呼ばれしは炎雷の怪

    作者:泰月

    ●銀の尾を持つもの、再び
     北陸のとある山村の外れに、小さな仏像が1つ置かれているだけの空き地がある。
     そこが、かつて死者を荼毘に付すのに使われていた場所だと知るのは、地元の人間を除けばそう多くないだろう。
     現在となっては、特に何も無い場所でしかない、そこに。いた。
     ニホンオオカミに良く似た白い獣――淡く輝く銀の尾を持つスサノオの姿が。
     しばらくの間、何かを探すかの様に空き地の中をくまなく歩き回ったスサノオは、顔を上げて虚空を見やり――山の中へと姿を消した。
     スサノオと入れ替わるようにして、空き地には別の存在の姿が現れる。
    「フシャァァァ」
     炎の輪を背負った猫頭の古の畏れ。
     その足には、空き地の中心から延びた鎖が絡みついていた。

    ●炎背負いて
    「来てくれてありがとう! 待ってたよ!」
     灼滅者達が教室に入ってきた事に気づいて、天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は仁左衛門の上で明るい声を上げた。
    「スサノオが『古の畏れ』を呼び出したのが判ったから、その討伐をお願いしたいんだよ」
     今回カノンが予知出来たのは、以前、雪女を呼び出した銀の尾を持つスサノオだ。
    「場所はまた北陸。今回は前の場所より南、長野県に近い方だよ」
     山麓より少し上った辺りの山村。
     その外れにある空き地が、スサノオが現れ古の畏れが呼び出された場所だ。
    「今度の古の畏れは、多分『火車』だと思う」
     火車。
     特に生前に悪行を重ねた者の亡骸を奪うとされる妖怪だ。
    「予知で見た姿は、大人より少し小柄な猫頭の妖怪っぽいの。背中に大きな炎の輪を背負っていたよ」
     加えて、カノンが調査した結果、その場所が、かつて火葬場として使われていたらしい点も合わせれば、元になった伝承に最も当てはまるのは火車と言うわけだ。
    「すぐに向かって貰えば、まだ火車が空き地にいる内に間に合う筈だよ」
     火車も足に鎖が絡まっているが、果たして空き地を出て村まで移動出来るのか――そこまで予知できなかったとカノンはすまなさそうに告げた。
     とは言え、試してみるわけにも行かないし、その必要もあるまい。空き地にいる内に倒せば済む事だ。
    「攻撃はほとんどが、炎を使ったモノだね。ファイアブラッドの能力に近いよ。あと、雷を使った攻撃もしてくるよ」
     火車の伝承の中には、雷を伴って現れたり雷を操ったりするものもあるからだろう。
    「皆の動きを妨げる力はない分、火力は高そうだよ。回復能力がファイアブラッドのサイキックと違うのも注意だね」
     同じスサノオが呼び出したとは言え、以前の雪女とは戦い方の異なる相手のようである。
    「でも、大丈夫。皆なら勝てるよ」
     カノンの瞳の中に、灼滅者達の勝利を疑う色は欠片もなかった。
    「もう1つ。スサノオの行方だけど、山の中に消えてすぐに判らなくなっちゃった。また予知が上手くできなくって」
     中々尻尾を掴ませない、スサノオ。
     だが、一度見失った足取りを再び掴む事が不可能でないのも確かだ。
    「私も、諦めないで頑張って探すから。今は、古の畏れの灼滅をよろしくお願いします」
     そう言って、カノンはぺこりと頭を下げるのだった。


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    鷲宮・密(帰花・d00292)
    海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    汐崎・和泉(花緑青・d09685)
    枝折・真昼(リヴァーブハウラー・d18616)
    雀居・友陽(フィードバック・d23550)

    ■リプレイ


     ガサガサと、草を踏みしめる音が響く。
     スサノオが呼び出した『古の畏れ』が残る場所まで続く道は、まあ何と言うか、かなり寂れていた。舗装されていない地面からは雑草が伸び放題。脇の低木も好き勝手に枝が伸びている。
     移動に支障を来す程ではないが、決して歩き易い道とは言えない。
    「妖怪が出るには、悪くない場所のようね」
     細い枝を押しのけながら、鷲宮・密(帰花・d00292)が呟く。
     確かにそれらしい雰囲気だ。
     街灯の1つもない、野道。今は昼間だから良いが、夜になれば相当に暗いであろう。肝試しには打って付けと言えるのではないか。
    「戦う前に服が汚れそうね」
     白いロリータファッションに身を包んだ東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が、どこか諦めたように呟く。
    「こんな所にまで……スサノオは何を目的に動いているのかしら」
     足元から聞こえるスカートの裾が雑草と擦れているらしい音は聞かなかった事にして、こうなった元凶であるスサノオに話題を変えた。
    「さぁな。よく判んない内にメンドーばっか起こしてやがる」
     夜好に答える雀居・友陽(フィードバック・d23550)の口調がどこか突き放すような色を含んでいたのは、女性への苦手意識故か、武蔵坂学園に対する微妙な感情故か、スサノオに対する感情故か。
     そもそもスサノオがいなければ、あの一斉襲撃も――。
    「うがぁっ!」
     浮かびかけたその考えを、吼えて振り払う。
     これはダメだ。過去のたらればを考えた所で、現在に良い事などない。
     友陽の内面を知り得ない仲間達の視線が集まったが、何でもないと笑って誤魔化した。
    「ったく、スサノオもどんだけ伝承甦らせれば気が済むんだか」
     スサノオが各地に現れる事に対する苛立ちと受け取ったか、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)が愚痴るように続ける。
    「あれか? 全国巡業コンサートか?」
     続いたこの言葉に、今度は違う意味で視線が集まった。
     巡業はともかくコンサートって、どっかのスーパーアイドル淫魔じゃあるまいに。
     と誰もが思ったかは定かではないが、とにかく突っ込みが出る前に、道が開けた。
     目指す空き地に到着したのだ。
    「火葬場跡に妖怪現る、か」
     ほぼ真正面、空き地の奥に佇む炎を背負った異形を見つけても、咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)は特に動じた様子も高揚した様子もなく淡々と呟く。
    「猫ね……」
     その姿を見て、実は猫好きな密が小さく呟いた。
    「さて、気を引き締めて行きましょうか」
     ちょっとだけ可愛いと思ってしまったのを隠すかの様に、どこか冷たい笑みを浮かべ密は火車を見据える。
    「バケネコかよ……よりによって火車かよ」
     それと対照的なのが、ゲンナリした様子で呟く枝折・真昼(リヴァーブハウラー・d18616)の姿だ。
    「ああもう……なんでこう、ネコ苦手なのにネコばっかと出くわすんだ、オレ。しかも炎纏ってるし……」
     猫とイフリートが苦手な真昼にとって、火車は愚痴の1つも言いたくなる相手と言うわけだ。
    「炎を操る古の畏れなんて、面白いじゃねェか! ファイアブラッドとしてすげぇわくわくすんぜ!」
     わくわくする、の言葉通り。眼鏡の奥から、期待の色を含んだ視線を送る汐崎・和泉(花緑青・d09685)の姿もまた、対照的だ。文字通りの三者三様。
    「仏像って、これの事みたいだな」
     その時、辺りを見回していた海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)が、すぐ後ろに小さく簡素な社が建っている事に気づいた。
     中を覗き込めば小さな石仏が安置されていたが、社は砂埃にまみれ外側にはツタも絡まっている。
    「供え物どころか、手入れも碌にされてないな……」
     数日でこうも荒れる事はあるまい。かなり長い間、此処には誰も来ていないのだろう。
    「通行止めしなくても良かったかもな?」
     眉をしかめつつ『Sunctus』と小さく口ずさんだ眞白の手に、剣の様な得物が握られるのを見ながら、ファルケが音を遮断する力を解放する。
    「こんなとこに出たって、仏像くらいしか持ってくモンないっしょ。何も持ってかせねぇけど!」
     バシンと拳と掌を合わせる友陽の瞳が、炎を思わせる色に輝き始める。
    「まぁ、被害が出る前にちゃっちゃと始末しときますか」
     やはり淡々と言った千尋の傍らには、いつの間にか一輪バイクが現れていた。
    「どォぞ、お手合わせよろしくなー!」
     言い放ち、爛々とした翡翠の瞳で和泉が見据える。
    「フシャァッ!」
     その身体から放たれた殺気で、火車も灼滅者達に気づいたのだろう。その背の炎輪を輝かせ、猫の様な威嚇音を発する。
    「再び世に出た所悪いけれど、直ぐに戻ってもらうわッ!」
     びしりと火車を指差し言い放つ夜好の指輪が、光を照らし小さく輝いた。


    「こんなとこで暴れてないで、俺の歌を聴けっ! そしてゴキブリの様にのた打ち回ってカンドーの涙を流すといいぜっ!」
     言い放ったファルケは一度大きく息を吸い込み、存分に喉を振るわせた。
    『!?』
     高らかに響き出した歌声に、火車が苛立たしげに耳をぱたぱたさせる。仲間達の何人かも揃って目を白黒させていた。
     何と言うか、音程が凄まじく外れまくっている。しかも本人に自覚はないようで、実にいい顔で歌い上げているではないか。
     これもある意味、伝説的な歌声と言えるのかも知れない。
     ファルケの歌が途切れた所で、一気に躍り出た眞白が腕につけた杭打ち機を構える。
     ガァンッと大きな音と共に、回転する杭が打ち出され――空を切った。
    「何っ!?」
     予測力を持つ灼滅者が、当たる自信のない技を使う事はない。
     絶対ではなかったにせよ当たる自信はあった。己の予想を上回った火車の動きに、眞白の顔に驚愕が浮かぶ。咄嗟に振り返れば、そこには炎輪を構えた火車の姿が――。
    「甘いですよ」
     炎が放たれるより早く、短く告げた密が鬼のそれに変じた拳で殴り飛ばした。
     その横を駆け抜けるのは、半異形。己の頭へと湾曲した角と恐竜のような尾を持つ、人造灼滅者の証たる姿へと変貌した友陽。
    「セット!」
     医療用ロボをベースに設計された杭打ち機に炎を纏わせ、猛然と打ち付ける。
    「相手が火ならより熱い炎で燃やすだけだ!」
     その言葉通り、友陽の纏わせた炎は火車に燃え移り、その身体を焼いていく。
    「バーガンディ」
     千尋の声にあわせて相棒の機銃が唸り、焼かれる火車に銃火を浴びせる。
     同時に、千尋の影がざわりと動いた。膨れ上がり、撃ち出された影はコウモリの様に羽ばたいて火車に喰らいつき、影に飲み込んでいく。
    「シャー!」
     直後、影の中から赤い輝きが漏れ出した。
     影を炎で払った火車の背から、煌々と燃える炎弾が放たれる。
    「させっかよ。てめぇの相手はこのオレだ!」
     迫る炎の前に、和泉は迷わず飛び出した。破邪の剣を真横に構え受け止めるも、その姿が爆炎に包まれる。
    「――ハル!」
     炎の中からのその声に、相棒の霊犬は即座に反応した。チョコレート色の毛並みをなびかせ、咥えた刃で火車を斬る。
    「アンタに恨みがあるんじゃねぇ。恨みがあんのはイフリートだが……悪く思うなよ」
     少し遅れて、炎を纏わせた和泉の剣が同じ軌道を描いて斬り裂いた。
    「む、無茶するっすね」
     見せ付けられた爆炎の勢いと、そこに飛び出した和泉の行動に気圧された様に呟いた真昼が、黒狼のロゴを刻んだギターから手を離す。
     その掌中に、漆黒が集まる。
     まだ回復は要らないと判断した真昼は、火車へとその掌を向ける。暗い想念を集めた漆黒の弾丸が放たれる。
    「やっぱりバカにならない火力を持ってる相手みたいね……短期決戦で行くわよ! 貴方は回復を」
     ナノナノに指示を出しながら、夜好の指輪に魔力が集まり指輪自体が輝きを放つ。
     指先から放たれた制約の魔弾が火車を撃ち抜いた。


    「がぁぁっ!」
     友陽が吠えると同時、辺り一面に広がった炎が火車を飲み込んでいく。
     しかしその炎は何も燃やさず、逆に熱を奪う。人造灼滅者が己の魂を削って生み出す、冷たい炎が火車の身体を凍らせる。
    「ちっ。凍らせはしたけど、あまり効いてねーか」
     氷を気にした風もない様子の火車を見据え、友陽が毒づく。
     それも仕方のないことだろう。今の炎は多数を相手にしてこそ最大限に効果を発揮するものなのだから。
    (「かと言って殲術執刀法は、当てられる気がしねぇんだよな……って、あれ?」)
     声に出さずに胸中で呟いたその時、目の前の火車に感じる違和感。炎輪が、ない。
    「上よ。気をつけて」
     距離を取っていた千尋がいち早く気づいて短く警告の声を上げた。
     その言葉に見上げれば、火車の頭上で炎が回っている。火車が自ら飛ばした炎輪が、くるくると。
     空を焦がして回り続ける炎の中央に。バチバチと弾ける光が生じている。
    「――っ!?」
     咄嗟に飛び出したファルケを、炎輪から疾った紫電が撃ち抜く。
     その後ろから、夜好が飛び出した。指輪を嵌めた方の手全体に、血の様に赤いオーラを纏わせ、間合いを詰める。
     しかし、今度は火車の方がその場から飛び退いた。緋色の手刀は空を切る。
    「ああもう! ちょこまかと鬱陶しいッ!」
    「鎖があるのに、良く動きますね。まるで邪魔になっていないようで」
     忌々しげな夜好の声を背中に聞きながら、火車の動きを目で追った密が呟く。
    「あの鎖、引っ張ったら躓いたりしねえかな?」
    「その程度でどうにか出来る相手じゃなさそうだぜ」
     雷撃で焦げた背中に癒しのオーラを放ちながら、ファルケの思いつきに答える和泉。
     仲間の護り手として最前に立ち戦線を支えるのは和泉の誇り。だが、体力は無限にある訳ではない。だからこそ、今何をすべきか、常に頭の中で考えている。
     鎖を引っ張る程度では、火車の動きを抑制できるとは思えなかった。
     ファルケもそれを判っているのか、無理に鎖を狙おうとはせずに、再びギターを取り音程の外れた旋律を奏でる。
     その時、炎輪を背中に戻した火車が、腕に炎を纏わせ地を蹴った。
    「俺の炎も負けてらんねェな……ッ!」
     それを見た眞白も、数瞬遅れて地を蹴る。愛と情熱の紅蓮を纏う得物に、本当に炎を纏わせて。
     2つの炎がぶつかり合い、火車の炎が眞白を焼き、眞白の炎が火車を焼く。
     炎と炎がせめぎ合うそこに、薄紅が割り込んだ。
     密がオーラを纏わせた拳を叩き込む度に、薄紅が乱れ咲く。
    「フギャッ」
     飛び退いて連撃から逃れた火車の前に、炎輪から分かれた炎が渦を巻く。
     まだ見せていない別の攻撃かと身構える灼滅者達だが、数秒が経っても炎はそこに留まっていた。
    「あぁ、そう言う事ね」
     短く言って、死の覚悟を背負う事の象徴たる剣を手に千尋が跳んだ。
     破邪の光を纏った白く輝く刃を振りぬけば、火車の前で渦巻く炎は霧散した。
    (「灼滅者なんだし、やっぱ克服しないとなぁ」)
     前で火車と戦う仲間を見ながら、腰が引けている自分を自覚して、真昼は小さく溜息をついた。
     どうしても過去を思い出してしまい、イフリートに似た戦い方をする火車に対する恐怖を拭いきれない。
     それでも、戦いを投げ出すつもりはない。ギターを爪弾いて獣の咆哮を思わせる音を響かせ、或いは天上の歌声を以って仲間達を支え続ける。
     恐れがあるからこそ、真昼が回復のタイミングを違える事もない。
     前と後ろでそれぞれに戦線を支える灼滅者達と、1体で戦う火車とでは手数の差が圧倒的に違う。
     火車の攻撃は熱く苛烈であったが、次第に押され、傷ついていくのは火車の方だった。
    「フシャァァァッ!」
     苛立ったような音を発して、火車の手が炎輪を掴んで、投げた。
     弧を描いて飛んだ炎輪は一気に燃え上がり、炎の奔流へと形を変えた。間違いなくこの戦いで最も激しい炎が渦を巻いて、前に立つ灼滅者達を飲み込んで行く。
     猛り上がる炎の渦は数秒で消えて――。
    「どーだ。耐え切った……ぞ」
     一度は意識が飛びかけながらもニヤリと笑みすら浮かべて、仲間を背後に和泉は立っていた。
     同じく盾となり力尽きたハルとバーガンディの姿が消え行く。
    「聴かせても響かないなら、その身体に直接響かせるのみっ」
     少し焦げた地面を踏みしめて、ファルケが飛び出した。
    「刻むぜ、魂のビート! これがサウンドフォースブレイクだ!」
     魔力を溜め込んだロッドを突き込めば、流し込んだ魔力が火車の体内で激しく響き渡った。
     もがく暇も与えず、もう一度。今度は密が、無言で頭部にロッドを突きつける。
     2人の魔力が連続で火車の内で暴れる間に、千尋の手が黒い棺の蓋を叩いた。
     棺と思われたその中に納まっていたのは、円形に連なった無骨な銃口。正体をあらわにした棺型ガトリングガンの照準を合わせ、千尋の指が引鉄を引く。
     無数の銃弾が撃たれ続けるのが止んだそこに、友陽が駆け込んだ。
    「主任さんに良い報せを持って帰るためにも、鬼だろうが猫だろうが車だろうが燃やし尽くす!」
     バベルブレイカーのみならず全身に炎を纏い、回転してから飛び掛る。
     火車を焼いた上に押し出す、強烈な一撃が叩き込まれる。
     そこに眞白が続いた。間合いを詰め、刃を突き込むが、浅い。倒れかけた火車の腕に炎がともる。
    「紫明の光芒に虚無と消えよッ! バスタービーム……発射ェーッ!」
     しかし剣に見えたそれは、魔を灼き滅す長銃。至近距離からのバスタービームが火車の胴に風穴を開けた。
    「此処にもう骸は無いわ……さぁ、貴方も還りなさいッ!」
     夜好の指輪が煌き、その指が虚空に十字を描いた。
     血の様に赤い逆十字が、後ろの炎輪ごと火車を引き裂き――次の瞬間、燃え尽きた様に一瞬で消滅していた。


     空き地に、静寂が戻る。
     静かに戦いを見守っていた仏像に、眞白が大福を備えて手を合わせる。
    「火車も好きで呼ばれて目覚めたわけじゃねぇんだよな……」
     呟いて立つと、入れ替わりに密かが仏像の前に屈み込んで、小さな花を供えると、目を閉じて手を合わせた。
    「スサノオは……古の畏れを呼び起こして、何をしようとしているのかしら……?」
     夜好は考えを巡らせるが、考えてもスサノオの目的には未だ思い当たらない。
    「スサノオの目的が分かればイイんだけどな」
     同じ思いは真昼も感じていた。
    「色んなとこで噂になってる伝承を呼び起こして、まるで都市伝説を意図的に発生させてるみたいだ」
     どうせ呼び起こすなら、もう猫と炎は良いやとこっそり思う真昼。
    「早く灼滅したいよな」
     そこにいないと判っていても、友陽は遠くに見える森を睨み付けていた。
    「――行きましょう」
     静かに言って、密が膝を伸ばす。
     いつか、スサノオの尻尾を掴める日が来るのを信じて、灼滅者達は帰路に着く。
    「よし、最後に慰みに俺が歌でも――って、あれ?」
     おもむろにギターを手にしたファルケを引きずるようにして。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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