いやらしのアロマ

    作者:一縷野望

     ――中州某所、いかがわしい雑居ビルの1室にて。
     薄暗がりの中、浮かび上がるは般若の刺青。
    「とってもお疲れね」
     とろん。
     素肌に白衣だけを纏った女・朋華が、手にした瓶から粘りのある液体を般若に呑ませるように落とす。
     ふわり。
     辺り一面に立ちこめるは、グレープフルーツをメインにハッカと隠しでラベンダーをあしらった調合オイルの香り。活気と安らぎ双方をフォローする調合だ。
    「ええ香りじゃあ」
    「んふ、失礼するわね」
     朋華は男の腰に跨ると、るりるりとオイルを広げ掌でマッサージをはじめる。
    「お、おぅ……お、おお!」
     力を入れる素振りで覆い被されば、白衣越しの胸が般若の上に柔らかな感触がむにっと。
    「ええのぅ、ええのぅ」
    「嬉しいわぁ、もっと頑張っちゃう♪」
     腰から臀部へと下半身をずらしながら、女は首筋に唇を近づけた。とたんに濃密に甘く淫靡な香りが膨らむ。
    「こ……これは……」
    「く・ち・べ・に、イランイランの香りよ」
     催淫効果もあるという香りを塗した舌で首筋ちろちろ。
    「朋華ぁ、まっ前もっ!」
    「んふ、もちろんよ……たぁっぷり癒してあげるわねぇ」

     数十分後。
     すっかり香りとナニカでとろけた男を背に、朋華は蒸しタオルで自分の躰からアロマオイルとナニカを拭いとる。
    「ふう……あいつは鹿児島行きね」
     タオルを受取る配下へ朋華は続けた。
    「鹿児島駅まで持ってったらあとは向こうさんお任せでいいから」
    「はい」
    「んふ、お仕事できる子にはご褒美よ」
     ローズオイルの小瓶を取り、朋華は唇にあしらうと配下の男の頬にちょんっと口付ける。
     小躍りしながら入れ墨男を回収していく配下へ、朋華は「ばいば~い♪」とご機嫌に手を振った。 
     

    「裸白衣とかマニアックすぎ」
     小学生がそんな事を言うんじゃない。
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は、さして照れもせずいつも通りのフラットさで告げた。
    「HKT六六六の強化一般人、朋華がいかがわしいお店を出してるよ。目的は『刺青の調査』」
     刺青入りの場合は店から出てこず行方不明。
     ……刺青入りじゃなくても結局は朋華の配下に成り果てて、やっぱり出てこない事が多くはあるのだが。
    「ま、放置しといていい店なわけないよね」
     ですよね。
    「とはいえ向こうもわかっててさ、真正面から襲撃したらとっととトンズラこかれちゃうんだよね」
     準備は万端、そんな相手を撃破するにはこちらも工夫が必要だ。
    「策は二つ」
     びし。
     標はひとさし指と中指をたてて示す。
    「一つ目は、囮作戦」
     誰かひとりが朋華の店に客として入り囮になる。その間に退路を断って襲撃をしかけるのだ。
    「まー、朋華のスーパー癒しサービス☆で、囮の人は色々とアレでコレだし、戦闘では役立たず確定だよ」
     とろころで「スーパー癒しサービス☆」とは?
    「推理ドラマで親がチャンネル変えちゃうシーンみたいなサービス」
     わかりやすいようなそうでないような曖昧な説明だ。
    「もう一つは、配下一般人籠絡作戦」
     要は配下一般人をひっぺ剥がし朋華をやっつけてしまえという話だ。
    「3人の配下は、朋華の香りとナイスバディと癒しトークに絶対の忠誠を誓ってる。ここを突き崩せれば撤退を阻止する可能性がものすごくあがるよ」
    『香り』『お色気』『癒しトーク』それらを駆使して配下を振り向かせるのだ!
     ちなみに使用サイキックだが――。
     ディフェンダー2人が『WOKシールド』、クラッシャー1人が『解体ナイフ』を使用する。
     朋華はスナイパーで『香りを振りまく(乱れ手裏剣相当)』『楽しみましょ♪(ヴォルテックス相当)』『悩みを聞かせて?(リバイブメロディ相当)』を使用してくる。当然、朋華は格上の相手だ。
    「できればどちらかの策で、朋華を逃がさず倒しておいて欲しいかな。店を潰せば最低限の作戦成功ではあるけど……根本解決になんないしね」
     纏めた資料を手渡し見送り体勢だった標は、はたっと思い出したように向き直る。
    「忘れるトコだった――リア充の方が恋人との仲が崩壊しても、当方は一切関知いたしません」
     それでも征くのが灼滅者なのだ、きっと。


    参加者
    私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)
    七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)
    ゲイル・ライトウィンド(赫き剣携えし破魔の術剣士・d05576)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)
    望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)
    逆月・真神(噂程度の殺人鬼・d22419)

    ■リプレイ

    ●或る日の外面
     いかがわしい看板やサービスタイムのご休憩所を横目に、作業服姿の四人が台車を押し進む。
     ふわり。
     残るのは清々しいカボスの香り。
     ――同時刻。
     淡い金髪を肩で揺らす彼が決心したように雑居ビルへ踏み込んだのを見据える瞳。
     蒼空髪のゴスロリ少女は、大人しげな素振りで色の香を抱く。
     中性的な彼女は、一房だけ鮮やかなスカーレットをなぞる。
     ゆるふわ彼女が年長か、だが笑みは一番あどけなく無垢。

    ●或る日の内側
     落ち着かずそこいら中を見回すゲイル・ライトウィンド(赫き剣携えし破魔の術剣士・d05576)の視界にまず入ったのは、診察台のような無愛想な白いベッド。
     こんこん。
     奥の部屋と繋がるドアが叩かれるのを契機に、受付男は「楽しんでね? 可愛いボク」と耳に息を吹きかけ囁き部屋を出て行く。
    「お待たせしました。あら、かわいい」
     バインダーを手に現れた朋華はとりたてて美人ではなかった。だが口元の黒子と妖艶さが彼女を十人並から逸脱させている。
     あと、裸白衣。
     素肌に白衣、あえて丈は普通。でも太ももから下はボタンがあいててあぶないチラリズム、エロインパクト極大。
    「その……僕」
     ゲイルは俯きながらも唾をゴクリ。
    「ずっと男子校だったからこういうの初めてで」
    「はじめてにここを選んでくれて嬉しいわ」
     うふふ。
     香ったのは甘い金木犀。だがすぐ遠ざかり、彼女は戸棚からいくつかの瓶を籠に移す。
    「最長コースだし、たっぷり、ね?」
    「はい、がっ頑張ります」
     その生真面目な返事に舌なめずり。まぁこの子に刺青なんてなさそうだけど、そこはそれ。
    「好きな香りを選んでくれる? ひとつじゃなくていいのよ」
     まずひとつ目、覚醒のペパーミントに抱かれたラベンダー。

     ワンフロアに扉は二つ、それが上下に五階分。
     入り口で避難経路を記した見取り図を見つけた七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)の目配せに、守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)と逆月・真神(噂程度の殺人鬼・d22419)が裏側の非常階段側へ。
    「僕が下やるから真神は上から三階まで頼めるやろか」
    「わかった」
     吹きさらしの非常階段をあがる真神の足が、事が起っているであろう二階で止まった。
    「どしたん?」
    「あ、いやー」
     曖昧に笑うと真神は上へ昇る。
     鉄ドアの向こうを伺えないのが残念だが、あれやこれやを想像すると思春期のドキドキよりはちょっと引いてしまうのが本音。
     ともあれ、せっせと接着剤をドアに流し込む作業開始である。

     エレベーターから出てきたのは、台車山積みのダンボールと土嚢、そして宅配業者……に扮した文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)と遊だ。
    「ちーっす! お荷物でーす」
    「はーい……って、大きいな」
     応対した強面の男が同僚を呼ぶ中、非常階段から現れたのは、坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)。
    「なんの用だ? 飯田、上本、荷物受取っとけっ」
    「実は」
     宅配業者から遠ざかるように腕を引き、未来は屈強な肩へ指をのせて耳元で囁く。
    「ここで働きたいんだ」
     ふわり。
     情熱の薔薇が花ひらく、それはそれは濃密に。
    「ほう、では朋華様……店長に」
    「兄さんに試して欲しい」
     請うようで選択の余地を与えぬ言い切り、赤川の心にヒット!。
    「赤川ちゃん、やーるぅ」
     未来と別室へ消える同僚を囃したて上本は伝票にサインする。
    「上本さんも持って下さいよ」
     無視された飯田は愚痴りながら荷物を持ち上げ……よろけた。
    「お手伝いしましょうか?」
     そ。
     支えるように手を添えたのはエイティーンで成長した望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)。穏やかな眠りを誘うカモミール。飯田の中、癒し朋華がリフレイン。
    「ねーえー」
     上本の腕を取るのはゴスロリドレスの私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)。
    「ボクとふたりっきりで楽しいことしようよ」
    「お話しをしませんか?」
     理由もなく突然現れやたら積極的な少女達に浮かぶは困惑と疑惑。
    「お客さん、運が良いね」
     不意に宅配屋直哉が口火を切る。
    「癒しの天使様だよ」
     ――癒しの天使様。
     福岡で半ば伝説と化している疲れた人の元へ現れる女性、風俗の営業かはたまた奉仕精神か。
     なーんて嘯く直哉の隣、遊が「おっさんよりオレの相手してよー」と話をあわせる。
    「私は彼の元にきたのです」
     小鳥は飯田の腕をぎゅっ。
    「やぁだ、お兄さん好みじゃないもん」
     眉を寄せる奏は内心『ボクは男の娘』と自己暗示自己暗示。
    「そんなわけあるわけわけわけ」
    「へー、わかってるねぇ」
     錯乱気味の飯田と、くんと鼻を鳴らし舌なめずりの上本。彼らと共に二人はすかさず部屋へ雪崩れこむ。
    「まいど」
    「どーもー」
     爽快な笑みで引いた宅配屋ズは台車へ戻る。そこには気流を操り姿を隠しつつ様子を伺う神楽が、いた。
    「あっちは?」
     声を潜める遊に、
    「二階までは完了や。上は真神に任せてあるけん、終ったらエレベーターから来るよう言うといた」
     そう答え、神楽は空のダンボールをあけて階段前に置く。
    「首尾は上々ってことかね」
     にやり。
     怪力状態の直哉はイイ笑顔を浮かべるとそこに土嚢をつめる。
    「あ、すんませーん。荷物広げちゃってて。エレベーターで行ってもらえます?」
     下から昇ってきた女性から死角になるよう立ち、遊は愛想良く頭を下げた。
     その間にも神楽が箱をあけ直哉が詰める、息ピッタリの作業は着々と進んでいる。

    ●或る日の欲望
     ……蕩ける。
     部屋に満ちるように広がる甘い香りに、俯せのゲイルは陶然とした面持ちで息をついた。
    「どーお?」
     たゆん。
     白衣という薄布で隔てられた乳房が背中に押し付けられた。
    「女の人の体って、温かくて、柔らかくて、気持ちいいんですね」
    「ふふ、まだまだ序の口よ?」
     かとん。
     ハイヒールが脱げる音、彼女は寝台にあがりゲイルの腰に跨ると首筋に唇を寄せる。

    「やっ!?」
     不意打ちでぽんっと胸を叩くように触り、やっぱりと上本はにんまり。
    「やっぱり男の娘かぁ」
     ベルガモットとグレープフルーツの複雑な爽やかさに隠した淫靡な芳香。
     内心冷静な奏は表層意識にこっそり手を伸ばす。
    『初物だといいなぁ』
     奏はぴらりとスカートを広げ上目でふるふる。
    「似合ってるかな? ……変じゃない?」
    「お、初々しいねぇ♪」
     隣室では小鳥の膝に頭をのせる飯田の姿があった。
    「皆さんも本当はあなたを認めています」
     優しく撫でるだけですんで内心安堵の小鳥である。
    「みんなバカにする」
     子供のように唇を尖らせるのは、安寧に浸る証。
    「期待しているから厳しくなってしまうんです」
    「本当ぉ?」
     子供じみた口ぶりで小学生に絡む30代、考えたらダメだ。
    「今は休んで明日からがんばりましょう?」
     ね?
    「ふーん」
     品定めするように質問を投げる赤川に、未来はすっぱりと切り込んだ。
    「常に上からって本当は疲れるだろ」
    「なっ……何を言っとるんだっ」
     たん。
     瞑想誘う大人びた香りは、未来が壁を突くように伸ばした素足により広げられた。
     ごくり。
     赤川の喉が鳴る。
    「ここはあたしと兄さんだけ」
     その足へ絡みつく羨望、しかし触れてこぬ所に頃合いかと未来は舌なめずり。
    「もっと自分を曝け出せばいい……」
     そっと目隠しするようにアイマスクをかけてやる。

    ●或る日の本性
    「あの、ずっと……」
     もう躰に力が入らないゲイルだが、離れかけた朋華に甘えるように手を伸ばした。
    「ふふ、甘えん坊さんね」
     オイルの染みた白衣の女は、すっかりできあがった少年の頬へ指を伸ばし、そそるようになぞりあげる。
    「もちろん、ここからが本番よ」
     ゲイルの躰を仰向けにし、朋華は少年のズボンに指をかけた。
    「新しい扉、ひらいてア・ゲ・ル」
     バーン!
     ――あ、扉がひらいた! ひらきましたよ?
    「ちーっす! 荷物お届けにあがりましたー」
     遊、それ鼻血吹きながらおっぱいガン見して言う台詞じゃないぜ?
    「福岡の地で好き勝手しやがって! 俺達も混……」
     こくこくこく!
     遊、全力で頷いた。
    「……あ、いや。けしからん計画は阻止するぜ」
     でもおっぱいガン見。
    「ああ、このクロネコ・レッドと愉快な仲間達が成敗してくれる!」
     問:遊と直哉のツッコミ所を三つあげなさい。
     率先して答えてくれそうな神楽、だが?
    「チェーンジケルベロース! Styel:Bloodpool!!」
     ご当地ヒーロー見参の真っ最中だ!
    「説明せねばなるまい! 別府のご当地ヒーローケルベロスこと守咲神楽の身体が朱く輝く時、別府地獄八湯が一つ、血の池地獄の力が宿るのである!」
     ずびし!
     伸ばした腕に持つは芳しのカボスのアロマ。
     ぷしゅ!
     ぷしゅぷしゅ!
     名産カボスの香りと共に正義で浄化だこんなけしからんもの! な、勢いで朋華の頬をぶん殴ったよ!?
    「きゃ」
    「ハチ、行け!」
     怯んだ隙に遊はビートをかき鳴らし、
    「てや!」
     直哉は酢をぶっかけやがりましたよ?! あ、ついでにビーム。
     ……なんだかお部屋がすっぱい。
    「あー、小学生の目の毒なので潰しに来たよ」
     どこかのほほんと、でも小鳥から白衣おっぱいを隠すように立つ真神。
    「あと」
     不意に瞳に濃厚な殺意が籠る。
    「殺人鬼舐めてるのか貴様?」
     神楽が封じた非常口への扉を背にして立ち、祭壇を起動してその頬を掠めた。
     突撃してきたハチも辛うじて避けゲイルを振り返れば、視線が合うのは赤色の従者。
    「いやー、たんのーさせて頂きました」
    「このクソガキ!」
     ガクガクの腰を感じさせぬ爽やかさのゲイルへ舌打ち、だが怒りに煽られアロマ瓶を投げつけた先は神楽含む前衛だ。
    「……」
     小鳥を庇うように両手を広げるは甲冑の乙女。
    「ロビンさん、ありがとうです」
     朋華へ斬りかかる小鳥にあわせ波動を放ち、そのまま真神の傍へ立つ。
    「確かに……奏が言ってたように原液は強烈だな」
    「彼女の能力で強化もされてるけどね、大丈夫?」
     奏は髪飾る小花を揺らし護符を攻めへと滑らせる。
    「へー、すっぽかして面白い事してくれちゃって」
     朋華へ催眠の符を投げた奏に竜巻を見舞いにやにや笑いの上本。
    「私の膝枕ー!」
    「遅いわよっ」
     すみませんと土下座ムーブで飯田は小鳥を殴る。おじさんの純情返せ!
     あ、ちなみに赤川と未来はいません――なにやってんだろうね?

    ●或る日の諍い
     丁度一分ぐらいした所で、アイマスクを首に下げた赤川と未来が乱入。
     何故か赤川さんにはちょっとした打撲痕があるけど、まぁダメージにはなってないらしいよ、むしろとっても気持ち良かった!
    「騙し討ちとは舐めた真似してくれるわねぇ」
    「膝枕なんて朋華様の乳枕に劣ります!」
    「ちっ、乳枕?!」
     勇ましい飯田さんに鋭利に反応したのは遊だった。
     想像してみよう。
     マニアックな女医白衣の下のおっぱいだ、もちろんブラはなし。
     たゆん。
     たゆんたゆん。
     ……ってしてるんだ、ふかふかなんだ。
    「ぶほはっ……ぜ、絶対に絶対に……」
     ボタボタ落ちる鼻血を抑え遊は叫ぶ。
    「そこの飯田、許さねー!」
     でもやるこた回復です。
    「クソガキぶっちめればいいんだよねぇえ?」
     ところで、なんか足並み揃ってないよ、この配下達。
    「朋華様、遅れてすみません……くっ」
    「Oh、What vulger」
     ――ああ、なんて卑しい。
     形なしの盾を構える赤川を巻き込み未来の殺意が迸る。
     真っ直ぐな眼差しで飯田を捉え、小鳥は肩口で編んだ魔力の矢を朋華へ見舞う。そんな風に灼滅者達は可能な限り攻撃を朋華へ集中させていく。
    「ほーら、こいつも追加だ」
    「こちらも」
     クロネコレッドと奏がアロマ瓶を掴んでは投げ。朋華ご自慢のアロマをカオスにする。
     クロネコレッドのにくきゅう辺りもカオスな香りがついてるが、まぁ気にしない。
    (「洗えば落ちるかな?」)
     ま、とりあえず彼女のサイキックも否定しとくか。
    「きゃああ! このバカ猫が!」
    「酷い有様だな、これじゃ百年の恋も覚めるってもんだ」
    「抱き殺してあげるわ!」
     怒りにまかせたハグは直哉から神楽、小鳥……彼ら前衛を総なめだ。
    「はう~」
    「くッ」
     ――ちょっと目尻が下がる直哉が心底羨ましい遊。
    「手ぬるいわ」
     神楽が笑い返せば、ゲイルが破邪の剣から引き出した聖なる風で皆を癒す。神楽と直哉が怒りで惹きつけている上に、従者とハチが庇ったお陰で奇跡的にも彼は立っていた。
    「ハニーが帰りを待っていますし」
     その笑顔がとっても腹立たしい!
     歯がみする朋華へ接近する、影。
     真神が嬲るように腱を刻んだ。人を壊すナイフを翳し、跪くように足を庇う朋華へ囁きひとつ。
    「殺人鬼とはこういうものだよ」
    「殺人鬼なんてなりそこないじゃない」
     そう強がっても劣勢なのは確か。口中の血を吐き捨て配下へ逃げ道作れと指示を出す。
     ――♪
    「その歌止めてよねっ」
     未来の声に耳を塞ぎ朋華はよろめき毒づいた。
    「……歌は苦手、だ」
     硝子の割れる音。広がるはアンブリッジローズに似た没薬の香り。
    「これで一歩ミイラに近づいたかな」
     そう嘯く奏は歌える未来へ僅かな羨望を浮かべ本よりつまみ出した拒絶を投げつける。
    「いい顔するね」
     朋華を逃がすべく上村は真神を蹴散らすように斬りつけた。
    「こっちにも……」
     叫んで仕切り直した神楽は手の甲に盾を召喚する。
    「サービス頼むわ、姉ちゃん」
     踏み込み色気には目もくれず、泣き黒子の辺りを狙って張り飛ばす。歯を見せつけるような笑みはまさに獰猛な海の魔物、鮫。
     左に揺らされた頬をロビンの西洋剣が貫く。
    「もう、逃げられないです」
     非常口が開かないと焦る飯田に憐れみを紡ぎ、小鳥は鞘の内側でため込んだ力を解き放つべくトリガーを握る。
    「……さようならです」
    「いやー、まだ遊び足りてないのにぃ」
     苛烈な力をのせて薙げば、たわわな胸が零れ落ちるように女は崩れ落ちた。
    (「くっ、惜しいおっぱいをなくしちまったぜ」)
     なーんてむなしさが遊の心を吹き抜けるが、まあそれはそれなのだ!

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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