喧騒満ちる都市の陰影

    作者:宮橋輝


     その若者たちは、新宿の『裏側』を知り尽くしていると豪語していた。
     表通りの喧騒から離れた、やや寂れた一角。そこにある廃ビルが、彼らのお気に入りである。
     侵入が容易で、かつ人目につかない。中は暗いが、照明さえ忘れなければそれなりに快適だ。
     些か子供じみた表現だが、『秘密基地』としてこれほど打ってつけの場所もあるまい。

     この日も、彼らはゲームセンターの帰りにそこに立ち寄った。
     コンビニで買った菓子や飲物で一休みしつつ、次に何をして遊ぶか相談するのである。
     談笑しながらいつもの部屋に足を踏み入れた時――彼らは異変に気付いた。

     部屋の隅に、大きなものが蹲っている。
     訝って懐中電灯の光を向けると、突如、『それ』が立ち上がった。
     全身を青い細胞に覆われた、巨大な怪物。若者たちが悲鳴を上げる間もなく、傍らからさらに二つの影が飛び出した。血色の悪い痩せた男と、黒い角が生えた女と。

     ――化け物だ。

     果たして、現状を最も早く認識したのは誰であったか。
    「う……ああああああああああああああッ!!」
     恐慌をきたした若者たちの絶叫に、風を切る音と、鈍い音が重なる。
     無残な屍と化した彼らが床に転がったのは、その直後だった。
     

    「遅くにごめんね。――実は、新宿で『病院』の灼滅者のアンデッドが見つかったんだ」
     夜の教室で、伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)は集まった灼滅者に向けてそう言った。
    「皆も聞いたことがあるかもしれないけど、このアンデッドは普通のよりかなり強力なんだ。ダークネスみたいな見た目だったり、武器を使ったりね」
     アンデッドたちは新宿で何かを探すような動きを見せているようだが、その目的ははっきりしていない。ただ、放っておけば確実に犠牲者が出てしまうという。
    「今回、見つかったアンデッドは三体。夜中に動き回って、昼間は適当な廃ビルに隠れて休んでたんだけど……どうも、その一つを秘密基地みたいに使ってた人たちがいたらしくて」
     このままでは、明日の昼過ぎに廃ビルを訪れた一般人の若者が三人、鉢合わせしたアンデッドに殺されることになる。人目を避けて活動しているアンデッドからしてみれば、目撃者は放っておけないのだろう。
    「明け方くらいに廃ビルに行けば、ちょうどアンデッドたちが帰ってきた直後に辿り着ける。犠牲者が出る前に、倒してきてほしいんだ」
     灼滅者が頷くと、功紀はチョークを手に取って黒板に向かう。
    「アンデッドたちは基本戦闘術の他、それぞれのルーツと武器に応じたサイキックを使ってくる。前衛がデモノイドヒューマンと妖の槍、中衛が殺人鬼と鋼糸、後衛が神薙使いと護符揃えだね」
     単純な強さとしては、このアンデッド三体がダークネス一体に相当するようだ。一体ずつ能力傾向も異なるため、敵の特性を考えて作戦を組んでいく必要がある。無論、廃ビル内部の戦いということで照明も忘れてはならない。
     敵が持つサイキックとポジションを全て黒板に記してから、エクスブレインは灼滅者を振り返った。
    「何を探してるのか、どうして『病院』の灼滅者がアンデッドになったのか、分からないことは多いけれど……ひとまず、被害を出さないためにも戦うことに集中して。簡単な相手じゃないから、うっかりすると痛い目にあうかもだし」
     チョークの粉を払い、飴色の瞳でその場の全員を見る。
    「――でも、皆なら大丈夫だって信じてるから。どうか、お願いね」
     迷い無く言って、彼は小さく頭を下げた。


    参加者
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    一花・泉(花遊・d12884)
    レクシィ・ノーザンブルグ(光輪円舞・d23632)
    牙島・力丸(風雷鬼・d23833)
    ユリアーネ・ツァールマン(片翼の剣精・d23999)
    来栖・アリス(闇薙ぐ祈り・d24043)

    ■リプレイ


     東の空が白み始めた頃、灼滅者は目的の廃ビルへと到着した。
     入口に張られたロープを潜り、ビルの中に足を踏み入れる。持参したライトを点灯してから、如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)は人払いの殺気を放った。
    「……癖と言うか何と言うか……落ち着かないのよね」
     戦いの最中に一般人が訪れる心配は無いと聞いてはいるものの、備えておいて悪いということはあるまい。彼女が周囲を見渡すと、闇に鎖されていたそこは全員が持ち寄った明かりでほんのりと照らされていた。
     スプレー塗料で描かれた壁の落書きを認めて、橘・彩希(殲鈴・d01890)が「可愛らしいわね」と微笑う。自己主張に溢れた拙劣なイラストは、この場所を根城にしていた若者たちの無知を象徴するもののように思えた。
     きっと、彼らは全てを知っているつもりでいたのだろう。この廃ビルも、新宿の街も。
     自分達に『知らない』ことがある――そんな単純な事実すら知らずに。
     僅かに目を細めた少女の前を、牙島・力丸(風雷鬼・d23833)は黙々と進む。床を踏みしめる足と、固く握った拳は羅刹のもの。『病院』の人造灼滅者である彼とレクシィ・ノーザンブルグ(光輪円舞・d23632)、ユリアーネ・ツァールマン(片翼の剣精・d23999)にとって、今回の戦いは特別な意味を持っていた。何しろ、拳を、あるいは剣を向ける相手はかつての仲間なのだから。
     やがて、灼滅者は最奥の部屋に辿り着く。突入した彼らが見たものは、哀れな三体のアンデッド――いや、三人の『人造灼滅者』の成れの果てだった。
     デモノイド、六六六人衆、羅刹。裡に秘めたダークネスに『魂』以外の全てを明け渡して灼滅者となった彼らは、戦いの中で命を落とし、何者かの手によって蘇った。
     生前の人格を奪われ、ダークネスの尖兵としていいように使われる――それは、最期まで戦い抜いた人造灼滅者たちの矜持に唾を吐くに等しい、許しがたい冒涜であるとエリアル・リッグデルム(ニル・d11655)は思う。
    「死者に鞭打つって、こういう事を言うんじゃない?」
     呟く彼の傍らで、ユリアーネは黙って剣を握り締めた。空を飛ぶこと叶わぬ水晶の片翼が、彼女の左肩越しに光を反射する。
     甚だ非好意的なアンデッドたちの視線を受け止めつつ、レクシィは物言わぬ彼らに語りかけた。
    「あなたたちを眠らせにきました」
     声と同時に、水晶の光沢を帯びたエナジーの輪が宙に浮かび上がる。その輝きを受けて、少女の手の中に光の剣が現れた。
    「――さてと、引導を渡してやるか」
     前に進み出た一花・泉(花遊・d12884)が、かつて老猟師の持ち物であった狩猟刀を構える。
     事情はどうあれ、アンデッドとなってしまった以上は灼滅するより他に無い。
     白銀の聖剣を十字架の如く掲げ、来栖・アリス(闇薙ぐ祈り・d24043)が祈りの言葉を唱えた。
    「主の御名の下、我が祈りを闇薙ぐ刃として迷える魂に導きを。闇に囚われし命に救済を」
     開かれた目に映るのは、救うべき者たちの姿。
     コンクリートに囲まれた部屋で、灼滅者と、かつて灼滅者であったものたちの戦いは始まった。


     痩身の男から湧き上がったどす黒い殺気が、前に立つ灼滅者たちを瞬く間に覆い尽くす。
     そこに躍り出たデモノイドが槍に変じた片腕を振るえば、たちまち巻き起こった旋風が前衛を強かに打ち、彼らの判断力を奪い去った。
     すかさず、額に黒曜石の角を生やした女が惑わしの符で混乱に追い撃ちをかける。後列で相手チームの初動を眺めていたエリアルは、感心して口を開いた。
    「敵ながら鉄壁のバランス構成だよね……流石は元灼滅者」
     ディフェンダーのデモノイドが攻撃を引き付け、ジャマーの男は状態異常で動きを縛り、メディックの女が双方を支援する。一撃の威力にはやや欠けるが、時間の経過とともに強さを発揮する組み合わせだ。
    「そっちが長期戦の構えなら、こっちは攻めに徹しようじゃないか」
     そう独りごちて、エリアルは鮮やかな赤色のオーラを宙に奔らせる。逆十字に引き裂かれたデモノイドの胸元を目掛け、春香が邪を滅する裁きの光条を放った。
    「正直、回復よりは斬る方が性に合うのだけれど」
     左手に構えたナイフから夜霧を展開する彩希が、正体を朧にするそれにメディックの力を乗せて仲間を包む。
     彼女の支援で状態異常から立ち直ると、前衛たちは次々と反撃に転じた。
    「ちょっとばかし俺の遊び相手になってもらうぞ」
     デモノイドに肉迫した泉が、歪に膨れ上がった青い巨体を横目に見て得物を振るう。
     狩猟刀の刃が脇腹を深々と抉った瞬間、力丸が肥大化した異形の腕で鬼神の一撃を叩き込んだ。
     羅刹の形態をとって闘うのは、ダークネスの操り人形に仕立てられたアンデッドたちを気遣うがゆえ。『彼ら』が身も心も化け物になってしまったのなら、せめて同じ姿で応えてやりたかった。
     武蔵坂学園の一員として初陣に臨むアリスが、闇を討つ聖剣を携え前進する。
    「主よ、お導きを……」
     祈りとともに振り下ろされた斬撃は、刹那、破邪の光となってデモノイドの巨躯を傷付けた。
     皆がデモノイドに火力を集中させる中、レクシィは光の剣を操り痩身の男に切りかかる。殲術執刀法で一角の女の動きを封じたいところだが、敵の前衛と中衛が健在であるうちは後衛の彼女に近接攻撃は届かない。ならば、暫くはエンチャントを砕く役割を中心に担うべきだろう。
     鋼糸の結界を張り巡らせる痩身の男に続き、利き腕を巨大な刃と化したデモノイドが灼滅者に襲い掛かる。その時、春香がビハインドの『千秋』を呼んだ。
    「――お願い」
     千秋が仲間を庇いに入ったの見届け、彼女は黒一色の魔導書『GrimoireNoir』を開く。黒地に赤で書かれた乱雑な文字を指先でなぞれば、サイキックを否定する魔力の光線がそこから放たれた。
    「どこの誰がやってるのかはしらねーけど、こんなもんオレが絶対にゆるさねーってーの!」
     臆せず前に踏み込んだ力丸が、デモノイドの急所を狙って鋭い突きを見舞う。彼の反対側に回ったユリアーネがクルセイドソードを繰り出し、丸太の如き太腿に斬りつけた。
     面識は無くとも、出自を同じくする者として思うところはある。討つのが辛い訳ではないが、彼らの魂を汚し、その肉体を使役する黒幕に対する怒りは彼女の中に確かに存在していた。
     レクシィとて、思いは同じ。不条理に抗い、死んでいった仲間たちの遺志がダークネスに踏み躙られているのを目の当たりにして、黙っていられる筈もない。
    「誰がやったかは知りませんが、絶対に後悔させてあげます……」
     決意を込めて言い放ち、プリズムの十字架を降臨させる。
     視界を白く染め上げる眩い光が、眼前の敵を灼いた。


    『オ……オオオオッ!』
     灼滅者の集中攻撃を浴びて、デモノイドが雄叫びを響かせる。
     癒し手として仲間の回復に努める彩希が、束ねた護符から一枚を抜き出して口を開いた。
    「あら、脇ががら空きよ?」
     守りの符を前衛の背に投じつつ、どうせなら護符の端から敵の傷口に切り込めないものか――とふと考える。己の思いつきにくすり笑って、彼女は戦いに意識を戻した。
     いかに耐久力に優れ、まめに回復を行おうと、ヒールサイキックによる治療には限界がある。既に幾つもの『癒せぬ傷』を抱え込んだデモノイドは、そう長くは保つまい。
     仲間と互いに連携し、アリスはデモノイドの霊的防護を破壊せんと果敢に攻める。敬虔なシスターたる少女は、決して怯まない。躊躇わない。闇を薙ぐ刃として、どこまでも敢然と敵に立ち向かうのが彼女のあり方だった。
    「……最初の一体を倒せば、かなり楽になるはずよ」
     双子の妹が遺した眼鏡を通して戦場を見据える春香が、退魔の光でデモノイドを貫く。
     巨体がぐらりと傾いだ瞬間、泉は畳み掛けるように狩猟刀を閃かせた。
    「こいつで仕舞いだ。きっちり三途の川を渡りな」
     獲物の血と老猟師の遺志により霊性を帯びた刃が、『止刺』という名の通りにデモノイドを仕留める。頚部を半ばまで断たれた巨体が床に崩れ落ちると、その屍は青き泥となって溶け消えた。
    「病院の関係者を灼滅する、というのも微妙な気分だね」
     小声で独りごち、泉は次なる目標へと向き直る。アンデッドとして存在し続けるよりは、灼滅される方が遥かにマシというものだろう。そう考えないことには、やっていられない。
    「……っ!」
     鋼糸を操る痩身の男が、力丸の体を袈裟懸けに切り裂く。間髪をいれず、一角の女が惑わしの符を宙に舞わせた。
     ディフェンダーの一人が咄嗟に我が身を割り込ませ、代わりにそれを受け止める。前衛たちのダメージを見て取った彩希が、癒しを届けながら仲間に声をかけた。
    「支援をお願いできるかしら」
     少なくとも、ジャマーの男を倒しきるまでは状態異常が重なるのは避けたい。肩越しに頷きを返した後、春香は三日月型のボディが特徴的なギターを爪弾いた。
    (「できれば長期戦にはしたくないのだけれど――」)
     室内に響き渡る力強いメロディが状態異常に蝕まれた前衛たちを浄化し、彼らに戦う力を取り戻させる。体勢を立て直した力丸が、お返しとばかり痩身の男に殴りかかった。
     みしりと重い音を立てて、鬼の拳が男の鳩尾にめり込む。これまで堪えていた涙が、堰を切って少年の瞳から溢れた。
     喉を震わせる咆哮。魂の慟哭。自分はただ、誰かの命を守りたいだけなのに。どうして、どうして、仲間であった筈の彼らを、この手で滅ぼさねばならないのか。
     銀十字の剣を間断無く振るい続けるアリスも、心苦しさと無縁ではいられない。アンデッドにされてしまった彼らの無念を思うと、胸が詰まった。
     それでも、戦う意志に揺らぎは無い。聖なる斬撃を繰り出し、自らの防御力をさらに高めていく。
    「今私たちに出来る事は、彼らを解放する事だけです」
     神の教えの下、ダークネスに弄ばれる魂を灼滅する――それこそが、救いになると信じて。

     痩身の男が再び黒い殺気を放ったのを認めて、エリアルが一気に距離を詰める。
     刹那、打撃に特化したチェーンソー剣『大撲殺』から凄まじいモーター音が鳴り響いた。
    「僕たちと同じ思考で動くなら……この攻撃は痛いんじゃない?」
     たちまちエンチャントを砕かれた男を眺めやり、あくまでも冷静に言葉を紡ぐ。直後、泉のマテリアルロッドがそこに打ち込まれた。
     魔力の炸裂で生じた一瞬の隙を逃さず、レクシィが光の剣を男の左胸に突き入れる。
    「死してなお迷える者たちに、せめて一筋の光の導きを与えん……」
     彼女が手首を返した時、心臓を抉られた男は二度目の最期を迎えた。

     ――かつての同胞の手で逝けたことは、彼にとって手向けとなっただろうか。

     亡骸の消滅を見届けた後、エリアルはただ一人残された女に視線を走らせる。その額にあるのは、羅刹のそれと同じ黒曜石の角。『人間のままであり続ける』ことを信条としている身には、肉体をダークネスに近付けてまで力を欲した人造灼滅者たちの姿は痛ましく映る。まして、そんな彼らの魂を嘲笑うかのような非道を看過することなど、到底出来なかった。
    「早く、こんな事から解放してあげよう」
     せめて、誰かを手にかけてしまう前に決着を。心は灼滅者たろうとした、その志を汚さぬように。
     赤きオーラの逆十字が、過たず女を捉える。小さな背中に水晶の片翼を揺らして、ユリアーネが駆けた。
    「……眠らせて、あげなきゃ」
     左手の光剣でフェイントを交えつつ、右手に握った聖剣で斬りかかる。
     既に心臓の鼓動が止まって久しい女の体から、赤い血が流れ出すことは無かった。


     護符で自らを癒す一角の女に、灼滅者は火力を集中させていく。
     毒を孕んだ衝撃波を放つ千秋とぴたり呼吸を合わせ、春香が赤い文字の書かれた魔導書のページに指を滑らせた。サイキックと反発する魔力が迸り、光となって敵を撃つ。
     直後、涙を振り払った力丸が巨きな手を握った。
    「一秒でも早く終わらせてやるぜ!」
     闘うことを選んだのなら、悲しみに流されるべきではない。そうしなければ、誰よりも『彼ら』が報われないからだ。
     鬼の足で床を踏みしめ、固めた拳を女に叩きつける。苦し紛れに投じられた惑わしの符が、ユリアーネの翼を掠めた。
    「もう、戦わなくて、いい……休んで、いいんだよ……」
     囁き声で告げて、少女は光の剣を閃かせる。一角の女がよろめいたのを見て、ここまで回復に徹してきた彩希が攻勢に転じた。
     敵から情報を聞き出すといった真似は苦手だが、言葉が通じる相手でないなら逆に話は早い。
    「――とりあえず、倒すだけというなら得意分野だわ」
     愛用のナイフを左手に携え、疾風の如き速度で一息に間合いを詰める。
     白い顔(かんばせ)に、穏やかな笑みを浮かべて。『絶つ花』の娘――彩希は、黒き刃を横薙ぎに振るった。
     風を切り、肉を断つ『花逝』の剣筋が、迷える死者に黄泉の途(みち)を示す。
     一角の女が膝を折った瞬間、仮初の生を終えた彼女の体は跡形もなく消えた。

    「我が主よ、彼の下へと旅立った魂にどうか安らぎを与え給え……Amen」
     散っていった三人の弔いにかえて、アリスが祈りを捧げる。続いて、人造灼滅者の少女二人が十字を切ってそれに倣った。自ら戦いの道を選び、その果てに命を落とした彼らが、これからはゆっくりと眠れるようにと願う。
    「みんなの、分まで……私、頑張る、から。だから……おやすみなさい」
     ユリアーネがそっと告げた後、レクシィがおもむろに口を開いた。
    「私たちでも、アンデッドになるのですね」
     このようなことが可能なノーライフキングといえば、真っ先に連想するのは、かの『白の王』。
    「想像しかできないけど、大方セイメイあたりの差し金なのかな」
     早く尻尾が掴めればいいんだけど、と答えるエリアルも、彼女と同じことを考えたらしい。
     アンデッドたちが新宿の街で『何か』を探していたという話を思い出して、アリスが首を傾げる。
    「……迷える魂を生み出した者も捨て置けませんが。彼らは……何を探していたのでしょうか?」
     今は、まるで分からない。黒幕の正体も、アンデッドたちの探し物も。
     部屋に沈黙が落ちた時、ふと、少年の嗚咽が聞こえた。
    「泣いてねえから!」
     仲間達に背を向けた力丸が、振り向かずに声を放つ。
     羅刹の腕で目元を拭う彼からさりげなく視線を外し、泉が言った。
    「なにはともあれ、これで解決だな」
     雑多な物が積まれた部屋の隅に歩み寄り、その一つを手に取る。
     この中にアンデッドとなった三人の遺品があれば、学園に持ち帰ってやりたかった。
     名も知らぬ彼らの――どこかに居るかもしれない遺族のために。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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