痴漢は犯罪です、現実世界ではね!

     ガタンゴトン、ガタンゴトン……。
     少女の手が、吊革をきゅっと掴んで、震えている。
    「あ……やぁ……」
     セーラー服のスカートの、お尻のあたりで、別の男の手が蠢いていた。
     それでも少女は、逃げることも、周囲に助けを求めることもできない。
     やがて、男の手はついにスカートの裾を摘まむと、一気にたくし上げた。
    「ああっ……!」
     かすかに少女の唇から漏れたのは、絶望の吐息であっただろうか。
     紺色のプリーツの陰から姿を見せたのは、柔らかなヒップラインを隠すことなく飾る、清楚な純白パンティであった。
     異性に下着を見せてしまう頼りなさに、少女の頬は恥じらいに染まっていく。それでもなお彼女は、身動きが取れない。
     プルルル、と少女の胸ポケットの携帯電話が鳴った。
    「もしもし、はい、リルです……あんっ」
     電話の応対に、少しずつ甘い息が混じっていく。
     ゆったりと撫で回され、徐々にほぐされ、掌の内側にまで収められてしまい。
     薄い1枚の下着は、少女のお尻の弱みを男の狼藉から守るには、あまりにも無力に見えた。
    「鹿児島には『まだ『当たり』なし、もう少し待って』って……はんっ……伝えてください、お願いします」
     携帯電話を閉じると、リルという名の少女は、背後を振り返った。
     彼女の表情は、憎むべき卑劣な痴漢へと向けるモノではあり得なかった。少し恥ずかしげな、しかし親愛の情を込めた微笑みだった。
    「キミも刺青、持ってなかったみたいね。残念。
     だけど……キミ、結構好みなの。だからもう少しだけサービスしてあげるわ」
     
    「HKT六六六の構成員の1人で、リルという名前の強化一般人が蠢動している。
     で、彼女が現れる場所というのが……」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は一拍間を置いてから、おごそかに灼滅者に告げた。
    「痴漢イメクラだ」
    「は……?」
     ……告げる内容はあまりおごそかでもなかったが。
     ヤマトの説明によると、痴漢イメクラとは福岡市中洲の風俗店の1種。
     座席や吊革などの設備はもちろん、ご丁寧にガタンゴトンというレール音まで録音して、電車の中を再現しているらしい。
    「リルは客に痴漢プレイを許しながら、その肌の接触を逆利用して、相手の精気を吸い取ってしまう。
     多くの客は単にヘロヘロにされて帰るだけだが、もし犠牲者の中に刺青持ちがいれば、九州新幹線に乗せて鹿児島まで送られてしまうのだ。
     もっとも、刺青持ちでなくても特にリル好みの客がいれば、『特別サービス』で魅了してファンにし、取り巻きに仕立て上げたりもしてるみたいだが」
    「依頼の目的はリルの灼滅、ということでいいのか?」
     灼滅者の1人が尋ねると、ヤマトは渋い顔をした。
    「その通りなんだが……肝心のリルの捕捉が、一筋縄で行かなくてな。
     もし異変を感じたら、リルはすぐに店から逃げてしまう。加えて、リルの取り巻き連中が店の従業員にも何人かいるのだが、そいつらも逃亡を助けようとするだろう。
     だから、逃亡を防ぐ作戦を立てておかねばなるまい」
     2本の指を立ててみせるヤマト。
    「俺の方で考えられる作戦は、2つあるな。
     1つは男性の仕事で、件の痴漢イメクラの客になって、囮としてリルを引きつけることだ。その間に他の仲間が逃げ道を塞いでしまえばいい」
     役得と言えば役得。なにせ痴漢プレイ。
     しかしそれ以上に、あえて精気を吸われる任務の危険性は非常に大きい。
     また『風俗店の客』だから、何らかの方法で大人に見えるようにしておかないと、入店を断られるだろう。
    「もう1つの作戦は女性の仕事だな。
     取り巻き連中がリルに忠誠を誓っているのは、彼女の魅力故だ。だから、リルより魅力的な女性が他にいる、と示してやれば、彼女から切り離せる可能性がある。
     今は従業員でも、最初は痴漢イメクラの客に来ていたような連中だし、女性の尻とかスカートとか下着とかには一家言ありそうだ。そのあたりを工夫した準備が有効かもしれないな」
     もちろん2つの作戦を同時進行させてもいいし、別の手を考えてもいい。要はリルを逃がさないことだ。
    「まあ、従業員の取り巻き連中を倒すだけでも、店を潰して当面の被害の拡大を防ぐという目的は一応果たせるが……被害の元を断つためには、可能なら今回リルを灼滅しておきたいな。
     それでは皆、よろしく頼む」


    参加者
    藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)
    ナイト・リッター(ナイトナイトナイト・d00899)
    風音・瑠璃羽(散華・d01204)
    ストレリチア・ミセリコルデ(エム字パンチラボイン・d04238)
    逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)
    清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)
    村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)
    神楽・識(東洋の魔術使い・d17958)

    ■リプレイ

    ●めくられるスカート
     ガタンゴトン、ガタンゴトン……。
     セーラー服に包んだ肢体を吊革に委ねる少女。そして彼女の背後から静かに忍び寄る、スーツ姿の青年。
     否。『青年』ではなかった。
    「(痴漢かぁ、されるといやだけどするほうの心境ってどうなのかな? 楽しいのかな?
     女の子とのそういうのはやってみたいから、楽しむの!)」
     スーツで男装し、長髪を後ろで束ね、サングラスで顔も隠した村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)は、今回の灼滅ターゲットであるリルという名の少女に、痴漢イメクラの店内で接触中であった。
     寛子の任務は囮である。すぐに逃げてしまうというリルを、このプレイルームから動かせないことだ。
     だがそれはそれ。せっかくの機会だ。
     寛子はリルのお尻に手を回すと、セーラー服のスカートの上から、さわさわと撫で回した。
    「んっ……」
     リルの肩にぴくんと緊張が走る。ただの布だけではなく、その下にみっちり丸く詰まっているヒップの感触までも、寛子の掌は受け取った。
     次いで恐る恐るスカートの裾をたくし上げると、黒タイツに包まれたリルの太腿が、そしてお尻が丸見えになっていく。
    「(ひ、寛子……なんだか凄いことしてるの)」
     親しい級友達とふざけ合ってのスカートめくりなら、寛子にも経験があった。
     けれど、こんなに艶かしい大人の女性のスカートへの手出しとは、ドキドキが全然違う。
     完全に捲れたスカートの下で、リルの黒タイツはウエストまでをすっぽり覆っていた。
    「(黒タイツから透けて見える白いパンティが最高なの!
     生足、生パンティよりこっちのほうがいいの!)」
     事前に受付で強くオーダーした通り、である。ちなみに寛子自身もスーツスラックスの下は黒タイツだったり。
     一しきり感涙にむせんでから、さらに指を1本、タイツの下にそろりと差し込んでみる。
    「はんっ……」
     リルの呼吸が乱れる。餌を突き出された魚のように、リルのお尻の割れ目は素早く反応して、寛子の指を内側まできゅっと食い締めた。
    「(こっ、これ……なんか凄い、の)」
     男の人がこの店で痴漢イメクラに夢中になる理由が、今ならわかる気がする。いや、犯罪である本物の痴漢に手を染める理由すら、わからなくもない。
     タイツとパンティの隙間の狭くすべらかな感触、そして下着の下のお尻の弾力が、寛子の指を包み込んでいる。手に伝わるリルの体温が、熱い。
     否――逆だ。寛子の手の方が、すーっと冷たくなっていた。
    「(あ……こ、このままじゃ……)」
     精気を吸われる、という話はヤマトから聞いていた。
     このままでは、寛子が女であることも、リルを倒そうとしていることもバレてしまうかもしれない。
    「(はあぁ……でもそんなの、もうどうでもいいのぉ……)」
     寛子は熱に浮かされたように、意識が途切れるまでリルの黒タイツの内側をまさぐり続けた……。

     一方、店の事務室。
    「あ、あの……ここで、ですの?」
     お嬢様高校の制服を身に纏うストレリチア・ミセリコルデ(エム字パンチラボイン・d04238)は、壁に手を突いて立たされていた。さらに2人の従業員が、彼女を両側から挟む。
     『アルバイトを探していたらここを紹介された』と称して来店したストレリチアの目的は、取り巻き従業員にリルの逃亡を助けさせないこと。
    「で、ですけど……」
    「おや、研修を受けないのか? 『どんな内容でも頑張りますので、よろしくお願いします!』って言ったのは嘘なのかい?」
     風俗店の研修なら事務室ではなく、閉店中の店舗を使いそうなものだ。研修にかこつけたただの私的セクハラなのだろう。
     ストレリチアに拒絶の色がないのを見て取ると、従業員はスカートの裾に手を掛け、一気に背中まで捲り上げた。
    「きゃあっ……!?」
     世間知らずのお嬢様を演じるべく、ストレリチアは制服の下に、高級感と清潔感のあるレース入りシルクパンティを穿いていた。
     だが彼女は計算を誤った。普段の自分の感覚で選んだ股浅の下着は、エイティーンで無理やり成長させた厚みと張りのあるお尻には、小さ過ぎたのだ。
    「(いやっ……そ、そんな目で私のお尻を、いやらしくご覧にならないでぇ……!
     これは私の本当の身体じゃない、ないですの……っ!)」
     結果――清楚なシルクパンティはきゅっと、きつく食い込んでしまい。
     スカートをめくられたストレリチアの、真っ白なお尻の柔肌は、ぷりんとはみ出してしまっていた。

    ●鎖
    「……う、こういうところ、本当にあるんだ……。
     と、とにかく、こういうのはイケないよね!」
     痴漢イメクラの裏口の1つの近くで、赤くなって周囲をきょろきょろする風音・瑠璃羽(散華・d01204)。
    「破廉恥極まりない場所だな……」
     少し離れた逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)の立ち位置からは、店内の様子は見えない。
     それでも、中から発せられる経験したことのない雰囲気に一瞬ぞっとする。欲望による空気のよどみ、か。
    「……ごくり、なんともロマンあふれるお店だな。
     作戦終わったら客として……いや、なんでもないぜ」
     別の裏口を封鎖するナイト・リッター(ナイトナイトナイト・d00899)は、そんな店の雰囲気も逆に大歓迎。
    「……なんかむっちゃ楽しんでるみたいなんやけど。百合ってよーわからん……」
     藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)は虚ろな目で、2つの携帯電話を手にしていた。
     寛子及びストレリチアの電話と、通話中のままに固定しておく腹であった。が、聞こえてくるのはくぐもった呼吸音や『あん』『いやぁ』といった悩ましい声ばかり。有意義な情報は伝わってこない。
    「まぁ、世の男が全てこのような趣味趣向を持っている訳でもないでござろうが。
     ともあれ、このような倒錯的な状況はそれだけで放置しかねるでござる。更に刺青の存在をかぎ回っているとすればなおのこと」
     さらに店の出入口の陰では、旅人の外套で姿を隠した清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)のつぶやきに、神楽・識(東洋の魔術使い・d17958)もうなずいていた。
    「ふむ……鹿児島に何かあるのかしらね。
     気になるけどまずは、目の前の敵から掃除と行きましょうか」
     灼滅者達は手分けし、冥の『鬼茂』、ナイトの『課金アバター』、静音の『影千代』の各サーヴァントも動員して、痴漢イメクラの3つの扉を封鎖している。
     そして頃合いと見るや、6人と3体は同時に店内へ、そしてリルのプレイルームへと一気に踏み込んだ。
    「きゃっ? な、何?」
    「へにゃあぁ……」
     精気をリルに吸い取られた寛子は、床で伸びてしまっている。しかしその表情はとても幸せそうだった。『課金アバター』が後方の座席まで彼女を運び、寝かしつける。
    「あら、その方のお知り合いなの?
     安心して。命に別状はないし、それにその方の精気、すっごく美味しかったから」
    「ざっ、戯れ言を……!」
     微笑むリル。冥がその顔を、憎々しげに睨みつける。
     痴漢プレイなどという破廉恥な行為にふけって、しかも恥じるでも悪びれるでもなく、なんという充たされた表情をしているのか。
     瑠璃羽もまたリルをじっと見つめていた。だが彼女の視線の先は、リルの顔ではなく。
    「いいもん、べ、別に……」
     ぽよん、とセーラー服を押し上げている豊かなふくらみに、圧倒されていた。
     たじたじとなって腕で隠した瑠璃羽の胸の方は、ブラウスがすとんと悲しき直線を描いている。
    「あ、あと数年したら私だって、魅力的に……」
     実のところ瑠璃羽はすでに高2で、さらなる成長の期待は微妙だった。しかし彼女の魅力は、成長以外の点にもある!
     例えば、絶対領域とか。
     ふわふわミニスカートが風に揺れて、黒ニーハイの上の太腿も、無防備なお尻の素肌までも、ちらちらと見え隠れしていた。後ろで絶対領域命のナイトがガッツポーズしつつガン見中。
    「まったく、女としての恥じらいはないのでござろうか。そなたとは言葉が通じぬでござるな。
     ならば、後は刃にて語るのみ」
     静音は淡々と、クルセイドソードを抜いた。

     戦闘開始の合図は、電話越しにストレリチアにも伝わった。
     寛子が任務を果たし、リルの逃げ道が失われた以上、従業員の分断を図る意味はもうない。それでも、自分が取り巻き2人を切り離しておけば、仲間の戦いを楽にできるだろう。
     塞ぐべき事務室の扉は、遠かった。ならばいっそ……。
    「これ以上も、しますの……? でも……私のことが一番に好きじゃない人とは、したくありませんわ。
     ねえ、私のこと……一番に好きですか?」
     ストレリチアは両手で、2人の従業員の手を掴む。
     そして――スカートをたくし上げられた無防備な自分のお尻へと、自ら押し付けてしまった。
    「(どうして、痴漢のおねだりなんて……で、ですけどこうしないと、他の皆様が……)」
     相手はただの強化一般人。ストレリチアが本気を出せば、1対2でも勝てるかもしれない。なのに。
     スカートをめくられ、お尻を丸見えにされ、いやらしく触られてすらいる今は――本気を出せるどころか、ただ相手が男性でかつ2人いるというだけで、怖くて身体がまるで動かない。
    「はっ、恥ずかしいですわ……!
     そ、そんなにいやらしい手つきで……私のお尻を、痴漢なさらないでぇ……!」
     18歳になった自分のお尻は、どうしてこんなにも円くて、柔らかくて、そして弱いのか。
     恥ずかしい柔肌に痴漢の体温を受け入れてしまうと、ストレリチアの身体は奥底から、みるみる力を喪っていく。
     そして彼女の心は、いつしか受容してしまっていた。
    「やぁっ、ふあぁ……はあぁんっ……!」
     男の怖さを、快さとして……。

    ●短期決戦
    「ちょっと、ここお店なのに、物騒なモノ出さないでよ」
    「リルちゃん! 大丈夫か、何があったんだ」
     取り巻き従業員2人が駆けつけ、リルの壁となる。
     今の相手は合計3人。残り2人の取り巻きが合流する前に、灼滅を手早く終わらせてしまいたい。
    「さぁ行け影の刃よ、リルちゃんの服を!」
     ナイトの煩悩オーラから、影の刃が伸びる。
    「きゃん! ら、乱暴なんだから」
     リルのセーラー服がすぱすぱと裂けて、柔らかそうな下乳の曲線がいくつもの隙間から覗いた。ナイト、「おおっ!!」と吠える。
     冥は着物の袖口から、そっと解体ナイフを引き出した。こちらに向かっていた従業員の、足元を薙ぐ。
    「貴様らへの慈悲など、ない!」
    「っと、危ないわね」
     続けて瑠璃羽も影で従業員の首を締め付け、床に伏させる。
     同時に横から伸びるもう1人の従業員のナイフを、紙一重でかわした。
     ――はずだった、が。
    「えっ……? や、やぁっ!?」
     かわしたのはどうやら、瑠璃羽の肉体だけだったらしい。
     すっぱり入ったブラウスの切れ目。柔らかくささやかな双つのふくらみは、フリルで飾られた白く愛らしいブラの陰で恥じらい震えていた。
    「やぁん! ダメ!」
     耳たぶまで緋に染めながら、瑠璃羽は不埒な従業員を思い切り蹴り上げた。
     ふわっとミニスカートが宙に舞って、ブラとお揃いの、ちっちゃなフリルパンティも丸見えになる。
     ……え? はいてない、ように今まで見えていたって? スカートの角度の悪戯です。
    「女性陣への攻撃は俺が許さん!
     しかし、服を引き裂かれ、玉の素肌を晒して恥じらう姿は見たい!!
     うぉぉぉ、何と言う葛藤だ……でも守る。それが騎士たる俺の責務だからな……くっ」
    「……あかん、こんなとこ敵倒してさっさと出て行きたい……」
     涙と鼻血と謎の絶叫をだばだば流すナイトと、頭を抱える裕士が、瑠璃羽の前に回り込んで戦列を立て直す。
     増援はまだ来ない。決着を急ぎたい。
     静音が駆けた。
    「破廉恥極まる姿は情けない。本当に恥を知るとよいでござるよ」
     東方の忍者が西方の聖剣を用いて、不埒な従業員に天誅を与え、斬り裂く。
     リルへの障壁は、消えた。
     そして、静音のすぐ後ろから、あたかも2段ロケットのように識が姿を現す。
    「逃がすとでも思っているのかしら。潰してあげるわ」
     仲間を目眩ましとして利用しての、影からの奇襲。
     構えたマテリアルロッドは、まるで錆びて血にまみれた鉄パイプのような、凶悪なデザインだ。
    「……徹底的に、ねっ!」
     だが、識の断固としたリル灼滅の意志を示すには相応しいかもしれなかった。
    「きゃあああっ……!!」

    ●Happy End……?
     リルが斃れた後も、彼女に従った2人の従業員達は生きていた。
    「率直に聞くけど。鹿児島に何かあるのかしら? 素直に答えないと……こうなるわよ?」
     情報収集したい識にとっても好都合。錆びた鉄パイプを1人にぶちかましても、あと1人いる訳で。
    「し、知らねえ! 俺達はそこまでタッチしていなかった! あ、新しいメンバーがどうとか、リルちゃんが言ってた気はする。それ以上は何も知らねえよ!」
     口はべらべらと割られた。特に有意義な新情報があるかは微妙だが。
    「そう」
     識は容赦なく、もう1人もぶん殴って気絶させた。
    「あ、識ちゃん……終わった、の?」
     どうやら寛子も、気を取り戻したようだ。識は微笑みを浮かべると、寛子を助け起こしに向かった。
    「ええ。お疲れ様、寛子さん」

     一方、裕士、ナイト、瑠璃羽、冥、静音は事務室へと急いだ。
     残る従業員2人は、未だストレリチアへの狼藉に夢中なままだった。なので後ろから集中攻撃をぶち込んでKO。
    「ああ……み、皆様、遅いですわよ……」
     緊張の糸が切れたのか、へなへなと床にへたり込むストレリチア。同時にエイティーンの効力が切れた。
     むっちりと張っていたストレリチアの肢体が、みるみるしぼんでいく。
     後にはぶかぶかの制服を羽織った、つるぺた小学生の姿が残された。仲間を見上げるとろんとした瞳と、上気した頬だけが、事件の痕跡だった。
    「……」
     そのストレリチアの瞳を、じっと無言で見つめる冥。
    「はあ、今日はいろんな意味で疲れたかも……」
    「同感やな。もう帰りたいわ……。
     それに、オレを魅了できるんは妹だけやし!」
     瑠璃羽のぼやきに裕士も同意し、早々に事務室を出ようとする。
     その裕士のズボンが、扉付近に立ち尽くしていた冥の、着物の後ろ身頃をこすった。
    「ひゃあっ……!?」
     悲鳴とともに冥の肩と背中が、ぴくん、と弾ける。
    「ご、ごめん、痛かったん?」
    「……だっ、大丈夫だ! とにかく、こんな場所に興味はない! 早く戻るぞ!」
    「えーっ、もうかよ?」
     ナイトはなおも未練がありげだったが、リルを倒した以上ここに留まる意味はない。
     冥の強い主張に従って、灼滅者一行はその場で解散となった。

    「(寛子殿も、ストレリチア殿も、リルも……あ、あんなに心地良さそうな表情をして……)」
     故に――もじもじと腰を揺らし、着物のお尻を不自然にかばいながら駅へと歩く冥の姿は、他の誰の目にも止まらなかった。

    作者:まほりはじめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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