川辺をさまようもの

    作者:海乃もずく

     町はずれに、古びた橋のかかった川があった。
     今、白いオオカミが橋を渡っている。目のふちには朱色の隈取り、尾の先端は墨染め色のオオカミだった。
     橋を幾度か往復したオオカミは、橋の中央で足を止める。しばらく辺りを嗅ぎ回っていたが、間もなく去って行った。
     ――オオカミがいた空間がぼんやりと歪み、中肉中背の若侍が現れる。
    『書状……書状はどこに……』
     俯き加減に呟きながら、若侍は橋から端へと歩き回る。
     その足には鎖が巻きつき、長く伸びて橋の中心へと沈みこんでいた。
     
     その日、灼滅者達の前に現れたのは、黒いナース服の女性だった。
    「どうぞこちらへ。私のことは、気軽に『鈴森君』とお呼びください」
     この度は私達を受け入れていただき、ありがとうござましたと挨拶をする彼女は、鈴森・ひなた。殲術病院の一連の出来事は、まだ記憶に新しい。
     最近は、病院関係の生徒もずいぶん増えた。ひなたの姿も校内で見かけることはあったが、こうして依頼の場で見るのは初めてだった。
    「主任さ……エクスブレインから詳細を聞いていますので、今回は私が説明します。――『古の畏れ』を呼び出しているスサノオの動きについて、です」
     今回現れたスサノオは、目にくま取りがあり、尾の先が灰色の個体だという。
     ひなたは『郷土の昔ばなし』という本を広げ、そのページの一節を示す。
    「昔々、ある若侍が、主君の大事な書状を運んでいました。けれど橋の真ん中で、書状を川に落としてしまい……書状が見つからないことに絶望した若侍は、川へ身を投げたそうです」
     その若侍は怨霊となって、今でもなくした書状を探している――そんな言い伝えがある川に、若侍の姿をした『古の畏れ』が出現したという。
     もちろん、どこを探してもそんな『書状』はない。
    「若侍は、橋の中央近くにいます。近づく者は刀で薙ぎ払って足を止め、遠くの者には睨みをきかせて生気を奪うとか」
     橋を通る人は少ないが、人避け対策は必要だろう。時間帯に制限はない。また、橋の上で戦うことになるが戦闘に支障はないという。
    「そして橋には、若侍に想いに捕らわれて、書状を探す一般人が十人ほどいます。声をかければ正気に戻りますが、一旦正気に戻してからでなければESPの効果は受けにくいようです」
     彼らの避難誘導は難しくないが手間はかかるため、手助けがあるとありがたいだろう、とひなたは言う。
    「この『古の畏れ』を目覚めさせたスサノオの行方ですが、未だ手がかりを探し中です。事件をひとつづつ解決していくことで、何かがわかればいいのですが」
     今も各地で『古の畏れ』の事件は起きている。見えていないだけで、手がかりはすぐ手の届くところにあるのかもしれない。
    「まずは、この『古の畏れ』の灼滅を。私は、一般人の避難をお手伝いします。これからは、皆さんと一緒に頑張りますので、よろしくお願いします」


    参加者
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    綾野・亮平(サイキノコブシ・d07006)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)
    ギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    システィナ・バーンシュタイン(太陽と月のクロス・d19975)
    村正・九音(ひなたのシノビ・d23505)
    ターニャ・アラタ(破滅の黄金・d24320)

    ■リプレイ

    ●スサノオと『古の畏れ』
     町はずれの川べりを、灼滅者達は歩く。この先の古びた橋に、スサノオが目覚めさせた『古の畏れ』がいるいう。
     ジャージ姿に、ぼさぼさ髪のどこにでもいる高校生。綾野・亮平(サイキノコブシ・d07006)が1人でいたなら、完全に川辺の土手の景色に溶け込んでいただろう。
    「久しぶりの戦いスけど、『古の畏れ』とかってやつぁ……何か今後面倒になりそうスね。早い所片付けられると良いんスけどね」
    「でっかいのは倒されたけど、ちっさいのがまだまだ居るのは厄介だよね」
     ギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)は真剣な表情でしっかり前を見つめている。頑張ろう、と改めて自身に気合いを入れながら、言葉を続ける。
    「日本は古き伝承を多く持つ国だから、呼び起こされる『畏れ』もそれだけ多いんだろうね」
    「うむ。スサノオとは、旧き言い伝えの存在を呼び出す者だと言うからのう」
     ギュスターヴに頷いたのは、雛本・裕介(早熟の雛・d12706)。その前にいた片倉・純也(ソウク・d16862)が淡々と答える。
    「しかし『古の畏れ』とは、都市伝説はほぼ同じと考えて良いのかどうか……。常のことだが、スサノオについては情報が足りないな」
     情報が足りないのは、病院の技術も同様だが。
     ごく小さな声で言う純也は、ちらりと後方を見やる。そこには、緊張気味に言葉を交わす女性が3人。3人とも初の依頼で人造灼滅者――病院出身者だった。
    「現時刻を以て状況を開始する。鈴森君、準備は出来ているか?」
    「はい。よろしくお願いします、ターニャさん」
     ターニャ・アラタ(破滅の黄金・d24320)のきびきびとした言葉に、ひなたも目を合わせてしっかり頷く。
    「鈴森は初任務か。ふむ、緊張してるだろうが心配はいらないぞ」
     ぽん、とひなたの背中を叩くのは村正・九音(ひなたのシノビ・d23505)。
    「いつも通りに落ち着いていけば勝てるさ。まあ、私も初めての任務だがな!」
     トレードマークの髪飾りを揺らし、快活に話す九音に、ひなたもつられて笑顔になった。
    「はい。武蔵坂学園の生徒となってからの初仕事です。必ずやり遂げましょう」
     それぞれ、愛用の武器やスレイヤーカードを手に、うち解けて話す九音たち。そんな彼女達をちらちらと見ながら、システィナ・バーンシュタイン(太陽と月のクロス・d19975)は無意識に髪をいじっている。
    (「初依頼の人、結構いるんだな……。迷惑かけないように、ボクもガンバろ」)
    「システィナちゃん? 緊張してる?」
    「は、はははい、い、いいえっ!?」
     田所・一平(赤鬼・d00748)に声をかけられて、おかしなどもり方をしてしまうシスティナ。
    「どっちよ、それ」
    「ど、どきどきはしてるけど、問題はないよ……」
    「そう?」
     だったらよかった、と苦笑気味の一平が橋の一角を指す。
     ――橋の上をうろうろと歩き回る一般人の姿が、ずいぶんはっきりと見えるようになっていた。

    ●避難誘導と『古の畏れ』
    「オラァッ!!」
     橋のたもとで、一平が一喝する。
     システィナからメガホンを受け取って、もう一回。――しかし、橋を行き来する一般人は反応しない。
    「直接、行くしかないっスね」
     まだ『古の畏れ』の姿はない。亮平は軽い足取りで手近な男性に近づき、肩を軽く叩く。
    「オイッス。探し物スか?」
    「……そうだ……書状を探して……」
     ぼんやりと返答するスーツの男性の目は、焦点を失って揺れている。
    「その書状はきっと無いスから、橋からどいて欲しいス」
     はっきりと断言された彼は、夢から覚めたかのようにまばたきをした。
    「――忘れ物があるの?」
     ギュスターヴが声をかけたのは、欄干から身を乗り出す幼い女の子。その子の視線に金の瞳を合わせ、ギュスターヴは微笑んでみせる。
    「ちがうの? なくしたの?」
     自信なさげな表情を浮かべた少女の上から、抑揚のない声が投げかけられる。
    「形状や色は」
    「……え、と……しろくて……長くて……」
    「確実に此処で失くしたのか」
     純也の言葉は決して詰問ではないが、混乱気味の少女はおどおどと目を伏せた。
    「純也さん、困ってるよ、この子」
    「……」
     よっ、とギュスターヴが幼女を抱き上げる。ギュスターヴのカソックにぎゅっとしがみつく少女はしっかり正気を取り戻しており……結果的に、純也の問いかけが功を奏したといえるだろう、か。
     ……不意に、びちゃん、と濡れた音。
    「来たか」
     純也は反射的に、ガンナイフを構える。
     ――袴姿の人影。服装は、戦国時代か江戸時代だろうか。
    『書状……お預かりした書状……』
     足に巻きつく鎖が、耳障りな金属音を響かせる。
    「やはり、避難を全て終わらせてからとはいかぬのう」
     人避けの殺気を放ちながら、裕介が鋭い視線をその人影に向けた。全身を濡らし、蒼白い肌をした幽鬼のような侍だった。
     と、若侍は身を屈め、一気に距離を縮める。
    「儂らが相手を致そうぞ!」
     若侍が抜刀する、と見るや、即座に裕介はクルセイドソードで迎え撃つ。ギィン、という刃のぶつかる音が、橋に響く。
    「以後、一般人の避難は任せるぞ!」
    「はぁい☆ それじゃあ皆、こっちにきてくださいっすー!」
     裕介のかけた声に呼応し、ごくごく軽い――その実、ラブフェロモンで影響力を増した声が、橋の反対側から響く。
     若侍が現れた以上、一般人との避難と、敵の灼滅とを、平行して行わなければいけない。もう、この場の人数が増えても問題はない。サポートメンバーは、速やかに避難誘導を交替する。
    「こっちは気にすんな。そっちに集中してくれ」
     すれ違いざま、裕介の耳を打つのは友の声。
     豪放に笑ってそれに応え、祐介はクルセイドソードを大きく振りおろす。
    「『古の畏れ』の謎は募るばかりじゃが、先ずは眼前の事を片付けねばなるまい!」
     聖剣の一撃を受けた若侍が、吹き飛ばされて欄干に激突した。
    (「……裕介って、本当に10歳なのかな……」)
     そんな祐介を意識の隅で気にしながら、システィナは結界糸を伸ばす。若侍の上半身に巻きつき、攻撃を抑制する。
    『……書状……はどこ……だ』
     しかし若侍は鋼糸に縛られたまま身をよじり、力任せに刀を振り上げる。
     若侍の剣は、物理攻撃とは微妙に違う。刀を取り巻く燐光こそが、本来のダメージソースなのだろう。
     その証左に、剣のリーチ外でも、前列全員に等しく衝撃が届く。
    「なくしものが見つからないって言われてもね、とばっちりは困るんですけどもっ」
     何人分かの攻撃を代わりに受けながら、一平は自ら傷を癒やし、まとわりつく足止めの燐光を吹き飛ばす。
    「全く、お前のそれは合理的とは言えない判断だ」
     ターニャから伸びる影は、若侍の体を正確に捉え、切り刻む。
    「重要な書簡ならばこそ、速やかに報告し指示を仰ぐべきだった」
    「物をなくすってのは、時として大変なことなんだなー」
     巨大な杭を振りかぶりつつ、九音が言う。と、次の瞬間、ガラリと口調を変えて怒鳴った。
    「てめぇら、邪魔だこの野郎! とっとうせろ!!」
     正気に戻ったもののまごまごしていた一般人は、その声に弾かれたように走っていく。
     それが王者の風の効果ゆえか、はたまた九音の迫力に気圧されたのか。……はたから見る限りではどちらともいえなかった。

    ●避難誘導班
     『古の畏れ』の登場直後、多くの一般人は正気を取り戻していた。しかしまだ、状況が把握できていない者もいる。
     ひなた達サポートメンバーは、速やかに橋へと散らばり、救出を開始する。戦う彼らが、敵の灼滅に専念できるように。
    「しっかりして下さい。大丈夫ですか?」
     穏やかな笑みを浮かべた青年が、柔らかい物腰で老婦人に声をかける。正気に戻った老婦人の手を、柔和な雰囲気の少女がそっとにぎる。
    「ここは危ないです。一緒に、向こうに行きましょう」
     ね、とハニーミルク色の髪を揺らして微笑めば、老婦人は安心したように緊張を解く。
    「皆様、此岸はこちらです」
     淡々と、けれどはっきりと、橋のたもとから呼ばう声。
     ラフな服装をした柔和な青年が手招きし、精悍な体にシルバーアクセを光らせた青年が周囲を確認し、そして男性と見まごう長身の女性が避難ルートを確保する。
     割りこみヴォイスとラブフェロモンが効果的に使われて、一般人達は素直に誘導されていく。
    「皆さん、ありがとうございます。お陰様で、避難誘導もうまくいきそうです」
     橋の袂で、ひなたはサポートメンバーに頭を下げる。
    「お役に立ててよかったです。あとは『古の畏れ』の灼滅ですね」
     そう言ってにっこり笑うポニーテールの少女。その隣、全体を見回しながら声かけをしていた青年が、不自然に視線を泳がせる。
    「……べ、別にひな、鈴森君と共に仕事がしたいからここへ来たわけではない!」
    「はい……?」
    「だ、断じて! 本当だ!」
     首を傾げるひなたの肩を叩くのは、色白の青年。
    「スズモリ、ニャ~ホ~。手伝いに来たヨー」
    「あ……」
    「直接話すのは初めましてダヨネ。ヨロシクネ~」
     手をひらひらと振りながら、最後の一人を迎えに行ったクラスメイトに、ひなたは感謝を込めて手を振り返した。

    ●終わらぬ悔恨を引きずって
    『……我が過失……死してもあがなえぬ罪……』
     うつむき気味に呟く『古の畏れ』は、青い燐光に身を包み、刀を構えてゆらりと立っている。
     眼窩の奥には悔悟と妄執が熾火のように燃えている。睨まれただけで、地の底へとと引きずりこまれる錯覚を覚え、力が抜ける、そんな瞳。
    「……絶望して川に身を投じるなんてのは、許しがたい悪行だ」
     視線による攻撃に膝をぐらつかせながらも、ギュスターヴは欄干につかまって自身を支え、右手を天へとかざす。光が一点に集束する。
    「故にオレは言わねばならぬ。悔い改めよ、と!」
     戦いに臨み荒々しく変化した口調そのままに、苛烈な裁きの光条が若侍を貫いた。
     姿勢を崩す若侍に肉迫する亮平、挟撃の位置へと一平も回り込む。交錯する2人の視線。
     次の瞬間、2人は一気に攻勢へと転じる。
    「拳と刀、相性悪そうスけど……楽しそうじゃねぇスか?」
     亮平の拳はオーラをまとわせ、威力を増して、手数で相手を圧倒する。
    「幽霊でも、これだけ殴れば躱せねぇだろ!」
    「あらやだ、リョーヘーちゃんってば意外と激しいわ!」
     一平の拳は、帯電したアッパーカット。飛び上がりながらの一撃は、若侍の体を大きく天へと跳ね上げた。
     今がチャンスと、九音は巨大な杭を構える。しかし、若侍は物理法則を無視した動きでふわりと回避、少し離れたところに着地した。
    『……死してお詫びを……書状を見つけて……』
     かなりのダメージを追っている若侍だが、灼滅までには今一歩が足りない。
    「意外としぶといな……!」
     そう九音が漏らした時、避難誘導を終えたひなたが戻ってきた。
    「橋の上の人たちは、皆避難しました」
    「鈴森君、御苦労。こちらはもう一息だ。行くぞ!」
     ひなたに声をかけたターニャは、身を低くして若侍の死角に滑りこみ、解体ナイフをひらめかせる。
    「獣は脚を、鳥は翼を、魚ならば鰭を失えば狩られる側となる。極めて単純な結論だ」
     ターニャの黒死斬で腱を損傷した若侍は、片足を引きずるような動きで、しかし真っ直ぐに剣を構える。
    「……行き、ます!」
     ターニャに目で合図され、ひなたがバベルブレイカーを発射する。杭は大きく外れたが、その一瞬の隙を狙うのは、もう1本のバベルブレイカー。
    「元病院としても、こいつは放ってはおけないからなな!」
     九音のドグマスパイクが、今度は確実に、若侍の動きを縫い止める。
     最後の力を振りしぼり、燐光を散らし刀を薙ぎ払う若侍。衝撃に身構える裕介の前に、身の守りを高めたシスティナが躍り込む。
    「バーンシュタイン、かたじけない」
    「い、いいえっ」
     システィナに一声かけて地を蹴る裕介。
    (「よかった、ボク、ちゃんとできてる」)
     内心、ほっと胸をなでおろすシスティナの視界に――ふと、嫌というほど見慣れた姿が映る。
     川向こうで待機中のサポートメンバー、その中に。にこやかな笑顔で、呑気に手なんか振ったりして。
    「写真を撮ってる人がいるけど、誰の関係者かしらね?」
     面白がっている口調で、一平がが指摘する。……無言でシスティナは目をそらした。
    「そろそろ決着と参ろうぞ!」
     裕介は命中精度のより高い神薙刃で若侍を狙う。度々生命力を吸われたが、相手の回復を上回るダメージを与えている、その手応えは確かにある。
    「援護する」
     殲術道具を自らの腕に呑み込ませた純也が、異形の刃で若侍の肩口を大きく切り裂く。若侍の手から、刀が滑り落ちる。
    『私は……書状……を……』
    「書状など無い」
     いっそ冷酷とも言える口調で、純也は言う。
    「……仮に伝承が真実だったとしても、書状を失くした侍など、とうに居ない」
     ゆえに、存在しない者の感情に、他者を取り込むなど……決してあってはならないことだと。言外にそう、意味を込めて。
     純也は腕時計をちらりと見る。戦いを始めてから、随分と長い時間が経過していた。
    「この戦いも一つの経過。必ず、儂らはスサノオへと辿り着こうぞ!」
     裕介の閃光百裂拳が、この世にしがみつく、若侍の未練を粉砕する。
    『……』
     最期は何も言わず、何も返さず。
     煙が空に溶けていくように、『古の畏れ』の姿は消えていった。

    ●これからに向けて、新しい場所で
     灼滅の終了を確認して、ふぅ、とシスティナが髪を払う。
    「はい! 皆お疲れ様でした!」
     ぽん、と手を叩いたギュスターヴが、いつもの口調に戻ってひなたに笑いかけた。
    「ひなたさんも、避難誘導お疲れ様!」
    「はい、皆さんもお疲れ様です。ありがとうございました」
    「学園の仲間としての一歩、どうであったかのう?」
     はい、とても勉強になりました。そう裕介の問いにと答えようとして、……ふと、ひなたの表情が曇る。
    「む。儂は何か失礼なことを聞いてしまったか」
    「あ、いいえ。すいません、そうではなくて……」
     ……ただ、新しい場所と、新しい仲間とが、あまりにも居心地がいいから。
     ……昔の場所と、昔の仲間のことを思い出して、心が少し痛んだだけ。
     どう答えるべきか、言葉を探すひなたに、九音が穏やかに声をかける。
    「ここはいいところだな、鈴森。宿敵の姿をした私達でも、ここは受け入れてくれるんだ」
     ターニャも静かに頷き、九音は言葉を続ける。
    「鈴森も、友達を増やしてみてもいいかもな。まあ、私も友達はひとりもいないがな!」
     失ったものの痛みは、決してなくならないけれど。
     この痛みを大事に抱えたまま、自分たちはダークネスとの戦いを重ねていく。
     ……サポートメンバーも合流し、誰かが持ってきた飲み物が行き渡り、いつしか場はちょっとした打ち上げ会のようになっている。
     場が盛り上がる中、何げない動作で、亮平が携帯電話を取り出す。
    「ところで……鈴森嬢ってケータイ持ってるスか? あと村正嬢と、ターニャ嬢も」
    「携帯ですか?」
    「そそ、お近づきのしるしに……」
    「あ、メルアド交換するの? じゃあ僕もやるー!」
    「……そういうものなら此方も」
     ギュスターヴと純也までが携帯を手に合流し、結果的に輪からはじかれた亮平が、がっくりと膝から崩れ落ちる場面もあったり。
     一平がジュースのコップを掲げ、音頭を取る。
    「生きて帰れたことと、そして新しい仲間を歓迎して! 乾杯!」
     乾杯、といくつもの声が唱和して。お互いに自然と、笑みがこぼれた。

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
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