狙われたチョコレート、チョコモッチア登場

    作者:聖山葵

    「コサーック」
    「は?」
     ショッピングモールの一角で、話が目を疑ったのはレジに立つ一人の店員だった。
    「なるほど、沢山チョコがあるもちぃね」
    「コサッ」
     バレンタイン特設コーナーに設けられた期間限定のレジ、これまで主にチョコレートを求める女性客の対応をしていたから店員すれば、この時現れたお客様は理解の範疇外。
    「このチョコレートは全て頂いて行くもっちぃ。逆らえば」
    「コサッ」
    「ひっ」
     と言うか、客でさえなかった。チョコレート色の肌をしたレオタード姿の中年男性の合図によく分からない返事をした男達は背負っていた銃を構えるとその店員に突きつけたのだから。
    「むろん、我らも鬼ではないもち。かわりにこのチョコ餅を置いて行くもちぃ」
     これを売り物にすればいいと主張するご当地怪人へ銃口を前にして抗議出来る優希など店員にはなく。
    「チョコレートは全て独り占め。これで新たなチョコ餅も沢山作れるというものもっちぃ……それに」
     悦に浸りつつコサック戦闘員がチョコレートを運び出す様を眺めていた中年男は自分の言葉に頷くとレオタードの中からとりだしたモノを一口囓って口元を綻ばせた。
    「やっぱりチョコ餅は最高もちぃ」
     と。

    「ゆすらの想像してたのとはずいぶん違うのですが、ご当地怪人を見つかったのです」
     山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)が調べていたのは、大好きなご当地グルメを独占するご当地怪人がいるのではないかという疑問に基づいたもの。
    「確かに、ご当地グルメとチョコには大きな隔たりがある。しかもご当地品に関しては逆に広め様としているように見受けられるからな」
     まさか、独占は独占でもこんな変則的な形である意味真逆のモノが未来予知にひっかかるとは思っても見なかったのだろう。同意しつつ座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は他の灼滅者に向き直ると説明を始めた。
    「もうすぐ2月の14日、バレンタインデーな訳だが、この日を前に全国のご当地怪人達がはた迷惑な事件を起こそうとしている」
     件のご当地怪人も、おそらくはその一人だろうと思われる。
    「どうしてチョコレートが狙われたのか解らないなどと白々しいことを言う気はないが、ご当地怪人が何か言いかけていたことを鑑みるに理由は他にもあるのかもしれない」
     私の勘だがなと付け加えるとはるひは肩をすくめ。
    「ともあれ、これを放置出来ない。よって君達の協力を仰ぎたい」
     バレンタインを待ちわびる人々の為にも、被害を出す訳にはいかない。その言葉に君達は頷くと説明の続きを促した。
    「今回君達に向かって貰いたいのは、とあるショッピングモールとなる」
     あまり大きな騒ぎになると面倒だと思ったのか、問題のショッピングモールへご当地怪人達が訪れるのは、午後の客足がまばらになる時間帯。
    「そこに、ご当地怪人チョコモッチアは五名のコサック戦闘員を連れて現れる」
     複数の戦闘員を連れているのはご当地怪人としては弱い部類だからか、それとも運搬に人手を必要とする為か。
    「一般人がご当地怪人に抗えるはずもない、ましてや武器を突きつけられればな」
     基本的に売り場の一般人が時間稼ぎしてくれる展開は望めない訳だが、このやりとりでご当地怪人の気が店員に向いている間が唯一の介入機会となる。
    「ご当地怪人にしてもチョコや代用品として持ってきたご当地品を巻き込む訳にも行かない。当然ながら思い切った攻撃は出来なくなる」
     生死がかかってこれば別になるかもしれないが。
    「チョコモッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃をしてくるが、前述の理由により序盤はご当地ダイナミックもどきを封印しているだろう」
     コサック戦闘員達は鍛えられた足腰から近接単体へに蹴りを放ってくる他、離れた相手を銃撃するという遠距離攻撃も持ち合わせ、実力的に頼りないご当地怪人を援護する。
    「もっとも、戦闘員達はあくまで戦力補強程度の強さでしかない」
     もちろん、売り場には店員もおり人避けと言った対策も必要になってくることを考えると敵が弱いのは歓迎なのだが。
    「むろん、油断は禁物だがね」
     そう釘を刺し、はるひは君達を送り出した。


    参加者
    御統・玉兎(鳥辺野にかかる月・d00599)
    日向・和志(ファイデス・d01496)
    山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)
    渡部・アトリ(黒龍騎ファントムブラスター・d10178)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    不渡平・あると(父への恨み節・d16338)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)

    ■リプレイ

    ●接触
    「まったくはた迷惑な怪人も出たもんだね」
    「だな、相変らず傍迷惑だ」
     人気のないアーケードを歩きつつ、御統・玉兎(鳥辺野にかかる月・d00599)は渡部・アトリ(黒龍騎ファントムブラスター・d10178)の言葉に頷いた。
    「チョコの代わりにチョコ餅……ご当地怪人がバレンタインって謎な組み合わせだな」
     とも玉兎は思うのだが、隣を歩く仲間はそれどころではないようで。
    「今度はオッサンのモッチアか……」
     靴音に混じった不渡平・あると(父への恨み節・d16338)の言葉に反応したのは、東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)だった。
    「ついに完全に落ちたモッチアが……」
    「せんぱい」
     俯いて漏らした桜花も、気遣わしげな表情で桜花を見つめる白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)も闇堕ちしかけモッチアになった過去のある少女だったのだから。
    (「救うことは……叶いませんのね」)
    「ああ、助けようがないんだっけ? そんじゃ心置きなくぶっ潰せるな」
     ため息を洩らして目を伏せた黒子と二人と比べて思うところのないあるとでは温度差も大きく。
    「しかしなんか一斉にご当地怪人共が動き出しやがったな。なんか変な野望でも企ててんのかね?」
     首を傾げる仲間の声を聞きつつ、日向・和志(ファイデス・d01496)は霊犬の加是へと視線を落とすとそのまま持参してきたモノへと向けた。
    「コイツの出番はそれ程先でもなさそうだな」
     ご当地怪人の考えることは突飛しすぎて理解できないとしても、目的自体はエクスブレインから聞いている。
    「なるほど、沢山チョコがあるもちぃね」
    「コサッ」
     そして、声まで聞こえてきたとあれば、やることは決まっていたのだ。
    「チョコ餅もいいけど、他のチョコを全部持っていかれたら、みんな困るよね。チョコレートケーキやチョコクッキーなんかも作れなくなっちゃうし」
     小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)の思っているようにチョコが強奪されてしまえば困る人が出てくるのも間違いないのだから。
    「このチョコレートは全て頂いて行くもっちぃ。逆らえば」
    「コサッ」
    「ひっ」
     レオタードを着た中年男性もといご当地怪人の声に応じて戦闘員達が一斉に銃を突きつけ、店員の口から悲鳴が漏れる。
    「そこまでだよ」
     亜樹が声を上げたのは、まさにこのタイミング。
    「なっ」
    「クロステス・フリノット・カティバ・ガリノス」
     驚き固まるご当地怪人ことチョコモッチアを前にスレイヤーカードの封印を解き。
    「ドーモ、チョコモッチア=サン、元べこモッチア、べこ餅ヒーロー白牛黒子ですの」
     虚をつかれ固まったままのご当地怪人へ向け黒子は頭を下げた。

    ●普通そうなる
    「強盗犯を確認。一般の方々は速やかにこの階から退避を」
    「えっ? ええっ?!」
    「設備不良のため店内危険な状態となっております」
    「さっき強盗って……わ、わかりました」
     この間にも和志や山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)が目についた一般人へ声をかけ付近からの退出を促しており、亜樹の殺気に当てられた上パニックに陥っていた買い物客は混乱しつつもその場を立ち去って。
    「あなたも早く逃げるんだよ」
     ご当地怪人達が驚き戸惑う隙をついて桜花が店員を庇いつつ避難を促す。
    「あ、はいっ」
    「とりあえず、これで一般人の方は何とかなりそうだな」
     ガラでもない喋り方だなと内心苦笑していた和志は店員とすれ違いながら呟いて。
    「となると、後はあちらか」
    「うぬう、お前達我らの邪魔をするつもりもちぃな?」
     玉兎の瞳に映るのは、我に返り身構えて片手をあげるチョコモッチア。
    「コサッ」
    「モッチアとは餅に対する愛と悲しみから生まれるもの……あなたは何を背負ったのですの?」
     ご当地怪人の合図に銃を構え直した戦闘員達を横目で一瞥し、それでも黒子が問いを発したのは、元モッチアとしては無理からぬこと。
    「『お父さん今ダイエット中なんだからチョコ餅なんて持って来ないでよ』もちぃ」
    「そういうことですの」
     おそらくは娘のモノを模したのであろう裏声を使った説明で、黒子はおおよそのことを理解した。
    「あなたのチョコ餅への愛は分かりますの……でも! こんな強引なやりかた……闇に堕ちる事……許せませんの!」
     理解して尚、行動は否定する。
    「ふん、何とでも言うも」
    「……ご当地愛、じゃない気がするんだが。チョコ餅って食った事ないがどこの名物だ?」
     玉兎が素朴な疑問で口を挟まなければ、始まりつつあった二人の応酬は舌戦に発展していたかもしれない。
    「あ、それならぼくが説明するよ」
    「む、ならお願いするもちぃ。となると、説明が終わるまで手持ちぶさたもちぃな。ここはチョコ餅でブレイクタイムといくもちぃ。お嬢ちゃんもいかがもちぃ?」
    「ちょっとだけ気になりますが、おじさんのレオタードから出てきたのはいやです」
     亜樹に頷いて向き直り、ご当地怪人が差し出してきたソレを拒絶したのは、山桜桃でなくても無理からぬこと。
    「ぬうっ、食わず嫌いは駄目もちぃよ?」
     くわずぎらいいぜんのもんだいにしかみえないのはきのせいだろうか。
    「良いから食べらもぢっ」
    「自分の考えを押し付けんな! てめえらは結局自分の思想を優先しすぎて相手を思う気持ちが足らんかったんだよ!」
     尚も押しつけようとしたレオタードオヤジを一撃で床に這わせ、転校前の親友を思い出しつつ引き合いに出す。
    「アイツなら『迷惑行為乙』とかいって笑ってんぞ! ああ、スタりんがな!」
    「いや、スタりんって誰?!」
     もっとも、あるとを除く他の面々からすれば思いっきり謎の人物だったが。
    「あぁ、スタりんはあだ名で――」
    「不渡平さん、詳しい説明を求めた訳じゃないと思うよ?」
     どんどん話が逸れ始めたのに拙いと思ってかアトリが指摘し。
    「うぐっ、不意打ちとは卑怯もちぃ」
    「押し付けはいかんと思うがなぁ……言って聞く連中じゃないか」
     物理的に変態行動を中断させられたご当地怪人が起きあがるのを視界に収めつつ玉兎は殲術道具を構えた。
    「スカーレットスラッシュ!!」
     白光を放つクルセイドソード を振り抜きながらコサック戦闘員とすれ違うアトリに続き、床を蹴る。
    「説得『物理』だな」
    「コサーッ」
     その一言目が叩き込まれて悲鳴が上がり。
    「チョコ餅、おいしいよね。ぼくも好きだよ」
    「ほぅ、なかなか見所があるもちぃな」
     予想外の所から聞こえた賞賛に、片眉を上げたチョコモッチアはビームを放ちつつ亜樹を横目で見る。
    「その、持って行くチョコ、何に使うの?」
    「答える義理はないもちぃよ? だが、求めていたモノでなくても無駄にはしないもちぃ。ちゃんとチョコ餅の材料にするから安心するもちぃ」
     全然安心出来ない補足だったが、自分達の行動を邪魔しに現れた相手からの質問であることを鑑みればご当地怪人の返答も無理はない。
    「そんなにチョコが欲しいか、ならばくれてやる……。霊犬がかじった食いかけのチョコをな!」
    「誰がそんなものいるかもっちぃ! っ」
     手にしたチョコのようなモノを振りかぶる和志にチョコモッチアは叫び返すと慌てて横に飛んだ。
    「惜しかったね、サクラサイクロン」
     桜色の疾風の如く突撃した己のライドキャリバーに声をかけながら桜花はWOKシールドを広げる。
    「……凄く視界に入れたくない姿だけど、助けられないのは悲しいね」
    「酷いもちぃ」
     容姿についてのコメントで傷ついた様子のご当地怪人をスルーしつつ握った手の中には殲術道具の柄。
    「せんぱ~い! 黒子の活躍見ててくださいの! せんぱいのためにがんばりますの!」
    「うん、頑張ろう」
     黒子の声に笑顔で応じながら桜花は密かに思っていた。
    「今回こそ、今回こそ、えっちぃ目に合わずに終わりたい……」
     と。

    ●目的は
    「コサッ」
    「その程度じゃやられねえよ! バーカ!」
     向けられた銃の射線から横っ飛びで脱し、床の上で一転したあるとは豊かな胸を揺らしながら身を起こし、コサック戦闘員に吼えた。
    「流石だな、加是」
     振るったウロボロスブレイドは敵を捕らえ、一連の攻防を目撃した和志は殲術道具に巻き付かれた戦闘員に霊犬を嗾けつつ小光輪を分裂させる。
    「コサーッ」
    「さて、どうする?」
    「うぐっ」
     斬魔刀に断たれた断末魔が響く中、和志の向けた問いにチョコモッチアが顔を歪めたのは、押されつつある状況を理解しているからだろう。
    「こうなればやむを得ぬもちぃ。お前達、時間を稼ぐもちぃ!」
    「「コサッ」」
     忌々しそうな顔で戦闘員へ指示を出しつつ、ご当地怪人は並べられていたチョコを無造作に取り上げると包み紙を引っぺがす。
    「いただきますもちぃ」
    「えっ」
     チョコ餅を食すならわかる、だがモッチアの食べ出したのは売り場にあったチョコそのもの。
    「な、何食べてるですか!」
     とんでもない暴挙に山桜桃はわなわな震え。
    「食うならこれから食えっ!」
    「わう?」
    「ジョ、ジョン違うです、チョコは食べちゃだめですよ? めっ!」
     和志は用意してきた失敗チョコを投げつけるが、同じ霊犬の囓ったモノだからか山桜桃の霊犬が興味を持ってしまい慌てた山桜桃からジョンに制止の言葉が飛ぶ。
    「よくわからんが、時間稼ぎまでさせてと言うことはこれがあのご当地怪人の目的だったと言うことか」
     戦闘員の跳び蹴りをマテリアルロッドで受け止め、玉兎が横目で見た光景こそおそらくは亜樹が先程投げた質問の答えなのだ。
    「じゃ、じゃあチョコレートを全部食べちゃうことが目的だったです?!」
     戦闘員と対峙したまま山桜桃は愕然とし。
    「な、なんて卑劣な怪人ですか……。チョコレートがなくなったら女の子が絶滅してしまいますっ!」
    「ちょっと待つもちぃ、流石にそれはないもちぃ。チョコ無くなったらチョコ餅も作れなくなるもちぃよ、んぐ」
     戦慄する山桜桃の零した言葉にツッコミながらチョコモッチアはチョコレートを嚥下する。
    「むぅ、これじゃ無かったもちぃね。ではつ――」
     そして、飲み込んで、次のチョコに手を伸ばした瞬間。
    「させないよ」
    「な。もっちゃぁぁぁ?!」
     複数の衝撃が驚きの表情を浮かべたご当地怪人の身体をはじき飛ばした。
    「全部持って行かれちゃったらみんな困るからね」
     拳に集めたオーラの残滓を振り落とすようにしつつ、拳の連打を見舞った亜樹は着地し。
    「うぐ、おのれ……お前達、何をし」
    「コサァァァ」
     起きあがったモッチアが振り返って目撃したのは、山桜桃の影に悲鳴を上げつつ飲み込まれるコサック戦闘員の姿だった。
    「敵が弱くて助かったよね、本当に」
     眼鏡の位置を調整してアトリは呟く。もし戦闘員がもっと強ければ、時間稼ぎに成功されて阻止に至れなかったかも知れないのだから。
    「畜生めー!」
    「コッサァァァァクッ」
     残っていた最後の戦闘員がアトリの出現させた逆十字に切り裂かれ、あるとの斬撃に両断されて断末魔をあげ。
    「傍迷惑なことをしでかす連中にはお仕置きをしないとな?」
    「餅の暗黒面に堕ちたキミ、餅のヒーローの手で眠らせてあげるからねっ!」
     マテリアルロッドをまるでバットか何かの様に担ぎ玉兎が首を傾げれば、桜花も決意を込めた瞳でご当地怪人を見つめる。
    「ちょ、ちょっと待」
     お仕置きどころか二人目の発言で永眠が確定した状況にチョコモッチアは声を上げるが、聞き入れられるはずもない。
    「インガオホー」
     黒子は頭を振るとバベルブレイカーを装備した方の腕にもう一方の手を添えて地を蹴った。
    「もちぃぃぃ」
     悲鳴が響き、チョコレート色の肌から血が吹き出て、レオタード姿のオッサンもといご当地怪人の身体が灼滅者達によって繰り出されるサイキックに踊る。
    「もぢっ、うぐぐ」
     チョコを食べる暇など与えられず、チョコモッチアは磨き上げられた床を己の血で汚しつつも身を起こすが、もはや勝敗は明らかだった。
    「まだまだもちぃぃぃ!」
    「せんぱい」
     己を奮い立たせるように吼えるご当地怪人を前にして、黒子は桜花を呼び。
    「うん」
     頷いた桜花は走り出す。
    「おやすみ」
     跳び蹴りを放つ為、短い言葉と共に踏み切った最後の一歩。
    「くっ」
    「え」
     頭部を狙った蹴りは、最後の力を振り絞ったチョコモッチアによって紙一重で回避され。
    「うぶっ」
    「ちょ、せんぱ」
     自分の股間に顔を埋めさせる形で床に押し倒したご当地怪人の上で桜花は聞いた。上擦った黒子の声を。そういえば連携して攻撃してたんだよねなどと冷静に考えている余裕もない。
    「うみゃ」
    「ンアーッ」
     桜花の悲鳴を中断させる形で攻撃目標をロストした黒子の身体が桜花の上に降ってきたのだから。
    「ううっ、最後はかっこよく決められると思ったのに……」
     滂沱の涙を流す桜花のお尻の下、元を含むモッチアサンドの下段にされたご当地怪人が灼滅されたのは、約二十秒ほど後のことだった。

    ●想いの向くさき
    「さ、帰ろうぜ」
    「その前に、少し良いか?」
     俺らまで強盗犯扱いじゃたまったもんじゃないからな、と仲間に撤収を促す和志にちょっと待ったをかけ、玉兎は寄り道を提案する。
    「製菓コーナーを覗いて行きたくてな。めぼしいものがあるといいが」
    「あ、あたしも和菓子コーナー寄りたいな。餅仲間の追悼にせめてチョコ餅買って帰ろうかなって……桜餅と一緒にね」
    「うーん」
     戦いのさなかのことは無かったことにしたのか、それともこの短期間で立ち直ったのか。便乗する形で桜花が挙手すれば、あるとは今更ながらに桜花と木にしがみつくコアラよろしく桜花の腕に抱きついている黒子をまじまじと見て唸る。
    「なんか、『元』も含めてモッチアも結構種類が多いよな」
     それだけ餅にも種類があると言うことだろうか。
    「どこかにモッチアの総元締めとかいたりすんのかね? 餅大帝グローバルモッチア、とか……?」
     想像の翼を羽ばたかせたあるとの口にしたモノが存在するかどうかはさておき。
    「あぁ、それからこれはご一緒した皆に。少し早いがバレンタインの贈り物だ」
    「わ、ありがとうございます」
    「お、悪いな」
     作りすぎて余ったから消費に協力してくれと言う玉兎の弁に礼を述べると山桜桃達は差し出されたモノを受け取って。
    「じゃ、行こっか?」
    「……先輩」
     寄り道すべく歩き出した灼滅者達の中、徐々に遠ざかる売り場のチョコを見て呟いたのは、黒子ではなくアトリ。
    「アトリ、行くよ?」
    「あ、ごめん」
     足が止まっていたのか呼びかけられて我に返れば、脳裏に思い浮かべていた思い人の姿にアトリは一度だけ瞑目してから早足で歩き出す。
    「餅を普及させたいのは確かですのね……」
    「うん、広まると良いね」
     聞こえてきた黒子の漏らした言葉にはいつもの調子で付き合いながら。
    「べこ餅は……端午の節句ですか……春はまだですかねぇ」
    「にゃ?! ちょっと黒子?!」
     少しだけ遠い目をし呟くと、黒子はせんぱいの腕を抱きしめたまま呟いた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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