ロシアンな家庭料理は、いかがですか?

    作者:ねこあじ

    ●宮崎県
    「チョウザメといったら、やはりロシアンな家庭料理に一番合います。
     刺身? 天ぷら? 鍋?
     ノンノン、ここは当然サリャンカ、ウハーといったスープ類。そしてムニエルでしょう」
     チョウザメの養殖に力を注ぐ宮崎県にて、コックのコスプレをした男、サリャンカ怪人がサリャンカを配っていた。
     広場でテントを立てて試食を促せば、感嘆の声が次々とあがる。
    「おいしーい!」
    「これも地産地消やかい、なんか良いね!」
    「そうでしょう、そうでしょう。冷や汁もチキン南蛮も宮崎の家庭料理ではありますが、このロシアンな料理も是非御宅の食卓に加えていただきたいものです!
     チョウザメからはキャビアも採れますしね!」
     目を細めて手を擦り合わせながら、サリャンカ怪人がどんどん試食を勧めていく。
     金に物を言わせてチョウザメを買い取り、ロシアンな家庭料理の普及――そしてゆくゆくは世界征服。それがサリャンカ怪人の狙いだった。
     もう幾度目かの試食会。
     今日のように広場で行ったり、グルメ的なイベントに潜入してみたり。
     チョウザメを扱う飲み屋にもレシピをあげて、メニューに組みこんでもらった。
    「サリャンカは二日酔いにも効きますしね!」
     九州の片隅で、少しずつロシアンな家庭料理は普及しつつある。
    「さあ、お前達! どんどんサリャンカを作っていきなさい!」
    「ウラー! ウラー!!」
     サリャンカ怪人の命令に、料理をしているコサック戦闘員二体は掛け声をあげた。


    「大変だよ! チョウザメを養殖している宮崎県をロシア化すべく、ご当地怪人が暗躍しているみたい」
     教室に集まった灼滅者に、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が言った。
    「ダークネスの行動を察知することはできたけど、もう人々の間でロシアンな家庭料理は浸透しはじめているみたいだよ」
     眉を八の字にするまりんの表情だったが、くるくると変化するようだ。
     次の瞬間には眼鏡をおしあげて、キリッとしたものになっていた。
    「うん、でもね、見つけたからにはロシア化を防がなきゃだよね!
     頑張って説明していくね」
     ダークネスはバベルの鎖の力による予知があり、今回のサリャンカ怪人も例外ではない。
     怪人の予知をかいくぐる方法を、まりんは真剣な表情で灼滅者たちに告げた。
    「普通のお客さんとして、広場で配られているサリャンカを食べてね」
     以上! と、あっさり言い放つまりん。
     彼女は話を続けた。
    「敵の配るサリャンカを食べながら日本の家庭料理を賞賛していくと、怪人は必死になってロシア料理を勧めてくるよ。
     怪人は会話の最中、皆に集中しているから隙だらけみたい。
     長々と話していると他のお客さんは飽きちゃって場を離れるから、この時が攻撃するチャンスかな」
     サリャンカ怪人は攻撃が得意で、ご当地力を宿した必殺ビーム、そして武器と化した皿を投げてくる。
    「このお皿は手裏剣甲に似ているかも。
     そして配下である二体のコサック戦闘員は、撃つのが得意で援護射撃をしてくるよ」
     ガンナイフのサイキック、援護射撃と同等のものだ。
    「サリャンカ怪人は試食会をしていて憎めない敵かもしれないけれど、相手はダークネス。
     しかもロシア化は少しずつ進んでいるし――うん、本当に怪我には気をつけて、ちゃんと皆で帰ってきてね」
     そう言って、まりんは灼滅者を送りだした。


    参加者
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    九十九・緒々子(回山倒海の未完少女・d06988)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    中川・唯(中学生炎血少女・d13688)
    明待・唯(芍薬の功・d20932)
    大和・呉葉(カレーなるヒロイン・d21319)
    響・ヴェールヌイ(駆逐官・d21662)

    ■リプレイ

    ●サリャンカを食す
    「サリャンカ美味しかったわぁ。お礼にお蜜柑あげるわね。あら、あなたたちも今から試食かしら? お蜜柑あげるわね」
     蜜柑の美味しい時期である。
     おばちゃんはサリャンカ怪人に蜜柑を渡し、そばにいた九十九・緒々子(回山倒海の未完少女・d06988)にもネットに入った蜜柑を押しつけた。
    「ありがとうございます!」
     笑顔で答える緒々子。そして、次にはギリィっと現地で馴染んでいる怪人を睨みあげる。
    (「我がご当地でなんやらかしちょっつな……こんげな横暴は私が許さん。覚悟しちょきない、ナントカ怪人!」)
    「お、おーこちゃん」
     メラメラと燃え上がりそうな緒々子の肩に、ぽんっと手を置く風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)。
     蜜柑をくれて去って行くおばちゃんを振り返りつつ、前に出る明待・唯(芍薬の功・d20932)。彼が見上げたコックっぽいサリャンカ怪人は、おばちゃん数人に囲まれチヤホヤされている。
    「サリャンカ下さい」
    「どうぞどうぞ! (お子様にウケれば、その時こそ食卓の常連に!)」
     明待・唯の声かけに答えた怪人は、後半呟きつつガッツポーズした。
     灼滅者たちにササッとサリャンカとスプーンが渡される。
     もぐもぐした後、飲みこんで一つ頷くクラレット。その一挙一動を怪人は見守っている。
    「んー、まあ美味しいわね」
    「そうでしょう、そうでしょう」
     扇子を閉じ、丁寧に食べる神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)もまた頷いた。
    「なるほど、なかなかどうして悪くないな」
    「ありがとうございます」
     美沙の話は続く。
    「さっと調べると、元々はウクライナの料理でソリャーンカ、というらしいの。ロシア朝廷に献上されて後ロシアでも流行したのだとか」
    「なんと! お詳しいですね、お嬢さん。キャビアもどうぞ」
     美沙の話に、怪人は感動したようだ。
    「あ、そういえば、チョウザメって『サメ』の仲間じゃないらしいよ」
     白身をスプーンでつつきながら新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)も薀蓄を披露する。
    「それにキャビアは『卵』、ロシア語だとイクラになるよね。確か黒いイクラの発音は、チョールナヤ・イクラー」
     辰人の言葉に緒々子も大きく頷いた。ロシア語、奥が深い。
     サリャンカ怪人は、ロシア話をする美沙と辰人に熱い視線を送っている。配下にしてもいいかな? 増やしたいなっ、という目だ。
    「ふぅ……やはり1/4とはいえ故郷の味はいいものだね。おかわり」
     その時、食べ終わった響・ヴェールヌイ(駆逐官・d21662)が怪人に話しかけた。今日の響は食事も抜いてきて、久しぶりのサリャンカを味わっている。
    「おかわりはお待たせしませんよ! 故郷の味ですか、オゥフクローの味ですか!」
     響のおかわりに怪人は笑顔。ロシア人クオーターの響を相手にして、テンションがあがっているようだ。
    「まぁ……美味しい物なら、受け入れが早くても仕方がない気はするわね?」
     怪人の目指す先が分からない、と、ほんのり遠い目をしつつ大和・呉葉(カレーなるヒロイン・d21319)が呟く。
     胃袋を掴めば愛――じゃなかった『世界征服』も確実。食事は大事だ。
    (「普及させることでロシア化なら、他の国はもっと進んでるんじゃ?」)
     中華とかカレーとか、と考えながら、食べて味を分析する呉葉。
    「結構、具だくさんね」
     新しいカレーの開発に役立ちそう、と呉葉は次々と思考を展開させていく。
     そんな呉葉の言葉に中川・唯(中学生炎血少女・d13688)は、スプーンを握ってぐっと拳を作る。
    「確かにさりゃんかの具もバリエーションがあるようですけど、味噌汁のバリエーションの方が大きいことは明らかっ!!」
     中川・唯の声に、敵は大きく反応し食いついた。

    ●日本食を語る
    「味噌汁っ、永遠のライバル!」
     ふぉぉ、と怪人は中川・唯に向き合った。目がマジだ。
     中川・唯も負けじと味噌汁を礼讃していく。
    「味噌汁はねっ、美味しいだけじゃなくて、入ってる具も違えば、具の切り方だって全然違ったりして、バリエーションがすごい豊かなのです!! だから毎日食べても飽きないし、食べたいっ!!」
    「サリャンカも具だくさんですよ!?」
    「個人的には、柚子の皮を細切りにしたのをいれたのが好きっ!!」
     敵の叫びを押し切る中川・唯。そこに辰人が柔らかな表情、動作で間に入った。
     怪人は仲裁に入ってくれたのだと思った。だって未来の大事な配下君(妄想)だもの、と。
     だがしかし。
    「そうだね、日本人はサリャンカよりは味噌汁じゃないかな。スープ系なら結局二日酔いに効くのは同じだし」
     辰人は、言葉を続けた。ざっくりとナイフで切るように。
    「あと、ムニエルよりは焼き魚・煮魚だろうしね」
    「……オレも、味噌汁の方が好き」
     加えて明待・唯の追いうちに、ガガーンとよろめくサリャンカ怪人。
    「ご飯ほしいな……おにぎり持って来ればヨカッタ」
    「この国の人は、ナゼ、おにぎりを神聖視しているんデスか!?」
     謎だ、と呻きながら、怪人は灼滅者の皿にサリャンカを強制的に追加していく。
    「けれども、やはり日本の鍋も欲しくなるな」
     結果的に三回目のおかわりとなってしまった響が言う。
    「そうだな、今日の夕飯は鍋にしよう。キムチ鍋、味噌鍋、豆乳鍋……」
     空になった皿をテーブルに置き、どれがいいだろうかと指折り数えていく響。
     水炊きの案が出た時にはクラレットも一緒になって提案していた。
    「うんうん、チョウザメは鍋でさっぱり食べたほうがお肌にも良さそう。あと私日本人だから刺身をワサビ醤油で頂くのもいいな~。これ、少し味濃すぎるのよね」
     これ、と言いながらクラレットは空になった皿を置く。
    「ロシアにもワサビありますよ、イケますヨ!」
     営業を忘れたらしく、怪人は他のお客さんを放りっぱなしだ。人は減っていく一方。
    「それにキャビア! 海鮮丼なんかに出来るんじゃないかしら!? 日本料理にまさにぴったりよね!」
     そしてクラレットは食後のデザートとばかりに、緒々子の持っている蜜柑を剥きはじめた。
    「あとこの季節は、東北のずんだ餅も最強ね!」
     緒々子と蜜柑を分け合うクラレット。ここで宮城から宮崎へとバトンタッチ。
    「チキン南蛮や地鶏の炭火焼は元より、レタス巻きにがねの美味しさを知らぬとはショーシセンバン! です!!」
     説明しよう! 『がね』とは、かき揚げの事であり、宮崎の方言で蟹の事である。形が蟹に似ているため、そう呼ばれるようになったという――。
    「チキン南蛮をただのチキンカツにタルタルソースのっけただけと思わないで頂きたい! あれは小麦粉を使い、かつ南蛮酢に潜らせじんわりと……」
     続く緒々子の熱いレシピ論に、「おおぉ」と中川そして明待のゆいゆい組がごくっと喉を鳴らした。二人の間にはビハインドの結もいた。
    「チキン南蛮、おにぎりの具にイイかも」
    「郷土料理ですか。チキン南蛮とカレーのコラボは分かりかねます」
     怪人の言葉に反応する呉葉。
    「カレーもあるの? やっぱり、カレーの方が良いわね。色々と合っている気もするし」
    「食卓の味方の味噌汁、おにぎりは神、カレーは正義。日本って一体……いや、ロシアンタイガー様のためにこの野望貫かねば」
     ぶつぶつと言う怪人を見、次に周囲を見回した呉葉は仲間に向かって頷いた。
     最期まで残っていた一般人が遠ざかりつつある。もう少し――。
    「いやいや、ロシア料理が悪いわけではない。それ以上に日本料理が素晴らしいだけの話じゃ」
     ゆっくりと丁寧に扇子を閉じながら美沙は微笑んだ。そっと、灼滅者たちが怪人を取り囲むように移動しはじめた。
     辰人が殺界形成を放つ。
    「先ごろ無形文化遺産に和食が登録されたのも記憶に新しい。見た目の美しさ、それでいて栄養のバランスが優れており、もてなしの心や年中行事との関わりも深い」
     強制的なおかわりも食した。空っぽの皿を美沙は見やる。
    「歴史の浅いサリャンカと違って、1000年近い伝統文化じゃしな」
     そこまで言って、扇子を閉じた。一般人はもう居ない。
    「……さて、頃合か。そろそろ遊びは仕舞いにしようぞ。これからは灼滅者とダークネスの舞台なれば、ただ武力にて語るのみ。逃しはせぬゆえ覚悟するがよい!」
    「響&デカブリスト……抜錨する」
    「わふっ」
     響の前に、霊犬デカブリストが歩み出た。
    「戦闘員!」
     怪人は声をかけるが、すでに戦闘員に対峙する灼滅者が数人。


     戦闘員の一種だけの攻撃など、早々に見切った灼滅者たちが彼らを灼滅へと導く。
     だが残った相手はダークネス。灼滅者も順調に攻撃を重ねているが、敵は元気に立っている。
    「宮崎の年間日照時間は2172時間です」
     広場を駆ける緒々子が、怪人へと勢いよく音波を放つ。本日晴天、暖かい冬の一日。
    「その日向の国をロシアン化? 無駄無駄ァ!」
    「頑張れば南国ロシアンも可能です」
     言いながら牽制の皿を投げる怪人に向かって、同じく牽制の影を辰人が放つ。
     彼は影に紛れて、敵の懐までいとも簡単に入りこんだ。解体ナイフを翻し、怪人に突き立てる。
    「お前を、切り裂いてやる」
     そのまま一気に刃を走らせて、離脱。後を追うように、怪人が皿を辰人へと投擲を開始した。
     ナイフで叩き落とせば、いとも簡単に割れる。ただの白い皿だ。次々と投げられる白い皿のなか、着色された皿が混じった。
     明らかに何かが違う。
    「まかせてっ」
     中川・唯が射線上に割りこみ、投擲された皿を叩き落とそうと試みる。一つ、二つ、三つと連続で叩き落とす中川・唯は同時に前進していく。牽制の白い皿が彼女の頭をかすめた。
     四つめ。
     弾かず一気に距離を詰めた中川・唯は痛みに耐えながら、間合いに入るとともに体を低く落とした。白光を放つ斬撃を下方から敵に叩きこむ。
     この攻撃は同時に緒々子の方にも向けられている。明待・唯が間に入り、やはり同じように叩き落としていたが大量の皿はやがて彼にも被弾してしまう。
    「お? 毒か……」
     じわじわと迫る感覚に、明待・唯が呟いた。毒か、と囁くように美沙が応えた。扇子を開く。
    「毒は厄介じゃな」
     ひら、と一枚の花弁を追うように扇子を舞わせた美沙は、中川・唯と明待・唯を中心に清めの風を前衛へと送った。

     呉葉が怪人の背後から接敵する。デカブリストに向かって皿を投げていた怪人の反応は、この時、鈍かった。
    「わざわざ、切り札を使うまでもないようね?」
     挑発し、利き腕をデモノイドの刀に変化させていた呉葉は力任せに怪人を叩き斬る。
     二振りめは刃を翻し、払う動き。再び間合いを構築した呉葉は追撃をしかけた。
    「ウラーッ!」
    「っ!」
     響の掛け声に、怪人は反応した。よろめいた体をひねり、響の方を向こうとするが呉葉の追撃とデカブリストの斬魔刀に邪魔をされる。直後、響のライフルから放たれたオーラが怪人を貫いた。
     かろうじて急所は自力で避けたらしい怪人は直ぐに立ちあがる。
    「サリャンカ」
     その呟きは、敵の腹の前まで結と一緒に近付いた明待・唯が言ったものだった。
    「ピクルスより……きゅうりの糠漬けの方が」
    「糠ですか? それは作ってみないと分からない味ですね」
     ついつい答えた怪人の腹に、明待・唯はガトリングガンの銃口をくっつけた。零距離。
    「え、ちょ」
     怪人は即座に反応できず、爆炎の魔力をこめた弾丸を撃ちだす明待・唯はその反動で徐々に後退していく。その動きに合わせて退く結も霊撃を放った。
    「お、おのれ。コックの心理を突くとは」
     珍妙なことを怪人が言い、美沙は改めて今回の敵を眺める。
    「しかしながら、高圧的な押し付け戦術より、こやつのやりようは厄介ではあるな」
    「そうなのよね」
     美沙の言葉を、側を通り過ぎ様クラレットが引きつぐ。
    「地道に浸透させるとは感心ね、やり方は褒めてあげる。だけどお金にもの言わせるのはいまいち!」
     怪人へと向かい跳んだクラレットは、空中で前転。視界の端で目測し、片足を思い切り振りあげて加速する。
    「ずんだキック!!」
     高速でクラレットのかかと落としが敵の脳天に直撃し、勢いそのまま怪人の体は地面の上でバウンドした。
    「くっ、ここまでかっ……ロシアンタイガー様に、ロシアの、オゥフクローの味を届けたかっ……!!」
     全てを言う前に、サリャンカ怪人は虚空へと手をかざして爆散。怪人の最期であった。
    「サリャンカ、美味しかったよ……ごちそうさまでした。ダスヴィダーニャ」
     爆風に煽られながらも帽子を被りなおした響は、爆心地に向かって別れの言葉を呟いた。


     材料をこのまま放置というのももったいない話だし、サリャンカ怪人の思惑を上塗りする感じで試食会が開催されることとなる。
    「よーし、刺身作ろ!」
     クラレットは包丁を握り締め、チョウザメと向き合い、いざ、刃をいれる段階で何故だか動かなくなった。
     鍋の用意をしていた緒々子が気付く。
    「風花先輩?」
    「よく考えたら切り方知らない」
     チョウザメ、今にも泳ぎ出しそうな新鮮なものだ。
     だ、だだだ誰かお客様の中で包丁の扱いに長けた方はいらっしゃいませんかー!? 的な感じで捌けそうな人を捜す二人は、辰人を見つけた。解体ナイフが得意そうな……。
    (「日本人から味噌汁やご飯を押しのけるのは、やはり大変なんじゃないかな?」)
    「ん?」
     会場を見、色々と考えていた辰人は視線に気付いて振り向いた。

    「やはり日本料理は良いものじゃな」
     ぐつぐつと煮立つ水炊き鍋、とろとろなカレーの鍋を見ながら美沙は箸と皿を用意していく。
     中々に好評で、テントの片付けにやってきた商工会の方にも振舞われている。
    「宮崎の食材を使ったご当地カレーは、いかがですか?」
     笑顔で呉葉がカレーを振舞う。トマト、キャベツ、レモンもあったのでサラダを作りドレッシングも作った。
     ご当地のために働くヒーローはとても輝いている。

     交替で休憩もする。
    「クラレットちゃんありがとうっ、ほんと美味しいっ」
     海鮮丼を食べる中川・唯が、テントに向かって叫ぶ。何とか白身を切ることができたらしいクラレット。
    「結も食う?」
     焼いたチョウザメでおにぎりを作ってもらった明待・唯が、自身とそっくりな姿の結に声をかける。
    「無理か……」
     二人分、ぺろりとたいらげる明待・唯。
    「さりゃんかも結構美味しかったよねー」
     中川・唯の言葉に、響が頷く。
    「美味しかった。夕飯は……そうだね、鍋とボルシチにしようか」
     そんな会話をしている三人のそばを地域の人たちが通り過ぎていった。
    「お腹いっぱい。夕飯どうしよっかなー」
    「カレー予定だけど、食べちゃったから煮物かな?」
    「じゃあ私はサリャンカにしようかな。今日食べられなかったんだよねぇ」
     ほんの少しではあれどロシア文化の空気に人々は触れている――だが怪人を倒した事で、これ以上のロシアン化を防いだのは確かだった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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