荒れ狂う水着と混沌

     外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)は、こんな噂を耳にした。
     『売れ残りの水着達の怨念が都市伝説と化して暴れている』と……。
     都市伝説が確認されたのは、とあるショッピングモールで、沢山の水着が集まって人になったような姿をしており、そこで使われている水着は、戦国武将をイメージしたものや、サッカーや野球のボールをイメージした水着もの、貝殻、絆創膏をイメージしたものなど。
     しかし、それが寄り集まって奇跡のコラボを起こしているためか、何となく見れるデザインになっており、人によっては着ぐるみを着ているように見えるようだ。
     都市伝説はターゲットを見つけると、目にも止まらぬ速さで服を破り、売れ残った水着を着せてまわっているらしい。
     そうする事によって、売れ残った水着がすべて無くなれば、成仏する事が出来ると頑な信じているが、そもそも都市伝説は霊ではない。
     そのため、どんなに水着を着せても、成仏する事はないのだが、都市伝説はその事を知らない。自分が霊的なものだと信じている故に!
     現在、都市伝説は水着が撤去された下着売り場で、従業員達の監視を潜り抜けつつ、やって来たお客に襲い掛かっている。
     基本的に男女関係なく手当たり次第に水着を着せているため、下着売り場に行けば都市伝説が現れる事だろう。
     場合によっては、従業員達が都市伝説を取り押さえに来るため、その事を踏まえた上で倒さねばならない。


    参加者
    フェリス・ティンカーベル(万紫千紅・d00189)
    織神・皇(鎮め凍つる月・d03759)
    四条・識(ルビーアイ・d06580)
    花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)
    安藤・燐花(杳々たる勿忘草・d17984)
    天城・アカツキ(哭鬼・d23506)
    天城・ヒビキ(嘆鬼・d23580)
    愛師・面影(野良メイドさん・d23729)

    ■リプレイ

    ●きわどい水着
    「まさか、こんな季節に水着の都市伝説とは……」
     天城・ヒビキ(嘆鬼・d23580)は唖然とした様子で、仲間達と共に都市伝説が確認された下着売り場にやって来た。
     しかし、既に水着売り場は撤去されており、倉庫に片づけられているようだった。
    「水着が売り切れれば成仏できると信じてる都市伝説か。なんというか物悲しいね。まぁ容赦なくいくが……売れ残りというのは寂しいものだ」
     織神・皇(鎮め凍つる月・d03759)が、溜息をもらす。
     それでも、都市伝説は自分が霊的な存在であると頑なに信じているため、例え真実を知ったところで考えを改める事はないだろう。
    「……思うのですが、冬の今、水着が売れないのは自然の理なのではないのでしょうか?」
     愛師・面影(野良メイドさん・d23729)が、不思議そうに首を傾げた。
     おそらく、都市伝説はその事実に気づいていないのだろう。
     その事が分かっていても、ツッコミを入れずにはいられなかった。
    「それにしても、なんだかすごく変わったデザインのものが売れ残ったみたいだね? 売れ残りとは言うけど、どんなものなのか逆に気になってくるんだよ」
     フェリス・ティンカーベル(万紫千紅・d00189)が興味津々な様子で、下着売り場を歩いていく。
     だが、何処を探しても、水着は見当たらない。
     やはり、倉庫に片づけられてしまっているのだろう。
     もしくは、都市伝説がなんやかんやする事によって、水着を隠し持っているという事だろう。
    「何故、人は売れないと判っててイロモノな水着を作ってしまうのかの。……というかじゃな、貝殻はともかく、絆創膏はアウトじゃろ、色々と!!」
     天城・アカツキ(哭鬼・d23506)が、呆れた様子でツッコミを入れる。
     おそらく、それを見たお客達の大半も『さすがに絆創膏はない』と思ったのだろう。
     そのため、最後まで売れ残り、都市伝説に利用される事になったのだから。
     それに絆創膏であれば、薬局に行けば買えるのだから、わざわざこの場所で買う必要もない。
    「……てか、お店側もよく売ろうと思ったよね。聞いてる限りだとなんか、凄いじゃん?」
     安藤・燐花(杳々たる勿忘草・d17984)が、乾いた笑いを響かせる。
     現物を見ていないので何とも言えないが、話を聞いただけでも『売れない』と断言できるものばかり。
     そんなものを店頭に並べたところで、誰かが手に取って買おうと思う訳がない。
    「それよりも、今回男がオレだけってえらい気まずいんだが、これは……」
     四条・識(ルビーアイ・d06580)は、嫌な予感しかしなかった。
     最悪の場合は、紐水着。そんなものを見せられたら、ぽろりどころの話ではない。しかも、まわりは女性のみ。歩くモザイク。もしくは、紛う事なき変態として、まわりに認識される事は確実である。
     念のため、プラチナチケットを使って、人払いはしておいたが、それでも紐水着を着るのは、自殺行為。
     間違いなく、仲間達から白い目で見られてしまう事だろう。
    「確か、都市伝説は服を破いて、水着を着せてしまうんですよね? でしたら、最初から水着だったら、どうなるのでしょうか~?」
     花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)が、レインコート姿で疑問を口にした。
     普通に考えれば、こんな寒い時期に水着を着ている事などあり得ないのだが、実は着ている。レインコートの下に!
     これには都市伝説も驚き……むしろ、予想外と言えるだろう。
    「……!」
     次の瞬間、せりすが羽織っていたコートが宙を舞った。
     すぐさま物陰に隠れていた都市伝説が水着を切り裂き、『し、しまったァー!』と声を上げた。

    ●あぶない水着
    「ううっ……、あり得ない。まさか、この時期に水着を着ている人間がいるなんて……あり得ない!」
     都市伝説が頭を抱えて蹲った。
     まったくの予想外。想像もしていなかった現実。
    「水着を破って、水着を着せるって、何か違う。絶対に違う!」
     都市伝説が自己嫌悪に陥っていた。
     しかも、よりにもよって、最初に着ていた水着よりも、露出度が高めのスクール水着を着せてしまったものだから、その落ち込みっぷりも半端ではなかった。
    「こんなに厚着をするなんて久しぶりですよ~……」
     せりすが、てへっと笑う。
     それに見た都市伝説が、さらにずーんと沈む。
     都市伝説のプライドはズタズタ。ああ、床の目に吸い込まれそうといった感じで、両手を床についている。
    「パッと見ただのきぐるみのような……例え霊だったとしてもとても成仏しそうな感じじゃないの!」
     アカツキが都市伝説に生暖かい視線を送る。
     その間も都市伝説はどんよりとした雰囲気を漂わせ、床に呪いの言葉を書いていた。
    「見てるだけでも、色々な意味で寒気がするな……」
     識が身の危険を感じて、全身に鳥肌を立たせた。
     ここで目が合えば、間違いなく、ターゲットにされる。
     だが、紐水着だけは断固として、拒否! 例え、パンツ一枚になろうとも、紐水着だけは勘弁なのである。
     万が一、着るような事になれば、それこそ末代までの恥。
     幸い、今はどんよりムード。このまま絶望のどん底まで転がり落ち、立ち直る事が出来なくなれば、どんなに幸せな事か。
    (「……頼む。このまま、消滅してくれ。何となく成仏してくれ!」)
     そう願わずにはいられなかった。
    「誰かが俺を……呼んでいる! お前か! お前なのかあああああああああああああああああああああ!!」
     途端に都市伝説が向かってきた。
    「く、来るなあああああああああああああ!」
     識が脱兎の如く逃げ出した。後先考えず、全速力で!
    「だったら、お前からだァ!」
     すぐさま、都市伝説がターゲットを変え、燐花の服を切り裂いた。
    「うわっ! 何これ! なんかトンカラトンみたいなんだけど、これ水着!?」
     体の要所にリボンを巻いたような『私がプレゼント』的な水着姿になり、燐花が驚いた様子で悲鳴をあげる。
     それと同時に都市伝説が面影のメイド服を切り裂き、あっという間に水着を着せた。
    「このぉ! よくもボクのメイド服を!!」
     そう言って面影がぷんすかと怒った。
    「と、とりあえず、ヒビキよ。離れるでないぞ。一瞬で水着を着させられるかもしれんしの」
     アカツキが警戒した様子で辺りを見回した。
    「こ、これって、鎧……。それとも、水着!?」
     ヒビキがハッとした表情を浮かべる。
     まるで戦国武将が身に纏う甲冑のようなデザインをした水着。
     何となく格好良くも見えるが、和風ビキニアーマー的なノリなので、これを着て泳ぐのは、かなり勇気がいるだろう。
     アカツキも一瞬の出来事に驚き、唖然とした表情を浮かべている。
    「こ、これは、落ち武者……」
     フェリスが長い髪を垂らして、気まずい様子で汗を流す。
     いつの間にか、戦国甲冑ダメージバージョンの水着を着せられており、都市伝説も『これで何本か矢が刺さっていれば、バッチリ』と太鼓判。
    「さて……、次はお前だァ!」
     それと同時に都市伝説が両目をギラギラさせて、識に飛び掛かっていった。

    ●見えない水着
    「……甘いなっ!」
     次の瞬間、皇がバサッとロングコートを脱ぎ捨てた。
     その途端、上下青色で揃えたパレオとホルターネックの水着が姿を現し、都市伝説が『しっ、しまったああああああああああああ!』と叫んで、そのまま転がるようにして壁に激突した。
    「ま、まさか、水着を着ている奴が、もうひとりいたとは……」
     都市伝説が壁に頭を突っ込んだまま、どんよりとした空気を漂わせた。
     最後の気力を振り絞って、何とか立ち直ろうとしていた分、ダメージも大きかった。
    「ううっ……、こんな格好でよく恥ずかしくないね。ボクは恥ずかしいよっ!」
     そう言って面影が顔を真っ赤にした。
     恥ずかし過ぎて、身体を隠すのが、やっと。
     都市伝説を倒すのなら、今がチャンスであるのだが、まわりの視線が気になって、身動きを取る事が出来なかった。
     もちろん、仲間達も同じような状態なのだから、もっと堂々と胸を張って、戦うべきなのかも知れないが、一度気になってしまうと、恥ずかしくて仕方がない。
    「う~ん、恥ずかしくは……ありませんね」
     ヒビキがキョトンとした様子で、答えを返す。
     戦国武将の水着を着ているせいか、恥ずかしいという気持ちは、一切ない。
     それどころか、気が引き締まって、戦闘意欲が増しているような気がする。
     ただし、それは露出度が低い水着を着ているためであって、面影と同じような恰好にさせられていたら、恥ずかしさのあまり身動きが取れなくなっていたかも知れない。
    「あぁっ、良いなぁ、都市伝説さん! 私にもあんな感じの水着を下さい!」
     それとは対照的に、せりすは羨ましそうに、面影の水着を眺めていた。
     だが、都市伝説にとって、その一言は傷口に塩を塗るようなもの。
     一番、言ってほしくない相手に言われた、トドメの言葉。
    「あ、悪夢だ。もう嫌だ。死にたい……って、死んでいるのか」
     都市伝説がボケつつ、その寒さっぷりに落ち込んだ。
     よく穴があったら入りたい、というが、入ったところで、何の解決にもなっていない。
     自分が開けた穴のせいなのか。それとも、別の理由があるのか分からないが、ブルーな気持ちを通り越して、ダークな気持ちになりつつあった。
    「こうなったら、ヤケだ。水着を着ていようが、着ていまいが関係ない! みんな、水着を着せて成仏してやる!」
     どんなに頑張っても、成仏する事が出来ない事実に気づかぬまま、都市伝説がフェリスに襲い掛かった。
    「ウサギさんも可愛いかも」
     ふわもこ水着を着せられたフェリスは、上機嫌な様子でクルリッと回った。
     その間に都市伝説が、識に迫る。
     紐水着を着せるため! 何なら、前貼りでも構わない。
     思いっきり恥を掻かせて、同じ気持ちにしてやろうという歪んだ気持ちを込めて……!
    「一瞬で決める……!」
     しかし、識に迷いはなかった。
     それ以前に紐水着はお断り。前貼りならば、もっとお断りである!
     そんな気持ちを込めて放たれたフォースブレイグが、都市伝説を跡形もなく消滅させた!
    「皆、大丈……夫……? それにしても、この格差は何なんだろう」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、燐花が自分の胸を見た。
     やはり、胸か。胸なのか!?
     そう自分に問いかけてしまうほどの格差。
     いやいや、そんなはずはない。そんなはずは……と思っていても、胸を見るたび思ってしまう。
     やはり、胸の大きさが原因ではないかと……。
    「と、とりあえず、買い物でもしていきたい気分じゃなー。どうじゃ、皆?」
     そんな気まずい空気を打ち砕く勢いで、アカツキがさらっと話題を変えた。
     そして、アカツキたちはその足で買い物へと向かうのだった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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