――スサノオ、来たりて邪龍を起こす

    作者:宮橋輝


     それは、狼に似た獣だった。
     体毛は白く、首の周りだけが僅かに灰色がかっている。半ばから断ち切れたのか、尾はかなり短い。

     夜を駆ける獣は、やがて湖へと辿り着く。瞬く星たちが、微かな光を地上に投げかけていた。
     静謐な闇を湛えた水面に鼻面を寄せ、匂いを嗅ぐような仕草を二、三度繰り返す。
     獣が短い尾を一振りした時――目覚めた『もの』があった。

     深い湖の底で、大きな影が蠢く。
     禍々しい気配を漂わせた、黒き龍。口元に蓄えられた髯は、蛇の如くうねっていた。
     軽く身震いした後、龍はゆっくりと水面を目指し始める。
     尾の先に結ばれた鎖が、重たげに揺れた。
     

    「スサノオがあちこちで『古の畏れ』を生み出してた事件は、皆も知ってるよね?」
     教室に全員が揃った後、伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)は最初にそう言った。
     おそらくは、またどこかで古の畏れが見つかったのだろう。
     しかし、身構えた灼滅者の耳に届いたのは、予想を上回る一言だった。
    「実は――ようやく、スサノオの尻尾を掴んだんだ」
     それを聞き、教室にどよめきが起こる。自分達の記憶が確かなら、古の畏れを生み出すスサノオ本体が予知されたケースは一度も無かった筈だ。
     灼滅者の疑問に答えるかのように、功紀は説明を続ける。
    「そう。今までは、スサノオについては予知がきかなかった。ブレイズゲートが、僕らエクスブレインには『巨大な白い炎の柱』としか見えないのと同じでね」
     状況が変わったのは、これまでに事件を解決してきた灼滅者の功績によるところが大きい。
     生み出された古の畏れを一つ一つ倒していくうち、スサノオとの因縁を持つメンバーが次第に増えてきた。その結果、不完全ではあるが、スサノオ本体に介入することが可能となったらしい。
    「……で、ここからが大事なんだけど。今回、スサノオと戦う方法は二つあるんだ」
     一つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出そうとしたタイミングで強襲を仕掛けること。
    「古の畏れが出てくるまでには六分の猶予があるから、それまでにスサノオを倒しちゃえば古の畏れは出てこない。万事解決だね」
     ただし、時間内に撃破出来なかった場合は出現した古の畏れがスサノオに加勢してしまう。
     そうなればスサノオは古の畏れに戦いを任せて撤退しようと動くため、ハードルは上がるだろう。
    「もう一つは、スサノオが古の畏れを呼び出した後、現場を離れたスサノオに攻撃すること」
     この場合、二体が合流する心配はないため、時間を気にせず戦えるのが最大のメリットだ。
     反面、スサノオを倒した後に現場に戻って古の畏れと戦わなければならないので、連戦に耐えうる持久力が求められる。
    「短期決戦か、一体ずつ連続で戦うか。どっちも一長一短だから、皆にとってやりやすい方を選ぶといいと思う」
     次に、功紀は敵の説明に移った。
    「まずスサノオだけど、これは今までに出てきた古の畏れの能力を使ってくる。今回のやつだと、尻尾や牙で攻撃してきたり、水を操ったりって感じかな」
     言いつつ、黒板に攻撃手段の詳細を記していく。
    「そして、古の畏れ。短期決戦を選んだ場合は戦わずに済む可能性もあるけれど、こっちも伝えておくね」
     今回、スサノオが目覚めさせようとしている古の畏れは『毒龍』と呼ばれる黒い龍だ。
    「現場は湖なんだけど、そこに住む悪い龍が若い女の人を生贄として求めた――って言い伝えがあってね。それが古の畏れになったみたい」
     攻撃の威力そのものはスサノオに劣るが、状態異常に特化したその能力は決して侮れない。
     連戦が予想されるとなれば尚のこと、しっかり作戦を立てていく必要がある。
     判明している情報を一通り伝えた後、功紀は手についたチョークの粉を払いつつ振り返った。
    「このスサノオを倒せるチャンスは、今をおいて他にないと思う。どっちの方法を選ぶとしても、決して楽な戦いじゃあないけど……どうか、ここで決着をつけてきて」
     皆なら、大丈夫だって信じてるから。
     最後にそう告げて、エクスブレインは小さく頭を下げた。


    参加者
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    普・通(正義を探求する凡人・d02987)
    神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)
    栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)
    禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)
    青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)
    白石・めぐみ(祈雨・d20817)

    ■リプレイ


     湖の方から、狼に似た白い獣が駆けて来る。
     行く手に待ち受けていた禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)がライトの光を向けると、それは短い尾を振って灼滅者を顧みた。
    「やっと尻尾つかんだと思ったら……困ったわんこだな。俺の伏炎の方がよっぽど利口だぜ」
     主の言葉に、彼の相棒たる霊犬『伏炎』が頷くような仕草を見せる。
     眼前に居るのは、先の戦争――新宿防衛戦の後から現れ始めた『小さな』スサノオの一体。
     各地で『古の畏れ』を生み出し続けていたそれは、湖で一仕事終えてきたところで灼滅者の待ち伏せを受けた。
     これまでは、エクスブレインの予知にも引っかからなかった存在。果たして、一連の活動にどのような意味が隠されているのか。
    (「……今回、戦うことでそれが見えてきたりするのかな」)
     思考する普・通(正義を探求する凡人・d02987)の傍らで、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)がスサノオを見詰める。初めて相対する敵を前に緊張を滲ませつつも、その表情はどこか楽しげだ。
     首の周りだけが僅かに灰色がかっている毛並みを眺め、まだ見ぬ他のスサノオにもこういった特徴があるのかと思う。それぞれの個性を考えると、可愛いと言えなくもないかもしれない。
     そっと進み出た後、スサノオに語りかける。
    「こんにちはスサノオさん。私は武蔵坂学園の結島静菜です」
     名を問う彼女に、答える声は無かった。仮に、スサノオが高位のダークネスであるとしたら、人語を解する可能性もあると考えたのだが……。
     スサノオが身構えるのを認めて、灼滅者は戦闘態勢を整える。
     ギリシャ彫刻を思わせる端正な面に淡い微笑を湛えて、ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)がスレイヤーカードを取り出した。
    「Twins flower of azure in full glory at night」
     封印を解く彼に続き、青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)が右手を高く掲げる。
    「緑装!」
     一瞬にしてメタリック・グリーンのコンバットスーツに身を包んだ彼は、ポーズを決めて堂々と名乗りを上げた。
    「北多摩衛士、ムラヤマイジャー!」
     直後、低く唸ったスサノオが濁流を呼ぶ。前衛を押し流さんとする凄まじい圧力に耐えながら、鋼矢が口の端を持ち上げた。
    「ま、漸く捕まえたんだ、逃がすわけにはいかねぇな」
     クルセイドソードを抜き放ち、スサノオに迫る。
    「おら、遊んでもらうぞ!」
     豪快な斬撃が白い獣を捉えた刹那、神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)の足元から伸びた影が武器の形を取った。
     高速で回転する一撃が、スサノオの胴を掠める。間髪をいれず、白石・めぐみ(祈雨・d20817)が己の利き腕を砲台に変えた。ただ一人、闇に紛れていた彼女が放つ死の光線が宙を奔り、獣を貫く。ネックライトを点灯する少女の隣で、栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)が動いた。
    (「スサノオさんと、古の畏れ……今まで倒してきた古の畏れと、どんな関係があるの、かな」)
     素早く間合いを詰め、片腕を異形化させる。
     鬼神の拳が、スサノオを強かに打った。


     前に躍り出た静菜と通が、スサノオの両側からWOKシールドを叩き込む。
     クラスメイト同士、息の合った攻撃を立て続けに喰らった獣の瞳が怒りに染まった時、康徳が茶筅を模った巨大な杭打ち機を繰り出した。
    「茶筅インパクト!」
     穂先を敵に押し付け、ドリルの如き杭で肉体をねじ切る。猛り狂うスサノオが咆哮した瞬間、ディフェンダーの頭上に猛毒の雨が降り注いだ。
     それは、弥々子が以前に相対した古の畏れ『天降女子』が用いていた技。スサノオが今までに生み出してきた古の畏れと同じ能力を持つのも、両者の間に何らかの関係があるからだろうか。
    「よく見ておく、の」
     視線を逸らさずに接近し、鞭のようにしならせた蛇剣でスサノオの脚を薙ぐ。白いヘッドフォンから流れるアップテンポな曲のリズムに身を任せつつ、ラピスティリアは銀の歯車と紫水晶で構成された美しき杖を振るった。
     体内に打ち込まれた魔力が、スサノオを揺らがせる。伏し目がちな紫の双眸に悶える獣の姿を映して、彼はその足跡に思いを馳せた。
     川、海岸、岬、そして湖。存在が察知されて以来、尾の短いスサノオはいずれも水に関係する場所に現れている。これが個体の特性によるものか、種の特性によるものかは現状では絞りきれない。
    (「少しでも情報が手に入れば良いのですが――」)
     影業から無数の触手を伸ばした静菜が、スサノオの四肢を絡め取る。状態異常で行動を制限しながら、彼女は目の前の敵に問いかけた。
    「なぜ、あなたは素戔嗚尊と同じ名前で呼ばれているのですか。他のご兄弟が居る事も知っているのですか」
     デモノイド寄生体を集めた利き腕の拳から緑色の『カテキンビーム』を放ち、康徳が「古の畏れを生む目的は?」と疑問を重ねた。
    「……誰かの命令で行っているの?」
     コンバットスーツのバイザー越しに尋ねるも、返答は無い。
    「古の畏れの力で強くなって、何になろうとしているのですか」
     短い尾を煩げに振り、スサノオが静菜に牙を剥く。そこに、通が己の身を割り込ませた。
    「させません!」
     攻撃を代わりに受け止めた彼を、伏炎が浄霊の瞳で癒す。回復の時間を稼ぐべく、鋼矢が動いた。
    「犬なら聞いてもらいたいもんだな。『待て』!」
     言うが早いが、影の腕で強引に獣を押さえ込む。体勢を立て直した通が、不屈のオーラで自らの肉体を覆った。
    「大神って何ですか?」
    「何かを……誰かを探しているのか? 神話において、須佐之男命は母を捜していたが……まさかな?」
     矢継ぎ早に質問を浴びせられても、スサノオの様子に変化は見られない。どちらかと言えば、無視しているというよりは、意思の疎通そのものが出来ていないような印象を受けた。
     問いただすのを止めて、煉は影業の形を別の武具に変える。元より、素直に答えが返ってくるとは考えていない。
    「訊いて分からないなら、打ち合って其処から読み取るしかないよな?」
     事も無げに言って、煉は黒き注射針をスサノオに突き入れる。注入された薬液はたちまち猛毒と化し、獣の体内を激しく駆け巡った。
     最後尾でメディックを担当するめぐみが、束ねた護符から一枚を抜き出す。
     守りの符を投じて仲間の傷を塞いだ後、彼女は空色の瞳で狼に似た白き獣を見詰めた。
     幾つかの事件を経て、やっと出会えた敵。スサノオ本体に介入するのが可能となったのは、因縁を持つメンバーが増えたからだとエクスブレインは言っていた。無論、めぐみもその一人である。
     半ばから断ち切れたような短い尾は、ともすれば手の中からすり抜けてしまいそうだけれど。
    「伊縫さんが掴まえてくれたしっぽ――必ず手掛かりを掴んで、みんな一緒に帰りましょう、ね」
     控えめな声音に決意を込めて、少女は静かに言葉を紡ぐ。
     灼滅者は互いに連携し、着実に攻撃を重ねていった。

    「派手に喰らってやんぜ!」
     聖戦士の加護で防御力を高めた鋼矢が、大きく広げた影でスサノオを丸呑みにする。弥々子がマテリアルロッドをくるり回して獣の脇腹を打ち据えると、ラピスティリアがすかさず鬼の拳を見舞った。ベルトに下げたライトに照らされ、異形の巨腕が紫水晶の輝きを放つ。 
     戦いを愉しむかのように笑むラピスティリアの後方で、康徳が武器に手を滑らせた。狭山茶の緑色を宿して発光する『茶筅パイル』を携え、敵に肉迫する。
     中央部から突出した杭がスサノオを深々と抉った直後、追い詰められた獣は猛然と反撃に出た。
     激流で前衛たちの姿勢を崩し、第二撃(ダブル)で短い尾を振り回す。ディフェンダーに打ち付けられたそれは、ふさりとした外見にそぐわぬ威力を秘めていた。麻痺に蝕まれ、四肢を縛られた体のどこにそんな力が残っていたのかと、思わず灼滅者が感心してしまう程に。
    「短いしっぽが、かわいらしい……なんて、思ってないですよ」
     体力を大幅に削られた仲間に、めぐみが癒しの符を届ける。ほぼ時を同じくして、煉が眼光鋭くスサノオを見据えた。
    「何はともあれ、御前は此処で討たせて貰う」
     様々な武具の形を取る無相の闇は、『影使い』たる彼女の修練の賜物。
     首の後ろで束ねた髪を靡かせて敵の懐に飛び込み、果敢に仕掛ける。
    「御前が起こした毒龍も控えているんだ……出し惜しみは無しで全力で行かせて貰うぞ!」
     打ち出された黒き杭が唸りを上げた刹那、煉の渾身を込めた一撃が『尖烈に』スサノオを捉えた。

     ――響き渡る、断末魔の絶叫。

     胸を貫かれた獣は、天を睨んだままその身を四散させた。


     スサノオの灼滅を見届け、弥々子はひとまず武器を収める。
     彼女はその最期を注意深く観察していたのだが、亡骸を残さず消滅していく様は、他のダークネスと比較しても特に変わったところは無いように思えた。
    「スサノオさんは……たくさんいる、みたいだけど。仲間と繋がったりはしてない、のかな」
     どこか小動物を思わせる仕草で、ことりと首を傾げる弥々子。
     少し思案した後、めぐみはいったん気持ちを切り替えて仲間のもとに歩み寄った。
     知りたいことは山ほどあるが、考えるのは全てが終わってから。スサノオを倒したとはいえ、それが生み出した古の畏れはまだ健在である。まずは、次の戦闘に備えなければならなかった。
    (「今は、味方の傷を癒やすことだけを考えよう」)
     情報とは、言葉によって得られるものばかりではないと彼女は思う。
     直接スサノオと矛を交えた、この戦いそのものが――きっと、大事な手掛かりになる筈。
     状態異常で敵の手数を削ったのが奏功したか、スサノオ戦では戦闘不能者を出すことは免れた。だが、それでもディフェンダーを中心にダメージは蓄積している。休息と心霊手術を挟んだ後、灼滅者は湖へと向かった。

     暫く走っただろうか。視界が開けた時、暗い水面を背に蠢く黒いシルエットが見えた。
     灼滅者が明かりを向けると、禍々しい瘴気を纏った古の畏れ――『毒龍』の姿が浮かび上がる。尾に結ばれた鎖は、湖の中に沈んでいた。

     ――ゴオオオオオオ……ッ!

     敵の姿を認めて、黒き龍が竜巻を起こす。毒を帯びた風が吹き荒れていく中、鋼矢は臆することなく剣を振るった。破邪の白光を刀身に煌かせ、力強い斬撃を浴びせる。
    「頑丈さが取り柄なんでな、もっと頑丈になるぜ?」
     ゼラニウムの花を飾った焦げ茶の髪を揺らして、静菜が彼の後に続いた。
     スサノオ、毒龍。戦う相手は違えど、己の動きが変わる訳ではない。
    「自分に出来る事を――するだけですよ」
     敵の寸前でWOKシールドを起動し、エネルギー障壁を龍の顔面に叩き付ける。生じた隙を逃さず、煉が回転する杭で鱗を抉った。
     疲れをまるで感じさせない皆の動きを見て、弥々子は心強さをおぼえる。
     強敵との連戦。緊張感で高鳴る胸は、一向に鎮まる気配がないけれど。
    (「……仲間がいれば怖くないって、思える、の」)
     だから、大丈夫。接敵と同時に腕を振り上げ、鬼の膂力で龍を打つ。反対側に回り込んだ通が、少女のような面(かんばせ)で毒龍の巨体を見上げた。
     戦うことは得意じゃない。対峙する敵に命があり、意思を通わせることが出来るのなら尚更。
     その点では、今日は彼にとってまだ救いがあると言えるかもしれなかった。
    「生き物じゃないなら、相手をするのは気が楽かな」
     独りごちて、少年は光の盾を武器に攻撃を仕掛ける。逆鱗に触れられたかの如く怒り狂う毒龍に向かって、康徳が地を蹴った。
    「とおっ!」
     武器の穂先を勢い良く突き出し、茶筅インパクトを見舞う。
     めぐみが戦場に招いた浄化の風が、前衛たちを優しく包んで彼らの毒を消し去った。


     戦況は、未だ予断を許さない。
     軽く息を吸って気を落ち着かせた後、弥々子は前に向き直った。
    「頑張る、の」
     蛇剣を横薙ぎに振るい、毒龍の脚を傷つける。
     夜空が孕む全ての色を集めて染め上げたような外套をふわり風に靡かせ、ラピスティリアが壮麗なる杖『Ex Machina Amethyst.』を閃かせた。
     魔力の爆発に晒された龍が、苦しげに身をよじって口を開く。そこから吐き出された炎を受け止め、通が叫んだ。
    「まだ……まだ戦えます!」
     すかさず彼のフォローに回った鋼矢が、影業で毒龍を縛る。
    「伏炎! そっちは任せたぞ!!」
     彼が声を張り上げると、頼もしき相棒は即座に浄霊の視線を送って仲間を癒した。
     毒をもって毒を制すと言わんばかりに、煉が黒き注射器の針を龍に突き立てる。神木を削り出して作られた槍を構えた静菜が、霊力を冷気に変えて氷柱を撃ち出した。
     傷つきふためく毒龍の雷が鋼矢を打ち、彼の巨躯を揺らがせる。
     やるじゃねぇか――と笑うその背に、通が声をかけた。
    「回復します! あと少しですよ!」
     治癒のオーラで傷を塞ぐ彼とタイミングを合わせ、めぐみが守りの符を放つ。
     誰も欠けることなくこの戦いを終える。そのために皆を支えるのが、自分の役目だ。
     大きな茶柱にも見紛う剣を抜いた康徳が、掌で刀身をなぞる。
    「茶柱ブレード!」
     緑色の光に包まれた剣を構え、彼は敵を目掛けて駆けた。
    「ムラヤマイジャー、茶柱トラッシュ!」
     康徳が鮮やかに突きを繰り出した瞬間、非物質化した刃が毒龍を切り裂く。
     ラピスティリアのヘッドホンから絶えず流れ続けていた音楽のボリュームが、俄かに上がった。
     傍らに音があると、安心する。彫像の如き白面に微笑みを張り付かせて、人と鬼の狭間に在る少年は夜を翔けた。
    「さぁ、踊りましょう?」
     紫水晶の光沢を帯びた異形の腕が、悪しき龍を真っ向から打ち砕く。
     直後――ラピスティリアの瞳に映ったのは、ゆっくりと闇に溶け消えてゆく敵の姿だった。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月4日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 23/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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