飾り珠のスサノオ~海赤子~

    作者:相原あきと

     東北のとある海沿いの村。そこには昔から『海赤子』の伝説があった。
     その伝説は、浜辺や磯を女性が通ると赤ん坊の声がし、声に惹かれて海に近づくとそのまま波に浚われて死ぬという。
     一説には海で死んだ赤ん坊が母親を求めて女性を海へ引きづり込むとの事だが……。
     村人たちは海赤子の霊を鎮めるため、磯にある祠に鎮魂の慰霊碑を建てたという。
     今ではその伝説も昔話となり、磯の祠の慰霊碑を管理する者もいなくなった。

     波が磯にぶつかり飛沫をあげる中、その忘れさられた祠を訪れた者がいる。
     いや、それは人ではなく四足歩行のオオカミ。
     日本狼を一回り大きくしたような体躯であり、特徴的なのは左右のもみ上げ部分の毛が長く、途中に飾り珠がついている――飾り珠のスサノオだった。
     波飛沫に負けぬ声で数回遠吠えを行うスサノオ、そしてそのまま何事も無かったように祠を出て姿を消す……そして――。
     ボウゥ……。
     暗い祠の中に淡い光を纏って浮かび上がる姿。それは宙空に浮かんだ赤ん坊の姿だった。
     宙に浮いた赤子の足には細い鎖のようなものが伸び、祠の奥の闇へと伸びていた。
    『オギャー! オギャー!』
     その声はまさに、村に伝わる伝説の――『海赤子』――であった。

    「みんな、スサノオについては勉強してあるわよね?」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)がみなを見回しながら質問する。
    「実は、スサノオによって古の畏れが生み出された場所が判明したの。今はまだ被害は出てないけど、放っておけば一般人に被害が出るわ。だからみんなにはその古の畏れをなんとかして欲しいの」
     珠希が言うには、とある東北の海岸沿いの村、その海辺の磯にある祠の中に古の畏れが生まれたらしい。それは『海赤子』――その村に伝わる伝説。
    「海で死んだ赤ん坊が母親を求めて女性を海へ引きずり込む……とか、そんな伝説よ」
     その古の畏れを放置した場合、村の浜辺や磯の近くを歩く女性が無差別に殺されてしまうと言う。
     磯にある祠は昼間でも灯りが無いと先が見えない洞窟らしい。
     洞窟に入って少し歩くと、そこに宙に浮かんだ赤ん坊がいて、その赤ん坊が『海赤子』らしい。
    「その現れる古の畏れ、海赤子は女性を優先して狙ってくるわ……まるで母親を求める伝説の通りに。でも、説得が効く相手では無いから灼滅してあげて」
     珠希は「赤ん坊を攻撃するのは辛いと思うけど」と呟きつつ、それでもきっぱり灼滅して欲しいとそう言った。
     海赤子は霊力やオーラが相当高いらしい。使ってくるサイキックは魔導書に似ているらしいが、その全てが周囲にいる者全てを攻撃すると言う。
     また、戦闘になると海赤子の近くに蛇の胴体を持つ髪の長い女性が3体現れる。こちらはどれも鋼糸とバトルオーラに似たサイキックを使い、3体とも術式が高い。
     海赤子は戦闘中ずっと空中に浮かんでおり、蛇体の女性3体は攻撃役として戦闘に加わるらしい。
    「今回の事件を起こしたスサノオなんだけど、まだ行方を予知できそうにないの……もうちょっとで見つけられる気がするんだけど……とにかく、そのスサノオが起こした事件を1つずつ解決していけば、必ず元凶のスサノオにたどり着けると思うわ。だから、今は目の前の事件を解決して欲しいの、お願いね」


    参加者
    ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    モーリス・ペラダン(夕闇の奇術師・d03894)
    皇・千李(復讐の静月・d09847)
    楓・十六夜(氷魔蒼竜・d11790)
    内山・弥太郎(覇山への道・d15775)
    渡部・るい(清く正しい野球拳系芸者・d16021)

    ■リプレイ


     女性が浜辺や磯を通ると「オギャーオギャー」と赤児の声が聞こえる。
     どうしたんだろう? と声の主を探して海へ近づけば、哀れ女性は波に浚われてしまう。
     ……それが『海赤子』の伝説。

     東北のとある磯、そこにある祠へ8人の少年少女が足を踏み入れていた。
     入口からは磯にぶつかった波飛沫が僅かに風に乗って入り込み、暗い内部は祠と言うより洞窟のようだ。
     だが、ほぼ全員が光源になる物を持ちこんでおり、滑りやすい足場を行くにも不自由は無さそうだった。
    「声が、聞こえます」
     最初にその声を聞いたのは8人中唯一女性である渡部・るい(清く正しい野球拳系芸者・d16021)。
     るいと共に足を止める8人、やがて祠の中に響き出すは赤子の声。
     そして暗い闇の中、宙空に突如淡い光が生まれる。
    『オギャー! オギャー!』
     今ではるいだけでなく誰もが聞きとれていた。
    「古の畏れ、スサノオが絡む以外は都市伝説に良く似てるんだよなぁ……っと、考え事は良くないな」
     淡い光が赤ん坊へと姿を変えるのを眺めながら呟いていた月雲・悠一(紅焔・d02499)が、流れるような動作で懐からカードを取りだしながら。
    「イグニッション」
     殲術道具を解放、火の神の名を冠した戦鎚を構える。
     悠一の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、赤子が今までより長く泣き……瞬後、赤子を守るように蛇体の女性が3体現れる。
     るいも自分の周囲に螺旋を描くようウロボロスの刃を舞わし、シールドを展開させ。
    「まるで赤子を守る母のよう……それとも、殺された女性のなれの果てでありんしょうか」
     哀れむように蛇女達を見つめるるい。

     ――死の世界の終焉を。

    「Das Ende der Welt des Todes」
     楓・十六夜(氷魔蒼竜・d11790)の声と共に、蛇女達の足元に黒い冷気が叩きつけられる。
    「……これは戦いでは無く殺し合いだ。そこに同情が入り込む余地など無い……在るのは、生きるか死ぬか、唯それだけだ」
     十六夜が視線を蛇女に移動させつつ続ける。
    「俺は哀れに思わん……俺も貴様も同じ路傍の石、次にそうやって打ち捨てられるのは……俺かもしれないのだから」
     冷気を纏う黒刃の蒼剣を構え十六夜が3体へ駆ける。
    「おゥおゥ冬の海辺は冷えマス事よ、オレにもやらせなっ! 冷えてけオラァ!」
     十六夜に並走しながら口汚く叫ぶは楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)、蛇女達にまとめてフリージングデスの洗礼を浴びせる。
     一瞬凍りつく蛇女達、静かになる祠内で、いつの間にか泣き止んでいた海赤子が薄らとその目を開く。見つめる先は……るい。
    「何とまァ文字通りトンだ赤チャンが居たモンで! マミー恋しさに真冬の海水浴のお誘いッてか? 半年ばかり早ェッてな!」
     その視界を邪魔するよう立つ盾衛。
    「ンじャ、命懸けのお尻ペンペンからのぉ、もッかい寝かし付けと行きマスかネ」
     十六夜とは真逆、灼熱のオーラを纏う盾衛。
     同時、パリンッと氷を割って動き出す蛇女達、だが即座に時間差を狙っていたかのような徐霊結界が3体をパラライズする。
    「というかジュンエ……バカなの?」
    「アァ!? 何がだよ!」
     ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)の指摘にガンを付けてくる盾衛。
     嫌な物でも見るかのように服装を指差すポンパドール。
    「バッカお前! コレは『こンばンわ赤チャン、オレがママンよォン!』ッて引き付ける用じャねェか!」
     指摘された服(装備中の小学生女子夏制服)をつまんで盾衛が言う。
    「それで誘導される奴がどこにいるんだよ!」
    「なら手前ェも着ろ!」
    「はぁ!? なんでおれが!」
     言い合う2人の鼻先を黒いカードが掠め、蛇女の1体へと命中する。ぎりぎりの芸当に思わず2人がカードを投射した人物、モーリス・ペラダン(夕闇の奇術師・d03894)の方へ顔を向ける。
    「2着目が御所望ならばご用意しまショウカ?」
    「あンのかヨ?」
    「いや、いらねーし!」
    「ヤハハ、怪盗たる者、いつ如何なる時でも――」

    『オギャーーー!』

     胡散臭さ全開にモーリスも話に混じり出した瞬間だった、海赤子が大声で鳴き声を上げる。それは衝撃波と共に触れた者の肌を文字通り沸騰させる、灼滅者達の中で前衛に立つ者達の身を燃やす。
    「ンー、ジョークを言ってる場合ではナイようデスネ……寝た子を起こすとはコノコトなのデショウカ」
     そんな中、赤子の衝撃波をかい潜って蛇女の1体へ接敵したのは内山・弥太郎(覇山への道・d15775)だ。低くしていた身のまま蛇女を蹴り上げると、同時に自分も跳躍、かち上げた蛇女を追い抜くと上段からロッドを振り下ろし、蛇女の胴に魔力を連続で叩き込む。
    「スサノオが引き起こした事象なら……灼滅してみせます」
     地面に叩きつけられ、さらに魔力の連打に大地に小さなクレーターが出来上がる。
    「もちろん、いい気分ではありませんが……」
     狙っていただけあって致命的な一撃を連続で撃ち続けた弥太郎、しかし蛇女はそれでもふらふらと立ち上がり――。
     ドスッ。
     背後から首後ろを貫かれる。
    「咲誇れ、凍華……」
     そのまま一輪の氷の華と化し絶命する蛇女1体。
     紫暗の瞳を尚更鮮やかにさせつつ、スッと氷の像から愛刀緋桜を引き抜くは皇・千李(復讐の静月・d09847)。
     母親でも殺されたかのように悲しそうな顔をする海赤子だが、千李はそんな赤子を冷たく一瞥する。
    「そういう縁を残す……だから人間は嫌いだ……」
     海赤子自体の存在すら否定し、その視線を無視、千李は次のターゲットへと刃を向ける。


     祠内での戦闘が続き、蛇女もラスト1体となっていた。
     だが、決して楽な戦いでは無い。
    「しまった! るい!?」
     敵の攻撃を観察しながら戦っていた悠一が声をあげる。
     るいは血走った目で海赤子へオーラキャノンを撃ち続けていた。
     唯一のメディックであるるいが、怒りを付与され海赤子を狙いだしたのだ。
     回復役の無い戦い、それは戦線の崩壊を意味し灼滅者はなすすべ無く敗北する――はずだった。
     悠一の声に即座に反応したのは側で蛇女の攻撃を受け止めていたポンパドールだ。蛇女を押し返すと、風に祝福の言葉を乗せ仲間達を回復させる。
     さらに風に重なるようにレイクイエムのメロディが響く。
    「ララバイの方がよろしいのデショウカネ」
     それはモーリスのリバイブメロディだ。るいの瞳に正気の色が戻る。
    「あちき、は……ふぅ、迷惑をおかけしんした」
     微笑みながらるいが謝り回復役を再開する。
     メディックのるいが狙われるのが解っていただけに、そのフォローは完璧になされていた。それに、それは代わりの回復役だけではない。
    「迷い出……魑魅になりて何を求む……」
     鮮血の如きオーラを緋桜に乗せ、蛇女に斬りつける千李が言う。
     斬った傷から生命力を千李は吸収、戦いながらもHPもキープを行っていたのだ。
     誰もがるいをフォローし、るいが狙われても大丈夫なように二重三重に準備していた。それが今回の灼滅者側の強みであった。
     るいが狙われても瓦解しない強さを、準備を、灼滅者達は周到にしていたのだ。
     ガガガガガッ!
     蛇女が長く伸びた爪を使い両手で何度も切り裂いて来る。
     だが、その攻撃を全て受け、いなし、さばくは十六夜。
     逆に攻撃が終わった隙をついて剣を大地へ突き刺し。
    「……蒼に呑まれろ、影哭纏夜」
     十六夜の影が蛇女の足元まで伸びると実体化、その下半身を闇の顎が捕らえる。
     闇の顎から逃れようとする蛇女、しかしその隙すら与えまいと盾衛のオーラキャノンが直撃。ぐらりと倒れ消滅して行ったのだった。

     そして……残るは海赤子のみ。
    「灼滅者ならばダークネス、古の畏れは倒さなければなりません」
     3体の配下が消え、キョロキョロとする海赤子を見て弥太郎が言う。それはどこか優しげで――。
    「それでも幼子の形をとったものの灼滅をするのは心苦しい……」
     けれど、キッと見つめるその目に迷いは無い。
     ――必ず、灼滅します。
     どんな気持ちを抱えていようと、それもこれも全てひっくるめて、弥太郎は灼滅者として立っている。
     弥太郎はロッドを回し、それと同時に宙に浮く海赤子の周囲に放電が走る。
    「轟・雷!」
     弥太郎の声と同時、赤子を逃すまいと網目状に雷が走る。
     湿度の高い祠内でのスパーク、一時的に気化した煙で視界が遮られる。
     その煙もすぐに海風にさらわれて出口へと流れていく……そしてそこには。
    「赤ん坊だからと……手加減したつもりはないのですが」
     バリアーのような障壁に守られ、海赤子が先ほどと同じく傷一つない状態で浮かんでいた。


    「しかしアレだ。正直、飛んでる相手は苦手なんだよな……とは言え、文句は言ってられねぇか」
     悠一が宙空の海赤子を睨みつけると助走を付けて跳躍、すでに明かりいらずと化している悠一の燃える血を糧に、軻遇突智のロケット噴射がさらに跳躍を加速させる。
    「色々愚痴るのは、後回しだ!」
     海赤子に戦鎚が振り下ろされるが、途中でバリアーに阻まれ大地を殴ったかのような感触が悠一を襲う。
     海赤子の意識が悠一へ向けられたその一瞬を、弥太郎が見逃さず反対側からオーラの塊を放つ。
    「!」
     だが海赤子の細い目が開かれ、その小さな手の片方が背後に周り、オーラの塊がバリアーに弾かれる。にやりと笑みを浮かべる赤子。
    「いえ、まだです」
     撃ち放った時の正拳突きのポーズから腕を突き上げると、武道の型のように綺麗な流れでそのまま背後へ拳を突き出す弥太郎。
     不思議な物を見るかのように見つめていた海赤子だが――。
     バチッ!
     予測しない方向からの衝撃、それは弥太郎の型に合わせてホーミングされたオーラの塊だった。それが見事海赤子にヒットしたのだ。
    『オギャー! オギャー! オギャー!』
     思わず泣き始める赤ん坊。
     その手は無意識に唯一の女性であるるいへと伸ばされる。
     それはまるで……――。
    「………………」
     思わず伸ばしてしまいたくなる手を、るいはグッと胸に押しつける。
     かわいそうだがここで灼滅する事こそ海赤子のため!
    「……おゆるしなんし、あちきはぬしのお母さんじゃありんせんの」
    『オギャー! オギャー! オギャー!』
    「……けれど、あちきはぬしを忘りんせんでありんすから、安心しておやすみなんし……?」
     るいがオーラキャノンを海赤子へ放つ。
     さらに鳴き声が酷くなり、そして海赤子の攻撃がさらに苛烈に、無差別に!
     苛烈な攻撃にさらされたのは中衛の2人。
    「ジュンエ!」
     盾衛の前に身体を滑りこませ、不死鳥の尾羽根の意匠が刻まれたた大剣を盾にし、海赤子の強烈な衝撃波から庇うはポンパドール。
    「ォーオー、偉ェじャネェか!」
    「好きでやってるんじゃねぇ!」
    「ハッ、そのまま倒れンなよ?」
     自由に動ける身を活かし、その場にしゃがみ込む盾衛。
     次の瞬間、その足元の影から三つ首の影犬が現れ海赤子へと襲いかかる。
    「ワンちャんがペロペロしますよッてなァ!」
     一方、盾衛と共に衝撃を受けるはずだったモーリスも、己を庇ったビハインドであるバロリの影からその攻撃を見て目を細める。
    「バロリ、彼の犬に合わせマスヨ」
     コクリと執事姿のバロリが頷き、鞭を振るって霊障波を飛ばす。
     それは盾衛の影犬から逃れた海赤子へと命中――する前にバリアーによって防がれる。
    「小さな子は素直でイイデス、手品師にとってハ良い客デスネ」
     霊障波を防ぎ切ったと思った海赤子がバリアーを解除した瞬間、するりとモーリスの放った本命のデッドブラスターが直撃する。
    「眠れや眠れ良い子よ眠れ、なんてデスネ、ケハハ」
    『オ――』
     再び攻撃を繰り出そうとする海赤子、しかしその泣き声にかぶせるように、十六夜の言葉が先に紡がれる。
    「……射殺せ、蒼冥詠華」
     構えた黒刃から蒼い魔力が閃光のごとく。
     泣こうとした赤子の喉を貫く。
     ……ドッ。
     海赤子が大地へと落下。
     ズ、ズルリ……。
     それでも、小さな手足で必死にハイハイして進もうとする赤子……その顔に影が掛かる。見上げれば、そこにいるのは――。
    「行こうか……緋桜……」
     朱塗りの鞘に愛刀を納める千李が立っていた。
    「せめて魂だけは……静かに、眠れ」
     ――チンッ。
     神速、抜刀、それは風に舞う花弁のように優雅だった。
     納刀する千李。
     無表情ながら息絶えた海赤子を一瞥し。
    「人の親などに執着するから……迷うのだ」
     海赤子がゆっくりと消えていく。
     泣かず、騒がず……。
     ただ、もう動かないその手は……どこか、誰かを……――。


    「ま、母親ッてのが居た事無ェンでオレァ分かンねェケドよ……あの世ッてモンがあるンなら、こンなトコでフラフラしてねェで、あの世で気長にマミーが来るのを待ッてろッてな」
     赤子のいた場所に向かって盾衛が告げる。
    「良いセリフなのに……その制服で言ってもかっこつかねーぜ?」
     ポンパドールの指摘に、五月蠅ェお前も着ろだの云々……。
     騒ぐ2人から視線を外し、悠一はふと祠の入り口方向を、遠くを見つめるように呟く。
    「スサノオ、か。こう頻繁に騒動起こされると厄介だな。早く捕まえたい所だけど、どこにいるやら……」
    「そうデスネ……でも、コレでマタ一歩デス。そろそろ尻尾も掴める頃合デショウ」
     まるで予言者めいた口調でモーリスが言う。
    「確信?」
    「サァ?……ただ本当に会えたら、迷惑料として飾り珠ぐらい頂きたいモノデスネ……ケハハハハハハ」
    「……古の畏れに繋がっていた鎖の先が気になる……奥を探索してみるか?」
     呟く声は十六夜。
     モーリスも笑うのを止め、皆が祠の最奥へと進む。
     宙に浮いている事が目立っていた海赤子だが、その足からは細い鎖が確かに祠の奥へと続いていた。
     だが、祠の最奥にあったのは――。
    「コレだけ、ですね」
     弥太郎がぐるりとソレの周囲を周りながら言う。
     そう、そこにあったのは海で死んだ赤子の魂を鎮める句の書かれた石碑だけだった。
     鎮魂の石碑。伝承の元となった物だろう。
     それ以外は何も無い。
    「万が一のときのため……埋めておくか?」
     無表情のまま千李が言う。
    「やめましょう」
     そう言いながら、るいが石碑の前にしゃがみこむ。
    「どうして海で死んでしまったのか……そして、どうしてスサノオに呼び出されたのか……わからない事は多いです。けど……」
     るいが手を合わせる。
     誰かが同じく膝を折り、誰かが手を合わせ、誰かが静かに黙祷した。

     ――これからは、せめて静かにお眠りなさい……。

     ふと、遠く波音に紛れ、赤ん坊の笑い声が聞こえた気がした。
     その瞬間、少しだけ……ほんの少しだけだが、重苦しかった心が、軽くなったような……そんな、気がした……――。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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