ゴーストドール

    作者:四季乃

    ●Accident
    「小さい頃はさ、お人形さんで遊んだものよね。おままごとしたり、一緒のお布団で眠ったり。今だってテディベアは好きだし、ストラップだって可愛いものがいっぱいあるもの。わたし、好きよ」
     熱々のカフェオレに口を付けて一言。彼女は言った。
    「下の子もね、この間誕生日に大きなテディベアを買ってもらって喜んでたの。それから毎日何をするにも一緒。お風呂にまで連れて行こうとするくらいなの。でもね、ある日部屋にあるお人形さんをぜぇんぶ押入れに詰め込んじゃった。びっくりしてどうして? って訊ねたら、怖いからって言うの」
     何でもその末っ子が通う幼稚園では、とある噂が流行っているようで、お人形を大事にしない子どもは、お人形に変えられてしまう。そんな内容だったらしい。
    「部屋にあるお人形が、変えられた人間かもしれないって思ったらしいのよ。それを聞いたら、何だかわたしまで気味が悪くなっちゃって。机に飾っていたフランス人形、しまっちゃったわ。…ねぇ、あなたの部屋に、お人形さんはあるかしら? 大事に、している?」

    ●Caution
    「発端は、物を大事に扱うと言う事を望んだ先生方の作り話でした」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者達に今回の事件について話し始めた。
     彼女が言うには、とある幼稚園に通う園児が、お人形の取り合いで喧嘩になったらしい。その時、引っ張り合いで腕がもげてしまった人形があって、それを目にした先生が園児達に「お人形を大事にしない子の元にはお化けが来るのよ。そのお化けがあなたもお人形にしちゃうわよ」と言って聞かせ、大事にするように促したそうだ。
    「それが事の他効いたらしくて、みんな怖がってお人形さんで遊ばなくなってしまったみたいなんです」
     その噂が園児の兄妹に伝わり、それが小学校でも流行り出してしまい、遂には都市伝説となって実現しまったと言う次第だった。

    「都市伝説はマリオネットのような姿をしています。見た目は小学校低学年ほどの、小さな女の子です。出現場所は、件の幼稚園。出現条件は、お人形さんをいじめている事」
     幼稚園には様々なおもちゃやお人形がある。そのお人形を借りるか、拝借して演技を行うのが心苦しければ持参しても構わない。
     取り合ってみたり、ぶん投げてみたり、振り回してみたり、悪役にしてみたり、成敗してみたり。壊れず、傷付かない程度に加減をして演技をしてもらいたい。
     今回の作戦は、全員で取り組んで盛大に仕掛けても、囮と奇襲と二手に分かれても構わない。この都市伝説はそう強い敵ではないので、油断さえしなければ灼滅するのは難しくないだろうと姫子は言う。
    「ちょっと恥ずかしいかもしれませんが、思いきって演技なさって下さいね。室内には滑り台やピアノがありますので、もし隠れるならそれらを利用して下さい」
     都市伝説は辺りの物を飛ばして来たり、引っ掻いたり、噛みついたりするようだ。グラウンドに面しているので、石やレンガ等も飛んでくるかもしれない。くれぐれも注意して欲しい。姫子は幼稚園の鍵を差し出しながら真剣な瞳で言った。
    「まだ被害者は一人も居ませんし、こういった噂は塗り替えられていくものです。子ども達の為にも、みなさんどうか灼滅をお願いしますね」


    参加者
    如月・縁樹(花笑み・d00354)
    秋津・千穂(カリン・d02870)
    炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)
    三雨・リャーナ(森は生きている・d14909)
    九条・雪音(紅玉姫・d16277)
    櫻井・椿(鬼蹴・d21016)
    橘樹・慧(月待ち・d21175)
    鎌鼬・このか(夢みる魔法のクロニクル・d21358)

    ■リプレイ

    ●闇戯
     月の無い夜だった。
     大きなガラス窓を覆う薄いカーテンの隙間から、道路沿いにある街灯の明かりが広い室内を照らし出している。
    「人の噂も七十五日言うけど…ここまで広まると人形も可哀想に」
     軽く嘆息を吐いた櫻井・椿(鬼蹴・d21016)は、壁際の棚に並べられた人形やぬいぐるみを見渡して、小さく肩をすくめてみせる。
    「流石に他人の人形を無下に扱うのも気ィ引けるわ」
     持参した人形を、懐かしいような恥ずかしいような気持ちでふにふにした。
    「物は大事に。の教訓が元とは言え、危害を加える存在になったら駄目ですね」
     サウンドシャッターの展開を終えた如月・縁樹(花笑み・d00354)は、家から持参したフェルト人形を抱え直し、椿と秋津・千穂(カリン・d02870)を見上げて呟く。
    「この世で一番怖いものは、人の噂。とは良く言うものね」
     千穂は一つ頷き、隣で人形を珍しそうに見つめている三雨・リャーナ(森は生きている・d14909)の横顔を一瞥してから、抱きしめている犬のぬいぐるみに視線を落とした。
    (「フリとはいえこのぬいぐるみ…梅太郎に似てるから痛めるの辛いけど」)
     愛犬である梅太郎に似ているぬいぐるみを見て、千穂は足元にちょこんと座っている霊犬の塩豆へ優しく呼びかける。
    「牽制で唸る位で良いから、塩豆も演技手伝って」
     それから殺界形成を展開し終えた橘樹・慧(月待ち・d21175)を始めとした潜伏組が、ピアノや遊具の物影に隠れるのを見やり、彼女等もそれぞれの人形を携えて準備に取り掛かった。
    (「なんだか幼稚園でかくれんぼみたいだな。昔に戻った気分でちょい複雑…」)
     ピアノの影に息を潜める事にした慧の隣には、ナノナノのこゆきをぎゅううっと抱きしめる九条・雪音(紅玉姫・d16277)が共に隠れていて、辺り一面に広がるほの暗い闇を前に小さく震えている。
    (「お、おうちにうさぎのぬいぐるみ、沢山あるけど、皆大事にしてるから、オバケなんて来ないの…ぜったい来ない、の…」)
     そんな風に脅えている一方で、
    (「フン、人形が動く? バカじゃないの?」)
     と勇ましさたっぷりの態度をつきながらも、実は同じように暗闇が怖くて内心かなりビビっている鎌鼬・このか(夢みる魔法のクロニクル・d21358)は、滑り台の影で小さくなっていた。傍には炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)も居て、頼もしいのだが、それでも怖いものは怖い。
    (「よし…準備万端だな。みんな頑張ってくれよ」)

    ●遊戯
    (「リャーナの故郷の森には、お人形さんなんて無かったんですよねー」)
     生きたぬいぐるみみたいな、動物がたくさん居たけれど。と、心の中で呟く。だから、触れる機会が無かった人形にちょっとした憧れがあった。
     けれどリャーナは、人形が着ているワンピースのボタンを、プチンプチンと一つずつ手に掛けてゆくではないか。それもそのはず。彼女はほぼ無意識に、寧ろ素の状態で人形の洋服を脱がしていて、すっかり人形遊びに興じている。
    (「……まぁ、動物さんたちに人形の如く玩ばれたのは、どっちかって言えばリャーナのほうでしたけどね……」)
     突然そんな事を思い出し、ズゥン、とテンションが落ちる。するとその時、元々脱げかかっていた洋服が脱げ落ち、指先から人形までもが落っこちた。
     ガァンとショックを受けているリャーナを横目に見ていた椿は、複雑な表情を浮かべていたが「最悪なンは芝居と疑われて出てこん事やしなぁ」と、意を決すると大きく息を吸い込み――。
    「えええぇーいッ!」
     人形の足を引っ掴み、ブン回し始めた。ジャイアントスイングだ。グルグルと高速の回転で振り回しただけでは飽き足らず、流れるような動作で壁に押し付けると、
    「…ゴルァ―…てェィッ! ゼイッ! このッ!」
     全身から負のオーラを噴き出しながら、ドスッドスッとボディーブローを炸裂させる。そう、大きなうさぎへ拳をめりこませる、あのママのように!
     一方。
    「人形は縁樹が作ったんですよ! 本を読みながら頑張りました!」
     そんな椿とは対照的に、お日様のような笑みを浮かべている縁樹は、手製の人形を掲げていた。千穂がそれを、興味深そうに覗き込んでいる。
    「この子より、貴方の持ってる人形の方が可愛いー」
     褒められた事に笑みを浮かべる縁樹だったが、千穂は自分のぬいぐるみを差し出してきて、きょとんと目を丸くする。
    「ねえ交換しましょ? というかむしろ頂戴!」
    「だ、だめです! これは縁樹のなんです! 取っちゃ駄目なんです!」
     取られそうになってヤダヤダと首を振る縁樹の悲鳴に、きりっとした顔だがいささか棒読みにぐるると喉を鳴らす塩豆、それからにこにこと笑顔で縁樹の人形を引く千穂に、「こンのぉぉぉぉ!」と拳が止まらない椿に、未だに脱がす手の止まらないリャーナ。
     まるで地獄絵図のような光景だった。
    「お人形さんをいじめる子はだぁれ?」
     そこへ訪れた、幼い言葉が一つ。

    ●戦戯
     カタカタ、と奇妙な音を鳴らすソレを見て、囮組は小さく息を呑んだ。どこにも糸は付けられていないのに、小さな少女の姿をしたマリオネットが一歩ずつ、こちらへと歩み寄って来る。彼女達は脅えた様子で、身を寄せ合った。
    「お人形さんをいじめる悪い子はだぁれだ」
     一歩。一歩。また、一歩。
     少しずつ、こちらへと近付いて来る。
     手を伸ばせば届く距離に近付いた時、リャーナが暗闇を切り裂くような悲鳴を上げた。マリオネットのぎょろりとした大きな瞳が、彼女に向けられる。
    「悪い子にはおしおきしなくちゃいけないんだよ」
     そう言って、マリオネットの左腕がゆっくりと持ち上げられた。
     カタン、と別方向から聞こえた音。振り返ると箱に詰められていたおもちゃが宙に浮かびあがっている。敵のポルターガイストだ。瞬時にそう判断した、その時。
    「そうはさせるかっ」
     マリオネットの首が背後を振り返るよりも早く、物影から飛び出した慧が、バベルブレイカーを振り上げ、ドリルの如く高速回転させた杭を背面へ突き刺す。彼のライドキャリバー、ママチャリ号も突撃して攻撃を繋げると、宙に浮いていたおもちゃが箱の中に落ちる。
     突然の攻撃に状況が理解出来ないのか、困惑しているマリオネット――否、都市伝説。そこへ、別の物影から飛び出した雪音が影喰らいを放ち、マリオネットを濃い影で飲みこんでしまう。
    「なにするのぉっ!」
    「お、おとなしく、して下さいっ」
     あれは都市伝説。お化けじゃない。お化けなんかいない。雪音は自分にそう言い聞かせていたが、こゆきと一緒になって涙目だ。しかもこのかは、肉眼で都市伝説を確認してからと言うもの、放心気味で、一歩も動けない。
    「……大丈夫、頭の中はかつてない程にクリアよ」
     やっぱり態度は勇ましかった。
     じたばたと暴れる都市伝説を目にした淼も続き、その懐に飛び込むと、雷に変換した闘気を宿した拳を強く握り締め、下からえぐるように抗雷撃を撃ち込んだ。
    「お前を灼滅しなくちゃなんねぇんだ。悪く思うなよ」
    「きゃあああっ!!」
     高く突き上げられた都市伝説を見、千穂が螺旋の如き捻りを加えた槍を突き出し、その胸部を穿つ。
    「大事にしないなら変えてしまえの力業では、何も変わらないもの」
     その傍らを駆け抜けて行ったリャーナは、地を蹴って都市伝説の元へと飛び上がると、握り締めた無敵斬艦刀、諸刃刀「春一番」をめいっぱいに振り上げて、その細い身体に超弩級の一撃を叩き込んだ。
     そのまま地面に倒れ込んだ都市伝説は、ヨロヨロしながら起き上がる。
    「さぁ、縁樹と一緒に遊びましょ!」
     そこへ、解除コードを唱えた縁樹が、パッショネイトダンスで翻弄する。くるくると弄ばれるように目を回すマリオネットに向けて、塩豆が斬魔刀を持って背面から斬り付ける。
    「痛いよぉっ! お人形は大事にしなくちゃいけないんだよ!」
     高く鋭い声を上げて、都市伝説はがむしゃらに腕を振り回した。作りものの爪が肉を引っ掻く。血が飛び散る。攻撃を浴びたこのかは、キッと表情を変えると、アンチサイキックレイを放った。
    「バカにしてると、痛い目見るんだから!」
     魔力の光線を浴びて、都市伝説は「眩しい!」と喚き顔を覆い隠して悶える。所々異形さを放っているが、まだ幼いその姿を見た椿は、
    「小さな女の子に攻撃するのは気ィ引けるけど…」
     と、少々やりにくそうに片腕を異形巨大化させながら、ぽつりと呟く。
     しかし、それを勢いよく振り上げると、淼の腕に噛み付いた都市伝説を横から薙ぐように吹き飛ばした。玩具箱に激突して崩れ落ちた都市伝説は、「うう」と短く呻く。
     すぐには起き上がれない程の威力だったのだろう。中々起き上がらない様子に気付いた雪音は、咄嗟にこゆきにふわふわハートを使用するように指示を出した。こゆきは都市伝説の方を見ないようにしながら、このかの傷を癒しにかかる。
    「人形を大事にしない奴だけじゃなくて、友達って思ってた子も一杯いるだろ」
     足元の影をうねらせながら、慧は、都市伝説を真っ直ぐに見据えて呼びかける。「友達…」と小さく呟いたマリオネットは、おもちゃの山の中で顔をあげた。
    「お前のせいで、怖がって押入れん中に仕舞っちゃってんだ。友達怖がらせんのやめろよな!」
    「!」
     ぶわり、と広げられた巨大な影。それは見る間に触手へと変貌すると、都市伝説の肢体に絡みついて離れない。すかさず千穂も影縛りを放って、更にその身体を絡め取っていく。
    「ヤダヤダ! やめてよっ!」
     ミシミシと身体が軋む音が、不気味に響く。しかし臆することなく踏み出したリャーナが、真正面から飛び込んでフォースブレイクで胸部を殴り付けると同時に、体内へと魔力を流し込む。
    「ちょっーと痛いかもしれないけど、我慢してくださいねー」
     トン、と軽やかに後ろへ飛び退いた刹那、マリオネットの身体が突如爆発。口からモクモクと黒い煙を吐き出す都市伝説は右へ左へよろめいて、足元がおぼつかない。
    「許さないよ…こんな事…しちゃう、悪い子は……許さないの…」
     カタカタカタ。首から下はぐったりとしているのに、瞬きしない両目がぐりんと持ちあがり、灼滅者達を睨み付ける。
    「ナ、ナノッ」
     うっかり目を合わせてしまったこゆきが、ビクッとして飛び上がる。怖いのを必死で耐えるように淼の傷を癒してあげ、隣で雪音もその不気味さに小さく肩を震わせながらも何とか影喰らいを放っていた。
     このかも脅えているのではないかと思いきや――。
    「大丈夫、心配しないで」
     彼女は自分の役割を全うするべく、恐怖の色を見せてはいなかった。
     このかが悪しきものを滅ぼす鋭い裁きの光条を都市伝説に向けて放つと、その眩しさに敵は「うっ」と身じろぎした。しかし都市伝説は再びポルターガイストを起こすと、本棚の図鑑を投げつけて抵抗してくる。
    「っと…危ねぇな…!」
     慧を目掛けて飛来するそれを拳で受け止めた淼。
    「本は投げるもんじゃねぇぞ」
     そのまま強く地を蹴り、縛霊撃で力の限り殴り付ければ、休む暇を与えぬ速さでママチャリ号の機銃掃射と塩豆の六文銭射撃が、左右から挟み込むように撃ち出される。
    「うぐっ…!」
     倒れそうになったのをすんでの所で踏みとどまった都市伝説は、両手の五指を広げると、交差するように腕を振り下ろし、灼滅者達を切り刻まんとする。
    「だいっっきらい!」
     パシンッ、と乾いた音が弾ける。血が舞う。しかし彼女等は屈しない。
     そこへ、突如パリパリッと電気の音が室内に広がった。それは次第に大きな閃光に変わっていく。マテリアルロッド「依木の杖」を握り締めて、雷を引き起こした縁樹は、腕を大きく振り上げた。
    「縁樹の雷は痛いですよ! そーれッ!」
     そうして撃ち落とされた雷は、都市伝説の頭から足元まで真っ直ぐに貫き、その衝撃で遂に腕が片方もげてしまった。
     がくり、と膝を突いた都市伝説は、地面に落ちている腕を驚いたような表情で見つめている。「何で?」「どうして?」と口から零れる疑問は何に対してかは分からない。
     分からないけれど。
    「ごめんな。でももう…」
     眼前に現れた椿を見て、尚も抵抗の素振りを見せる都市伝説。その時、大きな音を立てて窓が開け放たれた。恐らく最後の力を振り絞ったのだろう。ビュウビュウと冷たい風が室内に吹き込んで、さらされた肌を噛んでゆく。
     その冷たさに僅かに目を細めた椿は、襲いかかるレンガのそれを、マテリアルロッドで難なく撃ち払った。都市伝説の双眸が、大きく見開かれる。
    「これで終わりや」
     一歩踏み出すと同時に、その胸部へマテリアルロッドをめりこませる。耳元で「ケフッ」と咳き込むのが聞こえた。けれどそこに熱量はない。
     そのまま魔力を流し込むと、都市伝説の口から小さく悲鳴が上がった。先ほど受けた攻撃の感覚を、覚えているのだ。流し込まれるそれをどうする事も出来ず、少女のマリオネットは内側から爆破。
     耳を貫くような衝撃音が風に流されて消え、辺りに静けさが戻る頃。
     肢体が吹き飛び、床の上に横たわる少女のマリオネットには、敵意も心も何も残っていなかった。

    ●夢戯
    「物は大切にしなきゃ、ですね」
    「勿体ないおばけな都市伝説も退治したし、これでお人形さんたち、遊んでもらえるわ」
     おもちゃはおもちゃ箱へ。本は本棚へと片付けながら、縁樹はにこにこと微笑む。一緒に掃除をしていた千穂も、安堵したように笑みを零した。
     整頓されていく人形やぬいぐるみ達を見つめている雪音は、何だか遊びたそうにふよふよしていて、とても微笑ましい。このかも一緒になってそれを見つめている。
     そんな様子を眺めていた慧は、手身近にあった小さなテディベアを手に取ると、ぽつりと呟いた。
    「幼稚園では可愛いぬいぐるみって言えば女子のもんみたいなとこあったから、ぬいぐるみで遊んだ記憶ないんだよな」
     まぁ、交ぜてってって言うのも気恥ずかしかったしな。と心の中で思い、慧は小さく笑う。
    「大事にしてると良いお化けが来るって噂の方が…けどお化けは嫌か」
     少し汚れてしまった自分の人形の汚れを払い、椿が言う。みんな上手く手加減と演技をしたお陰で、どれもこれも破れたり壊れたりした様子はないようだった。
     それから程なく。
     重たい図鑑の最後の一冊を本棚に差し込んだ淼は、腰に手を当てて灼滅者達の方を振り返った。
    「さて。それじゃあ、帰るか」
     灼滅者達はその言葉ににっこりと頷き、皆揃ってその場を後にしてゆく。
    「大事にしてくれる子供たちと、すてきな夢を」
     扉を閉める間際に呟かれた千穂の言葉は、夜のしじまに溶けて消えていった。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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