神の膝元に潜む者

    作者:那珂川未来

    「素晴らしい……」
     雪の珍しい国より来日したばかりのヘヘスは、雪の美しさに溜息をもらし、すくっては冷たさを楽しんで。
    「来日されてすぐに雪が降るなんて――新しい門出を、神が祝福してくださったのかもしれませんね」
     関東では雪もそんなに降らないんですよと、老年のシスター光子は微笑んで。訪れる人のためと、ヘヘスと一緒に雪かきをしようと、道具を取りに。
     教会の裏にある物置は、使う頻度が稀なものばかりを収納している。だから今回その物置へと訪れるのも、ほぼ一年ぶりだった。
    「あら。おかしいわね。鍵が掛かってないわ」
     物置を前にして、光子は首をかしげた。南京錠が掛けてあったはずなのに。それがない。
    「去年かけ忘れたのかもしれないわねぇ」
     何せ普段使わない物置だから。前回使った人が、鍵自体を忘れてしまったのかもと、光子は特に疑問も持たず開けてしまった。
     すると、中にいた四つの影が、ぐるりとこちらへ視線を向けて。まさか人がいるなんて思いもしなくて、光子は短く悲鳴を。
     ヘヘスは咄嗟に光子の手を掴んで、じりじりと後ろへ下がるようにしながら誰何したのだが、
    「――え? ああ、なんて、ことだ……」
     日の光に浮かぶ姿は、人間ではなかった。
    「ひ……ああ神よ。あ、悪魔が……悪魔が!!」
     恐ろしさの余り、腰を抜かすヘヘスと、
    「か……神よ、お慈悲を……どうかこの方たちを……」
     悪魔の戒めよりお救い給え――。
     シスター光子の祈りは紡がれることなく。
     その骸骨の様な手に、首を刎ねられた。
     
    「緊急性が高いからね、早速依頼に入らせてもらうよ。病院勢力の灼滅者の死体を元にしたと思われる、アンデッドの出現が確認されたんだ――場所はここ」
     仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)が指示した場所は、とある教会。
     出現するのは、新宿周辺であり、何かを探しているようにも見えるが、それが何かはわかっていない。
     普段は、人目を避けて活動しているようだが、誰かに発見されたりしたら、その相手を殺そうとするようだ。
    「このままじゃ、教会関係者が二人、事件に巻き込まれて殺される」
     被害を防ぐために、深夜のうちに教会に赴き、終わらせることが望ましい。
     教会の敷地に侵入すること自体は簡単だが、教会内にシスターが寝泊まりしているらしい。広い敷地の周りは住宅街。一般人に対する対策は必須。
     物置を開ければ襲い掛かってくるため、探索は不要。
     あとは、ぶつかり合うだけ。
    「そして病院の人造灼滅者のアンデットだけれども」
     聖職服を着たチェーンソー剣を持つノーライフキングと、僧服を着た天星弓を持つ神薙使い、シスター服を着たバトルオーラを持つストリートファイター、巫女服を着たガトリングガン を持つファイアブラッド。
     それぞれ、ルーツサイキックと、得意武器より二種のサイキックを使用する。
    「……腐敗した姿は、不気味で、むごたらしくて――哀れだ」
     命を掛けて戦いぬいた戦士の魂を揺さぶり起こし、過去の志とは正反対の形として利用される。
    「そんなこと、許せないよね」
     だから。
     沙汰はその魂に、本当の安息を与えてあげてほしいと。
    「それが神の慈悲ではなく、武力でなければならないという、矛盾も、あるだろうけど……」
     しかし元が灼滅者の遺骸であるからこそ。
     灼滅者に弔いを望んでいるだろうと。
    「勝手な解釈かも、だけどね」
     宜しく頼むよと、沙汰は深く頭を下げた。


    参加者
    不破・聖(壊翼の夢想・d00986)
    ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)
    アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484)
    小早川・里桜(黄泉へ誘う黒氷桜・d17247)

    ■リプレイ

     天に月の光なく。眠る命を起こさないように、闇夜に抱かれた時の中を滑り、屍が潜む場所へと。
     忍び進む灼滅者の影、神の膝元なる教会を背にして。
     佇む小さな物置は、枝の隙間より零れてくる仄かな街明かりに映しだされたているせいか、何か物悲しい色をしているように見えた。
    「またあの戦いの犠牲者のアンデッドなんだね……」
     境遇を思えば、胸が張り裂けそうで。アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)は歩みを止めると、哀悼を滲ませた瞳を向けた。
     一般人でありながら、厳しい戦いの中へと赴いた覚悟。薬物投与を必要とし、人間という定義を逸脱しても護ろうとした心は、とても尊きものであったはずなのに――。
    「……これじゃあ、あんまりにも浮かばれないだろ」
     残酷な呪詛に囚われた、哀れな魂を想いながら、ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)は、気取られぬよう、一人そっと物置へと。
    「さっさと終わらせてやろうぜ」
     用意はいいかと視線を送れば、咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)は殺界の展開によって返事とした。
    「神よ――迷う屍に、終焉の道を記すため力をお貸ください」
     音の隔壁が落ちてゆく中、開け放たれた扉の向こうを正視しながら、力をお貸しくださいと、御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484)は神に祝詞を唱え――そして召喚するセイクリッドギター。
     震え轟く六弦と、唸る動力音。
    「さあ、今宵も派手に奏でてあげようじゃない!」
     音がぶつかり合った時、飛び出してきたのは、水晶の煌めき。ヴェルグが素早く間合いをとるのと同じ速度で迫る。
     仄蒼く淡い輝き放つ輝石には似つかわしくない、腐肉と退廃のコントラストが閃き、鋭利に肉を裂く刃がヴェルグへと。同時に放たれる火炎の塊と強固な拳。フローレンツィア・アステローペ(紅月の魔・d07153)へと届くより早く、ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)が身を呈して鋼鉄拳を受け止め、Escudo de luna llenの出力をあげ、戒めを打破する力を前衛陣へと。
     ガドリングガンの火炎は間を縫い込む様に突き抜けてしまったものの、フローレンスと霊犬・シェルヴァの息はぴったり。除霊眼が癒しの手伝いを、防護符をターゲッティングされ易いとされるフローレンツィアへと。
    「……人の命を、何だと思ってるんだ。作り変えて、利用して……まるで道具みたいに……」
     惨たらしい姿のまま利用される残酷さに、不破・聖(壊翼の夢想・d00986)はどうしようもない憤りを抱き、Inizia Argentoを手に。彼等を無垢なる零へと送ることを誓い、癒しの力を高めると、ノーライフキングアンデッドの斬撃より庇うバーガンディの修復を。
    「灼滅者みたいに群を成して戦う相手ってはじめてかも……あ、元々灼滅者だったんですっけ」
     決められた任務を全うするため、フローレンツィアの目に映るものは今在る現実だけ、という徹底さ。
     無邪気な性質曇らせることなく、唇閉ざすことなく。歌うように、舞うように。
     弾丸を撃つ際も、身に残る火炎とすら戯れる事を良しとする様に余裕を浮かべ。ふわり、飛び石を渡る様に軽やかに間合い詰める。
    「さぁ、切り裂いてあげる」
     掌に紅い十字を煌かせ、白き闇のアナト翻し闇に色彩広げながら糸を放ち、精神ごと斬り付ける。
     全てを拾うことはできない現実に、小早川・里桜(黄泉へ誘う黒氷桜・d17247)は憤り覚えながら。
     咲耶握りしめ、鞘で打つ。だが、かわされるフォースブレイク。しかしその勢いのまま繰り出すのは居合切り。
     流れる様な一撃に飛ぶ血の桜。舞い散る花弁の中、さらに流れるのは炎の結晶。
     閃光零すほどの傷はフローレンスにお任せして。ヴェルグは獣が駆けるかのように低い姿勢で前へと。きつく握った拳が、したたかにストリートファイターアンデッドの腹を打つ。
     ノーライフキングアンデッドが奇声を上げる。前衛陣を払う様にセイクリッドクロス。合わせて放たれたオーラキャノン。
     それはフローレンツィアを越え、シェルヴァへ。
     ディフェンダーとメディックの厚さを鬱陶しく思ったのか。回復手を減少させようとしているらしい。
    「シェルヴァ、ここが踏ん張りどころよ!」
     フローレンスは激しくセイクリッドギターをかき鳴らし、衝撃ダメージを全て打ち消すくらいの輝きを生み、相棒を鼓舞して。
    「我が声に、我が血に応えよ。其の意志を以て――」
     祝福と成れ。
     聖の声が静寂の囲いの中響き渡れば、空より吹き抜ける神聖なる風。
    「病院の灼滅者を、能力を残したままアンデッド化するなんて……」
     素体を選ばぬダークネスの能力と残酷性。むしろ地力が整っているだけにアンデットよりもやっかいですわと零すベリザリオ。
     メディックを狙う傍ら、ジャマーのファイアブラッドアンデッドが、火炎技で牽制を入れてくる。長年利用した戦法と経験が死した今でもなお染みついているのか、徹底した連携攻撃も厄介だ。
    「目的は分かりませんけど。これ以上死者を嬲る真似はさせませんわ」
     ベリザリオは左手に紫紺の満月を展開させて。ソーサルガーターを里桜へと。
     敵の構成が、親友たちが得意とする構成と酷似している。その編成がどの程度厄介かは、よく知っている里桜だから。千尋とヴェルグと攻撃合わせ、早期にストリートファイターアンデッドを落そうと刃振るう。
     バニシングフレアが前衛陣に迸り、その隙にジャッジメントレイとオーラキャノンがシェルヴァへ集中。神薙使いアンデッドが癒しの矢を放って。
     いつもは元気っ子のアイティアだけれど、言葉数少なく。ただ只管繰り出す一撃は、人の亡骸であったからこそ、普段よりも願いがこもる。
     輝きの刃クロスして、ぐらり、よろけるアンデッド。
    「よし。次こそとどめ――!」
     合わせるよ。アイティアの勢いに里桜も乗るものの。眼に映るのは、ポジションチェンジをするファイアブラッドアンデッドの姿だ。
    「くっ!」
     連携に乗って、後衛へ下がったストリートファイターアンデッドへ、里桜は咄嗟に轟雷を放つ。けれどそれはファイアブラッドアンデッドに庇われて。アイティアの光刃は虚しく空を切った。
     千尋は淡々と戦況を見据えながら、バーガンディを巧みに操って。身の丈以上のガトリング内蔵棺桶を抱え、ブレイジングバーストを射出。砂塵巻く向こうに、ストリートファイターアンデッドは健在。バーガンディの機銃掃射が唯一傷を付けたようだが、とどめには至らず。
     ベリザリオは、先程バニシングフレアで壊されたソーサルガーターを、即座に里桜へとかけ直す。
     しかし相手のブレイク技が多いなか、崩される度にソーサルガーターをかけ直している手間が大きい。ある程度対象や条件を決め、連携攻撃に乗り各個撃破のタイミングも逸してしまう。
     あと一歩のところで持ちこたえられたうえ、天より潰すように襲いかかる邪悪な光状。
     シェルヴァが打ち抜かれ、消滅を余儀なくされて。フローレンスは一瞬声をあげそうになったけれど。今は仲間を支え続けるため、癒しの神の力を施すことが何より大事なこと。旋律、激しく奏で続けて。
     後ろへ下がったストリートファイターアンデッドが、神薙使いアンデッドの戒めを集気法で大方解除。
    「チッ……敵に回すと本当に厄介な組み合わせだな」
     野太いガドリングガンで、とどめのはずの一撃を防がれて。里桜は間合いを取ると、舌打ち。
     後衛に下がろうとも。集中的に狙いつける。例えファイアブラッドアンデッドの防御があろうとも。全てを庇いきれるわけがないから。
    「あら、今度はレンを狙ってくるのね」
     立て直すなり飛んできたレーヴァテイン。ベリザリオがチェーンソー剣の斬撃を受け持ってくれるから。フローレンツィアはフローレンスに回復お願いして、神薙使いアンデッドへ、踊りましょうと誘う様に。しかしどこか挑発的な視線と。
    「他の皆はあっちの相手、けどレンの相手はあ・な・た・よ?」
     徹底して行う牽制と呪詛。
     フローレンツィアの鋭き鉤爪、鐵鳴る旋律に精神が引き裂かれた瞬間、カミの風は刃へ変わる。
     仲間の勝利のために動くストリートファイターアンデッド。最後の最後で、集気法を放って。
     今は人間的な感情は皆無でも、長年の行動原理そのものに残る、人を、仲間を、思う気持ち――。
     そんな気持を噛みしめながら、ヴェルグが間合いを詰める。聖のリングスラッシャーが庇いに入ったファイアブラッドアンデッドの足を止めた瞬間逃さずに。
     影の刃鋭く、弧月の如く舞い、ストリートファイターアンデッドの身を真っ二つに斬る。
     血煙と共に、消滅してゆく体。
     吠え猛る炎の半獣が、レーヴァテインの炎でフローレンツィアの喉元を狙いつけるものの、真っ直ぐと入った横槍。
     剣から伝わった衝撃、千尋の腕の奥に鋭い痛み走る。
    「……ごめん。あのトキもう少し早く駆けつけていたら」
     この痛みは、彼等の痛み。
     心と。
     体と。
     この世に存在しない魂の嘆き。
     それをひしひしと感じながら、千尋は謝罪を口にして。
     責めるはずもない崇高な彼等だとしても、そんな幻想を安易に抱けるはずもなく。
     バーガンディの強烈な突撃に合わせて、千尋はブラッディガーディアン振り上げて。
     死の覚悟。
     前線で戦う者たちの慟哭が、闇夜に響く様に。剣より吹き上がる烈火が吠えた。
     したたかに入った一撃に、堪らずファイアブラッドアンデッドの体がくの字に折れる。
    (「此処で必ず、終わらせなければ……彼らの誇りを冒涜するような所業を、彼らが望まない形の生を……」)
     里桜は柄を握りしめ、暗雲の空へと滑り、振るう。
    「これ以上続けさせてたまるか――!」
     アイティアの閃光百裂拳に仰け反ったところに決まる鋭い一撃、急所へと吸い込まれ。
     ファイアブラッドアンデッドの短い悲鳴。絶命の音。
     濁った血液が、暗い炎を生む。
    「……く」
     咲耶を押し込んだまま、里桜は悔しさ滲ませて。
     生きていれば、もしかしたら、仲間として共に戦えたのかもしれない。
     現実としてそれが叶う環境がある今、そんな『もしも』も物語ではなく。
     痛む胸。けれど浸る時間は刹那ほどもなく。
    「……迷うな、終わらせると決めただろう」
     里桜が喉元に刺さった咲夜を引き抜けば、支え失う体はふらりと後ろへ。地に届く前に崩れゆく姿を見送る余裕もないまま、ただ残り火を視界の隅に霞めて。
     残り二体。思った以上にディフェンダーにフローレンツィアの攻撃を庇われて、左程神薙使いアンデッドの疲弊は少ないように見受けられた。しかしもう、ディフェンダーを据えるつもりはないらしい。彼等はその立ち位置のまま攻撃を振るってくる。
     いやむしろ、変える手間も惜しい現状。
     染みついたノウハウあれども。それを乗り越える知恵はとうの昔に死んでいるから。
     相手の戦法を先読みできるからこそ、目的あっての徹底したターゲッティングと、役割分担の行動が、ようやく大きな効果となって灼滅者に追い風をもたらす。
     ベリザリオはシールドから紫紺の障壁を展開しながら攻撃を受け止め、斬影刃。
    「その気持ちを、得た力を、踏み躙らせたりしないから」
     里桜が放つ轟雷の閃光に次いで、聖が打ち出される輝く円環が、不浄爛れる体へめり込んで。切り裂かれ、流れ落ちる血。細く引く様は彼岸花のように。
    「行こうか」
     千尋は鮮やかに旋回すると、バーガンディのアクセル回し。機銃を弾幕にして、巨大な棺桶を担ぐと。
    「貫け」
     轟く射出音。火炎迸る。
     鮮血の十字架が輝いて、フローレンツィアに縫い込まれた精神汚染。神薙使いアンデッドが施すものは本来ならば身を癒す力であるはずが――しかし戒めに導かれ、生み出されるのは自らへの審判。巻き上がる力に切り裂かれ、ボロボロに捻じくれた腕。唇の無い顔が叫びをあげて。
     ああ、ああと、亡者の悲鳴が木霊する。
    「ごめんね……せめて今度こそ安らかに……」
     アイティアのマテリアルロッドに神聖な力が輝く。振るえば星の如く煌めき零し、神薙使いアンデッドの体に衝撃響かせ。
    「おやすみ」
     紡がれた言葉と共に、安寧を告げる。
     黒曜石の角が、ぱらぱらと地面へ砕け落ち、あっという間に土塊と化して。
    「すぐに、終わらせる」
     聖はInizia Argentoを構え、ノーライフキングアンデッドの淀む瞳を真っ向から受け止めながら、静かに告げた。
    「踊りなさい、クロウクルワッハ!」
     フローレンツィアの鉤爪の手甲より解き放たれた鋼糸。それは空間を群れなすように舞う。
     ヴェルグ先の傷より無意識に吹きだすクリエイトファイア。拭っても、消え去ることのない熱は力。放つのはレーヴァテイン。一撃を里桜と一緒に打ちこめば、ずるりと腐肉崩れ落ちる。
     言葉とも言えない叫び声を上げながら、ノーライフキングアンデッドがセイクリッドクロスを召喚するけれど。もう、灼滅者を止められるような一打にはなりえない。フローレンスの奏でる鮮烈なリバイブメロディが、傷も戒めも無きものとするから。
     ベリザリオが振るう鬼神の腕が、ノーライフキングアンデッドの腹を穿ち、続く聖の紅玉の様に煌めく斬撃。
     激しく震わせ吐血すると、肉の無い眼窩に浮く眼球が、気魄を浮かべる様に血走る。
     しかしそれも瞬間的なものとなる。
     アイティアのフォースブレイクが、したたかに彼の腹を打つ。
     身を折れば、衝撃に吹き飛ぶ結晶。白骨が削れ、はらりと舞いだした雪に混じる。
     機銃掃射させながら、千尋がブラッディガーディアンにオーラを纏い、ヴェルグがその腕に業火吹き上がらせ。
     鮮血の深紅。
     火炎の深緋。
     前後からクロスする様に、二つの赤が二人同時にノーライフキングアンデッドへと振るわれる。
     がきり――不快な音がして。まるで模型だったかのように、ばらばらと関節から崩し、張り付いた肉をびちゃびちゃとぶちまけながら、ノーライフキングアンデッドは、真に生涯を閉じる瞬間を得た。
     本当にそれは存在していたのか――遺骸は欠片すら残らず。
    「気分が悪いね……」
     アイティアは、誰に言うでもなく呟く。
     絶対これを仕組んだやつを見つけて叩きのめしてやらないと、本当に彼らが浮かべれる時は来ないと思うから。
     フローレンスは清楚な佇まいに己を戻し。亡骸さえ葬ること叶わぬ戦士の慣れ果てへ柔らかに祈りを捧げる。
     聖は静かに天を仰ぐ。零れそうな涙、堪える様に。
     聖の唇から零れる鎮魂歌。厳かな声が響く中、はらはらと雪が舞う。
     どうか安らかに――。
     灼滅者の祈りも、願いも、そして彼等の無念も。
     天華は弔いの花として、全てを包み込み、覆い隠す。
     ここに在った物語、全て。白に塗り潰され、人々の目に触れることなく。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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