ともだち

    作者:聖山葵

    「あれ?」
    「あの子……」
     帰路につく同級生達を眺めていた二人の少女が目をとめたのは、ポツンと一人で昇降口に向かう少女の姿だった。
    「あの子、いつも無口よね」
    「って言うか、笑ってるところも怒ってるところも見たこと無いよーな」
     自分のことを言われているというのに背中越しに聞こえる声を気にするそぶりもない。
    「けど、この間挨拶したら返してはくれたわよ? 『おはよ』の三音だったけど」
    「へー」
     ただ、帰路につく少女は無表情のまま一定のペースを保って昇降口へとたどり着く。
    「さよならー」
    「あ、ねぇ今日寄り道してかない?」
     同じく帰路につく生徒で賑やかな昇降口でも、少女は無言。目は取り出した携帯電話に注がれ、指はせわしなくボタンを押しているものの、無表情は崩れなかった。
    「でもさ、ゆっこまだ来てないよ?」
    「メールしときゃいいじゃん」
    「っ」
     ただ、周囲に飛び交うメールの一言にだけはぴくりと肩を振るわせたし、携帯の液晶画面は普段の少女を知る者なら目を疑うほどの饒舌さで文字がつづられていたのだが、気づく者は居ない。
    「まったー?」
    「もーっ、ゆっこおっそーい! メールするとこだったよー」
    「えーっ、ごっめーん」
     故に周りの声には我関せず、靴を履き替えた少女は昇降口を出て。
    「ん」
     後門を抜け、脇道に逸れてたどり着いた小さな公園でベンチに腰掛けるとたたんでいた携帯を再び開き、ボタンを弄ってメールの着信に気づく。
    「え」
     少女の饒舌な文章と比べれば、短くシンプルすぎる内容。
    「彼氏が出来たよー」
     本文以上、である。
    「あ、あ……」
     動揺しつつも返信の文章を書こうとして少女はボタンを押すが、それまでのようにすらすら文章にならない。それどころか、もう一方の手に持っていた鞄を取り落としたことにさえ気づかずに。
    「あぁぁぁ」
     そんな声と共に謎な文字の羅列が作られ行く中で、携帯のボタンが融解しだした。
    「あ」
     ボタンに止まらず、携帯電話自体も少女の掌が帯びた高温で溶け始め、身につけていた服も発火し、燃え尽きる。
    「……ワタシ」
     残されたのは、申し訳程度に炎のオーラっぽいモノを身に纏い呆然とする半裸の少女だった。
     
    「一般の人が闇堕ちしてダークネスになる事件が起きようとしてるですよ」
     ただ、エクスブレインの少女が言うに問題の一般人は元の人間としての意識を残しているとのこと。
    「本来なら闇堕ちした時点で人間の意識は消えちゃうはずなのですよー」
     だが、件の少女は元の人間としての意識を残しており、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況にある。
    「これはつまり、助けられるかもしれないと言うことですよ」
     もし、少女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救いだして欲しいのですよとエクスブレインは言う。完全なダークネスとなってしまうなら、その前に灼滅を。
    「もちろん出来ることなら救って欲しいですよー」
     助けられるかどうかはおそらく君達次第だろうが。
    「それで、闇堕ちの危機にあるのは、火箸・藍(ひばし・あい)さん。中学二年生の女子生徒ですよー」
     いつもの様に仲の良いネット上の友達と携帯電話でやりとりしていた藍は、その友達に恋人が出来たと報告され、闇堕ちする。
    「形状としては炎のオーラっぽいものを纏っただけの姿だけど、これが問題ですよー」
     露出度が高くて男性が目のやり場に困ることもあるだろうが、当人の服は燃えてしまっているのだ。
    「救うなら元に戻った時に備えて着替えは必須ですよ。ちなみに藍さん、スタイルかなり良いのですよ……少し分けて欲しいでのですよ」
     かろうじてききとれるかと言ったレベルの声でエクスブレインの少女が「乳牛め」とか罵ったのはきっと気のせいだろう。
    「話を戻すですよ。それで闇堕ち一般人を闇堕ちから救うには一度戦闘してKOする必要があるですよー」
     この時、接触した少女の人間の意識に呼びかけ説得出来れば戦闘力を減じることが可能だろう。
    「お友達に恋人が出来たのが原因なら、自分達が恋人になるとかお友達になると言うアプローチはどうかなと私は提案してみるですよー」
     ただし、相手が本気に受け取った場合の責任の取り方やアフターケアまではめんどうみれないですよーとしつつエクスブレインは続けた。
    「戦いになった場合、藍さんはファイアブラッドのサイキックに似た攻撃で応戦してくるですよー」
     少女が持つバベルの鎖に察知されず接触出来るタイミングは闇堕ち直後しかないとのことで、戦場となるのも闇堕ちの現場である人気のない公園になるのだとか。
    「助けた後は遊具の影かトイレで着替えて貰うと良いですよー」
     また、着替えの世話を男性にさせる訳にも行かないので助っ人を呼んでおいたですよとエクスブレインの少女は語り。
    「そのせつめいとやくわりでオイラっておかしいよね?」
    「えー? 闇堕ちから救われたファイアブラッドなら適任ですよー?」
     いつものように抗議する鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)の性別という問題点をスルーした少女は小声で言う。
    「あれだけ大きければ見られても減らないですよ」
     とか。
    「冗談はさておき、その辺サバサバしてて気にしない子みたいだから心配ご無用ですよー。ただし、マジマジ見たら変態の烙印を押すですよ?」
    「えーっと」
     どこからどこまでが本気なのか。
    「よろしくおねがいするのですよー」
     和馬にジト目で見られつつもすまし顔を崩さないエクスブレインの少女は、視線に含まれたモノをうやむやにするかのように、ぺこりと頭を下げた。
     


    参加者
    七里・奈々(こっちむいてべいびー・d00267)
    広井・宇宙(空のその向こう・d00700)
    錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    四季咲・朱雀(祝融のクォーレ・d02941)
    赤威・緋世子(赤の拳・d03316)
    大空・焔戯(蒼焔狼牙・d23444)
    細川・忠継(裁く刃・d24137)

    ■リプレイ

    ●少女にとっての
    「助けられる可能性があるならオレは諦めねぇ」
     独言する広井・宇宙(空のその向こう・d00700)の背中を眺めて、ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)は小さく吐息を漏らした。
    (「闇堕ちってのもきっかけは人それぞれ違うものなのねぇ」)
     実際闇堕ちしたものが聞いたなら、是と答えたのではないだろうか。
    (「友達に恋人ができて、そのショックで闇堕ちか……望んで『こう』なった俺としてはかなり複雑だが」)
     まぁいいか、と胸中で続けて大空・焔戯(蒼焔狼牙・d23444)はイフリートの、黒い狼の姿で前足を一歩踏み出す。
    (「怪物は怪物なりに、出来ることをやろうかねぇ」)
     結論だけならおそらくジュラルもたいして変わらない。いや、エクスブレインの依頼を承諾した時点で結論は既に出ていたのだ。
    「そろそろか」
     口を開いた細川・忠継(裁く刃・d24137)の言葉は誰に向けたものでもなく、公園の中に向けられた瞳に映るのは携帯電話の液晶画面を見つめる一人の少女。多くを語らず、ただ為すべきことを為そうかと言うかのように、それ以上は口を開かず車止めの間をすり抜けて。
    「え」
     少女の口が漏らした一音に数秒遅れて手にしていた鞄が落ちる。
    「始まる……その、和馬君はメディックで前衛を癒して、手が空いた時は状態異常を狙ってもらえると助かるよ」
    「あ、うん」
     鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)に指示をした時、四季咲・朱雀(祝融のクォーレ・d02941)は既に公園の中に踏み込んでいた。始まるのだ、エクスブレインが語った少女の闇堕ちが。
    「あぁぁぁ」
     絶望か、焦燥か、嫉妬か。いずれにしても藍という少女へ影響を与え始めた少女自身の闇は熱という形を取って携帯電話を溶かし、着衣の発火という形で炎として具現する。
    「……ワタシ」
     衣服が燃え尽きるまでの短い時間ではない。
    「まあ助けられる者は助けるって方向で頑張りますかいね。彼女と友人になりたいっていう和馬さんの為にも」
    「え゛?」
    「藍ちゃん」
     残り火がオーラの様な姿をとって少女の身体に絡みつき、呆然とした藍を待ち受けていたのは、灼滅者達による介入。言っても居ないことを口にされて思わず発言者をガン見した誰かを置き去りにして、七里・奈々(こっちむいてべいびー・d00267)が少女へ呼びかけ。
    「ン?」
    「ぐっ、見ただけで分かる。胸囲の……いや驚異の戦力差を感じるんだぜー……!」
     振り返った少女の申し訳程度に炎オーラが隠す胸を見て、赤威・緋世子(赤の拳・d03316)は呻いた。振り返った弾みで大きく揺れたのだ。
    「友達に彼氏が出来て、悔しかったの? 相談して貰えなくてさびしくなっちゃったかな?」
    「ッ」
     ただ、近しい悩みを持ちつつも、もう戦闘中と割り切っている錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)は動じなかった。呼びかけに無表情だった少女の肩が動揺するように震え、再び揺れる何かを見つつ、ジュラルは確信していた。
    「私まじ天才じゃね?」
     と。スナイパーという立ち位置を選んだのは、真面目に戦いつつ狙いを定めながら目の保養もできると結論づけたからなのだ。

    ●救うために
    「寂しい気持ち分かるよ、私も恋人いないし」
     理解を示しつつ、朱雀は歩み寄る。少女は琴弓の言葉に動揺を見せはしたものの、敵意は見せなかった。
    「でも、その子は友達だと思った貴女に報告してくれたんだよ」
    「ウ……」
     人の意識が残っている故なのだろうが、説得するには都合が良い。灼滅者達の声に耳を閉ざす訳でもなく、琴弓が言葉を続ければ少女の視線は宙を泳ぐ。言葉は届いているから。
    「これは偶然だろうがな……俺も他人とどうしても馴染めず、仲良くしたいが出来ず、転校を繰り返した」
     徐に口を開いた忠継の言がどちらかというと独言に近い形になったのは、自身が明かしたこれまでの生き方故で。同じ中学二年生、救い出せたならルーツも同じ、人付き合いが上手く出来ないと言う点まで含めてある意味鏡のように思えたのかも知れない。
    「……エ」
     だから気持ちはわかるつもりだと続ければ、少女は表情こそ変えないものの、再び呆然として声を漏らした。訪れる短い沈黙。
    「ちょっと男子ーじろじろ見すぎー」
    「いや、これはそう言う意味じゃないぞ」
     若干茶化すように口を挟んだのは短いお見合い状態を何とかすると言うよりも再び会話に加わるきっかけ作りだったのだろう。
    「あ、あの、良ければ、と友達に、な、なり、ませんか……?」
    「藍、俺はお前を救い、初めての友人になってもらいたい。男の俺でもよければどうか、よろしく頼む」
     向き直るなりとたんにビクついて朱雀が手を差し出せば、割り込まれた形になった忠継も手を差し伸べる。
    「ア……」
    「友達に恋人ができたくらいで闇に食われちゃ駄目なんだぜー! 寧ろ祝福してやれ!」
     手を自分へ伸ばす二人を少女が交互に見て戸惑いを見せれば、今度は緋世子が口を挟み、反論する間を与えず言葉を続けた。
    「それに藍だっけか? お前はスタイルは……と、年下の割りに! 凄くいいみたいだし! いいみたいだし!! ……それに可愛いから恋人くらいすぐできそうだぞ! ま、俺は女だし友達で良ければなっちゃうんだぜー!」
     相手のスタイルについて強調する辺り、自分との比較から来る嫉妬で素直になれなかった結果がこの言い回しになったと思われる。
    「ウゥ……」
    「奈々も携帯とかネットで饒舌になるお友達沢山いるから、今度紹介するよ!」
     もっとも、友達になろうと言っているという意味では他の二人と変わらず、後ずさる少女を真っ直ぐ見て動いたのは、バニースーツの奈々。
    「お友達になろうってのなら喜んでってな感じなんですが」
     更にジュラルが少し離れた位置で呟き。
    「ッ」
    「友達なんて、少し勇気を出せば大体できるもんだ」
     立て続けの申し出で更に動揺する少女の耳が一つの呟きを拾う。
    「ア」
    「ただ声をかけてみればいい。始めは挨拶だけでも構わない。俺みたいな化物にもできたんだ、あんたはまだ人間だろ?」
     発言者を捜し当て驚いたのか固まる少女を真っ直ぐ見据えて、黒狼は言う。
    「とりあえず、学園来ればなんとかなるよ」
     と。
    「そーそー、オレらの学校来いよ。変わったヤツばっかだけど、皆仲間想いのいい奴らだ。友達もすぐできるさ」
     宇宙も頷くとちらり目を周囲の仲間に向けてから笑顔を作る。
    「それに、オレなんかでよきゃ、メル友でもリア友でも彼氏でも、喜んでなってやる」
    「ッ」
     決め手になったのは、おそらくその言葉だった。裸身を隠す炎のオーラが、揺るぎ薄れて。
    「ガァァァッ」
     獣のように吼えた少女は両手を地面についた。

    ●闇
    「まずは落ち着け、と言っても無駄かこれは」
    「……たぶん」
     少女の抵抗が強まったことで焦った闇が表に出てきたのだろう。
    「なら、話しが早ぇ」
     手の中にある龍砕斧の龍因子を解放しつつ少女と対峙する宇宙は殲術道具を握る手に力を込め、足は地面を蹴る。
    「ガ」
     迎え撃とうと四つ足で跳躍しようとした少女の身体は地面から離れるよりも早くどす黒い殺気に覆われて隠れ。
    「……藍ちゃんッ」
     朱雀はWOKシールドを構えて、殺気の固まり向けて走り出す。
    「やあッ」
    「ギャンッ」
    「っ……いやはや、本当にこんなの見せて良いのかね」
     殺気ごと叩き付けたシールドによって殺気の中から転がり出た少女の身体を見て、射撃の為に七三式電磁銃を構えていたジュラルは片手で口元を覆う。指の間からトマトジュースのようなものが零れていたかは想像にお任せしたい。
    「だから男子ーじろじろ見すぎー」
     ジュラルからすれば初志貫徹なのだろうが、一撃を見舞った反動で後方に飛んだ朱雀からすれば不純以外の何ものでもない。
    「うん、まぁ、そう言う話は後にして貰っても良いか」
     炎獣の姿ではわかりにくい苦笑をしつつ、焔戯が器用にガトリングガンを操り爆炎の魔力を込めた弾幕を張ると。
    「グウウゥ」
    「火箸ちゃん、負けないで! 今度は、友達が出来たよって、報告しようよ。こんなに一杯出来たんだよって」
     呼びかけ、琴弓がお願いと影に囁けば伸ばした影が触手と化し、先を争うように跳ね起きようとした少女の身体に絡み付く。
    「っ、これは」
    「ナイスフォロー」
     男性からすると更に目のやり場に困る光景、だが緋世子からすれば逃げられないようにお膳立てして貰ったようなものだった。
    「ほら、ボディがお留守だぜ!」
    「ガフッ」
     四肢を拘束された少女へと雷を纏わせた拳をめり込ませて宙に浮かせ。
    「逃がさん」
     白光を発するクルセイドソードの柄を握りしめた忠継は斬撃の間合いに踏み込んだ。
    「グゥ、ウォッ」
     空中で身体を捻り咄嗟に忠継へ反応しようとするが、飛来した光刃が胸のオーラを斬り散らしながら阻害して、生じたのは大きな隙。
    「そこだっ」
    「ギャゥンッ」
     振り抜く一撃に少女の身体は地面へ落ちて翻筋斗を打つ。
    「ウゥ……」
    「何だかどんどん際どいことになってるんだよ」
    「や、服破りはそう言う指示だったし、それよりあの影の方が」
     呟きつつちらりと琴弓に見られた元凶こと和馬は、獰猛な獣か何かのように荒ぶる影を示して反論する。
    「グウッ、ガァァ」
     そう、影に絡み付かれて画的に男性陣に見せて良いのか疑問に映るような形で悶えている少女を示して。反応がイフリートっぽいのがせめてもの救いだろうか。
    「え? あ、……駄目、お願い言うこと聞い――」
    「おっしゃあ、チャンスだぜ!」
     我に返ったが影に声をかけようとしたところで動きが鈍ったのを好機と見た緋世子が炎を宿したクルセイドソードを降りかかり飛びかかる。
    「更に燃え上がれ!」
    「グッ……ウォォォォ」
     殴打に近い一撃で呻きをあげ地を這った少女は即座に身を起こすと咆吼と共に炎の奔流を放ち。
    「っ、こういうとき、四足は便利だよな。速く走れて踏ん張りがよく効く」
    「あ……」
     朱雀の前に割り込む形で炎をモロに喰らいつつも焔戯は笑う。
    「見過ぎってのは無しで頼むよ、流石にそれでは庇えないからな」
     そも、状況悪化の原因は焔戯にはないのだ。
    「ありがとう、ここから反撃……」
     朱雀は礼を言いつつWOKシールドではなくサイキックソードに炎を宿すと地を蹴る。
    「今度紹介するから、同じお友達だってまだまだ一杯いるんだから、戻っておいで!」
    「グウゥ」
     呼びかける奈々に鋼糸で炎のオーラごと切り裂かれた少女が苦しげに声を漏らしたのは、説得で弱体化し追い込まれているからか。
    「ダークネスなんかに負けねぇで、戻って来いよ! 藍!」
    「グゥッ」
     説得を交えた戦いは続いていた。宇宙が声を投げる度、面白いように動きが止まるのは、戦闘前の発言が理由だろうが。
    「こちらに戻って来るんだよ。私達と、私とお友達になろうよ!」
     生じた隙をつかれる形で消耗した少女は既に呼びかけと共に伸びてくる影に対処する力もなく。
    「派手にぶっ飛びな!」
    「ガァァッ」
     緋世子の言葉通り殲術道具で殴り飛ばされて地面に跳ねると、倒れ込んだ少女の身体からまとわりついていたオーラが消えたのだった。

    ●せきにん
    「ナイスピッチ!」
     決着がついて始めに奈々がしたことは、忠継の投げた上着をキャッチして倒れた少女に被せることだった。
    「い、急いであの遊具の陰に」
    「ナノナノ~」
    「ありがとう! 手早く済ませちゃおう」
     すかさず朱雀がナノナノと並んで男性陣からの壁になりディフェンダーの本領を発揮すれば、気を失ったままの少女を抱え上げ、小走りで奈々は複数の土管を組み合わせたような遊具の影へと向かう。
    「……ん」
     少女の意識が戻ったのは、この移動中。
    「あ、和馬さんは手伝って来た方がいいんじゃね。ほら、その為の助っ人じゃん?」
    「え゛」
     とある少年がとんでもないことを言われて固まっていた頃だろうか。
    「……さむ」
    「……き、気がついたんだ」
     上着一枚をかけられただけなのだから無理もない第一声に若干琴弓の反応が遅れたのは、身じろぎした拍子にはみ出たものを見てしまったからだろう。
    「年下のはず」
     と言うごく小さな声で漏らした呟きは誰にも聞かれることなく。
    「じゃ、これかぶってこっちのジャージに着替えて貰えるかな?」
    「し、下着のサイズはわからないから不便だろうけれどこれを巻いて欲しいんだよ」
     着替えに使うポンチョ状のマントを取り出す奈々の言葉へ続く形で、琴弓は救急箱から取り出した包帯を解きつつ差し出した。
    「さ、俺らが囲んでる間に着替えちまいな」
    「……ん、ありがと」
    「はぁ」
     少女に背を向ける緋世子は促しつつ男性陣を監視し、嫉妬対称から素直に感謝されて嘆息する。きっと女心は複雑なのだ。
    「不公平なんだよ」
     包帯が食い込んで形を変えている豊かな膨らみを見て呟いてる琴弓も、また。
    「そろそろ良いかー?」
    「もうちょっとー」
     一部の女性陣を複雑な気持ちにさせつつも少女の、藍の着替えは進む。
    「それで、言ったと思うんだけど……私達と、私とお友達になろうよ!」
    「……っ」
     琴弓の一言で袖に腕を通す藍の動きが止まったりはしたが、嫌がった訳ではなく。
    「奈々だってお友達になりたい!」
     他のみんなもだよね、と言う意味合いの視線を向ければ、朱雀が頷いて。
    「よ、良ければ……」
    「……ん」
     まだ男性への壁をやりつつ差しだした朱雀の手を藍は両手で包み込んで首を縦に振る。
    「よろ」
     胸の部分で上がりきらなかったジャージのチャックが力尽きないよう片手で押さえつつ藍はぺこりと頭を下げると、朱雀の脇を抜けて男性陣の方へと歩き出す。
    「藍、さっきも言ったが俺はお前に初めての友人になってもらいたい」
    「まぁ、こんな化物でもよければ友達になるぜ?」
    「ありがと」
     忠継と人の姿に変わった焔戯、双方に礼を述べ。
    「友達については私こっちの和馬さん共々も喜んで、そんでもってトマト談義とか付き合ってくれると嬉しいんですが」
    「あ、うん」
    「……ん、ありがと」
     お近づきの印にとトマトジュースの缶を差し出してきたジュラルと不思議なことに着替えの壁に加わっていなかった少女に応じて、藍は更に進む。
    「ふつよろ」
     辿り着いた先、宇宙の前でもじもじしつつも頭を下げたのは「メル友でもリア友でも彼氏でも、喜んでなってやる」と宇宙が言ったことを覚えていたからに他ならない。
    「さっきの『ふつつか者ですがよろしくお願いします』かな?」
    「じゃあ、彼氏出来たんだ」
     流石に恋人は難しいのではと考えていた琴弓からすれば、驚きの展開だろうか。
    「……それじゃ帰るか」
     人の姿に変わったことは、あのままその辺出歩くわけにもいかないからなと説明し焔戯は踵を返す。宇宙が責任を取るかどうかはさておき、学園の案内とかやるべきことはまだ残っていたのだから。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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