バレンタインをぶっ壊す!

    作者:飛翔優

    ●リア充に爆発して欲しい
     クリスマスは耐えた。
     年末年始も耐えぬいた。
     されど湧き上がってくる衝動。上野木雅人の心を支配しようとする、リア充を殺せという衝動。
    「あああああ!」
     叫ぶ事で押さえ込み、倒れなければベッドに向かってヘッドバット。暴れ叫び疲れたなら、きっと眠ることができるはずだから。
     いつから苛まれているのかなど、既に記憶のはるか向こう。ただただ耐えると心に刻み、雅人は枕に顔を埋めていく。
     リア充が憎い、という感情に嘘はない。
     しかし殺してしまうほどではないだろう。
     雅人は耐えて耐えて耐えぬいて、今日も耐え抜き眠りにつく。しかし、このままでは……。

    ●放課後の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、軽い挨拶とともに説明を開始した。
    「上野木雅人さんという中学二年生男子が、闇堕ちしてダークネス……六六六人衆になる、という事件が発生しようとしています」
     通常、闇堕ちしたならばダークネスとしての意識を持ち、人としての意識はかき消える。しかし、雅人は人としての意識を残しており、闇堕ちしながらもダークネスになりきっていない状態なのだ。
    「もしも雅人さんが灼滅者としての素養を持つのであれば、救いだしてきて下さい。しかし……」
     完全なダークネスと化してしまうようならば、そうなる前に灼滅を。
     葉月は続いて、雅人の説明へと移っていく。
     上野木雅人、中学二年生男子。本来は明るく元気な馬鹿……という表現がふさわしいような少年で、所謂ムードメーカー的な存在だった。故に同性異性の区別なく友人がいる。その代わり、今のところ恋愛の対象としては見られていないらしい。
     故に、たびたび恋人がいる男子……所謂リア充に嫉妬を向けることがある。その感情がきっかけとなり、六六六人衆の衝動が生まれたのだ。
     そこまで話した後。葉月は地図を広げていく。
    「雅人さんは当日、この公園で叫びながら様々な遊具を用いて遊んでいます。殺人衝動を紛らわせるために」
     故に、そこに接触して説得する。
     説得の成否にかかわらず、六六六人衆と化した雅人との戦いとなる。
     力量は八人ならば倒せる程度で、破壊力に秀でている。
     技は手に触れた場所を爆破し加護を砕く、虚空を爆発させ一列を加護ごとなぎ払う、地面を爆発させ礫を浴びせながら移動を制限する……といったもの。
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「本来、雅人さんは決して人殺しを行うような方ではない……そう思います。ですのでどうか、最良の結末を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    青柳・百合亞(一雫・d02507)
    マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)
    沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    ナイン・ドンケルハイト(闇ニ潜ム混沌・d12348)
    天野・白奈(血を望まない切り裂き姫・d17342)
    藤島・麻里奈(中学生殺人鬼・d17746)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)

    ■リプレイ

    ●嫉妬に狂いし少年は
     学校が放課後を迎え、賑わう街。
     外れにある公園に足を運んだ灼滅者たちは、即座に上野木雅人を発見した。
    「あの方ですね……ずいぶんと分かりやすい」
     西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)さ示す先、雅人はジャングルジムに登っていた。
     かと思えば飛び降りタイヤの遊具へと突撃し、勢いのままに回った後にうんていへと向かっていく。うんていを制覇したかと思えばブランコへと向かい、すさまじい立ち漕ぎを披露した。そして……。

     流石に疲労したのだろう。滑り台の下で腰を下ろし俯いていた雅人。
     灼滅者たちは歩み寄り、沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)が代表して声をかけた。
    「はろー」
    「はろー! って、あんたらは?」
    「君、もてたいんだって? じゃあボクの話をちょっときいてみないかなぁ」
     有無をいわさず申し出て、返事を聞かずに道を開ける。
     ぽかんと口を開けている雅人に聞く体制を整えさせるため、青柳・百合亞(一雫・d02507)が話しかけた。
    「偶然通りかかったのですが、どうやら何かを抑えきれない様子。ストレスが溜まっているのなら話し相手になりますよ?」
    「あ、ええと……」
    「知らない人のほうが、かえって話せることもある……そういうものですよ」
     言葉を重ね、ためらう雅人の背中を押していく。
     雅人は小さく頷き返した後、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
     モテない事、心の声、モテない事、衝動の事、モテない事……。
     何度か同じ話が出てきたのは、混乱しているからか話の組み立て方を知らないからか。
     もっとも、大筋にさほど違いはない。雅人が持てないが故に嫉妬し、殺戮衝動が沸き上がってきている……それは確実な話なのだから。
    「俺、馬鹿だからどうすればいいのか分からなくて。それで、少しでも紛らわせればってこうやって暴れて……」
     言葉が途切れ、話してが切り替わる。
     百合亞が、改めて口火を切っていく。
    「……恥ずかしながら人に嫉妬することは私もよくあります。自分にないものを持っている相手はとても眩しく羨ましいものです。でも恋に関しては焦ることはありません、雅人さんの人柄なら高校からが勝負です。中学と高校では、モテる基準が違うんですよ」
    「何時も一緒にいれる友達が傍にいるのに……、それすら破壊してしまうの……?」
     一方、天野・白奈(血を望まない切り裂き姫・d17342)は別口から雅人に切り込んだ。
     どことなく怒気を込めながら、どことなく戸惑った様子の雅人に続けて言い放つ。
    「嫉妬は……、自分に降りかかってしまうのよ……。もしも貴方が同じだったら……、自分を殺めてしまうのよ……?」
    「そんなこと言われても……」
     感情がコントロールできるのなら、少なくともこういう事態にはなっていない。何より、まだまだ成長過程の中学二年生にそれを求めるのはいささか酷な話か。
     それでもいびつな形で発散させる訳にはいかないから、藤島・麻里奈(中学生殺人鬼・d17746)が落ち着いた調子で語りかけた。
    「えっとね、いきなりで信じられないかもしれないけど……私達は君と同じ力と悩みを持った学園の生徒だよ」
    「えっ」
     驚きの声を上げる雅人に、力強く頷き返して続けていく。
    「殺人衝動って辛いよね。押さえ込もうとすればするほどそれに飲まれそうになっちゃって……私も昔、君と同じ殺人衝動に悩んで学園の人達に助けて貰ったから良く判るよ」
     己等の立場を、理解の旨を伝えていく。
    「殺人衝動も嫉妬もその向きを変えれば違うものにする事が出来るよ力は人ではなくダークネスに向けられるし、嫉妬も自分磨きの原動力にして自分がリア充になっちゃうとかね。私達なら君の衝動を受け止められるから遠慮なく吐き出しちゃって……ね♪」
     ウィンクで明るく締めくくり、雅人の未来を暗示する。
     その横顔に戸惑いは残れど、瞳には輝きが宿り始めた。ならば、次に投げかけるべき言の葉は……。

     やはり、雅人の抱える根源的な悩みだろうと、マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)が口元で指を動かし切り出した。
    「チッチッチ、なの……。モテない男子は相応に理由があるってものだよ……」
    「理由?」
    「そう。でも、逆を言えば、その辺をどうにかすればモテ道だって開けるかもよ……?」
     何事にも理由は存在する。概ね理不尽と思える事もあるけれど、基本的には、概ね納得できる理由なのだ。
    「男の色気ってのしっかり磨けば、きゃっきゃうふふのイチャコラだって。夢じゃないかも知れないのに、その衝動に流されちゃったら試合終了だね……。ほら、モテたいなら気合入れてしっかり頑張る……」
    「頑張るって……」
     具体的な提案は、直司が担当した。
    「要は相手に自分が特別だって思わせなきゃ。女の子と話すときはじーっと瞳見て微笑んであげるだけでちょっとしたアクセントにはなるんだよ」
    「相手に自分が特別だって思わせる。じーっと瞳を見て微笑んであげる……」
    「そう。それからほんとにモテたいとか彼女欲しいって思うならすっごい努力しなきゃなんだよ。どんなときでも笑顔を絶やさないで自分の感情を押さえ込んでさ。常に周りの女の子の動向観察して話題とか絶やさないようにもしないとね」
     経験者が語る、マジなアドバイス。真実味を感じたのか、雅人の表情は真剣そのものだ。
     ならば、女性の意見で説得力をもたらさんとナイン・ドンケルハイト(闇ニ潜ム混沌・d12348)が明るい調子で話しかけた。
    「チョコレートが欲しいの? 欲しかったら強い男じゃないと、ね」
    「強い男……強くなったら、チョコレートをくれるのか?」
     言の葉を短絡的に結びつけてしまうくせがあるのか、チョコレートの単語だけで雅人はどことなく浮足立つ。
     そんな彼をさり気なく抑え、桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)が口を開いた。
    「まあ、あれよ、恋人さんが欲しいなら、まず行動あるのみ! もうすぐバレンタインというチャンスがあるじゃない、最近は男の子から告白するのも多いらしいよ? まずは女の子のお友達を作ろう!」
    「俺から、告白?」
    「そう! ……っといっても、私もまだ恋とかしたことないんだけどさ。でも、誰か、一緒に楽しく過ごす相手がいるのはいいな、と思ってるよ」
    「……」
     アドバイスの後に、素直な告白。
     ある意味同じ部分を持つ萌愛を前に、雅人は静かに瞳を閉ざす。
     風の訪れとともに瞳を、口を開こうとした時、表情が歪んだ。
     灼滅者たちは距離を取り、雅人の様子を観察する。
     否、既にそれは雅人ではない。六六六人衆へと成り果てていた。
     灼滅者たちは、雅人を救うための最終段階とするために、全力での戦いを挑んでいく……。

    ●殺戮衝動の元を断つ
    「お願い……、私の中の悪魔……! 悪鬼に堕ちかけた魂を……、救い上げて……!」
     定められたワードを響かせると共にうなだれて、白髪を水色へと塗り替える。
     殺戮姫へと変貌し、酸の砲弾をぶっぱなした。
    「嫉妬……、人が持つ闇であり……それを殺せる人間とは何処にもいない者……」
    「さあ、汗を流して発散しましょう!」
     百合亞は影を放ち、六六六人衆の右足を捕縛する。
     力を注ぎ綱引きを始めていく中、織久が背後へと回り込んだ。
    「……」
     六六六人衆。過日の暗殺ゲームで多数灼滅された存在。
     いずれ下位や番外から補填されるのだろうけれど、増えるのは困る。正直精神が持ちそうにないから止めるのだと、黒い大鎌を振るい左足を切り裂いた。
     姿勢を崩したところにナインが飛び込み、肥大化した腕でアッパーカット!
    「っと」
     反撃として伸びてきた手を回避して、後方へと退き距離を取る。
     影を伸ばし、右腕を力強く絡めとった。
    「ずいぶんと動きが鈍いね。雅人が頑張ってる証拠、かしら」
    「権三郎さん、いくよー」
     すかさずマルティナが剣を振りかざし、霊犬の権三郎が斬魔刀を閃かせる。
     呼吸を合わせた十字の軌跡を刻み込み、二歩ほど六六六人衆を退かせた。
     猛追した麻里奈は側面へと回り込み、槍を突き出す。
    「この調子で……」
     左足を切り裂き、動きのを著しく鈍らせる。
     遅々として反撃が進まないからだろう。六六六人衆は忌々しげな瞳を灼滅者たちへと向けていく。
     受け止めた上で、白奈は腕を砲台へと変貌させながら口を開いた。
    「わらわもまた……、人が持つ闇……闘争欲と恐怖から生まれた影に等しい……」
     同情か、自嘲か。
     いずれにせよ行動を淀ませることなく酸の砲弾を発射して、固い守りを削っていく。六六六人衆に勝利し雅人を救い出すために。灼滅者たちは更なる攻撃を仕掛けていく……。

     話してわからないのなら拳で語る。
     拳で語らずとも分かってはくれたけど、わからず屋の六六六人衆には拳が必要。
     百合亞は救済の未来だけを見据えたまま、氷の塊を発射する。
    「さあさあ、一気に決めてしまいましょう」
    「そこだ!」
     瞳を爛々と輝かせた織久が、氷の塊の着弾面。新たな弱点と化した背中へと焔散る大鎌を振り下ろす。
     突き立てるとともに氷は砕け、炎は六六六人衆の全身を包み込んだ。
     せめてもの反撃といったところか、六六六人衆は虚空を示す。
     前触れもなく爆発し前衛陣へと襲いかかる。
     揺るがず、慌てず、直司は篭手を嵌めた拳を握りしめた。
    「るーしぇ、行くよ」
     霊犬のるーしぇは小さく唸るとともにかけだして、斬魔刀を閃かせた。
     一呼吸分遅れて懐へと飛び込んだ直司は斬撃の中心をぶん殴り、霊力を開放して六六六人衆を拘束する。
     更に動きを鈍らせるため、萌愛が逆十字を描き刻んだ。
    「大丈夫、もうすぐですよ、雅人さん」
    「悪鬼よ……、お前が起きる時はまだ早い……」
     腕を刃に変えた白奈が斬りかかり、六六六人衆を押し倒す。
     それでも起き上がろうとした六六六人衆の胸元を、織久の正拳突きが押し返した。
    「……任務完了、ですね」
     六六六人衆の気配が消えていくのを感じた織久は、思考を切り替え、小さな息を吐いて行く。
     耳に届く寝息が救済の証だと、安全な場所へと移動させるために雅人を抱き上げた。
     仲間と頷きあった後、ベンチへと運び寝かせていく。皆の治療を終える頃には、雅人も覚醒するだろう。

    ●初めての……
     目覚めた雅人は、最初に謝罪を行った。
     そして感謝の言葉を口にして、これから色々頑張ってみると誓っていく。
     安堵して余裕ができたのだろう。マルティナが権三郎へと向き直った。
    「そういえば、もうすぐバレンタインだね……。日本人は女子が男子にチョコを贈るんだっけ……? んー、そんじゃ、権三郎さんあげようか……」
     無知なる提案を前に、権三郎は驚いたように目を見開き抗議の鳴き声。
     マイペースなマルティナが気づいたか否かはわからない。が、チョコを貰えぬ雅人を落胆させるには十分だった模様で……。
    「んー、そうね」
     あるいは、落胆したからこそより輝く。
     ナインはチョコレートを取り出して、雅人の手に握らせた。
    「お祝いってところかな。ちょっと早いバレンタインチョコよ」
    「えっ」
    「私も……はい」
     続いて萌愛も手持ちのチョコを手渡して、にっこり笑顔を浮かべていく。
    「え、え?」
     突然のことに対応できないのか、明るい笑顔を前に雅人は戸惑い顔。
     しばしの後に状況を理解したのか、感極まったかのように泣き始める。
    「あ、ありがとう! こんな風にもらうの初めてだ……ほんとに、ほんとにありがとう!」
    「いえいえー」
     明るく返事を返す萌愛、深く頷いていくナイン。
     そんな光景を眺めつつ、麻里奈は小首を傾げていく。
     今はまだ、きっかけを作ったに過ぎない雅人。もしもこれから男を磨き、リア充になった時……今日をどう思うのだろうか?
     やはり黒歴史? それとも若気の至りの失敗談?
     どこへでも迎える雅人だが、一つだけ確かな事がある。
     彼は歩み始めた、灼滅者の道を。闇と戦い、大切な人々を守る道を。
     戦い、守る中でも漢を磨いていけば、きっと……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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