バレンタインデー2014～和菓子に託す想い

■リプレイ

●
　ふわり。
　家庭科室を包むのは和らぎの甘さ。
　胸一杯に吸い込んだ空は、あいた鉄板の前に立つ。
「食べやすいよう、小さ目…」
　じゅう～。
　綺麗な円形がふっかり焼けるのにほくほく。
「適量適量」
　ぽってり餡を抱きしめたどら焼きに仕上げはお魚マークの焼き印を。
　はい！　空お手製どら焼き完成！
「一つぐらいなら」
　さっそく味見♪
　割烹着男子とエプロン女子。
「折角なので大きいのを作るですー」
　みりんとお酢、ちょっと驚きの材料を混ぜて鉄板にじゅー。裏返した所で四苦八苦しているアレクセイに月夜は気づく。
「せっかく月夜さんに食べてもらおうと思ったのに」
　手の熱でべたつく餅にしょんぼり。でも彼女の愛らしい励ましに奮起。
「終ったら、お手伝いするですねっ」
　大きな生地を冷まして餡子も特大てんこもり。
「あ…」
「にゅ？」
　頬に黒子を増やした彼女からアンコをつまみ。屈託ない「ありがとう」に微笑み合った。
「…く」
　まんまるに、ならない。
　お玉を手に、鉄板で歪な形に広がる生地に楼炎は固まっている。
（「困ってる顔も可愛いな」）
　横目で見ながら内心ほくほくの幻夜の手元、梨饅頭が仕上がっていく。
「そこまで不器用じゃないハズなんだがな」
　あんこの入ったボウル、妹達の分も作りたいので量は多め。
「楼炎」
「なんだ？」
　ほっぺをちょんとつつく幻夜に首を傾げる楼炎。
「こっちは完成」
　愛嬌あるきゃら焼き印な饅頭ずらり。
「って！　作りすぎよ！」
　叱る様はどちらが年上かわからない。
　求肥でくるもうとしてつるり落ちる苺に、ウサギはうむむと唇を曲げる。
「桃瀬がしっかりサポートするっすよ！」
　破けた求肥も付け足して伸ばせばしっかりちゃっかり苺餅。
　ウサギは嬉しげに受取ると食紅でちまちま、二つ目包む桃瀬の瞳が興味津々に惹きつけられる。
「ほらほら、どうかな？」
　掌の上羽ばたく金の鳥。
「かわいいでしょ！」
　桃瀬のイメージと告げられ頬が染まる。
「ウサギさん、桃瀬はすっごく幸せっす！」
　ずっと一緒――指切りのように誓い合い、友達への苺餅作りに精を出す。まずはランクマわんこ。
　二人は優陽と詩鶴の作る「動物園」に瞳を輝かせる。
　鶯はウグイス餡、黄鶲は芋餡、白鳥は白餡……餅をくるみ特徴を細かくヘラで描き出す優陽。
　詩鶴は大福でハムスター、ワンコにリス。ウサギとネコは黒白、黒の仔は漉し餡くるみ。お餅の手足が愛らしい。
「しーちゃんのみんな可愛いね」
「はい、優陽お姉さん、どうぞ」
　白ウサギさんをちょんと鳥に寄せれば、その中から飛び立つは麒麟。お醤油の香ばしさを纏った仔をはいどうぞ。
　詩鶴は瞳を丸くしつつぱくり。焼きたてに喜ぶ様に優陽もはんなりにっこり。
「…貴方のなんですか、それ」
　菖蒲の掌の上「ぶにゃーん☆」と鳴き声が聞こえてきそうなのは、猫？
「お前のこそなんだよ」
　裕也が更に置いたのは、白い饅頭の一部が異様に伸びている。形成失敗、か？
「俺のは猫に決まってんだろ」
「僕のは兎ですし。兎に超見えますし！！」
　周りの注目を集め黙りこくり、尖らせた唇から出てきたのは、
「…まぁ一緒に来てもらって嬉しかったですけど」
「…まぁ、俺も楽しくないと言ったら嘘になるな」
　もにゅもにゅ。
　でも絶対に次は負けない。
「壊滅的料理下手に作る楽しさを教えた責任を取って下さい…」
「じゃあ、わたしが美味しくいただこう！」
　アゲハの楽しみ増やせたのは嬉しいし、従姉弟の店でお馴染みの和菓子の香りにご機嫌、糸子は笑顔で米粒残る団子を丸める。
「丸めて包むぐらいは…」
　結果：大苦戦。
　びよびよに伸びた餅をなんとか纏め、あんこはブチ猫の如く斑。
「ほらほら、あーん！」
　端正な黄粉のぼた餅を千切りお口へ。糸子のぼた餅とってもおいしい。
「人間の食べ物になったら献上しますね…」
「いとこちゃんにも、今ちょーだい！」
　充分上手だと思うけどな。
「練りきりを作ってみたいの」
　教えを請う安寿に恥じぬように、クリスマスに和菓子の作り方を教える約束を結んだわけだから。
「けっこう重労働…ね」
「変ろう」
　焦がさぬよう丹念に鍋底を攫う手つきに安寿のまあるい瞳は更にまんまる、感服です。
「ここからは粘土の要領だな」
　例えばとザルで細かく漉した緑の蕗の薹。
「春らしく梅の花と鶯なんてどうかしら？」
「良いんじゃないか」
　椿練る陽己を見よう見まね、安寿も形作る。
「うん、初めてにしては上出来かな」
「ああ、丁寧で優しい仕事だ」
　飛び立ちそうな鶯に陽己は柔和な笑みを向ける。
　日本文化がお気に入りの東欧の舞姫は、きな粉がお気に入り――式夜のメイン素材が、決った。
「上生菓子というのは綺麗じゃな」
　陽己と安寿の咲かせた花を遠目にエウロペアは求肥を手に取った。
　覗くなとか何かは内緒だよとか、じゃれあうようにお喋り。
「怪我しないかハラハラするんだが…」
「この程度で怪我するなら、鋼糸など…あつっ！」
　余所見するからほら。
　きな粉クリームの大福隠した彼は、チョコ抱いた胡蝶蘭を見せられる。
「まあ、他意はないが」
　隠した花言葉辞典、見られなかったじゃろうか？
「俺が作るのは勿論これ」
　咲哉が掲げる鯛の焼き型に、悠花の霊犬コセイがしっぽはたはた。
　じゅうじゅう焼き上がる鯛焼きを片っ端からコセイ先生がわふわふ（はぐはぐ）とご満悦です。
「真珠も焼いてみるか？」
「できるでしょうか」
　おっかなびっくりチョコ餡落とし。
「コセイ、いちご大福…て、求肥が食べ辛い？」
「わう」
　かみ切れないわふぅに悠花はむむむ、でも。
「お花畑みたいで綺麗ですわ」
　スライス苺の冠大福、華やか春色。
「むむむ、さすがは俺のライバルだぜ」
　そう言われると嬉しい。
　ぱこん。
　蓋を開くとふわり広がる桜の香り。塩漬けの花と葉、夕は材料から手作り本気モードだった。
「求肥は水練りで…ええ、妥協はしません」
　そこだけ空気が張り詰めるも、結城はマイペースに繭玉を掌でころころ。
「どうせならバレンタインですし…」
　結城は繭玉にココアのチョコ化粧。背筋を伸ばした夕の肩をつくつん。
「なんです……ふにゃっ！？」
　口の中に転がり込むココアの香り目をぱちくり、不意打ちダメだと言ったのに！
「おいしいですか？」
　おいしいなら嬉しいのだけど。
　贈り物だから誠心誠意を込めて。
　漉し餡を橙でくるみ前足後ろ足をつけて…かしこが想い描くのは誠士郎の霊犬花。
　真剣な作業を邪魔せぬよう、誠士郎も繭玉に切り込みを入れて細工を施す方へ集中。
　白眉に胡麻の瞳愛らしく、べっこう飴の銭を下げ満足げに頷いた所でようやく視線に気づく。
「す、すまない…少し集中しすぎた」
「ふふ、可愛らしいものだな。花にも見せよう」
　きっと喜ぶ。
「兎の繭玉か」
　桃色小花を添えた兎に、誠士郎が更に青の金平糖を添えれば――。
（「まるで私達みたいだ」）
　かしこの内緒の呟き、実は誠士郎も同じ気持ち。
　１０年以上、一緒に笑ったり泣いたり――そんな幼馴染みが恋人に変ってからまだほんの１ヶ月。
　くすぐったい。
　でも、居心地の良さはなんにも変らない。
「火加減は得意だし、皮は隼人に任せるね？」
「ああ、単純なものは得意だ」
　小豆を炊き丁寧に餡を作る陽の隣、隼人が生地を鉄板に流し込む。
「さすが焼き物は上手いねぇ」
　火を連れる彼に陽は程良く潰した餡を器に広げ笑いかける。
「ほら、あ～ん」
　餡をのせ包み、熱々を千切り陽の口元へ。照れながらも舌の上、甘く融ける味はレトロ情緒満載。
　紅華は父の顔を浮かべ白玉粉をきゅっきゅと練る。
　レイラは先程からどら焼きの皮をハート型に出来ないか試行錯誤。
　その間チン☆　と軽やかに２回。丁寧に食紅で５つの花咲かせれば。
「花笠せんべいの完成だべ♪」
「ふー。なんとかハートです♪」
　そんな二人はこの機会をくれた顔をきょろきょろ探す。
「二人共、一緒に作ろ！」
「矢宵さんは…何を？」
　繭玉を丸める標の隣、永久に問われた矢宵は「じゃん」と動物の焼き印を広げて見せた。
「お饅頭。家族に友達でしょ、クラスメートにクラブの仲間…」
　一緒に指折り数えてみる。クラスメートの誰某は何が好きそうとか、話を弾ませながら。
「お、いたべ」
「はわー、やっと見つけました」
　紅華とレイラは仕上がった菓子を手に奨めながら、二人の様子を伺う。
「紅華さんは誰にあげるの？」
「お父さんだべ」
　標の問いに、愛情注ぎ育ててくれた誇らしい家族を語る紅華に永久は憧憬を抱く。
「ハート、割って…いいん、でしょうか？」
「一気にいきますか？」
　こく。
　頬張ったレイラのどら焼きは甘くておいしい。
「標ちゃんの繭玉カワイイ！」
「ありがと。皆さんおひとつ、どぞ」
　差し出された華のように、皆の想いが咲きますように。

●
　大正モダンな館で過ごす彼らにとって和菓子は非常に馴染みやすい。
「皆さん作ったお菓子はどなたに差し上げるんでしょう？」
　黄味餡含みの艶やかな上新粉の生地で漉し餡包み、女主人の朱里は柔らかに問う。
「特定の人に…は今の所ないので自分用、ですかねえ」
　ウェリーはどら焼き餡子に白玉抱かせて返す。
「私も自分へのご褒美ですね」
　蒸し器に黄身しぐれを並べ。
「ウェリーおにーちゃんすごくおいしそーなの！」
　そういう陽桜は関西風桜餅。クラスメートの標にもお裾分け。
「ああ、桜餅はやっぱ関西風だよね」
「関東風も好きだけど、ね！」
　もちもちと頬張る二人に、真夜はぐっと拳を握る。去年は事情がありできなかったバレンタイン、今年こそは！
「皮から焼くのか」
「実はホットケーキですけどね」
　宗嗣はふんふんと頷くと手元のボウルに抹茶を降らす。とたんに鮮やかな若草色。
「真夜おねーちゃんは何作ってるのー？」
　わくわく。
　無邪気な期待に祖母仕込みの手つきで仕上げて見せるは、
「愛らしい…うさぎですか？」
「ベースはお饅頭ですけどね」
　じゅう。
　耳は焼き串で瞳は食紅をちょんと。
「あ」
「ウェリーお兄ちゃんどうしたの？」
　粒餡、白餡、黄味餡…片っ端から抹茶にくるむ宗嗣の隣、小声を漏らすウェリーに陽桜がきょとん。
「砂糖忘れた…後で黒砂糖まぶそう」
「それもおいしそうですね」
　蒸し上がった湯気の儘にあたたかな笑みの朱里。
　味見用と小さな兎が真夜の手で並び、星やハートの餡をのっけたどら焼きが並ぶ。
「緑茶があれば完璧だな」
　味見に舌鼓、宗嗣の言葉に朱里が急須をあたためる。

　桜色の一房にもこもこがじゃれても、めりるは餅生地を体重かけて練り練り。
「ナノ？」
　雪だるま？
　体を傾けるもこもこの羽をちょんとつつき、大福に砂糖菓子の羽をつける。チョコレートでつぶらなおめめとお口とグルグル、ほお紅はピンクの食紅。
「もこもこ２号が出来ましたーっ！」
「ナノー！」
　嬉しそうに飛び回るもこもこに並んでもらって記念撮影。
　眼鏡に翡翠髪のおにーさんは和菓子が好きなのでご機嫌だ。
「あえて和菓子とは風流でいいねえ」
　嘉市は黄色い餡子を手にからからと笑う。もうそれで理一は何を作るかお見通し。
「粘土遊びみたいで童心に帰るっていうか」
　童心遊びに海月は真剣、白餡に細く丸めた足をひとつ、ふたつ…名前から想像ができる。
「くちばしのあたりとか難しいな」
　まんまるお尻のフォルムはひよこ。
　その隣にてんっと降り立つはニワトリ練り切り。
「何で作るもんばれてんだ！」
　殴られそうなのを華麗に流し、理一はひよこの隣にタマゴを並べる。
「足が…」
　四本で挫折しそう。
「お」
「わぁ、海月ちゃんのクラゲもかわいいねぇ」
「その足とかサイコーだぜ」
　二人に誉められ海月はぱっと表情を輝かせる。
「そうか、かわいく見えるか」
　ほっと心緩めれば、改めて二人の和菓子が目に入る。
「白のニワトリ本物みたいだ。村雨のひよこも可愛いぞ」
　食べるのかわいそうぴよぴよ。
　並べて記念撮影する海月に、めりるは一緒にいいですか？　とおずおず。
「海月にひよこの親子、可愛いです」
「お、ナノナノかぁ」
「ますます賑やかになったな」
　お喋りしながらさらに思い出写真が増えました！
「はい、これプレゼントだよー」
　理一から、女の子には椿の練り切りプレゼント。

●
　Café：Phönixの面々は和菓子作りに挑戦中。
「すみません、餡の練り具合なんですが…」
「うん、月宮さん上出来だよ」
　店長勇弥今日はフォローで引っ張りだこ。
　割烹着姿の実は黙々。
「小さいの可愛らしいですね」
「クロ助や加具土用…」
　ミオへ砂糖控えめ喉に詰めない大きさと説明。
「関東風と関西風、どちらが簡単なんでしょう？」
　粉を練りはじめたミオを横目に、クラウディアは近くを通る永久に問う。
「俺は…関西風に」
　しようとして挫折としょぼん。
「生地の扱いなら関東風の方が易しいかな」
　ミオを示す勇弥に二人は成程と頷く。
「パンケーキと同じ要領なのかしらね」
「意外に簡単なのか？」
　涼子のは不揃いながらおいしそう。シグマも生地を鉄板へ。
「何かあったら神鳳店長に聞けばいいし」
　作り慣れている鏈鎖は器用に皮を焼き上げ並べていく。
「オレの称号は、飾りじゃないんだぜ」
　熱量調節者・紗羅の脇にはぷちころっとしたイフリート形態の焼き印が。
「名付けて『ドラゴン焼き』！」
　健がじゅう！　と押し付けたのは龍の顔。
「やっぱ焼き印は凝りたいよな」
　シグマもΣマーク誇らしげに。
「みんなの焼き印素敵！」
　抹茶を混ぜ込むさくらえは「とりさん」と焼きはお願い。
「了解」
「皆が作る和菓子も個性が出てて良いな」
　花月は芋きんとんと白餡に解いた寒天を塗る。艶々芋鹿の子になるよう丁寧に。
「白餡もうまそうだな」
　鏈鎖は餡に悩み中。
「黄味餡と胡麻餡…縞々『虎焼き』にならないか？」
　健のアイデアをさくらえが「センスいー」と後押し。
「桜の塩漬けをのせて、完成です！」
「ハート型可愛いです」
　作り慣れたからと、クラウディアや永久のサポートへ回るミオ。
　一段落ついた所で昭乃がお茶を注いで回る。
「前の学校でさ…」
　集る期待に負けて勇弥がぼそぼそ。
　演劇部猫役の可愛い級友に告白！　即座に「遠距離、無理」の返事。
「抹茶のように苦い恋もあるんスね…」
　鏈鎖は勇弥に茶を勧める。
「まぁ…猫じゃないけど」
　真っ黒な姿に変えて紗羅は元気出せとしっぽぱたり。
「もふもふな意味なら、好きって言われるけどな？」
　名を呼ばれた実は振り返らずにミニどら焼きの餡を挟む。
「…そっち（人の恋の話）よりこっち（霊犬おやつ）の方が大事…」
「実兄ちゃんらしいかも」
　健に「あ」と彼は付け加える。
「…あまりわからないんだ」
　好きが一人に向くのが。
「判らないものはこれから見つけていけば良いですよね」
　自分もそうだから、と花月。
「私も初恋話なら一つ」
　様々な餡を抱いたどら焼きをつまみ食いに出して涼子が語る。
「小学校の頃、バレンタインに思い切って『お嫁さんにして下さい』て、でも断られたの」
　ショックで一晩泣き明かし。
「それは…」
　殺伐な世界では経験出来ない思いとクラウディア。
「恋って必ず叶う物ではないのですね…」
　ミオも神妙に。
「でもね」
　涼子は悪戯っぽく笑う。
「考えてみれば実兄なんだから結婚なんて無理なのよね」
「初恋はねー……相手はとりさんのお母さんだったんだ」
　衝撃告白！
「さ、さくら。それ初めて聞いたぞ！？」
「うちの母親にバラされて即失恋。でもとりさんのお父さんに慰められた」
「神鳳さんのお父さんらしいですね。初恋は叶わない、か」
　確かに叶わなかったな、と詳細は噛みしめる花月。
「なんだか甘酸っぱい話だな」
　茶を啜るシグマの視線が向いているのに、微笑み聞いていた昭乃は気づく。
「色々なお話しが聞けて楽しいですね」
　自分の話は恥ずかしくて胸の中。
「兄ちゃん達も色々あったんだな」
　健は「でも」とぐるり集った仲間を見回す。
「みんなで愉しく賑やかな美味いモン喰えたりするのってマジでいい事だと思うよな」
　それには皆で賛成。
　愉楽の一時に身を委ね、勇弥は加具土への骨を作りあげそっと置いた。お土産話はCafé：Phönixで。

●
　ましろのはこの主は警戒されている！
「ふむ…練り切り派が多いようだから大福でも作るか」
　一口大のチョコ大福をせっせと並べ、みゆはじとっと司を見据える。
「練り切りってこんななんですね」
　分量を書いたメモを傍らに、芽瑠はぽってりとした生地に目を見張る。
「うん。こうやって…ピヨちゃんのタマゴ～♪」
　愛らしいひよこがリオンの掌の中で産まれた。
　作り方を見ていたけれどとてもアバウトだった、どうしようと芽瑠は瞳を瞬かせる。
「練り切りなら爆発する心配がなさそうだからな」
「吉野さん、爆破って…」
　シヅキの物騒な呟きに、リオンついピヨちゃんを包んで庇う。
　一方アルベドは悩んでいた。
「練り切りにチョコはあうのだろうか…」
　にこにこしながらつまみ食いの手を引っ込める司へ、チョコ一欠入れた練り切りを差し出す。
「アルベドさん、あーんしてください。あーん」
　図に乗っているぞ！
　だがぽいっと投げ渡しだ！
「あ、それも美味しそうです」
「そう素直に言ってくれれば分けてあげますよ」
　遥斗は別口で持ってきていた生チョコをぽいっと渡す。手元ではココアパウダー入りの練り切りで様々な形をこしらえていく。
「ココアパウダーにベリーを添えて…」
　一見するとコース最後の洋菓子のような上品なチョコ大福が、みゆの手により完成。
「氷高さん」
　オリーブオイルを手にリオンは大福凝視。
「かけると美味しいとか、チャレンジしてみていいですか？」
「かまわんぞ」
　祖母の墓前の分はわけ、一つに緑の液体とろり。果たしてお味は？！
「すごいですね」
　感心する芽瑠の眼前にみゆは苺を翻す。
「いちご大福作るか」
　練り切りよりはレシピ通りで作りやすかろうと言われ、二人は頭に苺をつける大福を作成開始。
「チョコの反応良かったな」
「うむ」
　牽制ついでの毒見（？）司は上機嫌だったのでアルベドとシヅキはチョコ入り練りきりに本格的に着手。兎と桜が愛らしくも華やかに皿を飾る。
「折角のバレンタインだし、餡子の代わりに生チョコを入れたら美味しいかもですね」
「こうですか？」
　遥斗の台詞に神妙な司がやったのは――チョコの塊に餡子をこんもりくるみくるみ。
　…渋い緑茶に合いそうです。

　乙女達の華やかな囀りは卓上競技部のテーブルから。
「練りきりで桜の花を作るよっ！」
　大切な人へとはしゃぐ景の前から非食材を彩希はこっそり取り除く。
「一緒に作りましょうか」
「彩希ちゃん教えてくれるの？　大好きー」
　白餡と求肥、食紅を前にいざクッキング。
「ホットケーキなら作った事あるから…」
　都璃はどら焼きをチョイス。焦げても内側で折ればいいとか対処法が頭をぐるぐる。
「和菓子でバレンタイン、いいねいいね」
　甘い物が得意でない孤月も喜んでくれそう。更に妹真雪ちゃんの分も…三つ子のお姉さん花音は家族いちご大福計画にわくわく。
　詩音は繭玉の中に漉し餡詰めて串に刺す。
「何作ってるの？」
　大量のお餅を分ける朱梨に問われ、詩音は繭玉二つの上にきな粉のバケツを被せ、愛らしく顔細工。
「雪だるま可愛いです。和菓子っていろんなことが出来るんですね」
　彩希が練り切りで兎を形作るのと見比べ、みちるはお餅を手で整える。
「彩希ちゃんも都璃さんも恋人さんのこと考えてる時って楽しそう」
　固い所があるけど気にせず丸める景に、都璃はぽっと一気に赤くなる。
「た、楽しそうとかべ、別に…」
　抹茶皮に漉し餡、黄色い皮にずんだ、焦るからごっちゃになったり。
「詩音ちゃんは好きな人いないの？」
「土邑先輩、抹茶雪だるまどうぞ」
　ぐいっ！
　詩音無理矢理口封じ！
「むぐっ、美味しい」
「…皆さん、お相手の事を思って作られているのでしょうか？」
　ぽってりお餅に長く伸ばした耳つけて、みちるは恋にときめく先輩たちにほうっと溜息。手元の兎の頬紅化粧。
「景ちゃんは最近どう？」
「んっとね～」
　話が逸れて安堵の都璃と詩音は、朱梨の前に山と築かれる大福の山に目を見張る。
　お花、星、お月様…うっすら透けるは色取り取りな餡の色。
「…え、詩音ちゃんどうかした？」
「…いえ」
「お餅だから一度に詰め込んではダメよ？」
　去年の事を思い出し一応注意の彩希は、桜色の愛らしい兎の出来に満足。
「誰か味見して？」
「あ、私のも」
　花音のいちご大福、チョコの隠し味に朱梨はにっこり。
「喜んでくれるよっ。あ、あとほっぺた…」
　チョコのお化粧、花音はてへへと照れ笑い。

　白き楽園「Little　Eden」の仲間達は穏やかな笑み交わし和の素材に指を遊ばせる。
「お手伝いも任せてね」
　香乃果は手際よく生地を仕上げ栗入り白餡を包む。栗入り六方焼き、焼きたては格別！
「香乃果ちゃんの美味しそう」
　どら焼きを冷ましつつじゅるり、そんなるりかには餡増量の大きな六方焼き。
「練り切りで動物さん作りたいんだけど…」
「素敵ね」
　和菓子初めての穂純のために香乃果は生地を作る。
　律とりねは隣で白い生地をころころ、繭玉造り。
「粘土で遊んでるみたいだな」
「耳朶の硬さ」
　そっと摘みこくこく。
　律は紅白、りねは加えて黄と緑。
「桜色の繭玉ですね」
「真咲さんのはカラフルでとても綺麗だ」
　木に刺してお花のように。
「じゃーん。ね、皆の分もできたよ」
　るりかのお皿の上、皆にあわせた和紙を纏ったどら焼きが誇らしげ。
「美味しそうな匂い。私も頑張るよ」
　穂純は香乃果へ礼を言い、後はひたすら作る作る。
「この犬はかのこ君か」
「うん」
　真っ白紀州犬、今にもわんって言いそう。他にもウサギさん、猫さん、鳥さん…仲間が一杯、ちょっと崩れてるのが却って愛らしい。
「りねちゃんと律さんの繭玉、色合いが綺麗だね」
　六方焼きをお皿に並べ、香乃果はにっこり。
「早春のお祝いに」
　こよりを巻いた枝、一人にひとつずつ。
「食べてしまうのもったいないですね」
　じゃあその前に写真撮影。これで皆へのお土産話もできた。

　共に過ごした人とも、これから過ごす人へも、ハッピーバレンタイン。柔らかな甘さの和菓子を連れて、掛け替えない日を楽しもう！

作者：一縷野望	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年2月13日 難度：簡単 参加：68人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 7／キャラが大事にされていた 1
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