。だから――もうここで眠れ」
刹那、織緒の無敵斬艦刀が敵を粉砕し、この世から跡形もなく排除した。
かくて――ゲームセンターに集っていた死者達は、永久の彼方に去ったのである。
●祈り
手早く周囲を確認し、スタッフルームを覗いてみる。犠牲者の遺体の山――目を覆いたくなるような惨状がそこにあった。できれば弔ってやりたいと司は思ったが、それは自分達の役目ではない。だが、匿名でなら警察に連絡しても大丈夫だろう。
「この人達が早くお家へ帰って、安らかに眠れますように」
店内をくまなく探索してみたが、結局、手がかりになる物は何も見つからなかった。
「……4人も消えちまったんだよな」
寂しげに店内を見回した将平は、戦友になれたかもしれない彼等を悼む。織緒もまた、彼と同じ気持ちで黙祷を捧げた。
「君達の魂だけでも我々は救えただろうか?」
「どうか、どうか安らかに……」
溢れそうになる涙を必死で堪えつつ、死者の為に祈る飛鳥。強い殺意に突き動かされるように戦っていた彼等の姿を脳裏に描きながら、葵は心から願う。もう彼等のような犠牲者が増えないように、と。
「……」
静かに黙祷していたフィアが、踵を返して扉へと向かった。もうここに用はない。悲しい場所に背を向けて、早く帰ろう。恋人の元へ――。
その後を追うように心日も店外へ出て、そこでふっと振り返った。
「お疲れ様でした、おやすみなさい」
最後に店を出たシズクは、それまで無意識に握り締めていた拳を開き、血に汚れた掌をじっと見つめた。
戦えば死ぬかもしれない。それは当然だし、覚悟していなかった訳でもない――けれど。
(「いつからか遠く感じていたそれを、今回見せつけられた感じがするわね」)
階段を踏みしめて地上へと戻る。
いつの間にか、空が黄昏色に染まっていた。
作者:南七実 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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