夢の中の懺悔

    作者:奏蛍

    ●堕ちた人間
     人気がない道で、藤太は息を潜めていた。襲うのにちょうどいい人が通るのを待っているのだ。
     その心には罪の意識は全くない。最初は本当にお金に困って気がついたら手を出していた。
     ちょうどこの道で、酔っ払った男性が居眠りを始めたのだ。気づいたら藤太は男性の財布を手に持っていた。
     中身のお札を全て抜いて駆け出したときは心臓が破れんばかりに鼓動して、自分が犯した罪に戦慄した。けれど朝目覚めたら、すっきりしていた。
     それが全ての始まりだ。人からお金を取ることに、なぜ罪を感じなければいけないのか。
     そこにお金があるのだから、必要なものが使えばいいのだ。夜中に一人で歩くものを見つけたら、藤太は力づくでお金を奪うようになっていった。
    「さみーなぁ。早く来いっての……」
     待ち合わせをしているわけでもない。ただお金を奪える者が来るのを待っているだけなのに、藤太は悪態をつく。
     罪の意識を奪われるということが、どんなに恐ろしいことか……。奪われた本人である藤太には当然わからないのだった。
     暗闇に響くヒールの音に、藤太は顔をあげた。そして口元が醜く歪んで笑みを作る。
     たった一人で、急ぎ足で歩く女性が藤太が息を潜める物陰の前を通る。そのまま何事もなく終わると思った瞬間、女性は地面に倒れていた。
    「つっ……!」
     痛みに息を飲んだ女性が起き上がれないように、藤太は足で踏みつける。
    「動くなよー? 金さえ手に入ればこのまま返してやるからよぉ?」
     あははははと、耳を塞ぎたくなるような笑い声を響かせて藤太は女性の鞄をあさる。怯えて震える女性は、お金のことよりも自分の身が心配でしょうがなかった。
     本当にこの男はお金だけ取っていなくなってくれるのだろうかと……。
    「ちっ、しけてんなぁ……」
     イラついた藤太の声に、女性は恐怖に息を飲むのだった。
     
    ●夢の中の懺悔
    「みんなはもう病院の灼滅者とはあってるかな?」
     教室に集まった灼滅者(スレイヤー)たちを見ながら、須藤まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が首を傾げた。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     そしてなぜ病院の灼滅者の話から入ったのかと言うと、病院の灼滅者からもたらされたダークネスの陰謀が関係しているからだ。
    「贖罪のオルフェウスっていうシャドウが人間の闇堕ちを助長させてるみたいなんだ」
     表情を曇らせたまりんが、詳しいことを説明していく。どうやら人間の心の中にある罪の意識を奪ってしまうらしい。
     そしてその奪った罪の意識によって闇堕ちを促進させているらしいのだ。このまま放っておけば、非常にまずいことになってしまうだろう。
     贖罪の夢を見せられているのは藤太という大学生だ。おろしたばかりのバイト代を盗まれてしまったことから、全てが始まる。
     家賃や食費を賄うことが出来なくなってしまった藤太は途方に暮れていた。反対する親を無視する形で、美大に入った。
     大学の費用はローンで支払い、日々の生活をバイド代でやりくりしていたのだ。そして魔が差した。
     目の前で居眠りを始めた男性のお金を盗んでしまった。盗まれたことで自分がどれだけ困り、途方に暮れたかわかっているだけに罪の意識は際限がない。
     けれど、夢を見た。そして目覚めたら罪の意識は一欠片もなくなっていた。
     藤太は平気で人の金を盗み、奪うためなら多少の暴力でさえ厭わなくなっている。その行為は罪の意識がないために、エスカレートしていくばかりだ。
    「ソウルアクセスして夢の中に入ってね」
     藤太が一人暮らししているアパートは一階の角部屋だ。争うような物音など立てなければ、アパートの住人は全く気にしない。
     ドアの鍵は閉められてしまうが、窓の鍵までは閉めていないのでそこから侵入すれば問題ないだろう。
    「夢の内容なんだけど、悪夢とはちょっと違うみたいなんだ」
     まりんの話では、苦しめられるような悪夢ではないらしい。藤太が光り輝く十字架に罪を告白する夢らしいのだ。
     この懺悔する行為こそ、藤太に罪の意識を失わせている原因になる。邪魔することで、灼滅するべき存在が現れることになる。
     普通に邪魔するだけであれば、藤太がシャドウのようなダークネスもどきとなってみんなを襲って来るだろう。その戦闘能力はシャドウに匹敵し、何体かの配下を呼び出す可能せがある。
     しかしただ邪魔するだけでなく罪を受け入れるように説得することが出来れば、藤太とは別にシャドウのようなダークネスもどきが現れるだろう。この時、ダークエスもどきの戦闘力は下がる。
     けれどこのダークネスもどきは夢を見ている本人、藤太を執拗に攻撃してくる。ダークネスもどきから藤太を守りながらの戦いとなるわけだ。
     藤太を守る方法は簡単だ。守りたいと思うだけで、特殊な行動を取る必要もなく庇うことができる。
     ただ注意してもらいたいことがある。藤太を庇って攻撃を受けた場合、通常の二倍のダメージを受けることになる。
     たったひとりで藤太を守ろうというのは危険な行為となるだろう。みんなの連携が大事になってくる。
     もし藤太が攻撃を受けてしまった場合、せっかく説得したものがなかったことになってしまう。罪の意識が戻らない状態で目覚めてしまうということだ。
     シャドウの脅威から逃れられたとしても、社会復帰するのは非常に難しい状況になるだろう。逆に説得して、なおかつ藤太を守りきれれば罪の意識が戻った状態で目覚めることになる。
     たまっていた罪の意識全てが一気に襲って来る状態だ。何らかのフォローが必要になってくる可能性がある。
     もちろん、藤太がしたことは許されることではない。絶対にフォローして欲しいとは言えないが、心の隅にでも留めて置いてもらえたらと思う。
     普通に邪魔しただけの藤太と説得して現れたダークネスもどきはシャドウハンターのサイキックと縛霊手を使ってくる。戦闘能力の違いについては、話した通りだ。
     配下が現れる場合、数は四体。二体が天星弓を、二体が鋼糸を使ってくる。
    「どう接するのが一番いいのか、難しいね……」
     まりんが寂しそうに瞳を伏せるのだった。


    参加者
    板尾・宗汰(蛇竜幼体・d00195)
    漣波・煉(いと高き所に栄光あれ・d00991)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    天木・桜太郎(日日花・d10960)
    ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)
    綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758)
    佐々木・紅太(プロミネンス・d21286)
    アガタ・トゥイノフ(服毒少女・d24054)

    ■リプレイ

    ●光輝く十字架
    「お邪魔しまーす。何も盗んないっすよー」
     カラカラっと出来る限り音を立てずに窓を開けた天木・桜太郎(日日花・d10960)がそっとアパートに足を踏み入れる。全員がアパートに侵入すると、さすがに狭く感じる。
    「まったくあの人たちもめんどうな事をしやがりますね」
     そっと窓を閉めたルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)が呟いた。中折れ帽によって影が出来た瞳が藤太を見つめている。
    「相変わらず反吐が出る様なやり口だぜ」
     ルコの言葉に反応した板尾・宗汰(蛇竜幼体・d00195)が微かに眉を寄せて、隠しきれない宿敵に対する執着を垣間見せる。
    「さっさと夢から引き摺りだして、無事に帰りましょう」
     そんな宗汰の様子に気づいているのかいないのか……。口を開いた時と変わらない調子でルコがにこりと笑った。
     常日頃からやる事成すことが冗談や嘘ばかりのルコの真意は測りづらい。そんな二人の目の前に、ずいっと紙が迫る。
     驚いて微かに目を見開いた宗汰の前には、もう行ってもいいのかな? と書かれている。すっと紙が横にずれると、首を傾げたアガタ・トゥイノフ(服毒少女・d24054)がいる。
     普段から筆談と言う手段をとっているアガタが藤太に向かって手を伸ばしている。
    「あぁ、大丈夫だ」
     宗汰が頷いた瞬間、アガタが藤太に触れた。突然広がった世界は、広い空間だった。
    「ここがソウルボードか……すっげーなんか変な感じー」
     キョロキョロと辺りを見渡しながら、ジャンプして地面を踏んだり硬さを確かめた桜太郎が楽しそうに声を上げる。実は初めてのソウルアクセス。
     依頼はしっかり頑張るけれど、ソウルアクセスが楽しみで少しだけわくわくしていた。
    「現実世界とあんま変わんねーな」
     みんなについて光の方に移動しながら、一通りの検証を終えた桜太郎が結論を出す。そしてその頃には、藤太の姿が確認出来た。
     光輝く十字架に向かって藤太は懺悔している。罪の意識を感じるから懺悔しているわけなのだが、漣波・煉(いと高き所に栄光あれ・d00991)は下らないと思う。
     ダークネスが絡んでいなければそれで終わりにしてしまうだろう。けれどダークネスが余計な手出しをしているとなれば話は別だ。
    「罪から逃げてりゃ楽だろうなぁ」
     懺悔する藤太に、煉は遠慮なく声をかけた。語って罪の意識を忘れるのではなく、自らが罪を受け入れその重さを理解しなければならない。
    「君たちは……」
     煉の声に顔を上げた藤太の表情は困惑している。
    「でも罪と向き合えないならお前は人じゃねえよ」
     言葉を遮った煉が、タレ目の三白眼でまっすぐ藤太を見る。目の下のクマのせいもあってか、どこか悪そうな雰囲気が漂う。
     光輝く綺麗な十字架と、不健康そうな目の前の煉。どこか対照的な者の言葉に、藤太は困惑した。
     これは夢なのだから、いつもの様に懺悔してさっさと目覚めてしまおうと判断した藤太が再び頭を垂れる。
    「謝れば済むほど世の中甘くない」
     静かに、けれど芯のある月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)の言葉に藤太の体が震えた。悪いことをすれば、その分の帳尻合わせが起きる。
     悪を成せば、自らに厄災が降りかかる。良いことをすればそれもまた然り。
     そうやって帳尻合わせが起きるのが人生なのだ。
    「その事はキミも十分理解してるんじゃない?」
    「君たちは何が言いたいんだ」
     千尋の言葉は的を得ているからこそ、相手をイラつかせる。
    「お前、親の説得ふりきって美大行ったんだっけ?」
     スゲェじゃんと笑顔を見せた佐々木・紅太(プロミネンス・d21286)が、キラキラした瞳で藤太を見る。天真爛漫な紅太だけに、その瞳に他意は見えない。
     純粋にすごいと思って言葉を口にする。
    「マジで頑張ってんじゃん!」
     紅太の言葉に警戒を少し解いた藤太が、ありがとうとお礼を言いかけて止まる。
    「つってもな、人間やっちゃいけないことことあるの、わかるよな?」
     キラキラとした瞳が打って変わって、真摯な色に変わる。懺悔して罪悪感はなくなったとしても、現実の罪が消えるわけではない。
     それこそ、警察も灼滅者も必要ないという話だ。
    「藤太さん……ここで懺悔してるってことは、本当はきちんと謝って、許して欲しいんでしょ?」
     だからこそ罪の意識を無かったことにしてはいけないと綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758)が伝える。自分も夢に魅入られて、嫌な事を忘れ都合の悪いものを忘れようとした過去がある。
     でもそれじゃあダメなんだと砌は気づくことが出来た。逃げてはいけない。他の何よりも、自分から逃げることだけはダメなのだ。

    ●罪の形
    「何で邪魔するんだ!」
     懺悔することがなぜ悪いと言うように藤太が声を上げる。懺悔することで楽になりたくてたまらなかった。
     そんな様子に千尋は微かに首を傾げた。犯した罪悪を告白することで、許しを請うのが懺悔だ。
     ならば懺悔するのは良いとして、藤太が許しを請うている髪とは誰なのか。そっと指で眼鏡を直しながら、藤太に向かって真剣な眼差しで千尋は迫る。
    「考え直すなら今だ。人としてやり直すか、闇に堕ちて滅ぶか……」
    「……!」
     その瞳の威力に言葉を失くした藤太が震える。
    「どうしろって言うんだ……」
    「僕も知ってるよ」
     飴と鞭ではないが、砌は藤太に対して理解を示そうとする。嫌なことを忘れるのはとても楽で気持ちがいいことだ。
     けれどそれは同時にとてもずるく、罪深いことでもある。
    「……大丈夫。僕が頑張れたんだから、藤太さんだって。だから、帰ろう?」
     ある意味、この夢はコルネリウスとは違うが、幸福な悪夢と言えるかもしれないと砌は思う。忘れたくても忘れられない罪と言うものはある。
     犯罪を犯した罪を忘れることはいけないと思う。けれど、そうじゃない罪の心と言うものも存在する。
     それでも罪の意識を忘れさせて無かったことにしてしまう夢は間違っている。
    「金に困る前の事を思い出してくれ」
     戸惑う藤太の瞳に、宗汰が声をかける。反対する親を無視してでも叶えたい夢があったはずなのだ。
    「今のままじゃ、何もできなくなっちまうぞ!」
     強く言い切った宗汰に藤太の体がびくりと揺れる。
    「叶えたい夢……」
     そのために自分はお金を盗んだ。しかし、今はもう罪悪感を感じなくなっている。
    「……やっちまった事からは逃げられねえ」
     それは宗汰自身も嫌というほど向き合ってわかっている。善かれと思ってやった事が友人を追い詰め、傷つけてしまった。
     だからこそ、藤太が苦しむならフォローしたいとも宗汰は思う。楽になりたいがために十字架に視線を送ってしまう藤太にアガタが口を開いた。
    「その懺悔は何に対するものかな?」
     藤太にはわからないが、アガタを知っている仲間にとっては驚きだった。アガタにとって肉声は抜き身の刃物とは変わらない。
     何気なく口にした言葉でさえ、誰かの心を傷つけたりしてしまう可能性がある。そう思うと怖くて筆談という逃げ道に走ってしまう。
     筆談なら、見たくなければ目を逸らすことが出来る。けれど言葉は口にしてしまった瞬間から消えないものとなる。
     けれど藤太には筆談ではきっと効果がない。本当に懺悔しない相手は目の前の十字架ではない。
    「十字架は罪を背負わない、罪を背負うのは自分自身だよ」
     懺悔は悔い改める行為であって、罪に背を向ける事ではない。自分の心を変える事だ。
     自分のことを棚に上げているかもしれない。けれど藤太には必要な言葉なのだ。
     そうは思わないかい? と真っ直ぐ藤太をアガタが見つめる。
    「俺の罪は……」
     怯えた様に後ろに下がった藤太の脳裏に、今の自分のように怯えた女性の姿が映る。
    「そろそろこの甘い夢から覚めて現実を見る時間ですよ、藤太くん」
     きっとなんとかなりますと言うように、ルコも藤太も見る。酔って居眠りしていた男性、夜道を歩いていた女性。
     自分がしでかしたことを思い出して、藤太は頭を抱える。
    「自分の罪を認めて……って言うのは簡単すぎますけど」
     何と言っていいか、自分自身が未熟であると思う桜太郎が言葉を探す。
    「やり直す気持ちさえあれば、なんだってやれるんじゃないっすかね?」
     罪を認めるということは、失っていた罪悪感を取り戻すことだ。苦悩して体を丸める藤太の後ろで、十字架が黒い影を立ち上がらせる。
     みんなの言葉を聞きながら、頷き相槌を打っていた紅太も構える。紅太の隣にいるフシギ生物の笹さんも、戦いに備えて体を微かに震わせる。
     片耳に付けられた可愛らしいアクセサリーが光に反射してきらきらと光る。
     十字架だったものがダークネスもどきに形を変えた瞬間、煉が飛び出していた。捻りを加えた一撃が容赦なく穿つ。
    「待ってたぜ」
     ダークネスを倒すことで、煉は自らの癒しを得る。そしてそれが煉に取っ手の至上の喜びなのだった。

    ●狙われる藤太
    「考える時間はボクらが作る、その間に腹を決めるんだ……」
     ダークネスもどきの存在にも気づかず、苦悩し続ける藤太に千尋が声をかけて走り出す。ふわりと軽やかに舞うような動きで槍を扱う。
     それに合わせて宗汰が自らの影を走らせる。大きく口を開けた影がダークネスもどきを飲み込む。
     千尋とはコルネリウス関係で共闘した縁がある宗汰だ。影に飲み込まれたダークネスもどきを、千尋が捻りを加えて鋭く穿つ。
     衝撃に不気味な声を上げたが、煉や千尋を狙わずに迷わず漆黒の弾丸を藤太に向かわせる。
     藤太に攻撃が入ってしまうと思った瞬間、砌が息を飲む。守りたいと思うことで、藤太は守れる。
     しかし、庇うことで負うことになるダメージは大きい。すぐにアガタが弓を構えた。
     そして癒しの力を秘めた矢が、迷うことなく砌に飛ばされる。さらに笹さんが回復していく。
     藤太に夢中になっているダークネスもどきに、桜太郎が強烈な斧の一撃で叩き斬る。さらにルコがシールドで殴りつけ、砌がビームを放った。
     しかしダークネスもどきの意識は灼滅者には向かわない。紅太が放った炎を避けたダークネスもどきが、藤太に向かって飛び出した。
     拳が藤太の体を殴りつける。
    「っ……!」
     三人でローテーションすることで、藤太を守ると決めていた。砌の次は紅太ということで、守りたいと思った瞬間に体に衝撃が走る。
     慌てた笹さんが急いで紅太を回復していく。そして心配そうに紅太の頬に体を擦り付ける。
     そんな紅太に、アガタが再び癒しの力を秘めた矢を放つ。回復してもらって、大丈夫と言うようにそっと紅太が笹さんに手を伸ばす。
     するとふわりと笹さんが滑り抜けていく。大丈夫なら平気よね? と言った感じの笹さんは、どうやらツンデレのようだ。
     藤太を三人が守っていてくれるおかげで、他の仲間は敵に集中することが出来た。宗汰が魔法の矢を放つ。
     貫かれて体を丸めたダークネスもどきに煉が迫る。殴りつけるのと同時に魔力を流し込んで体内から爆破させる。
     爆破の衝撃に後退したダークネスもどきの体に糸が絡みつく。美しい動作で指を動かした千尋が、そのまま鋼糸を敵に巻きつけていく。
    「いっくよー」
     身動きが取れずに暴れるダークネスもどきに、桜太郎が迫る。オーラを集束させた拳で連打していく。
     容赦のない攻撃に弾き飛ばされたダークネスもどきが、ソウルボードの床を転がった。しかしすぐに体勢を立て直したダークネスもどきは、怒りの咆哮を上げるのだった。

    ●繋がり
    「……これはけっこう効きますね」
     冗談なのかどうなのか、微笑みを浮かべているルコを見るに判断は難しい。そのままオーラを癒しの力に転換して自らを癒していく。
     アガタもまた癒しの矢を放つ。この戦いで回復し続けなければいけないアガタの担う部分は大きい。
     それに協力して回復を続ける笹さんも同じだ。誰かが倒れれば藤太を守りきることが難しくなってくる。
    「そろそろ終わりにしようぜ」
     再び影を走らせた宗汰が藤太を守る仲間にも聞こえるように声を出した。大きく口を開いた影が、逃れようと動くダークネスもどきをとらえて飲み込む。
     暗闇に閉じ込められたダークネスもどきから不穏な声が上がる。ふわりと舞うように動いた千尋から伸びた鋼糸が再び巻き付き、動きを封じていく。
     身動きが取れなくなった体に、砌が白光を放つ強烈な斬撃を加える。鋭利な刃の攻撃にふらついた体に桜太郎が斧を振り下ろす。
    「これで終わりだな」
     煉が言うのと同時に死角から斬撃を加える。斬り裂かれたダークネスもどきが空気を震わせて悲鳴を上げる。
     そして静寂が包み込む。頭を垂れた藤太がそこにいた。
     夢の中で灼滅者が藤太にしてあげられることはもうない。ソウルボードからアパートに戻って、改めて藤太を見る。
     目を開けた藤太が夢の中にた灼滅者たちを見て、驚きで起き上がる。しかしすぐ頭を抱えて涙を流す。
     始まりはバイト代が盗まれ事だった。目の前が真っ暗になると紅太も思う。
     けれど誘惑に負けてしてしまったことは許されることではない。
    「やりきれねーな」
     藤太を見て、思わず呟いていた。どうやっても罪を消すことも、罪悪感をなくすことも出来ない。
     シャドウが罪悪感をなくさなければここまで藤太は堕ちなかった。そう思うと宗汰は思わず拳を強く握っていた。
     けれど最初のきっかけを作ってしまったのは藤太であることに変わりはない。
    「自首しかないと思う」
     涙を零す藤太に宗汰がはっきりと告げる。自分自身から逃げることは出来ない。
     逃げられない事実を受け入れた方が藤太自身も救われると宗汰は思う。しかし赤の他人の自分に偉そうに言われても、藤太も困惑するだろう。
     多くを語ることはしない。けれど、自首しに行く藤太に付き添ってもいいと宗汰は思っていた。
    「上手く言えねえけどさ、独りで抱え込みすぎ」
     言葉を探しながら紅太が、誠意パイ気持ちを伝えようとする。何かあったら話して頼ってみたらいい。
     きっと親も力になってくれる。
    「これも何かの縁、オレらも力になるぜ」
     顔を上げた藤太をまっすぐ見て紅太は告げる。その瞳に嘘がないのが伝わる。
    「ありがとう」
     小さく呟いた藤太は携帯を取る。ディスプレイに表示されたのは親の番号。
     紅太が用意していたメモに、アガタがそっと近寄る。両親に真実を話す藤太の声が聞こえる。
     そっと部屋を出た灼滅者たちを真冬の冷たさが襲う。
    「また一つ、悪夢が終わる……」
     眼鏡を外して拭きながら、千尋が呟く。そしてオルフェウスの目的は何なのかと思う。
     罪を贖うように懺悔させて、それを利用してさらに罪を重ねさせる。一体何がしたいんだろうと、藤太がいるはずの部屋を振り返る。
     部屋の中に置かれたメモには、紅太の番号とアガタのメッセージがある。
     君の心は変えられる。君自身で変えられる。頑張れ、藤太!

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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