帰って来た松阪ビーフ! 天下分け目のお殿様!

    作者:相原あきと

     都内某所、有名グルメ雑誌に紹介された有名肉料理店『天下布武』。
     夜に来る大勢のお客に対応する為、店員達はお昼から下準備に追われる……のだが、その日はいつもと違っていた。
     店に横付けしたトラックが、店内の各種ブランド牛肉を全て荷台に積み出発する。
     それを見送るのは『天下布武』を制圧したご当地怪人達だった。
     彼らは5人、その誰もが色違いの袴を着た侍姿で、皆一様にドイツ国旗柄のマフラーを巻いていた。
    「恐れながら殿! 他ブランドの肉をお見逃しになるとはどういう事でしょうか」
     青い侍が、赤い侍(殿と言われていた)に聞く。
    「いずれ駆逐する他ブランド肉だが、今はまだその時では無い……一寸の肉にも五分の魂であろう」
    「さ、さすが殿! その寛大な御心、感服致しました!」
     青いのが赤い殿様に頭を垂れ、それに続くように緑、黄、ピンクが膝を付く。
     そして赤い殿様は店内へと入り、縛り気絶させていた店員達を叩き起こす。
    「ぶっ……ん、んん……た、確か牛頭の奴らが急に来て……」
     寝ぼける店員、だがドアップで当の牛頭が目に入り吹きだしそうになる。
    「お、お前達は! そ、そうだ、ウチの肉をどうするんだ!? 捨てる気か!」
    「安心しろ、他県の卸問屋に格安で売り払っただけだ」
    「売り払っただと!? ど、どうするんだ! 肉がなかったらウチは――」
     文句を言う店員だが、赤い殿様は店員を手で制すると、配下に店の冷蔵庫を開けさせる。
     そこには松阪牛の山、山、山……。
    「この松阪ビーフは好きなだけ使わせてやる。俺達の潤沢な資金に感謝するんだな」
    「ま、松阪って……え、いや、これで俺達に何を……まさか松阪肉ステーキの食い放題とかやれって言うのか!?」
    「違う」
    「え、違う?」
     じゃあ何を……と疑問に思う店員に対し、赤い殿様は胸を張って答える。
    「この肉は好きに使え、ただし条件がある。お前達がこの店で作るのは『ハンブルグステーキ』のみだ」
     こうして、また1つの肉料理店がゲルマンシャークの力によって蘇ったご当地怪人、ジャーマン松阪ビーフ怪人によってハンブルグステーキ店へと変更を余儀なくされたのだった。
    「潤沢な資金でご当地パワーを増大させる……この調子なら、世界征服への道も早いな」
    「はっ、その通りでございます!」

    「きっとまた会うと思ったんだよね」
     教室に集まった皆に話すのは御手洗・流空(はぐれ紅・d06024)だった。
    「ええ、流空の予測通りよ。松阪ビーフ怪人がゲルマンシャークの力で復活したわ!」
     流空の言葉にエクスブレインたる鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が強く頷く。
     怪人の名はジャーマン松阪ビーフ怪人。
     三重県のブランド牛肉、松阪牛を愛するあまりご当地怪人となったダークネスが、ゲルマンシャークの力で復活した存在だ。
     見た目は赤い袴姿でドイツ国旗柄のマフラーのような布を付けた怪人。ちなみに顔だけは黒毛和牛とのこと。
     青、緑、黄、ピンクの袴姿にドイツ国旗マフラーのように布をつけた配下4人と一緒に活動しているらしい。
    「彼は都内の肉料理店を襲撃する予定なの」
     珠希はそう言うと都内某所にある、件の料理店の位置を地図に書き込む。
    「松阪ビーフ怪人は開店前のその店に入って店員達を気絶させると、店中の牛肉をトラックでどこかに送ってなくしてしまうの。その後、同じだけの松阪牛を置いて……ハンブルグステーキ専門店にしてしまうのよ」
     そこで珠希は一度言葉を切り。
    「えっと……ジャーマン松阪ビーフ怪人のバベルの鎖を回避する為には、接触タイミングが2つあるの。そのどっちかでしか接触できないと思って!」

     接触タイミング1。
     怪人達が店を占拠し、料理人達を気絶させた後。
     他ブランド肉を回収している最中。

     接触タイミング2。
     怪人達が他ブランド肉を配送し終わり、店の冷蔵庫を松阪ビーフでいっぱいにした後。
     店員を起こそうとする前。

     この2つのタイミングのどちらかでしか接触は不可能であり、それ以外のタイミングに突入すれば、怪人達はバベルの鎖の効果で危険を察知して逃走するだろう。
    「どちらのタイミングで接触しても、店員達は気絶しているし、怪人は店員に危害を加えるつもりは無いみたい」
     つまり店員が危険にさらされる可能性は無いらしい。
     また、どちらのタイミングも店が開く前なので、お店にお客さん(一般人)がやってくる事も無いと言う。
    「怪人達は全員ご当地ヒーローと日本刀に似たサイキックを使えるけど、それ以外のサイキックも個別に違うものを使えるの。あと得意な戦法も違うから気を付けて」
     珠希が言うには、ジャーマン松阪ビーフ怪人は無敵斬艦刀に似たサイキックを使い攻撃重視、青い配下は天星弓で支援重視、緑の配下は妖の槍で守り重視、黄の配下は手裏剣甲で守り重視、ピンクの配下は護符揃えで回復重視、らしい。
     ちなみに松阪ビーフ怪人は配下から『殿』と呼ばれており、残り4人はその家臣的な位置づけらしい。
     珠希はそこまで説明すると灼滅者達を見回し。
    「しっかり灼滅したら、そのお店でご飯ぐらい食べて帰って来ても良いと思うわ、お金は学園がなんとかしてくれると思うし」
     ただし注意して欲しい、突入タイミングによっては食べられる肉の種類が変わる。
     タイミング1なら松阪牛は食べられないが他のブランド肉は食べられる。
     タイミング2なら松阪牛は食べられるが、他のブランド肉は食べられ無い。
    「ま、しっかり灼滅する事が前提だから、お肉に釣られて油断とかしちゃダメよ? それじゃあみんな、頑張ってね!」


    参加者
    エルメンガルト・ガル(ウェイド・d01742)
    烏丸・織絵(黒曜の鴉・d03318)
    御手洗・七狼(無彩アップグルント・d06019)
    御手洗・流空(はぐれ紅・d06024)
    久世・瑛(晶瑕・d06391)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    牛野・ショボリ(歌牛・d19503)

    ■リプレイ


    「なぁ烏丸、天下布武の意味ってわかる?」
     通りの角に身を隠し、怪人達に占拠された肉料理店『天下布武』を監視しながらそう聞いて来るエルメンガルト・ガル(ウェイド・d01742)に対し、烏丸・織絵(黒曜の鴉・d03318)は歴史上の人物を絡めて由来を教える。
    「なるほどねー。それじゃあそのまま殿様も焼いちゃえば……」
    「ああ、それはそれで中々的を射ているな」
     エルメンガルトの答えに、にやりと笑う織絵。
    「そういえばハンブルグステーキって、つまりハンバーグのことですよね?」
     久世・瑛(晶瑕・d06391)の素朴な疑問。知っていた数人が肯定するが、瑛はイマイチ納得がいかない。
     と、そこでお店の裏口が勢いよく内側から開き、飛び出してくるのはお肉を加えた白犬。
     その後ろから裸足で駆けて来るはブルー袴の牛頭。
     店内にこっそり潜入していた白い犬――天槻・空斗(焔天狼君・d11814)が出て来たという事は、店の冷蔵庫は松阪ビーフでいっぱいになったという事だろう。
     一斉に飛び出す灼滅者達と人間に戻る空斗。
    「なん……だと……!?」
     驚くのはブルーだ。まさか待ち伏せされているとは。
    「アレが殿か? 流空……会えて良かったな」
     御手洗・七狼(無彩アップグルント・d06019)が殿様に会いたがっていた弟の御手洗・流空(はぐれ紅・d06024)の肩を叩きながら無表情に言う。
     だが、当の流空は口を尖らせ。
    「ううん、あれはツッコミだから違うよシロにぃ」
     残念そうに首を振る流空。
    「誰がツッコミだ!」「誰のことやねん!」
     即座に反応するブルー&狼幻・隼人(紅超特急・d11438)。同じ速さでツッこんだ2人が目を合わせる。
    「と、殿ー! 曲者! 曲者でございまする!」
     ブルーの叫び声に店内からイエロー、グリーン、ピンク、そして赤い袴の殿様が現れる。ちなみに袴が色違いなだけで、全員ドイツ国旗マフラーの牛頭である。
    「ほら、シロにぃ! 殿だよ!」
     まるで有名人を紹介するようにはしゃぐのは流空。
    「また会ったね、殿! それにしてもなんでドイツかぶれに?」
    「ふっ、スポンサーのCMだ」
     ドイツを宣伝しろ、とばかりに予備を放ってくる殿様。
    「で、何しに来た灼滅者」
     殿様の問いに対して一歩前に出るのは織絵。
    「肉が食えると聞いて」
    「そうか、客か」
     深く頷く殿様。
    「なんでやねん!」「なわけ無いでしょう!」
     織絵にツッこむ隼人と、殿様にツッこむブルーの声が再びハモる。
     だが。
    「たわけ、肉ぐらい好きに食わせろ」
    「そうだ、肉ぐらい食わせてやればいい」
     なぜか引かない織絵と殿様。
     ちなみに隼人の足元では、霊犬あらかた丸がバウバウと肉という言葉に反応している。
    「せやな、松阪ビーフを食べてから……って、ちゃうやろ!? 勝負や勝負! あらかた丸も飯は勝負に勝ってからや!」
     ぜぇはぁとツッこむ隼人、ふと見ればブルーが隼人に向かってサムズアップしていた。
     と、隼人達のやりとりがひと段落した所で、スッと武器を構えて前に出たのは牛野・ショボリ(歌牛・d19503)が「ぎゅうにくー!」と叫ぶ。
    「な、なんだ急に!?」
     唐突な叫びに驚く怪人たち。
    「ショボリのお家でも肉牛育ててるよー!」
    「ほう、良い心がけだ。もちろん松阪ビーフであろうな?」
    「主に暴れ牛だよー!」
    「そうか、いや、俺は産地ブランドを――」
    「牛肉を愛する同士とはいえ怪人は倒すべき敵なんだよー!」
    「貴様、人の話を聞いているのか?」
     しかしショボリは。
    「ショボリのお家牧場だけど貧乏ねー! パパは無職よー! 兄弟で身を寄せ合って生きてるねー!」
    「そ、そうか、それは辛いな」
     問答無用で続けるショボリに、殿様がタジタジと相槌を打つ。
    「でもママのおっぱいは大きいよー!」
    『いや、それ関係無い(ビシッ!)』(隼人&ブルー)
     ハモる2人だった。


     なんだかんだあり最初に動いたのは殿様だった。巨大な両手剣を肩に担ぐと。
    「天下御免のジャーマン風味、松阪ビーフ怪人、参る!」
     対する灼滅者も。
    「目覚めろ。疾く翔ける狼の牙よ。吼えろ、焔天狼牙」
     空斗が同じく巨大な両刃大剣を出現させ、その刀身部分が根元で柄からスライド、黒い炎が勢いよく噴き出す。
    「悪くない見栄だ。だが出来損ないの灼滅者に用は無い。この必殺技で散るがいい!」
     殿様が巨大剣を振りまわすと同時、前衛達をその剣圧が襲う。
     即座に仲間を庇うために前へ出る隼人。
     隼人以外も前衛の誰もが腕や武具で剣圧を防いでなんとか耐え忍ぶ。
     そして――。
    「ほう、耐えるか」
    「一つ、聞いていいか?」
     感心する殿様に、焔天狼牙を構え直しながら空斗が聞く。
    「なんで松坂牛でドイツなんだよ! つか、ビーフって英語じゃねーかっ!」
     気付いてなかった殿様がショックを受ける。
     まぁ、商標とかいろいろ……ね。
     とりあえず、語りながら放った空斗の徐霊結界は、思った以上に怪人達をパラライズ。
     一方、殿様達でなくイエローの前に立ちふさがるはエルメンガルトだった。
    「オレ、日本の事好きなんだけど詳しくは知らないんだよねー。けどお前は知ってる……ニンジャだろ?」
    「違います」
    「いや、ニンジャならシノビ飯とか食べろよー? 肉食うのかよー」
     しつこく絡むエルメンガルト。ついでに旋風輪を叩き込む。
    「違う。私達は侍。侍は忍者じゃない。わかった?」
    「アッハイ」
     静かだが怒気をはらんだイエローの言葉に、思わず頷くエルメンガルト。
    「さて、はじめるとしましょうか。美味しくお肉をいただくために!」
     作戦通り、最初にグリーンへと突貫したのは瑛だった。
     螺旋の回転を伴った槍の一撃がクリティカルヒットする。
    「あの、俺からも一つ良いですか? せっかくの松坂牛なんだからハンバーグではなく普通のステーキにしたらいいのでは?」
     ハンブルグステーキ(ハンバーグのことです)について質問する瑛。
    「ドイツ風にしないとシャーク様に申し訳ないだろう」
    「ああ、そういう……」
     やっと納得する瑛であった。

     怪人達との戦いは続く。
    「君らの正義を量ってみようか……そら貫くぞ。耐えてみろ」
     言うが同時、織絵がグリーンの懐へと飛び込み腕のバベルブレイカーをブチ込む。
     ガガガッ!
     だが、ブレイカーの先端がグリーンの槍の柄によって防がれた。
     先ほどからグリーンを集中攻撃しているが、守りが堅い。
     さらにピンクからの治癒でどんどん回復するのが厄介だった。
    「じゃんじゃんばりばりきゅあきゅあねー!」
     ショボリの掛け声とともに祝福の言葉が変換された風が灼滅者たちを癒す。
     敵の回復も中々だが、こちらの回復もまたどうして、だ。
     そんな中、攻撃を受けまくっていたグリーンが槍を構えて灼滅者の輪を抜ける。その穂先が捕らえた先は……流空。
    「うぐっ!?」
     切り裂かれた肩口を手で抑える流空。
     だが、次の瞬間。
    「……潰ス」
     振り向けば七狼。
    「往け、存分に駆けテみせろ……アヴィス」
     影から出現した馬に乗った黒い西洋騎士がグリーンを切り捨てる。だが、それでもギリギリ耐えるグリーン。
     ――耐えた!
     しかしグリーンの幸運もここまでだった。
     七狼の動きに連携するように回り込んでいた空斗の炎剣がズバンとうち降ろされ、炎に焼かれ良い匂いをさせながらバタリと倒れるグリーン。
    「ウェルダンの予定だったが……焼き過ぎたか?」
     空斗が呟くが、その言葉を聞くことなく、グリーンは爆発したのだった。


     戦い続けてかなりの時間が経過していた。
     グリーンに続きピンクも倒し終わり、次はブルーを狙いながら戦う灼滅者だったが……。
    「ターゲットを変えましょう! 盾役のイエローがそろそろです」
     冷静に分析していた瑛が仲間達へ指示を出す。
     ピンクを先に倒さなかったぶん戦闘が長引きはしたが、先にグリーンを倒したことで同じ盾役のイエローの負担が高くなり、ブルーを倒す前にイエローの限界が来たのだ。
     即座に動いたのはショボリだ。
     即座に懐へ入り込みイエローの服を掴んだまま跳躍するショボリ、イエローの視界が180度回転し、一気に大地へと叩きつけられる。
     即座に飛び退くショボリ。
     瞬後。
     ドカーン!
    「悪の最期は爆発が美学ねー」
     イエローが爆発し、ショボリがそれを背景に勝利の不思議ポーズ。残っている殿様とブルーに向けて。
    「ショボリ牛柄ヒロインねー! 日曜朝の魔法少女オファーまってるねー!」
    「ふ、ふざけるな!」
    「将来はお色気担当もばっちり! ぼいんぼいんになるよー!」
    「知るか!」
     ツッこむブルー。だがそこでまさかの反応が来る。
    「一つ言っておいてやる」
     ショボリを見据えて言うは殿様だった。
    「俺達はレンジャー系だ」
     大真面目な殿。
    「そこかいっ!」
     隼人が即座にツッこみを入れる。
    「そ、そうです殿、そこはせめて時間帯が違うとか……」
     ツッコミを取られたブルーが微妙なボケをかますが……。
    『………………』
     イマイチ。
     戦場がしらけて凍る。
     ピキーン。
     同時にブルーが氷に閉じ込められた。
     バキッ!
     自力で氷から脱出するブルー。その勢いで自分に氷をぶつけた瑛に向かって。
    「せめて言葉でツッコミを入れんか!」
    「いや、寒かったので牛の氷漬けにでもした方が良いかなぁと……」
    「余計なおせわだ!」
     慣れない事をするものではないと心に誓うブルー。
     そんなブルーに問答無用で攻撃を仕掛けるは空斗。
     黒い炎で形成された狼頭がブルーに食らいつき、結界然としてその行動を阻害する。
    「ちっ!」
     その隙を逃さず空斗の背後で織絵が動く。
    「目には目を、ビームにはビームを、そして悪事には杭をってな!」
     構えた両手から撃ち放たれるご当地ビームがブルーの胸を貫く。
    「な、なぜだ……肉を食いに来たと、そう、言っていたのに……」
     胸を押さえてそう言うブルーに、織絵はロングコートをひるがえし偉そうに。
    「肉は食う、だが、お前達も見逃しはしない」
    「なっ!? わ、わがまま……が……」
     倒れ爆発するブルー。
     織絵はそれを確認し、フッと笑みを浮かべると。
    「ご当地殺人鬼はわがままなのだ、覚えておけ」
     そう、呟いたのだった。

     残るは殿様1人。
     しかし、さすがは本家ご当地怪人であり、4人の配下とはレベルが違う。
     8対1であると言うのに、殿様の勢いは衰えない。
     盾役の隼人が殿様の大剣をクルセイドソードで受けるも、殿様は本気モードなのか二刀流でもう片方の手に持つ日本刀で隼人に迫る。
    「あらかた丸!」
     隼人の叫びと同時、霊犬が口に咥えた斬魔刀で殿様の日本刀と受け止めた。
    「あくまで守りに徹するか……その粋や良し」
    「はは、敵さんに褒められてもな」
     霊犬と協力して殿様を押し返す隼人。
     だが、殿様は押し負けたように後ろに下がるも、グルリと慣性を乗せて再び大剣を振り下ろす。
    「素直に喜べ、この一撃で貴様は死ぬのだ」
     殿様の連撃、押し返し体勢を崩していた隼人は回避が不可能だと咄嗟に理解する。
     ドッ!
     しかし、その一撃は隼人に襲ってはこなかった。
    「おいおい、オレを忘れてもらっちゃ困る」
     隼人の目の前にはエルメンガルト、闇雷の槍で大上段からの一撃をギリギリ受け切っていた。
    「くっ、限界が近いだろうに……しぶとい」
    「それはお互い様だろ」
     エルメンガルトがにやりと笑う。
     何度も殿様の攻撃を受けているが、そろそろ攻撃に精彩を欠いて来ていた……限界は、近いはずだ。
     もちろん、それに気付かない灼滅者では無い。
    「流空、畳み掛けルぞ」
    「了解! 一気に行くよ!」
     七狼とアイコタクト後、殿様へと駆け込む流空。
     走り込んでくる流空に向けて大剣を構える殿様、だが、視界の端に何かが輝くと同時、身体の側面を巨大なビーム――七狼のバスタービームが着弾、衝撃と共に姿勢を崩す。
    「今ダ流空」
     七狼の声、殿様が気配を感じて見下ろせば、至近距離で日本刀を構える流空。
     抜き放った刀身に炎が走り、殿様を袈裟掛けに切り裂く。
    「殿様、俺、また会えてうれしかったよ?」
    「ふん……戯言を……」
     炎に焼かれ倒れる殿様。
     ドカーンッ!
     大きな爆発が起こり、残ったのは牛肉が焼ける良い匂いだけであった……。


    『本日フェア、松坂ビーフのみ!(値段据え置き)』

    「あんなにこだわってんだから、きっとかなり美味しいんだろうなあ……」
     店外での戦闘だったため跡片づけも早く終わり、今、店内の席でメニューを見ながら想像するのは瑛だ。
     戦ってかなりお腹も空いた。
     件の肉を早く食べてみたい。
    「イチボステーキ、200g。レアで持ってきてくれ」
     メニューも見ずに注文するのは織絵だ。
     店員が「その部位あったかなぁ」「いや、あるぞ。っつーかこれ1頭丸ごとあるんじゃないか?」とかなり厨房は混乱もしているようだ……。
    「店員さん、金はいくらでも払うよって、フルコースを頼むわ」
     遠慮なく頼む隼人だが、内心では別の問題にぶち当たっていた。
    「(あらかた丸の分をどないしよう……)」
     普通にあらかた丸と一緒に席についたら、普通にお店の人に怒られたのだ。いや、そりゃ、ねぇ?

     やがて生肉の乗ったサラダから、各種部位ごとのステーキ、果ては鍋や焼き肉用の七輪までがテーブルに並ぶ。選り取りみどりだ。
     皆、まずはステーキを、と好みの焼き加減のものをパクリ。
     口に入れた瞬間にふわっと広がる上品な油の甘さ、ひと噛みすればジュウシーな肉汁が溢れ喉をスッと通って幸せが胃に満ちる。
    「うまい!」
     エルメンガルトが目を潤ませて感動する。
     普段食べているのは豆腐ハンバーグばかり、こんなに高級なものは久しぶりだ。
    「牛野印牛肉とタメをはれるね! 本当、おいしいねー」
     横でショボリもおいしいおいしいと繰り返しながら、小さく切ったお肉を次々に口に運んでいた。
     途中、エルメンガルトと普段の食について意気投合したりもするが、2人とも箸だけは止まらなかった。
    「こんな上等な肉食べるノ何時ぶりダろうか……流空、沢山食べるとイイ、俺ノ分も食べるか?」
     美味しい部分を選りすぐって七狼が流空の皿に切り分けていく。
    「うん、おいしいね! ってまたシロにぃってば……沢山あるんだからシロにぃも食べて食べて!」
    「そうカ?」
     肉はまだまだたくさんある。お金の心配も入らぬ今、遠慮をする方がもったいないだろう。
     芳醇な肉を噛みしめながら、七狼が無表情ながらに腕を組み。
    「……肉のテイクアウトは可能ダろうか」
    「あ、俺も思った。他の兄姉の為にもお持ち帰りしたいね」
     以心伝心、七狼と流空の兄弟がそろって店員にお願いする。
     お金を払ってくれるならOKらしい。
     これに喜んだのはほかの皆も一緒である、特に空斗はしこたま食べて、しこたまお土産用に包んでもらった。もちろん未調理の肉の固まりを、だ。
     こうして大量のお土産も貰い、灼滅者達は学園へと帰還したのであった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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