激闘! バレンタイン大決戦

    作者:カンナミユ

     イルミネーションに彩られた公園はカップル達で賑わっていた。
     公園内にある噴水前にはベンチがあり、学生服の二人が寒空の下、身を寄せ合っている。どうやらこの場所を他のカップル達が狙っているようで、ちらちらと様子を伺っているが二人は全く気にしなかった。
    「先輩、これ」
     少女が鞄から小さな包みを取り出し彼へと手渡す。今日が何の日かを知る彼もそれが何なのかは察する事ができた。
    「愛してる、先輩」
    「俺も愛してる、りせ」
     二人は見つめ合い、顔を寄せ――
     ちゅどおおおおおぉぉぉぉぉん!!!
     激しい爆発。
     カップルは爆発し、突然の出来事に周囲にいた他のカップル達が悲鳴と共にパニックに陥り、逃げ惑う。
     もうもうと立ち上がる黒煙を、騒ぐカップル達を一組のカップルが眺めていた。
    「もー、ナマイキ~」
     マフラーを巻き直した少女は長い髪をばさっとマフラーから出し、彼の腕にぎゅっと抱きつく。
    「バレンタイは私達だけのものなのにね~。ねっ♪」
    「そうだね♪ バレンタインは僕達だけのものだよねっ♪」
     二人は顔を向かい合わせると、そっと唇を重ねた。
      
    「遂に来たな、この時が……!」
     拳を握り締め、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は運命を決める戦いを迎えるかの如く声を上げる。が、三国・マコト(正義のファイター・dn0160)は真意を理解できず、どんな顔をしていいのか分からなかった。
     お前にも分かるだろ? と尋ねられても返答できないので曖昧に答えて説明を聞く事にする。
    「郊外にこの時期限定で特別ライトアップされる公園がある。そこには噴水があり、そこにあるベンチでいちゃつく都市伝説がと嫉妬し、カップルを爆発させる、という内容だ」
     公園はヤマトが説明したようにイルミネーションで彩られ、当日訪れるカップルは多い。特に公園の真ん中にある噴水前では永遠に結ばれるという噂のベンチが二つあり、場所の取り合いになるだろう。
     噴水前でいちゃつくと都市伝説はカップルを爆発し、現れる。
    「嫉妬するほどのいちゃつきを見せないと都市伝説は現れない。気合を入れていちゃついてくれ」
     何故かぎりぎりと歯噛みしながらヤマトは言い、資料をめくった。
    「現れるのは憎きリア充の都市伝説だ」
     カーキ色のピーコートのレンにピンクのダッフルコートに白いマフラー姿のミカ。腹が立つほどラブラブな都市伝説カップルである。
     レンは日本刀と盾を持ち、彼女を守りながら戦い、後方からミカは歌とダンスで彼をサポートするようで、二人の強さは灼滅者達と同じくらいだという。
    「何か気を付ける事はあるか?」
    「ある。気を付けるのは彼女――ミカだ」
     説明を聞いていた一人の問いにヤマトは答えた。
     ミカは最初、メディックとして戦うが、彼が倒された瞬間にその態度は一変する。クラッシャーとなり武器を手に戦うのだ。
    「ミカは大剣を振り回し、殺人鬼と似た能力を使う」
    「大剣に殺人鬼……」
     歌を歌う可愛らしい女性が大剣を持ち襲い掛かってくる光景を想像し、説明を聞いている灼滅者達はごくりと息をのんだ。それだけ彼を愛しているという事なのだろう。
    「俺には奴等を倒す力がない……」
     資料を閉じ、ヤマトは俯く。だがすぐに顔を上げると真摯な表情を灼滅者達に向けた。
    「だから、お前達の手でリア充を倒してくれ! 都市伝説もついでに頼む!!」
    「……神崎先輩、逆です」
     マコトはこんな時、どんな顔をしていいのか分からなかった。


    参加者
    陰条路・朔之助(雲海・d00390)
    佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    乾・舞斗(冷たき冬空に振り上げる拳・d01483)
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)
    穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)
    鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)

    ■リプレイ


     徐々に日は落ち、公園に特設されたライトが灯りだす。
     その公園には『永遠に結ばれる』という噂のベンチが噴水前にあり、この時期になるとカップル達で賑わっている。
     ……筈なのだが。
    「(……何で僕こんな格好を……)」
     膝に乗せる拳をぎりっと握り、陰条路・朔之助(雲海・d00390)は小声で呟いた。
    「(……まあ、これも将来の予行練習と思えば……)」
     自分達は囮だからと小声で言葉を交わし殺界形成を展開させる神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)の言葉に朔之助は頷き真顔になっていた表情を囮用に戻す。
     囮用――即ち、イチャイチャカップルである。
    「バレンタインも楽しく灼滅灼滅! 一人じゃないから寂しくない! 楽しい!!」
    「おおすっげえ……どっからどう見てもリア充だ……」
     物陰に隠れ、空しく声を上げる宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)の隣で穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)もナノナノ・イチと共に二人をガン見していた。
     今回、灼滅者達が戦う都市伝説を呼び出すにはベンチでいちゃつかなければいけないのだ。
     唯一の女性である朔之助は男性と見間違える容姿の為、ウイッグにワンピースという可愛らしい服装に身を包み、隣に座る三成も強化改造制服ではなくお洒落な服装でいちゃついていた。
     スレイヤーカードに殲術道具を封じたままでもESPが使えて本当に良かった。そうでなければ世紀末仕様のカップルが誕生していたに違いない。
    「バカップルなら周りなんか気にしないでもっと熱くなれよ。なあ?」
     腹が立つほどラブラブな都市伝説を呼び出すべく、いちゃつく二人をギリギリと歯噛みする絢矢から話を振られ、三国・マコト(正義のファイター・dn0160)はよく分からないのでとりあえず頷くと、
    「人の恋路を邪魔するモノは、馬に蹴られて地獄に還れ……という訳で、暴行魔退治ですね」
     乾・舞斗(冷たき冬空に振り上げる拳・d01483)も物陰から二人を眺める。彼の視線の先では、朔之助がチョコを手渡していた。
    「貴方の為に用意したの……受け取ってくれる?」
    「あなたからの贈り物ならどんな物でも受け取りますよ。……私はあなたのここ欲がしいんですけどね」
     ここ――朔之助の胸、つまりハートを指差す。
    「もう、そんな事いっちゃって~」
     つんっ♪
     恥らいつつも逞しい三成の胸板をつつく朔之助だが、慣れない演技に服の下は鳥肌ブツブツである。
    (「早く出てこいよ!」)
     いつになっても現れない都市伝説に苛立ちを覚えつつ朔之助は仲間達のいる場所――クラブ仲間でもある佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)と鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)へと視線を向けた。
    「リア充が羨ましい……あ、違った。うん、何でも無く」
    「あー次は俺も爆破側になりたいわー……」
     ぽつりと口にした神羅がこほん、と軽く咳をするその隣で、ニヤニヤしながら司がスマホをこちらに向けている。しかもライドキャリバー・赤兎を茂みに隠した天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)もカメラを手にしている。
     撮影する気満々の二人にやめてくれと朔之助はぶんぶんと首を振るが伝わっただろうか。撮影だけは勘弁だ。
    「そっかー女の子にはそーやって愛を囁けばいいんだな、覚えとこ。うんうん。」
     いつになっても現れない都市伝説を呼び出すべく、グレードアップする三成の甘い言葉を恒汰がメモを取ろうとしたその時、
     ちゅどおおおおおぉぉぉぉぉん!!
     豪快に爆発した。
     

    「大丈夫か?!」
    「びっくりした……」
     声を上げ、司は仲間達と二人の元へ駆け寄った。心構えはしていたが突然の爆破に対応できず、二人は吹っ飛んだがバベルの鎖の影響で大きなダメージを受けずに済んだ。
     二人を気遣いつつ、灼滅者達は都市伝説の出現に警戒する。
    「やだ~、あの二人まだ生きてるよ~?」
     甘ったるい、若い女性の声。灼滅者達は振り返り、声の主へと視線を向けた。
    「ホントだ、丈夫だなあ」
     噴水前のベンチの上。手を繋ぐコート姿の一組のカップルが立っている。
     カーキ色のPコートの青年と、ピンクのダッフルコートに白いマフラーのロングヘアーの少女。都市伝説のレンとミカだ。
    「よし、赤兎はそっちに回れ」
     現れた都市伝説二人を牽制すべく兎は赤兎に指示を出し、舞斗は隠れた場所からの攻撃を試みる。
    「ちょっと待った!」
     死角から飛ぶ拳をばしんと払い、レンは手で牽制。何事かと舞斗は眉を寄せる。
    「ほらミカ、マフラーずれてるよ」
    「ありがと~。レンったら優しいっ♪」
     マフラーを巻き直してもらい、ミカは嬉しげにレンに抱きついた。
    「やっと来てくれ……来やがったな手前ら! 纏めて消毒してやるから覚悟しやがれ!!」
    「こんな事になったのも……お前らのせいだからなー!」
     ようやく囮カップルから解放された三成はリア充オーラ(独り身でも装備可能な影業)を纏い、朔之助はウイッグを外すとべしっと地面に叩きつける。
    「や~だ~。男の子が女装してるなんてありえな~い」
    「ホラ、男の娘だよ、アレ」
    「僕は女だっ!」
     どうやら女装と思ったらしい。くすくすと笑う二人だが、
    「どういう経緯で流れた都市伝説か今一つわからぬが、他人の恋路を邪魔する輩には退場願おうか」
     雷の闘気・深淵ヲ穿ツ雷を纏い構える神羅の言葉に、その笑みが深くなる。
    「爆発できなかったし、やっちゃおっか?」
    「そうだねっ♪」
     手を繋いだままレンはずるりと抜き身の日本刀を構えた。
    「マコト、こっちこっち」
     仲間達が武器を構える中、恒汰に呼ばれマコトは武器を手に後方へ下がる。
     戦闘態勢を整える中、ふと司は妙な事に気付く。二人は手を繋いだまま離さず動かないのだ。エクスブレインの説明ではミカは後方に下がる筈なのだが……。
    「ミカ、手を離して後ろに下がって」
    「え~、レンが先に離して~♪」
    「えっ? ミカが離してよ」
    「や~だっ♪ レンから離してっ♪」
     灼滅者手を繋いだまま、二人は灼滅者達の前でいちゃつき始めた。しばらくの間なら良かったのだが、それが何分も続くのだから腹が立つ。
     リア充コントが終わるのを律儀に待つ灼滅者達だったが、あまりの長さにマコトが攻撃していいかと神羅に聞いたほどである。
    「人前でいちゃつくなんて都市伝説のくせに!」
    「気持ちはわかるが殺すのは駄目だ。責めて滅茶苦茶苦しむように半殺しにしとけよ」
     嫉妬する絢矢は声を上げ、攻撃をしたいのか唸るようにエンジンをふかす赤兎を兎はなだめた。
    「半殺し?」
     兎の言葉に繋がる手をぱっと離し、ミカを後方へと下がらせ日本刀を構えるレンは低い声を放つ。
    「それは僕の台詞だよ。……最も半殺しじゃ済ませないけどね」
    「レンったらかっこいー♪」
    「えへへ、ありがと」
     黄色い声を上げるミカに振り向き、レンは明るい声でにこりと微笑むと非リア充共の嫉妬の炎が一気に燃え上がる。
    「……まあ、とりあえずいきましょうか」
     これ以上コントを続けられても困る。舞斗は構えると目標に向かい飛び掛った。
     

    「きゃあっ」
     舞斗の影から放たれるヨモツモリカゲにミカは声を上げた。
    「ミカ!」
     恋人を守ろうとレンは動くが兎と赤兎に妨げられてしまう。
    「流石にタイマンはきついけど……時間稼ぎぐらいだったらなんとかなりそうだな」
    「僕の邪魔をするな!」
     妨害されたレンは兎をぎっと睨みつける。
     灼滅者達の狙いは後衛のミカだ。レンより彼女を先に倒さねば厄介な事態になる。
     司も腕を変化させ、殴りかかろうとするが牽制を振り切るレンを前に鬼神変は後衛に届かない事を思い出し、
    「自分ら以外のイチャイチャ認めぬとか最上級のいちゃこら都市伝説め! 燃え尽きろ!」
     ガトリングガンの弾丸をばら撒いた。
    「お前達、ミカばっかり狙うなんて……」
     ぎりっと歯噛みしレンは盾を構え、
    「分かった! お前達バレンタインなのに独りなんだろ? 可哀想になー」
     全てを理解したように言いながら絢矢に殴りかかる。
    「あ、もしかして可愛いミカが彼女の僕に嫉妬してるんだろー。嫉妬は良くないよっ。ミカは僕の彼女だから渡さないからねっ」
    「もうっ、可愛いだなんてっ♪」
     ぷちーん!
    「クソったれ! 都市伝説のくせに生意気なんだよー!!」
     ストールを引き抜き絢矢は勢いよく振るい、ミカではなくレンへ妖冷弾を放つ。
    「お、落ち着け絢矢!」
     三成が仲間達へとフェニックスドライブを展開させる中、言いながら朔之助は攻撃するが癒しを受けたレンに弾かれてしまった。
     恒汰とイチによりダメージを回復する絢矢とレンを視界に入れ、
    「なかなかやるな……回復役から絶たせて貰う!」
     目配せで合図し、神羅とマコトのガトリングガンの銃口が火を噴いた。
    「俺の炎で昭和的爆発コントオチアフロヘアーになればいいんじゃないかね!」
    「アフロ? ゴメンだね!」
     恋人に向けられる攻撃を防ぎ、司の言葉にレンは声を上げると日本刀を構えると灼滅者達へと斬りかかった。
    (「流石に息が合っている。もっと平和な噂であれば良かったろうに」)
     攻防が続く中、ミカへ向ける攻撃を防がれ内心で神羅は感心する。レンは集中する彼女への攻撃を必死に食い止めていた。
     仲も良く、連携できるこの二人ならきっと良い噂になれただろうに。
    「もういいよっ! レン死んじゃうっ!」
     戦いの最中、ミカは声を上げた。回復しても攻撃がそれを上回り、レンの体力は減る一方だ。
    「僕は……ミカを守る」
    「……レン」
     切り裂かれた箇所は数え切れず、コートから血が滴り地に落ちる。限界が近いのか、ふらつく体で盾を構えるレンはそれでもミカの前に立つ。
     輝きを帯びた眩いオーラが舞斗からミカへと放たれ、それを当然の如く、レンは受けた。盾を持つ力もなく、その体で。
    「ごめんね……ミカ……」
    「……レン」
     真正面から受け、倒れこむレンにミカは駆け寄り癒しを奏でようとするが間に合わない。ごめんと何度も口にし、そして消えた。
     目の前で命を散らした愛しい人。がくりとミカは膝を突き、嗚咽を漏らす。だが、それは長く続かない。
     嗚咽は途切れ、足元に落ちる影に手をつくと、ずぶりと沈ませる。
    「……許せない……許せないわ……」
     影から引き抜かれる手には剣の柄。地の底を這うような低い声と共にそれはずるりと現れる。真っ黒な、どす黒い、一振りの大剣。
    「来るよ!」
     恒汰の鋭い一声に仲間達は武器を手にミカへと飛び掛る。
    「よくも、よくもレンを……」
     ざりざりと引きずるその剣を振り上げ、灼滅者達の攻撃を防ぎ、払い、斬りつけられ血を流すもその足は止まらない。
    「殺してやる!!」
     ぎぃん!
     激しい火花。絢矢へ向けられた大剣を断罪斧で受け止めた瞬間、三成は鋭い眼光を眼にした。あのラブラブでいちゃついていた少女のものとは到底思えない、修羅とも羅刹とも思えるその瞳。
    「お前達全員、皆殺しよ!!」
    「やれるものならやってみろ!」
     立て続けの仲間達の攻撃に続くように、神羅は変化させた腕で斬りかかった。
     愛するものを失ったミカは戦い続ける。軽やかに舞っていたその姿は禍々しささえ感じ、癒しの歌は怨嗟の呪歌だ。
    「朔之助、大丈夫?」
    「サンキュー! 恒汰!」
     癒しを受け、朔之助は礼を言うとすぐに視線を前へと向けるとピンクのコートを血に染めたミカが神羅とマコトの攻撃を剣で防ぎ、回り込み繰り出される舞斗、兎の攻撃を受けていた。
    「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……!!」
     瞳をぎらつかせ、額から血を流すミカは赤兎の突撃を飛び、回避。
     だん!
     シートに足をかけると高々と飛び上がった。
    「なに?!」
     あまりの事に思わず兎は声を上げ、目でその姿を追う。
    「死ねえ!!」
     前衛全員を切り裂かんと得物を大きく振りかぶり――
    「そこまでじゃ」
    「?!」
     声と共に放たれた九尾の影がミカを捕らえ、斬撃は大きくぶれた。
    「大丈夫かのぅ」
     影を放った七姫・明(食いしん坊ばんざい空狐・d14839)の姿を霊犬・夢々は追い、傷付いた仲間達を癒す。
    「ありがと」
    「助かったよ」
     司と絢矢から礼を言われ、ぱたぱたと尻尾を振る夢々の傍らに立つと、ふとマコトと視線が合う。
    「来てくれてありがと!」
     その言葉に明は頷き応えると槍を手に構えると灼滅者達は攻撃を再開させた。
    「熱線に穿たれ滅びよリアじゅいや都市伝説! 破ァ!」
    「ヒャッハー!! 俺より幸せな連ちゅ……人に害為す都市伝説はどいつもコイツも焼却だぁ!!」
     絢矢が中2の時に書いた黒歴史ノートから放たれた熱線が腕を貫き、マントをなびかせ三成も炎を繰り出す。若気の至りと世紀末的焼却の威力は絶大だ。
     灼滅者達と同じほどの強さの都市伝説である。加勢を加えたこの人数では倒されるのは時間の問題だ。
    「あと少しだよ!」
     ふらつくミカに恒汰も回復から攻撃に切り替え一気に畳み掛ける。
     舞斗と兎の攻撃を防ごうと構えるが、動きが鈍い。息も荒く血を流すその顔からも限界が近い事がうかがい知れた。
    「これで最後だ!」
     司の一撃が体を切り裂く。
    「レン……」
     がらんと音を立て、得物が落ちる。立て続けの攻撃を受け、耐え切れずミカはついに膝を突くと血を流し、うなだれる。
     ――ミカ。
    「……レン?」
     ふと、頭上から下りる愛しい声。
    「迎えに来たよ、ミカ」
     うなだれていたミカは顔を上げると目の前には愛しい姿。ミカの目には一筋の涙が。
    「も~、遅いんだから~。ミカ寂しかったっ♪」
    「ご~め~ん~♪」
    「仕方ないな~、今回だけ許してあげるっ♪」
     二人は激しく抱き合い、いちゃつきだした。さっきまでのは何だったのか。
    「……爆発しろ」
     非リア充達の心の叫びが発せられた瞬間、
     ちゅどおおおおおぉぉぉぉぉん!!!
     都市伝説は爆発した。
     

    「お疲れ様でした」
     戦いを終え、三成は仲間達に声をかける。
     灼滅者達の活躍により、リア充な都市伝説は爆発した。一件落着めでたしめでたし、である。
    「……ええ、本当にお疲れ様でした陰条路さん」
    「本当だよ、全く」
     手にするクルセイドソード・流星を鞘に収める朔之助は言葉を交わし、ため息をついた。ウィッグは外したがワンピース姿のままだ。ヒラヒラでスースーするし、何より寒い。
    「家に帰らない悪いリア充はどこだ!」
     どうやら敵を都市伝説からリア充にシフトしたらしい兎は高らかに声を上げて周囲を見渡す。だが戦う前に殺界形成を使っているのでこの公園には自分達しかいない。
    「家に帰らない悪いリア充はお前達か?!」
     くわっと目を見開き、囮カップルの二人に向く兎だが、
    「違うよ!」
    「違います!」
     即否定。
    「司先輩! そういやさっき写メ撮ってたよな?!」
    「どうかな~」
    「頼む! 消してくれっ!」
    「たまには恥じらっとけ乙女」
     意味ありげにニヤニヤしてスマホを操作する司に駆け寄る陰条路を舞斗は見つめ、今回の依頼を無事達成できた事を内心で安堵する。
    「バレンタインとはお母さんと妹からチョコを貰う日というだけでなく、男女の愛の誓いの日とされており日本では女性が好きな男性にチョコをあげる日なのじゃよ」
     そんな舞斗の後ではマコトが明からバレンタインとリア充についての説明を受けていた。想い人がいる者にとっては一大イベントなのだと付け加え、
    「そして、リア充とはリアルに充実しておる者の事で、よく耳にするのが男女交際をして楽しんでおる者の事を言うらしいのじゃ!」
     力説すると夢々もわん! と吼え、尻尾をぱたぱたさせた。
     同級生からの説明を聞き入るマコトだが、ふとコンビニ袋からチョコを取り出す絢矢が視界に入る。どうやらここに来る前にチョコを買っていたらしい。
     値引きシールが貼ってある売れ残りチョコを食べようとする絢矢にマコトはそっと小さな包みを手渡した。
    「僕に?」
     無言で頷き渡すのはメイドさんの手作りチョコレート。どうやら友チョコなる存在も知ったらしく、一緒に戦った絢矢に渡したようだ。
     微妙な表情で受け取り、絢矢はそれを口にする。
    「ハハッ、このチョコ苦いや……」
     甘い筈のチョコなのに、何故か苦い。
     ボリボリと食べ、絢矢は自分が買ったチョコを仲間達に配った。
    「うん、このチョコ苦いね」
    「……苦いな」
     非リア充の恒汰とクリスマスに告白したが返答を保留されている神羅も微妙な顔でチョコを口にすると仲間達も微妙な顔になる。
    「寒いからもう帰ろうぜ! さっさと着替えたいし」
     気が付けば日も落ち、寒さが身に沁みてくる。チョコを食べ終えた陰条路の言葉に仲間達も公園を後にする。
     こうして灼滅者達の甘くて苦い、微妙なバレンタインは過ぎてくのであった。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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