シュトーレン怪人、遅れて来襲!!

    作者:悠久

    ●年が明けても怪人は元気です
     田舎に建つ1軒の洋菓子店が、最近、口コミ効果でとっても繁盛していた。
     名物は、クリームたっぷりのロールケーキ。
     しっとりとしたスポンジ生地で巻いた、甘くふんわりとした口どけのクリーム。
     地元の採れたて卵や乳製品を贅沢に使用したそのケーキのお味は、まさに絶品。
     地元はおろか、遠方からも客が来訪し、連日の行列に従業員が嬉しい悲鳴を上げるほどだった。
     だが、しかし。
    『フッフッフ……』
     突如として現れた怪しい人影は、ドイツ名物、シュトーレン怪人!
     ちょっといびつな楕円形の頭部を持つその怪人は、混雑する店の中にずかずかと侵入していく。
    『ロールケーキなど軟弱、軟弱! これからはシュトーレンの時代よ!!』
    「な、何をするんですか! 止めてください!!」
    「それに、シュトーレンってクリスマスに食べるものじゃないですか! そんな、時期はずれな……!」
    『ええい、黙らっしゃい!!』
     お店の看板娘達を強引に押し退け、奥にある厨房へと向かう怪人。
     その企みが成功するのに、長い時間は掛からなかった――。

    ●地方名物ゲルマン化の野望
    「シュトーレン、美味しいですよねぇ……」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)はうっとりと目を細め、ほう、とため息をついた。
     シュトーレンとは、ドイツで食されるケーキ……というか、菓子パンだ。
     スパイスやラム酒漬けのドライフルーツ、ローストされたナッツがふんだんに練り込まれ、表面は真っ白な粉砂糖で覆われている。
     溶かしバターがたっぷりと塗られた生地は、少し硬めの、どっしりとした食感。
    「焼きたてよりも、日を置いて熟成させたものが美味しいんです。中のドライフルーツの味が馴染んで、素敵な味になるんですよ。本場ドイツでは、薄く切ったものを少しずつ食べながらクリスマスを待つそうです」
     最近では日本でも手軽に買えるようになってきた、と槙奈は前置きして。
    「ですが、そのシュトーレンを日本の名物にしようと企むゲルマンご当地怪人が出現したんです」
     舞台は、とある田舎町。ロールケーキが名物の小さな洋菓子店を怪人が乗っ取り、無理矢理シュトーレンを売り出したことから、全ては始まった。
    「元々が人気の洋菓子店でしたし、シュトーレンはすぐ評判になったようです。
     そのため、怪人は次に、ご近所の商店街にあるパン屋さんやケーキ屋さんまでもをゲルマン化しようと企んでいるらしくて……」
     目立つ名物でもなければ、人の訪れない田舎町。
     そこに目新しい流行を広めようとすれば――結果は、容易に想像が付く。
     ひとつ懸念があるとすれば原材料費などのコストだが、どうやらご当地怪人側には潤沢な資金があるようだ。
    「このままでは、田舎町がまるごとゲルマン化されてしまうかもしれません。
     なので、その前にシュトーレン怪人を灼滅し、これを阻止して下さい……!」
     怪人の出現が予測されたのは、昼食時の終わった午後2時過ぎの商店街、1軒のパン屋の前。
     周囲には他にも数軒の店が立ち並び、どこものんびりと営業しているようだ。
     人口の少ない地域のため、買い物客はまばら。とはいえ、店主や買い物客、合わせて15人ほどが現場付近に存在しているとのこと。
    「怪人は、出現すると同時にパン屋さんへの侵入を試みるそうです。
     店内は狭いため、侵入されたら最後、怪人の凶行を止めることは難しくなります。
     また、パン屋さんのご主人を先に避難させたりすると、バベルの鎖で感知されてしまうそうです。
     なので、その前に怪人の気を惹き、店内への侵入を防いで下さい……」
     サイキックによる攻撃を多少受けた程度では、怪人は足を止めることはない。
     だが、怪人はどうやら、シュトーレンがクリスマス名物であることを気にしているらしい。
     そこを上手く突くことができれば、注意を惹くことができるだろう。
     とはいえ、激昂した怪人は一般人に襲い掛かる可能性がある。避難誘導は先に終えておいた方が良さそうだ。
    「怪人は、ご当地の力を用いたサイキックを使用します……。加えて、大きなシュトーレンを武器として扱うそうです」
     元々硬い食品なので、かなり痛いと思います……と、槙奈はしゅんとして。
    「クリスマス以外の時期にシュトーレンを食べることが出来るのは嬉しいです……。けど、それが無理矢理広められたものなら、話は別です。それに、食べ物を粗末にするなんて、絶対に許せない」
     よろしくお願いします、と真剣な表情で一礼する槙奈。
     それを見て、食べ物の恨みは怖いなぁ、とほんのり思う灼滅者達なのだった。


    参加者
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)
    来海・柚季(幻想の雪花・d14826)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)
    泉夜・星嘉(星降り・d17860)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    リヒター・クライデンヴァイス(光よりも速く・d22975)

    ■リプレイ


     昼食時を過ぎた商店街に到着した灼滅者達は、手始めに周囲の状況把握に務めた。
     今回、出現が予測されたご当地怪人の目標は1軒のパン屋。
     その建物を中心に、避難経路などを確認しているうちに――。
    『フッフッフッ……』
     どこからともなく響いてきた笑い声。
     閑散とした通りに姿を現す、楕円系の頭部を持つ人影こそがドイツ名物・シュトーレン怪人!
     その姿を確認すると、灼滅者達は互いに顔を見合わせて頷く。
    「ねえねえおっちゃん、その頭のは何っすか?」
     ぱっと怪人へ走り寄るのは空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)。
    『これか? これはシュトーレンといって、ドイツの伝統菓子なのだ!』
     邪気のないその笑顔に、怪人は気分を良くしたのかそう返し、ついでに聞いてもいないことまで次々と話し出した。
    『様々な食材を練り込み……』
     実のところ基礎知識は槙奈から教わっているのだが、朔羅はにこにこと怪人の話へ耳を傾けていた。優しい子である。
    『ちなみに我輩は長期保存が可能だ! その理由は(中略)まさに先人の知恵!!』
    「そうなんですかぁ。ところでこれ、試しに作ってみたんですけどぉ……」
     怪人の長話をさくっと遮り、船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)は手にしたバスケットからあらかじめ作ってきたシュトーレンを取り出した。ちなみにとても手間が掛かっている。
    「その姿、シュトーレンの達人と見受けますぅ。どうしたら美味しく作れるのか、教えてほしいですぅ」
    『ふむ、よかろう!』
     亜綾の言葉を疑う様子もなく、怪人は差し出されたシュトーレンを食べ始めた――が。
    『……まず、熟成が足りん!』
     すぐにキリッとした表情でズバッとそう言い放った。
    『不味いわけではない……が、日を置けば熟成され味も変わる!』
    「そうですね。今でも充分、美味しく食べられます」
     ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)も、亜綾の差し出したシュトーレンをぱくり、とひと口。
    「私も昨年のクリスマスに作ろうと思ったんですが、難しそうで断念したんですよね」
    『うむ、その気持ちは理解できる。が、己の手で作り出したものの味は何にも代え難いものがあるのだぞ』
     うんうんと頷く怪人。話に夢中になるあまり、周囲に気を払う様子はない。
     その隙を突いて行動を開始するのは、周辺の避難誘導を担当する4人の灼滅者達。
     周囲の一般人へ向け、プラチナチケットを使用した森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)が次々と声を掛けて回る。
    「近くの工事の影響で、ガス漏れの危険があるんだ」
    「申し訳ありません、少々危険ですのであちらに避難していただけますか?」
     言葉を重ねるのはヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)。
    「お願いいたします」
     と、近くにいた買い物客、年配の女性へ柔らかな笑みを向け――これが絶妙に効いた。
    『あら、あらあらあら!』
     女性がぱっと表情を明るくした。声を掛けた相手だけではない、近くにいたおばさま方も同様だ。
     元より物腰柔らかな美少年、そこにラブフェロモンが加われば、彼女達の心の琴線に触れないわけがない。
     中でも、死んだ主人の若い頃にそっくり! と興奮する女性は、足が悪いらしく杖をついていて。
    「それでは、旦那様の代わりに失礼して……」
     ヴァンは彼女の手を取ると安全な場所まで優しくエスコートを行った。
    (「ああいうのを適材適所って言うんだな」)
     内心舌を撒きつつ、煉夜もまた冷静に避難経路を指示していく。ちなみにこちらは工事関係者と思われたらしく、ウチも工事だ故障だと次々にご老人から声を掛けられていた。
    「うん、だいたい終わったみたいだな!」
     周囲から人の姿が消えたことを確認すると、泉夜・星嘉(星降り・d17860)は腕組みしてひとつ頷き、周囲へ殺気を迸らせた。一般人が近付かないようにとの用心である。
    「シュトーレンか。あまり食べたこともないし気になるな、はやぶさ!」
     星嘉の言葉に、傍らで尻尾を振る霊犬のはやぶさが楽しげに吼えた。
     来海・柚季(幻想の雪花・d14826)もまた、静かな面持ちでスッと目を細め。
     殺気を放ちながら見守る先は、仲間達に足止めされる怪人の様子。こちらの動きに気付かれないよう見張っているのだった。
     とはいえ、どこか楽しそうなその様子が少し羨ましくて。
    (「……シュトーレン、食べてみたいなぁ」)
     胸中でそう呟くと――ふと、その中のソフィリアと目が合った。小さく頷き、合図を送る。
    「作り方、教えてもらえませんか? 自分でも作って、みんなに広めたいんです」
     怪人から製法を事細かに教わっていたリヒター・クライデンヴァイス(光よりも速く・d22975)がメモを取り終えたことを確認すると。
    「けどぉ、やっぱり季節外れですよねぇ、これ」
     最初に動いたのは亜綾だった。和やかな空気がたちまち凍り付く。
    「そう、ですね……。やはり、クリスマスでないと」
    「確かに、ちょっと時期外れですよね」
     ソフィリアとリヒターも口々に言葉を重ねて。
     怪人は無言のまま体を震わせていた。恐らくは怒りのためだろう。
    「あれ、気分でも悪いんすか? じゃあ、私がとっておきのみかんをあげるっす!」
     その片手にぽん、とみかんを握らせてやる朔羅。怪人の怒りはとうとう臨界点を超え――爆発した!
    『ええい、黙らっしゃい!』
     怪人がどこからか取り出した長いシュトーレンを振り回す。
    『我輩を貶める者は、誰であろうと容赦せぬ!』
     激しい怒りの中、いつの間にか『パン屋への侵入』という目的を忘れている怪人。
     作戦成功、と。灼滅者もまた、戦闘への構えを見せたのだった。


     凛と立つソフィリアから放たれたどす黒い殺気が、シュトーレン怪人の体を包み込む。
    「そのシュトーレンごと、貴方の野望を打ち砕いてあげます……!」
     それを合図に、避難誘導を行っていた4人は戦場へと駆けた。
    「とりあえず凍っておけ」
     煉夜の構えた槍から鋭い氷柱が放たれ、怪人の頭頂部を凍らせる。
    「これで次のクリスマスまで保存できるんじゃないか?」
    「確かに」
     続けて到着したヴァンは眼鏡を外し、戦闘へと己の気持ちを切り替えて。
    「ですが、あまり長く寝かせるより、美味しく頂くのが礼儀かと」
     と、ヴァンは跳躍。同時に足元に纏わせた影を鋭い刃へと変えた。
    『どこまでも人を虚仮にしおって! 許さぬ!!』
     怪人も同時に跳んだ。そのまま2人、空中で激しい足技の応酬を繰り広げる。
     互いの体へ蓄積するダメージ。着地と共に姿勢を崩したヴァンを、亜綾の放った防護符が癒して。
    「烈光さん、守りはお願いしますよぉ」
     亜綾に応え、霊犬『教団代表猫』烈光が六文銭射撃を放つ。攻撃こそ最大の防御なのだ。
    「……厄介なその足、少々止めさせてもらいます」
     烈光の射撃により生まれた隙を見逃すことなく、柚季は片腕を覆う縛霊手を展開。怪人の周囲へ除霊結界を構築した。
    『クッ……こしゃくな!』
     怪人の動きが鈍る。だが、その戦意が失われるはずもなく。
     まるで足掻くように撃ち出されたのは巨大なシュトーレンだった。
     凄まじいまでの回転が加わったそれは、もはや食品というよりはただの凶器だ。
     だが、すかさずエネルギー障壁を展開させた朔羅が怪人の前に立ち塞がり、その一撃を防ぎ。
    「くぉらぁ! 何食べ物を振り回しよるか!」
     にこにこしていた先ほどとは一転、朔羅は方言丸出しで激しく怒り始めた。
    「食べ物粗末にしちゃいけんって、こまい頃教わっちょらんのか!」
     拮抗の後、朔羅は怪人のシュトーレンを押し返し、障壁を叩き付ける。
     朔羅もご当地、広島原産八朔の愛を力に変えて戦っている身。怪人の戦い方は、同じ食品を扱う者として見過ごせない凶行なのだ。
    「ほら、師匠もそう言ってるっす!!」
     と、朔羅の傷を癒すために現れたのは、白くてむっちりもっちりなナノナノの師匠。
    『ム……だが我輩にも譲れない愛がある!』
    「そのためになら戦ってもいいのか? 愛するシュトーレンで誰かを殴っていいのか?」
     星嘉は不思議そうに首を傾げた。その足元から伸びた黒い影が、一瞬で怪人の体を捉えて。
    「それってちょっと違う気がしないか? なあ、はやぶさ」
     応えるように吼えたはやぶさは、拘束された怪人の体を深々と切り裂いた。
    『あ、愛は誰がなんと言おうと正しいのだ!』
     やっとのことで影の触手から逃れた怪人が攻撃体勢を整えるよりも、早く。
    「……いえ、独りよがりだと思います」
     高速演算により精度を増した一撃――リヒターのオーラキャノンが怪人の体を貫く。
    「残念です。強引なやり方さえなければ、友達になれそうなのに」
     此処より遥か彼方の地、ドイツ。
     故郷を同じくするはずの怪人へ、リヒターはどこか寂しげにそう呟いた。


     リヒターの狙撃はその後もシュトーレン怪人の体を正確に貫き、確実なダメージを与えていた。
     バスターライフルの銃口へ魔力が収束する、幾度目かの射撃体勢。
    『そう何度も同じ手を食らうものか!』
     怪人もまた、長いシュトーレンでリヒターに狙いを付けた。ご当地への愛がその先端へ収束していく。
    「おっと、そうはさせないぞ!」
     敵の攻撃が高威力であることを一瞬で見抜き、星嘉は即座にご当地ビームを発射。攻撃対象を自分に移すことでリヒターを庇った。自らの放った攻撃とすれ違うように飛来したビームが腹部を掠める。
     だが、傍らに控えるはやぶさがその傷をすかさず癒して。
    「よし! いいぞはやぶさ、ナイスだ!」
     全力の褒め言葉に、はやぶさは嬉しそうに尻尾を振る。
     と、その横を駆け抜けるようにヴァンが前に出て。
    「やれやれ」
     微かなため息と共に、とん、と地面を蹴る。
     刹那、膨れ上がるように生まれた影が怪人を一瞬で包み込んだ。
    「シュトーレン、私も毎年、楽しみに食べていましたよ」
     口にしたのは敵意のない言葉。だが、その攻撃の手はけして緩まず。
    『グッ……ならば何故、我輩の邪魔を……!』
     影に蝕まれる怪人は、苦しみながらもヴァンへそう尋ねた。
    「強引なやり方は好きません。ましてや、商店街ひとつをゲルマン化などもってのほかです」
     戦闘で乱れた襟元を正しながら、ヴァンは涼しげな瞳を怪人へと向けて。
    「俺も別に、クリスマスとか特に拘らないんだが」
     と、妖の槍を携えて駆ける煉夜が、小さくため息をつく。
    「力ずくで流行らせるっていうんなら、こっちも力ずくで止めるしかないんだよ」
     いくら季節商品とはいえ、最初に作らせた店で流行ったのなら潜在的な需要はあったはず。
     そこにゲルマン化だの何だのが絡んでくるから、ここまでややこしい事態に陥る羽目になるのだ。
     ご当地怪人、つくづく難儀なダークネスである。
    「とりあえず……それ、武器にしたら駄目だろう」
    『黙らっしゃい!』
     螺旋の如く繰り出された槍を、怪人は手にしたシュトーレンで弾き飛ばし、そのまま煉夜の腹部へ硬い先端をねじ込んだ。
    「ぐっ……」
     痛みに、思わず声が漏れる。
    「食べ物は大切に扱わんか、このバカタレがぁっ!」
     だが、すかさず接近した朔羅の掌底が怪人を跳ね飛ばして。
    「回復はお願いするっす、師匠!」
     煉夜の手当てを師匠に任せ、朔羅は怪人へ接近、無数の乱打を繰り出した。宿した闘気がまばゆい輝きを放つ。
    『クッ、こうなったら……!』
     怪人は手にしたシュトーレンを放棄すると、空いた両手で朔羅の体を掴もうと試みた。
    「……させません」
     だが、その手が届くよりも早く、リヒターのバスタービームが怪人を撃ち抜いて。
    「ご当地愛であるシュトーレンを自ら捨てた怪人など、もはや恐れるに足りません!」
     間髪入れず、怪人目掛けて駆けるソフィリア。腕に装着されたバベルブレイカーが高速回転し、敵の体を貫く。
    「……む。今ですぅ、烈光さん」
     隙あり、と。それまで回復に専念していた亜綾が、己の霊犬を怪人目掛けて投げ付ける。
     きゃうぅぅぅん、と長い鳴き声と共に飛んでいった烈光は、かなりの努力を見せた。斬魔刀を閃かせると共に、怪人の体へシールを貼ったのだ。
    「名づけてぇ、烈光さんミサイル、ダブルインパクトぉっ」
     バベルブレイカーのジェット噴射を利用し、後方から一気に突撃する亜綾。その一撃は、正確に烈光の貼ったシール、もとい『死の中心点』を貫いて。
     灼滅者達の見事な連携攻撃に怪人の体勢が崩れた――その、瞬間。
    「できるなら……こんな出会い方、したくなかったなぁ」
     ぽつり呟き、柚季が駆ける。その傍らに紅き花を模した杖を携えて。
    「本場ドイツのシュトーレン、いつか絶対に食べてみます。だから」
     安心して倒されてください、と。振り上げられた杖は命中と共に怪人の体へ破壊の魔力を流し込み。
    『……我輩死すとも、シュトーレンは死せずぅぅぅっ!!』
     シュトーレン怪人が最期とばかりに絶叫する。
     次の瞬間、その体は大きく弾け飛び、後には何も残らなかった。
     ――灼滅完了である。


    「お疲れ様でした。お怪我の具合は如何でしょう?」
     シュトーレン怪人の灼滅を見届けた後、ヴァンは仲間達へそう声を掛けた。
     負傷した者はいるが、どれも大事には至っていないようだ。
     まずはひと安心、と灼滅者達は手分けして戦闘によって荒れた周囲を片付けて。
    「シュトーレン、食べたかった……」
    「なら、おひとついかがですかぁ?」
     哀しげに遠くを見つめている柚季に気付き、亜綾はのんびりと声を掛けた。
    「まだたくさん残ってますよぉ」
    「い、いただきます……!」
     亜綾の申し出に、柚季はおそるおそる、ひと口。すぐにふわりと笑みを浮かべた。
    「おおっ、僕もひとつ食べていいか!?」
     柚季と同じく避難誘導に回っていた星嘉もシュトーレンへ手を伸ばし。
    「美味しいなあ、はやぶさ!」
     傍らの霊犬と分け合い、楽しそうに笑う。
    「私にも1個下さいっす! ……って、師匠、何っすか?」
     傍らのナノナノがぷくっと膨らむ。次の瞬間、朔羅はさっと表情を変えて。
    「え、師匠のシュトーレン? 私が食べ……ぎゃー! ちょ、師匠噛みつかんで!」
    「やれやれ、何をやっているんだか……」
     戯れのような争いに呆れつつ、煉夜もシュトーレンへ手を伸ばす。せっかくだから、と。
    「……ふふ、やはり美味しいです」
     と、自分の分を食べ終えたソフィリアが、不意に表情を曇らせて。
    「シュトーレンはゆっくりと熟成するもの。同じように広めていけば、争いが起こることもないでしょうに」
     ええ、と頷いたのはリヒター。
     シュトーレンは彼にとっても故郷の味だ。
     だから。昔、母が作ってくれたシュトーレンの味を、誰かへ伝えられれば――と。
    「……帰ったら、作ってみようかな」
     誰に聞かせるでもなく、彼はそう呟いたのだった。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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