●星の降らない夜ならば
町外れにある、遠い昔に廃線となった小さな踏切。周囲に明かりもなく星を見るには最適な場所だけれど、言ってはならぬと大人たちは口にする。
踏み切りには、老爺が出る。
老爺は星を降らせる力を持つ。
流れ星などといった生易しいものではない。遥かな夜空より降り注ぐ流星群は、近づくものを殺してしまうだろう……。
●放課後の教室にて
灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、落ち着いた笑みを浮かべたまま説明を開始した。
「場所は、電車が通らなくなってしまった小さな町。バスや車を頼りに細々と暮らしている人々が住まう場所で、次のような噂がまことしやかにささやかれています」
――星降りの老爺。
纏めるなら、深夜の踏み切り跡に老爺が現れる。老爺は星を降らし、人を殺す。
「はい、都市伝説ですね。ですので、退治してきて下さい」
葉月は地図を広げ、町外れの踏み切り跡を指し示した。
「午前二時にこの場所へ赴けば、老爺が出現します」
後は戦いを挑めば良い。
姿は帽子を目深に被り、白いひげを蓄え、杖を携えている老爺。力量は八人を相手どれるほど高く、特に破壊力に優れている。
杖を掲げることで星を降らし、指定した周囲の加護を砕きながら撃ちぬく力。一つの小さな星を撃ちだし、一人に対して大ダメージを与えた上で動きを止める力。そして、星を身に宿すことによって身を癒やし、力を高める……といった行動を取ってくる。
「以上で説明を終了します」
葉月は地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
「最初は恐らく、色々と危ない踏み切りに子供が近づかないための知恵だったのでしょう。しかし、人に害を為すようになってしまったとあれば話は別。天体観測の季節でもありますし、どうか確実に倒してきて下さい。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
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ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078) |
渡世・侑緒(ソムニウム・d09184) |
赤秀・空(道化・d09729) |
ハイナ・アルバストル(愚弄の火・d09743) |
スィラン・アルベンスタール(白の吸血児・d13486) |
星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728) |
ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263) |
フィーバス・ロット(アダンの砦・d23665) |
●天体観測
午前一時半を過ぎた頃、静寂に眠る住宅地。新たな持ち主が見つかるか朽ちるまで息を潜め続けていく廃屋の群れ。
かつては電車が通っていた街も、今となっては静寂が友となる寂れた場所と化していた。その分だけ空気は澄み渡っており、そこかしこ自然の跡も伺えた。
優しい風に導かれ、灼滅者たちは都市伝説が出現する踏み切りへと到達する。
草木に覆われ踏み切りどころか線路としての役割も果たすことができなくなった場所を眺め、ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)が静かな息を吐いて行く。
「成程こういう場所こそ風情もあるだろうに、危険と言えば危険か。惜しいな」
今宵現れるは、星を司りし老爺。午前二時、踏み切りに訪れたものを殺す都市伝説。
二時までは、まだ少しだけ時間がある。
故に、赤秀・空(道化・d09729)は白い息を吐きながらライトの設置を開始した。
正直、星空に浪漫を感じたり星に願いを投げ掛けたりする事はない。星座も知らないし、興味もない。
ただ、静かな星空をぼんやりと見上げるのは嫌いじゃない。だから……そして何よりも強くなるために、この場所へとやって来たのだ。
「……」
新しい懐炉を開け、暖を取りながら空を眺めた時、同様にライトを設置しているフィーバス・ロット(アダンの砦・d23665)が口を開いた。
「大事な人達が空に昇ってお星様になるっていうなら、星は願いを叶える為に降ってくるものだと思うんだ」
人は死んだ後、星になって地上を見守ってくれている。ならば、もう一度会いたいという願いを叶えたくて降ってくる……そう思うと、フィーバスは風に乗せていく。
ポツリ、ポツリと返事があった頃、ライトの設置が完了した。
並べたライトを改めて確認し、フィーバスは静かな息を吐いて行く。
「これも地上の星かなぁ」
人が創りだした地上の星。
人を導くための煌めきは、小さくても確かな輝きを持っている。
だからだろう。ふと、心に歌が浮かんできた。
「ねぇ、星に願いをって歌を知ってる?ボクあの歌大好きなんだ!悲しい時や寂しい時も、星を見上げればなんとかなる気がしてるよ。星は美しいし、星を見る時ボクは上を向く。それが大事なんだって、一緒に暮らした友達が言ってたんだ。その友達が歌ってくれた。ボク、きっとずっと忘れないよ」
雑談の口火として切り出した言の葉が、灼滅者たちをにわかに盛り上げる。二時を迎えるまでの短い時間、寒さを忘れさせてくれていた。
そして……。
「……そろそろね」
時計を確認したポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)が、一時五十五分を過ぎたと告げていく。
皆で武装し、身構えていく中、ポルターは表情のない瞳で想い抱く。
星を降らせる光景は、きっと遠くから眺めるだけならきれいなのだろう。
しかし、近いと大災害。危ないし、倒さなければ……と。
●星降りの老爺
――星を降らせる、帽子をかぶり白いひげを蓄え杖を携えた老爺は、前触れもなく踏み切りの中心に出現した。
スィラン・アルベンスタール(白の吸血児・d13486)は剣の回転のこぎりを唸らせながら、一歩、また一歩と距離を詰めていく。
今宵の敵……こうやって、戦いを挑んでいくのは久しぶり。
学園に来てからは初めてだ。
けれど、変わらない。いつもどおり全力で倒すだけなのだと、間合いに収めるなり一跳躍で老爺に斬りかかる。
杖に阻まれてしまうも、続く攻撃のために老爺を抑えこんでいく。
「バラバラに……してやる!」
「そこです」
自由な動きを阻害されている老爺へと、側面に回りこんでいた渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)が霊力を込めた拳を突き出した。
脇腹を突くとともに霊力を開放し前身を軽く縛り付けた時、ハイナ・アルバストル(愚弄の火・d09743)の影もまた老爺の足を捕らえていく。
「少しばかり邪魔をさせてもらうよ。なに、気にしないでくれよ」
されど老爺は止まらない。
杖を遥かな空へとかざし、数多の流星群を召喚する。
後衛陣へと降らせていく!
「っ!」
サイドステップにバックステップ、体を翻し仰け反らせ、星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)は踊るように回避した。
「凄いです、本当にお星様が……」
きらめく星々の数々に賞賛の言葉を送りながら、ナノナノのノノに治療を願い出る。
ノノがフィーバスに向けてハートを飛ばした時、スィランが再び飛び込んだ。
「っ!」
背を向け、振り向きざまに騒音響き渡る剣を横に薙ぐ。
やはり杖に阻まれてしまったけれど、衝撃を与えることはできたはずだ。
「……」
素早く老爺から離れた後、スィランは再び駆け回る。仕掛けるべきタイミングを伺い始めていく。
老爺もまた杖を掲げ、新たな流星群を召喚した。
老爺が杖で誰かを指し示した時、先端から放たれる星、シューティングスター。
胴で受けてしまったニコは、僅かに体がしびれていくのを感じていく。重なれば動けなくなってしまうかもしれないとの思考を巡らせながら、前へと踏み出し儀礼用の剣を改造して作成した刃で切り込んだ。
杖に阻まれながらも……杖に阻まれたが故につばぜり合いへと持ち込んで、老爺に顔を寄せていく。
「星は遥か高みに在りて、故に人は其々に想いを馳せる」
星に手が届く人間は、ほんの一握り。だからこそ人は努力し、星を求め続けていく。
「そう安易に流し、落としてくれるな、有難みのない」
老爺は星を手が届く場所へと召喚し、人を殺めるために落としていく。
何よりもそれがもったいないと、ニコは弾くと共に鋭き切っ先を突きつけた。
老爺の動きに変化はない。次の技を選ばんというのか、腰を落として灼滅者たちの攻撃をさばいている。
故に、みくるはお願いする。ノノに治療をお願いする。
「その代わり、ボクは……!」
自身は最前線へと走りだし、魔力を込めた杖を叩きつけた。
爆裂する魔力が老爺を僅かに沈ませた隙を狙い、空が背後へと回りこむ。
「少しずつ重ねていく……!」
振り向き様に裏拳をぶちかまし、再び霊力の縄で老爺を薄く絡めとった。
拘束などないかのように、ポルターへと放たれるシューティングスター。弾けど体中をきしませていく衝撃をこらえながら、ポルターは静かな言葉を口にする。
「……エンピレオ……任せるわ……」
ナノナノのエンピレオは頷き返し、ポルターにハートを飛ばしていく。
受け取ったポルターは静かな息を吐いた後、静かな風を巻き起こした。
「……祝福受けし言霊の癒風……」
一度の治療だけでは拭い切れない細かな傷、浄化しきれないかもしれないしびれを癒やすため。
支えることで、誰一人として倒れぬまた勝利を迎えるために。
フィーバスもまた同様の思いを抱いているのだろう。最前線に向けて、静かな霧を差し向けた。
「癒しの霧っていうよりは、隠れて飛び出てビックリ攻撃! って感じだよね?」
癒やすだけではない、攻める力も高める霧で、仲間たちを導くために……。
遥かな空より降り注ぎし、熱く激しき流星群。
侑緒はステップ、ステップ、バク転。トンボを切って全弾回避。勢いのまま老爺の懐へと飛び込んだ。
「見た目は、ファンタジーな物語に出てくる魔法使いのお爺さんみたいです」
呟きながらも一発、二発、杖に阻まれながらもめげずに拳を叩き込む。
老爺を、拳連打で抑えこんでいく。
「次!」
「わかった……」
呼応し、ハイナが魔力の弾丸を撃ち出した。
拳から身を守るために掲げられた杖のした、右胸へと突き刺した。
「麻痺が回りきればゲームセットだ。せいぜい急いで戦ってくれよ」
呟きながら、次の攻撃に備え影に力を込めはじめる。
一呼吸遅れて、老爺の動きが僅かに止まった。
見逃す理由などどこにもないと、スィランは剣を軸に体を反転させていく、
地面から剣を引き抜く勢いで、老爺の足を切り裂いた。
「……」
「そのお力、教えて頂きたい位お見事です」
みくるは賞賛の言葉を送りながら、老爺が行ったようにはたきの形をした杖を掲げていく。
星の代わりに魔力の矢を生成し、老爺に向かって降り注がせた!
「ですが、人を殺してしまう事は見過ごせません」
数多の矢が老爺を押さえつけていく中、ノノのハートがニコを治療する。
対向するかの如く老爺もまた杖を掲げ、流星群を降り注がせた。
「っと」
侑緒は軽い調子でかすめるのみに留めた後、勢い良く影を差し向けた。
今まで積み重ねてきた影と、霊力を協力し、老爺を完全に縛り付けることに成功する。
「今です!」
「さらに、強固に重ねようか」
抜けだされてはかなわぬと、ハイナもまた影を放ち老爺を更に強固に拘束した。
白いひげを靡かせたまま動けぬ様子を眺めつつ、ハイナは一瞬だけ瞳を閉ざす。
中々ロマンチックな都市伝説。ふる星も綺麗で有り難い話ではあるけれど、美しいものほど、それが襲ってきた恐怖感は強いもの。
何より、爺が降らすというのが頂けない。
ロマンと老いは対極にあるものだから。
だからこそ倒し、この地に平和をもたらすのだと、ハイナは影に込める力を強めていく……。
●星に願いを
空より降り注ぐ流星群からの治療をエンピレオに一任しつつ、ポルターは腕を刃に変えていく。
「……蒼き寄生の大刃……対象割断……」
ゆらりと、しかし確かな動きと共に振り下ろし、老爺の肩を切り裂いた。
老爺は影をたくみに引っ張り杖を持ち上げて、ニコを指し示していく。
「不要だ、此方から掴みに行く」
生み出された星を、ニコは杖の先端で叩きとした。
手首を返して頭を叩き、魔力を爆発させていく。
揺らぐ老爺に、空は影を解き放つ。
「……」
足元から、根の様な形と動きを持って。
これ以上動くことは許さぬと……星を身に宿すことすら許さぬと、さらなる形で老爺を拘束する!
故に、エンピレオもしゃぼん玉を放ち老爺の力を削っていく。
さなかに腕を砲台へと変えたポルターは、群れなすしゃぼん玉の中心へと狙いを定めた。
「……蒼き寄生の猛毒……対象侵食……」
滅ぼすための砲弾は、誤る事なく老爺に辺り、二歩分ほど後方に退かせる。
すかさず懐へと飛び込んだフィーバスは、ナイフで下から切り上げた!
「星が人を傷つける、そんなガッカリ感を断ち切るよ!」
言葉は響き、杖は折れる。
老爺が煌めきへと変わり、遥かな空へと消えていく。
後に残されしは静寂と、戦いによって生まれた僅かな熱。しばらくすれば風に冷まされ、覚めない夢を見続ける場所へと変わるだろう。
灼滅者たちは小さな息を吐きだして、治療のために動き出した。
治療が終わり、静寂を取り戻した踏み切り跡。
中心へと足を運び、スィランがぼうっと星を眺めていく。
かつてそうしていたように、今もそうしているように。星を見上げるのは生活の一部だから。
ハイナもまたポケットに手を入れて、静かに空を仰いでいく。
「こうしてみればそこそこな空色だね。ま、僕の故郷の空の方が綺麗だったけどさ」
何気ない調子でうそぶいて、静かな息を吐いて行く。
少し離れた場所にいる侑緒は、目を擦りながらも星を見上げていた。
「ほんとう、綺麗ですね。もう少し見て行きたいです」
眠いけれど、星の記憶には変えられない。少し見ていくくらいなら、きっと心が満ちるだけで収まるはず。
みくるもまた同様に、静かに空を眺めていた。
「何やら夜空が何時もより綺麗に感じます……あ」
深い藍にも似た暗闇に、淡い光をもたらす小さな月。まばらに散らばりきらめく星々の合間を、一筋の閃光が駆け抜けた。
「流れ星……どうか立派な執事になれますように……」
願いを伝え終える頃にはもう、流れ星は消えていた。
届くかどうかはわからない。
あるいは、届かせるための誓いのようなものなのかもしれない。
何れにせよ……踏み切り跡は静寂という名の平和を抱き、星々を優しく支えている。
より明るく、静かに煌めくように。平和をもたらしてくれた灼滅者たちを、優しく祝福しているかのごとく……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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