その馬、人喰らいしモノ

    作者:立川司郎

     真新しい参道の階段は、白く冬の陽光を反射していた。
     冷たい冬の風も、こうして自然の中を行くうちに自然と心地よく感じるものだ。
     普段は人の行き来も少ない、この山間の静かな町の神社にポツンと影が落ちたのは、もう日が落ちた頃の事であった。
     ざわざわと風が木々を揺らし、古びたしめ縄を通り抜けていく。
     白い白い、その耳の欠けた影はまるで影を吸い込むように白く、そして凛と立ち尽くしていた。
     月明かりは、白いケモノの毛を現して輝かせる。
     やがて、大きく一声咆えると、すうっと何処へともなく姿を消したのであった。

     古く山深い邑南町に、馬の鳴き声が響き渡るのは……そのすぐ後。
     分かれ道を歩いていた年配の男性は、その鳴き声を耳にして足を止める。後ろからも誰かが呼んでいるのに気づき、男性はふと振り返った。
    「今川先生、今お帰りですか!」
     若い女性が自分を呼んでぱたぱたと走りながら、手を振っているのが見えた。今川は何やら探すように周囲を見回していたが、気のせいかと呟く。
     たしか、この女性は郵便局に勤めている知り合いの娘だ。
    「どうかしました?」
    「いや、今馬の嘶きが聞こえたような…」
    「今ですか? この辺りで馬飼ってましたっけ」
     女性が首をかしげる。
     今川はハハハと愛想の良い笑顔を浮かべ、二人で歩き出した。
    「ちょうど今日、子供に妖怪の話しをしていたんだよ。この地方にいる古い妖怪でね、名前をのうま、という」
     それは古い古い、とても古い妖怪であるという。
     妖怪は……人を食う。
     
     珍しく、エクスブレインの相良・隼人から呼び出されたのは図書室であった。隼人は幾つか本を開き、その上に以前のスサノオに関わる依頼の報告書を投げ出していた。
     そっと灼滅者の一人がそれを手に取る。
     一つは、阿用郷の鬼。
     もう一つは、セコに関わる依頼の報告書であった。
     隼人はちらりと顔を上げ、深く溜息をつきながら苦い笑いを浮かべた。
    「……やっぱりココか」
     隼人が指し示した地図の場所は、島根県邑智郡邑南町であった。
     ここに、また耳の欠けたスサノオが現れたのだという。
     スサノオは大原神社という日貫地区にある古い神社に出没し、古の畏れを呼び出して行く。スサノオの出現には間に合わないが、古の畏れが出没するのは夜。
     夜明けまでに倒す事が出来れば、被害は押さえられるという。
    「この神社は民家が近く、小学校や郵便局も目と鼻の先だ。出現予測時刻は八時頃で、この時刻に付近を一人歩きしている者に襲いかかり……食い散らす。同じ時間帯に小学校の教師と郵便局の女性が通りがかるが、二人が通り過ぎてからおびき出すのがいいかもな。……まあ、安全策として人払いを使ってもいいが」
     彼の名前は、のうま。
     野馬と書く。
     字の通り、馬の姿をした妖怪であった。
    「こいつも一つ目の妖怪でな、この地方に古くから伝わる人食いの妖怪だ」
     恐ろしく、賢く、そして強い。
     一人になった頃に襲いかかり、強力な蹴りと攻撃を回避するスピードで圧倒し、人を連れ去ってしまうという。
     隼人は誰かが囮になるしかないだろう、と話す。
    「ただし、女はどうも駄目だ。……よく分からんが、女だと出没しないようなンだ。トラウマでもあるのか? 最悪の場合、男装でも何とかなるだろうが……」
     隼人は島根の古い昔話の本を、灼滅者達に手渡した。
     スサノオに対しては後手に回っているが、何とかこのスサノオの尻尾を掴んでやりたいものだと隼人は溜息をまたひとつ、ついた。


    参加者
    鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)
    衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    弓塚・紫信(暁を導く煌星使い・d10845)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)
    飯倉・福郎(弱肉強美肉・d20367)
    マルテン・サイト(心の刃は砕けない・d23200)

    ■リプレイ

     しんとした冷たい空気を感じ取るように、鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)はじっと空を見つめていた。静寂は小太郎に耳鳴りを起こす程で、時折風が木々を揺らすと葉音は柔らかく体に届く。
     久しぶりに都会の喧噪から離れると、どこかホッとした。
     胸ポケットにアングルライトを収め、小太郎は静香に物陰に身を潜める。
     夜闇のどこからのうまがやって来るかは分からないが、この山間の暗闇が自分達を覆い隠してくれる事を祈るばかりである。
    「そろそろ来る頃ね。灯りは消しておきましょう」
     衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)はそう言うと、周囲を見まわした。
     灯りらしいものは家屋の窓から漏れる光しか無く、時折街灯が見える程度。月明かりだけが頼りである。
    「慣れてる人には、暗くても道は見えてる」
    「丹下は灯り持っててくれるかしら」
     七は、神社の前を監視しながら呟いた。
     8人中で囮が丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)を努め、そして女性である七と望月・心桜(桜舞・d02434)、そしてマルテン・サイト(心の刃は砕けない・d23200)は出来るだけ野馬に逃げられないよう、パンツルックで着た。
     弓塚・紫信(暁を導く煌星使い・d10845)は家のしきたりで女装を解けないと困ったような顔をしていたが、七や心桜がパンツスタイルで逃げられないなら自分もそうであろうと見なし、パンツスタイルで臨む事とした。
     いずれにせよ、出現さえすればあとは逃がさないようにしつつ戦うだけである。
     神社の階段の脇に忍んだ紫信と心桜は、ぽつんと現れた灯りに気付いてふと顔を上げた。
    「今川先生、今お帰りですか」
     甲高い女性の声が、ここまで響いてくる。
     彼女達の声を聞きながら、心桜は社をそっと振り返った。今川と呼ばれた教師がのうまの話をしているのが、少しだけ聞こえてくる。
    「一つ目で男性を襲う……一体どんな妖怪なんでしょう」
     小さな声で、紫信が言った。
     野馬は神楽にもなっている古いモノじゃ、と心桜は話す。この辺りの一つ目妖怪は、いずれもとんでもなく古い存在である。
     いわば、最古の都市伝説であろう。
    「そのようなものを呼び出すとは、スサノオとはいかなる妖なのじゃろうな」
     ざわざわと風が吹き、二人の声が遠ざかっていくと、心桜がふと振り返った。既にこの辺りに、野馬がやって着ているはずである。
     暗闇の中にもう一つ足音が響き、小次郎は月を見上げる。灯りのことは全く考えていなかったけれど、街灯以外の場所は全く見えないといっていい。
    「ここが……大原神社」
     社の階段前で足を止め、小次郎は呟いた。
     風は木々を揺らし、葉音を響かせる。その中に微かに、何か別の音が混ざっている気がした。小次郎がピクリと反応すると、キャリバーに身を寄せて蹲っていた柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が息を殺す。
     ……来た。
     剣の柄に手を掛け、高明が身構える。
     石段へと一歩踏み出した小次郎の方へ、そろりと動こうとした高明が後ろにいたマルテンの腕を掴んだ。
    「来るぞ」
     細い声を耳にし、マルテンも影を闇の中に走らせた。
     どこ?
     そう聞き返しつつ、周囲を見まわす。この頃には既に、マルテンにも馬のいななきが聞こえていた。その音は、よく耳を澄ますと……。
    「後ろじゃ!」
     心桜の声と同時に、階段を黒い巨体が飛び降りてきた。
     らんらんと光る目は、階下にいた小次郎を睨み付けている。一直線に駆け下りた野馬は、思わず身構えるしかなかった小次郎へ前足で強烈な蹴りを見舞ったのだった。
     叢から飛び出しながら、ちらりと飯倉・福郎(弱肉強美肉・d20367)が野馬の足下を見る。動きが速いが、確かにそこに鎖が見えた。
    「あの鎖……」
     たしか、他の古の畏れにも鎖が繋がれていると聞いていた。もしかすると野馬には無いのかとも思ったが、やはり大なり小なり古の畏れは鎖で繋がれているという事か。
     心中で思案しながら、福郎は紫信へと矢を放った。
     暗闇を貫く一本の矢が、紫信の体に力を灯す。

     勢い付いた野馬の攻撃に転がった小次郎は、三味線を引き出しながら野馬を視界に捕らえた。蹴りは小次郎のジャケットを引き裂き、べっとりと返り血をその前足に付けている。
     咳き込みながら後退する小次郎の前に、高明とキャリバーのガゼルが割り込んだ。背に庇う高明は、即座に小次郎の傷へオーラをあてる。
    「立てるか?!」
    「……何とか」
     傷を確認し、小次郎は答える。
     人が近づかない事を確認しながら心桜が殺界を形成すると、続いて小次郎も音を遮断した。これで、思う存分戦えるという訳だ。
     この時間帯なら、誰も出て来はしないだろう。
    「急いで囲むのじゃ、逃がしてはならん!」
     心桜が叫ぶと、七は了解と軽快に答えて高明の反対側に回り込んだ。ガゼルと七、そして高明とで野馬をぐるりと取り囲む。
     小次郎は三味線を構えると、よろりとその壁へと加わった。
    「帰りは怖い、と言いますからね」
     ふと薄く笑い、小次郎は野馬に向けて言った。怒りかそれとも殺戮衝動故か、野馬は大きく嘶いて前足を掲げる。
     助走をつけた野馬は、そのまま駆け出した。
     囲んだ小次郎、そして高明と次々に飛びかかり蹴り上げる野馬。強烈なパワーに蹴り上げられ、ガゼルが更にそれを追跡して疾駆する。
    「馬の視界ってなまら広いらしいよ」
     野馬とガゼルの追撃に横やりを入れながら、小太郎が話した。つまり、野馬の死角は狭いと考えてもいいだろう。
     野馬の反撃を喰らう事を意識しつつ、小太郎が剣を叩き込む。
     ビリビリと剣越しに手に伝わる感触は、硬く厚い。
    「硬いし早い……こっちが消耗させられるかもしれない」
     野馬を追いながら、小太郎が淡々とした口調で言った。
     野馬の突撃は、囲いの中で暴れ回る猪のようだった。勢いづいた野馬とガゼルで、周囲はただ守り、斬りかかる事しか出来ない。
     野馬の前方を阻止して確実に当てていくのが小太郎の役目であったが、思うよりも野馬はパワフルである。
    「……こいつ、乗りこなせないかな」
    「野馬の事でしたら、どうぞお試しください。……ただし、挽肉になっても恨まないでください」
     福郎が至極丁寧に、小太郎へ注意を促す。
     それは、いやだな。
     小太郎がこくりと頷いた。

     前衛の傷を確認しながら、福郎が周囲に霧を放つ。
     夜闇に紛れる白い霧は野馬の意識を少しだけ反らす事が出来たようだが、野馬の進行を阻止している以上彼との衝突は免れない。
    「さて、師匠にも壁に回ってもらいましょうか」
     福郎はビハインドに声を掛けると、包囲網へと加わるように言った。野馬を囲む包囲網は厚いが、飛びかかる野馬の攻撃の手は緩まず。
     ついに野馬に蹴り飛ばされ、高明がむくりと起き上がった。
    「この野郎、暴れ回ったって相手はお前一体しか居ないんだよ!」
     シールドを構えた高明が、野馬に殴りかかった。野馬はその攻撃を巨体の脇でずしりと受け止め、跳ね返す。
     硬い体と強力な押しで、よろりと高明の体勢が崩れた。
     パワーもスピードも、相手の方が上手。とてもじゃないが、こちらが束になって力押しをしても、綱引きに勝てるとは思えない。
    「これは回避能力を奪って当てるのが賢いようですねぇ」
     福郎が、小次郎に言った。
     はたと思い当たり、小次郎が声を上げる。
    「……そうですね。柳瀬君、影は使えますか?」
     小次郎が影を見下ろしながら、高明に聞いた。
     小さく呪を唱えながら、小次郎が影に意識を向ける。攻撃を後衛に任せ、まずは影で動きを阻止する……小次郎の案はこうだった。
    「エクスブレインの話によれば、影ならば相手に効果があるようです。それに……」
     ふと、小次郎が笑った。
     女性を襲わないという野馬のトラウマが何なのか、興味はありませんか?
     小次郎の疑問に、後ろにいたマルテンが声を返した。
    「それは興味があるわね。……乗ったわ」
    「僕も、お力お貸しします」
     紫信が、マルテンに続いて影を使う。
     総員の影が喰らう姿は、壮観であろうと紫信は少し表情を和らげる。
    「では、こちらはその隙に足止めを計るとしましょうか」
    「攻撃はその後ね、分かったわ」
     マルテンはさらりと福郎に言い返すと、影を走らせた。マルテン、小次郎、そして高明が一斉に影を操り野馬へと向ける。
     月明かりの下、切り取られた闇は野馬の黒い体を求めうねった。
     野馬の正面にしっかりと立ちはだかった心桜が魔導書を開くと、のうまの体に紋章が浮かぶ。野馬の視線が心桜に向けられた時、影は一斉に攻撃に出た。
    「逃がさないわよ!」
     マルテンの見つめる中、野馬の体は三つの影に覆われていった。
     黒い体が影に覆われると、一際大きないななきが闇に木霊する。その一つの眼が、ぎょろりと見まわす……七、心桜、マルテン……そして最後の紫信、と視線で追う。
     周囲を囲まれている事にようやく気付いたかのように、急に心桜へと突進した。受け止める覚悟はしていたものの、心桜では阻止出来ずにはね飛ばされる。
    「ガゼル、アシストだ!」
     高明の声で、ガゼルが回り込む。
     不安そうに心桜を見上げるナノナノをそっと撫で、即座に心桜は飛び起きた。やたらめったら飛び回る野馬に、マルテンが目を細める。
    「どういう事?」
    「……さあ……。でも、一つだけ分かる事があるわよ」
     七がオーラで傷を癒しながら、深呼吸を一つした。
     こいつは、女性が苦手とかそんなものじゃない。何か女性に纏わる、嫌な逸話があるのだ。……嫌いとか苦手とか、そんな類ではない。
    「怖いのよ、この様子は怖がってるようよ」
    「野馬って、古い都市伝説みたいなものでしょう? 人食いの畏れが、どんな怖い物があるっていうのよ」
     そもそもその女って、どういう女(ひと)?
     マルテンは首をかしげた。

     彼の視界に何が映っていたのかは、分からない。
     七が言うように畏れがあるようだが、古の畏れが何に畏れていたのかはついに分からなかった。狼狽した野馬に、福郎が飛び込んでいく。
     構えた包丁で肉を斬り取るように、ざくりと足元を払った。
    「聞く耳を最初から持たぬなら、語った所で意味はなし……ですね」
     囁くように、福郎はそう言って飛び退いた。
     今まで福郎が居た所に、野馬の足が振り下ろされる。間一髪……と福郎が呟くと、次に矢を構えて小太郎へと向けた。
     野馬のいななきが傷を癒していくのを見ると、七は魔導書を開く。
    「向こうもこっちも、準備は万端?」
    「ん。調子は上々」
     空を見上げながら、小太郎が七にそう返事をした。
     黒い刃に蛍光色の流れる剣を右手に構え、小太郎がゆっくりと足を踏み出す。野馬の体に絡め付く影は、彼に何の悪夢は見せているのであろう。
     それは遠い遠い、昔の話。
    「さあさ、お馬さんこっちよ!」
     かろやかな女性の声で、野馬は暴走。紫信が彼女の背から、ガトリングガンをけたたましく鳴らして撃ち込む。
     飛びかかる野馬の体は七がしっかりと阻止し、それでも力を緩めない。
    「……大丈夫。ちゃんと阻止したわ」
     その七の言葉は、自分に宛てたものであったかもしれない。
     紫信はガトリングガンを構えたまま、小太郎に声を掛けた。
    「じゃじゃ馬馴らしといきましょう」
    「ああ」
     小太郎の返事は、少し楽しそうに聞こえた。
     飛び込みざまに、小太郎は剣を一閃させる。
    「昔話は、昔話のままお帰りくださいな」
     遠い遠い、昔の話である。
     鎖に繋がれたおおきな馬は、夜闇の山間に嘶き声を響かせながら潰えたのであった。

     周囲を散策した後、紫信がライトで足下を照らしながら戻って来た。その様子からすると、特に何も見つからなかったようだ。
     今までと同じく、スサノオや古の畏れに関する手がかりは存在しない。
     紫信は今までの二つの依頼の報告書に目を通してきたが、それらについて思案し溜息をついた。
    「今まで出没したのは、全て一つ目の妖怪でした。阿用郷の鬼、セコ、そしてのうま。あのスサノオは、一つ目の妖怪を追い続けているのでしょうか」
     今までの報告書では、神社にスサノオが祭られていた事が多かった。しかし、今回はそうではないようである。
    「この町内に同じ名前の社が二つあってな。向こうは伊邪那美を祭っておるから犠牲者の女性が守られるのか、と思っておったが……しかし、直接スサノオとはあまり関わりの無い神じゃ。まあ、そもそものうまの出没地域にスサノオの社が無いとも言えるがの」
     スサノオの社だから呼べたという訳でもなさそうだ、と心桜は言った。いっそ八岐大蛇でも呼び出すのかと呟いたが、紫信は『それでは一つ目では無くなります』と返した。
     たしかに、今までの通りであれば次も一つ目であると考えられる。
    「じゃあ、島根県内にある他の一つ目妖怪の伝承を探せば先回り出来るんじゃねえの?」
     高明が言うと、小次郎が首を振った。
     小次郎が調べた所では、これ以上この周辺に一つ目妖怪の伝承はないのである。
     すると、ふと紫信が思いだした。
    「そういえば、前回の報告書で鍛冶の神について触れていましたが……たしか金屋子神、でしたか」
    「金屋子神か……さすがに地方神はわらわも、あれ以上はよく知らぬのう」
     思案するように、心桜が視線を空にあげる。ぽっかり浮かんだ月と美しい星空に、心桜は目を細めて微笑んだ。
     いい月夜だ。
     そう呟いてちらりと見ると、何やら小太郎も携帯片手にうろうろとしながら空を眺めて居た。
    「神様はさすがに呼び出せないんじゃねえの?」
     高明がまさか、といったように笑う。
     すると、携帯電話を弄りながら小太郎が口を開いた。
    「なあ、あの野馬って奴に関する話が少し載ってるよ」
     ネットの情報を示しながら、小太郎が話した。
     野馬は人を喰らうとしか分かって居ないが、その野馬が畏れた存在がある。野馬が喰らおうとした人を阻止した女がいるのだ。
    「それが金屋子神って神サマだってさ」
    「そうなの? 鍛冶の神様と見間違えられた、っていうなら光栄な話じゃない」
     くすりと七が笑った。
     何にせよ、神様を呼び起こそうという大それた話でないならいいのですがと福郎は肩を落とす。周囲はしんしんと冷たい風が吹きつけており、福郎はぶるりと体を震わせる。
    「さて、そろそろ帰りましょうか」
     歩き出した福郎の後ろについて、ふとマルテンが思い出す。
     ……そういう事は、金屋子神というのは女神なのだろうか。
    「鍛冶師で女神?」
    「そういう事になるんじゃない?」
     七が答える。
     古い信仰が、こうしてひたひたと妖怪の姿と変わったようで。マルテンは口を閉ざし、深く息をついた。
     一人の女神の信仰が、ひたひたと畏れを呼び、鬼や馬、勢子を作り出したとしたら。
     それはとても恐ろしく、そして畏ろしい。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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