魅惑のしっぽ撫で!

    作者:悠久

    ●おとこのこのしっぽはどこにあるの?
     福岡県福岡市博多区。
     とてもきらびやかな繁華街、中洲。
     ――の、どこかの雑居ビルの1室にある『喫茶・しっぽ撫で』。
    「お待たせしましたニャン♪」
     そう言って室内へ入ってきたのは、バニーガールならぬキャットガールとでも言い表せばいいのか、とにかく猫耳と猫尻尾を付けたレオタード姿の女性だった。
    「おおッ、ラブミーちゃん、やっとお出ましかァ!」
     狭い個室の中、長椅子でくつろいでいた男が歓声を上げる。
     今時のチャラいヤンキーといった風貌ではあるものの――大きく開いた柄シャツの胸元から覗くのは、天に昇らんとする龍の刺青。
    「ッたく、待ちくたびれちまったぜ」
    「ごめんなさいニャン……でもぉ、その分たっぷりご奉仕させていただきますニャン♪」
     と、ラブミーと呼ばれた女性は寝そべる男の上へ跨った。
    「……尻尾、撫でて欲しいのニャン……」
     男の耳へ唇を寄せ、艶っぽく呟く。
     待ってましたとばかりに、男の手が彼女の尻尾へと伸びて。
    「おうおう、今日も可愛い尻尾だなァ」
     柔らかな毛に覆われた細い尻尾の感触を楽しむように丁寧に撫でる。
     男の手と戯れるように、ふりん、ふりんと揺れる尻尾。
     ちりん、と涼やかに鳴るのは、尻尾の先端にリボンで結ばれた小さな鈴だ。
     丹念に尻尾を愛撫した男はそのうち、つつ……とその付け根へも手を伸ばし。
    「やん♪」
    「ん? ここも気持ちいいのかァ?」
     ラブミーの反応を楽しむように、男はだらしない笑みを浮かべた。
    「……こ、今度はぁ、ラブミーがお客さんの尻尾を撫でる番ですニャン……♪」
     真っ赤に頬を染めたラブミーは、熱い吐息を漏らしながら、その手を男の体へと添わせて――。
    「う、うほッ、そこは……!!」
    「やん、お客さんの尻尾、もうこんなに……♪」

     と、それからしばらくして。
    「スタッフさぁん、これ、よろしくニャン」
     ラブミーは完全に気を失った男の体からするりと離れ、外で待機していた数人の男を呼んだ。
    「テキトーに縛り上げて、鹿児島駅に運んでおけば、後は向こうの人にお任せでいいニャン」
    「了解しました、ラブミー様! と、ところで……」
     と、男の1人が物欲しげにラブミーの尻尾を見つめて、何やらもじもじする。
     気付いたラブミーはクスッと笑い、
    「無事にお仕事を終わらせてくれたら、ご褒美をあげるから、頑張ってニャン♪」
     長い尻尾を愛らしくふりふり、ぱちりとウインク。
     それだけで、男達の瞳がハートマークへと変わるのだった。

    ●アウト……いやセーフ!(審議中)
    「……なんというか、今回はすっごい説明したくないんだが……」
     教室に現れた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)さんがとてもげっそりとしていました。
    「ていうか俺、一応まだ中学生だし、こういうの早いっていうか……いやしかし、俺にはエクスブレインとしてお前達を助ける使命がある!」
     すぐに自己完結したらしく、立ち直ったヤマトは、きりっとした表情で数枚の資料を配った。
    「博多の中洲地区で、HKT六六六の強化一般人・ラブミーが刺青を持つ一般人を次々と拉致する事件が発生している。お前達にはそれを阻止して欲しいんだが……ひとつ、重大な問題があってな」
     なんでもそのラブミーちゃんとやら、ちょっとイケナイ感じのお店を出しているそうなのだ。
     また、店で働く配下の強化一般人は、その色香の虜になっているという。
     彼らの企みを阻止するためには、何としてもこのお店を潰す必要がある。
    「だが、真正面から攻めた場合、ラブミーはそいつらの協力によって逃亡してしまうだろう。そこで、ふたつの作戦が考えられるんだが……」
     と、ヤマトは重いため息をついた。
    「ひとつは、誰か1人が囮として入店し、その隙に他のメンバーが退路を絶つこと。
     これなら絶対に逃げられることはない……が、お前達はまだ学生だからな。まずは、いかがわしい店に入る方法から考える必要があるだろう。
     おまけに、退路を絶って店内へ攻め入る頃には、囮役はラブミーの色香でKOされてしまっているはずだ。命までは獲られないだろうが……犠牲は、色々と大きいぞ」
     ごくりと息を飲むヤマトに釣られ、同じく息を飲む灼滅者達。
    「もうひとつの作戦は、配下の強化一般人をお前達が篭絡する、という方法だ」

     ――えっ。

     教室に長い沈黙が訪れて。
    「俺だってこんな説明したくないんだよ! 理解してくれ!」
     やがて、ヤマトが今にも泣きそうな顔でそう叫んだ。
    「と、ともかくだ! 配下の強化一般人は3名! こいつらをメロメロにしてやれば、ラブミーの逃走は防ぐことができる!」
     ただし、そのためにはラブミーを上回る色仕掛けを行う必要がある。
     ラブミーの魅力は『動物の尻尾』『尻』『甘える』という3つの要素で成り立っている。難しいかもしれないが、これらを上手く活用して配下を篭絡してしまえば、敵はラブミー1人。灼滅者達の勝利は目の前だ!
     ちなみに、ラブミーの使用サイキックはサウンドソルジャーと同じもの。
     3人の配下の使用サイキックは、解体ナイフが2人、天星弓が1人。
    「最悪、無計画に突入して配下を倒せば、店を潰すという目的は達成される。だが、できればどちらかの作戦を成功させ、ラブミーの逃亡を防いで欲しい。野放しにしてしまったら、再び同じような事件が発生するかもしれないからな」
     ちなみに彼氏彼女がいる幸せな人達が作戦に参加した場合、アフターケアなどは一切ありません。
    「……まあ、色々と気を付けて向かってくれ」
     説明を終えたヤマトは疲労困憊といった様子で灼滅者達を見回し――。
     再び、深々とため息をついたのだった。


    参加者
    ティセ・パルミエ(猫のリグレット・d01014)
    風真・和弥(壞兎・d03497)
    フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    桃地・羅生丸(暴獣・d05045)
    月宮・昭乃(月夜の歌姫・d13672)
    エール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)

    ■リプレイ


     福岡県福岡市博多区。
     とてもきらびやかな繁華街、中洲。
     ――の、どこかの雑居ビルの裏手、通用口付近の物陰で。
     桃地・羅生丸(暴獣・d05045)は無言のまま『喫茶・しっぽ撫で』の看板を見上げていた。
     今回の標的は魅惑的な獣尻尾とお尻で男性を誑かすイケナイ感じのおねーさんらしい。
     これはなんとも羨ま……けしからん、と自ら囮を勝って出たかったが、自分は貴重な戦力。骨抜きにされる可能性は避けるべきだと判断し、建物の外で待機することになったのだ。
     今は戦力を高めるためのイメージトレーニング真っ最中である。
    (「尻、か……」)
     かわいこちゃんのお尻にはおっぱいとは違った魅力がある。
     柔らかいマシュマロのような弾む感触。
     思わず頬擦りしたくなるようなスベスベの肌。
     ――そんなお尻を揉みまくって顔を埋めてみたい!
    (「それに興奮した彼女により俺の荒ぶる尻尾は優しく暖かい手に包まれて、俺の穢れなき魂が浄化されて天国へ……って今頃はなってた筈なんだぜ!」)
     クッ、とサングラスの奥の目を細める羅生丸。眉間には皺が寄り、周囲に膨大なまでの殺気を放っている。
     一見すると極限まで集中を高めている風にしか見えなかった。いや、実際そうなのだが。 
    (「なんて真剣な……」)
     当然、隣に立つリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)はそんな風に勘違いして。
    「私も、頑張らないと」
     小さく呟いて、ESPで18歳へと変身した己の姿を改めて見つめる。
     細い肢体にすらりとした手足。見るものに清冽な印象を与える容姿だった。
     だが、纏ったドレスの布地は薄く、このいかがわしい夜に自分が溶け込んでしまうような錯覚を起こして。
     迷いを払うようにぶんぶんと首を振り、リュシールは先んじて店内へ潜入した仲間の無事を祈った。


     ――『喫茶・しっぽ撫で』店内。
     スタッフに案内された個室に置かれていたのは、柔らかそうな長椅子がひとつきり。
     ドアが閉まり、室内に1人残された風真・和弥(壞兎・d03497)は、僅かな不安と期待と期待と大きな期待を胸に、とりあえず長椅子に寝そべってみることにした。
    「……おお」
     思わずそんな声が出た。大人1人が寝そべるには少し大きい長椅子が、ここで行われる行為を却って強調しているかのようではないか。
     とはいえ、呆けている場合ではない。
     敵地へ単身潜入したのは、内部の様子を窺い、場合によっては時間を稼ぐため。
     和弥は携帯電話で仲間へ諸々を報告した後、通話状態のまま懐に隠した。こうすればリアルタイムで状況を伝えることができる。
     標的であるラブミーは、いつ、この部屋に現れるか分からない。
    「来るならいつでも来い……!」
     強く拳を握る和弥。そっちの尻尾に対抗するべくこっちの尻尾もすっかり臨戦態勢! 覚悟完了!
    (「……っと、いかん、暴発しそうだ」)
     と、和弥が慌てて下半身を押さえた――その瞬間。
    『……やんっ♪』
     艶めいた声は、壁の向こうから聞こえた。
     和弥は勢いよくそちらへ顔を向ける。……あっちの部屋で、今、今!!
     物音を立てないように長椅子を降りると、和弥は壁へ近付き、耳をぴったり付けて隣の様子を窺った。
    『お、お客さん、尻尾、舐めちゃ嫌ニャン……やんっ♪』
     ――舐める!?
    『やんっ……し、尻尾の付け根は、弱いからぁ……ニャアぁぁぁ♪』
     ――尻尾の付け根!? って、ドコ!?
    『……ならぁ、ラブミーもお返しに、ペロペロしちゃうニャン……♪』
     ――お返しって!? 何をナニするの!? ペロペロしちゃうの!?
    「う、うおおおお……!!」
     和弥は思わず吼えていた。壁の向こうでナニが行われているのか、今すぐ確認したい!!
    (「ていうか代われ! 今すぐ順番を俺と代われぇぇぇ!!」)
     だが、イケナイことがそう簡単に終わるはずもなく。

     今、この瞬間。
     和弥は完全に、1人の『雄』になっていた。
     

     ――『喫茶・しっぽ撫で』入り口前。
    「……風真さん、大丈夫ですか? 風真さん!?」
     携帯電話を耳に当てた月宮・昭乃(月夜の歌姫・d13672)は、慌てた様子でそう呼びかけた。
     なにせ、いきなりスピーカーから和弥の咆哮が聞こえてきたのだ。心配するのも当然である。
    『大丈夫だ、今ならラブミーは……だが、だが……っ!』
     と、電話の向こう、和弥の嗚咽が響いて。
    「ま、問題ないなら作戦進めちゃいましょ」
     お楽しみ中かもしれないし、と。フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)は艶っぽく笑い、入り口のドアを開いた。
    『いらっしゃいま……!?』
     そこにいたのは、受付や案内を務める配下の男性スタッフ、計3名。
     その全員が、一瞬で言葉を失っていた。
     入店してきたのが女性ばかり5名、しかもそれぞれが動物耳や尻尾を着けているとなれば当然である。
    「はぁい。ここに良い男が沢山居ると聞いたのだけど……貴方達、想像以上ね」
     突入した灼滅者達の役割は、3名の配下を篭絡し、ラブミーの逃亡を阻止すること。
     戸惑う配下を押し切るように、フレナディアはぐいぐいと迫る。
     1人の懐へ潜り込むと、甘えるような上目遣いを向けて。
    「……ねぇ、アタシを可愛がってみない?」
     吐息のような囁き声。柔らかく密着するナイスバデー。
     耳と尻尾を猫に変えた大胆な切り込みのバニースーツはこの上なくセクシー。
     見事な媚態で配下が顔を赤らめたとなれば、他の面々も負けてはいられなかった。
     いや、本当はやりたくはないのだ。
     しかし、これも灼滅者としてのれっきとしたお仕事。
    「あ、あたしので良ければ……見ても、触っても、いいよ?」
     次に配下へ近付いたのはティセ・パルミエ(猫のリグレット・d01014)。恥じらいながらも、ミニスカートの裾から伸びた尻尾を可愛らしく持ち上げた。
     柔らかな太ももを包むニーハイソックスとの対比が目に眩しい。
     引き寄せられるように近付いてきた配下が、おずおずとティセの尻尾へ手を伸ばし――触れる。
    「っ……!」
     ぴくん、とティセの体が跳ねた。
     頬が染まり、呼吸も僅かに荒くなって。それでも抵抗はしない。
     撫でられるままの尻尾。様子を窺うようだった手つきが、徐々に激しくなる。
     尻尾が持ち上がると共に、スカートの裾もはしたなく持ち上がってしまい。
    「み、見ないでぇ……」
     涙目のティセに、配下はすっかりいけないスイッチが入ってしまった様子だった。
     残るは1人。先んじて美味しい思いをしている同僚を羨ましげに眺めつつ、
    『いやしかし、オレにはラブミー様という心に決めた人が……』
     とかなんとかぶつぶつ呟いている。
     彼を篭絡するべく、昭乃は必死で猫耳や尻尾をアピールした。
    「ゎ、私の尻尾、いーっぱい撫でてほしいです、にゃ~ん。お・ね・が・い、ですにゃん」
     とはいえ、内心では必死に大切な相手への謝罪を繰り返し、加えて極限まで高まった恥じらいもある。
     これはこれで素人っぽくて趣がある、と配下は僅かに惹かれたようだが、心を掴むには至らない。
     ならば、と配下の服の裾を引いたのはエール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)。
    「ねぇ、寂しいんだけど……構って」
     人形のように端整な容姿、黒猫の耳と尻尾。ESPで成熟した体つきへと変貌したエールに見上げられ、配下はゴクリと息を飲む――が。
    『ダメだ! オレはラブミー様一筋なんだ!』
     チッと舌打ちひとつ、何を今さら、とジト目で見上げるエール。
     ちょっと腹立たしいので後ろから抱きついたら、むにょん、と大きな胸が潰れる感触がして。
    『あっ♪』
     配下は堪らず声を漏らした。
    (「……キモい」)
     しかしこれも仕事のうちなので、抱き付いた腕を離すことはしない。
     そこに、犬耳と尻尾を揺らす黛・藍花(藍の半身・d04699)が近付いて。
    「……?」
     あどけない顔立ちでじっと見つめれば、配下はぽっと頬を赤くして……。
    『ってお嬢ちゃんは駄目だろオレ犯罪者になっちまうし!』
     だが、そう喚くのとは裏腹に、配下の視線は決して逸らされず。
     ――イケる。
     と思ったかどうかはさておき、藍花は攻勢に出た。
    「……やさしくさわって」
     甘えるかのように配下へ寄り添うと、お尻で揺れる尻尾を可愛らしく強調する。
     ふさふさ、ふっさふさ。
    『ろ、ロリコンでも犯罪でもイイーッ!!』
     男の理性が崩壊すると同時に、再び開く入り口のドア。
    「おっと、犯罪はご法度だぜぇ!」
     次の瞬間、店内へ飛び込んだ羅生丸が鏖し龍で配下の1人をKOした。
     続いて姿を現したリュシールも、ティセを貞操の危機へ陥らせていた配下へと向かう。
     呼吸と心音のリズムに乗ってかき鳴らされる旋律。
     揺れる肢体、薄手のドレスがひらひらと舞う様は、まるで野生であっても気高い猫の戯れを想わせる。
    「このっ、男の人って……もうっ!」
     思わず目を奪われた男を一撃のもと気絶させると、リュシールは心なしか頬を赤らめて。
    「……えいっ♪」
     残った1人はといえば、フレナディアにきゅっと締められ、見事に昇天させられていた。
    「うふふっ、男の人の尻尾って可愛い~♪」
     汚れた手を拭い、艶然と笑うフレナディア。
     と、その時。受付奥に並んだドアのひとつが開いて。
    『スタッフさぁん、いつものように……って、ニャッ!?』
     現れたのは他でもないラブミー。こちらは口元を拭いつつ、目の前に広がる光景に驚愕の声を上げた。
    『な、何者ニャン……!?』
    「ラブミー、今日こそ年貢の納め時だ!!」
     少し遅れて隣の個室から出てきた和弥は、何故かズボンのチャックを上げている真っ最中。

     と、まあ。
     何はともあれ――逃亡阻止、成功である。


    『ニャんだかよく分からないけど、よくもラブミーのスタッフさん達を!』
     ラブミーの声が、催眠波を帯びて灼滅者へと襲い掛かる。
    「みぃんなアンタよりアタシ達の方がイイ、って言ってくれただ・け・よ?」
     だが、得意気に微笑んだフレナディアの声に、傷も催眠も即座に癒されて。
    「うぅ……おかげで恥ずかしかったんだからぁ!!」
     展開したシールドを怒りに巻かせて叩き付けるティセは、別働隊の突入までに随分な目に遭っていたようで、服のあちこちが乱れていた。
    「私はっ、貴女達みたいには、絶対に……っ!!」
     続けざまに攻撃を繰り出したリュシールもまた、その双眸を怒りに燃やして。
     その足元から伸びた影は鋭い刃と化し、ラブミーの体を幾重にも切り裂いていく。
     心乱れるのは、己に秘められた誘惑のルーツを自覚しているためか――。
     息を切らし、目の前の敵を見つめても、その迷いが晴れることはない。
    「お願いします、総司さん!」
     構えたNotturnoから膨大な魔力を撃ち出す昭乃。彼女に呼ばれたビハインドも、リュシールを助けるように霊障波を繰り出した。
    「……貴女が変態の大元ですか? ……それとも誰かの命令ですか?」
     間髪入れず斬影刃を放った藍花が冷静にそう問いかける。
     その傍ら、まるで双子のように浮かんだビハインドは、声無き微笑と共に霊撃を放ち。
    『ラブミー、そんなにおクチがゆるいように見えるかニャ?』
     だが、ラブミーは質問に答えることなく、まるで舞うように灼滅者達へダメージを与えていく。
     やがて、踊る彼女とエールの振り下ろしたマテリアルロッドが交錯して。
    「……いい加減にして」
     戦闘ならばこちらに分がある、と。
     勢いよく振り抜かれた一撃が、破壊の魔力を流し込むと共にラブミーの体を大きく跳ね飛ばした。
     すかさずその落下地点に走り込んだのは――和弥。
    「もう生殺しは御免だぁぁぁっ!」
     店内にいる間に何があったのか、その両目は血走り、息は荒く。
     ヴァンパイアミストによって強化された肉体で、和弥は落下するラブミーへ幾重にも斬撃を放つ。
    「まずはおっぱい!」
     ぷるん♪
    「次は尻ぃ!」
     ぽよん♪
    「トドメは尻尾ぉ!」
    『ニャッ……やぁ~ん♪』
     命中箇所のえらく偏ったティアーズリッパーに、ラブミーはどこか気持ち良さそうな悲鳴を上げて。
    「さぁて、イカしたケツのかわいこちゃん。お次はこのイケメンのお相手を頼むぜ?」
     ラブミーの体を両手で受け止め、羅生丸がニカッと白い歯を見せて笑った。
     だが、そこに秘められているのは野獣の如き本能。
     次の瞬間、可愛い尻尾の生えたラブミーの柔らかなお尻へ、羅生丸は顔を埋めて。
     すりすり、すりすりっ。
    『ニャ、ニャアぁッ♪』
    「この感触、堪らんねぇ。俺の尻尾もとっくに我慢の限界だ……が、生憎と俺はおっぱい派でな!」
     キリッと表情を引き締める羅生丸。
     なら別に顔を擦り付けなくても……とドン引きする外野。
     と、積み重なったダメージその他諸々により抵抗できない様子のラブミーが、地面へどさりと倒れて。
    「せめてもの礼だ、気持ち良くあの世に逝かせてやるぜ!」
     振り下ろされた超弩級の一撃が、見事、ラブミーを昇天……ではなく、灼滅させたのだった。


     ラブミーの灼滅後、灼滅者達は店内での情報収集を行った。
    「……駄目ですね、特に情報は得られませんでした」
     スタッフを起こし、尋問を行っていた藍花が小さく首を振る。
    「こっちも……駄目」
    「特にめぼしい書類はなかったわ」
     手分けして家捜ししていたエールとリュシールも、残念そうに戻ってきて。
     そこに、外の通りへ出ていた昭乃も無事に帰還した。
    「似たようなお店があるのでは、と、通りを歩く方々の会話を聞いてみたのですが……」
     ここは中洲。いかがわしいお店なら山ほどあるし、ブラックな営業もさほど珍しくはない。
    「お役に立てず、すみません……」
     と、昭乃はしゅんと俯いた。励ますように、和弥がその背を軽く叩く。
    「そんなに落ち込むなよ。当初の目的は達成されたんだから、まずはそれで充分だろう」
     ラブミーの逃走は、無事に防ぐことができたのだから。
    「まあ、若干、消化不良なところはあるけどな……」
    「欲求不満の間違いじゃなくって?」
     拗ねたような和弥の呟きに、フレナディアはクスっと微笑して。
    「……こっちのおにーさんはどうかしら?」
    「俺か? こんなに可愛い女性陣に囲まれてりゃ、不満に思うことなんざ何もねぇさ」
     豪快に笑う羅生丸。サングラスに隠れた双眸は女性陣の艶姿を存分に堪能している。
    「そりゃあ、あんだけ尻に頬擦りすりゃな……」
    「ははっ、そっちもイイ想いしたんだろ?」
     和弥と羅生丸は顔を見合わせ、どこか羨望の混じる言葉を掛け合って。
     さて帰るか、となったところで。
    「あれ? そういえば、男の人ってしっぽあるの?」
     不意に、ティセはそう呟く。
    「……知りませんっ!!」
     と、リュシールは何故か怒ったようにそう告げて。
    「ん~、どういうこと?」
     早足で歩くリュシールの頬がほのかな赤に染まる。
     ティセはその後を追いながら、不思議そうに彼女を見つめるのだった。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ