ワルイオンナ

    「会社にばれそうなんだ……頼むっ、今までの金を返してくれっ」
     日が変わりそうな時間帯。夜中でも人のにぎわう繁華街の道ばたで、男性が女性の目の前で土下座をして訴えていた。男は30代後半、女は20代半ばだろうか。何事かと輪を作る人目を、2人は気にもしていない様子だった。
     男は必死になってすがりつき、恨み言とも泣き言とも取れる言葉を延々と続けていたが、とうとう女は煩わしげに振り払う。
    「あたしは困ってるとは言ったけど、貸して欲しいなんて一度も言ったことないわ。あなたが恩着せがましく持ってきたんじゃない……あたし目当てでね」
    「頼むよ、ほんとにやばいんだ……もう俺のこと疑われてるし、今すぐなんとかしないと……あとは首でもくくるしかないんだよ……」
     尻もちをついて弱々しく訴える男に、女は靴音を響かせながら近づいて上半身を折り、屈み込んで言い捨てた。
    「なんだ、それでなんとかなるんならそうすればいいじゃない。よかったわね」
     あまりに乱暴な物言いに、男はきっとにらみつけたが、女の傲慢な迫力に結局負けて年甲斐もなく声を上げて泣き出した。
     もはや興味なさそうに背を向け、鼻歌交じりに歩き出した女は野次馬の輪を払いながらスマートフォンを取り出し、男のアドレスを消去する。そして登録しているアドレスの中から次の相手を物色しはじめた。
    「あぁ時間の無駄だったわ……小物すぎたかな。さて、じゃあ次はこいつでいこうかな」

    「病院の灼滅者の方達からの情報なんですけど、贖罪のオルフェウスというシャドウがソウルボードを利用して、人間を闇落ちに導いている事件が増えてきているんです」
     深刻な空気を出しながら、神立・ひさめ(小学生エクスブレイン・dn0135)が語り出した。
    「今回の被害者……といっていいかどうか……こほん、狙われた人は飯山・香緒里さんという大人の女の人で、オルフェウスがソウルボードに侵入して香緒里さんが悪いことをしたときの罪の意識を奪い取り、罪を罪と思わないように『教育』しています。香緒里さんは男の人を誘惑して、横領とか後ろ暗い形でお金を用意させて貢がせています。もう何人も被害にあっていて、このまま悪いことをしている自覚を持たないで悪事を続けていると、香緒里さんは必ず闇落ちしてしまいます……まだ間に合ううちに助けてあげたいんです」
     香緒里は超高級マンションの最上階に住んでおり、その安心感でいつも窓に鍵などをかけないまま寝ているらしい。それを利用すれば問題なく接触できるだろうと話すひさめだったが、助けるためとはいえ、そんな形で人の家に侵入させてしまうことを申し訳なさそうにしていた。
    「香緒里さんはいつも午前2時くらいに帰ってきて、そのまますぐベッドに入って寝てしまうようです。ソウルアクセスで侵入すると、悪夢には見えないような開けた場所で、香緒里さんが光り輝く存在に跪き、犯した罪を告白して許しを貰う、そんな夢を見ています。その懺悔を邪魔すると、香緒里さんはシャドウのような存在に変貌し、配下を呼び出して襲いかかってきます。倒すことができればオルフェウスとのつながりから抜け出して闇落ちの危険は回避できるんですが……香緒里さんの悪事に対する罪の意識のなさは治らないままこれからの人生を過ごすことになります」
     少し言いにくそうにして、ひさめは言葉を続けた。
     難しいが、香緒里の良心に訴えかけて行った罪を受け入れるように説得することができれば、香緒里は真っ当な生き方を取り戻すことができる事。うまく言葉を受け入れてくれるかもわからないし、もしうまくいった場合でも、シャドウに似た存在が夢の中の香緒里に襲いかかって来る事。シャドウモドキの本体は集中して香緒里を殺そうとし、もし殺されてしまうと、香緒里はそのままシャドウモドキに取り込まれて融合し、これを撃退したとしても、現実の香緒里は元には戻らないまま罪の意識を欠落させて生きる事。
     それでも、夢の中で襲われる香緒里を守る方法がひとつあります、とひさめは言った。
    「普段の戦いでも誰かを守るような戦術的役割があると思いますが、それとは違うもので、この夢の中ではみなさんの内で香緒里さんを守るという意志が1番強い人が、どんな攻撃でも香緒里さんの身替わりとして受け止め、守る事ができるんです。ただ、無防備に近い形で身替わりとなるので、とてもリスクの高い方法でもあるんです」
     ひさめは言葉を切って少し休んでから、現れるシャドウモドキについて説明した。
    「このシャドウに似たダークネスは、香緒里さんが変貌したときも襲うために別に現れたときも、ぶよぶよして形の定まらない存在で、ゲームであるようなスライムみたいな姿をしています。毒を飛ばしてきたり、精神を惑わすような攻撃を得意としているようです。配下は3体で、シャドウモドキを守るようにしながら攻撃してきまます。……あ、香緒里さんと融合しなかった場合は攻撃方法は同じですけど、少しチカラが弱くなるみたいです」
     一通り説明が終わると、申し訳なさげに表情を曇らせながら、ひさめは懇願するように仲間達に語りかけた。
    「形はどうあっても、香緒里さんは罪を犯しています。説得を聞いてくれるかもわからないし、助けるにはみなさんの身の危険も伴います。それでも……もし可能なら、香緒里さんを助けてあげてください……犯した罪を償うチャンスを、香緒里さんにあげてください」


    参加者
    鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    黒沢・焦(ゴースト・d08129)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    小崎・綾(ダブルアクション・d23329)
    九賀嶺・夏々歌(罪に仕える断罪人・d23527)

    ■リプレイ


    「じゃあ、行こう」
     鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)は仲間達にそう言うと、目を閉じて体を巡るサイキックの流れに心を乗せて、触れている手を通して仲間達の精神を導きながら、気持ちよさそうに寝息を漏らしている飯山・香緒里と言う名の女性のソウルボードに進入した。
     閉じていた目を開くと、さっきまでいた深夜の高層マンションの一室ではなく、清らかそうな輝きに照らされた広い空間に立っていた。
    「ここが香緒里さんのソウルボードなのね」
     まぶしそうに見渡しながらヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)がつぶやいた。一見神々しい空間にも見えるが、照らすその光にはどこかあざとさを感じさせられる。
     目をすがめながら様子をうかがっていた黒沢・焦(ゴースト・d08129)は動きを止めて少し離れた一点を見つめた。
    「……懺悔の場はあそこですね」
     その視線の先にはひときわ輝きに満ちあふれた光の祭壇が厳かにそびえていた。
    「香緒里さんを助けてあげないと……はやくあそこに行くですよっ」
     日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)は緋袴をはためかせながら走り出した。
    「そうですね……行きましょう、ゐづみ」
     赤衣の女性の姿をした自らのビハインドに穏やかな言葉遣いで語りかけた唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)も追いかけるように祭壇に向かう。
    「あそこ、人がいます。あの人ですね」
     小崎・綾(ダブルアクション・d23329)は足を止めて、こちらに背を向ける形で数段上がった祭壇の中央に跪いている女性を指さした。
    「迷える子羊ってやつっすね」
     無意識に左手のアームカバーを整えながらつぶやいた九賀嶺・夏々歌(罪に仕える断罪人・d23527)。皮肉で言ったつもりではなかったが、いかにも敬虔そうに光を仰いでいる香緒里の姿を見ていると、どうしてもトゲのある言葉遣いになってしまった。
     眉宇をひそめて香緒里を見つめていた竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)は、すっと息を整えて意識を引き締めた。
    「香緒里さんには闇落ちする前にこっちに戻ってもらわないとね」
     そう言って香緒里に向かって歩き出す。
     仲間達も同じように進みだし、光降り注ぐ祭壇へと足を踏み入れた。


    「……その男はとても困っていたようですが、結局は私の言葉を信じてお金を用意すると言っていました。自宅の土地を担保にすると言っていたので、あたしがお金を返す気が無いことを知ったら……どうか、罪深いあたしをお許しください」
     香緒里はう懺悔の言葉を口にすると、頭を垂れて目を閉じた。
     そんな香緒里の罪を洗い流すかのように光がシャワーのように降り注ぎ、罪の意識を洗い流して香緒里の心を軽くしていく。
    「罪を懺悔する気持ちがあるなら、なんでこんな事を続けるんです」
     罪悪感をすべて懺悔して晴れやかな気持ちで笑みを浮かべた香緒里に、綾の言葉が投げかけられた。
    「なっ……だれ!?」
     振り向くと、そこには香緒里を見つめる数人の男女が立っていた。今までこの場に自分以外がいたことはなく、心の中を覗かれたような恥ずかしさで顔が赤くなっていく。
     ヴィントミューレはまっすぐに香緒里を見て語りかける。
    「あなたの罪は全て聴いたわ……けど、あなたはそれで許されると思うのかしら」
     そんな言葉に、香緒里はふんと鼻で笑い飛ばす。
    「いきなり現れて何を言ってるんだか……子供にはわからないでしょうけどね、オトナにはいろいろあるのよ」
     香緒里は立ち上がって虚勢を張るように背筋を伸ばした。
    「それにね、誰だってちょっとくらい悪いコトするものよ。でもあたしの罪はカミサマもゆるしてくれてるわ。その証拠に、懺悔したら私の心はこんなに軽くなってるわ」
    「起こした罪は決して消えることはないわ」
     香緒里の言葉を遮るように言い放つ。夏々歌も身を乗り出すように前に出て必死に訴えた。
    「悔いているのなら、なんで相手へその気持ちを見せないんすか……罪は償おうという気持ちと行動、どちらもあって初めて許されるものっす!」
     夏々歌の言葉にわずかにたじろいだのか、香緒里は言葉に詰まりながら言い訳するように言葉を紡いだ。
    「そ……それにっ、そもそもあの男達が悪いんじゃない。だまされたとか言ってるけど、あたしは一度だって横領しろとか借金しろなんて言ってないわ。お金なんて誰だって欲しいんだし、あたしはちょっとだけ貸して欲しいってお願いしただけよ。見返りを欲しがって鼻の下伸ばしながら無理をした男達が悪いんじゃない!」
     徐々に必死になってゆく香緒里の訴えを蛍の言葉が否定した。
    「引っかかる人が悪くてもあなたがいいってことにはならないよ」
     横から語りかける蛍を香緒里が睨みつける。
    「それなら私が悪いって言うの!?」
    「貢がせるのは悪いとまでは言わないけど、持ってるお金だけにしよ?」
    「あたしはただこれくらい欲しいって言っただけよ! それが無理なら断ればいいだけよ!」
     突然現れた子供達がさっきまでのすっきりとした穏やかな気分を台無しにしていくことに、香緒里の心はかき乱されて苛立ちを抑えきれなくなってゆく。せっかく忘れることができた自分の罪の意識が心の片隅からじわじわと染み込んでくる。
    「気持ちの籠もってない許しの言葉なんて、誰が聞くのでしょう」
     焦が言い放つ。香緒里は言い返そうと睨みつけたが、焦の真剣な眼差しをうけて出掛かった罵声を飲み込んだ。
    「行動しなければ誰もあなたを許すなんてしてくれません」
    「好き勝手ばかり言って……どうすればいいって言うのよ……だってお金が欲しかったんだものっ、いけないことだってわかってたけど、ここで全部話せば許されたんだもの! あたしはわるくないわっ!」
     香緒里は髪を振り乱しながら必死になって訴えた。そんな香緒里のそばに蓮爾がすっと歩み寄った。
    「自分に嘘を、ついてはいけませんね」
     ゆったりとした言葉遣いの蓮爾に語りかけられて、香緒里が動きを止めた。
    「金銭とは、誰かの命を奪ってまで貴方に必要な物ですか? 何かを見喪った儘、無理をしていませんか? 貴方が向き合うのは他でもない、貴方自身の心です」
     香緒里は、気がついたら床の上にへたり込み、体を震わせ、ゆっくりと両手に顔を埋めた。
    「ひどい人達……あたしが必死になって隠していたものを寄って集ってほじくりかえして押し付けて、向き合えって言う……自分がどんなに最低でわるい女か自覚しろって言うのね……」
     肩をふるわせて泣き出す香緒里。啜り泣く音が光指す祭壇のほかに何もないソウルボードに漂って消えていった。
    「あなたは決して悪い女なんかじゃないっ!」
     沙希が駆け寄って、顔を埋めていた香緒里の両手を掴んで握りしめた。
    「夢の中で懺悔を繰り返すほど、普通の女性なの。哀れに堕ちる男性に哀れみの心向けてっ……その罪を受け入れ、破滅しそうな男性を止めることができるのはあなたしかいないのっ――闇に堕ちないでっ!」
     まっすぐな眼差しで見つめられ、香緒里は涙をこぼしながら戸惑うように口を開いた。
    「……まだやり直せるのかな……いっぱい人を不幸にしたし、いまさらあたしが謝ったって誰も信じないだろうし……償う事なんてできるのかな……」
     戸惑う香緒里に、近づいて膝を折り、しゃがみ込んだ来栖が震える肩に手を乗せた。
    「悪いことをしたのだという意識が少しでもあるのなら、僕は貴女の味方になる。ここから出てやり直そう。君は一人ではないのだから。君の償いを邪魔する奴が居たならば、僕はその存在から君を守ろう」
     肩から心地よい温もりが伝わってきて、香緒里に小さな勇気を与えてくれた。
     うつむき、しばらく地面を見つめると、おずおずと顔を上げ、小さく頷いた。
    「……うん、わかった……あたし、がんばるわ」


     その襲来は唐突で、危険なものだった。光に満ちた世界が一転して、ぬめつくような濃い闇に満たされる。
    「きゃあぁぁぁぁっ!?」
     何もない頭上の空間から現れた黒くてぶよぶよしたものが香緒里の目の前に落ちてきて膨張し、悲鳴を上げている香緒里の体を丸ごと飲み込もうとした。
     動くこともできない香緒里の体を来栖が咄嗟に押しのけた。身替わりとなって飲み込まれ、肉体に食い込もうとするシャドウモドキの体を、締めつける痛みに耐えながら引きはがす。
    「言っただろう? 僕は君を守ると」
     ずるずると体を引きずりながら距離を取るシャドウモドキから目を放さないままで、来栖は香緒里に語りかけた。
    「initiste!」
     蛍がキリングツールを開放しながら飛び出した。素早く死角へと回り込んでシャドウモドキの弱そうな箇所に鋼の糸を閃かせる。
     その一撃は、しかし、突然間に入ってきた金属の塊に遮られた。いつの間に現れたのか、主を守る為に3体の配下が現れており、そのうちのあざといような輝きを放つ金のインゴットが身替わりとなって蛍の攻撃を受け止めていた。
    「おでましっすね……罪の隠蔽なんてよくもくだらないことを……」
     夏々歌は霊子強化ガラスに守られている魂の一部を凍てつく炎へと変換し、シャドウモドキを守る配下達へと解き放った。
    「凍っていただきます」
     夏々歌のコールドファイヤで配下達は氷に燃やされていく。そのひとつ、空中を渦巻いている紙幣の束に蓮爾は狙いを定めた。
    「ゐづみ、守りをお願いします」
     ビハインドに語りかけながら腕のデモノイド寄生体を砲台へと変化させてた。狙いを定め、撃ち出した死の光線が配下・マネーを貫き、強力な毒で敵を蝕んでゆく。
    「回復頼んだぜ」
     焦は相棒のナノナノが傷ついた来栖にハートを飛ばして回復しているのを確認すると、輝きを纏った聖剣を構えて、マネーに攻撃を重ねて斬りかかった。物質の枠から解き放たれた刃がマネーの霊核を両断した。
     形を形成していたチカラを無くした札束は音を立てて床に落ち、闇に溶けるように消えていった。
     ぎらぎらした光を放つ宝石の塊、配下・ジュエリーとインゴットが香緒里に向かって矢のように飛んで行く。来栖が再び身を挺してその攻撃を受け止めた。
    「くっ……!?」
     無防備に近い形で受けた衝撃は予想よりも遙かにきつく、体の芯に響いていた。
     手にしたクルセイドソードを敬礼のように構え、刀身に刻まれた祝福の言葉を風に換えて傷ついた体を癒していった。清らかな風が傷の痛みと体に刻まれた悪影響をも消して行く。
     沙希はサイキックを集中し、自らの片腕を鬼化させた。
    「香緒里さんからあきらめて出て行くですよっ」
     膂力にみなぎる腕を振りかぶって、インゴットに向けて斜め上から振り下ろした。破壊的なチカラを叩きつけられたインゴッドは、どすんという重い音を響かせて床を跳ねる。
     仕留められると見極めたヴィントミューレはバベルブレイカーにチカラを集約した。
     噴射口から吐き出す推力を使って一瞬で間合いを詰め、バベルの力の1番弱い急所に巨大な杭を打ち込んだ。死点ごとその体を貫かれたインゴットは、振動するように震えるとそのまま形が崩れて霧散してゆく。
     綾のライドキャリバー『流星号』が突進して、ぎらぎした光を放っているジュエリーをはね飛ばした。空中でふらふらとしているジュエリーに、綾が一気に距離を詰めた。
    「これで……終わりよ!」
     裂帛の呼吸と共に抜刀した刃がジュエリーの中央を横薙ぎに両断した。最後の配下は床に落ちると幻のようにゆらめき、闇の中にとけていった。


    「……しまったっ!?」
     香緒里を守るために攻撃を受け続けている来栖はセイクリッドウインドを発動させたが、シャドウモドキに植えつけられた幻惑効果に惑わされて敵を回復させていた。
     状況を見ていた焦がすぐに回復にまわるが、癒しきれないダメージが確実に来栖に刻み込まれていった。
     傷つき、膝をつきながらも自分を守り続ける姿を、香緒里は震えながら見つめていた。
    「大丈夫、悪夢からは私たちが守るですっ」
     閃光百裂拳を放ち、戻ってきた沙希は心配させないためにそう言った。香緒里を守る役目をいつでも替われるように備えている。
    「なんで……あたしなんかのためにそこまでしてくれるの?」
    「あなたにはちゃんと償って貰わないといけないからね」
     戸惑っている香緒里に戦いながらそういう綾。夏々歌もガトリング連射でシャドウモドキに弾丸を撃ち込み続けながら頷いた。
    「あなたがちゃんと償う気ならウチらが守るっす」
     自信なさげに下を向く香緒里。
    「大丈夫、あなたは貴方の意志で歩けます」
     デモノイド寄生体を刃に変えた蓮爾が形の定まらないシャドウモドキの体を大きく斬り裂いた。
     エクスブレインの言っていた通り、香緒里を取り込めなかったシャドウモドキは本来よりも弱体化されているようで、積み重ねる攻撃を受け、見てわかる程度にまで弱っていった。
     蛍の鋼糸が大きく波打ちながら宙に舞う。身を捻るように腕を振ると高速の刃となってシャドウモドキに突き刺さり、不定形の体が一瞬硬直した。
     蛍にあわせたように、ヴィントミューレが祈るように手を組みながら宙を仰ぐ。シャドウモドキの頭上に虹色に煌めく光の十字架が浮かび上がった。
    「今こそ受けなさい、これがあなたに対しての裁きの光よ」
     ヴィントミューレがそう言い放つと、輝く十字架から無数の光線が降り注ぎ、シャドウモドキの体を焼き滅ぼしてゆく。
     どす黒い体が光に焼かれて小さくなり、指先ほどの蠢く塊となって、最後には煙を漂わせながら消滅した。

    「ありがとう……ほんとにありがとう」
     1人1人の手を取り、ぎゅっと握ってまわる香緒里。
    「荒療治完了っすかね」
     照れながら言う夏々歌に、綾も頷く。
    「これからが大変ですよ」
     香緒里の表情が曇り、握っている手の力が緩む。そんな香緒里の眼をじっと見つめた蓮爾が優しい声で言った。
    「貴方の正しいと信じる路を進めば良いのです」
     はっとして、香緒里は無言で頷いた。
    「がんばってね」
     身長差で大きく見上げながら励ますヴィントミューレ。その次に手を握られた焦は力強く握り返した。
    「行動しなければ誰もあなたを許すなんてしてくれません……だからこそ行動することが大事なんです」
    「もう大丈夫だよね」
     蛍に頷いて返す香緒里の表情はまだ少し曇っているようにも見えた。そんな香緒里を安心させるように沙希が言った。 
    「悪夢はもう終わったですよ」
     最後に手を握ったのは来栖だった。
     傷つき汚れた姿をみて涙ぐんできたが、香緒里はぐっと我慢する。そんな香緒里を励ますように来栖は言った。
    「僕は貴方の味方だからね」
     薄れてゆく意識の中で、香緒里は悪夢から覚めていくことを自覚した。待っているのは厳しい現実だったが、それに立ち向かえるだけの勇気をもらった香緒里は、恐れることなく目を開け、気持ちを引き締めて一歩を踏み出した。

    作者:ヤナガマコト 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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