イカ飯とピロシキと高校と

    作者:天風あきら

    ●とある高校の屋上にて
    「イカメシーゾ様! 準備完了致しました!!」
    「──イカメシーゾフだ」
    「は?」
    「ロシアンタイガー様への忠誠を新たにした今、私は古き名を捨てた! 『イカメシーゾ』から『イカメシーゾフ』となったのだ!! こっちの方がちょっとロシアンっぽい!」
    「こ……これは失礼致しました、イカメシーゾ、フ様」
    「うむ。朱雀門からの潤沢な資金の力もあり、持参したイカ飯も、中身をピロシキ風の具にする作業は完了した。後はこの学校を、ピロシキ風イカ飯で満たすだけだ!」
    「それは既にイカ飯と言わないのでは……」
    「何か?」
    「い、いえ何も! ……しかし、有名な北海道は函館のご当地怪人であらせられるイカメシーゾフ様が、何故このような辺境の地に?」
    「……この学校の名を知っているか?」
    「は……いえ」
    「イカ高校だよ」
    「え?」
    「ここは滋賀県立伊香高等学校! すなわちイカ高校なのだ!! このような名の学校、制圧地点として外すわけには行くまい」
    「成程! 流石はイカメシーゾフ様!!」
    「ふはははは、多大な資金でご当地パワーをこの地に増大させ、そしてゆくゆくは世界征服だ!! では早速行こうではないか。いざ学食へ! メニューはもちろん……」
    「ピロシキ風イカ飯のみ、ですね!」
    「うむ!」
     
    ●真冬のイカづくし!
    「皆、集まったみたいだね」
     篠崎・閃(中学生エクスブレイン・dn0021)は、教室に集まった灼滅者達を見回した。
    「今回は、ロシアンタイガーの影響を受けたご当地怪人の灼滅をお願いしたいんだ。織歌さんは情報ありがとう」
     今回の事件の情報をもたらし、閃の全能計算域から情報を引き出す切っ掛けを作った鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)は、微笑んで返した。
     さて、敵の名はご当地怪人イカメシーゾフ。イカの形をした被り物を被り、胴の部分に丸い穴を開け、そこから顔を出している。その表情は四十半ばのおっちゃんで、とっても厳めしいぞ! ちなみに肩から下は救命胴衣とゴム長。つまりは函館の漁師スタイル。
     イカ飯の中身をピロシキ風に変え、「お土産のレトルトイカ飯はべちゃっとして美味しくない!」といった悪評を覆すべく、とりあえずは遠く離れた土地である滋賀県は伊香高校から世界征服の足がかりを作ろうとしているらしい。
    「ご当地怪人の例に漏れずふざけた相手だけど、危険な相手でもある。気を付けて挑んで欲しい」
     皆が頷くのを確認し、閃は詳しい説明に入った。
    「イカメシーゾフは被り物から八本のイカの脚、そして人間形態の両腕、計十本の腕を有している。その攻撃は一度でも、巧みで強烈な連打として繰り出されるだろう」
     更に閃は、手を軽く握って指で筒を作り、ふうっと息を吹き出した。
    「こうして、イカ墨を吹き出してくることもある。顔にかかれば、行動を制限されるかもしれない」
     それに加え、戦闘員が四人。イカ飯戦闘員と、ピロシキ戦闘員が二人ずつだ。
    「それぞれ、膝丈までの着ぐるみを着こんでいる。手足は出ているね。イカ飯戦闘員はほっかほかのもち米を、ピロシキ戦闘員はあっつあつのピロシキの具を飛ばしてくるよ」
     どちらも遠距離にまで届く攻撃だ。
    「彼らは既に、イカ高校……あ、いや、伊香高校の学食を制圧している。イカ飯戦闘員がイカメシーゾフを連れてきたところを待ち構えていれば、一網打尽に出来るだろうね」
     何とも言いにくそうに、閃は説明を終えた。
    「……ネーミングが色々とアレなんだけど……油断はしないでほしい。奴等の作戦が成功してしまえば、それだけロシアンタイガーの力も高まってしまうことだろう」
     厳しい表情がいまいち決まらないのは、事件内容ゆえか。しかしそれでも閃は、皆を見回して言うのだ。
    「でも皆なら、きっとイカメシーゾフ達を灼滅してくれる……そう、信じているよ」


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)
    天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)
    篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)
    黒芭・うらり(中学生ご当地ヒーロー・d15602)
    火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)
    三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230)
    古城・悠蛇(紅蛇のウィザーナーガ・d23076)

    ■リプレイ

    ●ピロシキの具ってそもそも何?
    「はぁ? ピロシキ風イカ飯?」
    「それだけなの?」
    「ふざけるなー!!」
    「俺、焼きそばパン買いに来たんだけど……」
    「他のメニューも出しなさいよ!」
     現場となる学食は、既に混乱の様を呈していた。学食のおっちゃん、おばちゃんは裏手の調理場に縛り上げられ、押し寄せる腹ペコ学生の波は半端ではない勢いだ。
     そして彼らにピロシキ風イカ飯を押し付けているのは、それぞれイカ飯とピロシキの着ぐるみを着た三人の戦闘員。
    「いいから食ってみろ! 美味いんだから!!」
    「腹持ちも良いぞ!」
    「そこらへんのレトルトと一緒にするなよ!」
     そこへ、威風堂々と現れたのは、イカ飯戦闘員に連れられたイカ飯男──怪人イカメシーゾフ。
    「おお、イカメシーゾフ様!」
     喜色を浮かべる売店員役の戦闘員達が、喜色を浮かべる。学生の波をさっと割って、その中心を優雅に歩く。漁師ルックで。
    「学生諸君! 我がピロシキ風イカ飯は君達の空腹を癒し、満足感を与えること間違いない!! 遠慮なく食せ、そしてロシアンの真髄に目覚めるがいい!!」
    「ふふん、毎日メニューがイカばかりって。それじゃあ飽きて嫌われちゃうよ、イカさん」
    「!?」
     突如、学食の入口からかけられた声に、イカメシーゾフ達は反応する。そこには逆光を浴びて、胸を張る八人と四匹の姿。
     先程の台詞に続けて、黒芭・うらり(中学生ご当地ヒーロー・d15602)は、びしぃっと指を突きつける。
    「滅多に口にできない有難味があるからトロは海鮮食品の王者なの!」
    「ぬぅぅ、我らのピロシキ風イカ飯とて、そんじょそこらで食べられるものではない。むしろここが初の販売、すなわち地域限定!」
    「レア度ではトロにとて引けは取らぬ!」
    「ピロシキ風イカ飯って……どんなのかな? 自分で言うのは何だけど……一応グルメで興味は尽きないんだよね」
    「飯なのかピロシキなのかはっきりしていただきたいところですが! というよりあっさりロシアとかに迎合するあたりご当地怪人としての誇りは余りないのではないでしょーか」
     続け様に古城・悠蛇(紅蛇のウィザーナーガ・d23076)と、火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)が追い打ちをかける。
    「でもお味には興味ありますね。めっちゃあります」
    「ならば食してみよ。何、心配はいらぬ。米もちゃんと入っておるわ!」
    「米入りぃ!?」
     思わず入っちゃう誰からともなくツッコミ。
    「それは……美味しいのか、微妙ですね」
    「ええい、食うか食わぬのか、どちらなのだ!」
    「もちろん食べたいよっ! でもその前にっ」
     海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)が自分に正直な言葉を吐きつつ、ESPを発動。ざわめきの波が彼を中心に広がり、やがてそれは周囲の学生達にパニックを誘発する。
    「うわぁぁぁっ!」
    「何よ、何なのよー!!」
    「もう駄目だぁ!」
     大混乱に陥る学食。
    「なっ何だと!?」
     驚愕するイカメシーゾフ。
     そんな中、響き渡るのは三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230)の声。
    「皆、大丈夫だからこっちに避難して!」
     何にも遮られることなく食堂に広がった彼女の声は、大きく開かれた学食の扉を示す。更に灼滅者の半分が連れている霊犬達が、学生達をぐいぐいと外へ押しやるように避難誘導すると、それに続くように学生達は外へと殺到した。
    「何を……!」
    「おおっと、ここは通せんぼ、だよ」
     うらりが一般人避難の邪魔をされないよう、イカメシーゾフと戦闘員達に睨みを利かせる。
     更にこの混乱に乗じて、人質を取られないよう警戒していた篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)が囚われのおっちゃん、おばちゃん達の戒めを解く。
    「もう大丈夫だよ」
     そして悠蛇が彼らを匂い立つ色香で包み込む。
    「さぁ、早くここから逃げて」
    「は、はい……」
     彼らもまた、彼の言葉に従ってふらふらと裏口に向かった。
     やがて一般人が食堂から消えると、残ったのは怪人と四人の戦闘員、そして八人の灼滅者と四体の霊犬のみ。数の上では灼滅者側が圧倒的優位に立ったが……。
    「……ふ、我が布教活動を邪魔しに入ったか……」
    「イカメシーゾフさんの言いたいことは、わかるのですが……」
     言いながら、天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)が、これから戦場となる学食内の音を遮断する。これでほぼ確実に、一般生徒の出入りはなくなるだろう。
    「ん~……学食を全部イカ飯にしたら栄養偏っちゃうと思うのですよぅ」
    「大丈夫だ、ピロシキの具は何でもあり。米だろうが肉だろうが野菜だろうが、全てぶち込んで煮込んでしまえばよい!」
    「それ大丈夫って、言うんでしょうか……」
     優希那は首を傾げる。
    「ところでアンタ、名前の後ろに『ゾフ』つければロシアっぽいとか思ってるんじゃねぇよな。ふざけた名前してサァ」
     根源を突く鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)の問い。彼女は既に、ヘッドホンを外している。
    「もちろん、思っておる!」
    「おるのかヨ!」
     堂々と胸を張るイカメシーゾフに対し、裏拳ツッコミを入れないわけにはいかなかった。
    「我が名は元は『イカメシーゾ』……それに『フ』を付けるだけでロシアンっぽくなる。これは最早運命! 私はロシアンタイガー様にお仕えするために生まれてきたのだ!!」
    「……駄目だこりゃ」
     一気に灼滅者側の士気が落ちる。
     しかし相手はどんなにふざけていてもダークネス。決して油断してはならない。それは灼滅者としての彼らの本能が、一番良く知っていた。
    「ロシアン怪人イカメシーゾフ! お前の好きの好きにはさせないぞっ! 変身っ!」
     アリスが叫ぶと共に、青いエプロンドレスから同系色のアーマースーツ、赤いマフラーをなびかせた姿に彼女の服装が変わる。いや、スレイヤーカード解放しただけなんですけれどね。
    「tector up "Wizar-naga"」
     悠蛇もまた、解除コードを解き放つ。すると彼もまた、赤いローブに白い装甲というスタイルに。その名を『ウィザーナーガ』と言う。
     身構える灼滅者。
     迎え撃つダークネス。
     学食の平和は、取り戻せるのだろうか……!?

    ●とりあえず何でもぶちこめ!
    「さあ、遠慮なく喰らうがいい!」
     イカメシーゾフが見た目一番、か弱そうな優希那を狙い、イカ墨を吹く。
    「きゃ……!」
    「ぎゃわんっ」
     しかしそれを、小枝子の霊犬・リックが遮りに入る。傷こそないものの、目に入ったイカ墨は今後の行動の妨げになりそうだ。
    「よくやったねリック!」
    「あばばばっ、ごめんなさいですよぅ……! すぐ回復しますね」
     主人の労いと、カバーした相手の優しい声に、リックは苦しいながらも胸を張る。そしてその目はすぐに他の仲間達と共に、優希那の浄化を促す風によって癒されることとなった。
     そして今度は灼滅者達の番。
    「さ~ぽち、今日は美味しそうな相手だよっ♪」
    「わうっ!」
     ぽんっと霊犬・ぽちの背中を叩いて犬のようなオーラを纏い、共に奔る歩の姿はまるで二匹のわんこが走っているように。
    「わっふ~、貫け~なのっ!」
     勢いはそのままに、突き出された槍はイカ飯戦闘員を穿つ。続け様にぽちの刀もまた、そのイカ飯戦闘員を切り裂いた。
    「ぐっ……まだだ、イカ飯の素晴らしさを布教し尽くすまで、俺はイカメシーゾフ様と歩むことをやめない!」
    「よくぞ言った!」
     イカメシーゾフはイカ飯戦闘員の肩を抱き、立ち上がるのを手助けした。
    「……その格好で昔のドラマ再現、やめてくれないかナァ」
     織歌の声はもう呆れた色。
    「マ、いいか。焼きイカ飯も悪くないよネ」
     手にした魔導書で禁呪を解放し、織歌は彼らを爆破する。
    「──いっ、イカメシーゾフ様ー!!」
    「おお、我が配下よ……!」
     文字通り吹き飛んだイカ飯戦闘員。しかし彼の死は、イカメシーゾフ達の闘志に火をつける。
    「おのれよくも……!」
    「許さん!!」
     だがそこへ、うらりが武器化したオーラを集めた拳で、もう一体のイカ飯戦闘員を殴りつける。
    「君が! マグロになるまで! 殴るのを止めない! 閃光マグロ拳!」
    「無茶を! 言うな! 私は! イカだ!」
     殴られながら律儀にいちいち返すのもいかがなものか。
     地味に霊犬・黒潮号が主人の背後から傷を癒したりしていた。
     そしてアリスが『金獅子』の銘を持つ無敵斬艦刀を振り上げた。
    「サンダァァァッ! スマァァッシュッ!!」
     ……と言う名の戦艦斬りをイカ飯戦闘員に放つ。
    「ぐぁぁぁ……」
    「佐久間ー!」
     って誰ですか。
     佐久間と呼ばれたイカ飯戦闘員は、それでもまだよろよろと立っていた。
    「くっ……しぶとい」
    「はいはい、攻撃優先も良いけど、自分の傷にも気を払いましょう」
     狩羅は拳を握って悔しがるアリスに対し、癒しの力に転換したオーラを当てる。更に狩羅の霊犬・倶利伽羅もまた、浄化の視線を放った。彼女らに対し、アリスは拳を握って頷き、礼を返す。
    「いっくよー! リック!!」
     今にも飛び出しそうな小枝子をちょっとずつ抑えながら、一緒に突撃するリック。敵を切り裂く風に乗り、斬魔刀が閃き深手を負わせる。
    「ぐっ……」
    「ターゲットロック……狙い撃つよっ! 玉葱ビームっ!」
     そして悠蛇が両肩の重火器っぽいようなキャノン砲っぽいような部分から、淡路島玉葱の形をしたビームを発射、佐久間に当たると、ド派手に光が飛び散った。
    「うぅぅぅ、イカ飯、バンザーイ!」
     そして佐久間自身も欠片も残さず飛び散った。
    「……おのれ、灼滅者共……!」
    「よくも我らが盟友、イカ飯達を……!!」
    「そうだ、残る我らだけでも、ピロシキ風イカ飯の布教をせねばならぬ! 行け、ピロシキ戦闘員達よ!!」
    「はっ!」
    「とぅ!!」
     怒りに身を染めるピロシキ戦闘員達が、それぞれ具を灼滅者達に噴き出す。すると……そのうち一つを、歩が大きく口を開けてぱっくん! 果たしてその味は……!?
    「……あっつーい!!」
     それこそ己の身長ほども飛び上がる歩。
    「はっはっは、我らは常に揚げたて熱々なのだ!」
    「思い知ったか灼滅者!!」
    「くっ……それはそれで美味しそう……」
     口惜しげな言葉は誰のものだったか。
     じゅるり。
     涎を飲み込む音は一体──?
     食べ物怪人達に、危機が迫っていた。
     
    ●お味はイカが?
    「うわぁぁぁ! ピロシキ、スパシーバ!!」
    「イワーン!!」
     最後の戦闘員となったピロシキ戦闘員。出番も活躍もその敗北すらも、大人の事情でカットされて消え去った。名前に関してはツッコまないでおこう。
    「さあ、残るは貴方だけ! いい加減に負けを認めたらどう? イカさんとは海産物仲間だけど所詮は軟体動物。魚の王者マグロさんの敵ではないのですよ~」
    「くっ……」
     うらりの完全に上から目線の挑発。
    「……ところで、中身ってピロシキの具が追加されてるの? それともまるっとピロシキなのー?」
     興味津々のアリスの言葉。それに対し、イカメシーゾフは目を光らせた。
    「もちろん、もち米とピロシキの具のアンサンブルだ!」
    「うわぁ……」
     味を想像してみても、よくわからない。
    「やっぱり、食べてみるしか……」
    「ピロシキ風イカ飯って……美味しいの?」
    「ねぇ、あなたって美味しいの? 食べて良い?」
    「よ~し、お味見するんだよ~っ♪」
    「アァ、成程……確かに見た目美味そうだし、余裕あれば敵齧るのもアリだよナァ」
    「ちょ、な、何で私を食べる方向で話が進んでいるのだ!?」
     焦るイカメシーゾフ。
    「これは、食べ物系ご当地怪人として目覚めてしまった者の宿命……!」
    「しっかしアンタ美味しそうじゃん。どれ、アタシにも食わせなよ、減るモンじゃないし」
     迫る織歌。戦闘モードに入っているからか、目が据わっていて怖い。
    「減るわ! 某ヒーローだって、顔が欠けたり汚れたりすれば戦闘能力が格段に落ちるだろう!?」
    「成程、そういう仕組みなんだ。じゃ、倶利伽羅、頂こうか」
    「わふ」
    「あ、いや、やめて! やめてください!!」
     迫る狩羅。平然と納得し、食べに来るその視線が怖い。
    「えへへ、いただきまーすっ!」
    「いやーっ!!」
     迫る小枝子。震える子猫の如く縮こまったダークネスに対して、容赦ないその笑顔が怖い。

     がぶり。

    「ん、意外とおいひー!」
     最初に齧りついたのは──歩。しかし。
    「痛ーいっ!!」
    「あ! いいな、いいな、なのですよぅ~。おいしそうなのですよぅ」
     上がるイカメシーゾフの悲鳴、それに構わぬ優希那の羨望の眼差しが、怖い。
    「……痛覚、通ってるんだね」
     悠蛇が外しかけた兜を元に収める。流石に意思疎通のある相手の悲鳴を聞きながら踊り食いするのは……気が咎めた。
    「おおおお前達! ダークネスよりよっぽど極悪じゃないか!?」
    「そんなことないよ、もう食べようとしたりしないから」
     うらりが皆を見回すと、こっくり頷く面々。皆、同じ気持ちのようだ。
    「そんなワケで……吹き飛びナ」
     織歌が魔導書を閉じ、巨大な異形と化した右腕を振るう。その爪が斬り裂いたイカメシーゾフの頭から溢れるのは、赤い赤い……ピロシキの具(トマトソースだったようだ)。
    「ろっ……ロシアンタイガー様、万歳ー!!」
     そして彼は、爆散した。身体の一片も残さずに。
    「ああっ、容器に詰めて持って帰ろうと思ったのに……!」
     残念そうな小枝子の手には、空のパッキン容器が残った。

    ●ごちそうさまでした
    「皆様お疲れ様でした、お怪我の具合はいかがでしょうか?」
     周囲の怪我人を気遣い、優希那は彼らの傷を癒して回る。そして全快した者から荒れた学食の後片付けを。
     実は、主に食目当てだった灼滅者達には朗報が一つ。
     そう、食堂を埋め尽くすまでのピロシキ風イカ飯が残されていたのだ。一つ一つ丹精に、イカメシーゾフ達が中身を詰替えたイカ飯が。
    「ちょうどいいから、こっちを持って帰ろっと!」
     早速容器に詰めまくる小枝子。
    「ロシアンイカ飯怪人イカメシーゾフ、恐ろしい相手だった……」
     スレイヤーカードに戦装束を封印し、エプロンドレスに戻ったアリスが呟く。
    「……でもピロシキの具はピロシキの具のままでよかったんじゃないかなぁ」
     そんな幼い少女の疑問に明確な答えは示さず、ただ肩を叩く面々。その正解は、ピロシキ風イカ飯の中にしかない。
    「わっは~いっ、学食の平和が守れてよかった~っ♪ そういえば普通のイカ焼きが食べたいかも」
     ちょこっとズレた歩の一言に、首を傾げる者、多数。
    「……とりあえず、これ焼いとけば美味しいかも」
     織歌が示したのはイカ飯の山。
    「そうだね、持って帰って焼こうっとっ」
     そうやって灼滅者達は大量のピロシキ風イカ飯を手に、静かにイカ高校……いや、伊香高校を去るのだった。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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