貪る牛鬼

    作者:天木一

     高知県にある山に、1匹の小柄な狼が足を踏み入れる。艶やかな灰色の毛並みに、額の部分だけ白い毛が三日月のように混じっている。
     木々の茂る奥深くへと獣道を登って行く。そこにあるのは大きな岩。その胴の辺りには注連縄が巻かれていた。
    「グルルル……ウオオオォォォン!」
     灰色狼が咆える。その猛々しい雄叫びは山中に木霊する。
     ガタガタガタと震えるように岩が振動し、パキパキと何かが割れるような音がしたかと思うと、真っ二つに割れた。注連縄は切れ岩は左右に倒れる。
     その中から現われたのは巨躯なる牛。2本の角が生えた牛の顔がぬうっと出てくる。だがその体は牛のものではなかった。二足で立ち上がりシルエットは人に近い。だがそれは決して人の体ではない。
     3メートル程ある巨体。硬く、筋肉質な黒い肌。手の先の爪はまるで剣のよう長く鋭く尖っている。異形の姿はまるで鬼のようだった。
     ジャランジャランと足元から音がする。そこには地中から伸びる鎖が左足首に繋がっていた。
    「ブモォォォォォ!」
     一鳴きすると、牛の頭をした化け物は周囲の草や木に噛り付く。咀嚼して飲み込むと周囲の木々は萎れて変色していく。
     だがその程度では満たされず、化け物は餌を求め山を下りていく。その先には人間の住まう町がある。
     シャランシャランと鎖の音が遠ざかっていく。
     それを見送ると、狼は音も無く俊敏に木々の中へと姿を消した。
     
    「やあやあ、みんな集まったかな」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が教室に集まっていた灼滅者に声をかける。
    「この間現われたスサノオがまた現われたんだ。今度は高知県だよ、そこでまた古の畏れが生み出されてしまうんだ」
     スサノオは高知県にある山奥に出現するという。
    「そこで生まれた古の畏れは、近くの町まで下りて一軒のお店を襲い、何人もの人を食べてしまうんだ」
     満腹になると山に帰っていくが、その為に4人の人間が死んでしまう。新鮮な肉が好みのようで、犠牲者を殺さずに食べ続けるのだという。
    「放っておけば被害は増え続けるだろうからね、誰も犠牲が出る前に倒して欲しいんだよ」
     今動けば、古の畏れが人を襲う場所で迎撃する事が出来る。
    「古の畏れは牛の頭と鬼の体を持つ、牛鬼と呼ばれる妖だよ」
     体長は3メートル程、人のように二本の脚で歩く。
    「力が強く、獰猛みたいだね。人を好んで食べるって伝承があるよ」
     だからこそ放ってはおけないと誠一郎は言う。
    「それと、鎖に繋がれているみたいだから、その町以外の人の住む場所には移動できないみたいだね」
     だがもし逃げられれば見通しの悪い山だ、探し出すのは厄介だろう。
    「冬休みが終わってまだそれ程経ってないのに事件ばかりだけど、戦えるのはみんなだけだからね、お願いするよ」
     誠一郎はぺこりと灼滅者に頭を下げた。
    「被害の出る場所はお肉料理の店でね、土佐あかうしのすき焼きが売りらしいんだ。せっかく高知まで行くんだから、食べて帰ってもいいかもね」
     他にも高知の特産品をあげていく誠一郎を置いて、灼滅者は教室を出て急ぎ四国へと向かう。


    参加者
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    黒崎・白(白黒・d11436)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    ミスト・レインハート(闇纏う追憶・d15170)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)
    桜井・輝(魔蝕攻殻・d23490)

    ■リプレイ

    ●人喰い
     高知県に到着した灼滅者達は、物珍しそうに町並みを眺めていると、牛のマークが描かれた看板が目に入る。
     ちょうど客がガラリと入り口を開けて中に入るところだった。開いた隙間から甘辛い出汁の香りが漂ってくる。
     店の前で灼滅者達は行動を開始する。
    「せっかくこんな遠出してきたんだし、早く倒して観光でもしたいなぁ」
    「食事を楽しむ為にも、任務はきっちり成功させないとね」
     足を止めたレイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)が顔を上げると、町の外に大きな山が見えた。そこが古の畏れが眠っていた場所だ。
     隣で周囲を警戒する桜井・輝(魔蝕攻殻・d23490)も、高知まで来たのだから事件が終われば少しはのんびりしたいと思う。
    「(お店の中に居る人には、ごめんなさい。隠れてて、隠れてて)」
     そう念じるように、アインホルン・エーデルシュタイン(一角獣・d05841)は殺気を放ち人を遠ざける。
     ガラリと人の居ない空間が店の前にできあがる。
    「逃げられると厄介だ。逃がさぬよう道を塞ごう」
     山へと繋がるルートを確認しながら、御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は何一つ異常は見逃さないと鋭い視線で周囲を見渡す。
    (「たしか、お父さんがお牛さんでお母さんが人間なのが牛鬼さんなんだっけ……?」)
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は牛鬼についての伝承を思い出しながらも、双眼鏡で怪しいものは居ないか警戒する。
    「見えましたこっちです」
     黒崎・白(白黒・d11436)の視線の先に、深い毛に覆われた巨体が現われる。2足で歩いて来るその頭は角の生えた牛のものだった。
     目の前に立つとその大きさが良く分かる。3メートル近くあるその妖は、見るものを金縛りにするような威圧を全身から放っていた。
    「でっかい牛鬼退治! 流行のゲームみたいだね!」
     それを面白そうに月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は眺める。ゲームに登場するモンスターが、現実になったようだとワクワクしていた。
    「ブモォォォォ!」
     立ち塞がる灼滅者の前で牛鬼が大きく轟く。それは闘志の籠もった戦いの雄叫びだった。邪魔するなら蹴散らすと睨みを利かせて歩き始める。
     牛鬼が店に突っ込もうとする直前、家の屋根から人影が降って来る。それは牛鬼の前に着地した。
    「やあ【古の畏れ】さん? 21世紀に人食いの鬼は少々時代遅れじゃないか?」
     ミスト・レインハート(闇纏う追憶・d15170)は不敵な表情で言い放つと、漆黒の大剣を大上段から振り下ろす。
     牛鬼はそれを左腕で受け止める。刃は肉を裂き骨まで達するがそこで止まった。
    「ブゥモォ!」
     荒い息が大きく開けた口から吐き出される。ミストは飛び退くように身を引いて後ろに下がる。先程まで頭のあった空間を、牛鬼はガチンと激しく音を立てて噛み付いていた。
     ぺろりと腕の傷を舐めて視界に灼滅者全員を捉えると、牛鬼の明確な敵意が向けられた。灼滅者達は油断無く武器を構え、妖退治を始める。

    ●牛鬼
    「ボゥォォォォ」
     牛鬼が突進してくる。その正面に白焔がすっと立ち塞がる。
    「古いモノは力を持つと言うが、まあ良い。鬼退治だ」
     敵が迫ってもだらりと腕は下げたまま。もう一歩で敵の射程に入る。その瞬間、前に倒れ込むように踏み込み、疾風の如く間合いを詰めると雷光が奔る。電撃を纏った拳が牛鬼の顎を打ち抜いた。
    「さっさとやられてくださいよ」
     白は敵を前にすると、猫かぶりが解けて口から素の罵りが飛び出す。杭を太股に打ち込むと、足を捻り穿たれた牛鬼の動きが鈍る。
    「我が前に爆炎を」
     カードを解放し武装した玲が、炎を纏わせた脚鎧で跳ねるように牛鬼の顔を蹴り上げた。
     よろめきながらも牛鬼は腕を振るう。玲に向かって剣のように鋭い爪が襲い掛かる。
     その一撃を、アインホルンはエネルギーの盾を展開して勢いを弱めると、手にした魔槍で受け止めた。
    (「スサノオは、どうしてこの子達を静かに眠らせてあげないのかな……」)
     猛る牛鬼を目の前に見て、アインホルンはスサノオは一体何を考えて行動しているのかと、首を傾げた。
     槍の柄がしなって衝撃を逃がしている間に、青く姿を変異させた輝が腕を砲身と化し、側面から毒素を持った光線を撃ち込む。
    「ブブゥアッ」
     頭に直撃を受けた牛鬼の顔が毒でただれる。
    「悪イがソこハ人肉は出シちゃナイんだ。ツーカ、肉ニはテメェがナッてろ牛公ッ!」
     普段とは違う乱暴な口調で吐き捨てる。その一撃に怒ったように牛鬼は輝に向かって突進を始めた。
    「ボォォォォッ!」
    「獣を狩るなら、まずは罠で動きを止めないとねぇ」
     いつの間にかレイッツァの足元から影が伸び、牛鬼の前に設置されていた。牛鬼がそれを踏むと、影は触手のように足を伝い体を絡め取る。
     牛鬼は影を引き千切りながら突進を続ける。だがスピードは弱まり間が出来た。
    「牛鬼さん、ここから先には行かせないよ!」
     駆け寄った透流は、拳を固めて勢いを乗せたボディブローを牛鬼の腹に喰い込ませる。
     牛鬼は狙いを変え、透流の胸に角を突き立てようとする。透流は腕でそれを受けて吹き飛ばされ、止めてあった自動車にぶつかり地面に落ちる。後を追いそのまま踏み潰そうと近づく牛鬼。
    「これ以上街をめちゃくちゃにされても困る。速攻でかたをつけさせてもらうぞ……!」
     そこへミストが炎を纏った大剣を手に踏み込む。牛鬼が薙ぎ払う爪を掻い潜り、横一閃。牛鬼の分厚い腹が裂けて血が溢れ出る。同時に傷口が焼かれ焦げた臭いが漂う。
     そのままミストがすれ違おうとした時、右肩に熱い痛みを覚える。見れば牛鬼の顔が眼前にあった。歯が肩に突き立てられ、赤い液体が流れ出ている。そのまま肉を食い千切ろうとした時、死角から白焔が接近していた。
    「シッ!」
     鋭い呼気と共に放たれた右拳が牛鬼の顎を捉える。思わず口の力が緩んだところで、ミストは身を投げるように飛び退く。
    「ブォブォッ」
     牛鬼は美味そうにその血を舐め。爛々と目を輝かせる。
    「食人だなんて趣味が悪すぎじゃないですか」
     霊犬の黒子が敵を牽制している間に、悪態を吐きながらも、白は縛霊手から霊力を放ちミストの傷を塞ぐ。
     煩わしそうに黒子を蹴り上げる牛鬼に、玲が大きく跳躍すると稲妻を帯びた飛び蹴りをぶち込んだ。胸に蹴りを受けて仰向けに倒れる牛鬼。
    「グボォッ」
    「なんだか今の必殺技っぽいよね!」
     着地しながら軽口を叩く玲。その時、足をがっしりと大きな手に掴まれた。胸が足形に陥没していても、その巨体に似合ったタフさで平然と立ち上がる。そして腕を振り上げ、思い切り地面に叩き付けた。
    「っ……!」
     衝撃に玲の意識が一瞬飛ぶ。続く浮遊感で目を開くと、また宙へ持ち上げられていた。もう一度叩きつけられると身構える。だがその動きが止まった。
     見れば牛鬼の腕が大きな穴を開けている。輝が放った杭の一撃が肉を抉り骨を砕いたのだ。
    「鬼サンコォォォチラアッ!! ゲラゲラ、ボクの相手モしてクれよなア!!」
    「ブォォォォッ!」
     その挑発に牛鬼は玲を放り捨て、輝に向かって駆け出す。
    (「日本人ってどうして霜降りとか脂身の多い部分が好きなのかな?」)
     ヒレも美味しいと思うのにと、そんな場違いな事を考えながら、アインホルンが漆黒の弾丸を撃ち込む。それは牛鬼の胸にめり込むと、皮膚を黒く染めて侵食していく。
     痛みに僅かに意識が逸れた、その隙にレイッツァが足に向け魔力の弾丸を放つ。弾は右足に小さな穴を穿つ。大した痛みではないと、牛鬼はそのまま駆けようとする。だがまるで麻痺したように足の感覚が無くなり前に転倒してしまう。
     ちょうどその前に待ち構えていた透流が弓を引く。放たれた矢は風を切りながら牛鬼の右目に突き刺さった。
    「どうしてこのお店を狙うのかは知らないけど、諦めてもらう」
    「ブゥォォォォォッ!」
     涙のように血を流しながら、牛鬼は憤怒の表情で起き上がる。全身に力が漲り筋肉が膨張すると、傷が塞がり出血が止まる。
    「本気というわけか、だが、どうしようとお前はここで死ぬ運命だ」
     ミストは堂々と正面から大剣を構えた。

    ●暴れ牛
     牛鬼は両腕を振りかざし、左右から逃げ場の無いように爪を振るう。
     ミストは片方の刃を大剣で受ける。反対方向から襲い来る爪。それを透流が拳を打ち込んで弾く。
    「させない!」
    「俺たちゃ1人じゃないんだぜ?」
     大剣が爪を弾き、その勢いのまま振り上げて斬り下ろす。刃は牛鬼の左肩から深く喰い込み、血が噴き出す。
    「ボォォッォォッ」
     その時、牛鬼の口から紫の煙が噴き出した。それはミストと透流を包み込む。すると突然2人の胸が鋭く痛み、喉が焼け付くように熱くなった。
     牛鬼は苦しむ2人に向けもう一度爪を振り下ろそうとする。だがその背後から音も無く近づいた白焔が背骨に向け、魔力の通った細帯の巻きついた腕で拳を打った。衝撃で牛鬼は仰け反り腕の攻撃は止まった。
    「毒だっ」
     白焔が鋭く発した警告に、ミストと透流は急ぎ牛鬼から離れる。
    「汚い息ですね、なんで生きてるんですか」
     白は嫌そうに牛鬼の吐く息を見ながら、黒子と共に霊力と霊眼でその毒を消し去る。
    (「毒があってもお肉は食べられるのかな? でも筋は多そう……あ、夕ご飯用のお肉買って帰らなきゃ」)
     真剣そうな表情でそんな事を考えながらも、アインホルンの体は思考が切り放されたように戦い続ける。
     槍を頭上で回転させながら毒の煙を吹き飛ばし、首を狙う。牛鬼はそれを左腕で受け止め、右の爪で串刺しにしようとする。だが槍をくるりと回し石突で右腕を突くと、反動で距離を取りながら槍を振るい氷柱を放った。
    「ブボォォォォ」
     氷柱を受けて左腕を凍らせながらも、牛鬼は腕を振り回し攻撃の手を止めない。
    「ほらほら暴れるなって」
    「ゲゲゲ、ジワジワ動けなくしてやるヨ!」
     まるで闘牛のようにレイッツァは攻撃を躱しては影の刃を突き刺し、輝も遠距離から光線を浴びせ、意識がレイッツァに向くと、接近して急所に斬撃を浴びせては引くという行動を繰り返していた。
     執拗な攻撃に少しずつ牛鬼は動きを鈍らせていく。だがそれでも牛鬼の前進は止まらず、レイッツァが壁に追い込まれ毒煙を吹きかけようとした時、電柱を蹴って玲が飛び込む。
    「さっきのお返し……だよ!」
     牛鬼の頭上から腕に装着した巨大な杭打ち機は発動させる。打ち出された杭はすさまじい回転をしながら牛鬼の頭部を串刺しにしようと迫る。
    「ブォァッ」
     咄嗟に身を引く。頭を砕くはずだった杭は右胸を貫き、背中に飛び出て地面に体を縫いつけた。
    「ボォォアアアア!」
     悲鳴のように牛鬼が叫ぶと、口から毒の煙が漏れ出る。玲は巻き込まれないよう杭を手放し、牛鬼の肩を蹴って飛び退く。
     牛鬼は杭を引き抜き、煙を撒き散らして視界を遮りながら動き出す。
    「牛鬼さんが逃げようとしてる……!」
     敵の動きに注視していた透流が最初に気付いた。牛鬼が山の方へと顔を向けたのを。
    「例え食べるのが人間だったとしても、飲食店で無銭飲食はいけないと思う。無銭飲食をしようと思ったそのツケを、いまここで支払ってもらう……!」
     逃がさないと透流が立ち塞がり、影を纏った拳を打つ。牛鬼もそこをどけと角を突き立てようと突進してくる。
     拳は角を折った。しかし突進の勢いは止めきれずに透流の体は宙を舞う。だがその間に逃がさぬよう仲間の包囲が完成していた。
     毒煙で視界が狭まっているところをぬうっとアインホルンに牛鬼が近づく。口を開け、大きな歯を見せた。
    「こういうタイミングで襲ってくるのもゲームじゃお約束だよね!」
     それを読んでいた玲が横から飛び出し、顎を押すように蹴り上げて口を閉じさせる。衝撃で白い物が転がる、歯が数本折れていた。
    (「お腹すいたな……お肉食べたい」)
     アインホルンが槍を突く。穂先が腹に喰い込み、肋骨を切断する。
    「ボォアアアアア!」
     牛鬼は腕を振るい2人を弾き飛ばす。腕をがむしゃらに振るい続けて近づかせないように前に進む。だがそんな攻撃の中へ白焔が踏み込む。迫る爪の嵐を屈み、受け流し、僅かに体を逸らして近づく。体には浅い傷が出来ていくが、致命傷だけを避けて懐に飛び込んだ。
     右拳が鳩尾に吸い込まれ、牛鬼は思わず屈む、そこへ稲妻を帯びた左の拳が眉間を打ち抜くと、鼻が折れ顔面が陥没する。
    「ォアアアア」
    「目障りなんで、そろそろ死んでくださいね」
     白が杭を地面に打ち込むと、ひび割れるようにして地面が砕け、牛鬼の足が脛まで埋まり動きを封じた。
    「そろそろ闘牛ショウもクライマックスだねっ」
     レイッツァが魔弾を撃ち込み、それを受けようとした凍っていた左腕が砕けた。
    「モウ動けないのカ? ナラ牛ハ牛らしくミンチにデモナッちまいなアッ!」
     輝の攻撃が牛鬼の傷ついた部位を正確に狙い、いたぶるように傷口を広げていく。
    「ここはお前のいるべき場所ではない、消えろ……!」
     ミストが横に大剣を薙ぐ。牛鬼は残った右腕でそれを防ごうとする。だが腕は切断され、刃は胸に喰い込んだ。もう一息で心臓を捉える、そこで牛鬼は毒煙を大量に噴き出した。
    「ブォォォ」
     剣を手放させ圧力が弱まったところで逃げようとすると、透流が影で足を縛る。そこへ白が拳を打ち込むと牛鬼は倒れた。その衝撃で剣は深く心臓を貫く。牛鬼は痙攣を始める。そこへ白焔が短刀を突き立て、止めを刺した。
    「全く、最初から大人しくしてればいいんですよ」
     牛鬼が消滅すると、興味を失ったように白は踵を返して帰っていった。

    ●すき焼き
     戦いは終わり、お腹を空かせた者はお店に入ってすき焼きを注文する。
     じゅっと鉄鍋で牛肉が焼ける。そこに砂糖と醤油の出汁が加わり、ぷんと甘辛い香りが漂った。
    「ふむ、これはなかなか……」
    「お腹を減らした後のご飯は美味しいね!」
     白焔は肉を頬張ると言葉少なに食べるのに集中し始める。
     沢山遊んで満足そうな表情で、玲も熱々のすき焼きをつつく。
    (「脂身が溶けちゃう、赤みの部分も美味しい。今度家でもすき焼き作ってみよう」)
     料理の仕方をしっかり覚えながら、アインホルンは黙々と食べ続ける。
    「牛鬼との戦いの後だから牛肉はどうかと思ってたけど、うん、食べ始めると止まらないね」
     最初はそんなに乗り気ではなくとも、鍋を大勢で食べていればミストの食も自然と進んでいた。
    「昔は任務の後でみんなで食事なんて余裕中々なかったなあ。うん、こういうのもいいかも……ってわわ、僕の肉も残してよ!?」
     輝がしみじみと食べていると、いつの間にか肉があっという間に減っていた。
    「おかわり……!」
    「じゃあ僕も!」
     ガツガツと牛肉を食べ終えた透流が新しく注文すると、対抗心を燃やしてレイッツァも手を上げた。
     ぐつぐつと煮える鍋を囲み、灼滅者達は笑顔で舌鼓を打った。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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