新宿のとある雑居ビル。
夜も更け、殆どのフロアで働いていた人々は帰っていたが、まだ灯りの点いている部屋もある。
残業か、夜通しの仕事をしているのだろう。
人の出入りは殆どない時間帯。
鍵の壊れた3階の空き部屋から、のっそりとライオンに似た猛獣と武装した人影が現れた。
白衣を着た女性、巨大な獲物を手にしたスーツ姿の男性、そして頭に黒光りする角を生やした中学生くらいの少女。
ちぐはぐな印象を受ける一行は、静かに窓の外に街並みが見える階段を降りて行こうとしているようだった。
虚ろな瞳は、ただ眠らぬ街の光を映すだけ。
――しかし。
「よーし! これでひと段落だ」
「お疲れ、ちょっとコーヒー買ってくるよ」
「おう、ありがとな」
「今晩中にもう一件手をつけておきたいなぁ」
小銭を持って同じ階の部屋から出てきた男性が、運悪くその後姿を見てしまった。
くるり。
生者とは思えない動きで、奇妙な一同が振り返る。
「あ、え……?」
「おい、どうし……うわあぁっ!?」
異変に気付いて仕事場から顔を出した同僚が見たのは、胴を杭打たれた男性の背だった。
「……」
巨大杭打ち機を男性から引き抜いたスーツの男は、崩れ落ちる被害者には目もくれず同僚に向き直る。
「ヒッ……や、やめ」
横合いから激しい衝撃。
いつの間にか接近していた獣の顔が、燃え盛る縁取りで視界を埋め尽くす。
彼の意識は、そこでブラックアウトした。
「病院の灼滅者達がアンデッド化してしまうなんて……」
話を聞いた矢車・輝(スターサファイア・dn0126)は、沈痛な呟きを零した。
灼滅者達が殲術病院を襲撃から守った件は、まだ記憶に新しい。
しかし、それ以外のケースで病院勢力は多くの人造灼滅者を失っていた。
「恐らくノーライフキングの手でアンデッドにされてしまったのだろう。一様に新宿周辺に出現していることを考えると、そこで何かを探しているのかも知れないが……」
それ以上は予知出来なかったと、土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)は目を伏し首を振る。
「彼らはほぼ生前の姿のまま、殲術道具を操ったりダークネス形態でサイキックを扱ったりして攻撃してくる為、通常よりもかなり強いアンデッドと言える。通常は人に見付からないよう移動しているが、運悪く出くわしてしまった者は、この男性達のように殺されてしまうだろう」
浮かばれない彼らの為にも、奪われてしまう命を救う為にも、倒して欲しい。
それが、今回の依頼だった。
「アンデッド達は4体で行動しているようだ。白衣の女性はエクソシストで殺人注射器を持ち、スーツの男性はダンピールでバベルブレイカーを使用する。獅子の姿をしたファイアブラッドは、縛霊手相当の攻撃も使えるようだな。最後は神薙使いの少女だが……マテリアルロッドを手にしているようだ。それぞれ、人造灼滅者としてのサイキックも加えた中から、幾つかの技を使用してくるだろうな」
人間の姿よりもダークネス形態の方が若干強く、レベル的にも羅刹の特徴を持つ神薙使いの少女が一番強いという。
「回復の要でもあるようだから、彼女に対してどう対処するかで戦い易さがだいぶ変わってくる筈だ」
そう告げると、剛は彼らと遭遇する場所とタイミングについて話す。
「バベルの鎖を掻い潜って仕掛けるタイミングは、2回ある。一度目は、彼らが雑居ビルの3階の空き部屋に潜んでいるところに奇襲を掛ける方法。もうひとつは、雑居ビルから出てきたところで待ち伏せする方法だ」
空き部屋に奇襲を掛ける場合、外に比べると多少手狭だが戦闘は可能。
ただし、まだビル内に残っている一般人が巻き込まれないように注意を払う必要がある。
「物音に気付いて空き部屋に来てしまったり、壁や床が壊れてご対面、なんてことになったら拙いってことだね」
輝は思案顔だ。
後者の場合は、雑居ビルの側に更地になったばかりの土地があるので、出入り口で襲撃後そちらに誘導して有利に戦える可能性が高い。
だが、その代わりビル内で遭遇してしまった男性達と、同じ部屋にいた人々は助けられないという。
それを聞いた輝は悔しげに俯いた。
「病院の灼滅者は、辛い思いをした一般人がなんとかしてダークネスと戦う力を得た人達だった……自分の力が、一般人を傷つけるなんて望んでいない筈だよ」
「そうだな……人命を考えれば道は自ずと決まってしまうが……お前達の身も大切だ。よく考えて、タイミングを決めて欲しい。皆なら、きっと最良の道を切り拓ける筈だ」
灼滅者達を真っ直ぐ見据えて、剛はそう締め括った。
参加者 | |
---|---|
伊舟城・征士郎(アウストル・d00458) |
迫水・優志(秋霜烈日・d01249) |
冴凪・翼(猛虎添翼・d05699) |
蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175) |
水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184) |
火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424) |
災禍・瑠璃(最初の一歩・d23453) |
ゼノヴィア・スペードナイン(ロストスペード・d23502) |
●眠らぬ街の影に
地上の星座のように、闇に街の光が浮かぶ。
その喧騒から少し離れたとある雑居ビルは、5階建てで1階の正面が何かの店舗のようだが、とっくにシャッターが閉まっている。
「建物の西側に階段への通路、エレベーターは……ないようだな」
真っ更の空き地になっている隣の敷地から、迫水・優志(秋霜烈日・d01249)はビルを見上げた。
階段は折り返しの構造で、各階へ移動出来るのはそこだけのようだ。
「恐らくもう一方の非常階段は施錠されているでしょうから、静かに移動するとなるとこちらに限られますね」
答えた伊舟城・征士郎(アウストル・d00458)は、灯りの点る部屋を見遣った。
人がいるらしき部屋は、けして多くはないのだが。
「アンデッドが潜んでる空き部屋はあそこか……」
冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)の表情から、普段の明るさがなりを潜める。
予測でアンデッドに出くわし、殺されてしまった人々の部屋は3階の階段近くのようだが、肝心のアンデッド達が潜むと目される奥の空き部屋の隣と真下の部屋に、煌々と灯りが点いていたのだ。
「拙いぜ」
零す彼女に、矢車・輝(スターサファイア・dn0126)は頷いた。
「あの2部屋の人達を、最優先で避難させる必要があるね。みんなはサウンドシャッターと殺界形成を使うんだったね」
「殺界形成は僕が用意してるよ」
水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184)が声を上げる。
いつもの笑顔の筈なのに、その目には微かに陰りが見えた。
目を配りつつも、輝は続ける。
「空き部屋から距離がある場所の人は、避難誘導が少し後回しになっても、徐々に離れていってくれる筈だよ。後は、戦闘をあの部屋の中で終わらせれば、誰も何も見ずに済む」
「あぁ、そっちは任せたぜ」
優志は口角を上げて見せた。
挙げられた選択肢の中、灼滅者達は揃って空き部屋に踏み込むことを選んでいた。
「避けれる犠牲、わざわざ出すことねぇだろ」
当然だと言う顔をする翼に、
「え? あーいやまぁ、とにかく色々皆を助けないとですね!」
と火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)がぐるぐる目を細めて笑った。
彼女の軽いノリで、重くなりそうな空気が少し払拭されたような気もする。
(「なにせ、あのアンデッド達は……」)
「気にしないで」
蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)の控えめな視線に何かを察したのか、災禍・瑠璃(最初の一歩・d23453)はいつもと変わらぬ笑みを浮かべた。
「人造灼滅者は短命だってこと、みんな覚悟出来ていた筈だもの。同情はいらないよ」
自らが変容しても構わない程の悲願を果たせず、道半ばで逝くこともある。
それでも、選んだ道に後悔しない――もうすぐ12歳になる少女には過酷な決意が、彼女の胸には宿っていた。
「ワタシ、も」
それまでフードを目深に被り、静かに耳を傾けていたゼノヴィア・スペードナイン(ロストスペード・d23502)も口を開く。
「倒しにいくのは、二度目、だけど……慣れな、い」
改造の際にそれまでの記憶を失った彼女にとっては、病院の者達と過ごした記憶が人生の大半を占めているだけに、アンデッド化した彼らと相対するのは辛いものがある。
けれど、ゼノヴィアは「……でも」とたどたとしく繋げた。
「これ以上、死を冒涜させたりは、しな、い。ワタシたちが、眠らせ、る」
「えぇ、屍王の思惑はどうあれ、そう思い通りにさせる訳にはいきません」
征士郎が目を細める。
それが今最善の方法と視線を交わし合い、灼滅者達は雑居ビルの入り口に靴先を向けた。
「……? 今、僕……」
仲間達に続きながら、裕也は少しだけ動揺を見せる。
(「にーちゃん……」)
無意識に過ぎった想いはすぐに掻き消えたが……代わりにポケットの上からカードを確かめるように、そっと撫でた。
●かつての勇姿
鍵の掛かっていない扉が、勢いよく開け放たれた。
雑然とした室内が、灼滅者達の用意した灯りで照らされる。
即座に優志がサウンドシャッターを展開し、殲術道具を身に着けた彼らは攻勢に出るが、反応著しく立ち上がった4つの影は尋常ではない動きでそれに応対した。
征士郎はビハインドの黒鷹とディフェンダーに。
クルセイドスラッシュの一撃に続け、同じくビハインドのにーちゃんと共にクラッシャーを位置取った裕也が、一般人を遠ざける殺気を放ちながらダンピールの男性に向かって槍を手に突進する。
敵はダンピールの男性がクラッシャー、神薙使いの少女がメディックで残る2体はディフェンダーに回ったようだ。
(「大体は目測通りか……」)
LEDライトを床に転がした銀嶺は、クラッシャーのポジションからジャマーの優志と翼と息を合わせて攻撃を仕掛けた。
彼が影業『Symphonie』をダンピールに喰らい付かせている間に、優志の契約の指輪から少女に向けて麻痺を齎す魔法弾が放たれ、
「動くなよ……邪魔はさせねぇ」
翼のウロボロスブレイドが少女に巻きつくべく瞬時に伸びる。
切っ先を避けようとした彼女は、肩に魔法弾を受けピクリと震えた。
彼らも、瑠璃やゼノヴィアのように肩を並べていたかも知れない。
(「だからこそ……望まぬ戦いはここで終わらせてやらねぇとな」)
翼は窓から見える街の灯りを背に、くすんだ硝子玉のような瞳が敵として灼滅者達の姿を映すだけのアンデッド達に思う。
「あっ、倶利伽羅」
ディフェンダーの狩羅の頭から、しがみついていた霊犬がぴょーいと飛び降り、同じディフェンダーとして斬魔刀を構え敵を斬りつける。
「もう、こんな時だけ……」
倶利伽羅はやたらきりっとした顔をしている。
微笑ましい遣り取りだと、『彼ら』が笑うことはない。
生き物では出来ない無茶な動きも交え、乱れなく反撃してくる姿に瑠璃の眉が寄る。
(「知ってるよ。わかるよ。私も、たくさん練習したもの……いいチームだったのね」)
けれど彼女が危惧していた通り、自分達の動きで周囲のものが破壊されることには頓着していない。
取り残された机や棚などがひしゃげ、吹き飛び、炎熱を受けてちょっと嫌な匂いが漂う。
部屋を破壊しないように動作に注意を払える灼滅者達のようには、もういかないのだろう……。
スナイパーとして狙い澄ました瑠璃の大鎌が死を纏って振り下ろされ、男性は癒しを受け付けない状態になる。
ゼノヴィアはとっくにフードとコートを脱ぎ捨て、異形の姿を晒していた。
仮面から覗く単眼でしっかりと彼らを見据えて、右腕――バベルブレイカーを唸らせる。
大振りな武器の一撃は避けられたが、続く仲間の攻撃への糸口を切り拓いていく。
戦闘が始まった直後、輝はサポート達と動き始めていた。
万が一にも一般人が空き部屋に近付かないよう、濡羽色の髪の少女を扉の前に残し、隣の部屋へ。
「私は先に、下の階に向かおう」
「お願いするね、里桜さん」
階下に急ぐ背を見送りつつ、インターホンを鳴らした。
「お前達、急ぐのです! こっちが安全ですよ!! ハリーアップ!!」
プラチナチケットを使った璃理が出てきた一般人を急かすが、流石に同僚とは見られなかったようで。
「管理人さんのお子さん?」
説明する時間も惜しいので、輝はパニックテレパスを使った。
「え、え? あわわ」
「急いで階下に避難して下さい!」
「魔砲少女・真剣狩る☆土星! 弱きものの為に頑張っちゃうです。こっちですよー」
下の部屋に向かった里桜も、状況が飲み込めずぼんやりしている男性2人を怪力無双で担ぎ上げ、部屋を出る。
1階の階段周辺で合流した彼らの許に、無意識に何かを感じた一般人も集まってきた。
「まだ残っている人がいないか、見てこよう」
「わたしは安全な場所まで、この人達に付き添ってますね。輝くん、頑張ってね☆」
璃理はエールと共に癒しの矢を飛ばす。
「翼……負けるなよ」
今戦いのさ中にある親友を思いつつ、里桜も後に続いた。
●せめて、安らぎを
「ちっ、随分削ってくれるぜ」
翼は祭霊光で傷付いたディフェンダーを癒していく。
ヒーリングメインで、と思っていた狩羅も忙しい。
守りを厚くしていたお陰で、危険な時にカッコよく味方を庇って消滅してしまった倶利伽羅を除き、まだ誰も倒れてはいなかったが、敵も健在なまま。
メディックがいないことでより癒しに手を取られる仲間が多く、攻撃の決定打に欠ける感が強いようだった。
超攻撃的布陣による短期決着を目標にするならともかく、長期戦では回復要員の存在が重要だと実感する。
それでもアンチヒールと回復重視の少女への拘束が功を奏し、灼滅者達はダンピールを徐々に追い詰めていた。
「なんっつーか……やり辛い。つーか敵に回すと結構面倒くせぇんだな」
相手の武器や構成を見ていると、翼はどうも自分や兄のことを連想して複雑な気分にもなってしまう。
何処か遠くを見ていたような銀嶺の焦点が、すっと彼に集中する。
(「自分たちが出来るのは、終わらせてやることだけ……」)
非物質化したクルセイドソードが、深々と男性の胸を貫いた。
長引く戦いは、時として思わぬ事態に遭遇する。
男性が膝を折って倒れた、その直後だった。
燃え盛る翼をはためかせ、獅子が放つバニシングフレア。
それは前衛陣のみならず、室内にもダメージを与えていた。
燃え広がりはしないものの、床が突然抜けたのだ。
下の部屋から明るい光が差し込んでくる。
「!!」
アンデッド達だけでなく、咄嗟に裕也を庇って一歩前に出ていたゼノヴィアも崩落に巻き込まれた。
「あららー、安普請ですかねー」
狩羅がちょっと気の抜けたことを呟く。
「ゼノヴィア様……!」
「……大、丈夫」
上から降ってくる征士郎の声に、彼女はあまり変わらぬ調子で答えた。
落下のダメージは些細なものだったし、幸いこの部屋の一般人は既に避難済み。
けれど、より明るい場所で見るアンデッド達の姿は、かつての様相を思い起こさずにはいられない。
「……みんな……」
後を追って降りてきた仲間達と共に体勢を取り戻し、渾身の力を込めて突き出した杭。
捻じ切るようにエクソシストの女性の仮初の命を絶つも、滑り込むように懐に入ってきた神薙使いの少女にマテリアルロッドを突き立てられた。
「っ……!!」
激しい魔力に翻弄され、彼女はついに膝を突く。
「みんな、大丈夫!?」
その時、上階から輝の声が届いた。
ぽっかりと開いた穴から落ちてきた彼は、状況を見てメディックを位置取る。
「ごめん、今必要なのは回復だと思うから……みんながなるべく攻撃に専念出来るようにするよ!」
キュアを帯びたギターの音色が、仲間達に付与された厄介なバッドステータスを取り払っていく。
「……分かった」
優志は小さく頷き、指ぬきのグローブを嵌めた左手で、滑るように導眠符を放った。
「さぁて、神薙にバステ掛け直さないとな! 遊んで貰ってこいよ、リュー」
翼の影から飛び出した虎のシルエットが、少女に喰らい付く。
「……」
トラウマは掛かったものの、彼女は表情ひとつ変えず、黙ったまま。
「ただの操り人形にされちまった、ってことか……こんなこと、お前達だって本意じゃないだろう?」
飛び交うサイキックの音の中に、優志の声が浮かぶ。
こうなる前に手を出すことも、知ることすら出来なかった者達。
霊撃を放つ黒鷹に合わせ、獅子の姿のファイアブラッドの霊魂を、征士郎のクルセイドソード『Puck Robin』が斬り裂いた。
「もっと早くに止めに来ることが出来れば良かったのですが……遅くなって申し訳ありません」
力なく床に蹲る獅子を、眼鏡の奥の青い瞳は悲しげに映す。
ひとり残された少女に、灼滅者達の矛先が向いた。
「貴方達を利用した屍王は許せないし、きっと私が生きてる限り絶対に許さない。でも仇討ちはしてあげられないよ。連鎖は空しいだけだと思うから」
少女を見詰め、瑠璃は効果をブレイクされてしまったドーピングニトロを再び使用する。
「貴方達の誇りは継いで行くから。学んだものは活かしていくから。どうかもう、迷わないで。無念も痛みも眠らせて」
次に回ってきた手順で、少女の巨大化した片腕にエンチャントの破壊を纏った一撃を叩き込む。
「にーちゃん!」
声に合わせて霊障波を発するにーちゃんに背を預け、裕也は床を蹴った。
いつもより強く、相手を灼滅することを望んでいるような気がする。
中空で翳したマテリアルロッドの前に雷が生まれ、稲妻は少女の脳天に直撃した。
突き立てられる電撃に、立ったまま痙攣していた少女の身体がぐらりと傾ぐ。
瑠璃は思わず駆け寄って、床に叩きつけられる前に優しく抱きとめた。
見開いたままの目を、そっと閉ざして横たえてやる。
「終わったな……」
瞑目した銀嶺は、皆と一緒にただの遺体に戻った彼らを少女の許に集め、寝かせた。
●弔いの夜明けに向けて
倒れたゼノヴィアも傷はそう深くはなく、暫くして意識を取り戻した。
「……みん、な」
整列した3人と1体の姿に、色素の薄い唇が震える。
永久の眠りに就いた彼らの表情は、とても穏やかに見えた。
これしか方法はないけれど、これが正しかったのだ。
そう語っているかのように。
(「いつか私達も、貴方がたと同じ場所へ行くから。それまでは進み続けることを誓うから。だから先に待っていて下さい」)
道半ばで尽きた者達を見詰め、征士郎は誓いのように胸の中で呟いた。
「ワタシ、に出来る、こと、は、戦う、コト、だけ……だった、のに」
少し項垂れるゼノヴィアに、そんなことないと輝は首を振る。
「ゼノヴィアさんがみんなと一緒に頑張ったから、彼らをこうして取り戻せたんだよ」
「うん……やっと、みんな静かに眠れるんだね。誰かに操られずに……」
戦いの中で語り掛けたことを、瑠璃は心の中で反芻して、顔を上げた。
「一般人の人が戻ってくる前に、帰ろう」
「そうだな……これだけ壊れていれば、避難した理由付けもし易いだろう」
銀嶺はぽっかり開いた天井の穴を見上げた。
今自分達がいるオフィスもなかなかの状態だが、命が助かっただけで儲けものだろう。
光溢れる繁華街を避けて、灼滅者達はほの暗い道を歩く。
「結局あいつら、何を探してたんだろうな」
首を傾げる翼に、面々が思うのは屍王のこと、探し物のこと。
「今回は阻止出来ましたが、同じようなアンデッドがどれ程借り出されているでしょうか……」
物憂げに青い瞳を巡らせる征士郎。
「セイメイ、朱雀門に行った蒼の王の人たちのどっちかなのかな……」
裕也の言う通り、今学園で認知しているノーライフキングの勢力はそれくらいなのだが。
「新宿というと……先日の戦争での忘れ物とかだろうか。それとも……」
銀嶺も考えあぐねる。
「こんな事をしたのが、あの野郎であっても違っても、死した灼滅者の尊厳を奪ってまで利用した代償がどれだけ大きいのか、いつか必ず教えてやる……」
優志の脳裏に浮かぶ、慇懃な白い屍王の男。
漆黒の瞳に激しい怒りを垣間見せるも、優志は背に感じる冷たさに堪えた。
彼らの眠りを邪魔したくはない。
今は静かに往こう、夜が明ければきっと、葬送の音色に包まれてささやかな別れの場に辿り着くだろう。
作者:雪月花 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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