侵略のダンプリング

    作者:小茄

    「これが本場の水餃子か……うん? 上に掛かってるのは何だろう……酸っぱい……サワークリームか。餃子にサワークリーム……その発想は無かったな」
     背広姿の男が一人、昼下がりの中華料理店で食事を取っていた。彼が頼んだのは、その店の看板メニューとされている水餃子。
    「さて、肝心の餃子だ。……ふむ、中身は……牛肉か。胡椒やブイヨンの風味と相俟って、まるで西洋の料理みたいだ」
     インナースピーチを繰返しつつ、餃子を食す男。
    「……いや、やっぱりおかしいぞ。これはどこかで食べたことがある味だ。……ロシアで食べた――そうだ、ペリメニとそっくりじゃないか!」
     ようやく自分が食べている物の正体に気づき、店主の方を振り返る男。
    「あの、すいません。この餃子――」
    「気づいたか、いかにも。この中華街の全ての餃子はペリメニへと変わったアル!」
     そこに居たのは、ずんぐりむっくりと言う表現が似合う、中国人風の服装をした男。ただし頭にはロシアのウシャンカを被っている。
    「潤沢な資金でご当地パワーを増大させ、ゆくゆくは神奈川……日本……そして世界を征服してくれるアル! さぁ遠慮せず喰らうアル!」
     そう言うと、男は大量のペリメニを男性客の口へねじ込んだのだった。
     
    「神奈川県は中華街の一角で、恐るべき陰謀が進行していますわ」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)が言うには、中華料理の代表的存在である餃子が、ロシアン化によってペリメニに変えられつつあると言う。
     本来その場所に居た餃子怪人が、ペリメニ怪人となった事が原因の様だ。
    「このまま放置すれば、被害は拡大する一方ですわ。一刻も早く、怪人を灼滅して中華街に餃子を取り戻して下さいまし。……まぁ、ペリメニと言うのも食べてみたいですけれどね」
     そう言う絵梨佳のまなざしは、真剣そのものである。
     
    「ペリメニ怪人は、中華街の裏路裏にある店に出現しますわ。その店を訪れれば良いだけなので、接触は難しくないはずですわ」
     余り人の居ない所で接触出来るのも、こちらにとっては好都合だろう。
    「怪人は、元々は餃子怪人だっただけあって、中華鍋や青竜刀を武器に戦いますわ。小柄だけれど力は有るようですわね」
     また、元々は保存食として食されるペリメニを凍らせた物を飛び道具として飛ばしても来ると言う。
     これに加え、ロシアン化によって下僕にされてしまった一般人4人程が、護衛として付き従っていると言う。注意が必要だ。
     
    「それでは、お早い帰りをお待ちしておりますわ。……お土産……は、別に要りませんけれどね」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    上河・水華(水能覆舟・d01954)
    月雲・螢(線香花火の女王・d06312)
    テレシー・フォリナー(第三の傍観者・d10905)
    桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    六条・深々見(狂楽遊戯・d21623)
    ファニー・ロス(三代目ストライプガール・d23843)

    ■リプレイ


     灼滅者一行は、その街で作られる全ての餃子をロシアン化しようと目論む、ロシアン化餃子怪人を討伐すべく、神奈川県横浜市へと赴いた。
     壮麗な門をくぐって中華街に入り、裏道を行く事暫く。歴史を感じさせる古い佇まいの中華料理屋へと辿り着いた。
     周囲を見回してから、「本日貸切」と書かれた張り紙をぺたりと貼って入店する霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)。
    「おっちゃん餃子一つくれやー」
    「ヘーイシェフ! 大至急お願いするヨー!」
     テレシー・フォリナー(第三の傍観者・d10905)とファニー・ロス(三代目ストライプガール・d23843)は、席に着くが早いか、早速大声で厨房へオーダー。
    「水餃子、後、他にも揚げ餃子とか焼き餃子も注文するの」
     間髪を入れず、小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)もこれに追従。追加注文を繰り出す。
    「アイヨー!」
     すると、店の奥からは、若干特徴的なイントネーションで返事が返ってくる。
    「ペリメニねぇ……あまり外食しないのもあるけど存在自体知らなかったわね」
     月雲・螢(線香花火の女王・d06312)は今一度、スマホで今回のテーマとも言えるペリメニについて検索する。
    「正直ペリメニは食べてみたいけどさ、やっぱ横浜行ったら中華食べたいよねえ……」
     桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)も画面を覗き込んで、レシピを読みつつ呟く。
     このままロシアン化が進めば、中華料理を食べに来る人々は彼女同様がっかりする事になるだろう。何としてもここで阻止せねばならない。
    「水餃子、揚げ餃子、焼き餃子お待ちネー!」
    「「おおっ!!」」
     と、驚くような早さで運ばれてきたのは湯気立つ各種餃子。……っぽいようなぽくないような、料理。
    「あ、できたら怪人さんには食べ終わるまで待っててほしいな。冷めちゃう前に食べたいものね!」
     六条・深々見(狂楽遊戯・d21623)はそう言うと、早速ペリメニを小皿に取って齧り付く。
    「ふむ……これはこれで参考になるモノだな……」
    「うんめー。これうんめー!」
     上河・水華(水能覆舟・d01954)もいそいそとペリメニに箸を付ける。テレシーは早くも1つめを完食して2個目を口の中へ。
     これから戦う敵が用意した物を食べると言うのもシュールな話だが……。
    「うん……酸っぱい……酸っぱいけど旨い。良いぞ……サワークリーム良いぞ」
     一方竜姫は独り、つかの間無の境地に達してペリメニを味わう。
     戦いを目前に控えた、奇妙な食事会はその後も暫し続いたのであった。


     数十分後、回転テーブルの上に乗った皿は、全てが綺麗に片付いていた。
     ちなみに余談であるが、中華料理屋の代名詞でもあるこの回転テーブル。発案者は日本人であり、1932年東京都目黒区で考案されたとされている。
     日本在住の華僑がこのテーブルと中華料理の親和性に目を付け、それから広く中華料理店に広まっていったのである。
     マナーとしては、まず主賓に料理を取って貰い、それから時計回りに全員が取って行くのが正しい作法である。ただしこれは、日本のみのマナーで中国では通用しないので注意が必要である。
    「おっちゃんこの店で立てて何年になるんだい?」
    「んー? 30年ネ」
     と、食事を終えて一息つきつつ、厨房に声を掛けるテレシー。奥からは相変わらず、特徴的なイントネーションの返事が帰ってくる。
    「長く変わらないこの味、大切に守っていくんだぜ……って味かわっとるやないかーい!!!」
    「……ほう、気づいたカ?」
    「これはペリメニじゃないかー! 一体どういうことだー!」
    「いかにも……この中華街は既にロシアン化させてもらったネ! その一貫として、全ての餃子はペリメニに変えたヨ! このまま日本中……いずれは世界中のダンプリングをペリメニに変えてやるネ!」
     ノリツッコミも冴えるテレシーの言葉に、不敵な笑みを浮かべつつ表れたのは、中華風衣装にロシア風帽子を被った髭の男。
     ちなみに今更ではあるが、ダンプリングとは、小麦粉を練って茹でたり焼いたりした団子状の物の総称であり、餃子やペリメニ、イタリアのニョッキ、日本のすいとんや蕎麦がきなども、英語ではダンプリングに分類される。
    「どうでも良いけど何故中国人風の服装にロシアのウシャンカなのよ……。本人が一番中途半端で征服できてないわ……」
     やれやれとため息をつく螢。
    「うるさいヨ! 中国四千年の歴史、ロシアン化してもそう簡単には無くならないネ!」
     と、もっともらしい反論の怪人。
    「その地にはその地の文化がある、その文化に対抗するのは自由だが、その文化を汚すのは許されざる事だ……」
    「何でロシア化に協力するの? ……横浜中華街餃子、全国に広めなくてもいいの?」
    「ははっ、青いネ小僧共! 水は高い所から低い所に……人は金のある所に流れるネ。これ自然の摂理ヨ。有り余るマネーで世界を征服してやる事が肝心ネ!」
     水華と美海の言葉に対し、せせら笑う様にしつつ怪人はのたまう。
    「こういう話しても解らない怪人相手には、ヒーローの出番ネー! ケドあれ? これ代金踏み倒しっぽいネー?」
     びしっと怪人を指さすファニーだが、確かに食べるだけ食べて暴れ出す辺り、あまりヒーローっぽさは無い。
    「それじゃ、代金代わりに攻撃をどうぞー♪」
    「フン! ワタシのペリメニを食べてまだロシアン化の素晴らしさが解らないなんて……たっぷり教育してやるヨ! 出会え出会え!」
     にっこり笑って言う深々見に対し、怪人も声を張り上げる。
    「「ウラー! ペリメニ! ペリメニ!」」
     すると、厨房やトイレからどやどやと姿を現す強化一般人達。すっかりロシアン化に毒されてしまっている様子だ。
    「ざーんねん。ペリメニ美味しかったのにね」
     一口水を飲んでから立ち上がるかごめ。やはり戦いによる解決しか道は無さそうだ。


    「皆、思いっきり行ってくれ!」
     前衛に立ち、ウロボロスシールドを展開する水華。
    「ご当地の誇りすら失った怪人許すまじ、です。レインボービーム!」
     竜姫は両手をクロスさせ、ライドキャリバーが機銃を掃射するのに合わせて、ご当地お台場を象徴する七色の光線を放つ。
     ――キィン! キィン!
    「ハハハ! そんな物効かないネ!」
     巨大な中華鍋を盾のように扱い、銃弾とビームを逸らす怪人。
    「まぁ別に恨みはないんだけどねぇ、この世は保守的だから餃子をペリメニに変えるとか国民が黙っちゃいませんぜ」
     この間、死角を突くように回り込んだテレシーは回転する杭を怪人目掛けて打ち込む。
    「ぬうっ! ワタシのペリメニ食べさせておけば、愚民どもはすぐに虜ネ!」
     ずんぐりした身体を、意外にも素早く反応させて攻撃をかろうじてかわす怪人。やはり料理の腕にはかなりの自信があるらしい。
    「まだ足りないなら、お代わりを喰らうネ!」
     ――シュバババ!
     ゆったりとした中華服の袂から放たれるのは、無数の冷凍ペリメニ。ロシアでは、ペリメニを作って冷凍しておく事で、保存食としても活用する。
    「うわー……凍ったペリメニってこんな痛いんだー。それじゃお返しー♪」
     かちかちになったペリメニの直撃を受け、やや表情を歪める深々見だが、何より相手の技を体感出来た事を喜んでいる様でもある。すぐさま邂逅のモーニングをしならせると、怪人の足目掛けて斬撃を繰り出す。
    「それじゃあ、こっちも戦闘開始なの。デッドブラスター、しゅーと、なの」
     怪人に対し攻撃が始まったのに合わせ、こちらは強化一般人目掛けて漆黒の弾丸を放つ美海。
     まずは一般人から片付けると言うのが戦いの方針だ。
    「忌わしき血よ、枯れ果てなさい……ッ」
     スレイヤーカードを切り、愛用の串刺し公を構える螢。
     ――シュッ!
     天井の低さ故、存分に振り回すことは出来ないが、それも自分の身体の一部のように、自在に槍を操ると、強化一般人目掛けて螺穿突きを繰り出す。
    「ぐあっ!?」
    「ビンゴ!」
     槍の一撃を受けてよろめく一般人に、かごめの放ったマジックミサイルが直撃する。
    「くっ、ペリメニキック!」
    「おっと、スピーディにいくヨー!」
     ――バッ!
     ファニーも目の前にいた一般人の蹴りをひらりとかわすと、逆に相手の身体を掴み跳躍。
     フィラデルフィアにある自由の鐘を打ち鳴らすが如く、高らかに舞い上がって力強く地面へと叩きつける。自由の鐘は、かのアメリカ独立宣言朗読の時をフィラデルフィア市民に報せた、由緒ある鐘である。
     テーブル等もあってやや手狭ではあるものの、戦闘前に空腹を満たした灼滅者達は確実に敵戦力を削いで行く。

    「くっ、強い……だがまだ……」
     いずれも満身創痍となった一般人だが、未だ戦意を失っておらず、ビール瓶などを手に灼滅者に迫る。
    「纏めていくぞ!」
     ――バッ!
     うなりを上げる水華のウロボロスブレイド。
     疾風の如く間合いを詰めると、一般人らをなぎ倒して行く。
    「これで終わりね、急所は外しておいてあげるわ」
     非物質化したクルセイドソードを手に、尚も起き上がろうとする一般人を切り伏せる螢。
     これで、残るは怪人のみ。
    「ねぇ? しびれる? パラライズってる?」
     一方、怪人もまた灼滅者の波状攻撃によってダメージを蓄積させられていた。今もまた、テレシーの放った制約の弾丸が直撃する。
    「お、おのれー! まだヨ! まだ終わらないヨ! ペリメニアタック!」
     ――シャッ!
     さすがにダークネスの意地か、最後の反撃とばかりに無数の冷凍ペリメニを放つ怪人。しかし竜姫は避けるどころか逆に肉薄。スライディングで怪人の股下を抜ける。
    「今です、レインボーダイナミック!」
    「なっ?! ば、バカな!」
     そのまま怪人の背後を取ると、低い天井を物ともせずに高く跳躍する。
    「冷凍ペリメニ怪人になってみる?」
    「あなたの敗因はたった1つ。力を得る為に、信念を曲げた事なの……必殺・もふビーム、なの」
     かごめと美海は、これに呼応して妖冷弾とご当地ビームを続けざまに見舞う。
     ――ドシャッ!
     激しい一斉攻撃を受け、地面に叩きつけられた怪人。だが、彼は尚もゆっくりと立ち上がろうとしている。
    「ま、まだアルヨ……」
    「自分のご当地を見失ったような怪人相手は、これでトドメヨー!」
    「うん、ご馳走様でしたー♪」
     ――バッ!
    「ぐはぁぁぁーっ!! これまでカ……」
     ファニーの閃光百裂拳と深々見のフォースブレイクが同時に直撃すると、さしもの怪人も力尽きて突っ伏した。
    「どうせならキミの本当の餃子が食べてみたかったヨー」
     歪んでしまったご当地愛を哀れみながら、呟くファニー。
    「……」
     怪人は、その言葉を聞いて微かに笑みを浮かべた……様な気がしたが、やがて小麦粉のような白い粉と化して遂には跡形もなくなった。


    「これで、無事中華街を奪還できたはずですね」
     貸切の張り紙を剥がし、代わりに準備中の札を掛ける竜姫。
    「うんうん、やっぱりここはチャイナタウンでないとネー」
     ファニーは中華街がロシアン化から救われた事を再確認するように、ガイアチャージしつつ大きく伸びをする。
    「なんと言っていいのか……摩り替えって言うのは少しスケールの小さい怪人だったわね。長期的に見れば効果的なのでしょうけど」
     餃子をペリメニに変える……恐ろしい様な恐ろしくない様な、今ひとつ判断しかねる怪人の野望に対し、最後まで釈然としない様子の螢。
    「元凶は絶ったのだし、変えられた餃子も近々戻る……だろうな。せっかく、ここまで来たんだ……少しくらい買って帰ろう」
     表通りに出れば、目移りするような多種多様な土産が売られているはず。水華は学園に帰る前に寄り道を提案する。
    「あ、そう言えば絵梨佳ちゃんにお土産……あるかな? 攻撃に使われた冷凍ペリメニは流石にまずいよねえ……って、美海ちゃんそれ……」
     と、思い出したように言うかごめだが、美海の手にする容器に目を留める。
    「お土産に幾つか貰ったの。この美味しさ、ひっそり広めるの」
     美海は怪人の形見とも言える冷凍ペリメニを持ち替えるつもりらしい。
    「ペリメニも良かったけど、せっかくだし中華でも食べていくー?」
     と、テレシー。戦闘前にペリメニを食べた灼滅者達だが、戦いで腹もこなれた頃合い。
    「賛成ー、わたしも値段とか味とか見てみたいしー」
     深々見や一同もどうやら賛成らしい。

     かくして、灼滅者は中華街をロシアンご当地怪人の手より救う事に成功した。
     しかし、ご当地怪人とロシアンタイガーの野望が尽きるまで、戦いはまだまだ続いて行くのだ。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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