伝説の彫師は何処に?

    作者:陵かなめ

     夜も更け、辺りに静寂が訪れた。古びたアーケード街の一角、今は使われていない倉庫がある。
     その倉庫の入り口に4人の男がやってきた。
     男達は手慣れた様子で鍵を開け、懐中電灯で中の様子を照らし出す。
    「あ? 今回は何か少なくねぇか?」
    「ま、そんな時もあるさ。それより、さっさとトラックに運んじまおうぜ。俺達は倉庫から一般人をトラックで運ぶだけで良い」
     軽口を叩きながら、4人はぞろぞろと倉庫に踏み込んだ。
    「下手なことに首を突っ込んだら、死ぬってか」
     1人がそう言うと、他の男達はけらけらと笑う。
     倉庫の中には、意識を失い無造作に転がされている数名の男女の姿があった。
    「んじゃあ、さっさと仕事するか。積み残しがないか、確認してくれよー」
     男達は手分けして、転がされている男女をトラックに運び始めた。
     
    ●依頼
     くまのぬいぐるみを抱え、千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が教室に現れた。
    「刺青羅刹事件を調べていた灼滅者達から、気になる情報が入ったんだよ」
     刺青によって闇落ちした羅刹と戦った、あの事件のことか。集まった仲間達は、顔を見合わせた。
     太郎の説明によると、HKT六六六が強力な刺青羅刹の一人と契約し、刺青の力で一般人を強化一般人とし、自分達の戦闘員にしようとしているようなのだ。
     既に何十人もの人間が、博多からトラックで伝説の彫師の元へと運び出されているらしい。
    「僕ね、調査をしてくれた仲間からこの情報をもらって、次の便のトラックが出る場所と時間を予知で知ったんだ」
     そうなれば、今回の依頼は、つまり。
    「みんなには、集められた一般人にまぎれて、トラックで彼らの本拠地に潜入をお願いするね」
     指定された倉庫で眠ったふりをしていれば、後は男達がトラックへ運び込んでくれるらしい。
     続けて、太郎が作戦の目的を話し出す。
    「今回の作戦の目的はね、究極的には『運び込まれた場所から無事に脱出する』ことだけ」
     敵拠点から脱出する事で、その場所の情報を得ることが出来る。したがって、その情報を元に、戦力を整えて踏み込むことが可能となるのだ。
    「えっと、拠点の内部情報とか、敵の戦力とか、特に強力なダークネスの情報とかあれば、その後の作戦が円滑に進むと思うんだ」
     さらに、と。太郎が皆を見る。
    「他にも、捉えられた一般人を一緒に助けたりとか、助ける目処だけでも立てたりとかしたら、なお良いかもしれないよね」
     そして、最後に話を締めくくるように、太郎はこう言った。
    「危険な仕事だけど、成功したら見返りも大きいよ。だから、みんな、頑張って!」
     
    ●鹿児島県某所
    「う……ぁ、ああっ、あ、……あ、ぁ」
     苦痛を訴える痛々しい声が、純和風の屋敷の奥から絶え間なく聞こえる。
     その場には、縛られ自由を奪われ、寝かされている人間が1人。
     そして、その人間に刺青を施している男が1人。
    「……も、もぅ……ゆる、ゆるし……て」
     背中の広い範囲に渡る刺青だ。長時間肌を痛めつけられ、寝かされている男がついに意識を飛ばし始めた。
     だが、彫師は手を休めない。
     額にじっとりとにじむ汗をタオルでぬぐい、ただ静かに刺青を彫り上げていく。
     全ての作業が終わったのは、その後暫くしてからのことである。
     気を失った男の傍らで彫師が酒をあおっていると、先ほどとは違う唸るような声があがった。
    「ウァアアアアアアッ」
     されるがまま刺青を彫られ、弱々しい悲鳴を上げていたはずの男が、自分を縛り付けていた縄を力任せに引きちぎったのだ。
    「くくっ。成功したようだな。気分はどうだ? それが、お前が欲した力だ。存分に使え」
     低い声で彫師が笑うと、すっと障子が開いた。
     現れたのは、眼光の鋭い3人の男だった。彼らは仲間の誕生を確認し、刺青が入ったばかりの男を連れて行った。
    「今回は20人いたか。うち、ものになったのは3人だけ。はっ、最近の若いモンはなってないねぇ」
     1人座敷に残った彫師が笑う。
    「まぁ、明日の夜には次が到着する。次は、もっと活きの良いのが来ればいいんだがねぇ」
     くっくっく。
     くたびれた和服を着崩した彫師は、自らの短い髪を一つ撫で、静かな笑い声を漏らした。


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    桜之・京(花雅・d02355)
    片月・糸瀬(神話崩落・d03500)
    九条・泰河(陰陽の求道者・d03676)
    戒道・蔵乃祐(錆のアデプト・d06549)
    華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)
    トランド・オルフェム(闇の従者・d07762)
    犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)

    ■リプレイ

    ●囚われの場所で
     すっかり夜も更けてしまった。高い位置の小さな窓から、頼りない月の光が注いでいる。
    「まさかこんな場所にぶち込まれるとはな」
     片月・糸瀬(神話崩落・d03500)がげんなりとして呟いた。
    「水と食事が来ただけでもマシってとこですか」
     戒道・蔵乃祐(錆のアデプト・d06549)が頷く。
     数時間前に放り込まれた人数分の菓子パンと飲み水が目に写った。
    「まあ、縛られてるわけじゃないし、死にはしないってレベルだよね」
     華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)が両手をぷらぷらと揺らして見せる。
    「とても寒いですが、お手洗いまで完備されている場所ですからね。ええ、汲み取り式のようですが」
     トランド・オルフェム(闇の従者・d07762)が残念そうに肩をすくめた。視線の先に、汲み取り式の簡易トイレがある。
     手洗いを口実に抜け出すことが出来たらと考えていたが、考えが甘かったようだ。
     トラックから担ぎ下ろされ、ぞんざいな扱いでこの土蔵のような場所に押し込まれた。その後は、丁寧な説明があるわけでもなく、重い扉が閉じられただけ。とても手洗いを貸してくれと頼める状況ではなかった。
    「一般人は眠らせたし、あとは二人を待つだけだよね」
     用意されたマットに座り、犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)が窓を見上げる。辺りには、一緒に連れてこられた一般人が眠っていた。毛布が用意されていたので、冷えてどうにかなるということは無いだろう。
    「もうすぐ帰ってくるんじゃない? そろそろ約束の時間だし」
     隣に座っていた九条・泰河(陰陽の求道者・d03676)も、同じところを見つめた。
     やがて、窓の隙間からにょろりと二匹の蛇が姿を現す。
     灼滅者達は蛇を見ても騒がず、むしろ待っていましたと、一箇所に集まった。
    「やっぱり、ここは土蔵だったよ。扉は閂で閉じられてる」
     蛇変身を解き、守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が説明をはじめた。
     同じく桜之・京(花雅・d02355)も元の姿を現す。
    「扉の外には、見張りが二人いるわね。二人とも古い軍服を着た男性で、一人が日本刀、もう一人が銃身の長いガンナイフを装備していたわ。露出している肌の半分には刺青があったから、強化一般人で間違いないかしら」
    「他に分かったことはあるか?」
     皆を代表して糸瀬が問うと、結衣奈が頷いた。
    「うん。この場所以外にもいくつか土蔵があったよ。それから、日本風の屋敷もね」
    「そっちも軍服姿の刺青強化一般人がいて、警備が厳しくて近づけなかったわ。軍服さえ無ければ、さえないおじさんのような外見なんだけど、軍隊式に隙が無い動きだったわね。相手の事を、階級で呼び合ったりして、そういう組織なのかもしれない」
     京が補足をする。
    「おじさんだけじゃなくて、風俗嬢っぽい外見の女性もいたけど、やっぱり服装は軍服だったわ。階級はおじさん達より上のものが多かったみたい。あとは、駐車場のような場所もあったわね。私達が運ばれてきたトラックの他にも、何台か大型の車があったわ」
    「ワゴン車とかジープだね」
     駐車場にも見張りがいるようだ。
    「駐車場の見張りも、軍服姿の強化一般人が警戒していたわね。こっちは、ヤクザ風の外見のいかにも人を殺してますっていう雰囲気があったわ」
    「あ、それから、途中で屋敷のほうへ連れられて行く人を見たんだけど……、一緒に連れてこられた人だよね?」
     結衣奈が気遣わしげに眠っている一般人を見回す。
     その通り、二人が調査に出た後、一般人が一人連れて行かれたのだ。
    「この場所に入れられた順番に連れて行かれるみたいでした。僕達には、声がかからなかったな」
     その時の状況を思い出し、蔵乃祐が簡単に説明した。

    ●脱出作戦
     ひとまず、外に調査に出た二人からの情報はこんなところだ。
     土蔵の中で一般人に話は聞けたのだろうか?
     問うような視線に泰河が答えた。
    「この人達は、拉致されてきただけみたいだね」
     皆似たり寄ったりの事情で、中洲の風俗店やホストクラブなどで意識を失って……という流れでここに連れてこられたらしいのだ。
    「たぶん、HKT六六六の活動の一つなのかな?」
     本当に、あの人達は訳が分からないと泰河が首を傾げる。それを聞いていた蔵乃祐がため息を漏らした。
    「またHKT六六六絡みか……。驚くべきはその情報網と、交渉能力だな」
     どういう奴が裏にいるのだろうか?
     ともあれ、役に立つ情報はあまり得られなかった。
    「一応、今の状況については説明しておいたけど、連れて逃げるのは無理だろうね」
     泰河の言葉にトランドが頷く。
    「そうですね。気がかりですが、下手に助けようとして失敗すれば共倒れしてしまいます」
     酷かもしれないけれど、どうか耐えてもらうしかない。その意見に、誰も異を唱えなかった。
    「じゃあ、脱出、だね」
     集めた情報を、学園に持ち帰らなければならない。
     灯倭の言葉に、皆が頷き合った。
    「外の見張りを倒すのは、二人にお願いできる?」
     蛇に変身すれば、比較的自由に土蔵へ出入りできることは、すでに分かっている。
     美紗緒が言うと、結衣奈と京が顔を見合わせた。
    「やってみるわ。強化一般人程度なら、二人でも大丈夫よね」
     京が笑みを浮かべる。
    「うん。とにかく、見張りを倒して閂を開けるんだよね」
     結衣奈も、ぐっと拳を握り締めた。
    「できるなら屋敷も調べたいよな。一般人に刺青を彫って強化一般人にする、か。どんな彫師なんだか」
     糸瀬が言う。
     今のところ、屋敷内部の情報や彫師について何も得ていない。
    「ですが、もし敵に気づかれたり、包囲された場合には脱出を優先させましょう」
     トランドの言葉ももっともだ。
    「そうだよね。最低でも位置情報だけは持ち帰ろう!」
     灯倭が確認するように仲間を見回す。
     その作戦で問題ない。
     灼滅者達は頷きあった。
    「今までの情報は、メモしたよ」
     美紗緒がメモ帳をポケットにしまう。
    「閂が外れたら、出てきて」
    「なるべく早く終わらせるわ」
     結衣奈と京。先行する二人が、再び蛇に姿を変えた。蛇は壁を伝い窓を目指す。
    「こっちだ。ここならすぐに飛び出せます」
     蔵乃祐が扉付近に移動して、仲間を呼び寄せた。
     土蔵内に残された灼滅者達は、いつでも飛び出せるよう、緊張の面持ちで構えを取った。

    ●突破、そして
    「曹長、交替時刻はまだでありますか」
    「あと2時間である。各員奮闘して努力せよ」
    「了解であります」
     土蔵の外では、二人の見張りが堅苦しい口調で会話していた。軍服の中身は普通のおっさんのようなので、露出した肌に入れられた刺青と、会話の口調に大きな違和感を感じる。
     そんな見張りの背後に、蛇行して近づくのは二匹の蛇。
     二匹の蛇は素早く見張りに近づき、タイミングを合わせて変身を解除する。
    「行くよっ」
    「こちらもね」
     二人は躊躇なく見張りの男たちに攻撃を仕掛け、大きくよろめかせた。
    「何者だっ! ここを御神楽の聖地と知っての狼藉かっ!」
    「ぐぅ、女、いや子供か。どうして、こんな所に……」
     初撃で大きなダメージを受けつつも、男達もすぐに戦いの構えを取る。
    「油断するな、あの身のこなし、普通の人間とは思えん。訓練された兵士に間違いない」
    「了解です曹長!」
     一人が銃身の長いガンナイフを構え、結衣奈に突撃してくる。
     すぐに京が援護射撃を行う。結衣奈は受けた傷を集気法で癒した。
    「我、敵影を確認せり!! 援軍を要請するっ!!」
     一人の相手をしている隙に、もう一人の日本刀を持った男が大声を張り上げた。同時に、盛大なブザー音が鳴り響く。おそらく見張りが持たされた、防犯ブザーであろう。
     あせる気持ちを抑えながら、京が糸を張り巡らせる。動きの鈍った敵をめがけて、結衣奈がクルセイドスラッシュを放った。
     行動を阻害し、確実に仕留めていく。
     なんとか二人が見張り役を倒しきったのは、戦闘が始まって五分後のことだった。
    「は、……あ。この、閂を開ければ……!」
     結衣奈が閂に手を伸ばす。
    「皆、急いでね」
     日本刀の男が所持していた鍵を使い閂を開けた京の声に、土蔵の中にいた仲間が飛び出してきた。
    「いたぞ!! あそこだっ」
     同時に、防犯ブザーの音を聴きつけた、多数の軍服姿の刺青強化一般人が屋敷の方向から駆けつけてくる。
     こちらに向かってくる姿を確認し、美紗緒が声を上げる。
    「これじゃあ、屋敷の調査は無理そうだね。戦闘を避けて逃げようよ」
    「同感だぜ。勝手口は……どこだ? いや、塀を乗り越えるか」
     糸瀬の言葉に答えるように、結衣奈と京が走り出した。敷地内の地理は確認している。灼滅者達は、迷わず外を目指した。
    「しかし、この拠点の場所を知らせることが出来れば、作戦は成功ですからね」
     迫り来る敵を尻目に、笑みを浮かべたトランドが、ひらりと塀を乗り越えた。
     仲間達も、それに続く。

    「少尉殿、敵は外部に逃走したようです。追撃しますか」
    「まずは、他に侵入者が残されていないか探せ! 追撃の可否は司令部の判断を仰がねばならん」
    「はっ、了解しました。いけっ」
     塀の内側からは、強化一般人達を指揮する少尉殿とやらの指示が声が聞こえてきた。
     ひとまず塀を越えては追いかけてこないらしい。
    「とりあえず、この道。沿って走っていけば、来た道を戻れるはずだよっ」
     今度は灯倭が皆を先導するように走った。追手が無いならば、これが最短距離の筈である。
    「あとは、できるだけ早く、人の多い場所まで出られればいいよね」
     泰河が辺りを警戒しながら、このまま逃げ切れれば……と言葉を発する。
     だが、その逃走は長く続かなかった

    「ちっ」
     20分程走ったであろうか、蔵乃祐が背後から迫る背後から車のエンジン音に気づき、小さく舌打ちをしたのだ。
    「敵の移動手段を潰しておくべきでしたか」
     詰めが甘かったか。蔵乃祐が振り向くと、大型車がすぐ背後まで迫っていた。
     車と追いかけっこをしても、勝てるはずが無い。
     気づけば、あっという間に距離を詰められ、戦いを余儀なくされた。
    「戦闘小隊は、車から降りて整列。速やかに侵入者を捕獲せよ」
    「少佐の命令だ、急げっ」
     元はギャル風の女性だったと思われる軍服の女の命令を受け、刺青強化一般人達が五人、車から飛び出して来る。
     こちらも、元はうだつのあがらないサラリーマンや、モテない大学生や、ちょっと冒険したい高校生といった普通の男たちだったと思われるが、軍服を着用した彼らは、いっぱしの兵士のような身のこなしで、素早い連携で銃身の長いガンナイフを構えて戦列を整える。
    「まずいな」
     糸瀬は武器を構え、眉をひそめる。車に残った指揮官らしき女性が、無線を操作しているらしく、いつ、応援が来るかわからない。
    「御神楽の聖地を侵したふとどきものめ、その命で償えっ!!」
     強化一般人達は口々にそう言うと襲い掛かってくる。
     その口ぶりは、まるで、何かの宗教であるかのようだ。
    「気合と根性……こういうのは精神の戦いだ! 負けるかっ!!」
     皆を庇うように前に出て、泰河が最初の一撃を受け止めた。

    ●迫る追っ手に
     刺青強化一般人との戦いは続く。今度は五対八。灼滅者は次々に敵に止めをさしていった。糸瀬が封縛糸で敵の動きを封じれば、蔵乃祐が閃光百裂拳で敵を打ち抜く。泰河は仲間を庇い、京が敵の行動を阻害する。結衣奈は回復と攻撃を繰り返した。
     だが、敵も、一体一体は強くないとはいえ、統一された指揮の元に自分の命を無視して戦い続けてくる。
     死ぬ直前まで命がけで攻撃してくるさまは、バンザイアタックという言葉が相応しいくらいだ。

     だが、灼滅者たちにも負けられない理由はある。
     灯倭の霊犬・一惺が斬魔刀で敵を斬りつける。畳み掛けるように、灯倭が尖烈のドグマスパイクを放つ。
    「必ず、学園に帰るんだからっ」
     バベルブレイカーを引き抜くと、敵はうめき声を上げて倒れこんだ。
     美紗緒も霊犬のこまと共に戦っている。
    「動かないでっ」
     除霊結界を発動し、敵の動きを止める。
     すかさずトランドがクルセイドスラッシュで止めをさした。
    「これで、ひとまず全員倒しましたか」
     辺りに転がる強化一般人を確認する。
     指揮官であった女性も含め、全員が事切れている。
     こちらも無傷と言うわけにはいかなかったが、どうにか戦いには勝利できたようだ。
    「また来やがったぜ」
     だが息つく暇も無い。糸瀬は近づく車の音を聞いた。更なる追っ手だ。
    「キリがないね」
     さすがに、ずっと戦い続けるわけにはいかない。泰河が言うと、蔵乃祐が森へと目を向けた。
    「道を進むのをあきらめましょう。車が入ってこれない場所を進めば、見つからずに山を降りれるはずだ」
     どのみち、車と徒歩では話にならない。
     地形を利用しようと言う蔵乃祐の意見に従い、灼滅者達は暗い森へと飛び込んだ。
    「中佐殿!! なんてことだ」
    「くそっ、中佐殿の仇を逃すんじゃないぞ?!」
    「道じゃない。まさか森に……?! 司令部に報告して増援を呼べ。探せ探せっ」
     背後から複数の声が聞こえる。
     だが、一旦闇に紛れてしまえば、後は慎重に進むだけだ。
     捜索の手が伸びていない場所へ移動しながら、灼滅者達は山の麓を目指した。
     空が白むころ、ようやく一行は山を降りることが出来た。
     周辺を探るが、敵の気配はない。
    「何とか逃げ切ったわね」
     目の前には、手入れされた畑が見える。京が確かめるように仲間を見た。
    「うん。でも、まだ油断は禁物だよね。急いで帰ろう」
    「あの場所を報告して、一気に攻略できるよね」
     美紗緒と結衣奈が頷き合う。
    「屋敷の大きさから考えても、強化一般人は100名は下らないでしょうね。それが、統一された指揮のもとに動くとすると……」
    「そうね。あとは、羅刹やHKT六六六のダークネスがどのくらいいるか。攻略するには、かなりの戦力が必要かもしれないね」
     ここまで来れば、後は素早く人里を目指すだけだ。
     トランドと糸瀬が意見を交わす。
    「バベルの鎖で感知される危険もあるから、詳しい作戦はエクスブレインに報告してからだね」
    「だな、よし、追っ手はない」
     念のため、泰河と蔵乃祐が後ろを振り向いた。
    「じゃあ、もうひと頑張り。急いで学園に戻ろう」
     灯倭の言葉に皆が頷く。
     こうして、鹿児島の山中、伝説の彫師の拠点を脱出した灼滅者達は学園への帰路についたのだった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 43/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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