バレンタインデー2014~パティシエの祭典

    作者:雪月花

     様々な店が並ぶショッピングモールは、いつも賑わっている。
    「今の時期は、何処のお店もバレンタインものでいっぱいだね」
     チョコレートカラーにピンクや赤をあしらった各店頭に並ぶギフト、それを女性達が選んでいる風景を眺めて矢車・輝(スターサファイア・dn0126)が微笑んだ。
    「剛さんは貰う予定あるの?」
    「いや、特には。今年は貰えるアテといえば、母親くらいだろうな」
     なんだか楽しげな彼に、土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)は怪訝そうにしつつも答える。
    「そっか。最近は友チョコとか逆チョコなんていうのもあるし、僕があげるのもアリなのかなぁ。いつもお世話になってるし」
    「別に無理しなくてもいいぞ」
     妙な気を回されて、苦笑する。
    「でも、剛さんって結構甘いもの好きでしょ?」
    「ん? あぁ……普段はあまり食べないが、たまにはな。摂りすぎなければ身体に悪いものではないし、逆に良い時もあるものだし」
    「ようするに、好きってことだね」
     そんなことを話している間に、剛はいつの間にか催事用のフロアの前まで来ていることに気付いた。
     今は日本全国、そして世界の菓子職人達が手掛けた、見た目もお洒落なお菓子が沢山ディスプレイされている。
     こういったモールやデパートでは折々に開かれる催しだが、今回は特にバレンタインの時期とあって、チョコレート関係のお菓子が中心になっているようだ。
     トリュフにプラリネ、生チョコレート。
     チョコレートを使ったケーキやクッキー、珍しいお菓子などなど、説明や監修したパティシエの紹介文が付いた見本の側に並ぶラッピングにも高級感が漂っている。
     お菓子作りの材料が並ぶコーナーもあるが、こちらも有名パティシエ御用達のものだという力の入りようだ。
     大切な人への贈り物だから味見も必要、ということなのか、場内には特設のカフェコーナーまであって、売られている商品をお茶と一緒に楽しんでいる客の姿も見られ、コーヒーや温められたチョコレートの芳しい香りが漂ってきた。
    「あ、あのお店のガトーショコラも売ってる! 凄く美味しいんだよ」
    「……」
    「どうしたの?」
     輝は硬い表情で動こうとしない剛を見上げる。
    「いや……ここを普通に入っていくのは、かなりハードルが高いぞ」
     バレンタインをドーンと前面に押し出した売り場にいるのは、やはり女性ばかりだし。
    「うーん……じゃあ、みんなで来れば良いんじゃないかな!」
    「!?」
    「貰う側でも偵察したい男子もいるだろうし、女の子でも気になるけど雰囲気で入り難いって人もきっといるだろうし……こういう時は『みんなで渡れば怖くない』でしょ?」
    「それはちょっと違う気が」
    「よし、早速みんなを誘ってこよう」
     さっさと学園の方に去っていく輝。
    「どうしたものか……」
     剛は放って帰る訳にもいかず、呆然と頭を掻いた。


    ■リプレイ

    ●甘い香りの中で
    「わぁ、チョコレートの甘い香りがする!」
    「いいにおいー! ねー、どこから回るのー!?」
     安寿が息を吸い込み、志歩乃も嬉しそう。
    「俺は、変わった組み合わせのチョコレートを見て回る予定だ」
     折角のプロの技に触れる機会だからと部員に同行した陽己は答える。
     広い催事場を余すことなく飾るお菓子は、本当に様々。
     繊細なバラや犬や猫、可愛い動物の形のチョコもあって目を奪われてしまう。
     野菜を取り入れたものもある。
    「色々あるんだな、とりあえず全種類貰おうか」
     陽己がカラフルな野菜チョコを選ぶ傍ら、こんなに色々あるなんてとキョロキョロしていた志歩乃は、冷蔵ケースのザッハトルテやプリンを選ぶ。
    「バレンタインですか。わたくしにそういう恋愛沙汰は遠い未来ですわね」
     爪先立ちでキョロキョロしていたハチミツは、羨ましそうに溜息を零す。
    「僕はおいしいの買って、バレンタインプレゼントと一緒にお母さんにあげるんだ。僕用のもちゃんと買うけどね!」
     藤孝は無邪気に笑う。
    「まぁ、そうですの」
    「この花籠チョコレートと飴なの? すごくきれい!」
     ちょっと高いけど、藤孝は母にこれを贈ることにした。
    「荷物持ちは太冶くんがしてくれる筈だから、心置きなく色んなチョコレート買っても大丈夫よね?」
     職人御用達の粒チョコを手に取った安寿の声に、えっと振り向く陽己。
    「ああ、そうだな。他に男手もないし俺が持って回ろう」
    「太治さん僕男だよ! 荷物持ち僕もやる!」
     頼もしい藤孝に、少し荷物を分ける。
     簡素な仕切りで隔てられたカフェコーナー、剛の前に運ばれてきたケーキにハチミツは目を瞬かせた。
    「まぁ、美味しそうなケーキですこと。お買い物が終わりましたら、後程一緒にお紅茶でも如何かしら?」
    「あぁ。暫くはいるから、ゆっくり回ってくると良い」
     座りが悪そうだった剛も、俄かに笑みを浮かべた。

    「やっぱりこの時期のこの売り場は、人が多いですねー」
     最近猫姿が多い銀嶺を連れて、真夜も訪れた。
    「銀さんはどんなチョコが好きですか?」
    「それよりは血が……いやなんでもない」
     仄かに香る桜のチョコを手にする真夜にぽつりと零すも、抹茶チョコは嫌いじゃないと言い直す。
     チョコを選ぶ女性達を見ると、どうも美味しそうか否かで判断しそうになる。
     吸血的な意味で。
    「あっ、剛さんと輝もきてましたかー」
    「真夜さんと銀嶺さんも、一緒にどう?」
    「美味しそうですね」
     銀嶺の視線がケーキに行くのを横目に、真夜はカフェに向かう。

    「うわ、高ェなぁ……やっぱ手作りが安上がりだし簡単か」
     友チョコリサーチ中の円が値札を眺めていると、見覚えのある姿。
    「おん? 純也じゃん。一人で何してんの」
    「学習中だ」
     手帳にペンを走らせていた純也が手を止めた。
    「諸事情あって、どのような形式に取り纏めれば先達各位に協力願えるかを考えている。……其方も見学か」
    「俺の目的はもっと俗世間的なモンよ」
     面白い奴とカラカラ笑う円を、怪訝に見る純也。
    「俗世間的、の内容公開を希望する」
    「俗世ってのはアレだ、つまりチョコ欲しいって下心だっつーの言わせんなよ」
     暫く一緒に売り場を回る。

    「それでは各自、目的の物を探して行動開始!」
     煉火は早速、手当たり次第に篭に投入。
     お手頃なビスケットを確保したひなたは、真の目的である自分用を探し始める。
    「アソート系が手頃かなぁ、でもザッハトルテとかイイよね」
     1ホール独り占めとか夢のよう、うっとり。
    「中山くん、このクッキーならもみじも食べられるんじゃない?」
    「あらまぁ、きっともみじが喜ぶわ!」
     ひなたはナノナノの顔を思い浮かべ、煉火に礼を言う。
     友チョコ義理チョコ&自分用!
    「後は材料ね。彼の為に良いモノを使ってみたいわ」
    「みんなは結構色々な人に配るんだ、それだけお友達が多いってことなんだね。桐もいっぱい友達つくりたいな」
     時間を掛けて材料を選ぶ櫂に、桐は目を輝かせた。
    「ガナッシュ用のダークチョコと……あとヌガーの材料ってなんだっけ」
     手作り挑戦の為、材料を眺めるマキナにそっと煉火が寄る。
    「な、なぁ江楠くん……キミも本命チョコを作る同士だよな?」
     ちょっと参考にしたくて、と声を潜める彼女に笑み、
    「私も手作りは初めてだから簡単な型抜きにするんだ。要は……気持ちだよね」
     マキナはグッドラックと拳を握る。
    「色々買ったね。じゃあ今度はハウスの男子達に恵んでやるチョコをみんなで買おうよ」
     自分用のチョコは確保したヒョコの声に、同じクラブの男子へのチョコを買うことに。
    「やっぱり男の子は大きさ重視じゃない?」
     木彫りの熊風チョコを手に取る櫂に、皆様々な反応を見せる。
    「まあこれはね、来月の為の先行投資だと思って……つらい、お金を使うのは辛いけど……3倍! 3倍の為に……!」
     ヒョコは煉火お勧めのお徳用トリュフに、覚悟を決めた。

     製菓にラッピングの材料。
     一通り揃えた彩希は、お手本も兼ねて食べたいチョコを探す。
    (「自分が美味しいと思えなければ、大好きな人にあげることなんて出来ないもの」)
     最愛の人の喜ぶ顔、笑顔を思い浮かべながら、沢山のプラリネの前で迷う。
     買い物を済ませた烏芥は、そそくさと人気のない隅の階段に向かった。
    「……ユリカゴ」
     現れたビハインドに、これで良いかと袋の中身を見せる。
     その笑顔を催事場で見た人々に被らせ「そんなに楽しいものだろうか」と目を瞬かせた。

    ●目にも楽しく
    「すず先輩、どンなチョこ、探索予定?」
    「ほのりと苦いビターが良いですねぇ」
    「ビたー……苦味、希望? 大人的……!!」
     手を繋ぎ、夜深と鈴音はのんびり歩く。
    「あ! ちりんさン的、チョこ、発見! 可愛……!!」
     ヒヨコのチョコを見付けて駆け出そうとした夜深の手を、鈴音は引き止めた。
    「迷子禁止」
     優しい声に、少女ははっとして謝った。
    「すず先輩。チョこ受領、贈呈。予定、無、の?」
    「秘密」
    「……む。秘密主義さン?」
     頬を膨らませるも、鼻歌交じりに握った手を一緒に揺らして。

     自分の服の端を掴む千尋に笑み、オリガは手を繋ぎ直す。
    「オリガさんはお好きなお店のもの、ありますか?」
    「そうね、私は特に拘りはないかな。……ああ、でも、トリュフのアソートは宝箱みたいで素敵ね」
     オリガの指の先を、本当に宝箱みたいと見詰める千尋。
     彼女はホワイトチョコでコーティングした大粒苺を選んだ。
    「ところで、ずっと気になっていたんだけど」
     オリガがそっと問うと、千尋は若干目を泳がせて。
    「自分のではない、です……オリガさんのですよ?」
    「それは嬉しいな。じゃあ、私の宝箱もチヒロちゃんにあげるわね♪」

    「詩織。はい、あーん」
    「えっ」
     詩織は深景が差し出した生チョコを、驚きながらもぱくり。
     口に広がる上品な甘さ。
    「折角のバレンタインだからさ」
     何処か悪戯っぽく笑う深景に、
    「もう、バレンタインは……女の子があげる日、なんだから、ね」
     頬を染めながら睨んでも、彼は嬉しそうで。
     自分も試食の生チョコを貰い、深景に差し出した。
    「どうしよう! 美味しさと幸せでほっぺが落ちそうだ」
     両手で頬を押さえる彼。一緒に幸せな気分になりながら、詩織は後でこれをこっそり買って帰ることにした。

    「塾の皆様はお茶が好きですから、抹茶のチョコが良いでしょうか?」
    「……お茶にお茶は……あっ、ほ、ほら『とうきびチョコ』だって。こっちでもいいんじゃないかな?」
     世話になっている塾の面々にと、智香と真火は肩を寄せ合い相談する。
    「なるほど……色々あって迷ってしまいますね……あ、水野さん! この苺のチョコ可愛いのです」
    「苺のも美味しいものね……色々買って、後で試食してみようか」
     見て回った後、カフェコーナーで味見することに。
    「……チョコ、ついてるよ」
     智香は思わず真火を見詰めた。
     今日の彼は、なんだかカッコいい。

    ●ほっと一息
     コーヒーも紅茶もよく合うガトーショコラ。
     甘く香るホットチョコレート、苺が映えるチョコのショートケーキ。
    「今日は材料を買いに来たんです。美味しく作れるか自信ない、ので、せめて材料だけでも良いものを……!」
     上手く出来たら招待するというまりに、剛は楽しみだと何処か嬉しそう。
    「先輩はチョコ、あげないんですか?」
    「俺?」
    「最近は男子から渡したり友チョコなんてのもありますし。あ、ほら、輝さんは甘いもの好きそうですし、日頃の感謝を込めて交換したりとか……?」
     彼女の提案に、ちらと輝を見る。
     期待の眼差し。
    「……分かった、何か考えてみよう」
     根負けした剛に、まりと輝は顔を合わせ笑った。

    「いやあ、流石に一人じゃこの空気の中には入り難くてさ。付き合ってくれて助かったぜ」
    「どうたしまして。私もチョコは好きだから問題ないよ」
     昴と千も席に着く。
    「あ、約束通り奢るから、遠慮無く頼むと良いぜ?」
     大きな袋を脇に置いた昴は、以前勉強を教わった礼も兼ねメニューを勧める。
     ホットチョコレートにクッキー。
     そして購入したショコラ・オランジェを広げて。
    「あ、これ美味いなぁ」
    「甘さと酸味が絶妙だよね」
     やっぱりプロの味は違う、と千は買い足そうか考える昴に目を細めた。
    「このホットチョコも美味しいよ」
     一息入れたら、またお買い物。

    「涼子さんも味見どう? 美味しかったらキミんちの兄弟用に持たせようと思うけど」
    「わ、さくらえさんの選んだの可愛い!」
     彼が自分用に買ったブランドのセレクションショコラボックスを勧められ、涼子は瞳を輝かせた。
     ピンクや抹茶、色とりどりのトリュフをお返しに、さくらえのチョコを頂く。
    「私はつい自分の趣味で買っちゃったんだけど……ん、美味しい」
     二人とも喜ぶと笑って、さくらえと一緒にケーキのケースを覗いた。
    「あのガトーショコラとか、ムースとかよさげだよ」
    「スクエア型のやつもいいわよね」
     それぞれ頼んで、半分こ。

    「合宿でタイプはお聞きしました、けれど。紡ちゃん、好きな人、いるの……かな?」
     ドキドキ、華凜が尋ねると紡は小さく頷いた。
    「好きって、言うのか分からないけど……同じ時間、一緒に、過ごしたい人はいるの。少しでも、その人の時間分けて貰えたら、幸せだなって」
     恥ずかしそうに俯く紡、伝わる幸せな気分。
    「華凛ちゃんも同じ気持ちだった? ……あの、どうやって想いを伝えたのか、知りたいな」
     今度は華凜が赤くなる番。
    「去年のバレンタインに……」
     チョコのケーキに想いを乗せて、彼に大好きの気持ちが溶けますようにと贈ったこと。
    「特別で秘密の材料ね」
     恋の話は照れるね、と少女達の内緒話。

    「色々なチョコがありましたけれど、差し上げるならやっぱり手作りでしょうか?」
     ゆまの問いに薫は頬を染めた。
    「実は、お互いにお菓子を作って交換することにしています」
    「わ! お菓子の交換って素敵です!」
     でも、相手の趣味もお菓子作りだと、力が入ってしまうのではと。
    「もし良かったらアドバイス、しますよ?」
    「お菓子作りは得意ではないので、色々教えて頂けると嬉しいです」
    「幸せそうで羨ましいなぁ。もーリア充さんはばくはつですー!」
    「ば、爆発は痛いですよ!? そういえば、水瀬さんはバレンタインのご予定は?」
    「私は何もないので、自分チョコを買って食べます。いいんです、チョコは美味しいから!」
     力説するゆまに、薫は瞬きした。

    「危うく迷子放送かける羽目になる所だった……」
     溜息をつくシスティナとは逆に、宏人は戦利品達とケーキを前に上機嫌。
    「あのでっかい木彫りの熊のチョコ、凄かったなぁ」
    「そうだね」
     ヒヤヒヤしたものの、システィナも嫌な気分ではなかった。
    (「宏人のこういう顔を見ると、何かこっちまで嬉しくなっちゃうんだよね。輝が言っていたガトーショコラも美味しいし」)
    「システィナ、今日は誘ってくれてありがとな!」
     満面の笑みでチョコを分ける宏人に自分のチョコをお返しして、彼も微笑んだ。
    「喜んで貰えたならよかった、また一緒に行こう?」

    「チョコ限定なら、ビターな方が好きかな」
     問いに答え、葉月は茉莉夜をカフェに誘った。
     届いたお茶とガトーショコラに笑みを浮かべた彼女に、切り出す。
    「どうして最近、目を合わせてくれないの?」
     俯く少女のポニーテールが揺れる。胸に抱いた想いが破裂しそうで。
    「葉月さんは……いつも、すごくキラキラして眩しくて……。わたくしは、そんな輝いてる顔出来ないので、引け目を感じてしまって……その」
     可哀想なくらい真っ赤で小さくなっている茉莉夜に、葉月は目を細めた。
    「今のままでも、君は十分輝いているよ」
    「あのっ……ありがとう、ございますっ」
     目尻に浮かぶ光、けれど精一杯の笑顔。

    ●幸せを分け合って
    「素敵なお菓子は見付かりましたか?」
     羽月は、一粒一粒が宝石のように美しいボンボンショコラを出した。
    「どれから食べるかちょっと迷っちゃいます」
    「流石、素敵なの見つけてきますね! コーヒーにも合いますねー」
     カップ片手に結希が唸る。
     苦めが好きという彼女はカカオ70%のチョコ。
     羽月は目を見張る。
    「苦いけど、嫌じゃなくて不思議です」
    「身体にもいいらしいですよ? なんなら99%も買って来ようかっ?」
    「みんなが食べられませんよ」
     息巻く結希に翠は肩を竦める。
    「見て下さい、思わず買っちゃいましたよさきいかチョコレート! ……って何ですか、みんなしてその目は?」
     散々迷ってリンが選んだチョコは、なんというか不評だ。
    「え……こんなのまであったんだ」
    「……完全にふざけてますよね。教室に持って帰るのもなしですよ、臭いから」
     羽月は目が点、結希はジト目。
     翠はやっぱり、緑色のチョコ。
    「見て下さいこの緑! 本当に素晴らしいです!!」
    「え、やたら緑が濃いですけど……ま、抹茶とかですよねっ?」
     結希達は恐る恐る口に運ぶ。
     ……ほうれん草でした。

    「ボクはねー、宇治抹茶の生チョコレートを買ったんだー」
     オリキアは鼻歌交じりに選んだチョコを見せる。
    「私は材料を買ってきたんです」
     火華はトリュフらしき材料。
     料理下手だと言う彼を見返すつもりだ。
    「フッフッフ、ワタシは毎度お馴染ミ、プディングを作成シマスヨ!」
     ドロシーは薄力粉やバターなどもゲットしていた。
    「えっ!! 2人とも手作りするのー……?」
     皆にも渡すので楽しみに、と伊達眼鏡でドヤ顔の彼女を前に、ボクも来年はがんばろー! とオリキアは奮起する。
    「あとあと、食べる用にトリュフチョコレートも買ったんだー♪」
    「おりきあ先輩、これ食べていいんですか?」
     どやっとオリキアが出した『ともちょこ』を覗き込み、火華は嬉しそう。
     彼女の友チョコは当日のお楽しみ。
    「ワタシもヌガーチョコとかも買ったんデシタ」
    「おいしそー!」
    「わっ! ちょーだいー♪」

     席で手を振る修太郎に手を挙げ、郁は向かいに座る。
     何を買うかは秘密、と途中から別行動だったのだ。
    「てか、何か沢山持ってないか?」
    「通販でしか買えないのとか限定品のとか。大條くんの好みはどんな?」
    「あんまり甘いのは苦手なんだが、トリュフってのは結構好きなんで買ってみた」
     修太郎が差し出したトリュフに、作るのは難しそうと思う郁。
    「上品な味ってこういうのをいうんだろうかね」
    「生チョコとかも好き?」
     彼女は生チョコを取り出す。
    「……凄い濃厚だなー。本物は違うなって感じ」
     好みを知り分け合うのも、楽しく嬉しい。

     水華とフィアッセも、買い物の後カフェで合流した。
     紅茶とお菓子を傍らに、話すのは当日のこと。
    「既製品を買おうと思いましたが、熱気に押されて……」
    「フィアッセも手作りにしてくれるのか」
    「お菓子作りなら、ちょっとだけ齧りましたから」
    「ならば少し期待をさせて貰おうか」
     自分と同様菓子作りの材料一式を買った彼女に、水華の口許が緩む。
    「チョコレートにはミルクティーが良いそうですよ」
    「そうだな……明日はロイヤルミルクティーを用意させて貰おう」
     レシピブックを開き、予定を立てる幸福な時。

    「見てもえぇ?」
    「ええ、どうぞ」
     悟の興味津々な様子に、彼は袋の中の材料や包装用品を見せた。
    「すげー大量やな! ほんま細かいし綺麗やし」
    「……パティシエか。そういう将来もいいですよね。小さいお店を持って沢山お菓子作って……君がいて」
     不思議そうな悟を前に呟く想希の頬が、赤くなる。
    「えぇな」
     悟は互いの鼻を交互につついた。
    「想希と俺で、イケメン店員したら流行りそうや!」
     彼の為なら何にでもなる、という悟の手を取って感謝を伝える。
    「俺はこっちのショコラがえぇな」
    「もう……そういうのは当日まで取っておいて下さいよ」

    「ん~、美味しいっ♪ 甘いクリームと、甘さ抑え目のチョコソースの組み合わせがいいよねっ」
     由希奈のチョコパフェが先にきて、幸せそうな彼女を眺めるいちご。
    「いちごくんも食べる? ほら、美味しいよ?」
    「え? あ、いただきます」
     つい言った、そのスプーンは。
    (「ええと、意味わかっているのでしょうか」)
    (「あっ、これ……」)
     彼が赤くなった意味に気付き、由希奈の頬も熱くなる。
    「折角だから……あーん」
    「ど、どうぞ」
     美味しい。けど照れ臭くて目を合わせられなかった。

     買い物を済ませ、家路につく。
     大切な日を心待ちにしながら。

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月13日
    難度:簡単
    参加:53人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 7
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