甘い甘いチョコレートコンフィチュール。
牛乳を加えてドリンクにしたり、パンにつけてそのまま食べたり。
使い方はその人次第。
簡単便利なチョコレートコンフィチュール、貴方も作ってみませんか?
とあるキャンパスの掲示板に張られたチラシの誘い文句に、ミリヤ・カルフ(小学生ダンピール・dn0152)の足が止まる。
「チョコレートコンフィチュール……?」
「コンフィチュール? チョコレートのジャムってことか」
彼女の背後からチラシを覗き込み、一之瀬・巽(高校生エクスブレイン・dn0038)が呟いた。
湯煎したチョコレートに沸騰直前まで温めたエバミルクを加えて混ぜるだけ――という、とてもシンプルなジャムらしい。緩めのコンフィチュールが作りたい場合は生クリームや牛乳を追加するといいんだとか。
「あ、エバミルクの代わりに果物のジャムを入れるタイプもあるみたいです」
果物のジャムを使う場合は濾してピューレ状にし、それを沸騰直前まで温めて湯煎したチョコレートの中へ。
「……ちょっと、参加してみようかな」
ポツリと呟いたミリヤに巽が答える。
「いいんじゃないか? 折角の機会なんだし」
完成後にご試食いただけるよう、パンとミルクを用意しております。
チョコレートコンフィチュールは瓶詰めにしてお持ち帰りいただけます。
ラッピング素材も用意しておりますので、綺麗に包んでバレンタインのプレゼントにいかがでしょう――?
●
「コンフィチュールってどんなのかな?」
「俺も初めて聞くし作るよ。だから事前に少しだけ調べたんだ」
得意げに話す糸維が用意したのはミックスベリー。心日もやはりベリー系のイチゴジャムを準備。
「チョコとイチゴの組み合わせって美味しいよね」
「2人ともリサーチすげェ!」
驚くソニオの手元には、エバミルクとナッツ。
「シンプルイズベスト、ってな!」
「あまり早くかき混ぜたら駄目だって聞いたよ」
心日の言葉に感心し、ソニオと糸維はゆっくりとチョコを溶かす。
チョコとベリーの香りが漂い、3人の食欲をそそる。
つまみ食いは我慢――ただし、指先についたチョコなら……ニッと笑ってソニオは指先をぺろり。
(「んー。留守番してる2人にも自身もってあげられる!」)
すぐにでも口に入れたい思いを抑えて、完成したコンフィチュールをそっと瓶に注ぐ。
「完成したら一口づつ下さい。俺のミックスベリーもあげるんで」
微笑む糸維の隣、心日が綺麗に瓶詰めされたコンフィチュールを抱えはしゃいでいた。
「零さなかったよ、頑張った!」
「留守番の皆にもお土産用意しないとね」
「じゃァ、帰ったら皆でバレンタインパーティーでもやろうか!」
周囲の人の作業を参考にしつつ、小町は慎重にミルクチョコを溶かす。
(「普通には作ることがまずあらへんチョコレートのジャム作りやから」)
少し時間が掛かっても、丁寧に。
「ふじ焦げてる焦げてる!」
希沙の叫びに藤乃の手が止まる。
「依子先輩……いえ、先生、鍋底にチョコが焦げてしまうのは何故なのでしょう」
「羽守姉ちゃんそれマジビターチョコじゃないか?」
「ふ、藤乃ちゃん直接火じゃなく、湯煎湯煎」
思わず突っこむ健、藤乃にボウルを手渡す依子。
「なるほど、お湯で溶かすのでしたか」
「ぎゃー依子先輩どうしよきさのお湯入ってもた!」
「えっ水入っちゃ駄目なのか? せ、先生ー! ボクにも救済をー!」
「希沙ちゃん、落ち着いてお湯は出して」
「煉火さんっ、チョコを入れるボウルは湯煎用の物より大きい物を使ってください」
チョコを溶かすだけの作業に、「刺繍倶楽部」の面々はてんやわんやである。
「百舟さんちょうふぁいとだよ」
ぐっと拳を握り締めるりかが応援する側から、また別の問題が勃発。
「うぅ、香乃果先生滑らかに溶かすコツってありますか……」
「ええと、ゆっくり溶かして、溶け残りの粒は……」
香乃果の説明を聞きながら、依子は軽く息を吐く。
「ふ、香乃果ちゃんは大丈夫そうですわね」
「室本姉ちゃんが一番手馴れてそうだよなー」
メンバーの中で唯一の男子でありながら危なげなく作業をこなす健が感心したように呟く。
「香乃果先生大人気。先生、後で僕の作ったジャムも食べてみてね。いつもいっぱいお菓子もらってるし」
「るりかさんや希沙ちゃんは何を入れるのかしら?」
藤乃の問いかけにるりかが答える。
「ボクはベリーたっぷりめのジャムだよ」
「きさは生クリーム足してチョコにコクが出るよにしたいな」
溶けたチョコに、思い思いの材料を流しいれて混ぜていく。
「オレンジのジャムを混ぜるとさっぱりしていいなー」
少しだけ味見をして煉火が口元を綻ばせる。
「チョコとオレンジは鉄板ですよね」
同意する依子が用意したのもオレンジジャム。
「私はフランボワーズにしましょう」
「僕のはご当地の味! ……って言いたいトコだけど」
さすがに合わなさそうだと健が用意したのは、バナナ。
「私はエバミルクに牛乳を加えてみようかな。希沙さん、味見の交換しませんか?」
「是非!」
そして始まる、味見大会。
「味見は任せろー!」
「クラブでのお茶会わくだくだよね」
るりかの言葉に頷きながらも、藤乃がふと首を傾げた。
「あ、煉火先輩は彼氏さんとお2人で、ですわね」
「ふ、2人で!? いや、ボ、ボクも皆とのお茶会の為にだなぁ……!」
「百舟姉ちゃんあげる相手いるなら食べ過ぎない様になー?」
焦る煉火の頬が、健の言葉でますます紅くなる。
その様子に楽しそうな笑みを浮かべ、希沙が依子に問いかけた。
「依子先輩も彼氏さんに?」
「これは、お茶会で食べられたらなって」
楽しそうな皆の様子に、健がニカッと笑う。
「こんなチョコ祭りもいいもんだな!」
●
湯煎の準備をしながら、王子はふと考える。
(「チョコを溶かす前に、オレンジマーマレードを濾したほうが良いかのぅ」)
慣れぬ作業中の考え事が不味かったのか、彼女の手が熱いお湯の入ったボウルに触れた。
「熱いのじゃっ!?」
――ガッシャン!
「……うぅ、めげぬ……」
ひっくり返ったボウルを片付けながら王子は呟く。
溶かしたビターチョコに木苺のジャムを混ぜて味見をする。
「うん、これ位、かな」
華月の脳裏を過ぎるのは、1年前の出来事――胸に溢れる思いと共に、丁寧に作ったチョココンフィチュールを瓶に詰める。
大切な人との縁の糸の色がそうであればいいと願って瓶にかけるのは赤いリボン。
(「今年はもっと近くに――」)
フランボワーズのピューレと濃いめのチョコレートに、少しだけレモン果汁を落として……。
「これでいい感じになるの」
恋人である自分の為に懸命にチョコを作る樹の姿に、拓馬が目を細める。
「拓馬くんは何を入れてみる?」
「ホワイトチョコにラズベリー。スコーンあたりとよく合うらしいよ」
ハートの小瓶に完成品を詰め、樹が嬉しそうに笑う。
「家でゆっくり食べましょ」
「あ、樹。チョコがついてるよ」
「あら、ついてた?」
樹の返事を待つ間もなく、拓馬は彼女の頬についたチョコをペロリと舐める。
「って拓馬くん、みんながいるのに……」
見る間に赤くなる樹の顔――我に返った拓馬の視界の隅に他の参加者の姿が映る。
羞恥に思わず固まる拓馬の腕に抱きつき、樹は赤くなった顔を隠すかのように俯いた。
「沸騰直前、てどこまでなんでしょう……」
コーヒーとエバミルクを入れた鍋の前、呉羽が呟く。
「ちょっと鍋の横がぷくぷくしてきたら、てとこからしね?」
答える涼子も詳しいわけではないらしく、首を傾げている。
「混ぜなくても良いのでしょうか」
「あ、そうよね、混ぜなきゃ」
初めての作業におろおろしながらも、2人はコンフィチュールを完成させて小瓶に詰める。
呉羽の小瓶には赤のリボン、涼子の小瓶には青のリボン。
「なんとか出来ました」
「ちょっと焦げ付いちゃった分は試食で食べちゃいましょ」
瓶に詰め切らなかったコンフィチュールを少しだけ味見して、2人は安心したように笑いあう。
「良かった、結構おいしいですね」
「これ、他のお菓子作りにも使えそうでいいわね」
チョコクリームとコンフィチュールの違いに悩みながら、スヴェンニーナは材料を手早く混ぜていく。
「充は、ちゃんと、かきまぜられる? 大変だったら、いうといい」
「ニーナ様、心遣いありがとうございます」
スヴェンニーナの問いかけに、ミルクチョコと苺ジャムを混ぜる充が答える。
「大変そうですが頑張ります。もしお手伝いできることがございましたら、お申し付けくださいませ」
それに頷いて、スヴェンニーナはブラックチョコの中にラズベリーを入れた。
「そういえば、日本って、バナナとチョコ、あわせるのすきだよ、ね」
「バナナだと手軽に食べれて、チョコもつけやすいからでしょうか」
「あれ、ちょっと、苦手……」
少し渋面になるスヴェンニーナ。
「あとで、味見しあおうか」
紡がれた言葉に充が「楽しみです」と笑った。
「おいしくなるといいなぁ……」
呟く結がチョコに入れるのは自作のラズベリージャム。
「結さん、よく勉強してるんだね」
感心する達人。しかし、彼の手際の良さに結は逆に「さすが師匠」と感嘆の声を漏らす。
「いやいや、僕は聞いた通りにやってるだけだから」
いつか師匠のようにと意気込む結。その内心を知ってか知らずか、達人の口元が自然に綻ぶ。
(「いい弟子に巡り合えてよかった」)
これからも楽しく、と願う思いは結も同じ。
(「少しでも嬉しい思いや楽しいを伝えたり返せていたらいいな」)
思いのまま、口を開く。
「先輩、これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、これからもよろしくね」
笑みを浮かべたまま応じる達人に、結が照れくさそうに笑った。
「なんだか新年の挨拶みたいですね」
「確かにそんな風だね」
翔也と薫は、共同作業。
「お菓子作りは得意なので、手際よく、楽しみながら作りましょう♪」
そういう翔也はジャムをピューレ状に。
「よいしょ、よいしょっと……翔也さん、湯煎終わりましたよー」
チョコを湯煎にかけるのは薫の役目。
「湯煎の終わったものから、渡してください」
「翔也さんは手際が良くて、羨ましいです……」
ジャムを次々とピューレ状にしていく翔也の手際に、薫が呟く。
「薫が手伝ってくれたから、きっと美味しいものができますよ♪」
優しい声で囁いて、翔也はチョコにピューレを混ぜていく。
「こうして一緒に作れるなら、またいつか2人で作りたいですね」
薫の言葉に翔也が頷く。
「また今度作りましょうね。ずっとずっと、この味を忘れないように」
●
「悟ちゃん、バレンタインたこ焼き?」
「さすが悟、考えましたね」
たこ焼き器とホットケーキの材料を持参した悟、餅やチーズを入れてくるくる。
「ひおもくるくるしたいです!」
悟が陽桜に串を渡す。
「去年も作りましたもんね」
懐かしそうに呟く想希の手にも、串がある。
「たこ焼きの大行進やでゴール!」
完成した丸い具入りパンケーキを皿に盛り「いただきます」と手を合わせる。
「皆は何味や! 俺はほうじ茶ボンバー」
チョコジャムで怒り顔が描かれた玉を突き出しニヤリと笑う悟。
「俺のは苺ジャムを混ぜてみました。手作りの自信作ですよ」
少し頬を染めて答える想希を不思議そうに眺めながら、陽桜も答える。
「んと、ひおはオレンジ! オランジュショコラ♪ おとーさんとおにーちゃんにあげるの! あとねー」
作られたコンフィチュールはどれも美味しいものばかり。
「わぁすっぱ美味っ」
「わ、ちゃんとほうじ茶の味出てる……ありがとう」
小声で呟く想希に悟が問う。
「誰に配るカレシとか?」
「……ほぇ、カレシさん?」
首を傾げる陽桜に笑いかけ、悟は想希に視線を移す。
「自宅用のつもりでしたけど、伯父にも持っていこうかな」
「想希の伯父さんと頃ついてってえぇ」
悟の言葉に想希がにっこりと微笑む。
「ええ一緒に」
コンフィチュールをテーブルに置き、用意されていたバスケットに沢山のパンを放り込む。コンフィチュール作りに1人精を出したシグマに感謝しつつ、ルティカもスコーンやチーズを盛り付ける。
「ちょっと買いすぎたけど」
「買いすぎた? 大丈夫だ俺がいる」
大量のパンやスコーンに感動するクレイも、実はバナナやミカンの缶詰を持参していたりして。
「こういうの一緒に食ったら上手いんじゃね?」
バナナにチョコをつけ始めるクレイ。
「ルティカはどれにする?」
シグマが手渡してくれたパンにチーズを塗り、チョコを掛けるルティカ。
バナナとパン、それぞれ同時に頬張って、チョコの美味しさに2人同時に頬を緩める。
「シグマ殿は将来しょこらてぃえを目指してはどうじゃろか」
「さすがに職にするまではいかないだろ……」
会話の最中にも、パンを食べるルティカの手は止まらない。
「ルティカちゃん良く食べるなぁ! よーし部長も負けないぞ!」
ミルクを注ぎ「詰まらせるなよ」と茶化すシグマにクレイの声が掛かる。
「ほらシギーももっと食え」
「俺はもう十分だ」
苦笑するシグマの前、食材はどんどん消えていく。
「パンやスコーンだけでもおいしいよねー」
「残すほうが勿体無いではないか」
お皿の上には夜深の持って来たクラッカー。その隣に茅花が少し自慢げに乗せるのは、柔らかなマシュマロ。
早速、とばかりに薄紅色のチョコをクラッカーに乗せて頬張った夜深の顔がぱあっと輝く。
「美味シ……!! かーや先輩、美味シ、のヨ! はイ、あーン!!」
ずいっと差し出されたクラッカーを齧って、茅花が「ほんとうね」と微笑む。
輝く瞳が嬉しくて、茅花もチョコをつけたマシュマロを差し出す。
「我、拝受、可能? 謝々!!」
「ね、……美味しい?」
ぱくんと口に入れた夜深に尋ねれば、彼女は何度も頷いて。
「あの、ネ? かーや先輩、嬉シそ、だト。我モ、嬉シ、のヨ!」
沢山の話の中で告げられる言葉に、茅花の瞳がますます優しげに細められる。
――私の大好きな星の灯がずうっと輝いてますように。
「ん~どれも美味しそうだね」
壱琉が笑顔で眺めるのは、完成したコンフィチュール。
「まずはひとくち……っと」
ベリージャムを入れたチョコをフランスパンに乗せて口へ運ぶ。
「んおいしぃー! ベリージャムが良くあってる!」
「優しい味だな」
頷く嵐も、ビスケットに林檎ジャム入りのチョコつけて一口。
(「バレンタインなんか……って、ちょっと前まで思ってたケド」)
物思いに耽る嵐のコンフィチュールに、壱琉が手を伸ばす。
「ふふっ……、そいっ」
「お、今のちと、取りすぎ」
「おぉ……こっちも違った味で美味しいね! リンゴのいい香り」
「……いっそどれにつけたら旨いか、食べ比べする?」
「わ、食べ比べいいなぁ! 僕もっ!」
「あたしの食べた分だけ、もらうカラね」
お土産も、思い出も、大切に持って帰ろう――。
●
コンフィチュールが詰まった瓶にリボンを巻いて封をする。
(「渡す時に喜んでくれるのを考えるとめっちゃ楽しみやね」)
味もばっちり、瓶を青い巾着風のギフトバッグに詰めて、小町は笑う。
「たまには一緒に料理するのもいいだろう?」
「一緒に作ったジャムだと、いつものパンも特別になりそうです」
一緒に食べたらきっともっとおいしい、と微笑むエイダに青士郎も笑みを浮かべる。
「ふふ……どうやって、食べ、ましょうか……」
「黄色い包装紙かぶせて……青と緑のリボンを巻いて……どうだ! アディラッピング! かわいいだろ!? これは俺からアディにプレゼントな。アディはどんなラッピングにする?」
青士郎の言葉にエイダが差し出したのは、白と赤のフィルムと赤いリボンでラッピングされた瓶だった。
「……赤い、マフラーの……サンタさんに……お礼にはならないかもしれないけど」
クリスマス、すごくうれしかったから――。
そんな彼女の思いが何より嬉しくて大切で、青士郎はエイダの頭をそっと撫でた。
「バレンタインのプレゼントはやっぱりラッピングまで手作りでしょ!」
そう言う茉莉花の手元にはピンクの箱と水色のリボン。
ピンクは茉莉花の、水色は大好きなあの人の色。
小瓶を箱に入れて、リボンで封をして……。
手渡す時を想像し、茉莉花は思わず微笑んだ。
――だってあの人はきっと、喜んでくれるから。
甘い甘いチョコレートコンフィチュール思いを込めて。
どうか思いが伝わりますように――。
作者:草薙戒音 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月13日
難度:簡単
参加:37人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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