障子の奥に猫の影

    作者:春風わかな

    『わぉぉぉぉ……ん』
     夕暮れ時の寺の離れの前で犬のような遠吠えが響く。
     と、同時に薄ぼんやりと白い炎が灯った。
     白い炎は一箇所に集まると1匹の獣のような姿へと変える。
     ――見た目はオオカミに一番近いだろうか。
     雪のように透き通った毛皮に紅い瞳。
     首には金色の鈴がついた立派なしめ縄飾りのようなものを付けていた。
     その獣は堂々とした様子でゆっくりと離れの周りを歩き回る。
     そして、尖った耳をピンと立て離れの座敷奥に置かれた弦の切れた三味線をじっと見つめた。
    『わおぉぉぉ……ん』
     獣は再び遠吠えをあげると再び白い炎へと姿を変える。
     シャラン、シャラン……。
     澄んだ鈴の音を残し、その獣の姿は完全に見えなくなった。

     無人のはずの離れ座敷にゆらりと人の影が動く。
     ぴたりと閉じられた障子に映るのは着物を纏った長い髪の女だった。
     女は足に絡まった長い鎖を引き摺りながら、座敷の奥に置かれた三味線に手を伸ばす。
     三味線を手に取るその手は人間の手ではなく、猫の手。
     障子に映った影をよく見ると、女は猫の耳が生え二又に分かれた長い尻尾を持っているように見えた。
     猫女は無人の座敷で独り三味線を奏でる。
     弦が切れているはずの三味線は、澄んだ音色を響かせるのだった――。

    「スサノオが、また『古の畏れ』を、生み出したのが、視えた――」
     教室に灼滅者たちが集まったことを確認すると、久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は普段と変わりない様子で語り出す。
     今回現れる『古の畏れ』は、妖怪猫又。長く生きた猫が猫又へと化けて人を惑わす、という言い伝えがあるがこの猫又は目についた人間を食い殺してしまうという。
     普段、離れには早朝の掃除時以外には人が立ち入ることはめったにないのだが、あいにく今日はこの三味線を供養するために住職が母屋から離れへと向かっているという。
     このままでは猫又と鉢合わせしてしまい犠牲になってしまう。
    「急いで、お願い」
     來未は静かに頭を下げた。
     まず、現場に向かったら住職が離れに行くのを阻止する必要がある。
     不安を与えぬように穏便に対処してもよいし、力づくで阻止してもよい。
     その他、母屋には住職の他に妻と2人の子供がいる。
     妻と子供たちは台所で夕飯の支度をしており、大きな音でもしない限り離れに注意を向けることはないだろう。
     離れの障子を開け、座敷に入ったら『古の畏れ』との戦闘が始まる。
     戦闘になったら10匹の猫が現れ、猫又に加勢する。
     猫たちはそれぞれ前衛に立ち猫又を守るものと敵を攻撃するものとに分かれ、猫又の指示に従って統率のとれた戦いをするため十分に気を付けてほしい。
     また、戦闘開始から5分が経過した後、猫又は残っている猫たちを吸収し巨大な猫へと姿を変えるという。巨大化した猫又は、前に出て積極的に攻撃をしかけてくるだろう。
    「やっぱり、今回もスサノオの行方は、わからない」
     申し訳なさそうに來未は首を横に振った。
     しかし、一つずつ事件を解決していけば、きっとスサノオの足掛かりを掴めるはずだ。
     教室を出ようとする灼滅者たちの背に向かって、來未はぽつりと呟きを漏らす。
    「三味線って、猫の皮を使って、作られたんだよね」
     江戸時代などは雌猫の皮を使って三味線を作っていたと言われているが、現代では必ずしも猫の皮を使っているわけではないという。
     とはいえ、猫が三味線を弾くというのは死んだ同族を憐れんでいるとも思えなくはない。
     猫の気持ちは猫のみが知る――。
     ニャア、と猫の鳴き声が聞こえた気がした。


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    立見・尚竹(雷神の系譜・d02550)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    三上・チモシー(牧草金魚・d03809)
    静永・エイジ(影戯のデスペラティオ・d06387)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    葛籠・慎一郎(高校生魔法使い・d21376)

    ■リプレイ

    ●壱
     夕陽に染まった寺の屋根がオレンジ色に輝く。
     ゴーンとどっしりとした鐘の音が静かに響き渡った。
     その鐘の音に重なるように遠くから微かに聞こえるカラスの鳴き声がまた趣深い――。
     ふっと空を見つめた静永・エイジ(影戯のデスペラティオ・d06387)はぴったりと障子の閉まった離れの座敷に視線を戻す。
     この厳かな雰囲気も良いものだが、そうも言っていられないのが残念だ。
    「――来たね」
     葛籠・慎一郎(高校生魔法使い・d21376)の言葉と同時、渡り廊下を摺り足で歩く人影が見える。まっすぐ離れに向かってやってくるところを見ると、彼がこの寺の住職に間違いない。
     慎一郎は後方で身を潜めていた立見・尚竹(雷神の系譜・d02550)に前へ出るように促した。尚竹はふむ、と頷くと殺界形成を発動させる。
    「申し訳ないが、しばしここから離れていただこう」
    「!!」
     その身体から放たれる強烈な殺気によって、住職の足がぴたりと止まった。
     離れへ行こうか、行くまいか……。立ち止まってうろうろする住職の背に向かい「すみませーん」と女性の声が響いた。
     これ幸いとばかりに住職はいそいそと客人の元へと向かう。
    「突然ごめんなさい。私たち……」
    「こんちわー! 綺麗なゆうべデスねーっ!」
     丁寧な口調で切り出した仙道・司(オウルバロン・d00813)の隣で赤茶の髪をポニーテールに結った少女が元気よく住職に話しかけた。その正体はミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)。元々交流のあった司とミカエラは共に住職の足止め役を買って出たのだ。
    「おてらって、おいのり、する場所であってマスかー? チャペルと何が違うのデスかー?」
     日本を知らない外国人の女子学生を演じるにミカエラに住職は嬉しそうに説明を始めた。
    (「良い良い……その調子じゃ」)
     こっそりと陰から2人を見守っている西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)の視線に気づき、司は住職に気付かれぬようミカエラにそっと耳打ちをする。
    「ミッキーさん、このまま住職さんに離れに行かないようにお願いしちゃいましょう」
     了解! とウィンクを一つして、ミカエラは住職に離れへ行かず母屋へと帰るようにお願いすると、そのまま住職は何の疑問も抱かずに母屋へと帰って行った。ラブフェロモンの効果はばっちりだ。
    「ん、良かった。住職さん、ちゃんと帰ってくれましたね」
     これで大丈夫じゃな、と安堵するレオンに司も安堵の笑みを浮かべて頷く。
    「ボクたちも早く皆さんのところへ戻りましょう!」

    「あ、話、終わったみたいだね」
     離れの前で待つ三上・チモシー(牧草金魚・d03809)が戻ってくる司たちに気が付き小さく手を振った。
    (「よかった……住職さんにいやな思いさせずにすんで」)
     王者の風の出番がないことにチモシーはほっと胸を撫で下ろす。
    「皆さん、準備はよろしいですか?」
     サウンドシャッターを展開させ華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)はぐるりと仲間を見回した。
     皆、次々とカードを開放し、戦闘の準備はバッチリだ。
    「それじゃ皆さん、お勤めを始めましょうか」
     紅緋の言葉を合図にミカエラが離れの障子を勢いよくバシっと開け放った。

    ●弐
     障子の奥の座敷にいたのは手ぬぐいを被った一人の女性。女は俯いて三味線を抱えておりその顔はよく見えない。侵入者に気が付き、女はゆっくりと顔をあげ灼滅者たちに視線を向けた。その顔は、獲物を見つけた猫の顔――。
    『にゃぁぁぁぁ~~』
     ベベン。
     低い鳴き声とともに三味線を掻き鳴らし、二又に分かれた尻尾がぱたぱたと畳を打つ。
     三味線の音を合図に、どこからともなく三毛猫とトラ猫が現れた。その数あわせて10匹。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します!」
     赤いドレスの裾を翻し、紅緋が三毛猫を狙って異形巨大化した腕で思いきり殴りつける。その力に耐えきれず三毛猫が吹き飛ぶがすぐさま体勢を立て直す。
    「ミッキーさん、いきますよ!」
    「オッケー! 司!!」
     司は傍らのミカエラと視線を交わすと剣を高速で振り回した。加速され威力を増した剣は猫たちを一気に纏めて切り刻み、ミカエラが構築した結界によって猫たちの動きも心なしか鈍くなる。しかし、猫たちの数が多く纏めて攻撃をしても思うようにダメージが通らないのが歯痒かった。
     ベベベンベベンベンベン。
     どこか物哀しい乾いた三味線の音色が離れに響く。司は思わず三味線の音色に聞き入っていた。
    (「綺麗だけど、どこか寂しい、かな……」)
     だが、レオンの声で司ははっと現実へと意識を向ける。
    「気を付けい、猫たちが襲って来るぞ」
     彼の言葉通り、猫又が奏でる三味線の音に合わせ猫たちが一斉に襲い掛かった。
     最初に標的となったのは――尚竹。
    『にゃぁぁぁー!』
    「危ない!」
     猫の攻撃に気付き、咄嗟に前へ飛び出したチモシーと共に、尚竹は飛び掛かってくる猫を振り払わんと刀を振るい続ける。
    「今回復してやるからのう」
     急いでレオンが尚竹に向かって護符を飛ばす。猫たちに襲われた傷はあっという間に癒えた。
     また、エイジも支援へ回り、ソーサルガーダーを使ってチモシーの傷を治すと同時に盾の力を与えてやる。
     まだ何も悪いことをしていない猫たちを倒すと割り切ることは慎一郎には容易ではなかった。
    (「なんだか可哀想だよな……」)
     だが、前に立つ仲間たちに襲いかかる猫を放っておくことはできない。
     ――とにかく、まず猫の数を減らすしかない。
     そう決意した慎一郎の身体から放たれたどす黒い殺気が猫たちを覆い尽くした。
     殺気に包まれた猫たちに向かって、尚竹が矢を放つ。
    「集え星々 百億の星 雷動墜星!」
     猫たちの頭上に流星のような矢が雨のように降り注いだ。実践で使うのは初めてだというが、そのような雰囲気は微塵も感じられない。
    「猫さん、ごめんなさいっ」
     ふらふらとおぼつかない足取りで立つ三毛猫に向かって司が連打を叩き込む。オーラを纏った拳から繰り出される猛攻に耐えられず三毛猫は鳴き声一つあげずにそのまましゅるんと煙のように姿を消した。
     ――ベベベンベベンベンベン。
     猫又が三味線を奏で、猫たちの傷を癒す。そして、猫たちはチモシーとエイジに向かって襲い掛かった。
    『にゃにゃー!』
     怒りに狂った眼差しを向け、三毛猫がチモシーに向かって鋭い爪で切りつける。
     しかし、チモシーは自身の傷に気を留めることもなく襲い掛かる猫の攻撃を受け止めつつ、彼らの群れに突っ込み両手で握った斧で次々と猫たちを薙ぎ払った。
     レオンが護符を飛ばしてチモシーを癒し、エイジもまた龍因子の力を開放して自身の傷を癒すと同時に盾の力を高める。
     剣を高速で振り回し猫たちを薙ぎ払ったミカエラがちらりと腕時計に視線を向けた。
    「合体まであと2分だよ!」
     ミカエラが残された時間を告げると同時に襲いかかる猫たちへチモシーが強烈な斧の一撃を叩き込み、尚竹も素早く日本刀を振り下ろして猫を斬る。
     ――ここまで倒した猫の数は3匹。
    「回復はわしに任せておけ。必ずや皆を守ってみせようぞ」
     力強いレオンの言葉に押され、ミカエラもチモシーも仲間を庇って負った傷は気にせず攻撃に意識を集中させた。
     不意に紅緋が石化をもたらす呪いを猫に――否、猫又に向かって放つ。
     その攻撃は庇おうと前に躍り出たトラ猫の間をすり抜けて猫又に命中した。しかし、猫又は即座に大きな唸り声をあげ、その傷を一瞬にして癒す。
     わかってましたと肩をすくめる紅緋だが、彼女の攻撃によって猫又が猫たちの回復をすることが出来なかったのも事実。
    「最後だ、一気に攻めよう」
     慎一郎の足元から伸びた影が先端を鋭い刃へと変えて猫を切り裂いた。
     続くエイジもプリズムのようにキラキラと輝く十字架を猫たちの上に君臨させる。
    「貴様らに恨みはないが……許せ」
     十字架の内部から放たれる無数の光線が猫たちを包み込み、瀕死のトラ猫が静かにその姿を消した。
     ――結果、三毛猫5匹全てとトラ猫1匹を撃破したのだった。

    ●参
     猫又がベベベンと三味線を掻き鳴らし、残っていた猫たちと一緒に白い煙に包まれる。
     そして、その煙がゆっくりと消えると同時に現れたのは白い巨大な猫だった。
    「うわ、巨大化したよっ!? 大にゃんこだーっ!!」
     オーラを集めて自身の傷を癒していたミカエラが姿を変えた猫又を見て嬉しそうな声をあげる。
     彼女の声につられて視線を向けたレオンもまたその触り心地の良さそうな毛並みを見て思わず息を飲んだ。
    (「猫、もふもふ、かわええ……!」)
     これが普通の猫だったら仲良く出来たかもしれないのに……と思うと少々残念でならない。だが、ここは心を鬼にしてお別れせねばと決意する。
     レオンとともに仲間の傷を癒し体勢を立て直すことを優先していたエイジもまた、白い巨大な猫を見つめてほほう、と独りごちた。
    「先程までの猫又のほうが色香があって私は好きだが、まあそうも言っていられんか……」
     人を喰うモンスターである以上は灼滅は必須。猫の姿に惑わされまいとエイジは蒼い髪をさらりと揺らし、すっと表情を引き締めて漆黒の瞳で猫を見つめる。
     最初に動いたのは司だった。
     巨大な猫に向かって勢いよく飛び込み一瞬のうちに「死の中心点」を見極めると狙いを定めてバベルブレイカーを撃ち込む。
    『にゃぁぁ~~』
     白猫は煩わしそうに司を見遣ると鋭い爪で彼女を切り裂かんと巨大な腕を大きく振り上げた。
     ガッ!
    「司、大丈夫?」
    「ミッキーさん!!」
     司と白猫の間に小さな身体を滑り込ませ、ミカエラは彼女に代わって猫の攻撃を受け止める。
     すかさず防護符を投げてミカエラの傷をレオンが回復し、その腕の傷はあとかたもなく消えた。
     ありがとう、とウィンクする司にどういたしまして♪とミカエラは笑顔で応える。
     白猫の意識が司とミカエラに向いている一瞬を狙って紅緋が激しく渦巻く風を起こした。白猫に向かって放たれた風の刃は容赦なく敵の右腕を切り刻む。
    「青森、地吹雪ビーム!」
     猫が巨大化している間に傷を癒したチモシーが真っ白な吹雪で白猫を包み込んだ。
    『にゃぁー!!』
     怒りで我を失った白猫がチモシーをに向かって長く伸びた爪でジグザグに斬り付ける。白猫が攻撃に転じた隙をつき、尚竹がまっすぐに重い斬撃を迷いなく白猫に向かって振り下ろす。その素早い一撃を敵もかわすことは出来なかった。
     慎一郎も槍を振るい、妖気で作られた氷のつららを白猫に向かって放つ。つららは猫に命中すると同時にぱっと花開き、蓮の花に似た様を見せた。
     その花は猫又たちが極楽浄土へ行けるようにという慎一郎の願いが込められたもの。
    (「この花が君たちへの手向けになればいいけど……」)
     氷で出来た蓮の花は白猫を包み込むと同時にパリンと音を立てて砕け散った。
    「よぉーし、このまま一気に集中攻撃だねっ!」
     ミカエラが自身の闘気を変えた雷を纏った拳を白猫に向かって撃ち込む。飛び掛かり様のアッパーカットにぐらりと白猫がよろけた。
     そこへタイミングを合わせてエイジも斧を構えて一気に白猫との距離を詰める。
     敵が1体になったことで、前半は回復に追われていたエイジも徐々に攻撃へと加勢する機会が増えたのだ。勢いをつけて振り抜いた斧は白猫の脇腹に思い切り命中する。
    『にゃぁぁ……っ』
     怒った白猫が仕返しとばかりにエイジ向かって不協和音を奏でた。
    「む、なんだこの喧しい音は……」
     その不愉快な音に思わずエイジは顔をしかめて膝をつく。
    「しっかりするのじゃ!」
     レオンの癒しによってエイジは再び立ち上がった。
    「最後まで頑張りましょう!」
     司が仲間を鼓舞すると同時に白猫へ閃光百裂拳を叩き込む。
     彼女に続き慎一郎の黒い影がゆっくりとのび、その尖った刃で白猫を切り裂いた。
     灼滅者たちの猛攻に耐えられず、白猫は悲鳴をあげる。
     敵が傷を癒す行動が増えたことに気付いたチモシーはチャンスだと斧をぎゅっと握りしめた。そして、龍の骨すらも叩き斬る強烈な一撃を白猫の肩めがけて振り下ろす。
     チモシーの攻撃に怯んだ白猫に紅緋がたたっと近づき、ぐっと身体を沈ませた。そして、巨大な鬼の腕で強烈なアッパーカットをお見舞いする。
    「脳震盪、起こしません?」
     ぐらりとゆれる巨体が低い唸り声をあげると同時に傷が癒えるが間髪入れずにレオンがマテリアルロッドを脳天めがけて振り下ろした。
    「どんな事情があれど、無関係な人に危害を及ぼすのはおかしいぞ」
     体内へと流れ込んだレオンの魔力が勢いよく白猫の身体の中で爆ぜる。
     敵の体力はあと僅か――。そう判断した尚竹は刀を鞘に納め姿勢を正した。
    「この一太刀で決める。―-我が刃に悪を貫く雷を。居合斬り、雷光絶影!」
     きらりと刃が光ったかと思うと刹那、白猫の身体は真っ二つに斬られ――。
     カチン。
     尚竹が静かに刀を鞘に納めると同時、白猫の姿は跡形もなく消え、そこには一つの壊れた三味線が遺されているだけだった。

    ●肆
     三味線は古い傷がいくつも付き弦も切れてはいるものの、戦闘によって生じた傷はないようだ。これも、三味線が傷つかぬように配慮しながら戦ったおかげだろうとチモシーは安堵の笑みを浮かべた。
    「どうか、安らかに眠ってくださいね……」
     持ってきた鰹節とまたたびを供えて祈りを捧げる司と並び、ミカエラも静かに黙祷を捧げる。
    「この三味は猫革製なのかのう」
     優しく三味線を撫でながら、ぽつりとレオンは呟きを漏らした。
    「ふむ。見た目にはわからんが……」
     そうかもしれんな――と尚竹も静かに手を合わせる。
    「……早く、スサノオの尻尾が掴めればいいよね」
     独りごちる慎一郎に紅緋がこくりと頷いた。
    「さ、お寺の人たちが来る前に撤収しましょう」
     紅緋の言葉に灼滅者たちは静かに離れを後にする。
     外に出るとすっかり日が暮れていた。夕闇に浮かぶ寺を見つめていたエイジがおや、と小さく声をあげた。
    「あそこにいるのは猫じゃないか?」
     エイジが指さした先に視線を向けると確かに草陰に小さな白い猫の姿が見える。――あれは、さっきの猫又だろうか。
    「またどこかで会おうぞよ。――その時は仲良うしような」
     レオンの呟きに応えるかのように、白猫はにゃぁと小さな声で鳴いた。そして夕闇の中へとそっと帰っていく。
     灼滅者たちは猫を見送ると、静かに寺院を後にするのだった。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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