世の中は最低ですか? そんな貴女に――

    作者:雪神あゆた

     兵庫県は西宮市のコンビニ前で。
    「っていうか、バイト長、うざいやんなー」
    「ほんま。ざけんなーってかんじ」
    「もう、世の中、さいてーっ」
     五人の女性――年齢は全員18歳前後、が言葉を交わしていた。
     彼女らから10メートルほど離れた地点に、ワゴン車が止まる。戸が開いた。
    「最低とおっしゃりましたか、そこの皆さん、そこの皆さん!」
     中から姿を現したのは、高校の制服を着た三つ編みの少女。彼女の後ろには黒服を着た男達が続く。
    「こんな最低な世の中だから変えなきゃいけない。そのために何が必要? それは力、パワーと言う名の力です!」
     三つ編み少女は、足音を立てながら五人に近づく。
    「その力をあげましょう、あげましょう。というわけでレッツゴゥ!」
     背後のワゴン車を指差す三つ編み。車に乗れ、と言ってるらしい。
     五人は顔を見合わせて言う。
    「は? わけわからんしー」
     
     教室で。姫子が説明を開始する。
    「殲術病院の危機の時に、ハルファス軍から朱雀門高校に鞍替えしたソロモンの悪魔、美醜のベレーザが動き出しました。
     ベレーザは、朱雀門高校の戦力として、デモノイドの量産化を図ろうとしているようです。
     その計画の一部として、朱雀門高校に所属するヴァンパイアが動こうとしています。
     彼女は空川(そらかわ)・りむ。髪は三つ編みで、制服姿。
     空川は強化一般人をひきつれ、一般人を拉致し、デモノイドの素体にするため、デモノイド工場に運び込もうとしています。
     現地に赴き、空川の行動を阻止し、一般人を救出してください」
     
     現地は、兵庫県。
     広い道路に面したコンビニの前。そこで、一般人の女性たち五人が会話をしている。
     夜十時半に、一般人から少し離れたところに車が止まり、そこから降りた空川たちが一般人に近づき、声をかけ勧誘する。
    「皆さんは空川たちがくる前、夜十時にコンビニの中に入り、待機してください
     そして三十分後。空川が車から降りてきた時に、コンビニの外に出て、彼女らが一般人達を連れていくのを阻止してください」
     コンビニの中に入らず外で待機したり、空川が来る前に一般人を追い払ったりすると、バベルの鎖に感知されてしまうので、注意が必要だ。
    「一般人達は、空川の勧誘にのる様子はなさそうです。
     ですが、放置しておけば、空川たちは力づくで一般人を連れ去ろうとするでしょう。
     皆さんはまず、一般人たちをおどしたり、説得したりして、自分から逃げるように仕向けて下さい。
     その後は、一般人達が無事逃げ切れるように、空川達をひきつけながら戦ってほしいのです」

     戦闘では、空川はヴァンパイアの力と日本刀に相当する技を使ってくる。
     彼女の手下の数は五人。
     うち一人は、空川の命令を受けると10分間だけデモノイド化して戦う事が、できるようだ。
     10後には自滅する。しかし10分だけならデモノイドの技を駆使でき、ダークネスに近い強さを発揮する。
     他の手下四人は強くはない。が、格闘攻撃をするので、無視はできない。
     なお、空川は隙があれば、手下たちに戦闘を任せ、自分は一般人を強引に車に運び込み撤退しようとするので、この点は頭に入れておかなくてはいけないだろう。
    「空川りむ、不完全なデモノイド、配下の強化一般人。
     この全てを相手にして、完全勝利を収めるのは、とても難しいこと。
    『作戦が失敗した、誘拐はもう出来ない』と分からせ、帰って貰った方がよいでしょう。
     今回の目的は、量産型デモノイドの素体にされてしまう一般人を救出することですから。
     一般人五人のうち四人を救えれば、成功と言えるでしょうが――できれば、全員救って下さい」
     そして姫子は、灼滅者たちの目を見つめる。その瞳には、灼滅者たちへの信頼の色。
    「皆さんならきっとできる筈、私信じてますから!」


    参加者
    風鳴・江夜(ベルゼバブ・d00176)
    神崎・勇人(日々之ナンパ・d00279)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    葉月・十三(我ハ待ツ終焉ノ極北ヲ・d03857)
    鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)
    白波瀬・千尋(黒装白刃・d23397)
    クローチェ・マリアベル(守護十字・d23456)
    夕鏡・光(万雷・d23576)

    ■リプレイ


     車のブレーキ音。
     コンビニの前で中腰になって会話していた女性達は、車に顔を向けた。
     車のドアが開き、六人が降りてくる。先頭に立つのは、三つ編みの女子高生。後に続くのは黒服の男五人。
    「世の中が最低っておっしゃいましたか、そこの皆さんそこの皆さん!」
     三つ編み少女は芝居がかった口調で、女性たちに近づいていく……。
     灼滅者八人は、コンビニの中で客を装っていた。車が到着したのを知り、自動ドアを潜って外へ。
     夕鏡・光(万雷・d23576)は女子高生――空川りむに近づきながら、ヘラリと笑いかけた。
    「おいおい、俺のオトモダチに酷いコトしてくれたんだって? お礼参りにきてやったぜ? ……オラッ!!」
     話の途中で真顔になり、地面を強く蹴りとばす。
     神崎・勇人(日々之ナンパ・d00279)が光の隣で、不敵に笑った。
    「とにかくアンタらの下手なお喋りの相手なら、オレ達がやるッスよ!」
     親指で自分の胸を指す勇人。
     灼滅者たちの前で、空川は困ったように眉を寄せた。
    「邪魔しないでくださいよ。私はそちらのお姉さんたちに用事があって……」
     一般人の女性たちは瞬きを繰り返す。
    「何、あの人達……え、え?」「ど、どないしよ?」
     互いに顔を見合わせささやき合った。
     今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が女性たちの袖を引く。
    「不良だ! お姉ちゃんたちも早くここから離れて! あの人達、喧嘩を始めたら怖いの!」
     鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)も真面目な顔で彼女らに語りかける。
    「あの人数の喧嘩が起きるなら、ここにとどまるのは危険です。即時離れて下さい」
     紅葉の怯えた声と智美の真剣な声に、女性たちは不安を顔に浮かべた。どっちに逃げたらいいか、と首を左右に動かす。
     風鳴・江夜(ベルゼバブ・d00176)がすかさず一点を指差した。
    「まずは明るい場所に逃げましょう、あっちです!」
     江夜の誘導に従って、女性たちが走りだす。
     空川は女性たちを追おうとする。
    「待ちなさい。話は終わって――」
     が、葉月・十三(我ハ待ツ終焉ノ極北ヲ・d03857)と、クローチェ・マリアベル(守護十字・d23456)が、空川の前に立ちはだかった。
     空川は顔を険しくさせる。
    「こんなにしつこく絡んでくるとは……あなた達はもしやもしや……私達の敵対勢力!?」
     空川の背に黒い――コウモリの翼が生えた。目が赤い光を放つ。
    「通してもらいます、どうあっても通してもらいます!」
     威嚇する空川の前で、十三はバベルブレイカーの杭の先を空川の左胸に向けた。
    「通しませんよ。私はね、貴方達ダークネスの邪魔が、楽しくて楽しくてたまらないんですから。ダークネスの灼滅の次に、ですけどね」
     クローチェは白銀の剣を鞘から抜く。
    「……似て非なる同胞よ。死にゆく前にお祈りは済ませましたか? ――amen」
     生気を感じさせない十三の目。対照的に、クローチェの青の瞳は意志に満ちていた。ともに空川を見ている。
     二人の視線を受け止める空川。
     白波瀬・千尋(黒装白刃・d23397)はカッターの刃を伸ばしながら、周囲に視線をめぐらせている。
    (「まだ……ですね。車をひっくり返しに行くのは、一般人の人が逃げ切ってから……」)


     江夜、智美、紅葉の三人は避難誘導を行っている。
     今、空川を囲んでいる灼滅者はクローチェ、勇人、十三、光、千尋の五人。うち、前衛、中衛は三人。
     空川は灼滅者にさっと視線を走らせ、手下の黒服たちに呼びかける。
    「さあさあ、皆さん」
     空川の手下の一人、彼の皮膚が青く染まる。全身が膨れ上がる。デモノイドに変化した。
     他の黒服四人も両手を顔の高さに、攻撃の体勢を取る。
    「ずばっとずばっと、やっちゃってください!」
     五人が一斉に動いた。
     クローチェは顔を黒服に殴られ、勇人は別の黒服に腹を蹴られてしまう。
     十三も、デモノイドのDMWセイバーで、肩に大きな傷を作っていた。
     だが、十三は瞳に力をこめ、自らの傷を癒す。そして、その目で空川を見た。
     空川はクローチェ、勇人、十三が、攻撃を受けた隙をつき、包囲を突破。一般人達を追いかけている。
    「夕鏡さん、白波瀬さん、彼女を阻止できますか?!」
    「おーけー、任せて!」
     後衛にいた光は駆けだす。
     光は空川との距離を一気に詰めた。
     走る空川の背へ、鬼神変! 強烈な当たりにぐらつく空川。
     彼女を見やりつつ、千尋は白い寄生体の宿る腕を持ち上げた。
    「空川さんは止めてみせます。あの人達を怪物になんて変えさせません!」
     千尋の顔に、戦闘前の様な緊張は見られない。千尋は指の先から毒液を飛ばす。
     空川は「きゃゃあ!?」と悲鳴。

     逃げていた女性たちは空川の声を聞いて、振り返る。
     そして見てしまう。空川やデモノイドの異形を。
    「な、何あれ? ば、化け物っ!?」
     江夜は声を低くし、
    「そうそう。化け物ですよ。逃げないと食べられちゃう、かも。ここにもいるんです、から……」
     語りに合わせビハインドのルキが女性たちのすぐ近くに現れる。
    「~~~!!」
     女性たちの口から言葉にならない悲鳴。一目散に走る女性たち。
     江夜とともに避難誘導をしていた紅葉。紅葉はこちらに近づいてくる空川を冷たく睨んだ。
     一般人が逃げ切った後、戦闘に加わる予定だった。が、包囲できなかった以上、予定は変更しなくてはならない。
     紅葉は指輪に唇を寄せ、ちゅ、音を立てた。
    「さっき、世の中が最低……とか言ってたけど、世の中が最低になるのはね、お前らみたいなものがいるからだよ。
     お前らの好きにはさせないの。さっさと帰れ」
     上空に輝く十字架が出現。十字架から光線が空川たちに降り注ぐ。
     空川は光線を受けふらついた。が、数秒で姿勢を整える。
    「帰りませんよ帰りません。……そこを通してもらいます。はあっ!」
     日本刀を取り出すと、紅葉めがけて振り落とす。
     だが、刃は紅葉にはとどかない。
     勇人が空川の前にたち、紅葉を庇ったからだ。
     刀傷に激痛を感じつつも、勇人は止まらず、両膝を折り曲げしゃがみ込む。
    「さあ、同じ刀使い同士、ちょいっと楽しく仕合うっスよ!」
     刀を持った腕を振る。刃が一閃。空川の脚から血が吹き出た。
     顔をしかめる空川。
    「神崎さんの傷の手当てをお願いしますね」
     智美は霊犬レイスティルに、勇人の手当てを依頼しつつ、自身は空川の横を通り抜けた。目指すはデモノイド。
     目標まで後1メートル程手前で、ジャンプ。
    「貴方は、私が止めてみせます」
     智美は空中で腕を振る。エネルギーの盾で相手の顔面を殴る。シールドバッシュ! 鈍い音が響いた。
     デモノイドの横にいた強化一般人達は空川やデモノイドを支援するべく、動こうとしていた。
     彼らの前で、クローチェは白銀の剣の柄を握りしめる。
    「貴方達、朱雀門高校のやり様を私は決して赦さない……!」
     次の瞬間、強化一般人らの体に火が着いた。ただの火ではなく、コールドファイア。
     強化一般人らの悲鳴が、戦場に響く。


     紅葉は神経を研ぎ澄まし、状況を観察していた。
     空川を包囲する事こそ失敗したものの、それでも彼女の移動を妨げることに成功していた。
     一般人は順調に避難している。見えなくなるほど遠くに行くまで、そう時間はかからないだろう。
     だが敵の力は強大。
     今も、智美がデモノイドの光線に撃たれてしまい、その場に膝を突いた。十三は空川の刃に斬られ、血を流し足をふらつかせている。
    「鬼追さんは、レイスティルさんに治療をして貰って。葉月さんは紅葉が治すから」
     紅葉は一条の光を、十三に当て、出血を止め失った体力を取り戻させる。
     十三は一礼すると、空川に向き直る。
    「強烈な一撃ですが――それでも、負けませんよ。言ったでしょう、私は貴方たちの邪魔をするのが大好きだと」
     無表情だが、声には愉悦の響きがあった。十三は槍を突きだす。穂先が空川の脚の甲を傷つける。
    「くぅ……おのれおのれ! デモノイド、やっちゃいなさい!」
    「ぐおおおっ!」
     デモノイドが動く気配を見せた。
     智美はレイスティルの浄霊眼で体勢を立て直していた。
    「やられません。……ここでやられたら、不幸な方が増えるのですから……ですから、絶対に……」
     智美はすぅ吐息を吸い込むと、影を実体化させた。長く伸ばし、蛇のようにくねらせ、デモノイドの青い肌に絡みつかせる。
     デモノイドは憎々しげに吠える。
     空川の顔には焦りが浮かんでいた。一分かけて構えなおし、炎纏う刀をがむしゃらに振る。
     クローチェは走る。仲間を狙ったその一撃を、クローチェは体で受け止める。
    「(く……でも、この程度で……)」
     クローチェは痛みをこらえつつも、Magistraを白く輝かせた。そして――斬撃! 強化一般人一人を戦闘不能に追いやった。
     回復、攻撃、防御、全てを駆使し、灼滅者は空川やデモノイドの攻撃を耐えしのぐ。
     やがて一般人の姿はもう完全に見えなくなった。彼女らを逃がすことに成功したのだ。
     勇人は炎を宿した刃を振り、空川を制す。
     そして、告げた。
    「あいつらはどっか行ったし、これ以上頑張っても、あんたらの目的は達成できないッスよ?」
    「うぐぐ……」
     空川は自分の唇を変色しそうなほど強く噛んだ。
    「覚えてなさい! いつか必ず、私の刃が貴方達を切り裂くんですから、いつか必ず!」
     そう言うと、背を向けてその場を逃げ去っていく。
     不完全なデモノイド一体と、強化一般人三人は、この場にとどまるようだ。主の逃亡を支援しようとしているのか。
     千尋は折刃カッターの柄を強く握る。
    「無事、一般人の人は守れましたが……最期まで気は抜けませんね……」
     千尋は腕から毒液を放つ。強化一般人三人に毒を浴びせかけた。
     既に傷ついていた三人は、千尋の毒に耐えきれない。どさりどさりと倒れていく。
     一体になったデモノイドが雄叫びをあげる。
    「ガアアアアア!」
     腕を巨大な剣に変えると、刀身を目の前にいた、光へ叩きつける。
     光は痛むのだろう、額に脂汗を浮かべている。それでも、口元にはいつもの笑み。
    「……けっこーつよいね? でも――これならどう?」
     光は相手の懐に飛び込み、杖を持った腕を下から上に。顎を杖で殴りつけ――フォースブレイク!
     光の渾身の一撃に、体をのけぞらせ喚くデモノイド。
     その後もデモノイドは抵抗し続けるが――。
     暴れるデモノイドを、ルキが霊障波で牽制する。デモノイドの動きが一瞬、止まった。
     その一瞬を逃さず、江夜が影業を操った。長く伸ばした影の触手をデモノイドの首に巻きつかせ、締めあげる。
     江夜はさらに動く。ギターを大きく振りかぶった。そのギターに炎が宿り、
    「熱いのいきますよ~」
     ブン! 江夜はギターを巨体の腹にめり込ませる。デモノイドの全身に火が燃え移った。
    「ガアアアアア」
     デモノイドは炎に包まれながら、地面に転がり、悶え――そして消滅する。


    「終わり……です、ね?」
     発言したのは、千尋。敵が完全に消滅したのを確認し、千尋は肩の力を抜いた。
     光も武器を持つ手をおろす。仲間達の方を振り返る。
    「りむちゃんはあほっぽかったけど、結構大変だったねー」
    「ええ、人選ミスッぽかったッスけどね。だけど、無事に終わってよかったッス」
     光に答えたのは、勇人。額に浮かべた汗を拭いた。
     十三と智美は一般人の女性たちが逃げた方向に目を向けた。
    「彼女らも無事に逃げられてよかったですが……しかし、世の中が最低でも、普通に生きていけるということは素晴らしいことなんですけどねぇ」
     十三が小さく肩をすくめる。
     智美は小さな声で彼に答えた
    「こんなところでふてくされていても、何も進むことはできない……そう気付いていただけると良いのですが」
     江夜はルキをねぎらっていたが、顔をあげる。
    「皆さん、お腹すきました、よね? さっきコンビニで新作の肉まんを見つけたので、買ってかえりたい、です」
     紅葉は、
    「賛成です。紅葉もさっき、苺大福を見かけて気になってたの」
     と顔をほころばせる。
     灼滅者たちは談笑しながら、再びコンビニの中に入っていく。
     クローチェはコンビニにすぐには入らず、空川の去った方角を見ていた。
    「朱雀門高校……何度繰り返しても、企みは必ず阻止してみせます……」
     決意をこめて言うと、仲間を追いかけ、コンビニの中へ。皆の談笑に加わるのだった。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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